第9回 離婚の考え方と実態

2004年5月11日

名古屋大学大学院法学研究科教授 加賀山 茂


離婚の実態に迫るため,離婚に関する統計をインターネットで調べてみよう。

厚生労働省のホームページの最新の統計資料(http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei01/ URL変更 →http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai04/kekka4.html )や2000年4月28日の報道発表資料( http://www1.mhlw.go.jp/toukei/rikon_8/ → http://www1.mhlw.go.jp/toukei-i/rikon_8/)に興味深い統計が記載されている。それらを参考にしながら,わが国の離婚の実態を垣間見ることにしよう。

上記の厚生労働省の報道発表資料で取り上げられている「人口動態統計特殊報告」の元となっている「人口動態統計」は,わが国の人口の動向を恒常的に調査するものであり,国勢調査とともに我が国の主要統計の一つとなっている。この調査は,明治5(1872)年に開始され,明治32年からは,現在の方法で調査が行われるようになり,出生・死亡・死産・婚姻・離婚の5種類の事象について,戸籍法等による各種届書を基にして調査している。この統計は,第二次世界大戦以前は,内閣統計局によって行なわれていたが,戦後,所管がが厚生省に移り,現在は,厚生労働省が引き継いでいる。そして,調査の結果は「人口動態統計」(年報)や「人口動態統計月報」として公表されている。

なお,「人口動態統計特殊報告」は,毎年テーマを変えて人口動態統計をより深く掘り下げ,解析したものであり,2000年4月28日に報道発表された「離婚に関する統計」は9年ぶり,3回目の刊行である。

さて,上記の厚生労働省の人口動態統計によれば,平成13年度の婚姻件数は,799,999件(婚姻率は6.4)である。これに対して,離婚件数は285,911件(離婚率は2.27)である。そうすると,わが国では,平成13年度には,40秒に1組が結婚し、2分に1組が離婚していたことになり,単純に計算すると,結婚したカップルの3組に1組は離婚するということになりそうである。

1 離婚件数および離婚率の推移

わが国の離婚率は、明治から昭和初期にかけて低下傾向で推移したが、昭和40年(1965年)代から上昇傾向となり、特に平成6年(1994年)以降は毎年最高値を更新している。そして,平成10(1998)年では離婚率は1.94(24万3000件)となり、明治32(1899)年以降最高となった。なお,離婚率は,その後も上昇の一途をたどっており,2002年では,2.31(29万2000件)まで上昇している。

離婚件数及び離婚率(人口千対)の年次推移 −明治32〜平成10年−
資料 : 昭和18年以前は内閣統計局「日本帝国統計年鑑第38回」及び「日本帝国人口動態統計」、
昭和22年以降は厚生省「人口動態統計」

2 離婚率の推移

2−1 全年齢による離婚率の推移

昭和25年以降の標準化有配偶離婚率(有配偶人口千対)をみると、昭和25年から低下し、40年を最低として、その後平成7年まで一貫して上昇した。また、最低となる昭和40年と平成7年を比較すると男女とも約4.6倍となっている。

  1. 既婚者における離婚率(標準化有配偶離婚率)は 4.6倍(最低は昭和40年)
  2. 人口千人当たりの離婚率は 2.2倍(最低は昭和38年)
標準化有配偶離婚率(有配偶人口千対)の年次推移
離婚率は,離婚件数を男女計の人口で除した率をいい,一般に離婚率として使用する場合は,この率をいう。
標準化有配偶離婚率は,既婚者(有配偶人口)に対する離婚率を,年齢構成によらないように,基準人口により修正したものであり,年齢構成の違いを意識せずに比較することができる。

2−2 年齢別離婚率の推移

世代(出生コーホート)別有配偶離婚率をみると,以下の特徴がある。

  1. 世代毎にみると,年齢が高くなるにつれ,有配偶離婚率が低下。
  2. 世代が若くなるにつれ,有配偶離婚率が上昇。

なお,ここでは,紙面の都合上,夫の有配偶者離婚率のみを掲げ,妻の有配偶者離婚率は省略した。

夫妻の別居時の年齢(10歳階級)別にみた有配偶離婚率(有配偶人口千対)の年次推移
出生コーホートとは,ある時期に出生した人を1つの集団としてとらえたものをいい,出生年で区分した「世代」と同じもの。これにより,世代間の差,同一世代毎の年次変化が見てとれる。

2−3 同居期間別に見た離婚

約50年前の昭和25年には,婚姻後「1年未満」で離婚したものの割合が17.2%、「5年未満」までが65.3%を占め、「5年以上10年未満」が18.0%、「10年以上」が16.7%であった。ところが,平成10年には「1年未満」が7.2%、「5年未満」までが38.8%と大幅に低下し、「5年以上10年未満」が22.1%、「10年以上」では39.1%と上昇している。

このように同居期間の短い「 5年未満」での離婚が減少し、「10年以上」の同居期間の長い離婚が増加する傾向にあり、特に「20年以上」は昭和25年では3.5%、50年では5.8%、平成10年では16.9%と5倍近く増加している。

同居期間別にみた離婚件数構成割合の年次比較 −昭和25・50・平成10年−

2−4 離婚率の国別比較

離婚率の国際比較については各国の社会制度などに違いがあるので比較が難しい面もあるが、ロシアの4.51、アメリカ合衆国の4.45などが高いグループに位置している。一方、低いのはイタリアの0.47、ユーゴスラビアの0.75、タイの0.90などである。わが国は1.60で中位よりやや低い水準に位置している。

主な国の離婚率(人口千対) −1995年−

3 離婚の種類

我が国の離婚に関する制度では、協議、調停、審判及び判決の4種類があるが、法律上の許可を必要とせずに、夫妻間の協議によって届出を行うだけで離婚が成立することとなる協議離婚が極めて多いことが特徴となっている。

3−1 離婚の種類と件数

最高裁判所では調停及び審判による離婚について、家事婚姻関係事件票により調査し、「司法統計年報 3 家事編」でその結果の公表をしている。判決による離婚については、民事・行政編で件数等の事項を報告している。

離婚総数と婚姻中の夫婦間の調停事件新受件数及び家裁の手を経た離婚件数の年次推移をみると以下のとおりである。調停新受件数及び家裁の手を経た離婚は近年、離婚総数のそれぞれ25%、10%程度であったが徐々に低下し、平成10年では21.9%、9.6%となっている。

離婚件数と婚姻中の夫婦間の調停事件新受件数及び家裁の手を経た離婚件数の年次推移

3−2 離婚の種類とその率

昭和25年には協議離婚の割合が95%を占めており、その後若干低下しているものの、平成10年では91%となっている。また、調停、審判及び判決などの離婚は9%以下となっている。

種類別にみた離婚件数構成割合の年次比較 −昭和25・50・平成10年−

3−3 親権者別にみた離婚件数構成割合

子の親権を夫または妻のどちらが行うか、その割合の年次推移をみると、以下の図のとおりである。昭和25年から40年までは、「夫が全児の親権を行う場合」の方が、「妻が全児の親権を行う場合」より多かった。これが41年に逆転し、「妻が全児の親権を行う場合」の方が年々多くなっており、平成10年では「妻が全児の親権を行う場合」79.2%、「夫が全児の親権を行う場合」16.5%となっている。

親権を行う者別にみた離婚件数構成割合の年次推移 −昭和25年〜平成10年−

4 離婚の原因

司法統計年報によると,離婚の申し立ての動機別割合をみると図のとおりである。平成10年では夫・妻ともに「性格が合わない」がそれぞれ64.0%、47.6%と最も多い。

離婚の申し立ての動機別割合 −平成10年−

5 離婚に伴う悩み

離婚により生じた悩み(複数回答)−厚生労働省・平成9年度人口動態社会経済面調査より−

課題


問1 人口動態統計が開始された明治32年以降,第二次世界大戦前まで,離婚率が減少している。現在の離婚率が増加の一途をたどっているのに対して,明治32年以降,離婚が減り続けたという現象は,かえって興味をそそる。この原因はいったい何であろうか。以下の事実を考慮しつつ検討しなさい。

ところで,インターネットに掲載されていないが,厚生省大臣官房統計情報部編『離婚統計−人口動態統計特殊報告』(1984年)によると,明治16(1883)年からの離婚率を知ることができる。それによると,明治民法典が施行される前と明治民法が施行(明治31(1898)年)された後で,離婚率は,急激に減少していることがわかる。
高木侃『三くだり半と縁切寺−江戸の離婚を読みなおす−』講談社(1992)39頁
離婚に関しては,明治31年を境にして,離婚に寛容だった江戸時代の慣習が破棄され,家制度の下で婚姻・離婚がコントロールされる明治時代へと突入したともいえよう。
厚生省のWebページで紹介されている離婚率の推移が,離婚率が急激に低下した直後の明治32年から開始されており,現在の離婚率が,明治時代より増加しているかのような印象を与えていることは,大きな問題である。明治初期の離婚率は,3.39であり,現在の離婚率の水準よりもはるかに高く,明治初期のわが国の離婚率を現在の世界の離婚率と対比してみると,ロシア,アメリカ合衆国に次ぐ,世界第3位の離婚率を有していたことを銘記すべきである。

問2 離婚の動機に関する資料を見て,(1)夫からの申立による離婚の動機,(2)妻からの申立による離婚の動機の2つに分類し,それぞれについて件数の多いもの順に整理した後,夫と妻で離婚の動機がどのように異なるかを分析してみなさい。

3 以上の分析の上に立って,離婚を回避することは可能か,どのようにすれば,回避可能かを考えてみよう。

問4 離婚しようと思い立った場合に,それを押しとどめようとする要因にはどのようなものがあるか。夫の側,妻の側におけるそれぞれの障害要因を列挙した後,それぞれの要因について分析しなさい。

問5 離婚原因と内縁の解消原因とで差があるかどうか,特に,当事者の一方が婚姻継続の意思を喪失した場合について検討しなさい。その後,最二判昭44・10・31民集23巻10号1894頁(今井利秀 vs. 今井富美江)を読み直し,無効とされた法律婚を有効な内縁(実質婚)と考えた場合に,原告の内縁解消の請求が認められるべきかどうかを検討しなさい。