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第49回 組合,終身定期金

作成:2006年9月16日

講師:明治学院大学法科大学院教授 加賀山 茂
書記:竹内 貴康,藤本 望 編集:深川 裕佳


講義のねらい


組合


組合の目的


組合は,数人の者がそれぞれ出資して共同事業を営むことを約する契約である(民法667条1項)。

第667条(組合契約)
@組合契約は,各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することによって,その効力を生ずる。
A出資は,労務をその目的とすることができる。

この組合契約によって設立される団体も組合という。共同事業は,営利目的のものでも,公益(非営利)を目的とするものでも,親睦を目的とするものでもよい。事業は必ずしも継続性を必要とせず,一時的なものでもよい。「共同」事業であることを要するから,事業利益はすべての組合員が享受するものでなければならず,組合員の一部だけが利益を得るような組合は,民法上の組合ではない。しかし,損失の分担をしない組合員があることは許される(大判明44・12・26民録17輯916頁)。

出資は,その種類,性質,数量に制限がなく,財産的価値があればなんでもよい。したがって,財産はもちろん労務又は信用であってもよい(民法667条2項)。出資は組合員全員によってなされなければならない。各組合員が出資義務を負うことは組合成立の要件だからである。出資の額は組合員の持分計算その他利益分配,損失分担の割合算出の基礎となる(民法674条)。

第674条(組合員の損益分配の割合)
@当事者が損益分配の割合を定めなかったときは,その割合は,各組合員の出資の価額に応じて定める。
A利益又は損失についてのみ分配の割合を定めたときは,その割合は,利益及び損失に共通であるものと推定する。

組合の団体性


組合は共同事業を営む目的のために二人以上の当事者が結合しているものだから,広義の団体の一種である。しかし,その団体性は,社団より弱く,構成員(組合員)の個性が相対的に強く現われる団体的結合である。組合の団体性は,団体の業務執行,財産関係などの団体的活動とその基礎である結合組織について,社団と対比する場合,次のような特質をもっている。

組合組織に関して,各組合員は任意に脱退できる(民法678条)。他の組合員の一致の合意で正当の事由に基づき除名できる(民法680条)。さらに組合への加入も,全組合員の一致の合意があることを要するとされ,成員の個々の意思を重視している。

業務執行に関しては,組合員は全員が業務の執行権を有する(民法670条1項)。また,組合常務については各組合員が専行する権限を有し,その限りで組合代理権をもっている(民法670条3項)から,多数決原理を基本とする社団に比して,組合員の個人性が大である。

財産関係においては,組合員は組合財産の上に持分権を有する(民法668条)。もとより,この持分権は各種の制限(民法676条,677条)に服しているので,組合財産にもある程度の独立性がみられるが,社団の構成員が社団財産に対して持分権も管理権ももたず,社団財産の独立性が強いことに比較すれば,より弱いのである。

民法上の組合と同種及び異種の団体

組合の名称を付するものでありながら,民法上の組合の実質を備えないものがある。また,組合の名をもって呼ばれないが,民法上の組合とその実質の変わらないものがある。

社団法人・会社設立のための発起人組合は民法上の組合であるが,商法上の匿名組合(商法535条-542条)はまったく団体性がないので組合ではない。労働組合,森林組合,各種協同組合は法人格をもち実質は社団であるから民法上の組合ではない。

理念的組合 社団法人

これに対し,商法上の合名会社,合資会社は法人格があるが,その実質は組合であるから,内部関係についても組合の規定の準用がある(商法68〔合名会社における組合に関する民法の規定の準用〕,147条〔合資会社における合名会社の規定の準用〕)。

頼母子,無尽といわれる講にも組合と解されるものが多い。鉱業法上の共同鉱業権者,共同鉱業出願人の間には組合関係があるものと擬制されている(鉱業法44条5項〔共同鉱業権者は組合契約をしたものとみなす〕,23条5項〔共同鉱業出願人は,組合契約をしたものとみなす〕)。


法的性質


組合契約は,諾成・有償・双務契約であるとするのが通説であるが,組合設立行為は,典型的な双務契約である売買などと異なり,契約ではなく,社団の設立行為と同様の合同行為と解すべきであるとの見解も有力である。

組合設立行為の特殊性から,同時履行の抗弁権(民法533条),危険負担(民法534条〜536条),解除(540条以下)の各規定の適用が問題となるが,組合の性質に反しないように適用が排除ないし制限される。


組合の業務執行


対内的執行


全組合員による業務執行

業務は原則として全組合員により執行される。業務執行の意思決定は,組合の常務を除いて全組合員の過半数によってなされる(民法670条1項)。決議の表決権は全員平等に一票であって出資の割合によらない。ただし,出資の割合による旨の特約も有効であると解されている。

第670条(業務の執行の方法)
@組合の業務の執行は,組合員の過半数で決する。
A前項の業務の執行は,組合契約でこれを委任した者(次項において「業務執行者」という。)が数人あるときは,その過半数で決する。
B組合の常務は,前2項の規定にかかわらず,各組合員又は各業務執行者が単独で行うことができる。ただし,その完了前に他の組合員又は業務執行者が異議を述べたときは,この限りでない。

組合の常務は各組合員が専行することができる(民法670条3項本文)。常務とは,組合の共同目的によって異なるが,例えば商品販売組合の場合には,通常の広告,仕入れ,販売などがこれに当たる。常務でも,その結了前に他の組合員又は業務執行者が異議を述べたときは,専行することができなくなる(民法670条3項ただし書き)。この場合には過半数の同意が必要となる。

組合の業務を執行する組合員と他の組合員との間は委任に類似するから,善管注意義務その他受任者と同様の権利義務がある(民法671条)。

第671条(委任の規定の準用)
第644条から第650条までの規定は,組合の業務を執行する組合員について準用する。
業務執行組合員による業務執行

組合契約(全員の合意)又は組合員の過半数による決定で一部の組合員(業務執行組合員)に業務執行を委任した場合,業務は例外として業務執行組合員によって執行される(民法670条2項)。業務執行の意思決定は,業務執行組合員が数人あるときは,その過半数で決定する(民法670条2項)。ただし,組合の常務については各業務執行組合員が専行することができるが(民法670条3項本文),その結了前に他の業務執行組合員が異議を述べたときは,原則にもどり業務執行組合員の過半数で決定しなければならない(民法670条3項ただし書き)。業務執行組合員と他の組合員との関係は,全組合員が業務を執行する場合における他の組合員に対する法律関係と同様である(民法671条)。業務執行組合員の辞任,解任並びに業務執行を他に委任した組合員の業務及び財産状況の検査権について特別規定がある(民法672条,673条)。

第672条(業務執行組合員の辞任及び解任)
@組合契約で1人又は数人の組合員に業務の執行を委任したときは,その組合員は,正当な事由がなければ,辞任することができない。
A前項の組合員は,正当な事由がある場合に限り,他の組合員の一致によって解任することができる。
第673条(組合員の組合の業務及び財産状況に関する検査)
各組合員は,組合の業務を執行する権利を有しないときであっても,その業務及び組合財産の状況を検査することができる。

対外的執行


組合の対外的業務執行の形式

組合は法人格がなく,複数人の契約的結合体として構成されているので,組合の対外的関係は,原則として組合員会員の名でする法律行為によってか,又は業務執行組合員若しくは一部組合員が他の組合員を代理して行わなければならない。前者の業務執行形式は実際的に不便であるため,後者の組合代理方式によることが多い。

組合代理

代理の形式による組合の対外的業務執行は,授権行為によって代理権を与えられた者によってなされる。代理権授与行為は理論上独立してなされ得るが,実際には組合契約上で行われるのが普通である。そして,組合契約では業務執行組合員を定める場合と,そうでない場合とがあるから,組合代理も,それぞれについて考察されなければならない。

業務執行組合員が定められていない場合

この場合には,組合の常務に属する事項であれば,各組合員が組合全体に効果の及ぶような行為も単独でできる(民法670条3項)。しかし,常務以外の事項については,学説上争いがある。判例は,670条1項を適用して全組合員の過半数の同意がなければ代理権が生じないし(大判明40・6・13民録13輯648頁),過半数の組合員によって組合を代理することができる(最二判昭35・12・9民集14巻13号2994頁)としている。この要件を欠く場合,無権代理であるが,行為の相手方は表見代理の規定(民法110条)によって保護される余地がある。

業務執行組合員が定められている場合

この場合には,原則として各業務執行組合員は対外的に他の組合員全員を代理する権限を与えられているものと解される。

組合代理の方式は,各組合員が代理行為をする場合も,業務執行組合員が組合のために代理行為をする場合も,代理の規定に従い本人である組合員全員の名においてしなければならない(民法99条1項)。しかし,本人をどのように表示する方式は,実際不便であることも少なくなく,取引の円渦を欠く結果となる。特に,組合の手形行為については,組合員多数の場合実際上手形行為を否定するに等しい。そこで,組合はある程度の団体性を有するものであるから,組合員会員を表示しなくても「A組合代理人(代表者・理事・総代)B」と表示すれば,その全員のための代理行為となると解されている。

なお,組合の対外的業務執行を,業務執行組合員自身の名で行う権限,又は業務執行組合員に組合の権利義務を自己の名で管理する権限を与えることによって行うことも可能である。


組合の訴訟当事者能力


組合は民法上の権利能力なき社団ではない。そのため,有力説は訴訟当事者能力(民訴法29条)はないとするが,判例は,代表者の定めのある組合は訴訟当事者能力を有するとする。

なお,業務執行組合員が,組合規約に基づき,自己の名で組合財産を管現し,対外的業務を執行し,訴訟を追行する権限を与えられている場合には,組合財産に関する訴訟につき,自己の名で訴訟を追行できる。


組合の財産関係


組合財産の内容

組合財産は組合員各自の財産と区別され,積極財産と消極財産(債務)とがある。

組合の積極財産

共有の性質

民法は,組合の積極財産は総組合員の共有とする(民法668条)。しかし,組合財産は,組合の共同目的のために拘束され,以下に述べるような制限を伴うものであるから,性質上は合有である。

ただ,社団財産(社員の持分権・財産管理権を原則的に否定)ほど独立性は強くなく,持分その他原則として共有の規定の適用を受ける,いわば制限的な合有である。

組合財産に関する制限規定

組合財産につき,原則として共有理論を適用すべきものとしても,次のような制限がある。

@分割請求の禁止

組合員は清算前に組合財産の分割を請求できない(民法676条2項)。

第676条(組合員の持分の処分及び組合財産の分割)
A組合員は,清算前に組合財産の分割を求めることができない。
A持分の処分の制限

組合員は組合財産に属する個々の財産の持分を処分できるが,他の組合員全員及び組合と取引した第三者に対抗できない(民法676条1項)。

第676条(組合員の持分の処分及び組合財産の分割)
@組合員は,組合財産についてその持分を処分したときは,その処分をもって組合及び組合と取引をした第三者に対抗することができない。

ただし,処分は制限されていても,組合財産に対する妨害排除請求及びその返還請求は,持分権に基づき単独でできる。

B組合債務者の相殺制限

@Aは,分割あるいは持分処分により組合財産としての意義を失わさせ,組合事業の遂行に支障を来たすことのないようにするためであり,このことは,組合の有する債権についても同様であり,各組合員は組合債権の一部であっても自己単独の権利として行使することはできず(大判昭13・2・12民集17巻132頁),多数当事者の債権に関する原則の適用はない。

また,組合員個人の債務のために組合債権(財産)が減少することを避けるため,組合債務者が組合に対する債務と自分が個々の組合員に対して有する債権とを相殺することは禁止される(民法677条)。

第677条(組合の債務者による相殺の禁止)
組合の債務者は,その債務と組合員に対する債権とを相殺することができない。

組合の債務

組合の債務も,組合員全員に合有的に帰属する。可分給付を内容とする債務でも,数額的に分割されることはなく,全額として全組合員に帰属する(組合財産が引き当てとなる)。すなわち,組合債務は本来組合財産で弁済されるべきものである。

しかし,これと並んで各組合員は,個人財産を引き当てとする個人的責任を負担する(各組合員の負担する責任の割合は,組合契約などにより決まるが,債権者が知らないときは均等である一675)。したがって,組合財産を引き当てとする合有的債務と,各組合員の個人的財産を引き当てとする分割的債務(無限責任)とがあることになる。債権者は,組合自体に請求してもよいし,組合員個人に請求してもよく,後者は前者の補充的責任ではない。

損益分配

組合事業によって得た利益や損失は,組合財産を構成し,総組合員の共有(合有)に属するが,組合内部においては,利益は各組合員に分配され,損失も各組合員が分担することとなる。損益分配の割合は特約があればこれに従うが,特約がないときは出資の価額に応じて定める(民法674条1項)。利益又は損失の一方だけについて分配の割合を定めたときは,その割合は利益と損失の双方に共通のものであると推定される(民法674条2項)。

第674条(組合員の損益分配の割合)
@当事者が損益分配の割合を定めなかったときは,その割合は,各組合員の出資の価額に応じて定める。
A利益又は損失についてのみ分配の割合を定めたときは,その割合は,利益及び損失に共通であるものと推定する。

組合員の変動


加入

加入については民法に規定がない。組合の契約性を強調するときは,従来の契約当事者が脱退したり新組合員が加入したりすると,組合の同一性が失われるはずであるが,民法は脱退により組合員が減少しても従来の組合契約の存続すること(組合の同一性)を認める(民法678-681条)。したがって,加入も同様に認められると解されている。加入の方式は,新加入者と従前の組合員全員の間の加入契約である。新加入組合員は,加入契約の時点から組合員としての権利義務を取得する。加入組合員も加入後に生じた組合債務につき無制限の責任を負うが,加入前の組合債務については原則として出資額相当の有限責任を負うにとどまる。

脱退

脱退原因

脱退とは,組合員のうち一部の者が組合の同一性を害することなく組合員たる資格を失うことである。脱退原因には二種ある。

@任意脱退は,脱退しようとする組合員から他の組合員会員に対する一方的意思表示(相手方ある単独行為)によってなされる。任意脱退は,組合契約をもって組合の存続期間を定めなかったとき,又は一部組合員の終身間組合が存続することを定めたときには,いつもできる(民法678条1項本文)。ただし,やむを得ない事由がある場合を除き,「組合に不利な時期」には脱退できない(民法678条1項ただし書き)。組合の存続期間を定めてあるときでも,やむを得ない事由があるときは脱退できる(民法678条2項)。

第678条(組合員の脱退1)
@組合契約で組合の存続期間を定めなかったとき,又はある組合員の終身の間組合が存続すべきことを定めたときは,各組合員は,いつでも脱退することができる。ただし,やむを得ない事由がある場合を除き,組合に不利な時期に脱退することができない。
A組合の存続期間を定めた場合であっても,各組合員は,やむを得ない事由があるときは,脱退することができる。

A非任意脱退は,組合員の死亡,破産,後見開始の審判,除名の場合である(民法679条)。

第679条〔組合員の脱退2〕
前条の場合のほか,組合員は,次に掲げる事由によって脱退する。 
 一 死亡 
 二 破産手続開始の決定を受けたこと。 
 三 後見開始の審判を受けたこと。 
 四 除名

組合員の除名は,正当な除名事由が存在し,他の全組合員が除名に同意して除名決議をすることによって効力を生ずる(民法680条本文)。なお,被除名者の保護のために,被除名組合員に対しその旨通知することを対抗要件としている(民法680条ただし書き)。

第680条(組合員の除名)
組合員の除名は,正当な事由がある場合に限り,他の組合員の一致によってすることができる。ただし,除名した組合員にその旨を通知しなければ,これをもってその組合員に対抗することができない。
脱退の効果

脱退により当該組合員は将来に向って組合員たる地位を失う(民法684条,620条)。脱退組合員と組合の間の財産関係の管理は次のようになる。

@脱退組合員は,脱退前に生じた組合債務については,その債務が組合の弁済その他の事由によって消滅するまでは,脱退前と同様に個人財産による責任を負う。

A脱退組合員の持分価額の算定は原則として脱退当時の組合財産の状況を基準とするが(民法681条1項),脱退当時まだ結了していない取引事項に限って,その結了の時を標準とする(民法681条3項)。脱退組合員の持分は,その組合員の出資の種類を問わず金銭をもってこれを払い戻すことができる(民法681条2項)。ただし,出資した物自体を払戻しの一部又は全部に当てることはさしつかえない。

第681条(脱退した組合員の持分の払戻し)
@脱退した組合員と他の組合員との間の計算は,脱退の時における組合財産の状況に従ってしなければならない。
A脱退した組合員の持分は,その出資の種類を問わず,金銭で払い戻すことができる。
B脱退の時にまだ完了していない事項については,その完了後に計算をすることができる。

B脱退があっても,組合は,残存組合員のみにより,同一性を保って存続する。


組合の解散及び清算


解散

組合は解散によって終了する。解散事由は,以下の通りである。解散の効果は遡及しない(民法684条)。

  1. 組合の目的である事業の成功又は成功の不能が確定した場合(民法682条)
  2. 経済界の事情の変更,組合の財産状態,組合員間の不和などによってやむを得ない事由があるときに,各組合員のだれかから解散請求がされた場合(民法683条)
  3. 存続期間が満了し,又は組合契約で定められた解散事由が発生した場合
  4. 総組合員の同意があった場合
  5. 組合員が1人となった場合

清算

解散した組合の財産関係の整理として行われるもので法人の清算に類似する。清算事務担当者及びその選任方法(民法685条),清算事務執行の方法(民法686条),清算人の職務権限,その辞任・解任,残余財産の分割方法(民法687条,688条)などの定めがある。

第685条(組合の清算及び清算人の選任)
@組合が解散したときは,清算は,総組合員が共同して,又はその選任した清算人がこれをする。
A清算人の選任は,総組合員の過半数で決する。
第686条(清算人の業務の執行の方法)
第670条〔業務の執行の方法〕の規定は,清算人が数人ある場合について準用する。
第687条(組合員である清算人の辞任及び解任)
第672条〔業務執行組合員の辞任及び解任〕の規定は,組合契約で組合員の中から清算人を選任した場合について準用する。
第688条(清算人の職務及び権限並びに残余財産の分割方法)
@第78条〔法人の精算人〕の規定は,清算人の職務及び権限について準用する。
A残余財産は,各組合員の出資の価額に応じて分割する。

組合と未来家族


夫婦財産制の歴史と現行法の問題点

現行民法762条(法定夫婦財産制)の前身である民法旧規定807条は,主として無能力者となる妻を保護するため,妻(又は入夫)が婚姻前から有している財産及び婚姻中に自己の名で取得した財産は,妻(入夫)の特有財産とすると規定していた。戦後の民法の大改正で,妻(入夫)を保護する規定を形式的に男女平等にすることを通じて,主婦が大半を占めていた状況においては,結果的には,婚姻中にその名義で財産を取得する夫のみを保護する規定へと変容してしまったことに注目すべきである。

現行民法

第762条(夫婦間における財産の帰属)
@夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は,その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。
A夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は,その共有に属するものと推定する。

民法旧規定

第748条 家族カ自己ノ名ニ於テ得タル財産ハ其特有財産トス
2 戸主又ハ家族ノ孰レニ属スルカ分明ナラサル財産ハ戸主ノ財産ト推定ス
第807条 妻又ハ入夫カ婚姻前ヨリ有セル財産及ヒ婚姻中自己ノ名ニ於テ得タル財産ハ其特有財産トス
2 夫婦ノ孰レニ属スルカ分明ナラサル財産ハ夫又ハ女戸主ノ財産ト推定ス

夫婦財産と組合契約との関係

現行民法762条の規定によると,夫婦財産とは名ばかりで,ほとんど夫の財産となってしまう弊害を除去するため,最近では,夫婦財産を一種の組合財産と考えるべきではないかとの主張がなされるに至っている。内田貴『民法W(親族・家族)』東京大学出版会(2002年)40頁には,以下のような記述がある。

夫婦の財産を無理に共有と捉えることはせず,それぞれの特有財産を認めたうえで,夫婦を組合的に考えて,一種の組合財産(特別財産)が形成されていると見るのである。確かに共稼ぎの夫婦の場合,お互いの収入の一部を出し合って家計を支え,あとは自分の収入で自分の物を買うとすると,家庭はあたかも組合のような存在になる。
家庭共同体は,このような団体法的観点から理解した方が,個人主義的原理で見るより実体に適しているようにも思える。
もし,夫婦財産を組合的に捉えるなら,婚姻後の夫婦の収入のうち婚姻費用に当てられる部分は,共同の事業(婚姻生活)のための出資分ということになる。収入のない妻や家事を兼業をする妻の家事労働分は,労務による出資ということになろう。こうして,両者の特有財産とは区別された組合財産が形成される。これは,物権法的にいえば「合有」であるから,持分の勝手な処分はできない。まさに,組合員による組合財産の持分処分が組合および組合と取引をなした第三者に対抗できないと定める676条のような処理になる。
組合員の処分行為の相手方は,94条2項(不動産の場合)や192条(動産の場合)で保護されるだけである。外国には,住宅のような夫婦の財産の主要部分を一方配偶者が単独では有効に処分できないとしているところもある(フランス)。立法論としては婚姻共同体の特殊性からそのような立場も考えられよう。
そして,民法上の組合は清算の際には出資額に応じて払い戻しがなされるが(688条2項),婚姻共同体の場合は,その特殊性からこれを半々と推定する規定を設けることが考えられよう。
新しい夫婦財産制度 新しい家族の理念型
新しい家族の基本理念
憲法 第24条
@婚姻は,両性の合意のみに基いて成立し,夫婦が同等の権利を有することを基本として,相互の協力により,維持されなければならない。
A配偶者の選択,財産権,相続,住居の選定,離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては,法律は,個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して,制定されなければならない。
婚姻の効力
第750条(夫婦の氏) 改正私案
夫婦は,婚姻の際に定めるところに従い,夫又は妻の氏を称することができる
第752条(同居,協力及び扶助の義務) 改正私案
夫婦は,同等の権利を有することを基本として,同居し,互いに協力し扶助しなければならない。
夫婦財産
第760条(婚姻費用の分担) 改正私案
夫婦は,その資産,収入その他一切の事情を考慮して,婚姻から生ずる費用を平等に分担する。
第762条(夫婦間における財産の帰属)改正私案
@夫婦が共用する財産は,夫婦の共有とする。
A一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は,その特有財産とする。ただし,その者が,その財産を夫婦の共用に供したときは,この限りでない。
B夫婦のいずれに属するか明かでない財産は,その共有に属するものと推定する。
C夫婦財産に関しては,民法249条以下の共有の規定のほか,民法667条以下の組合の規定を準用する

終身定期金


終身定期金の目的と性質

終身定期金契約は,当事者の一方が,自己,相手方又は第三者の死亡に至るまで,定期に反覆して金銭その他の物を相手方又は第三者に給付することを約する無償または有償の諾成契約である(民法689条)。

第689条(終身定期金契約)
終身定期金契約は,当事者の一方が,自己,相手方又は第三者の死亡に至るまで,定期に金銭その他の物を相手方又は第三者に給付することを約することによって,その効力を生ずる。

終身定期金の典型例は,甲(定期金債権者)が自己の不動産を乙(定期金義務者)に譲渡し,乙が当該不動産を運用して得る収益の中から甲が死亡するまで,定期金を与えることを約するというものである。この場合,甲から乙への不動産の譲渡が対価となっており,したがって,終身定期金契約は有償契約であることが原則である(例えば,民法691条(終身定期金契約の解除)は,有償の場合を想定している)。しかし,例外的に,終身定期金を支払うべき期間が自己の死亡までとされる場合は,報恩目的のことが多く,無償契約の場合もありうる。反対に,終身定期金を支払うべき期間が,相手方又は第三者の死亡までとされる場合は,原則どおり,相手方又は第三者の老後の生活を保障する目的である場合が多い。

終身定期金においては,乙が支払うべき定期金の総額がいくらになるかは,甲が何歳まで生きるかどうかにかかっている。甲が長生きすると,定期金の支払総額は高額になり,乙は大きな負担を負うことになる,逆に,甲が早死にすると,定期金の支払総額は低額にとどまり,乙は予想外の利益を得る。このように,終身定期金においては,給付内容が偶然に左右されるため,射倖契約の一つとされている[大村・基本民法U(2003)82頁]。ただし,多数の契約者を相手にして終身定期金を事業として行う場合には,生命保険契約の場合と同様,大数の法則により,定期金支払総額の期待値を予測することが可能となる。したがって,その場合には,契約の射倖性は弱まり,債務の履行を安定的に行うことが可能となる。

ところで,わが国では,終身定期金契約と同じ目的の各種の年金制度(国民年金,厚生年金,共済組合年金)は広く行われているが,終身定期金契約はほとんど行われていない。その理由の一つは,家制度の名残りともいえるものである。財産を親から受け継いだ人の意識としては,その財産は,「家」の財産であり,実子または養子にその財産を承継させ,それらの者に自己の老後を託そうとする傾向が強い。したがって,生前に自己の財産の全部または大部分を他人に譲り,その者から年金(定期金)得て,安楽に余生を送ろうとする者は少ないからである[梅・民法要義(3)829頁]。

しかし,「家」意識が次第に薄れていき,かつ,核家族化と高齢化が進展する近未来においては,終身定期金も,立法者が予測していた通り,わが国においても,活用されるようになるかもしれない。すでに,一部の自治体(首都圏と大阪圏の16の自治体など)では,高齢者から不動産を(担保として)譲り受けて,対価(または貸金)として定期金を支払うという制度が運用され始めている(リバース・モーゲージ)。もっとも,不動産価格の下落により,その運用は必ずしも順調ではないようである。

なお,年金については,特別法(国民年金法,厚生年金保険法,各種の共済組合法,)や普通契約約款が適用され,民法の規定は事実上排除されている。

死亡が生じた場合の定期金の計算

第690条(終身定期金の計算)
終身定期金は,日割りで計算する。

定期金債務者の債務不履行と定期金債権者の救済

第691条(終身定期金契約の解除)
@終身定期金債務者が終身定期金の元本を受領した場合において,その終身定期金の給付を怠り,又はその他の義務を履行しないときは,相手方は,元本の返還を請求することができる。この場合において,相手方は,既に受け取った終身定期金の中からその元本の利息を控除した残額を終身定期金債務者に返還しなければならない。
A前項の規定は,損害賠償の請求を妨げない。
第692条(終身定期金契約の解除と同時履行)
第533条〔同時履行の抗弁権〕の規定は,前条の場合について準用する。
第693条(終身定期金債権の存続の宣告)
@終身定期金債務者の責めに帰すべき事由によって第689条〔終身定期金契約〕に規定する死亡が生じたときは,裁判所は,終身定期金債権者又はその相続人の請求により,終身定期金債権が相当の期間存続することを宣告することができる。
A前項の規定は,第691条〔終身定期金契約の解除〕の権利の行使を妨げない。

定期金債権の遺贈

第694条(終身定期金の遺贈)
この節〔終身定期金〕の規定は,終身定期金の遺贈について準用する。

参考文献


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フリチョフ・ハフト著/服部高宏訳『レトリック流交渉術』木鐸社(1993)
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斎藤精一郎『ゼミナール現代金融入門』〔第3版〕日本経済新聞社(1995)
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香西泰他監修『日本経済事典』日本経済新聞社(1996)
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平野裕之『契約法(債権法講義案U)』信山社(1996)
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法務創造研究所『研修教材・債権法U〔第5版〕』(1997)
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[横山・手付(1998)]
横山美夏「民法775条(手付)」広中俊雄・星野英一編『民法典の百年V』有斐閣(1998)309頁
[石田喜久夫・消費者民法(1998)]
石田喜久夫『消費者民法のすすめ』法律文化社(1998)
[民法判例百選U(2001)]
星野英一,平井宜雄,能見善久編『民法判例百選U』〔第5版〕(2001)
[大村・基本民法U(2003)82頁]
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[曽野他訳・UNIDROIT契約法原則(2004)]
曽野和明,廣瀬久和,内田貴,曽野裕夫訳『UNIDROIT(ユニドロワ)国際商事契約原則』商事法務(2004)

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