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第33回 債務引受,契約上の地位の譲渡

作成:2005年11月07日

明治学院大学法科大学院教授 加賀山 茂


講義のねらい


債権譲渡とパラレルに考えられるものに,債務の承継(債務の引受)がある。債務の引受けとは,債権者(A)に対する旧債務者(B)の債務を新債務者(C)が引き受けてA(債権者)に対する新債務者となり,B(旧債務者)がそれにより債務を免れる契約(免責的債務引受け)をいう。広義では,従前のB(旧債務者)の債務を存続させながら新たにC(新債務者)が債務の履行をする義務を負う場合をも含む。

この問題に関しては,フランス民法を受け継いだ日本民法には,「債務引受け」の規定は存在しないとされてきた。しかし,民法514条の債務者の交代による更改の規定(民法514条)は,債権者(A)と新債務者(C)との間における合意によってなされるという点から見ると,旧債務者(B)から新債務者(C)への「債務者の交替による更改」というよりは,むしろ,「債務引受け」に近い。なぜならば,新たに新債務者(C)の債務を発生させると同時に旧債務者(B)の債務を消滅させるというのが,本来の更改の意味であり(民法513条),したがって,債務者(B)を抜きにして行われる民法514条の規定の実態は,更改ではなく,むしろ,債務引受けと呼ぶべきものだからである。

そこで,民法514条(債務者の交替による更改),むしろ,債務引受けに関する立法理由を見てみよう。

第514条(債務者の交替による更改)
債務者の交替による更改は,債権者(A)と更改後に債務者(C)となる者との契約によってすることができる。ただし,更改前の債務者(B)の意思に反するときは,この限りでない。
(理由)本条は既成法典財産編第496条第1項の規定に対当す。同条には嘱託除約又は補約の如き新熟語を用ゐて学理的の説明を爲せども,是れ独り其用なきのみならず,頗る法典の体を失するものなるを以て,改めて本条の如くしたり。本条の但書は,諸国に例なき所なれども,既に弁済の規定に於て之に類似の法文を設けたるに因り,更改の場合にも亦之を置きて,二者の権衡を保たんことを欲したり。
旧民法 第496条
@債務者の交替に因る更改は,或は,旧債務者(B)より新債務者(C)に為せる嘱託に因り,或は旧債務者(B)の承諾なくして新債務者(C)の随意の干渉に因りて行はる。
A嘱託は完全のもの(更改として債務を消滅させるもの=完全指図)有り,不完全のもの(更改を伴わず債務を存続させるもの=不完全指図)有り。
B第三者の随意の干渉は下に記載する如く除約又は補約を成す。
旧民法 第497条
@債権者が明かに第一の債務者を免するの意思を表したるときに非ざれば,嘱託(délégation)は完全ならずして,更改は行はれず。此意思の無きときは,嘱託は不完全にして,債権者は第一第二の債務者を連帯にて訴追することを得。
A第三者の随意干渉の場合に於て債権者が旧債務者を免したるときは除約(免責的債務引受け)に因る更改行はる。之に反せる場合に於ては,単一の補約成りて,債権者は債務の全部に付き第二の債務者を得。然れども此債務者は連帯の義務に任ぜず〔単なる保証責任に任ずるの意味〕。

このことは,民法514条のもととなった旧民法財産編第496条1項が,「債務者の交替に因る更改は,或は,旧債務者(B)より新債務者(C)に為せる嘱託に因り,或は,旧債務者(B)の承諾なくして新債務者(C)の随意の干渉に因りて行はる」として,債務者の交代による更改の正しいあり方,すなわち,旧債務者(B)の新債務者(C)に対する嘱託(délégation)によってなしうるとしていたのと比較してみれば,よくわかるであろう。

図33-1 債務引受けの本来の構造

これに対して,現行民法の立法者は,旧民法が規定していたBのCに対する「嘱託による債務者の交代」の必要性を認めないとしてこれを廃し,新債務者(C)と債権者(A)との2者間契約によってのみ債務者の交代ができると規定してしまった。すでに述べたように,このことは,民法514条が,タイトルだけは,「債務者の交代による更改」となっているものの,本来の意味における「債務者の交代による更改(Bの嘱託によるBの債務の消滅(更改))」とはいえないものとなってしまっていることを意味する。なぜなら,本来の債務者(B)が当事者から脱落しているからである。このことを考慮するならば,民法514条は,肝心のBを無視している点で,更改の規定というよりは,現在の通説が認めている「債務引受け」,すなわち,AC間で「債務引受け」ができるという規定に変質しているといってよい。

しかし,債務引受けの醍醐味は,先に述べた旧民法財産編第496条1項のように,または,次に述べるドイツ民法415条が規定しているように,旧債務者(B)と新債務者(C)との契約と,その後の債権者の受益の意思表示,又は,追認(事後の同意)によって成立するところにある。したがって,現行民法514条のように,旧債務者(B)を無視して,新債務者(C)と債権者(A)との契約によって成立させるのであれば,単純すぎて,実務的にはほとんど意味を成さない。民法514条の「債務者の交代による更改」の規定がほとんど使われずに,ドイツ法を参考にし,判例によって確立した「債務引受け」の法理がそれに取って代わることになるのは,当然の成り行きであったといえよう(学説・判例が旧民法に立ち返れなかったのは,法典論争の後遺症とでもいうべきであろう)。

債務引受けを論じるに際して,学説によって必ず参照されるドイツ民法は,債務引受に関して,以下のような明文の規定(民法414〜419条,ただし,419条は後に削除されている)を置いている。

ドイツ民法第414条
債務は第三者(C)が債権者(A)との契約により,旧債務者(B)に代わって債務者となる方法をもってこれを引き受けることができる。
ドイツ民法第415条
第三者(C)が債務者(B)と契約した債務の引受けは,債権者(A)の追認によってその効力を生じる。追認は,債務者(B)又は第三者(C)が債務の引受を債権者(A)に通知した後になすことができる。追認がなされる間は,当事者は契約を変更し又は破棄することができる。(以下略)

ここで重要なことは,ドイツ民法415条が,旧民法財産編第496条1項と同様,債務引受けは,旧債務者と新債務者との契約(第三者のためにする契約)と債権者の追認(受益の意思表示)によって成立することを認めている点にある。わが国の民法が,先に述べた旧民法財産編496条の規定を受け入れていたならば,わざわざドイツ民法に基づいて,債務引受けの法理を構築する必要はなかったのであり,現行民法における立法上の過誤と考えることができよう。

旧民法財産編496条,497条が削除されずに民法514条に取り込まれていたならば,債務引受けをドイツ法の条文に頼らずとも,また,第三者のためにする契約に頼らずとも,理論的に説明することが可能となっていたはずである。しかし,現行法が,このようなすばらしい規定を削除した以上,わが国の法解釈としては,後に述べるように,契約上の地位の譲渡の理論構成を含めて,当面は,第三者のためにする契約を拡張解釈して問題の解決に臨むほかない。

以上の事情,すなわち,現行民法の415条の立法上の過誤(旧民法財産編第496条の重要部分を廃したこと)があったために,わが国の通説・判例(大判大正10・5・9民録27・899)は,ドイツ民法414条以下の規定をよりどころとして,債務引受けの考え方を認める至っている。このことを踏まえたうえで,この講義では,「債務者の交代による更改」とドイツ民法によって規定され,わが国の通説・判例が認めている「債務引受け」とを対比することを通じて,債務引受の考え方と,その問題点を考察することにする。


1 基本的な概念の整理


[有斐閣・法律学小辞典(2004)]によると,債務引受けとは,概略,以下のような概念であると説明されている。

A. 債務引受けの意味

A(債権者)に対するB(旧債務者)の債務をC(新債務者)が引き受けてAに対する債務者となり,Bがそれにより債務を免れる契約(免責的債務引受け又は脱退的債務引受け)をいう。

免責的債務引受 並存的債務引受
図33-2 債務引受けとその種類

広義では,従前のBの債務を存続させながら新たにCが債務の履行をする義務を負う場合をも含む。後者は,さらに,以下の2つに区別される。

日本民法には債務引受けに関する規定はないが,通説・判例(大判大正10・5・9民録27・899)はこれを認めている。もっとも,債務引受という用語自体は,以下のように,根抵当制度を創設する際に,民法にも規定が設けられている(民法398条の7第2項)

第398条の7(根抵当権の被担保債権の譲渡等)
@元本の確定前に根抵当権者から債権を取得した者は,その債権について根抵当権を行使することができない。元本の確定前に債務者のために又は債務者に代わって弁済をした者も,同様とする。
A元本の確定前に債務の引受けがあったときは,根抵当権者は,引受人の債務について,その根抵当権を行使することができない。
B元本の確定前に債権者又は債務者の交替による更改があったときは,その当事者は,第518条〔更改後の債務への担保の移転〕の規定にかかわらず,根抵当権を更改後の債務に移すことができない。 〔旧・第398条ノ8〕

B. 債務引受けの機能

債務引受けは,有価証券債務引受業(証券取引法2条30項)にみられるように,担保付財産の流通を簡易化し,債務を他人が肩代わりすることにより債務の回収を良好にでき,また,企業主体の変更(例:営業譲渡)を可能にするという機能をもつ。

(a)免責的債務引受けの要件

(b)免責的債務引受けの効果

債務は同一性を失うことなく,BからCに移転し(民法514条の債務者の交代による更改とは異なる),Bはその債務を免れる。しかし,同一性を失わないといっても債権譲渡の場合と効果は同一ではない。

C. 法律の規定により生じる債務引受け

営業譲渡の譲受人が譲渡人の商号を続用する場合,又は譲渡人の営業により生じた債務を引き受ける旨広告した場合には,重畳的債務引受けが生じるものとされる(商法26,28条)。


2 並存的債務引受の問題点(危険性)


併存的債務引受における原債務者と引受人との関係について,最判昭41・12・20民集20巻10号2139頁は,「反対に解すべき特段の事情のないかぎり……連帯債務関係が生ずる」とし,原債務者の債務の時効消滅の効果は,民法439条(時効の絶対的効力)によりその負担部分について引受人にも及ぶとした。

併存的債務引受に関する前記判例の態度には,学説は批判的である。その理由は以下の通りであり,連帯債務というためには原債務者と引受人との間に主観的共同関係が必要であるとされている(野村豊弘・民法判例百選I1〔第5版〕78頁)。しかし,このような考え方は,債権者の保護に偏し,並存的債務引受人の責任を加重するものであって行き過ぎであると思われる。

〔並存的債務〕引受人は,債権者に対して,原則として原債務者と同じ内容の債務を負担する。原債務者と債権者との間には従来どおりの債権債務関係が存続する。従って,債権者にとっては,債務者が一人増えることだから,債権の担保力を増すことで有利である。しかし,一種の共同債務関係となるので,これをどの型の共同債務関係と解すべきかが問題となる。判例は,連帯債務になるとするが(大判昭14・8・28新聞4467号4頁,最判昭41・12・20民集20巻10号2139頁判民108号事件,淡路法協84巻12号,百選U(3版)36事件野村豊弘158頁(共に原債務が消滅時効にかかった場合に引受人の債務も時効消滅する(民法439条)とした)),反対説が強い。連帯債務とすると,絶対的効力事由が多く(民法434条〜439条),債務者が増加したことによる債権者の通常の期待に反する恐れもある場合が多いであろう。そこで,並存的債務引受のなされた事情に応じて個別的に判断する(不可分債務,不真正連帯債務,連帯債務)のが妥当であろう。ただ,証明のつかない場合は,債務の引受をした者だから,かなり人間関係があると見られ,連帯債務と解してよかろう[星野・民法概論V(1992)225頁]。

並存的債務引受けの場合の新債務者の責任は,原則としては,負担部分のない通常の保証責任,事情によっては,連帯保証責任を負うものと考えるのが妥当であり,本来の債務者と新債務者との間の内部関係から,新債務者が実質的な負担分を負うと認められる場合に限って,連帯債務とすることができると解すべきである。


3 債務引受けの「第三者のためにする契約」からのアプローチ


A. 債務引受けの契約主体の多様性と第三者のためにする契約

従来の債務引受の考え方によれば,債務引受けの主体は,民法514条の債務者の交替による更改の場合と同様に,債権者Aと債務引受けによって債務者となる者Cの2当事者であり,両者のとの契約によってなされると考えられてきた。このような契約が可能であることについては疑いがない。

しかし,債権者Aの新債務者となるCが債務引受けをするには,それなりの理由があるはずである。Cがなぜ,Aの債務者であるB(旧債務者)の債務をわざわざ引き受けるのかというと,通常の場合は,CがすでにBに対して債務を負っているからである。CがすでにBに対して負っている債務をAに対する債務に切り替えられるということだから,Cは債務引受けに応じるのである。そうだとすると,債務引受けは,AC間で行われる契約というよりは,むしろ,以下のように,BC間で行われる第三者のための契約として構成した方がわかりやすい。

(a)免責的債務引受けのメカニズム

第1段階:BはAに対して何らかの債務を負っている(対価関係)。その債務の負担を免れようとして,自らの債務者であるCに対して,Bの債務の範囲内で,BのAに対する債務を引き受けてくれないかと依頼する。Cがこれに合意すると,まず,BC間で「第三者(A)のためにする契約」が成立する。

第2段階:CがAの債務を引き受けてくれることがわかったので,Bは,Aに連絡して,Cが債務を引き受けてくれるので,それでBの債務を消してくれるかどうかを打診する。AがCに債務引受けによってBの債務を消滅させてよいと言えば,それが,受益の意思表示となるので,これで免責的債務引受けの効力が発生する。

図33-3 第三者の契約を使った免責的債務引受け
(b)並存的債務引受けのメカニズム

第1段階:BはAに対して何らかの債務を負っている(対価関係)。Bに信用不安が生じたので,Aは,Bに対して信用のある保証人をつけるように求めているとする。そこで,Bは,自分の債務者であるCに対して,債務を免除するからBのAに対する債務の(連帯)保証人になってくれないかと依頼する(補償関係)。Cがこれに応じると,BのAに対する債務につき,Cを(連帯)保証人とするための「第三者のための契約」が成立する。

第2段階:Aがこれに応じて受益の意思表示をすると,Cは,AのBに対する債務の(連帯)保証人となる。

図33-4 第三者の契約を使った並存的債務引受け

B. 第三者のためにする契約による構成の利点

このように考えると,債務引受けは,債権者の交代による民法516条によって準用される民法468条1項の場合とは異なり,債務引受人(C)は,債務者(B)に対して有する抗弁をもって受益者である債権者(A)に対抗できることになり(民法539条),解釈に多様性が生まれることになる(場合によっては,民法516条の規定に基づき,民法468条1項を準用することができる場合もあるであろう)。また,並存的債務引受けが保証関係に解消されることから,並存的債務引受けの場合に生じている危険性も解消されることになる。

さらに,債務引受けが債権者(A)と新債務者(C)との間の契約だけでなく,旧債務者(B)と新債務者(C)との契約と債権者の受益の意思表示で可能であることになると,次に述べる契約上の地位の譲渡についても理解が容易となる。


4 契約上の地位の譲渡


賃貸借等の双務契約に関する「契約の地位の譲渡」は,債権譲渡と債務引受けとが並行して行われる。したがって,契約の地位の譲渡の主体について検討する場合には,債権譲渡の主体と債務引受けの主体とを同時に考慮しなければならない。

もっとも,債権譲渡の側面は,債権者(譲渡人B)と新債権者(譲受人C)との間の契約で行うことができる。対抗要件のためには,債権者(譲渡人B)から債務者(C)に対する通知を行うことで足りる。問題となるは,債務引受けの側面である。後の述べるように,通説・判例は,賃貸人の地位の移転の場合には,通常の債務引受けの場合と異なり,債務の内容が単純であって,人的要素を考慮する必要がないとして,賃借人(債権者)の同意を必要としないと割り切った判断をしているが,賃貸人の地位の移転には,債権譲渡と債務引受けの両面が含まれるのであるから,単純な割り切りをする前に,債権と債務の両面について,正確な分析をすることが大切である。

従来の考え方によると,債務引受けは,新債務者(C)と債権者(A)との間で行うことになっているので(民法514条参照),本来ならば,債権者(A)を抜きに債務引受けを行うことは困難である。しかし,先に述べたように,債務引受けを「第三者のためにする契約」として構成すると,債務の引受けは,債務者(B)と新債務者(C)との間で締結することができ,債権者(A)は,単に受益の意思表示をするだけで足りる。また,受益の意思表示は,黙示のものでも足りることから,正確な分析に基づいた場合でも,債務引受けを認めることは格段に容易となる。

確かに,賃貸借契約の地位の譲渡の場合であっても,賃借権に対抗要件が備わっている場合には,問題はそれほど困難ではない。民法605条(または,借地借家法10条(借地の対抗力),31条(借家の対抗力))によって,賃借権は,目的物の取得者(新所有者)に対してもその効力を生じるとされており,賃貸借契約の地位がそのまま新所有者に移転することについて異論がないからである。

しかし,賃借権に対抗要件が備わっていない場合には,実は,困難な問題が生じる。判例および通説は,賃貸人の地位の新所有者への当然承継を認めておらず,新旧両所有者の合意が必要であるとしている。それだけでなく,賃借人の承諾が必要かどうかについては,大審院の判例の判断が分かれていた(承諾を不要とするもの:大判大4・4・24民録21輯580頁,必要とするもの:大判大6・12・19民録23輯2155頁,大判大9・9・4民録23輯2155頁)。

最高裁は,我妻説([我妻・債権各論中巻一(1957)]448頁)に従って,賃貸借の目的となっている土地の所有者が,その所有権とともに賃貸人たる地位を他に譲渡する場合には,賃貸人の義務の移転を伴うからといって特段の事情のないかぎり,賃借人の承諾を必要としないと判断している(最二判昭46・4・23民集25巻3号388頁)。

最二判昭46・4・23民集25巻3号388頁
 土地の賃貸借契約における賃貸人の地位の譲渡は,賃貸人の義務の移転を伴なうものではあるけれども,〔1〕賃貸人の義務は賃貸人が何ぴとであるかによつて履行方法が特に異なるわけのものではなく,また,〔2〕土地所有権の移転があつたときに新所有者にその義務の承継を認めることがむしろ賃借人にとつて有利であるというのを妨げないから,一般の債務の引受の場合と異なり,特段の事情のある場合を除き,新所有者が旧所有者の賃貸人としての権利義務を承継するには,賃借人の承諾を必要とせず,旧所有者と新所有者間の契約をもつてこれをなすことができると解するのが相当である。
図33-5 契約上の地位の譲渡と第三者のための契約

債務引受けの場合には,従来の説によれば,契約当事者は,債務の引受人(新賃貸人)Aと債権者(賃借人)Xとの間で行われるはずであり,債権者であるXを抜きに実現できるものではないはずである。しかし,この場合にも,債権譲渡の側面については,賃貸人Yと新賃貸人Aとの間で債権譲渡が行われ,債務引受けの側面に関しては,図33-5のように,旧債務者Yと新債務者Aとの間の「第三者(X)のためにする契約」であると考えると,契約自体は,X抜きで行うことができることになる。あとは,判決も述べているように,〔1〕賃貸人の義務は賃貸人が誰であるかかによつて履行方法が特に異なるわけのものではなく,〔2〕土地所有権の移転があつたときに新所有者にその義務の承継を認めることがむしろ賃借人にとつて有利であるという2点に基づいて,賃借人の受益の意思表示を不要とすることで,整合的な説明をすることができる。

このようにして,債務引受けの理論を「第三者のための契約」との関係で理解しておくと,民法上の取引ばかりでなく,商行為上の重要な取引についても,理解が容易となる。そこで,第三者のためにする契約については,次回の契約各論の最初の講義で詳しく解説することにする。今回の講義でわかりにくかった点は,次回の講義で理解を深めることにすればよい。


参考文献


[我妻・債権各論中巻一(1957)]
我妻栄『債権各論中巻一』岩波書店(1957)
[星野・民法概論V(1992)]
星野英一『民法概論V』〔補訂版〕良書普及会(1992)
[有斐閣・法律学小辞典(2004)]
金子宏,新堂幸司,平井宜雄『法律学小辞典』〔第4版〕有斐閣(2004)
[亀田・債務引受(2004)]
亀田浩一郎「債務引受」椿寿夫,中舎寛樹編著『解説・条文にない民法』〔新版〕日本評論社(2004年)

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