LegalInference2016
20/34 「車馬通行止め」の解釈(1/2)

【テロップ】
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【ノート】
法の解釈の種類について,「車馬通行止め」という伝統的な例を挙げて説明することにします。■ もしも,公園の入り口に「車馬通行止め」というルールが掲示されており,これ以外にはルールが存在しないとして,具体的な例をこのルールのみによって解決することができるかどうかを議論しようというものです。■ ★第1は,公園に牛を連れて入ろうとした人がいた場合です。この場合,ルールには,牛は出てきませんが,ルールに出てくる馬という概念を大型動物という概念にまで拡大すると,牛の入園を禁止できます。このような解釈を「拡大解釈」といいます。■ ★第2の例は,車や馬を連れて入園しようとした人がいた場合です。この場合,入園を禁止するのが,「文理解釈」です。■ しかし,車と馬をよく見ると,実は,子どもが持ってきたおもちゃのトラックと,木馬だったとします。この場合は,入園を許可しても問題がないので,車馬でも,おもちゃは例外だと解釈することができます。車馬の概念をおもちゃについて縮小するので,この解釈を「縮小解釈」といいます。■ ★第3は,飛行船が公園に着陸しようとした場合です。この飛行船を公園に着陸させるには,危険が大きすぎると判断されたとします。しかし,ルールでは,入園を禁止できるのは,車と馬だけです。拡大解釈しても,せいぜいが,大型動物どまりです。■ そこで,類推解釈に助けを求めます。■ 「類推解釈」とは,「似ているものは,同じように扱うべし」という法格言から導かれる解釈であり,普通は似ていない男と女でも,兄弟だと似ているという経験則を活用します。■ つまり,「類推解釈」とは,問題となっている概念(飛行船)について,上位の親概念(乗り物)へと飛躍し,その上で,その下位概念(車,馬)のうち,似ている兄弟姉妹(車)に戻って同じように扱うべきだとする方法です。■ ★第4は,人間が単独で入園しようとした場合です。■ 驚くべきことに,人間については,ルールがありません。ルールに出ているのは,車馬だけです。■ ルールに書かれている概念の補集合を考え,その補集合については,反対の結果が導かれると考えるのが反対解釈です。■ 反対解釈によれば,車馬通行止めには,人間が含まれておらず,車馬の補集合,反対概念には,反対の結果として,入園を許可するという結果となります。■ 反対解釈は,AならばBであるというルールに対して,¬Aならば¬Bと考えるという推論なので,厳密には,AならばBかつBならばAということが成り立っている時だけに使える推論です。■ ある概念の補集合というのは,非常に広い概念なので,反対解釈は非常に危険な解釈といえます。特に車馬通行止めというルールは,非常にプリミティブなルールなので,例えば,銃器を持ち込もうとしている「人間」を止めることができません。■ 私の経験上も,通説が誤りに陥っている場合の大半は,安易な反対解釈に陥っている場合が多いと考えています。■ たとえば,事実的因果関係として通説的地位を有している「あれなければ,これなし(cine qua non)」という法理も,実は,非常に危険な推論であって,特に複数原因がある場合の因果関係の判定には利用できないことに注意しなければならないと,私は考えています。