LegalInference2016
14/34 漁網用タール事件(最三判昭30・10・18 )

【テロップ】
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【ノート】
ここでは,漁網用タールの売買事件という有名な判決を通じて,事実の発見とルールの発見の相互作用について,説明します。■ ★民法のルールでは,売買の目的物の引渡しに関する債務者である売主にキセキ事由がある場合には,■ ★民法543条が適用され,債権者である買主は契約を解除することができます。■ タール事件の原審判決はこの立場をとっていました。■ これに対して,差し戻し後の高裁判決は,債務者である売主に過失がないとして,債権者である買主の解除権を否定しました。■ 事実認定によっては,そのような判断はありうるのですが,債務者の過失なしに履行不能となった場合には,つぎに,危険負担の問題に移らなければなりません。■ 差し戻し後の高裁判決が,危険負担の問題を無視して,「本訴請求はその余の点について判断するまでもなく失当として棄却を免れない。」としたのは,理論的には,致命的な誤りです。■ ★債務者(売主)に過失がない場合には,問題は,二つに分岐します。■ 第1に,債務者にも,また,債権者にも過失がない場合には,■ ★危険負担の債務者主義の原則規定である民法536条1項が適用され,反対債権である代金債権は消滅します。■ その結果,債権者である買主は,代金の支払をまぬかれますので,買主が勝訴します。■ 本件では,どの裁判所も,この判断を下していませんが,理論的には,実は,これが,原則です。■ ★第2に,債務者には,キセキ事由がなく,債権者だけにキセキ事由がある場合,例えば,債権者である買主に受領遅滞がある場合には,■ ★民法536条2項が適用され,債権者である買主は,目的物が滅失したにもかかわらず,反対債権が残るため,買主は,代金債権を履行しなければなりません。■ この場合には,買主が敗訴します。■