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作成:2006年9月16日
講師:明治学院大学法科大学院教授 加賀山 茂
書記:竹内 貴康,藤本 望 編集:深川 裕佳
物(非代替物,主として特定物)の利用を目的とする典型契約には,無償契約としての「使用貸借」と有償契約としての「賃貸借」の2つのタイプが存在する。財産権を移転する典型契約に,無償契約としての「贈与」と有償契約としての「売買・交換」の2つのタイプがあるのとパラレルな関係になっている。
典型契約の分類基準 | 名称 | 定義条文 | |||||||
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目的 | 性質 | ||||||||
物の利用 | 特定物 | 無償 | 片務 | 要物 | 使用 貸借 |
第593条(使用貸借) 使用貸借は,当事者の一方が無償で使用及び収益をした後に返還をすることを約して相手方からある物を受け取ることによって,その効力を生ずる。 |
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有償 | 双務 | 諾成 | 賃貸借 | 第601条(賃貸借) 賃貸借は,当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し,相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって,その効力を生ずる。 |
財産権を移転する契約の場合,無償契約である贈与と有償契約である売買・交換を問わず,すべて諾成契約であるのに対して,物の利用を目的とする契約の場合,無償契約である使用貸借は要物契約であり,有償契約である賃貸借は諾成契約であることは,一見,大きな差のように感じられる。
しかし,財産権を移転する契約の場合も,無償契約である贈与に関しては,それが「書面によらない」契約の場合には,引渡しが終わるまではいつでも「撤回」することができるのであり,その限りでは,要物契約と本質的に変わるところがない。立法論としては,使用貸借も諾成契約とした上で,書面によらない使用貸借は,引渡しが終わるまでは,いつでも「撤回」することができるとすることによって,整合性が確保されると思われる。
当事者の一方(借主)が,無償で使用及び収益したのちに,その物を返還することを約して,相手方よりある物を受け取ることにより成立する契約をいう(民法593条)。使用貸借も要物契約であるが,目的物の所有権が借主に移転せず,目的物自体を返還する点において消費貸借と異なる。
第593条(使用貸借)
使用貸借は,当事者の一方が無償で使用及び収益をした後に返還をすることを約して相手方からある物を受け取ることによって,その効力を生ずる。
無償・片務契約であるため,贈与の規定を類推適用すべきことが多い。消費貸借の場合と同様,合意のみによる諾成的使用貸借も有効と解する見解が有力である。
使用貸借は,目的物を無償で使用・収益した後に返還することを当事者間で合意し,借主が貸主から目的物を受け取ることにより成立する。
無償とは,借主が使用収益をすることについて対価を支払うことを要しないとの意味であるが,借主が貸主に一定の給付をする負担付使用貸借の場合(例えば,留守管理を条件とする家屋の低廉貸与),その給付が対価に当たるか,単なる負担か,争われることが多い。判例は,以下のような判断をしている。
夫婦・親子など親族間での不動産利用関係については,親族法上の扶養ないし協力扶助義務の履行(事実上の利用関係)としてとらえられる傾向が強い。判例も,特別の事情のない限り,事実上の利用関係か,せいぜい使用貸借が認められるにすぎないとする。
第600条(損害賠償及び費用の償還の請求権についての期間の制限)
契約の本旨に反する使用又は収益によって生じた損害の賠償及び借主が支出した費用の償還は,貸主が返還を受けた時から1年以内に請求しなければならない。
第594条(借主による使用及び収益)
@借主は,契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い,その物の使用及び収益をしなければならない。
第596条(貸主の担保責任)
第551条〔贈与者の担保責任〕の規定は,使用貸借について準用する。
第597条(借用物の返還の時期)
@借主は,契約に定めた時期に,借用物の返還をしなければならない。
A当事者が返還の時期を定めなかったときは,借主は,契約に定めた目的に従い使用及び収益を終わった時に,返還をしなければならない。ただし,その使用及び収益を終わる前であっても,使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは,貸主は,直ちに返還を請求することができる。
B当事者が返還の時期並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは,貸主は,いつでも返還を請求することができる。
第594条(借主による使用及び収益)
@借主は,契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い,その物の使用及び収益をしなければならない。
A借主は,貸主の承諾を得なければ,第三者に借用物の使用又は収益をさせることができない。
B借主が前2項の規定に違反して使用又は収益をしたときは,貸主は,契約の解除をすることができる。
使用・収益は,契約又は目的物の性質によって定まった用方に従ってなすことを要する(民法594条1項)。例えば,住居用建物を工場・店舗等に使用すると用方違反となる。
第595条(借用物の費用の負担)
@借主は,借用物の通常の必要費を負担する。
A第583条第2項〔買戻しの場合の費用償還請求権〕の規定は,前項の通常の必要費以外の費用について準用する。
第583条(買戻しの実行)
@売主は,第580条〔買戻しの期間〕に規定する期間内に代金及び契約の費用を提供しなければ,買戻しをすることができない。
A買主又は転得者が不動産について費用を支出したときは,売主は,第196条〔占有者による費用の償還請求〕の規定に従い,その償還をしなければならない。ただし,有益費については,裁判所は,売主の請求により,その償還について相当の期限を許与することができる。
必要費が借主の負担となる点において,賃貸借の場合(民法608条)と異なる。
第593条(使用貸借)
使用貸借は,当事者の一方が無償で使用及び収益をした後に返還をすることを約して相手方からある物を受け取ることによって,その効力を生ずる。
第598条(借主による収去)
借主は,借用物を原状に復して,これに附属させた物を収去することができる。
第597条(借用物の返還の時期)
@借主は,契約に定めた時期に,借用物の返還をしなければならない。
第597条(借用物の返還の時期)
A当事者が返還の時期を定めなかったときは,借主は,契約に定めた目的に従い使用及び収益を終わった時に,返還をしなければならない。ただし,その使用及び収益を終わる前であっても,使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは,貸主は,直ちに返還を請求することができる。
B当事者が返還の時期並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは,貸主は,いつでも返還を請求することができる。
第599条(借主の死亡による使用貸借の終了)
使用貸借は,借主の死亡によって,その効力を失う。
賃貸借は,当事者の一方(賃貸人)が相手方(賃借人)に,ある物を使用・収益をさせることを約し,相手方がその対価として賃料を支払うことを約する契約であり(民法601条),有償・双務・諾成契約である。
第601条(賃貸借)
賃貸借は,当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し,相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって,その効力を生ずる。
賃貸借契約によって賃貸人および賃借人に発生する請求権は以下の通りである。
賃貸人の請求権 | 賃借人の請求権 | 備考 | |
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契約の成立 | 担保請求権(敷金・権利金,保証人など) | ||
契約の存続 | 使用収益請求権 (目的物引渡請求権,妨害排除請求権) |
目的物を賃借人の使用収益に 適した状態に置くことを意味する。 |
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登記協力(対抗力付与)請求権 | 特約がある場合に限る | ||
賃料支払請求権 | 賃料は後払いが原則(民法614条) | ||
賃料増額請求権 | |||
賃料減額請求権 | |||
修繕請求権 | |||
必要費償還請求権 | |||
目的物保管(適正用法)請求権 | |||
修繕請求権 | 特約がある場合に限る | ||
賃貸目的物の保存に必要な行為(修繕)の受忍請求権 | |||
増改築受忍請求権 | 特約で禁じられる場合がある | ||
譲渡・転貸受忍請求権 | 特約で禁じられる場合がある | ||
更新請求権 | |||
契約の終了 | 解除権 | 信頼関係破壊の場合に限る | |
解除権(減収,賃借物の一部滅失) | |||
解約(申し入れ)権 | 正当理由が必要な場合がある | ||
目的物返還請求権 | |||
原状回復請求権 | 大阪高判平16・12・17判時1894号19頁 建物の自然損耗等について賃借人に原状回復させる旨の特約は,消費者契約法10条に照らして無効である。 |
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有益費用償還請求権 | |||
建物・造作買取請求権 | |||
敷金返還請求権 | 神戸地判平17・7・14判時1901号87頁 契約終了時に敷金の一部を返還しない旨の特約(敷引特約)は,消費者契約法10条により無効である。 |
賃貸借のうち,社会的に重要な機能を営むものは,不動産の賃貸借である。そして不動産の賃貸借は,宅地,建物,農地の賃貸借など長期間継続するのが常態である。ところが,契約自由の原則の下に立法された民法では,賃貸借は,あくまで債権の一つとして,動産,不動産の区別なく規定されており,不動産に関し,賃借人の長期間の使用を保証して,賃借人の地位を保護するという点ではほとんど無力である。そこで不動産の賃借権については,従前より,建物保護法(明治42年),借地法(大正10年),借家法(大正10年),罹災都市借地借家臨時処理法(昭和21年),農地法(昭和27年)などの特別法によって規律することとし,その存続期問,対抗力,投下資本の回収等の側面で物権に近い効力が与えられてきた(不動産賃借権の物権化)。
大正期から第二次世界大戦後にかけて,何度にもわたる地価の高騰と,その中での土地・建物の利用関係の安定化の要請に,これらの特別法の果たしてきた役割はめざましいものがあった。しかしながら,反面,借地法,借家法のもとで,土地利用関係が硬直化し,社会,経済情勢の変化に柔軟に対応できない憾みが出てきたこと,特別法の下でなお明らかでなく,判例の集積や取引慣行により解決されてきた様々な問題点を整理して明記する必要も認められたことなどから,立法的な対策が必要とされるようになった。その結果,借地法,借家法,建物保護法の3つの法律を廃止し,一本化して新たに「借地借家法」(平成3年法律第90号)が制定された(平成4年8月1日施行)。
新しい借地借家法は従前の借地法,借家法等(以下「旧借地法」,「旧借家法」等という)の賃借権の適正な保護の理念を基本的に継承しているが,以下の特色を有する。
借地権の存続期問を一律30年以上とし(同法3条),存続期間を50年以上として借地権を設定した場合の更新のない定期借地権等の制度(同法22-24条)や自己借地権の制度(同法15条)を新設し,更新拒絶の際の正当事由について判断基準を規定し(同法6条,28条),転貸借の位置付けを明らかにする規定を置く(同法12条4項,26条3項など)などの特色が見られる。
賃貸借は有償契約である。賃料支払いの約束がなければ使用貸借である。また借地借家法は一時使用のものには適用されない(借地借家法法25条,40条)。賃貸借かどうか,借地借家法が適用されるかどうかは,当該使用関係の目的,態様,法的性質等によって決まる。
公営住宅の利用関係は,公の営造物の利用関係とされてきたが,基本的には私人間の家屋賃貸借関係と異なるところはなく,原別として旧借家法の適用があり,信頼関係破壊の法理の適用もある。したがって,公営住宅の入居者が公営住宅法22条1項所定の明渡請求事由に該当する行為をした場合であっても,賃貸人である事業主体との間の信頼関係を破壊するとは認め難い特段の事情があるときは,事業主体の長がした明渡請求は効力を生じない。(最一判昭59・12・13民集38巻12号1411頁)。しかし,入居者が死亡した場合,相続人による使用権の承継は認められない(最一判平成2・10・18民集44巻7号1021頁)。
社宅の利用関係について,判例は,以下のように,賃料といえる程度の金額の支払いの有無など諸々の事情を考慮し,賃貸借と認めたものと,否定したものとがあり,判断が分かれている。
国有財産の利用関係のうち,行政財産の短期貸付(国有財産法18条)は,行政拠分としての使用許可であり,民法上の賃貸借と異なるから,これには借地借家法の適用はない(国有財産法18条5項)。国有財産のうち普通財産は,国の私物の性質を有し,これには私権の設定ができるから,普通財産の貸付けの性質は,賃貸借契約であり,借地借家法の適用があると考えられる。もっとも,借地借家法3条または4条・5条と国有財産法21条との適用関係については争いがある。
借地借家法 | 国有財産法 | |
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存続期間 | 第3条(借地権の存続期間) 借地権の存続期間は,30年とする。ただし,契約でこれより長い期間を定めたときは,その期間とする。 |
第21条(貸付期間) @普通財産の貸付けは,次の期間を超えることができない。 一 植樹を目的として,土地及び土地の定着物(建物を除く。以下この条及び第27条において同じ。)を貸し付ける場合は,60年 二 前号の場合を除くほか,土地及び土地の定着物を貸し付ける場合は,30年 三 建物その他の物件を貸し付ける場合は,10年 A前項の貸付期間は,これを更新することができる。この場合においては,更新のときから同項の期間をこえることができない。 |
第4条(借地権の更新後の期間) 当事者が借地契約を更新する場合においては,その期間は,更新の日から10年(借地権の設定後の最初の更新にあっては,20年)とする。ただし,当事者がこれより長い期間を定めたときは,その期間とする。 |
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第5条(借地契約の更新請求等) @借地権の存続期間が満了する場合において,借地権者が契約の更新を請求したときは,建物がある場合に限り,前条の規定によるもののほか,従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし,借地権設定者が遅滞なく異議を述べたときは,この限りでない。 A借地権の存続期間が満了した後,借地権者が土地の使用を継続するときも,建物がある場合に限り,前項と同様とする。 B転借地権が設定されている場合においては,転借地権者がする土地の使用の継続を借地権者がする土地の使用の継続とみなして,借地権者と借地権設定者との間について前項の規定を適用する。 |
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第29条(建物賃貸借の期間) @期間を1年未満とする建物の賃貸借は,期間の定めがない建物の賃貸借とみなす。 A民法第604条の規定は,建物の賃貸借については,適用しない。 |
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適用除外 | 第25条(一時使用目的の借地権) 第3条から第8条まで,第13条,第17条,第18条及び第22条から前条までの規定は,臨時設備の設置その他一時使用のために借地権を設定したことが明らかな場合には,適用しない。 |
第18条(処分等の制限) B行政財産は,その用途又は目的を妨げない限度において,その使用又は収益を許可することができる。 D第3項の規定による許可を受けてする行政財産の使用又は収益については,借地借家法(平成3年法律第90号)の規定は,適用しない。 |
第40条(一時使用目的の建物の賃貸借) この章の規定は,一時使用のために建物の賃貸借をしたことが明らかな場合には,適用しない。 |
民法においては,賃貸借の最短期間についての制限規定は存在しない。したがって当事者は20年以下の期問であればどのようにも定められる。しかし,その賃貸借がなされた目的からみて,期間の定め方がいかにも不合理であると認められる場合には,期間の定めがなかったことにするか,その期間を地代据置期間とみるべきであるとする下級審判決が少なからず現われ,旧借地法等特別法による修正の契機ともなった。そして,現行の借地借家法においては,借地権の最短期間は30年,借家権の最短期間は1年とされることとなっている。
民法 | 借地借家法 | ||
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借地 | 借家 | ||
存続期間 | 第604条(賃貸借の存続期間) @賃貸借の存続期間は,20年を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても,その期間は,20年とする。 A賃貸借の存続期間は,更新することができる。ただし,その期間は,更新の時から20年を超えることができない。 |
第3条(借地権の存続期間) 借地権の存続期間は,30年とする。ただし,契約でこれより長い期間を定めたときは,その期間とする。 第4条(借地権の更新後の期間) 当事者が借地契約を更新する場合においては,その期間は,更新の日から10年(借地権の設定後の最初の更新にあっては,20年)とする。ただし,当事者がこれより長い期間を定めたときは,その期間とする。 |
第29条(建物賃貸借の期間) @期間を1年未満とする建物の賃貸借は,期間の定めがない建物の賃貸借とみなす。 A民法第604条の規定は,建物の賃貸借については,適用しない。 |
借地権消滅後,借地権者が更新の請求もせずに土地の使用を継続する場合に,賃貸人が遅滞なく異議を述べないときは,建物がある場合に限り,前契約と同一の条件で賃貸借を更新したものとみなされる(借地借家法5条2項)。賃貸人の異議は正当の事由があると認められる場合でなければ述べることができない(借地借家法6条)。これは,借地権の消滅後に,なお住宅の使用が継続されているという事実があるときには,その借地関係は適法なものとして延長されるという法定更新を認めたものである。
民法 | 借地借家法 | ||
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借地 | 借家 | ||
更新 | 第619条(賃貸借の更新の推定等) @賃貸借の期間が満了した後賃借人が賃借物の使用又は収益を継続する場合において,賃貸人がこれを知りながら異議を述べないときは,従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものと推定する〔黙示の更新〕。この場合において,各当事者は,第617条〔期間の定めのない賃貸借の解約の申入れ〕の規定により解約の申入れをすることができる。 A従前の賃貸借について当事者が担保を供していたときは,その担保は,期間の満了によって消滅する。ただし,敷金については,この限りでない。 |
第5条(借地契約の更新請求等) @借地権の存続期間が満了する場合において,借地権者が契約の更新を請求したときは,建物がある場合に限り,前条の規定によるもののほか,従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし,借地権設定者が遅滞なく異議を述べたときは,この限りでない。 A借地権の存続期間が満了した後,借地権者が土地の使用を継続するときも,建物がある場合に限り,前項と同様とする〔法定更新〕。 B転借地権が設定されている場合においては,転借地権者がする土地の使用の継続を借地権者がする土地の使用の継続とみなして,借地権者と借地権設定者との間について前項の規定を適用する。 |
第26条(建物賃貸借契約の更新等) @建物の賃貸借について期間の定めがある場合において,当事者が期間の満了の1年前から6月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは,従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし,その期間は,定めがないものとする。 A前項の通知をした場合であっても,建物の賃貸借の期間が満了した後建物の賃借人が使用を継続する場合において,建物の賃貸人が遅滞なく異議を述べなかったときも,同項と同様とする〔法定更新〕。 B建物の転貸借がされている場合においては,建物の転借人がする建物の使用の継続を建物の賃借人がする建物の使用の継続とみなして,建物の賃借人と賃貸人との間について前項の規定を適用する。 |
更新拒絶 | 第6条(借地契約の更新拒絶の要件) 前条の異議は,借地権設定者及び借地権者(転借地権者を含む。以下この条において同じ。)が土地の使用を必要とする事情のほか,借地に関する従前の経過及び土地の利用状況並びに借地権設定者が土地の明渡しの条件として又は土地の明渡しと引換えに借地権者に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して,正当の事由があると認められる場合でなければ,述べることができない。 |
第28条(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件) 建物の賃貸人による第26条第1項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは,建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか,建物の賃貸借に関する従前の経過,建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して,正当の事由があると認められる場合でなければ,することができない。 |
借家契約の場合,期間の定めのある場合でも,当事者が期間満了前6カ月ないし1年内に相手方に対して,更新拒絶の通知,又は条件を変更しなければ更新しない旨の通知をしないときは,期間満了の際に,従前の契約と同一の条件をもって,契約を更新したものとみなされる(借地借家法26条1項)。更新拒絶についても,正当の事由を要する(借地借家法28条)。この通知をした場合であっても,期間満了後に賃借人が建物の使用・収益を継続する場合に,賃貸人が遅滞なく異議を述べないときは,従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされる(借地借家法26条2項)。これを法定更新という。更新後の賃貸借存続期間については,旧借家法には規定がなかったため,学説上争いがあり,判例は,期間の定めがないものとなると解していたが(最二判昭27・1・18民集6巻1号1頁),借地借家法では,その旨が明文化された(借地借家法26条2項,1項ただし書き)。
契約が更新されなかった場合,借地人は賃貸人に時価をもって建物等の買取りを請求できる(借地借家法13条1項)。この建物買取請求権は形成権であり,これが行使されると,相手方の承諾を必要としないで建物の売買契約が成立したのと同様の関係を生じる。その結果,借地人は,同時履行の抗弁権又は留置権により,賃貸人が建物の代金を支払うまで建物の引渡しはもちろん,敷地の引渡しも拒絶できるが,敷地を占有・使用することによって得る賃料相当額の利益は,不当利得として償還することを要する(最三判昭35・9・20民集14巻11号2227頁)。
民法 | 借地借家法 | ||
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借地 | 借家 | ||
建物・造作買取り | 第13条(建物買取請求権) @借地権の存続期間が満了した場合において,契約の更新がないときは,借地権者は,借地権設定者に対し,建物その他借地権者が権原により土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる。 A前項の場合において,建物が借地権の存続期間が満了する前に借地権設定者の承諾を得ないで残存期間を超えて存続すべきものとして新たに築造されたものであるときは,裁判所は,借地権設定者の請求により,代金の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる。 B前2項の規定は,借地権の存続期間が満了した場合における転借地権者と借地権設定者との間について準用する。 第14条(第三者の建物買取請求権) 第三者が賃借権の目的である土地の上の建物その他借地権者が権原によって土地に附属させた物を取得した場合において,借地権設定者が賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは,その第三者は,借地権設定者に対し,建物その他借地権者が権原によって土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる。 |
第33条(造作買取請求権) @建物の賃貸人の同意を得て建物に付加した畳,建具その他の造作がある場合には,建物の賃借人は,建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了するときに,建物の賃貸人に対し,その造作を時価で買い取るべきことを請求することができる。建物の賃貸人から買い受けた造作についても,同様とする。 A前項の規定は,建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了する場合における建物の転借人と賃貸人との間について準用する。 |
正当事由があるため,借地契約の更新がされず,又は,地主が借地権の譲渡,転貸に承諾を与えない場合に,借地権者に地上物買取請求権が認められる場合(借地借家法13条1項,14条)や借家人に造作買取請求権が認められる場合(借地借家法33条1項)の基本的な考え方は,旧借地法,旧借家法と変っていない。買取請求権は,借地人,借家人の一方的意思表示によって建物又は造作について売買契約を成立させる形成権であり,この意思表示によって,借地人,借家人を売主,地主,賃貸人を買主とする当該物件の売買契約が時価によって成立したことになる。いずれも,貸借人の投下費用の回収を確保することと,借地の建物については取殺しによる国民経済的損失を防止することが目的である。
なお,借地人は,建物代金の支払いを受けるまで建物引渡しひいては土地明渡しを拒み得るが,借家人は造作代金不払いを理由に建物の明渡しを拒み得ないとするのが判例である。
債務不履行によって契約が解除され,その結果,借地権が消滅した場合に,借地借家法13条1項が適用されて借地権者が建物買取請求権を取得するか否かについては,判例は,旧借地法4条2項の建物買取請求権についてであるが,これを否定する(最三判昭35・2・9民集14巻1号108頁)。造作買取請求権(借地借家法33条1項)についても,同様である(最二判昭31・4・6民集10巻4号356頁)。
借地期間満了などで借地権が終了する前に建物が滅失(借地権者等による取壊しを含む)をし,借地権者が残存する期間を超えて存続するような建物を築造した場合については,当該建物再築について借地権設定者の承諾がある場合に限り,借地権は,承諾のあった日又は建物が築造された日のいずれか早い日から20年間存続するの原則とし,残存期間がこれより長いとき又は当事者がこれより長い期間を定めたときは,その期間による(借地借家法7条1項)。再築について借地権者が通知したのに,借地権設定者が,それを受けた後2か月以内に異議を述べなかったときは,上記の承諾があったものとみなされる(借地借家法7条2項)。
さらに,残存期間を超える建物の再築がやむをえない事情によるのに,借地権設定者が承諾しないときには,借地権者の申立てにより,借地権設定者の承諾に代わる裁判所の許可を得ることができる(借地借家法18条)。他方,借地権設定者の承諾を得ないで残存期間を超えて存続すべき建物を築造した場合は,解約事由となり(借地借家法8条2項),建物買取請求権を行使した場合にも,その建物が借地権設定者の承諾を得ないで残存期間を超えて存続すべきものとして新たに築造されたものであるときは,借地権者に一定の不利益が及ぶこととされた(借地借家法13条2項)。
第7条(建物の再築による借地権の期間の延長)
@借地権の存続期間が満了する前に建物の滅失(借地権者又は転借地権者による取壊しを含む。以下同じ。)があった場合において,借地権者が残存期間を超えて存続すべき建物を築造したときは,その建物を築造するにつき借地権設定者の承諾がある場合に限り,借地権は,承諾があった日又は建物が築造された日のいずれか早い日から20年間存続する。ただし,残存期間がこれより長いとき,又は当事者がこれより長い期間を定めたときは,その期間による。
A借地権者が借地権設定者に対し残存期間を超えて存続すべき建物を新たに築造する旨を通知した場合において,借地権設定者がその通知を受けた後2月以内に異議を述べなかったときは,その建物を築造するにつき前項の借地権設定者の承諾があったものとみなす。ただし,契約の更新の後(同項の規定により借地権の存続期間が延長された場合にあっては,借地権の当初の存続期間が満了すべき日の後。次条及び第18条において同じ。)に通知があった場合においては,この限りでない。
B転借地権が設定されている場合においては,転借地権者がする建物の築造を借地権者がする建物の築造とみなして,借地権者と借地権設定者との間について第1項の規定を適用する。
第18条(借地契約の更新後の建物の再築の許可)
@契約の更新の後において,借地権者が残存期間を超えて存続すべき建物を新たに築造することにつきやむを得ない事情があるにもかかわらず,借地権設定者がその建物の築造を承諾しないときは,借地権設定者が地上権の消滅の請求又は土地の賃貸借の解約の申入れをすることができない旨を定めた場合を除き,裁判所は,借地権者の申立てにより,借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。この場合において,当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは,延長すべき借地権の期間として第7条第1項の規定による期間と異なる期間を定め,他の借地条件を変更し,財産上の給付を命じ,その他相当の処分をすることができる。
A裁判所は,前項の裁判をするには,建物の状況,建物の滅失があった場合には滅失に至った事情,借地に関する従前の経過,借地権設定者及び借地権者(転借地権者を含む。)が土地の使用を必要とする事情その他一切の事情を考慮しなければならない。
B前条第5項及び第6項の規定は,第1項の裁判をする場合に準用する。
第8条(借地契約の更新後の建物の滅失による解約等)
@契約の更新の後に建物の滅失があった場合においては,借地権者は,地上権の放棄又は土地の賃貸借の解約の申入れをすることができる。
A前項に規定する場合において,借地権者が借地権設定者の承諾を得ないで残存期間を超えて存続すべき建物を築造したときは,借地権設定者は,地上権の消滅の請求又は土地の賃貸借の解約の申入れをすることができる。
B前2項の場合においては,借地権は,地上権の放棄若しくは消滅の請求又は土地の賃貸借の解約の申入れがあった日から3月を経過することによって消滅する。
C第1項に規定する地上権の放棄又は土地の賃貸借の解約の申入れをする権利は,第2項に規定する地上権の消滅の請求又は土地の賃貸借の解約の申入れをする権利を制限する場合に限り,制限することができる。
D転借地権が設定されている場合においては,転借地権者がする建物の築造を借地権者がする建物の築造とみなして,借地権者と借地権設定者との間について第2項の規定を適用する。
普通借地権 (3条) |
定期借地権 | |||
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一般定期借地権 (22条) |
業務用定期借地権 (24条) |
建物譲渡特約付借地権 (23条) |
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目的 | 建物の所有を目的とする地上権および土地の賃借権 | 存続期間を50年以上として借地権を設定する | 専ら事業のように供する建物(住居用を除く)の所有を目的とし,かつ,存続期間を10年以上20年以下として借地権を設定する | 設定後30年以上を経過した日に借地権の目的物である土地上の建物を借地権設定者に相当の対価で譲渡する |
具体例 | マンション,店舗用ビルの敷地 | コンビニエンス・ストア,ファミリーレストラン,ガソリンスタンド | 賃貸マンション,賃貸ビル用の敷地 | |
存続期間 | 30年以上 (期間の定めがない場合は30年) |
50年以上 | 10年以上20年以下 | 30年以上 |
第22条(定期借地権)
存続期間を50年以上として借地権を設定する場合においては,第9条及び第16条の規定〔片面的強行規定〕にかかわらず,契約の更新(更新の請求及び土地の使用の継続によるものを含む。)及び建物の築造による存続期間の延長がなく,並びに第13条の規定による買取りの請求をしないこととする旨を定めることができる。この場合においては,その特約は,公正証書による等書面によってしなければならない。
第23条(建物譲渡特約付借地権)
@借地権を設定する場合においては,第9条の規定にかかわらず,借地権を消滅させるため,その設定後30年以上を経過した日に借地権の目的である土地の上の建物を借地権設定者に相当の対価で譲渡する旨を定めることができる。
A前項の特約により借地権が消滅した場合において,その借地権者又は建物の賃借人でその消滅後建物の使用を継続しているものが請求をしたときは,請求の時にその建物につきその借地権者又は建物の賃借人と借地権設定者との間で期間の定めのない賃貸借(借地権者が請求をした場合において,借地権の残存期間があるときは,その残存期間を存続期間とする賃貸借)がされたものとみなす。この場合において,建物の借賃は,当事者の請求により,裁判所が定める。
B第1項の特約がある場合において,借地権者又は建物の賃借人と借地権設定者との間でその建物につき第38条第1項の規定による賃貸借契約をしたときは,前項の規定にかかわらず,その定めに従う。
第24条(事業用借地権)
@第3条から第8条まで,第13条及び第18条の規定は,専ら事業の用に供する建物(居住の用に供するものを除く。)の所有を目的とし,かつ,存続期間を10年以上20年以下として借地権を設定する場合には,適用しない。
A前項に規定する借地権の設定を目的とする契約は,公正証書によってしなければならない。
第38条(定期建物賃貸借)
@期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては,公正証書による等書面によって契約をするときに限り,第30条の規定にかかわらず,契約の更新がないこととする旨を定めることができる。この場合には,第29条第1項の規定を適用しない。
A前項の規定による建物の賃貸借をしようとするときは,建物の賃貸人は,あらかじめ,建物の賃借人に対し,同項の規定による建物の賃貸借は契約の更新がなく,期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて,その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない。
B建物の賃貸人が前項の規定による説明をしなかったときは,契約の更新がないこととする旨の定めは,無効とする。
C第1項の規定による建物の賃貸借において,期間が1年以上である場合には,建物の賃貸人は,期間の満了の1年前から6月前までの間(以下この項において「通知期間」という。)に建物の賃借人に対し期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知をしなければ,その終了を建物の賃借人に対抗することができない。ただし,建物の賃貸人が通知期間の経過後建物の賃借人に対しその旨の通知をした場合においては,その通知の日から6月を経過した後は,この限りでない。
D第1項の規定による居住の用に供する建物の賃貸借(床面積(建物の一部分を賃貸借の目的とする場合にあっては,当該一部分の床面積)が200平方メートル未満の建物に係るものに限る。)において,転勤,療養,親族の介護その他のやむを得ない事情により,建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは,建物の賃借人は,建物の賃貸借の解約の申入れをすることができる。この場合においては,建物の賃貸借は,解約の申入れの日から1月を経過することによって終了する。
E前2項の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは,無効とする。
F第32条の規定は,第1項の規定による建物の賃貸借において,借賃の改定に係る特約がある場合には,適用しない。
第39条(取壊し予定の建物の賃貸借)
@法令又は契約により一定の期間を経過した後に建物を取り壊すべきことが明らかな場合において,建物の賃貸借をするときは,第30条の規定にかかわらず,建物を取り壊すこととなる時に賃貸借が終了する旨を定めることができる。
A前項の特約は,同項の建物を取り壊すべき事由を記載した書面によってしなければならない。
民法 | 借地借家法 | ||
---|---|---|---|
借地 | 借家 | ||
解約申入れ | 第617条(期間の定めのない賃貸借の解約の申入れ) @当事者が賃貸借の期間を定めなかったときは,各当事者は,いつでも解約の申入れをすることができる。 この場合においては,次の各号に掲げる賃貸借は,解約の申入れの日からそれぞれ当該各号に定める期間を経過することによって終了する。 一 土地の賃貸借 1年 二 建物の賃貸借 3箇月 三 動産及び貸席の賃貸借 1日 A収穫の季節がある土地の賃貸借については,その季節の後次の耕作に着手する前に,解約の申入れをしなければならない。 第618条(期間の定めのある賃貸借の解約をする権利の留保) 当事者が賃貸借の期間を定めた場合であっても,その一方又は双方がその期間内に解約をする権利を留保したときは,前条の規定を準用する。 |
借地権の場合,3条,4条で,存続期間が法定されており,存続期間のない借地権は存在しない。ただし,以下の場合には,解約申入れが問題となる。 第8条(借地契約の更新後の建物の滅失による解約等) @契約の更新の後に建物の滅失があった場合においては,借地権者は,地上権の放棄又は土地の賃貸借の解約の申入れをすることができる。 A前項に規定する場合において,借地権者が借地権設定者の承諾を得ないで残存期間を超えて存続すべき建物を築造したときは,借地権設定者は,地上権の消滅の請求又は土地の賃貸借の解約の申入れをすることができる。 B前2項の場合においては,借地権は,地上権の放棄若しくは消滅の請求又は土地の賃貸借の解約の申入れがあった日から3月を経過することによって消滅する。 C第1項に規定する地上権の放棄又は土地の賃貸借の解約の申入れをする権利は,第2項に規定する地上権の消滅の請求又は土地の賃貸借の解約の申入れをする権利を制限する場合に限り,制限することができる。 D転借地権が設定されている場合においては,転借地権者がする建物の築造を借地権者がする建物の築造とみなして,借地権者と借地権設定者との間について第2項の規定を適用する。 |
第27条(解約による建物賃貸借の終了) @建物の賃貸人が賃貸借の解約の申入れをした場合においては, 建物の賃貸借は,解約の申入れの日から6月を経過することによって終了する。 A前条第2項及び第3項の規定は,建物の賃貸借が解約の申入れによって終了した場合に準用する。 第28条(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件) 建物の賃貸人による第26条第1項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは, 建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が 建物の使用を必要とする事情のほか,建物の賃貸借に関する従前の経過,建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として 又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して, 正当の事由があると認められる場合でなければ,することができない。 |
財産について管理能力はあるが,処分の能力のない者(被保佐人,被補助人)又は権限を有しない者(不在者の財産管理人など)が賃貸借をなす場合には,民法602条所定の期間を超えることはできない(民法602条)。この短期賃貸借においてもこれを更新することができる(民法603条)。
民法 | 借地借家法 | ||
---|---|---|---|
借地 | 借家 | ||
第602条(短期賃貸借) |
第3条(借地権の存続期間) 借地権の存続期間は,30年とする。ただし,契約でこれより長い期間を定めたときは,その期間とする。 第4条(借地権の更新後の期間) 当事者が借地契約を更新する場合においては,その期間は,更新の日から10年(借地権の設定後の最初の更新にあっては,20年)とする。ただし,当事者がこれより長い期間を定めたときは,その期間とする。 第25条(一時使用目的の借地権) 第3条から第8条まで,第13条,第17条,第18条及び第22条から前条までの規定は,臨時設備の設置その他一時使用のために借地権を設定したことが明らかな場合には,適用しない。 |
第29条(建物賃貸借の期間) @期間を1年未満とする建物の賃貸借は,期間の定めがない建物の賃貸借とみなす。 A民法第604条の規定は,建物の賃貸借については,適用しない。 第40条(一時使用目的の建物の賃貸借) この章の規定は,一時使用のために建物の賃貸借をしたことが明らかな場合には,適用しない。 |
処分につき行為能力の制限を受けた者又は処分の権限を有しない者が民法602条に定められた期間を超える賃貸借契約を締結した場合には,それぞれの行為者について処分の能力または権限に関する規定に従って取り消し,または,無効の問題が生じることになる。
農地法にも,農地の賃貸借について存続期間自体を定める規定はないが,小作人保護のために法定更新の規定(農地法19条)がおかれ,また,賃貸借の解除をし,解約の申入れをし,合意解約をし,又は賃貸借の更新をする場合には都道府県知事の許可がいるとされている(農地法20条)。
農地法 第19条(農地又は採草放牧地の賃貸借の更新)
農地又は採草放牧地の賃貸借について期間の定めがある場合において,その当事者が,その期間の満了の1年前から6月前まで(賃貸人又はその世帯員の死亡又は第2条第6項に掲げる事由によりその土地について耕作,採草又は家畜の放牧をすることができないため,一時賃貸をしたことが明らかな場合は,その期間の満了の6月前から1月前まで)の間に,相手方に対して更新をしない旨の通知をしないときは,従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものとみなす。ただし,水田裏作を目的とする賃貸借でその期間が1年未満であるもの,第75条の2から第75条の7までの規定によって設定された草地利用権(その存続期間が更新されたものにあっては,その更新が第75条の7第1項の規定又は同条第2項で準用する第75条の2第2項から第5項まで及び第75条の3から第75条の6までの規定によってされたものに限る。次条第1項第四号で同様とする。)に係る賃貸借,農業振興地域の整備に関する法律第15条の7から第15条の11までの規定によって設定された同法第15条の7第1項に規定する特定利用権に係る賃貸借及び農業経営基盤強化促進法第19条の規定による公告があった農用地利用集積計画の定めるところによって設定され,又は移転された同法第4条第3項第一号に規定する利用権に係る賃貸借については,この限りでない。
農地法 第20条(農地又は採草放牧地の賃貸借の解約等の制限)
@農地又は採草放牧地の賃貸借の当事者は,政令で定めるところにより都道府県知事の許可を受けなければ,賃貸借の解除をし,解約の申入れをし,合意による解約をし,又は賃貸借の更新をしない旨の通知をしてはならない。ただし,次の各号のいずれかに該当する場合は,この限りでない。
一 解約の申入れ,合意による解約又は賃貸借の更新をしない旨の通知が,信託事業に係る信託財産につき行なわれる場合(その賃貸借がその信託財産に係る信託の引受け前から既に存していたものである場合及び解約の申入れ又は合意による解約にあってはこれらの行為によって賃貸借の終了する日,賃貸借の更新をしない旨の通知にあってはその賃貸借の期間の満了する日がその信託に係る信託行為によりその信託が終了することとなる日前1年以内にない場合を除く。)
二 合意による解約が,その解約によって農地若しくは採草放牧地を引き渡すこととなる期限前6箇月以内に成立した合意でその旨が書面において明らかであるものに基づいて行なわれる場合又は民事調停法による農事調停によって行なわれる場合
三 賃貸借の更新をしない旨の通知が,10年以上の期間の定めがある賃貸借(解約をする権利を留保しているもの及び期間の満了前にその期間を変更したものでその変更をした時以後の期間が10年未満であるものを除く。)又は水田裏作を目的とする賃貸借につき行なわれる場合
四 第75条の2から第75条の7までの規定によって設定された草地利用権に係る賃貸借の解除が,第75条の9の規定により都道府県知事の承認を受けて行なわれる場合
五 農業振興地域の整備に関する法律第15条の7から第15条の11までの規定によって設定された同法第15条の7第1項に規定する特定利用権に係る賃貸借の解除が,同法第15条の13の規定により都道府県知事の承認を受けて行われる場合
A前項の許可は,次に掲げる場合でなければしてはならない。
一 賃借人が信義に反した行為をした場合
二 その農地又は採草放牧地を農地又は採草放牧地以外のものにすることを相当とする場合
三 賃借人の生計(法人にあっては,経営),賃貸人の経営能力等を考慮し,賃貸人がその農地又は採草放牧地を耕作又は養畜の事業に供することを相当とする場合
四 賃借人である農業生産法人が農業生産法人でなくなった場合並びに賃借人である農業生産法人の構成員となっている賃貸人がその法人の構成員でなくなり,その賃貸人又はその世帯員がその許可を受けた後において耕作又は養畜の事業に供すべき農地及び採草放牧地のすべてを効率的に利用して耕作又は養畜の事業を行なうことができると認められ,かつ,その事業に必要な農作業に常時従事すると認められる場合
五 その他正当の事由がある場合
B都道府県知事が,第1項の規定により許可をしようとするときは,あらかじめ,都道府県農業会議の意見を聞かなければならない。
C第1項の許可は,条件をつけてすることができる。
D第1項の許可を受けないでした行為は,その効力を生じない。
E農地又は採草放牧地の賃貸借につき解約の申入れ,合意による解約又は賃貸借の更新をしない旨の通知が第1項ただし書の規定により同項の許可を要しないで行なわれた場合には,これらの行為をした者は,農林水産省令で定めるところにより,農業委員会にその旨を通知しなければならない。
F前条又は民法第617条(解約の申入れ)若しくは第618条(解約権の留保)の規定と異なる小作条件でこれらの規定による場合に比して賃借人に不利なものは,定めないものとみなす。
G農地又は採草放牧地の賃貸借につけた解除条件又は不確定期限は,つけないものとみなす。
賃貸借契約から生じる賃貸人の権利には,賃料支払請求権,賃貸目的物の保存に必要な行為(修繕)をする権利(民法606条2項)及び賃貸借終了の場合の目的物返還請求権がある。
第601条(賃貸借)
賃貸借は,当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し,相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって,その効力を生ずる。
第606条(賃貸物の修繕等)
@賃貸人は,賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。
A賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは,賃借人は,これを拒むことができない。
第616条(使用貸借の規定の準用)
第594条第1項〔借主による使用及び収益〕,第597条第1項〔借用物の返還の時期〕及び第598条〔借主による収去〕の規定は,賃貸借について準用する。
賃借人をして目的物を使用・収益させる義務を負う(民法601条)。
賃貸人は契約に基づく義務の履行として,目的物を賃借人に引き渡さなければならない。なお,賃貸人は,特約のない限り,賃借権の登記に協力する義務を負わない。
賃貸人は,賃借人をして目的物を十分に使用・収益できるように修繕義務を負う(民法606条1項)。これは,賃貸人の自己の物についての権利としての面もあり,賃借人は,賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは,これを拒むことができない(民法606条2項)。ただし,賃貸人が賃借人の意思に反して保存行為をしようとするため賃借人が賃借した目的を達しえない場合には,賃借人は契約の解除をすることができる(民法607条)。賃貸人の修繕義務不履行のため,賃借人が使用・収益できないときは,その程度に応じ,賃借人は,同時履行の抗弁権により賃料の全部又は一部の支払いを拒絶できる。修繕義務に関する民法の規定は強行規定ではないので,当事者はそれと異なる特約,例えば修繕は賃借人がするという特約をしてもかまわない。
第606条(賃貸物の修繕等)
@賃貸人は,賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。
A賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは,賃借人は,これを拒むことができない。
第607条(賃借人の意思に反する保存行為)
賃貸人が賃借人の意思に反して保存行為をしようとする場合において,そのために賃借人が賃借をした目的を達することができなくなるときは,賃借人は,契約の解除をすることができる。
第三者が目的物の使用・収益を妨げる場合には,賃貸人は,これを排除しなければならない。
賃貸借は有償契約であるから,賃貸人は賃貸物の瑕疵について売主と同様の担保責任を負う(民法559条,民法561条以下)。目的物の数量が不足の場合や,目的物が用益的権利の制限を受ける場合や,目的物に隠れた瑕疵がある場合などである。
賃借人が賃借物について支出した費用は,当事者間に特約があればこれに従うが,特約のない場合には賃貸人は必要費及び有益費を償還する義務を負う(民法608条)。必要費と有益費とで償還の時期が異なる。賃借人の費用償還請求権は,必要費,有益費とも,賃貸人が返還を受けてから1年内に行使しなければならない。(民法621条,600条)。
第608条(賃借人による費用の償還請求)
@賃借人は,賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは,賃貸人に対し,直ちにその償還を請求することができる。
A賃借人が賃借物について有益費を支出したときは,賃貸人は,賃貸借の終了の時に,第196条第2項〔占有者による有益費の償還請求〕の規定に従い,その償還をしなければならない。ただし,裁判所は,賃貸人の請求により,その償還について相当の期限を許与することができる。
第621条(損害賠償及び費用の償還の請求権についての期間の制限)
第600条〔使用貸借の場合の損害賠償及び費用の償還の請求権についての期間の制限〕の規定は,賃貸借について準用する。
第600条(損害賠償及び費用の償還の請求権についての期間の制限)
契約の本旨に反する使用又は収益によって生じた損害の賠償及び借主が支出した費用の償還は,貸主が返還を受けた時から1年以内に請求しなければならない。
賃借人の使用・収益の程度や方法は,当事者間の契約又は目的物の性質によって定まるものであるから,この定まった用方に従って使用・収益をしなければならない(民法616条,594条1項)。用方違反の場合には,別段の規定はないから,一般の規定によって,賃貸人は損害の賠償を請求することができ(民法415条以下),また違反行為の程度のいかんによっては契約を解除することもできる(民法541条,622条,600条)。
賃借権は物権ではないが,不動産の賃貸借はこれを登記しておけば,以後その不動産について物権を取得した者に対してもその効力がある(民法605条)。
第605条(不動産賃貸借の対抗力)
不動産の賃貸借は,これを登記したときは,その後その不動産について物権を取得した者に対しても,その効力を生ずる。
しかし,賃貸人は特約がない限り,登記に協力する義務を負わないので(大判大10・7・11民録27輯1378頁),担保権設定の際の停止条件付賃貸借契約など特殊の場合以外には,この登記がされることはほとんどない。そのため,賃貸人たる土地所有者が当該土地を第三者に譲渡すると賃借人は新所有者に賃借権を対抗できず(売買は賃貸借を破る),建物取去・土地明渡しを求められる事例(いわゆる地震売買)が横行した。
そこで賃借人の保護を図るため,不動産貨借権については特別立法がなされ,対抗力の面でも賃借権に物権に近い効力が与えられるようになっている(「売買は賃貸借を破らず」)。
例えば,建物所有目的の宅地賃借権は,地上建物について登記をすれば,土地の賃借権を第三者に対抗でき(借地借家10条I項,旧建物保護1条),その対抗力は,建物が滅失しても直ちに消滅するものでないとされた(借地借家10条2項)。
借地借家法 第10条(借地権の対抗力等)
@借地権は,その登記がなくても,土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは,これをもって第三者に対抗することができる。
A前項の場合において,建物の滅失があっても,借地権者が,その建物を特定するために必要な事項,その滅失があった日及び建物を新たに築造する旨を土地の上の見やすい場所に掲示するときは,借地権は,なお同項の効力を有する。ただし,建物の滅失があった日から2年を経過した後にあっては,その前に建物を新たに築造し,かつ,その建物につき登記した場合に限る。
B民法(明治29年法律第89号)第566条第1項及び第3項〔用益的権利による制限がある場合の売主の担保責任〕の規定は,前2項の規定により第三者に対抗することができる借地権の目的である土地が売買の目的物である場合に準用する。
C民法第533条〔同時履行の抗弁権〕の規定は,前項の場合に準用する。
この場合における登記は,保存登記,移転登記はもちろんのこと表示登記でもよい(最一判昭50・2・13民集29巻2号83頁)。ただし,登記の名義は借地権を主張する者でなければならないとするのが判例(最大判昭41・4・27民集20巻4号870頁)である。
しかし,この判決には,裁判官6名の反対意見が付されており,少なくとも,家族名義の場合には対抗力を肯定すべきであるとの説が有力である。また,借地借家法10条2項が,建物滅失の場合にその土地に立て札を立てておけば一定期間は対抗力を失わないとしていること,すなわち,借地借家法は,「登記簿一辺倒から現地主義加味へ」と方針を転換したことを考慮して,登記名義人の不一致の場合にも,土地の譲受人に実際の権利関係を調査する義務を課してもよいのではないかとの見解も主張されている。判決当時の建物保護法1条の文言が,「賃借人カ…登記シタル建物」であったのが,借地借家法は,「借地権者が登記されている建物を所有するときは」という文言に変更されていることもこの解釈の強みとなっている[大村・基本民法U(2003)106-107頁]。
通常の借地の場合とは異なり,家屋,農地の賃貸借については,目的物件の引渡しがあればその賃借権を第三者に対抗できる(借地借家31条1項,旧借家法1条1項,農地法18条1項)。
借地借家法 第31条(建物賃貸借の対抗力等)
@建物の賃貸借は,その登記がなくても,建物の引渡しがあったときは,その後その建物について物権を取得した者に対し,その効力を生ずる。
農地法 第18条(農地又は採草放牧地の賃貸借の対抗力)
@農地又は採草放牧地の賃貸借は,その登記がなくても,農地又は採草放牧地の引渡があつたときは,これをもってその後その農地又は採草放牧地について物権を取得した第三者に対抗することができる。
賃借人は目的物を善良な管理者の注意をもって保管しなければならない(民法400条)。この義務に違反したときは,債務不履行となり,損害賠償義務を負う。したがって賃借人が過失により失火した場合にも失火責任法は適用されない(最二判昭30・3・25民集9巻3号385頁)。
増改築禁止の特約(合理的なものであれば有効であるが,そうでないものは,あるいは例文として無効と解すべきものも多いであろう)があれば,これに従わなければならない。ただし,賃貸人が賃貸借契約を解除できるかどうかについては,継続的契約関係における解除権の制約原理としての「信頼関係破壊の法理」によって解決される。
土地の通常の利用上相当とすべき増改築につき,地主が承諾しなければ,借地権者は,裁判所に申し立て,地主の承諾に代わる許可を受けて行うことができる(借地借家法17条2項)。
借地借家法 第17条(借地条件の変更及び増改築の許可)
A増改築を制限する旨の借地条件がある場合において,土地の通常の利用上相当とすべき増改築につき当事者間に協議が調わないときは,裁判所は,借地権者の申立てにより,その増改築についての借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。
賃借人は,賃貸借が終了したら賃借物を返還する義務を負う(民法616条,597条1項)。
賃料額の決定は,民法上原則として当事者の自由な契約にまかされているが,当事者は反対の特約がない限り,相互に経済事情の変動を理由とする賃料増減請求権を有する(借地借家法11条1項,32条1項)。
借地借家法 第11条(地代等増減請求権)
@地代又は土地の借賃(以下この条及び次条において「地代等」という。)が,土地に対する租税その他の公課の増減により,土地の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により,又は近傍類似の土地の地代等に比較して不相当となったときは,契約の条件にかかわらず,当事者は,将来に向かって地代等の額の増減を請求することができる。ただし,一定の期間地代等を増額しない旨の特約がある場合には,その定めに従う。
A地代等の増額について当事者間に協議が調わないときは,その請求を受けた者は,増額を正当とする裁判が確定するまでは,相当と認める額の地代等を支払うことをもって足りる。ただし,その裁判が確定した場合において,既に支払った額に不足があるときは,その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。
B地代等の減額について当事者間に協議が調わないときは,その請求を受けた者は,減額を正当とする裁判が確定するまでは,相当と認める額の地代等の支払を請求することができる。ただし,その裁判が確定した場合において,既に支払を受けた額が正当とされた地代等の額を超えるときは,その超過額に年1割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。
借地借家法 第32条(借賃増減請求権)
@建物の借賃が,土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により,土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により,又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは,契約の条件にかかわらず,当事者は,将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし,一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には,その定めに従う。
A建物の借賃の増額について当事者間に協議が調わないときは,その請求を受けた者は,増額を正当とする裁判が確定するまでは,相当と認める額の建物の借賃を支払うことをもって足りる。ただし,その裁判が確定した場合において,既に支払った額に不足があるときは,その不足額に年1割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。
B建物の借賃の減額について当事者間に協議が調わないときは,その請求を受けた者は,減額を正当とする裁判が確定するまでは,相当と認める額の建物の借賃の支払を請求することができる。ただし,その裁判が確定した場合において,既に支払を受けた額が正当とされた建物の借賃の額を超えるときは,その超過額に年1割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。
この賃料増減請求権は,形成権であるから,一方の意思表示によって,当然に賃料の増額又は減額の効力を生じる。ただし,賃料の増減につき当事者間に協議が調わないときは,その増額又は減額が正当であることを認めてもらうための裁判を申し立てることができる(借地借家法11条2項3項,32条2項3項)。
増額請末を受けた賃借人は,増額を正当とする裁判が確定するまでは相当と認める額を支払えはよく,裁判が確定し,既に支払った額に不足があるときは,その不足額に年1割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない(借地借家法11条2項ただし書き,32条2項ただし書き)。
判例は,賃借人が主観的に相当と認めていない額の賃料を支払っても旧借地法12条2項(借地借家11条2項)の「相当ト認ムル類」を支払ったことにはならず,また,賃借人が請求額に満たない額(主観的に相当と認める額)を賃料として支払う場合において,賃借人が自らの支払額が公租公課の額を下回ることを知っていたときは,賃借人がこれを主観的に相当と認めていたとしても特段の事情のない限り,旧借地法12条2項の相当賃料を支払ったことにはならないとする(最二判平成8・7・12民集50巻7号1876頁)。
他方,賃貸人が減額請求を受けたときは,減額を正当とする裁判が確足するまでは相当と認める額を請求できるが,減額を正当とする裁判が確定したときは,超過額に年1割の割合による受領の時からの利息を付して返還しなければならない(借地借家法11条3項ただし書き,32条3項ただし書き)。
借地借家法32条に関しては,いわゆるサブ・リースの場合にも適用があるかどうかが争われてきた。最高裁は,いわゆるサブ・リース契約においても,借地借家法32条の適用があるとしている。しかし,賃料減額請求権に関しての考慮事項は,従来の32条の考慮要素とはと異なっている点に注意が必要である。
なお,目的物が一部滅失したときは,賃借人は借賃減額請求をすることができ,場合によっては,解除ができる(民法611条)。
第611条(賃借物の一部滅失による賃料の減額請求等)
@賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したときは,賃借人は,その滅失した部分の割合に応じて,賃料の減額を請求することができる。
A前項の場合において,残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは,賃借人は,契約の解除をすることができる。
賃料は,当事者間に特約がないときは,後払いであり,動産,建物及び宅地については毎月末,その他の土地については毎年末に支払わなげればならず,収穫季節のあるものについては,その季節後遅滞なくこれを支払わなければならない(民法614条)。
第614条(賃料の支払時期)
賃料は,動産,建物及び宅地については毎月末に,その他の土地については毎年末に,支払わなければならない。ただし,収穫の季節があるものについては,その季節の後に遅滞なく支払わなければならない。
賃借権の譲渡,転貸には賃貸人の承諾が必要である(民法612条1項)。賃借人の同一性は,貸主にとって借主の賃料支払義務や保管義務において重要な意味があるからである。もっとも,賃借権の譲渡・転貸につき賃貸人の承諾がなくても,賃借権の譲渡・転貸自体は当事者間では有効であり,ただこれをもって賃貸人に対抗しえないだけであると解されている(大判大7・9・30民録24輯1781頁)。
賃借人が賃貸人の承諾なくして賃借権を譲渡,転貸したときは,賃貸人は契約を解除できる(民法612条2項)。転貸の場合,賃借人との契約を解除することなく,転借人に対して直接賃貸人への返還を請求することも可能であるとするのが判例である。
しかし,学説の多くは,賃借人との契約を解除しないのなら,賃貸人は転借人に対し,賃借人への目的物の返還を求め得るにすぎないとしている。
なお,親族,知人又は雇人等に使用収益させても,それが独立の使用収益を与えたものと認められないときは,譲渡,転貸には当たらない。さらに,借地上の建物が担保目的で譲渡されたとしても,担保設定者である借地人が引き続きその建物を利用している場合には,民法612条にいう譲渡・転貸に当たらないとしている。
ただし,譲渡担保権が実行されて,または,実行前に,譲渡担保権者が建物の使用収益を行うに至った場合には,敷地の使用主体が変更しているので,民法612条にいう譲渡・転貸に該当する。
契約解除の一般理論として,契約が解除ができるのは,契約目的を達成することができない場合に限られることは,すでに論じた(例えば,民法542条,民法570条によって準用される566条参照)。継続的契約関係の場合には,この契約解除の一般理論は,貸借を継続するために不可欠の当事者間の信頼関係を破壊するような背信行為がなされた場合にのみ賃貸借契約は解除できる(「信頼関係破壊の法理」)という形で,一貫して適用される。
第612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
@賃借人は,賃貸人の承諾を得なければ,その賃借権を譲り渡し,又は賃借物を転貸することができない。
A賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは,賃貸人は,契約の解除をすることができる。
確かに,民法612条2項によれば,賃借人によって目的物の無断譲渡・転貸が行われると,賃貸人は,契約の解除ができるとされている。しかし,民法612条に規定された賃貸人の解除権は,信義則の適用でもある「信頼関係破壊の法理」によって,以下のように制限される。
推定の前提事実 | 法律要件 | 法律効果 | |||
---|---|---|---|---|---|
民法612条の文言解釈 | − | 賃借人による 無断譲渡・転貸 (賃貸人が立証) |
→ | 賃貸人は賃貸借契約を解除できる | |
信頼関係破壊の法理 (従来の法律要件 (無断転貸・譲渡)が 推定の前提へと降格) |
立証なし | 賃借人の背信的行為 (賃貸人が立証) |
→ | 賃貸人は賃貸借契約を解除できる | |
賃借人による 無断譲渡・転貸 (賃貸人が証明) |
→ 法律上の 推定 |
賃借人の背信的行為 (賃貸人は立証不要) |
→ | ||
推定の覆滅 (反対事実 の証明) |
背信的行為と認めるに 足りない特段の事由 (賃借人が立証) |
→ | 賃貸人は賃貸借契約を解除できない |
すなわち,賃借権の無断譲渡・転貸がされても,それが,賃貸人に対する背信的行為と認めるに足らない特段の事情があるときは,612条2項の解除権は発生せず,賃貸人は,賃貸借を解除することができない(最二判昭28・9・25民集7巻9号979頁)。ただし,賃借地の無断転貸を賃貸人に対する「背信行為と認めるに足りないとする特段の事情」は,その存在を賃借人において主張・立証すべきである(最一判昭41・1・27民集20巻1号136頁)。
民法612条の無断譲渡・転貸に関して,判例が,背信的行為と認めるに足りない「特段の事情」として挙げているものは,以下の通りである。
なお,賃借権の無断譲渡について,信頼関係破壊に至っていないとして,解除が否定される場合に,賃貸人,賃借人(譲渡人),譲受人三者の関係はどうなるか,すなわち,承諾のある譲渡があったと同様に賃借人(譲渡人)が賃貸借契約から離脱することになるか否かが問題となる。
判例は,賃貸人,賃借人(譲渡人),譲受人間の関係は承諾のある譲渡の場合と何ら異なるところはないとして,これを肯定する。転貸の場合も,承諾のある転貸と異なるところはないと解してよい。
借地権の譲渡・転貸が賃貸人に不利とならないのに,賃貸人が承諾を与えないときは,借地権者は,賃貸人の承諾に代わる裁判所の許可を求めることができる(借地借家法19条1項)。
借地借家法 第19条(土地の賃借権の譲渡又は転貸の許可)
@借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合において,その第三者が賃借権を取得し,又は転借をしても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず,借地権設定者がその賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは,裁判所は,借地権者の申立てにより,借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。この場合において,当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは,賃借権の譲渡若しくは転貸を条件とする借地条件の変更を命じ,又はその許可を財産上の給付に係らしめることができる。
借地について賃貸人が賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは,地上建物を譲り受けた第三者は,賃貸人に対して建物買取請求権を有する(借地借家法14条)。
民法612条の賃貸人の解除権について,以下の問に答えなさい。
第612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
@賃借人は,賃貸人の承諾を得なければ,その賃借権を譲り渡し,又は賃借物を転貸することができない。
A賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは,賃貸人は,契約の解除をすることができる。
民法612条2項によると,賃貸人(甲)と賃借人(乙)とが賃貸契約締結している場合に,民法612条1項の規定に反して,乙が第三者(丙)に賃借物の使用または収益をさせた場合には,甲は賃貸借契約を解除することができることになる。
そこで,土地の賃貸人甲が賃借人乙に対して,民法612条2項に基づき賃貸借契約を解除して土地の返還を求める訴えを起した場合,甲と乙とが主張立証しなければならない要件は,以下のようになると説明されている[司法研修所・要件事実2(1992)88-92頁]。
三(一) 土地の賃貸人甲が賃借人乙に対して,民法612条2項に基づき賃貸借契約を解除して土地の返還を求める場合,甲は,請求原因として,以下のことを主張立証しなければならない。
- 甲と乙とが当該土地について賃貸借契約を締結したこと
- 甲が乙に対し,1.の契約に基づいてその土地を引き渡したこと
- 〔A〕乙と丙とが1.の契約に基づく乙の賃借権について売買契約を締結したこと
又は
〔B〕乙と丙とがその土地について賃貸借契約を締結したこと- 丙が3.の契約に基づいてその土地の引渡しを受け,これを使用収益したこと
- 甲が乙に対し,1.の契約を解除する旨の意思表示をしたこと
法文の規定する要件は,賃借人が「前項の規定に反し」,「第三者に賃借物を使用収益させた」ことであるから,賃貸人甲に解除権が認められるためには,まず「前項の規定に反し」の要件事実として,乙が(a)賃貸人の承諾を得ずに,(b)丙に賃借権を譲渡し,又は賃借物を転貸したこと,が必要であるようにみえる。しかし,このうち(a)については,賃貸人の承諾を得たことが賃借人の抗弁になると解される(二(一)参照)から,(b)の賃借権譲渡又は転貸(3.の契約締結)の事実で足りる。
二(一) 土地の所有者甲が土地を占有している丙に対して所有権に基づいて土地の明渡しを請求している場合に,丙が,乙から甲乙間の賃貸借契約に基づく賃借権を買い受け,又は有償で賃借物の転貸を受けた者であるときは,丙は,賃借権又は転借権の抗弁として,以下のことを主張立証することができる。
- 甲と乙とが当該土地について賃貸借契約を締結したこと
- 甲が乙に対し,1の契約に基づいてその土地を引き渡したこと
- 〔A〕乙と丙とが一の契約に基づく乙の賃借権について売買契約を締結したこと
又は
〔B〕乙と丙とが右土地について賃貸借契約を締結したこと- 乙が丙に対し,3の契約に基づいてその土地を引き渡したこと
- 甲が乙又は丙に対し,3について承諾の意思表示をしたこと
丙が所有者甲に対して右土地の占有権原を主張立証するためには,単に3.,4.の事実を主張立証しただけでは不十分であり,丙が承継的に取得した賃借権が1.,2.に基づくものであること,又は丙が承継的に取得した賃借権が1.,2.に基づく乙の賃借権(使用収益権能)に基づくものであること,すなわち,甲が関与した1.,2.の事実があることも主張立証しなければならない(なお,このことは,丙が甲所有地上の乙所有建物の賃借人として右土地を占有している場合,すなわち,前記のとおり丙が土地の転借人とはならないと解される場合でも,同様である。)。
さらに,丙が取得した賃借権を甲に対して主張するためには,本条に基づき,5.の承諾があったことを主張立証すべきである(大判昭10・10・12評論24民1027頁,大判昭13・5・12判決全集5巻11号29頁等)。このことは本条1項の規定の形式からは必ずしも明確ではないが,規定の趣旨や本条2項の規定との均衡,立証の難易及び公平の理念の要求等にかんがみ,5.の承諾があったことの主張立証責任は譲受人又は転借人に帰属すると解するのが相当であることによる(我妻・前掲四五六頁,村上博巳・証明責任の研究〔新版〕262頁)。
賃貸人甲が三(一)の5.の契約解除の効果を主張するためには,甲が3.について本条1項の承諾をしていないことは要件ではない。前述と同様の理由(二(一)参照)で,解除の効果を否定する賃借人乙が甲の承諾があった事実について主張立証責任を負う。
したがって,乙は,三(一)の請求原因に対し,抗弁として,
甲が5.に先立って,乙又は丙に対し,3.について承諾の意思表示をしたこと
を主張立証することができる。請求原因において3.の契約締結の主張立証を不要とする考え方を採る場合は,乙が丙に賃借物を使用収益させることについて甲が承諾の意思表示をしたことが抗弁となろう(承諾の意義が若干異なることになる。)。
また,判例は,賃借人が賃貸人の承諾なしに第三者に賃借物を使用収益させたときでも「賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情」があるときは,賃貸人は賃貸借契約を解除することができないとしている(最判昭28・9・25民集7巻9号979頁,最判昭30・9・22民集9巻10号1294頁〔86〕,最判昭31・5・8民集10巻5号475頁〔26〕,最判昭39・11・19民集18巻9号1900頁〔103〕,最判昭40・9・21民集19巻6号1550頁〔65〕等)から,乙は,右承諾の抗弁に代えて,
乙が丙に賃借物を使用収益させたことについて甲に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があること
を基礎づける事実
を主張立証することができる(主張立証責任につき,前掲最判昭41・1・27)。この「特段の事情」は非背信性の評価根拠となる具体的事実であり,これに対する非背信性の評価障害となる具体的事実は再抗弁となる。
問1 賃貸人(甲)が,賃借人(乙)の第三者(丙)への無断譲渡・転貸を理由に,民法612条2項に基づいて,甲乙間の賃貸借契約を解除し,乙に対して土地の返還請求を求めるための要件として,[司法研修所・民事訴訟の要件事実2(1992)89頁]は,賃貸人が無断譲渡・転貸について主張立証するのではなく,「賃貸人の承諾を得たことが賃借人の抗弁になると解される」としている。そして,その理由として,土地を占有している丙に対して,甲が所有権に基づいて土地の明渡しを請求している場合の丙の抗弁に関して,「丙が取得した賃借権を甲に対して主張するためには,本条に基づき,5.の承諾があったことを主張立証すべきである」ことを根拠としている。
ところで,甲の乙に対する土地明渡請求の適用条文と,甲の丙に対する土地明渡請求の適用条文とは,同じであろうか,異なるのであろうか。違うとした場合に,なぜ,同じように扱うことができるのであろうか。
問2 甲が賃貸借契約ではなく,所有権に基づいて,丙に対して土地の明渡しを請求している場合に,丙は,転貸借が適法である,すなわち,賃貸人の承諾を得ているということを抗弁として主張しなければならないのだろうか。たとえ,乙丙間の転貸借が,甲の承諾を得ていない違法なものであるとしても,転貸借契約自体は有効である。確かに,判例によれば,賃貸人は,契約を解除することなく,転借人に対して明渡しを請求できるとしているが(最二判昭26・4・27民集5巻5号325頁),通説によれば,賃貸人は,甲乙間の賃貸借契約を解除しない限り,丙に対しては,乙に土地を明渡せという請求ができるにとどまり,甲に直接土地を明渡せと請求することはできないとしている。以上の点を考慮しつつ,甲の明け渡し請求に対する丙の抗弁として,甲乙間に有効な賃貸借契約と転貸借が存在しており,そもそも,甲には,土地の明渡しを請求する根拠がないことを言えば十分なのか,それとも,丙の抗弁としては,賃貸人の承諾を得ているということまで主張立証しなければならないのか,理由を付して答えなさい。
問3 判例法理を考慮した場合,民法612条2項の契約解除の要件は,無断譲渡・転貸なのか,それとも,賃貸人の承諾が,解除の障害要件となっているのか。さらには,当事者間の信頼関係を破壊するような背信的行為が契約解除の要件となっているのか,それとも,背信的行為と認めるに足りない特段の事由が,契約解除の障害要件となっているのか,根拠を示して答えなさい。
問4 以上の考察をふまえて,民法612条2項の実体法上の要件は何なのか,「無断譲渡・転貸」と「背信的行為と認めるに足りない特段の事由」との関係を明らかにしつつ,答えなさい。
賃借人が賃貸人の承諾を得て賃借権を譲渡したときは,譲渡人は賃借人たる地位から離脱し,譲受人が賃借人たる地位を承継する。賃貸人の承諾を得て転貸をしたときは,通説によれば,賃貸人,賃借人(転貸人),転借人間に次のような関係を生ずる。
しかし,このような考え方は,民法613条の立法意思を無視した見解であり,賛成できない。民法613条は,フランスで発達した直接訴権(債権者代位権の進化系)を導入したものだからである。
賃貸人(A)と賃借人(B)との関係と賃借人・転貸人(B)と転借人(C)との関係は,通説とは異なり,別個独立の関係ではなく,相互に密接に関連している(例えば,Bの数ヶ月にわたる賃料不払いが背信行為と認められ,かつ,転借人も賃貸人の直接請求に応じない場合に,Aが賃貸借契約を解除すると,Bの転貸借契約も効力を失うことについては,争いがないが,このことは,賃貸借契約と転貸借契約とが密接に関連していることを示している)。
民法613条のAのCに対する直接の権利(γ)は,あくまで,債権者代位権の進化系に過ぎないのであって,AがBに対して有している債権(α)を保全する範囲で,BがCに対して有している権利(β)をAが独占的・排他的に利用できる権利に他ならない。CがAの請求に応じて弁済を行い,γが履行によって消滅すると,AB間の権利(α)もBC間の権利(β)も同時に消滅するのは,まさに,ABと,BCの関係とが独立の関係でないことを示している。また,民法613条2項がAのCに対する直接の権利にもかかわらず,AがBに対する権利の行使を妨げないとしているのは,当然の規定ではなく(わが国の民法は当然の規定をわざわざ規定しない),AがCに対して権利を行使すれば,AのBに対する権利(α)は,本来は,(代物)弁済によって消滅すべきところ(債権執行の場合には,民事執行法160条にしたがって,αは消滅する)を,賃貸人を保護するために,Bを連帯保証人として履行の責任を負わせたものであると解すべきである(α債務の連帯保証への転換)。
第613条(転貸の効果)
@賃借人が適法に賃借物を転貸したときは,転借人は,賃貸人に対して直接に義務を負う。この場合においては,賃料の前払をもって賃貸人に対抗することができない。
A前項の規定は,賃貸人が賃借人に対してその権利を行使することを妨げない。
民法613条の直接訴権の要件と効果は以下のように解すべきである。
民法613条の直接請求権の構造 |
賃借人(転貸人)の賃借権が賃貸借期間の満了,賃借人(転貸人)の債務不履行による解除によって消滅したときは,転借人は賃貸人に対して転借権を主張することはできない(なお,建物転貸借がされている場合で,期間の満了又は解約申入れによって終了する場合につき,借地借家法34条)。
借地借家法 第34条(建物賃貸借終了の場合における転借人の保護)
@建物の転貸借がされている場合において,建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了するときは,建物の賃貸人は,建物の転借人にその旨の通知をしなければ,その終了を建物の転借人に対抗することができない。
A建物の賃貸人が前項の通知をしたときは,建物の転貸借は,その通知がされた日から6月を経過することによって終了する。
賃貸借の終了によって転貸借は当然にその効力を失うものではないが,賃借権の消滅の結果,転貸人としての義務に履行不能を生じ,よって転貸借は賃貸借の終了と同時に終了するからである。
この点については,近時,最高裁は,履行不能の時期を後にずらし,賃貸人が転借人に対して目的物の返還を請求した時であるとし,「賃貸借契約が転貸人の債務不履行を理由とする解除により終了した場合,賃貸人の承諾のある転貸借は,原則として,賃貸人が転借人に対して目的物の返還を請求した時に,転貸人の転借人に対する債務の履行不能により終了すると解するのが相当である。」とする。
しかし,一般論としては,この判決の法理は,転借人の意思を無視して,すなわち,転借人の解除の意思表示を媒介させることなしに,転貸借契約を不当に早期に終了させる側面を持っており,事案の特殊性を無視して,この法理を一般化させることは非常に危険である。なぜなら,転借人は,賃貸人から直接に明渡しの請求を受けて,はじめて,賃借人の賃料不払いを知るという事態が往々にしてあり,そのような場合には,本判決の法理に従って転貸借契約を早期かつ自動的に終了させてしまうことは妥当ではないからである。
一般論としては,そのような場合には,転貸借契約を,「賃貸人が転借人に対して目的物の返還を請求した時に」自動的に終了させるのではなく,ひとまず転貸借契約は存続するとすべきである。その上で,賃貸人からの直接請求を民法613条の法理によって制限し,かつ,上で述べた民法576条の法理によって転貸人からの転借料請求を拒絶しつつ,賃貸人と転借人との直接交渉によって,新たな賃貸借契約を締結するという機会を転借人に与えるべきである。
転貸借契約の終了は,新たな契約が締結されたときに,転借人からの賃貸人に対する解除権の行使によって,または,不幸にも,新たな契約交渉が不能となった場合には,賃借目的物の賃貸人への返還という事実によって,終了することになると解するのが相当である[加賀山・判批・適法転貸借の帰趨(1998)46頁]。
なお,賃借人の債務不履行の場合に,賃貸人は転借人にまで催告をする必要はないとされている。
しかし,民法545条の法理を転借人の保護のために活用するのであれば,賃貸借契約の解除が第三者である転借人に対抗できるためには,賃貸人から転借人に対する適切な催告が必要であると解すべきであろう。
第545条(解除の効果)
@当事者の一方がその解除権を行使したときは,各当事者は,その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし,第三者の権利を害することはできない。
賃借人(転貸人)が賃借権を放棄し,又は賃貸人と合意解除しても,原則として転借人に対抗できない(大判昭9・3・7民集13巻278頁)とされている。
このことは,民法545条の契約の解除は,「第三者の権利を害することはできない。」という意味を考える上でも参考になると思われる。
不動産ごとに建物の賃貸借契約締結の際に,賃借人から賃貸人に「敷金」と呼ばれる金銭を支払う例が多く見られる。民法には,敷金について明文規定がないが,その存在を前提として,若干の効果に関する規定を置いている(民法316条,619条2項)。
第316条(不動産賃貸の先取特権の被担保債権の範囲)
賃貸人は,敷金を受け取っている場合には,その敷金で弁済を受けない債権の部分についてのみ先取特権を有する。
第619条(賃貸借の更新の推定等)
@賃貸借の期間が満了した後賃借人が賃借物の使用又は収益を継続する場合において,賃貸人がこれを知りながら異議を述べないときは,従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものと推定する。この場合において,各当事者は,第617条の規定により解約の申入れをすることができる。
A従前の賃貸借について当事者が担保を供していたときは,その担保は,期間の満了によって消滅する。ただし,敷金については,この限りでない。
そこで,敷金の法的性質については,慣習の分析を通じ検討されてきたが,判例,学説は概ね次のように解している。
賃貸借が継続している間に,賃借人が賃料の支払いを怠ったときは賃貸人は敷金をこれに充当してもよいが(大判昭5・3・10民集9巻253頁),充当する義務はない(賃借人の方から,充当を請求することはできない)。したがって,延滞賃料の全額を請求することもできる。
なお,敷金の返還請求権は,賃借人が家屋を明け渡した後に発生するものであり,賃借人の敷金返還請求権と賃貸人の家屋明渡請求権とは,同時履行の関係に立たないというのが判例の立場である。
敷金契約は賃貸借契約に従たる契約であり,本契約である賃貸借に付従し随伴する。したがって賃貸人が交替した場合には,旧賃貸人から新賃貸人への敷金の引渡しの有無を間わず,敷金返還義務は当然に新賃貸人に承継され,賃借人は新賃貸人に対し,賃貸借終了の際に敷金の返還請求権を有する(大判昭11・11・27民集15巻2110頁)。
これに対して,賃借人の交代の場合には,敷金関係は承継されないとするのが,判例の立場である。
賃貸借契約の際に賃借人から賃貸人に交付される金銭は,敷金のほかに,権利金,礼金などがある。これらは,敷金とは異なって,いずれも原則として返還を予定しないものである。そのほか,ビルやマンションなどの賃貸借で交付される保証金(「建設協力金」はその一例である)は,契約終了時の返還が予定されている場合が多い。
権利金の性質は,多種多様であるが,通常3種に大別される。
いずれにせよ,権利金は,敷金と異なり,賃貸借終了の際,当然に返還されるものではなく,特別の場合を除き,原則として返還されない。また,敷金と異なり,賃貸人変更の場合に当然承継されるものでもない。
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