LegalInference2016
9/34 条文が矛盾する構造を有している場合にも判決三段論法は使えるだろうか?
【テロップ】
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【ノート】
三段論法における大前提は,命題として完全なもの,すなわち,例外とか矛盾を含まないものでなければなりません。■ しかし,判決三段論法において,大前提の役割を果たすべき実体法のルールは,例外を含んでおり,そのままの形では,三段論法として利用できません。■ ★例えば,先にあげた交通事故について,民法709条を適用すると,「被告は損害賠償責任を負う」という結論が導き出されます。■ ★しかし,この交通事故について,被告が,急にハンドルを左に切ったのは,対向車が車線を越えて向かってきたので, ★「自己の身の危険を避けるためにやむを得ずした行為である」とか,「急迫の危険を避けるため」であったことを証明すると,民法709条が適用されるにも関わらず,民法720条が優先的に適用されて,「被告は損害賠償責任を負わない」,「原告の請求を棄却する」という,逆の結論を導かなければなりません。■ ★もちろん,この場合には,「特別法は一般法を破る」とか,「特別法は一般法に優先する」というメタルールを使ってこの問題を解決することができると考えられていますが,第1に,そのこと自体が,すでに,三段論法の推論を超えています。■ ★第2に,民法720条には,さらに,但し書き(特別法)がありますが,この但し書きは,一般法の適用を肯定していますので,特別法の特別法によって,一般法が適用されることをどのように説明するかについても,推論規則を用意する必要があります。■ ★第3に,民法1条のように,最も一般的な規定とされている,信義則や権利濫用の法理は,特別法であるすべての任意規定を破る効力を有していますので,一般法が特別法を破るという原則自体が,使えない場合が多いのです。■ したがって,判決三段論法を正当化するには,大前提の役割を果たしている実体法のルールを再検討し,三段論法に使えるような,矛盾と例外のないルールに変える必要がありますが,現在のところ,そのような試みは成功していません。■ このように考えると,判決三段論法は,見掛けは立派ですが,よく見ると,張り子のトラに過ぎず,実務には耐えることができない考え方であると言わざるを得ません。■