日本の家族と民法
−「全人格が無条件で肯定的に受け入れられる場」という視点からの「家族法の再構築」をめざして−
作成:2004年4月6日
名古屋大学大学院法学研究科教授 加賀山 茂
はじめに
日本の家族を知るために,どんな本を読めばよいかと尋ねられたら,私は躊躇することなく,[ベネディクト・菊と刀(1972)]を読むことを薦める。戦前の日本の家族の実態が,文化人類学的な観点から,「報恩」,「義理」,「人情」等のキーワードを通じて徹底的に分析されており,今なお,日本人のものの考え方の源流を最もよく理解できる最高級の書物だからである。その第3章に,日本の家族を知る上で,最も重要な手がかりとなる,以下のような記述(59-60頁)が見られる。
アメリカでは,われわれがわれわれの家族のふところに戻ってきた時には,形式的な礼儀は一切脱ぎ捨ててしまう。ところが,日本では礼儀作法が学ばれ,細心の注意をもって履行されるのは,まさに家庭においてである。
母親は,嬰児を背中に縛りつけて歩いているうちから,自分の手で嬰児の頭を下げさせておじぎをすることを教える。そして,子供がよちよち歩きするころに,まず最初に教えられることは,父親や兄に対する礼儀を守ることである。妻は夫に頭を下げ,子供は父親に頭を下げ,弟は兄に頭を下げ,女の子は年齢を問わずその男兄弟のすべてに頭を下げる。
それは決して無内容な身振りではない。それは,頭を下げる人間が,本当は自分で勝手に処理したいと考える事柄において,相手が意のままふるまう権利を承認し,受礼者の方は受礼者の方でまた,その地位に当然ふりかかってくる何らかの責任を承認することを意味する。性別と世代の区別と長子相続権とに立脚した階層制度が家庭生活の根幹になっている。
戦前の日本の家庭で以上のような躾が厳格に行われていた真の意味は,明治31年(1898年)民法に,以下のように,家督相続の順位として,明文で規定されていた。
第970条 被相続人ノ家族タル直系卑属ハ左ノ規定ニ従ヒ家督相続人ト為ル
一 親等ノ異ナリタル者ノ間ニ在リテハ其近キ者ヲ先ニス
二 親等ノ同シキ者ノ問ニ在リテハ男ヲ先ニス
三 親等ノ同シキ男又ハ女ノ間ニ在リテハ嫡出子ヲ先ニス
四 親等ノ同シキ者ノ間ニ在リテハ女ト雖モ嫡出子及ヒ庶子ヲ先ニス〔昭和17法7本号改正〕
<昭和一七法七による改正前の条文>
四 親等ノ同シキ嫡出子,庶子及ヒ私生子ノ間ニ在リテハ嫡出子及ヒ庶子ハ女ト雖モ之ヲ私生子ヨリ先ニス
五 前四号ニ掲ケタル事項ニ付キ相同シキ者ノ間ニ在リテハ年長者ヲ先ニス
2 第836条〔準正〕ノ規定ニ依リ又ハ養子縁組ニ因リテ嫡出子タル身分ヲ取得シタル者ハ家督相続ニ付テハ其嫡出子タル身分ヲ取得シタル時ニ生マレタルモノト看倣ス
戦後,日本国憲法の制定に基づき,民法の大改正を通じて,家制度が廃止され,家督相続も廃止されたにもかかわらず,今なお,少なからぬ家庭で,男性優先(男尊女卑)・年長者優先の礼儀作法が躾として実施されている。
「家」制度は廃止されたのであるから,家族法を学習するに際して,今さら「家」制度を学ぶ必要があるのだろうかという疑問が生じるかもしれない。確かに,現行民法の規定は,「家」制度のうち戸主による家族の支配,家督相続制度という「家」制度の根幹部分を削除してはいる。しかし,そのような「家」制度のバックボーンである男尊女卑・年長者優先の考え方が民法から完全に取り除かれたわけではない。以下に詳しく検討するように,現行民法にも,現行戸籍法にも,「家」制度の名残りが,存在しているのであり,現行法の諸規定のうち,どの規定に「家」制度の名残りが存在するのか,なぜ,そのような規定が廃止されずに残されているのかを検討するためには,「家」制度とはどのような制度であったのかを知る必要がある。
家族法の学習を始めるに際して,少なくとも,明治民法には,「家族」の定義があり,それが,「家」制度の根本思想に裏付けられていたために,現行法では,「家族」の定義も含めて,家族という用語自体が削除されたという事実は認識しておく必要があろう。つまり,日本の家族を知ろうとすれば,「家」制度が廃止されたたために「家族」の定義自体を欠くにいたった現行民法ではなく,「家族」の定義を有していた明治31年民法にさかのぼってその内容を知る必要があるのである。
明治民法を理解することによって,はじめて,日本の社会に今なお根強く残っている,男女差別,年長者優遇,非嫡出子差別等のいわれのない差別の源や,今なお結婚式や結婚披露宴で使われている「ご両家」という言葉の意味も,背景知識を含めて,正確に知ることができるであろう。
T 明治民法の「家」制度が日本の家族に及ぼした影響
日本の家族は,明治31年(1898年)民法を通じて,戸主(家長)による統制的な組織へと変容した。明治31年民法の特色は,以下の通りである。
1 家制度
憲法24条および現行民法によって廃止された「家」制度の概要は,以下の通りである。この制度に基づいて,婚姻,離婚,その他の家族制度が構成されていた。
- 家は,戸主(家長)とその家族によって構成される(旧732条)。家族は家長である戸主の命令・監督に服する。その反面,戸主は,家族を扶養する義務を負う(旧747条)。
- 報恩(親孝行・忠君など)という儒教的な道徳思想(「忠孝一如」の国民道徳)がこの体制を支えてきた[我妻・親族法(1961)5頁]
。
- 家制度が廃止された後も,親孝行な人の意識は,「人生の大切な局面においては親の意見に逆らうべきでない」というものであり,現在でも,その意識はあまり変わっていない。
- 現行民法にも,親(被相続人)は,自分のことを棚にあげて,親不孝(厳密には,被相続人に対する虐待もしくは重大な侮辱,または,その他の著しい非行)を行った子(推定相続人)に対して,相続人資格(遺留分権を含む)をすべて剥奪することを家庭裁判所に請求できるとの規定が残されている(民法892条【推定相続人の廃除】)。
- もっとも,判例は,「父がその子を非道に待遇した場合に,その子の非行を誘発するようになった場合は,廃除権は常に生じるものではない(大判大15・6・2評論16巻民44頁)。
」として,親の非と子の非との間でバランスを取ろうとしている。しかし,親の子(娘)に対する接し方に問題があったために子が非行に走り,親の意に沿わない婚姻をした場合に,子が勝手に親の名を使って披露宴の通知をしたことは「重大な侮辱」に当たるとして,親が子を廃除することを認めるという判決(東京高判平4・12・11判時1448号130頁[家族法判例百選〔第6版〕(2002)第51事件])が,今なお,下されているのが現状である。
- 親は,子を個人として,全人格をそのままに尊重すべきであって,親孝行な子か親不孝な子かで区別し,前者は尊重するが,後者は廃除するという態度に出るべきではないし,親にそのような権能を与えるべきではない。したがって,民法892条以下の推定相続人の廃除の規定は,削除するか,少なくとも,根本的な見直しが必要である。
- 家の名を氏といい,戸主および家族は,すべて同一の氏を称する(旧746条)。
- このことが戸籍を通じて国民に周知・徹底された。
- 家制度が廃止されても,戸籍の実態はあまり変わっていない。戸籍は,依然として,氏を同じくする人のみで編成されている。大家族を認めてきた戸を核家族として再編し,戸主を戸籍筆頭者と変更したに過ぎない[榊原・女性と戸籍(1992)128頁以下]。
- 戸主の地位は,家督相続によって,以下の順序に従って,継承される(旧970条)。
- 戸主の直系卑属のうち,親等の最も近い者が優先
- 親等が同じ場合は,男が女に優先
- 親等が同じ男,親等が同じ女の場合には,嫡出子が非嫡出子に優先
- 親等の同じ嫡出子,庶子(父が認知した子),私生子の間では,女であっても,嫡出子,庶子が優先
- すべて同じ場合には,年長者が優先
- 家督相続を定めるこの順序は,社会に投影され,男尊女卑,長子・年長者優先,非嫡出子差別の考え方が,日本社会に深く根づくことになった。
- 家制度が廃止された後も,戸籍を通じて,戸籍筆頭者とその他の家族との区別,長男・長女と第二子との区別,嫡出子と非嫡出子との区別が,今なお残されており,これらの差別が根深く続いている[なくそう婚外子・女性への差別(2004)]。
2 婚姻
家制度の下で,婚姻・離婚は,以下のようにコントロールされており,婚姻によって妻となった女は,愛という名の無償労働を強いられただけでなく,原則として家督相続権は認められず(旧970条,例外として旧982条参照),遺産相続権についても子がいない場合にのみ認められたに過ぎない(旧996条)。それにもかかわらず,妻には,過酷な「嫁」の義務が課せられていた。たとえば,妻には,夫にはかせられていなかった厳格な貞操義務(旧813条2号)が課せられていた。さらに,扶養を受ける権利は,直系尊属,直系卑属についで第3位であるにもかかわらず(旧957条1項),扶養の義務だけは,直系卑属,直系尊属に優先して第1順位に位置づけられていた(旧955条1項)。
- 婚姻適齢は,男が17歳,女が15歳であった(旧765条)。
- 現行民法では,婚姻適齢は,男が18歳,女が16歳(民法731条)。
- 年齢が上がっただけで,男女差別は,現在も続いている。
- 婚姻は,家と家との契約であった。したがって,婚姻には,常に,家長である戸主の同意が必要とされた(旧750条)。さらに,男は30歳,女は25歳になるまでは,父母の同意も必要であった(旧772条1項)。
- 現行憲法により,「婚姻は,両性の合意のみに基いて成立し,夫婦が同等の権利を有することを基本として,相互の協力により,維持されなければならない。」(憲法24条)とされ,原則として,他人の同意は不要となった。ただし,未成年者の場合には,父母の(一方の)同意が必要とされている(民法737条)。
- ところが,現在でも,婚姻しようとするカップルは,事前に女の両親を訪ね,男が「お父さん,お嬢さんとの結婚をお許しください。」と口上を述べるのが慣習となっている。また,結婚式,披露宴では,「ご両家」という言葉が使われ,意識の上では,家制度の影響が現在もなお残っている。
- 婚姻によって妻は夫の家に入る(旧788条)。その結果,妻は氏を夫の家の氏に変更し,戸主と夫の支配と庇護の下に入る。
- 現行民法では,「夫婦は,婚姻の際に定めるところに従い,夫又は妻の氏を称する」(民法750条)といかにも男女平等であるかのように改正されているが,実態は,妻が夫の氏に変更することがほとんどである(約97パーセント)[二宮・家族法(1999)34頁]
。したがって,この条文の最後を,「夫又は妻の氏を称することができる」と改正し,夫婦同姓と夫婦別姓の両方を認めないと,実際の男女平等は実現されない。
- 民法が改正されたにもかかわらず,戸籍の仕組みはほとんど変わっていないため,現在でも,法律上の婚姻することを「籍に入る」と表現する人が多い。このように,多くの人は,今でも意識の上では,「妻は婚姻に因りて夫の家に入る(旧788条)」から脱していない。
- 婚姻届を出す場合,現状でも,妻が氏を変更して,夫が戸籍筆頭者となるのがほとんどであるが,妻が氏を変えて自分の戸籍に入り,自分が戸籍筆頭者になると,妻は自分に従属したものと考えるようになる夫も少なくない[榊原・女性と戸籍(1992)140-141頁]。このことが,夫の妻に対する「おまえ」呼ばわり,命令口調,言うことを聞かないといっては躾と称して振るわれる暴力を助長する結果をもたらしている。「”正式な結婚”(法律婚)は,妻に利益や幸福をもたらすものとしてのみ語られてきていた」が,実は,「『結婚』制度はドメスティック・バイオレンスの土壌」であり,「結婚制度は,夫が妻を性的奴隷にすることを認めるものだ」[夫(恋人)からの暴力調査研究会・ドメスティック・バイオレンス(2002)113頁以下]との主張がなされているゆえんである。
- 女は,婚姻によって無能力者となる。たとえ,女が婚姻前は成年として能力者であっても,妻となると,無能力者となってしまい,重要な法律行為をするには,常に夫の同意を得なければならない(旧14条〜18条)。
- この規定によって,既婚女性の社会参画が徹底的に阻害された。
- 現行民法では,妻も無能力の規定は削除され,妻も行為能力を取得して,この面での男女平等が実現した。
- しかし,現在でも,「夫は外で稼ぎ,妻は家で家事・育児に従事するもの」といった性別による役割分業(性別役割強制)の考え方が根強く残っており,既婚女性の社会参画には,高いハードルが立ちはだかっている[角田・性差別と暴力(2002)47頁以下] 。
- 夫婦財産については,夫婦財産契約も認められていたが,ほとんど利用されず,法定夫婦財産制によって規律されていた。その規定によると,夫が妻の財産を管理する(旧801条)ともに,婚姻より生ずる一切の負担は夫が負担する(旧798条)。また,妻(又は入夫)を保護するため,妻(又は入夫)が婚姻以前から有する財産及び婚姻中自己の名において得た財産は,その特有財産とし,夫婦のいずれに属するか分明でない財産は夫(又は女戸主)の財産と推定する(旧807条)とされていた。
- 現行民法は,夫婦の平等を促進するため,婚姻から生じる費用は,夫婦が分担することにした(民法760条)。
- しかし,妻の保護の規定であった旧807条に関しては,不用意にも,機械的に「妻(又は入夫)」を「夫婦」へと,「夫又は女戸主の財産と推定する」を「夫婦の共有に属するものと推定する」と置き換えるだけという杜撰な改正をしてしまったため,妻の保護であった規定が,逆に,主婦の財産共有を認めず,夫婦財産を夫のみの財産とする逆転現象を引き起こしてしまっている(民法762条)。本来,共用に供されている財産は,名義のいかんを問わず,以下のように,夫婦の共有(組合的合有)[内田・民法W(2002)40頁参照]に属すると改正すべきだったのである。
- 第762条〔夫婦財産の共有原則,特有財産の例外〕 改正私案
夫婦が共用する財産は,夫婦の共有とする。
2 一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は,その特有財産とする。ただし,その者が,その財産を夫婦の共用に供したときは,この限りでない。
3 夫婦のいずれに属するか明かでない財産は,その共有に属するものと推定する。
4 夫婦財産に関しては,民法249条以下の共有の規定のほか,民法667条以下の組合の規定を準用する。
- 現行民法762条が採用した別産制の原則の不都合は,離婚の際の財産分与の規定(民法768条),並びに,相続の際の妻の相続分の拡大(民法900条),および,寄与分の規定(904条の2)によって,多少緩和されつつある。しかし,根本的な解決には至っていない。
- むしろ,わが国における夫婦の財産関係は,「婚姻継続中は別産であるが,婚姻解消時には共有であるかのような清算がなされる」[大村・家族法(2002)60頁]という,体系的には,分裂・破綻した状況に陥っている。
- 法律上,貞操義務を負うのは,妻だけであった。離婚原因も,「妻が姦通をなしたるとき」であり,夫が姦通してもそれだけでは離婚原因とはならなかった(旧813条2号)。夫の姦通が離婚原因となるのは,強姦をするなど,「夫が姦淫罪に因りて刑に処せられたるとき」のみである(旧813条3号)。また,貞操義務が刑法によって義務づけられていたのも妻だけである。すなわち,姦通罪で罰せられるのは,妻の側だけであった(旧刑法353条)。
- 民法770条により,不貞行為は,夫婦平等の離婚原因となった。また,刑法から,姦通罪の規定は削除された。
- しかし,現在でも,妻の浮気には厳しいが,夫の浮気は,「男の甲斐性」などといって,甘い評価がなされている。形骸化しつつある「貞操義務」違反を離婚原因と認めるのであれば,それよりも重大な問題であるドメスティック・バイオレンス(DV)こそが,以下のように独立の離婚原因として認められるべきである。
- 第770条 〔離婚原因〕 改正私案
1 夫婦の一方は,左の場合に,離婚の訴を提起することができる。 但し,婚姻を継続し難い重大な事由に該当しない特段の事情がある場合はこの限りでない。
一 配偶者に不貞な行為があつたとき。
一の二 配偶者から暴力を受けたとき。 ←配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(2001年)
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
二の二 配偶者が,第752条の規定に違反して,夫婦が同等の権利を有することを基本とした協力義務を履行しないとき。
二の三 配偶者が,第760条の規定に違反して,婚姻費用の分担義務を履行しないとき。
三 配偶者の生死が3年以上明かでないとき。
三の二 夫婦が5年以上別居している(継続して共同生活をしていない)とき。←民法改正要綱案
四 配偶者が強度の精神病にかかり,回復の見込がないとき。
2 前項各号に該当しない場合であっても,その他婚姻を継続し難い重大な事由があるときは,離婚の訴えを提起することができる。
- 夫の死亡,又は,夫との離婚によって婚姻が解消した場合,夫は,次の日から再婚が可能であるのに対して,妻だけは再婚するために,6ヶ月を経なければならない(旧767条)。
- この差別は,現行法でも改正されることなく残っている(民法733条)。
- 最高裁は,再婚禁止期間につき男女間に差異を設けた民法733条の趣旨は,父性の推定の重複を回避し,父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにある以上,合憲であるとしている(最三判平7・12・5判時1563号81頁[家族法判例百選〔第6版〕(2002)第3事件])。
- 民法改正要綱案も,期間を100日に短縮したものの,依然として,妻だけに再婚禁止期間を義務づけている。
- しかし,100日の再婚禁止期間の根拠は,嫡出推定期間の定め(民法772条)が,婚姻成立の日から200日,婚姻解消・取消の日から300日となっていることから,嫡出推定の重複を避けるために必要とされただけに過ぎない。しかし,両者の期間を200日と300日という異なる期間とする科学的根拠も,合理的な理由も存在しない。たとえば,嫡出推定期間を科学的な根拠を有する最短の150日と規定すれば,再婚禁止期間の根拠は完全に消滅する。いずれにせよ,このような男女差別的な規定である民法733条は削除すべきである。
- なお,[我妻・親族法(1961)31頁]も,今から約40年前に,「対婚期間という制限そのものを廃止するのが一層賢明であろう」と提言していた。
3 親子
家制度の下では,親子は,以下のように,支配・従属の関係にあり,子の権利は認められず,子の間で,男女・年齢等による差別が制度化されていた。
- 戸主は,戸主権を通じて家族を支配していた(旧749条〜751条)。また,夫は,夫権を通じて妻を支配し,さらに,親権を通じて子を支配する(旧877条)という支配の構造が貫徹していた。つまり女・子どもは支配と保護の対象であった。親権者は,原則として,父であり(旧877条1項),父が知れないとき,死亡したとき,家を去ったとき,または,親権を行うことができないときのみ,例外的に,母が親権を行使することができた(旧877条2項)。
- 現行民法においては,「成年に達しない子は,父母の親権に服する」(民法818条)として,父母の共同親権が原則とされた。しかし,非嫡出子の場合には,原則として母が単独親権者となる(819条3項)。たとえ,父が認知した場合でも,原則は,母が親権者であり,父母の協議で父とした場合には,父のみが親権者となるのであって(民法819条4項),いずれにしても,共同親権を実現することができない。さらに,嫡出子の場合であっても,父母が離婚した場合には,母か父かの単独親権へと逆戻りする(819条1項,2項,3項)。
- しかし,親権を子を支配するための道具と考えるのではなく,子の利益のために行使すべきものと考えるのであれば,両親がそろっている場合には,非嫡出子の場合であれ,両親が離婚した場合であれ,親権は,民法818条の原則に戻って,共同で行うのが望ましい。親権を共同で行使することによって,チェック・アンド・バランスが可能となり,親権の濫用が未然に防止できるだけでなく,親権の行使が子の利益を増進させる方向へと向くことがより一層期待できるからである。
- 共同親権を単独親権へと逆戻りさせる民法819条は,共同親権を保持するという観点から,根本的な見直しをする必要がある。
- 改正に際しては,フランスにおける離婚法の改正が参考になろう[松川・親族相続法(2004)68頁]。
- 子に対して,1987年の法律で,離婚後親権の共同行使を認める可能性を与え,1993年の法律で,離婚後の親権の共同行使の原則性を求めた(フランス民法287条)。→子にとって親の離婚は,あたかも親が別居しているに過ぎない状態となった。
- 子にとっては,親は離婚しても,あいかわらず「親」であり続け,できるかぎり,子に離婚の影響が少ないようにすべきと考えられたのである。また,1996年,離婚にあたって兄弟姉妹の不分離の権利が定められた(フランス民法371条の5)。
- 子は,成年になり,かつ,独立の生計が立てれるようになるまでは,親に服従するものとされ(旧877条),子どもの権利は認められていなかった。
- 現行民法においても,子の権利は,明確には規定されていない。
- 婚姻の届出から200日を経ないで出生した子は,嫡出推定を受けない(民法772条2項)。それにもかかわらず,夫婦の嫡出子としての届出が受理される。ところが,離婚後300日以内に出生した子は,再婚の後に出生した場合であっても,必ず,前の夫の戸籍に入ってしまう[榊原・女性と戸籍(1992)117-126頁]。そして,子には,前の夫の子ではないと主張する権利,すなわち,嫡出を否認する権利(民法774条)は与えられていない。父だけでなく,子にも,嫡出を否認する権利を与えるべきであり,親子関係存否確認の訴えとの関係の調整を含めて,民法773条〜778条は,削除を含めて,根本的な改正が必要である。
- 家督相続の順位に従って,子のうち,長男(推定家督相続人)だけが特権を有しており,子は平等には扱われなかった。
- 現行民法によって,共同相続人の均等相続(平等相続の原則)が実現された。
- しかし,現実には,遺言自由主義の隆盛によって,相続人間の平等は,瀕死の状態にあるというのが現実である[伊藤・相続法(2002)3頁以下]。
- 家制度の復活を思わせる,すべての財産を長男に相続させるという試みは,これまでにも,相続放棄の利用,遺産分割協議の利用などによってなされてきた。しかし,最近では,公証人よって考案され,法務省の登記実務に支えられ,最終的には,最高裁判決(最二判平3・4・19民集45巻4号477頁[家族法判例百選〔第6版〕(2002)第87事件] )によって追認された「相続させる」遺言という方法によって,相続放棄も遺産分割協議も必要とすることなく,即座に,被相続人の財産を長男だけに相続させるという方法が実務で定着しつつある。しかし,相続させる遺言といえども遺言である以上,,後の遺言によって書き換えられ,無効となっている可能性を否定できない。また,相続人間の公平性の見地からみて納得しがたいものがあったりするのであるから,遺言の早急な実現のみを追求するのは,やはり危険である。少なくとも当事者による遺産分割手続を経る必要がある[二宮・家族法(1999)288-291頁] ,[伊藤・相続法(2002)119-125頁]。
- 嫡出子と非嫡出子(庶子と私生子)とは,家督相続の順位でも差別され(旧970条),かつ,相続分についても,非嫡出子は嫡出子の2分の1であった(旧1004条)。
- 嫡出子と非嫡出子との間の差別は,現行法においても残されている(民法900条4号)。
- 最高裁は,少数意見があるものの,非嫡出子の相続分が,嫡出子の2分の1しかないことを合理的な区別であって,合憲であると判断している(最大決平7・7・5民集49巻7号1789頁[家族法判例百選〔第6版〕(2002)第56事件])。多数意見による判決理由は概ね以下の通りである。
- 民法が法律婚主義を採用した結果として,婚姻関係から出生した嫡出子と婚姻外の関係から出生した非嫡出子との区別が生じ,親子関係の成立などにつき異なった規律がされ,また,内縁の配偶者には他方の配偶者の相続が認められないなどの差異が生じても,それはやむを得ないところといわなければならない。
- しかし,もしも,最高裁の少数意見やわが国の通説のように,「非嫡出子に対する相続分差別に合理性がない」という判断が正しいとすれば,反対に,罪のない子に差別をもたらす原因,すなわち,民法が法律婚主義を採用していること自体が問題とされなければならない。
- 憲法にまでさかのぼって考えてみると,憲法は,その24条において,「婚姻は,両性の合意のみに基づいて成立する」と規定している。これに対して,現行民法は,その742条において,「婚姻は両性の合意のほか,届出がなければ不成立又は無効である」と規定している。条文を詳細に検討してみれば,法律婚主義の採用を宣言している民法739条および民法742条は,憲法24条に違反しており,憲法98条1項(「この憲法…の条規に反する法律,命令,詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は,その効力を有しない」)に基づき,婚姻は合意だけで成立するという部分を否定する限りで,すなわち,いわゆる事実婚(憲法婚)を無効とする限りで,その効力を有しないと解すべきである。
- つまり,民法739条および民法742条が憲法に違反して無効であるというときの無効の意味は,法律婚に関するすべての規定が無効となるのではなく,合意のみで成立するいわゆる事実婚(憲法婚)と法律婚とを区別し,法律婚だけを保護するという点が無効となると考えるべきである。すなわち,婚姻の規定の中で,事実婚と法律婚とで効力に差異をもうけず,事実婚にも等しく準用される規定のみが,憲法24条に違反しないものとして,かろうじて無効をまぬかれ,有効と判断されるということになる。結果として,法律婚であれ,事実婚であれ,「個人の尊厳と男女の対等性が保障されている限り,等しく尊重されるべきなのである([二宮・事実婚(2002)257頁]という考え方,および,「事実婚よりも法律婚を優遇する必要はない」[角田・性差別と暴力(2002)43頁以下]という考え方が肯定されることになる。
U 現行民法による「家」制度の廃止とその課題
1946年に成立した日本国憲法の第24条により,婚姻・離婚等の家族に関する法律は,個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されるべきことが示された。
第24条 婚姻は,両性の合意のみに基いて成立し,夫婦が同等の権利を有することを基本として,相互の協力により,維持されなければならない。
(2) 配偶者の選択,財産権,相続,住居の選定,離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては,法律は,個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して,制定されなければならない。
これに基づいて改正された現行民法は,明治時代以来の「家」制度を廃止して,個人を基礎に置き,男女の平等を徹底して実現しようとするものであった。
しかし,この改正は,ごく短期間で行われたため,今から見ると,不十分な箇所が随所に見られる。例えば,婚姻適齢,婚姻禁止期間における男女間の不平等が残ったままであり,主婦の場合,家族財産に対する共有も認められていない。また,非嫡出子の相続分が嫡出子の2分の1とする婚外子差別は,依然として残存している。さらに,別姓夫婦など,家族の多様性を認める制度も存在しない。
そこで,現行民法の親族・相続編の制定から50年を経過しようとする頃から,家族法の改正が論議されるようになった。1992年から開始された婚姻制度等に関する民法改正の作業は,1996年に「民法の一部を改正する法律案要綱」として結実するが,保守的な議員の抵抗にあって法案成立のめどは立っていない。しかし,この改正作業は,現行民法の親族・相続編に対する,従来の甘過ぎる評価を一変させた点で,大きな意味を持つ。
- 従来の現行民法の評価は,以下のようなものであった。
- 明治31年民法を全面改正したものであり,憲法24条等に謳われている個人の尊厳と男女の本質的平等がほぼ実現された。
- しかし,現実には,家制度に慣れ親しんだ国民の意識は,急には変わらず,家制度を温存する慣習が根強く残っている。
- 改正作業を通じて,現行民法の評価は,以下のように変化した。
- 1946年に民法の大改正がなされた当時,家制度を維持しようとする保守派が相当な勢力を持っており,改正に際しては,多くの妥協が必要であったため,現行民法には,なお,家意識や家父長意識を温存する規定が残されている。
- 現行民法には,憲法24条に反する,男女の本質的平等や個人の尊厳に反する規定,すなわち,男女差別(民法731条【婚姻適齢】)や婚外子差別(民法900条4号【相続分差別】)等が残されており,改正が必要である。
V 民法改正要綱案の概要とその限界
1996年2月26日に法制審議会が答申した民法改正要綱案は,女性の自立化の傾向を踏まえた上で,現行民法が,その第1条の2で掲げた「個人の尊厳と両性の本質的平等」の理想にさらに近づこうとする試みである。その特色は,以下の4点にある。
- 婚姻適齢の男女平等化
- 選択的夫婦別氏の導入
- 5年以上の婚姻の本旨に反する別居を裁判離婚の原因とする
- 婚外子の相続分差別の撤廃
この民法改正要綱案は,将来の民法のあり方を明確に示すものであり,重要な意味を有している。しかしながら,この改正案については,選択的夫婦別氏の導入をめぐって論議が起こり,選択的でも夫婦別氏を認めることは,「家族の崩壊を招く」とか,「家族の一体感が損なわれる」として強硬な反対にあって,いまだに実現されていない。
民法改正要綱案は,現行民法の親族・相続編(家族法)が憲法24条を十分に反映したものとなっていないことの反省の上に立って,国民の人生観・価値観の多様化を促進し,女子差別の撤廃,婚外子の相続分差別の撤廃などを目標として作成されたものである。
しかしながら,民法改正要綱案は,女だけに課せられた婚姻禁止期間を180日から100日に短縮はしたものの,結果的に女子差別を温存するなど,不徹底な側面を有している。また,家制度の残滓である戸籍を廃止し,個人登録簿へと変更するというような,個人の尊厳とプライバシーを尊重する提案にはなっていない。
おわりに
明治民法の家制度を廃止し,個人の尊厳と両性の本質的平等を実現するという目標で改正された現行民法には,「家族」という用語は存在しない[大村・家族法(2002)23頁]。「家」制度という封建的な制度を廃止するために,民法旧規定には存在した「戸主及ヒ家族」という章を用語を含めてすべて抹消してしまったため,家族に関する規定を欠いたままなのである。そして,民法改正要綱にも,家族をどのように定義するかの展望は示されていない。
確かに,「家」制度におけるような「戸主(家長)」と「家族」という封建的な関係は否定されるべきである。しかし,夫婦を核として,未成熟子を養育する目的を併せもったグループとしての「家族」という概念は,過去のものとして日本人の頭から消えてしまったわけではない。というのも,「国のかたち」を決めた憲法にも,日本の今後の社会形成に重要な意味をもつ男女共同参画社会基本法にも,さらには,臓器の移植に関する法律にも,「家族」という用語が,定義されることなく使われているからである。その点から見ても,民法が,「家」制度を廃止するためとはいえ,「家族」という言葉をその法文から抹殺してしまったことは,不幸なことであった。
現段階において,家族をどのようなものとして定義するかについて見解の統一が見られないとしても,家族概念の再構築に際しては,人間が生まれたときに,プラスやマイナスが評価されることなく,何の差別もなしに,全人格が肯定的に受容される人間関係の場が家族であったこと,そして,家族によって育てられ,やがて,自立できるようになった次世代の二人が,同じく,プラスやマイナスを問うことなく,全人格が肯定的に受け入れられる場として,すなわち,一緒にいるだけで理由なしに幸せと感じ,二人の心と体がともに癒される場として家族を再構築しているということに思いをいたすべきであろう。
民法旧規定の歴史を振り返りながら,憲法や男女共同参画社会基本法に謳われた「家族」という概念を,全く新しい観点から再構築することが今後の課題である。
その際に,ぜひとも留意しなければならないのは,明治31年(1898年)民法から昭和23年(1948年)の民法大改正にいたるまで,50年にわたって男尊女卑の法制度を形成・維持してきたことに関して,男性から女性への反省および謝罪並びに男女差別を解消するための特別の措置が必要ではないかという点である。明治民法は,妻に無能力を強要し(旧14条〜18条),妻にのみ貞操義務を課し(旧813条2号),さらに,妻の相続権を極端に制限しながら(旧982条,996条),妻の扶養義務だけは最大化してきた(旧955条)。つまり,妻をいわば奴隷化してきた。このことについて,そのような,いわば奴隷制を認めていた法律を廃止したからといって,それで済むと考えるべきではなかろう。
太平洋戦争に関して,日本国がアジア諸国に謝罪するかどうかが今もさかんに議論されているが,明治民法によって,男性中心の社会が女性の権利を奪ってきたことに対する女性への謝罪は問題とすらなっていない。婚姻適齢や,婚姻禁止期間に関して,今なお歴然とした男女差別が規定され(民法731条,733条),また,夫婦の氏(民法750条)や夫婦財産(民法762条)に関して,実質的に妻の権利が侵害されているのは,そのような反省と謝罪が行われていないからではないだろうか。過去の反省と謝罪からしか,差別の撤廃を含む新しい制度の構築は期しがたい。家族法の再構築に関しても,何らかの形で,立法者である国会を含めた社会全体の反省と謝罪,そしてそれを裏づける,積極的差別是正措置(Affirmative Action)を含めた,差別解消のための特別の措置が是非とも必要であると考える。
理解を深めるための課題
課題1:「家」制度の下においては,「家族」は,どのように定義されていたか。明治31年民法の条文を探してその意味を確実に理解しよう。
課題2:「家」制度とはどのような制度か。明治31年民法の条文のうちから2〜3条引用することによって,その概略を説明してみよう。
課題3:現行民法に「家族」の定義がない理由を歴史的経緯を踏まえて説明してみよう。
課題4:現行民法のうち,家制度の名残をとどめている条文を一定の基準に従って例示する。それぞれの条文について,どのような改正が必要か。民法改正要綱案を参照しながら,各自で検討してみよう。
- 条文自体に家制度の下で正当化されていた男尊女卑,長子(年長者)尊重等のように,個人の尊厳や男女の本質的平等に反する考え方がそのまま残っているもの
- 第731条【婚姻適齢】 … 男女差別
- 第733条【再婚禁止期間】 … 男女差別
- 第772条【嫡出推定の期間】 … 婚姻の成立から200日,解消から300日という今や科学的根拠を失った期間設定→再婚禁止期間の元凶
- 第822条【懲戒権】 … 子の権利に対する無配慮
- 第900条4号【非嫡出子の相続分】 … 嫡出かどうかによる子の差別
- 条文自体は,個人の尊厳・男女平等となるように改正されたにもかかわらず,実際の運用に際して,個人の尊厳に反したり,男女差別が生じているもの
- 第730条【親族間の互助】 … 義父・義母の介護を嫁に強要する結果へ
- 第750条【夫婦の氏】 … 97パーセントの妻が夫の氏へと改姓
- 第762条【特有財産,帰属不明財産の共有推定】 … 重要財産はほとんどすべて夫名義(虚偽表示)
- 第770条【離婚原因】 … DVが独立の離婚原因となっていない
- 第819条【離婚及び父が認知した場合の親権者】 … なぜ,共同親権から一方の単独親権へ移行しなければならないのか不明
- 第892条【推定相続人の廃除】 … 親不孝者の廃除
- 条文自体は差別的な規定ではないと思われてきたが,時代の変化に伴って改正が必要となったもの
- 第739条【婚姻の届出】 … 事実婚の効力との関係
- 第742条【婚姻の無効】 … 事実婚の効力との関係
- 第754条【夫婦間の契約の取消権】 … 夫の横暴を助成する結果へ
- 第766条【離婚後の子の監護】 … 面接交渉権の必要性
- 第827条【親権者の注意義務】 … 後見人の注意義務との差別
- 条文上は,男女平等であるにもかかわらず,判例(最二判昭37・4・27民集16巻7号1247頁[家族法判例百選〔第6版〕(2002)第27事件] や通説によって,男女不平等や個人の尊厳を害する解釈が実務で定着しているもの
- 第779条【父母の認知】⇔母の認知は不要(母子関係は分娩の事実によって定まる)→代理母出産の否定へ
課題5:自分にとって身近な(たとえば,自分・親戚・友人等の)家族の日常行動の中で,憲法24条にいわゆる「個人の尊厳」や「男女の本質的平等」に反すると思われるものに気づいたならば,それが,「家」制度を規定した明治31年民法によって正当化されるかどうかを検討してみよう(プライバシーにかかわることなので,自分の心の中だけで検討すれば足りる)。
参照条文
旧民法
第243条 戸主トハ一家ノ長ヲ謂ヒ
家族トハ戸主ノ配偶者及ヒ其家ニ在ル親族,姻族ヲ謂フ
2 戸主及ヒ家族ハ其家ノ氏ヲ称ス
民法旧規定
第732条 戸主ノ親族ニシテ其家ニ在ル者及ヒ其配偶者ハ之ヲ家族トス
2 戸主ノ変更アリタル場合ニ於テハ旧戸主及ヒ其家族ハ新戸主ノ家族トス
第813条 夫婦ノ一方ハ左ノ場合ニ限リ離婚ノ訴ヲ提起スルコトヲ得
一 配偶者カ重婚ヲ為シタルトキ
二 妻カ姦通ヲ為シタルトキ
三 夫カ姦淫罪ニ因リテ刑ニ処セラレタルトキ
四 配偶者カ偽造、賄賂、猥褻、窃盗、強盗、詐欺取財、受寄財物費消、賊物ニ関スル罪若クハ刑法第175条第260条ニ掲ケタル罪ニ因リテ軽罪以上ノ刑ニ処セラレ又ハ其他ノ罪ニ因リテ重禁錮3年以上ノ刑ニ処セラレタルト
五 配偶者ヨリ同居ニ堪ヘサル虐待又ハ重大ナル侮辱ヲ受ケタルトキ
六 配偶者ヨリ悪意ヲ以テ遺棄セラレタルトキ
七 配偶者ノ直系尊属ヨリ虐待又ハ重大ナル侮辱ヲ受ケタルトキ
八 配偶者カ自己ノ直系尊属ニ対シテ虐待ヲ為シ又ハ之ニ重大ナル侮辱ヲ加へタルトキ
九 配偶者ノ生死カ3年以上分明ナラサルトキ
十 婿養子縁組ノ場含ニ於テ離縁アリタルトキ又ハ養子カ家女ト婚姻ヲ為シタル場合ニ於テ離縁若クハ縁組ノ取消アリタルトキ
第970条 被相続人ノ家族タル直系卑属ハ左ノ規定ニ従ヒ家督相続人ト為ル
一 親等ノ異ナリタル者ノ間ニ在リテハ其近キ者ヲ先ニス
二 親等ノ同シキ者ノ問ニ在リテハ男ヲ先ニス
三 親等ノ同シキ男又ハ女ノ間ニ在リテハ嫡出子ヲ先ニス
四 親等ノ同シキ者ノ間ニ在リテハ女ト雖モ嫡出子及ヒ庶子ヲ先ニス〔昭和17法7本号改正〕
<昭和一七法七による改正前の条文>
四 親等ノ同シキ嫡出子,庶子及ヒ私生子ノ間ニ在リテハ嫡出子及ヒ庶子ハ女ト雖モ之ヲ私生子ヨリ先ニス
五 前四号ニ掲ケタル事項ニ付キ相同シキ者ノ間ニ在リテハ年長者ヲ先ニス
2 第836条〔準正〕ノ規定ニ依リ又ハ養子縁組ニ因リテ嫡出子タル身分ヲ取得シタル者ハ家督相続ニ付テハ其嫡出子タル身分ヲ取得シタル時ニ生マレタルモノト看倣ス
憲法
第24条 婚姻は,両性の合意のみに基いて成立し,夫婦が同等の権利を有することを基本として,相互の協力により,維持されなければならない。
2 配偶者の選択,財産権,相続,住居の選定,離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては,法律は,個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して,制定されなければならない。
民法(現行民法)
現行民法は,家制度を廃止するため,親族編の第2章「戸主及ヒ家族」,相続編の第1章「家督相続」の条文をすべて削除してしまった。
男女共同参画社会基本法
(家庭生活における活動と他の活動の両立)
第6条 男女共同参画社会の形成は,家族を構成する男女が,相互の協力と社会の支援の下に,子の養育,家族の介護その他の家庭生活における活動について家族の一員としての役割を円滑に果たし,かつ,当該活動以外の活動を行うことができるようにすることを旨として,行われなければならない。
臓器の移植に関する法律
(臓器の摘出)
第6条 医師は,死亡した者が生存中に臓器を移植術に使用されるために提供する意思を書面により表示している場合であって,その旨の告知を受けた遺族が当該臓器の摘出を拒まないとき又は遺族がないときは,この法律に基づき,移植術に使用されるための臓器を,死体(脳死した者の身体を含む。以下同じ。)から摘出することができる。
2 前項に規定する「脳死した者の身体」とは,その身体から移植術に使用されるための臓器が摘出されることとなる者であって脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止するに至ったと判定されたものの身体をいう。
3 臓器の摘出に係る前項の判定は,当該者が第一項に規定する意思の表示に併せて前項による判定に従う意思を書面により表示している場合であって,その旨の告知を受けたその者の家族が当該判定を拒まないとき又は家族がないときに限り,行うことができる。
4 臓器の摘出に係る第2項の判定は,これを的確に行うために必要な知識及び経験を有する2人以上の医師(当該判定がなされた場合に当該脳死した者の身体から臓器を摘出し,又は当該臓器を使用した移植術を行うこととなる医師を除く。)の一般に認められている医学的知見に基づき厚生労働省令で定めるところにより行う判断の一致によって,行われるものとする。
5 前項の規定により第2項の判定を行った医師は,厚生労働省令で定めるところにより,直ちに,当該判定が的確に行われたことを証する書面を作成しなければならない。
6 臓器の摘出に係る第2項の判定に基づいて脳死した者の身体から臓器を摘出しようとする医師は,あらかじめ,当該脳死した者の身体に係る前項の書面の交付を受けなければならない。
(平一一法一六〇・一部改正)
「『臓器の移植に関する法律』の適用に関する指針(ガイドライン)」(1997年10月8日)
- 臓器の提出の承諾に関して法に規定する「遺族」の範囲については,一般的,類型的に決まるものではなく,死亡した者の近親者の中から,個々の事案に即し,慣習や家族構成等に応じて判断すべきものであるが,原則として,配偶者,子,父母,孫,祖父母及び同居の親族の承諾を得るものとし,喪主又は祭祀主宰者となるべき者において,前記の「遺族」の総意を取りまとめるものとするのが適当である。ただし,前記の範囲以外の親族から臓器提供に対する異論が提出された場合には,その状況等を把握し,慎重に判断すること。
- 脳死の判定を行うことの承諾に関して法に規定する「家族」の範囲についても,上記「遺族」についての考え方に準じた取扱いを行うこと。
参考文献
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- ルース・ベネディクト,長谷川松治訳『菊と刀−日本文化の型』社会思想社(1972年)
Ruth Benedict, "The Chrysanthemum and the Sword - Patterns of Japanese Culture",1946
- [我妻・親族法(1961)]
- 我妻栄『親族法』〔法律学全集23〕有斐閣(1961)
- [榊原・女性と戸籍(1992)]
- 榊原富士子『女性と戸籍 夫婦別姓時代に向けて』明石書店(1992)
- [二宮・家族法(1999)]
- 二宮周平『家族法』新世社(1999年)
- [二宮・事実婚(2002)]
- 二宮周平『事実婚』〔叢書・民法総合判例研究〕一粒社(2002年)
- [大村・家族法(2002)]
- 大村敦志『家族法』〔第2版〕有斐閣(2002年)
- [家族法判例百選〔第6版〕(2002)]
- 別冊ジュリスト・家族法判例百選〔第6版〕有斐閣(2002年)
- [夫(恋人)からの暴力調査研究会・ドメスティック・バイオレンス(2002)]
- 「夫(恋人)からの暴力」調査研究会『ドメスティック・バイオレンス』〔新版〕有斐閣(2002)
- [角田・性差別と暴力(2002)]
- 角田由紀子『性差別と暴力 続・性の法律学』有斐閣(2002年)
- [内田・民法W(2002)]
- 内田貴『民法W(親族・相続)』東京大学出版会(2002年)
- [伊藤・相続法(2002)]
- 伊藤昌司『相続法』有斐閣(2002年)
- [松川・親族相続法(2004)]
- 松川正毅『民法 親族・相続』有斐閣アルマ(2004年)
- [なくそう婚外子・女性への差別(2004)]
- なくそう戸籍と婚外子差別・交流会編『なくそう婚外子・女性への差別 「家」「嫁」「性別役割」をこえて』明石書店(2004年)
- [NHK・日本人の意識構造(2004)]
- NHK放送文化研究所編『現代日本人の意識構造』〔第6版〕日本放送協会(2004)