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第31回 債権譲渡とその制限

作成:2006年9月15日

講師:明治学院大学法科大学院教授 加賀山 茂
書記:竹内 貴康,藤本 望 編集:深川 裕佳


講義のねらい


債権は,ローマ法では,債権者と債務者を結びつける法の鎖(vinculum iuris)とされており,債権者が交代することは,債権の同一性を喪失させる(更改となる)と考えられたため,債権譲渡の自由は認められなかった。しかし,債権は,金銭債権に代表されるように,財貨としての価値を有している。債権譲渡は,債権を1個の独立財産とみなして,物と同じように自由に移転できるとする考え方である。そして,広い意味での債権譲渡の制度は,主として,手形や小切手のように,目に見える有価証券に化体させること(証券的債権)を通じて,物の流通と同じように発展してきた。

しかし,現代における電子取引の発達は,物や証券を介することなく,情報のみ(債権者,債務者,債権額,期日等)によって電子的に流通させることのできる債権(指名債権)それ自体の方が,物(現金,証券を含む)の流通よりも,はるかに安全かつ迅速であることが認識されるようになっている。情報の流通だけで済ますことのできる上に,預金債権の振込,および,相殺という制度を併用することにより,決済を安全かつ迅速に行うことができる債権譲渡,特に,指名債権の譲渡は,その重要性をますます増大させている。さらに,債権譲渡の対抗力に登記制度が加わることによって,債権譲渡は,経済的な安定性をも確保しつつある。

流通証券の流通に比較して指名債権の譲渡が現代において重要性を増している原因を情報化の側面から分析してみよう。債権譲渡の制度を実現するための考慮事項,および,それに対応するための情報化の進展は以下の通りである。

  1. 債権譲渡の通知
  2. 第三者への公示

情報化の進展により,債権譲渡の制度が,手形・小切手を市場から駆逐するのではないかとの予測がなされているが,以上の点を考慮するならば,そのような事態が生じる可能性も否定できないと思われる。

このように考えると,情報化の波は,原因間関係を捨象して,一律的に抗弁を切り捨てる手形・小切手法の画一的な法理から,原因関係や抗弁の対抗を含めて柔軟な解決を実現できる一般法である民法の債権譲渡の法理への復帰(「特別法から一般法へ」そして,「物から債権へ」という動き)を促しているということもできるのであり,民法を学習する重要性が増してきている一例を提供しているといえよう。


1 債権の譲渡性と譲渡禁止特約の効力


旧民法においては,債権譲渡は自由であるとされており(財産編333条5項,347条1項),譲渡禁止特約については規定を持たなかった。このことが,法典論争において,旧民法の自由主義的傾向を示すものとして,攻撃の対象となった。そこで,現行民法では,譲渡禁止特約を認める規定が置かれることになった。

しかし,銀行や国という強い債務者が,譲渡禁止特約を広く利用するになるという現状は,立法者にとっても予想しないことであったであろう。銀行預金債権に関する譲渡禁止特約は,事務の煩雑化の防止,相殺利益の確保という理由からは正当化できず,また現代的要請である債権譲渡自由の観点からも合理性を欠いており,無効と解すべきである。

譲渡禁止特約があっても,転付命令による債権移転は有効

譲渡禁止の特約のある債権であつても,差押債権者の善意・悪意を問わず,転付命令によつて移転することができるものであつて,これにつき,民法466条2項の適用はないとした事例(最二判昭45・4・10民集24巻4号240頁:転付預金債権支払請求事件)がある。判旨は正当であろう。

譲渡禁止特約は善意の譲受人に対しては対抗できない(悪意または重過失のある譲受人には対抗できる)

判例は,譲渡禁止の特約のある債権の譲受人は,その特約の存在を知らないことにつき重大な過失があるときは,その債権を取得しえないとしている(最一判昭和48・7・19民集27巻7号823頁:預金支払請求事件〔判例百選U(第4版)30事件〕)。

さらに,倒産した会社の譲渡禁止の特約のある銀行定期預金債権,定期積金債権,当座預金債権等を譲り受けるに際し,譲受人が右倒産会社又は預金先銀行のいずれに対しても,譲渡禁止の特約の有無につき照会するなどの調査をしなかつた等判示のような事情のもとにおいては,譲受人は右譲渡禁止の特約の存在を知らなかつたことに重大な過失があるというべきであるとしている(最二判昭50・10・24裁集民116号389頁,ジュリ616号6頁〔判例百選U(第4版)30事件〕の差戻後の上告審判決)。

しかし,これは行き過ぎであろう。そもそも,法律の明文によって譲渡を禁止されている債権(扶養請求権(民法881条),災害補償を受ける権利(労働基準法83条2項等),社会保険における保険給付を受ける権利(厚生年金法41条等),恩給請求権(恩給法11条1項),年金受給権(国民年金法24条等)など),性質上その譲渡が許されない債権以外の債権について,その譲渡を禁止する特約自体が,現代的な債権譲渡自由の原則に反するものであるし,債権者に,譲渡禁止特約の調査義務を課すことは不当であり,調査をしなかったことで重過失を認定することは,過失と故意に近い重過失との区別を無意味とすることになるからである。

その意味で,譲渡禁止の特約のある指名債権を譲受人が特約の存在を知つて譲り受けた場合でも,債務者がその譲渡につき承諾を与えたときは,債権譲渡は譲渡の時にさかのぼつて有効となり,譲渡に際し債権者から債務者に対して確定日付のある譲渡通知がされている限り,債務者は,右承諾後に債権の差押・転付命令を得た第三者に対しても債権譲渡の効力を対抗することができるとする判例(最一判昭52・3・17民集31巻2号308頁:転付債権請求事件)の立場をさらに推し進め,金銭債権に関する債権譲渡の禁止特約については,その効力を制限する方向での解釈論を展開すべきであろう。 


2 債権譲渡の対抗要件


民法によると,指名債権に関する譲渡の対抗要件は,債権の譲渡人から債務者への債権譲渡の通知,または,債権譲渡の債務者による承諾のいずれかである(民法467条)。

従来は,債権譲渡についての登記制度が存在しなかったため,債権譲渡があったかどうかについての情報については,これを債務者への通知,または,債務者の承諾を通じて,すべて債務者に集中させ,利害関係には,債務者に確認をすることによって,取引の安全を確保してきた。

しかし,登記の場合の登記所とは異なり,債務者は公的機関ではないため,利害関係人が債務者に問い合わせても,債務者には,正しい情報を伝えなければならないという義務は存在しない。

また,債権の譲受人と債務者とが通謀して債権譲渡の日付を操作することも考えられるため,第三者に対する対抗要件としての債権譲渡の通知または債務者による承諾は,確かに,確定日付(民法施行法5条:公正証書,内容証明郵便等)によらなければならないことになっている(民法467条2項)。しかし,通説・判例によれば,確定日付が要求されるのはあくまで,譲渡通知の発信の日であって,譲渡通知の到達の日ではない。したがって,発信が確定日付でなされたとしても,通知の効力が発生する日,すなわち,対抗要件が備わる日である到達の日については,譲受人と債務者とが通謀してその到達日を操作することを避けることができない。

さらに,債権が二重に譲渡され,かつ,譲渡通知が債務者に同時に到達した場合には,後に詳しく論じるように,通知の到達をもって債権譲渡の対抗要件とする意味がなくなってしまう。

平成10年(1998年)6月12日に成立した「債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律」は,法人が行なう指名債権である金銭債権の譲渡については,不動産の場合と同様に,登記(厳密には,債権譲渡登記ファイルへの譲渡の登記)を対抗要件とすることを可能とすることによって,この問題の解決を図っている。なお,この法律は,平成16年(2004年)に「動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律」へと改称されている。

譲渡の目的物
不動産 動産 債権
一般動産 法人の有する動産 一般債権 法人の有する金銭債権
対抗要件 登記
(民法177条)
占有の移転(引渡)
(民法178条)
動産譲渡登記ファイルへの登記は,民法178条の引渡しがあったものとみなされる
(動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例に関する法律)(2004年)3条
債務者への通知,又は,債務者の承諾
(民法467条以下)
債権譲渡登記ファイルへの登記は,民法467条2項の対抗要件(確定日付のある証書による通知)を備えたものとみなされる。
(債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律)(1998年)
→動産及び債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例に関する法律(民法2004年)4条

現在のところ,登記ができるのは,法人の債権譲渡に限定されている。しかし,不動産登記に関する電算化の進捗状況を見るならば,遠くない将来,個人の債権譲渡に関しても,登記サービスが行なわれる可能性も否定できない。なぜなら,不動産登記に関しては,電算化に伴って登記閲覧サービスが向上し,2000年からは,個人のパソコンを使って不動産登記情報を閲覧するサービスがすでに開始されており,将来的には,登記申請に関してもパソコンによる申請を可能にするシステムが構想されているからである。このようなシステムが開始されれば,債権譲渡の対抗要件に関しては,債務者にすべての情報を集中する方法よりもはるかに安全な取引が実現されることになるであろう。

もっとも,このような債権譲渡の登記システムも,対象が金銭債権に限られ,すべての指名債権の譲渡をカバーすることは考えられていない。したがって,今後も,民法が規定する債権譲渡の対抗要件の考え方を理解することは重要な意味を有している。


3 確定日付のある通知が同時に到達した場合の問題点


確定日付のある通知の異時到達の場合に関する判例の判断基準

最高裁が示した判断基準は以下の通りである(最一判昭49・3・7民集28巻2号174頁:第三者異議事件)。

民法467条の対抗要件制度の構造に鑑みれば,債権が二重に譲渡された場合,譲受人相互の間の優劣は,通知又は承諾に付された確定日附の先後によつて定めるべきではなく,確定日附のある通知が債務者に到達した日時又は確定日附のある債務者の承諾の日時の先後によつて決すべきであり,また,確定日附は通知又は承諾そのものにつき必要であると解すべきである。そして,右の理は,債権の譲受人と同一債権に対し仮差押命令の執行をした者との間の優劣を決する場合においてもなんら異なるものではない。〔中略〕
右事実関係のもとにおいては,訴外Aが,本件債権譲渡証書に確定日附を受け,これを東京都下水道局に持参してその職員に交付したことをもつて確定日附のある通知をしたと解することができ,しかも,この通知が東京都下水道局長に到達した時刻は,本件仮差押命令が同局長に送達された時刻より先であるから,上告人は本件債権の譲受をもつて被上告人に対抗しうるものというべきであり,本件仮差押命令の執行不許の宣言を求める上告人の本訴請求は正当として認容すべきである。

確定日付のある通知の同時到達の場合に関する判例の動向

指名債権が二重に譲渡され,確定日付のある各譲渡通知が同時に債務者に到達したときは,各譲受人は,債務者に対しそれぞれの譲受債権全額の弁済を請求することができ,譲受人の一人から弁済の請求を受けた債務者は,他の譲受人に対する弁済その他の債務消滅事由が存在しない限り,弁済の責を免れることができない(最三判昭55・1・11民集34巻1号42頁:譲受債権請求事件〔判例百選U(第4版)33事件〕)。

債権の譲受人と同一債権に対し仮差押命令の執行をした者との間の優劣は,確定日付のある譲渡通知が債務者に到達した日時又は確定日付のある債務者の承諾の日時と仮差押命令が第三債務者に送達された日時の先後によつて決すべきものであることは当裁判所の判例とするところ(最高裁昭和47年(オ)第596号同49年3月7日第一小法廷判決・民集28巻2号174頁),この理は,本件におけるように債権の譲受人と同一債権に対し債権差押・転付命令の執行をした者との間の優劣を決する場合においても,なんら異なるものではないと解するのが相当である(最三判昭58・10・4裁集民140号1頁,判時1095号95頁:損害賠償請求事件)。

同一の債権について,差押通知と確定日付のある譲渡通知との第三債務者への到達の先後関係が不明であるため,第三債務者が債権額に相当する金員を供託した場合において,被差押債権額と譲受債権額との合計額が右供託金額を超過するときは,差押債権者と債権譲受人は,被差押債権額と譲受債権額に応じて供託金額を案分した額の供託金還付請求権をそれぞれ分割取得する。(最三判平5・3・30民集47巻4号3334頁:供託金還付請求権確認請求本訴,同反訴事件〔判例百選U(第4版)34事件〕)

同時到達の場合の優劣の基準の再構成

確定日付のある譲渡通知が同時に到達した場合,債務者の恣意によって債権者に優劣をつけることを許すべきではない。そうでないと,力の強い者,声の大きい者が勝つことになり,法の目的とする衡平の原則にも反することになる。

債権譲渡の第三者に対する対抗要件は確定日付のある通知・承諾であるから,それを基準にすべきであり,原則は,確定日付のある通知の到達の日を基準にすべきことは,通説・判例の見解のとおりである。

しかし,確定日付のある譲渡通知が同時に到達した場合には,確定日付の早い債権譲渡に対抗力を付与すべきである。確定日付も同日の場合には,債権譲渡の日にまで判断を遡らせるのではなく,債権譲渡をした者の意思を考慮して,すべての債権者に同一の権利を与える,すなわち,それぞれの債権者に債権を平等に配分すべきであり,債権者が納得しない場合には,一部の債権者に弁済するのではなく,民法494条に従い,弁済供託をなすべきである。これらの基準をまとめると以下のようになろう。

  1. 確定日付の到達の前後を基準とする。それでも決着がつかない場合には,
  2. 確定日付の前後を基準とする。それでも決着がつかない場合には,
  3. 債権者の意思を考慮し,債権を等分して譲渡したとみて,債権者に等分に配分する。債権者が弁済を拒絶した場合には,弁済供託する。

4 集合債権譲渡担保


債権の担保としては,民法の立法者は,質権(権利質)を用意するにとどまるが,集合債権のように,浮動する債権群を担保にする場合には,質権のように,最初から債務者の取立権限を奪うのではなく,債務不履行が生じるまでは,債務者に取立権限を与えておき,債務不履行が生じた際に,その時点で存在する債権群の回収権限を債権者に移すという,特約付の集合債権譲渡担保が広く利用されてる。

債権譲渡担保の対抗要件については,以下の最高裁判決が述べているように,債権譲渡の対抗要件を備えることによって実現できる

最一判平13・11・22民集55巻6号1056頁

甲が乙に対する金銭債務の担保として,甲の丙に対する既に生じ,又は将来生ずべき債権を一括して乙に譲渡することとし,乙が丙に対して担保権実行として取立ての通知をするまでは甲に譲渡債権の取立てを許諾し,甲が取り立てた金銭について乙への引渡しを要しないとの内容のいわゆる集合債権を対象とした譲渡担保契約において,同契約に係る債権の譲渡を第三者に対抗するには,指名債権譲渡の対抗要件の方法によることができる。

また,集合債権譲渡に関しては,以下の最高裁判決が,質権とは異なる債権譲渡担保の実現方法について,適切な判断を下している。

最一判平13・11・22民集55巻6号1056頁

甲が乙に対する金銭債務の担保として,甲の丙に対する既に生じ,又は将来生ずべき債権を一括して乙に譲渡することとし,乙が丙に対して担保権実行として取立ての通知をするまでは甲に譲渡債権の取立てを許諾し,甲が取り立てた金銭について乙への引渡しを要しないとの内容のいわゆる集合債権を対象とした譲渡担保契約において,同契約に係る債権の譲渡を第三者に対抗するには,指名債権譲渡の対抗要件の方法によることができる。

重要な判決であるので,以下に事実関係の概要を示しておくことにする。

X:債権者(ダイエーオーエムシー)
B:債務者(ベストフーズ)
A:債務者Bの連帯保証人(イヤマフーズ)
C:第三債務者(ダイエー)
Y1:Aの国税債権者(国)
Y2:Aの破産管財人

年月日 事実 法律関係
平成9年3月31日 Xは,債務者Bに対する一切の債権を担保するために,債務者Bの連帯保証人Aとの間で,AがCとの間で,AがCとの間の継続的取引契約に基づいて現に有する,また,今後1年間の間に発生する商品売掛代金債権および商品販売受託手数料債権について譲渡担保設定契約を締結した。
平成9年6月4日 AはCに対して,確定日付のある証書により,譲渡担保設定通知を行った。 債権譲渡担保の対抗要件が備わったかどうか。
平成9年6月5日 本件通知がCに到達。その通知には「XからCに対して譲渡担保権実行通知がなされた場合には,この債権に対する弁済をXに行ってください」との記載がなされていた。
平成10年3月31日 Xは,書面により,Cに対して,譲渡担保権の実行を通知した。
平成10年4月3日,6日 Y1は,AのCに対する平成10年3月11日〜30日までの商品売掛代金債権(本件債権)につき,C宛ての通知書によって国税滞納処分による差押えを行った。
平成10年5月25日 Cは,本件債権につき,債権者不確知を理由として被供託者をAまたはXとする供託を行った。
平成10年6月25日 Aが破産宣告を受け,Y2が破産管財人に選任される。
平成10年 Xは,本件債権に対する譲渡担保権を主張して,Y1およびY2に対して,供託金について還付請求権を有することの確認を求めて訴えを提起した。
平成11年2月24日 第1審判決:X敗訴。XがCに対して譲渡担保の実行を通知するまでは,Aが弁済受領権を有することを根拠に,Aの債権がXに移転するのは,実行通知のときであるとし,債権移転の前になされた譲渡通知は,民法467条2項の第三者対抗要件としての効果を生じないと判断した。
平成11年11月4日 第2審判決:X敗訴。
平成13年11月22日 最高裁判決:X逆転勝訴。

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