第18回 生殖医療と親子関係

作成:2004年6月8日
名古屋大学大学院法学研究科教授 加賀山 茂


講義のねらい


「家」制度においては,妻(「嫁」)の重要な役割は,家の跡継ぎとしての推定家督相続人を出産することであった。妻(「嫁」)にとって,出産は,義務化されていたといってよい。現行民法のもとでは,「家」制度は廃止されたことになっており,子をもうけるかどうかは,夫婦の決定に委ねられており,子のいない家庭も家族のあり方として市民権を獲得しているように思われる。

しかしながら,現在においても,子供をもうけようと考えている夫婦が多数派であり,子供をもうけようと思っているにもかかわらず,子供に恵まれない夫婦にとって,その願いを実現できる生殖医療は,希望の星となっている。夫に不妊の原因がある場合の人工授精は,古くから行われてきたし,医療技術の発達に伴って,妻に不妊の原因がある場合の生殖医療としての体外受精も盛んに行われている(2003年6月19日の朝日新聞によれば,体外受精で生まれた子は,86年以降で約6万人。年々増える傾向にあるという)。

生殖医療のうち,夫が自分の精子を利用するAIHや,妻が自分の卵子を利用する体外受精の場合には,比較的問題が少ないが,夫以外の他人の精子を利用するAIDや,妻以外の他人の卵子を利用する体外受精の場合には,夫婦と卵子や精子提供者の間で,子供の認知をめぐるトラブルが生じる事態が続いている。また,妻自身の卵子を用いる場合でも,代理母を利用する場合には,卵子を提供した依頼者と子宮を提供した代理母との間で,どちらが法律上の母となるのかについて,民法の条文と通説・判例の見解に齟齬が生じており,問題は解決されていない。

そこで,この講義では,まず,第1に,これまで行われてきた生殖医療にはどのようなものがあり,法律的にはどのような取り扱いがなされてきたのかを確認することにする。そして,次に,夫以外の精子を用いるAIDが認められているのに,妻以外の卵子を用いる体外受精が日本産科婦人科学会の自主規制で禁止されていることをどのように考えるべきか。また,妻の卵子を用いる場合であっても,代理母が全面的に禁止されているのをどのように考えるべきかを検討する。そして,最後に,現在,法制審議会生殖補助医療親子法制部会で議論されている生殖医療と親子法に関する立法の動向について検討することにする。


設例と問題


以下の設例をよく読んで,問題1〜問題7の順序で作業を行い,自分なりの解答を用意しなさい。

A(30歳)さんとB(28歳)さんとは結婚して3年になる。そろそろ子どもがほしくなったというときに,妻のBさんが交通事故にあい,子宮機能を失ってしまった。Bさんの妹C(26)は,その夫D(26)との間にすでに2子をもうけており,すべて安産だったので,代理出産を引き受けてもいいと申し出てくれており,Dも賛成してくれている。幸いBさんの卵巣は無事だったので,現在の医療水準からすれば,Aさんの精子とBさんの卵子を体外受精してCさんの子宮に移し,AさんとBさんの遺伝子を持つ子をCさんが出産することは可能である。

ところが,わが国では,このような場合でも,代理出産は認められておらず,アメリカに行って代理出産するか,日本で産科学会から除名された医師の下で非合法的に代理出産するしか道がなく,しかも,生まれてくる子は,CさんとDさんの嫡出子となってしまい,AさんBさんの子とはならないという。

問題1 AB夫妻がCD女夫との間で代理出産をしてもらう約束をしても,現在の日本では,ABは生まれてくる子Eの実子とはなりえないというのが,わが国の通説・判例の見解である。その理由を,家族法(親子法)の教科書を読んで,わかりやすく説明しなさい。

問題2 わが国の民法は,男女を区別することなく,父母ともに子を認知できるという規定を有している(民法779条)。しかし,余り話題とならない「母による子の認知」の規定は,どのような場合を想定して起草されたのであろうか。また,通説・判例が「母による子の認知」の制度を否定的に解しているのは,なぜであろうか。

問題3 AB夫妻の精子と卵子とを使ってCが代理出産し,子Eを設けた場合,わが国の民法によると,その子は誰の子となるのか。家族法の教科書(親子法)を読んで,すべての場合を想定して,結論を導きなさい。

問題4 AB夫婦の精子と卵子とを使ってCが代理出産することについて,国民はどのような考えを持っているのか。そのような意識調査があるかどうか,あるとすれば,どのような調査で,どのような結果が示されているのかをインターネット使って検索して示しなさい。

問題5 AB夫妻の精子と卵子とを使ってCが代理出産することを,産科婦人科学会や政府が禁止している理由をインターネットを使って調査しなさい。そして,国民の意識とのギャップがどこから生じているのかを明らかにしなさい。

問題6 AB夫妻の精子と卵子とを使ってCが代理出産することが禁止されている理由が合理的なものであるかどうか,法例,学説,判例の見解を引用しながら,検討しなさい。

問題7 AB夫妻の精子と卵子とを使ってCが代理出産することについての自らの見解を明らかにし,生まれてくる子EをAB夫婦の実子とする道が法解釈として成り立ち得ないのかどうかを検討しなさい。

問題8 以上のすべての作業を行った後に,夫に不妊の原因がある場合には,自分の精子を使い,他人(妻の)腹を借りて自分の子を設けること(AIH)だけでなく,他人の精子を使い,他人(妻の)腹を借りて自分の子をもうけることも(AID)許されているのは,どのような法理に基づいているのかを検討しなさい。そして,これとの対比で,妻に不妊の原因がある場合に,妻の卵子を使い,他人の腹を借りて自分の子をもうけることを禁止することが男女差別とならないのかどうかについて考察しなさい。

問題9 最後に,代理出産の制度を認めるべきかどうか,自分の見解を結論と理由とに分けて,800字以内でまとめなさい。


人工生殖の種類と法律上の問題点


子供ができない夫婦に対する不妊治療として現段階で行われているものは,以下の3つである。ただし,第2類型のうち,妻以外の卵子を用いる体外受精,および,第3の類型である代理母については,わが国では,自主規制が行われており,一般的には,実施が困難である。

  1. 人工授精(artificial insemination)
  2. 体外受精(in‐vitro fertilization)
  3. 代理出産(広義の代理母)

生殖医療と親子関係に関する立法の動向と問題点


生殖医療に関しては,親子をめぐる法律問題について,従来の民法とその解釈によっては,適切な解決が困難な問題が存在する。そこで,この問題を法的に整合的に解決するためには,新たな立法が必要となる。

この点に関して,2003年5月20日の毎日新聞(署名・伊藤正志)に,生殖医療と親子関係に関する以下のような記事が掲載されている。

法務省は,夫婦が不妊治療のため第三者から精子や卵子の提供を受けて子供が生まれた時の親子関係について,出産した女性を子供の実母とし,提供に同意した夫を父親とすることを法律に明記する方針を固めた。20日に開かれた法制審議会生殖補助医療親子法制部会で,法制化に向けた本格的な議論が始まった。
7月にも中間試案をまとめ,今秋に要綱案を作成したうえで,厚生労働省が来年の通常国会に提出予定の生殖補助医療関連法案に民法の特例として盛り込む。
子供と,出産した母親の母子関係について,民法には特定する規定がない。一方,厚労省の厚生科学審議会生殖補助医療部会は先月10日,夫婦以外の精子,卵子,受精卵による不妊治療を正式に認める最終報告書をまとめた。こうした生殖補助医療が法的に認められれば,夫婦と卵子や精子提供者の間で,子供の認知をめぐるトラブルが生じる事態も考えられるため,法的な対応が求められていた。
法務省は,精子提供を受けた妻の妊娠に同意した夫を父親とする規定を補完するため,提供者による子供の認知を認めない規定も特例に盛り込む方針。また,同医療部会は妊娠と出産を他の女性に依頼する代理出産を認めない方針だが,仮に代理出産した場合も,出産者が実母になることを規定に入れるため,依頼者は実母とは認められないことになる。

他紙の情報(たとえば,朝日新聞2003年6月19日号3頁)を追加して,総合的に考察すると,今回の生殖医療と親子関係に関する特例法の骨子は以下のようになるものと思われる。

  1. 父子関係について
  2. 母子関係について

この立法の骨子と,従来の学説・判例の見解とを対比すると以下のような表にまとめることができる。


(人工授精)
自分の子宮を利用
(体外受精)
他人の子宮を利用
(代理出産)
自分の精子を利用
(AIH)
第三者の精子を利用
(AID)
自分の卵子を利用 他人の卵子を利用 自分の卵子を利用
(借り腹)
他人の卵子を利用
(代理母)
法制化の方向 依頼者 効果 父となれる 母となる 母となれない
根拠 嫡出推定(772) 嫡出承認(776) 妻が分娩している(判例) 妻が分娩していない(判例)
提供者 効果 子からの認知を拒絶できる 母となれない 母となる
根拠 新立法で規定 卵子提供者は分娩していない(判例) 代理母は分娩している(判例)
効果 実子 代理母の子
夫婦の子とするには養子縁組が必要
根拠 嫡出推定(772) 嫡出承認(776) 妻が分娩している(判例) 妻が分娩していない(判例)

立法の骨子が,以上のようになったのは,親子関係に関する現在の通説・判例が,親子関係の存否の判断基準を,以下のように設定しているためと思われる。

  1. 父子関係の存否
  2. 母子関係の存否

夫の場合には,AIHの場合であれ,AIDの場合であれ,出生以前の監護実績がなくても実の父となることを認めながら,代理母の場合には,妻が出生以前の監護実績すなわち分娩の事実がないからといって,実母となることを認めないというのは,「腹を痛めない女は実母になる資格はない」といっているのと同じであり,明らかな男女差別であり,かつ,子宮機能を失った女性に対する嫌がらせである。

分娩を経験しない妻であっても,自らの卵子を提供した場合には,AIHとの権衡上,胎児認知の方法を通じて実母となる道を開くべきである。さらに,代理母が第三者の卵子を利用した場合にも,AIDとの権衡上,以下に述べる「胎児特別養子」を認めることによって,実母となる道を開くべきである。

もっとも,人工生殖における親子関係に関しては,以下の点を考慮して,適切な立法がなされるべきである。現在検討されている立法案は,これらの点がほとんど考慮されていない。

  1. 生殖医療における両性の本質的平等
  2. 依頼者と精子・卵子の提供者との利害対立の解消
  3. 子の権利の保護(実子となる権利,出自を知る権利の同時実現)

代理母の場合を含めて,生殖医療に関して,夫と妻との平等を実現する方法を表にまとめると以下のようになると思われる。


(人工授精)
自分の子宮を利用
(体外受精)
他人の子宮を利用
(代理母)
自分の精子を利用
(AIH)
第三者の精子を利用
(AID)
自分の卵子を利用 他人の卵子を利用 自分の卵子を利用
(借り腹)
他人の卵子を利用
(代理母)
私見(解釈論) 依頼者 効果 父となれる 母となれる 母となれる
根拠 嫡出推定(772) 嫡出承認(776)
胎児特別養子(新説)
嫡出推定(772) 胎児特別養子(新説) 認知(779) 胎児特別養子(新説)
提供者 効果 父親とはなれない 母親とはなれない 代理母は母になれない 代理母は母になれない
根拠 胎児養子縁組に同意している 胎児養子縁組に同意している 子宮で養育しただけでは母になれない 胎児特別養子縁組に同意している
効果 実子
根拠 嫡出推定(772) 胎児特別養子(新説) 嫡出推定(772) 胎児特別養子(新説) 胎児認知(779) 胎児特別養子(新説)
第三者 効果 父子関係を争えない 母子関係を争えない 母子関係を争えない
根拠 遺伝学上の親子 夫婦と提供者との合意の尊重 遺伝学上の親子 夫婦と提供者との合意の尊重 遺伝学上の親子 夫婦と提供者との合意の尊重

筆者が主張する「胎児特別養子」とは,夫婦以外の第三者が精子または卵子を提供する場合に,遺伝学上の父又は母となる提供者と依頼者である夫婦とが胎児の段階で特別養子縁組を行うものであり,生まれてくる子は,胎児の時点で,すでに,真実の親子関係を切断されており,子は,出生の時点で,精子・卵子の提供を依頼した夫婦の実子とみなされるという制度のことである。筆者は,現行法の特別養子制度の活用によって,このことが可能であると考えているが,さらなる法の整備がなされるのが望ましい。


人工生殖,特に,代理母に関する倫理的な課題とその克服


人工生殖に関しては,さまざまな問題が指摘されているが,その主なものは,倫理的な課題である。しかし,法律は,道徳とは異なり,すでに存在する,または,存在が予想される具体的な問題について,妥当な解決を導くものでなければならない。倫理的に望ましくないと思うことでも,実際に存在する問題を避けて通ることは許されない。特に,人工生殖によって出生した子は,そうでない子と平等な権利を享受できるべきであり,人工生殖によって生まれたことを理由に差別することは許されない。

代理母による出産を認めないとする倫理的な考え方は,以下のような考慮によって成り立っている(二宮周平『家族法』新世社(2000年)139〜141頁参照)。

  1. 治療の危険性にもかかわらず代理母がこの治療を引き受けるのは,代理母に高額な報酬が支払われているからである。
  2. 代理母を認めると,女性の子宮を商品として利用する危険性がある。
  3. 子を持たない家庭も市民権を得てきたのに,代理母を認めると,家制度の場合に存在した「出産する義務観」を助長する。
  4. 生まれてきた子に障害があった場合に,依頼主が責任を持って育てない可能性がある。

しかし,これらの問題点は,代理母だけに特有の問題ではない。以下に述べる理由により,上記の倫理的な考え方は,代理母に対する批判としては,的を射ていないと思われる。

  1. 妊娠・出産は女性にとって大きなリスクを伴うものである。リスクが大きいというのであれば,結婚制度の中で行われる妊娠・出産であっても,女性にとっては大きなリスクを伴う。しかし,結婚制度の場合には,その問題は論じられていない。代理母の場合に限って女性のリスクを問題にするのは公平ではない。また,報酬の高額性を論じるのであれば,20〜30代だけで選手生命を終える何億円,何十億円プレーヤーというスポーツ選手が存在する。それと同様に,代理母が,20〜30代という短い期間で何億円,何十億円もの報酬を得たからといって非難される筋合いはないと思われる。むしろ,報酬が低すぎる場合こそが問題であろう。
  2. 代理母を認めると,女性の子宮を商品として利用する危険性があるというのは当たっているが,その問題は,代理母の同意を明確にすること,一定の要件の下に同意の取消を認めるなどの方法によって保護すべきであって,代理母を常に母とするという画一的な方法によって代理母を保護しようとするのは誤りであると思われる。
  3. 選択の範囲を広げたり,権利を与えることは,重要なことである。出産に関する選択肢が拡大し,それに伴って権利が拡大されたからといって,出産する義務が拡大するおそれがあるといいうのは,言いがかり以外の何ものでもないであろう。
  4. 生まれてきた子に障害がある場合には,通常の場合でも,親だけで育児・教育ができるわけでなく,社会と地域の支援が不可欠である。そのような社会的な支援システムの向上こそが重要であり,生まれてくる子が障害をもっていると困るという理由で,代理母を否定するのは的外れであると思われる。

演習問題


問1 夫以外の精子を使って嫡出子をもうける制度であるAIDの場合,生まれてくる子が依頼した夫婦の実子となる根拠は何か。また,精子の提供者が子からの認知請求を否定できる根拠は何か。

問2 AIDが認められているにもかかわらず,妻以外の卵子を使った体外受精が日本産科婦人科学会の自主規制で禁止されている理由は何か。諏訪マタニティークリニックの根津八紘(ねつ・やひろ)医師が,1998年に,あえて,妻以外の卵子を使った体外受精を実施し,現在もそれを続行している理由は何か。

問3 代理母が,日本産科婦人科学会の自主規制で禁止されている理由は何か。2001年5月に,諏訪マタニティークリニックの根津八紘医師が,あえて,夫の精子と事故で子宮を失った妻の卵子を体外受精させ,妻の妹に代理出産を行わせた理由は何か。

問4 夫の精子と妻の卵子を体外受精させて代理母によって出産が行われた場合,出生する子が依頼した夫婦の実子となることができない理由は何か。実子とするための理論はどのように構成することが可能か。

問5 夫の精子を代理母に人工授精し,代理母が妊娠・出産した場合,出生する子が依頼した夫婦の実子となることができない理由は何か。実子とするための理論はどのように構成することが可能か。

問6 人工授精を認めながら,代理母を認めないことは,男女差別だという議論がある。その根拠を述べなさい。


参照条文


第772条 〔嫡出の推定〕
(1) 妻が婚姻中に懐胎した子は,夫の子と推定する。
(2) 婚姻成立の日から二百日後又は婚姻の解消若しくは取消の日から三百日以内に生まれた子は,婚姻中に懐胎したものと推定する。

第773条 〔父を定める訴え〕
第733条第1項の規定に違反して再婚をした女が出産した場合において,前条の規定によつてその子の父を定めることができないときは,裁判所が,これを定める。

第774条 〔嫡出の否認〕
第772条の場合において,夫は,子が嫡出であることを否認することができる。

第775条 〔嫡出否認権の行使−嫡出否認の訴え〕
前条の否認権は,子又は親権を行う母に対する訴によつてこれを行う。親権を行う母がないときは,家庭裁判所は,特別代理人を選任しなければならない。 (昭二三法二六〇・一部改正)

第776条 〔嫡出性の承認〕
夫が,子の出生後において,その嫡出であることを承認したときは,その否認権を失う。

第777条 〔嫡出否認の訴えの提起期間〕
否認の訴は,夫が子の出生を知つた時から1年以内にこれを提起しなければならない。

第778条 〔禁治産者の否認の訴え提起期間の起算〕
夫が成年被後見人であるときは,前条の期間は,禁治産の取消があつた後夫が子の出生を知つた時から,これを起算する。

第779条 〔認知〕
嫡出でない子は,その父又は母がこれを認知することができる。

第780条 〔認知能力〕
認知をするには,父又は母が成年被後見人であるときでも,その法定代理人の同意を要しない。

第781条 〔認知の届出,遺言による認知〕
(1) 認知は,戸籍法の定めるところにより届け出ることによつてこれをする。
(2) 認知は,遺言によつても,これをすることができる。

第782条 〔成年の子の認知〕
成年の子は,その承諾がなければ,これを認知することができない。

第783条 〔胎児・死亡子の認知〕
(1) 父は,胎内に在る子でも,これを認知することができる。この場合には,母の承諾を得なければならない。
(2) 父又は母は,死亡した子でも,その直系卑属があるときに限り,これを認知することができる。この場合において,その直系卑属が成年者であるときは,その承諾を得なければならない。

第784条 〔認知の遡及効〕
認知は,出生の時にさかのぼつてその効力を生ずる。但し,第三者が既に取得した権利を害することができない。

第785条 〔認知の取消しの禁止〕
認知をした父又は母は,その認知を取り消すことができない。

第786条 〔認知に対する反対事実の主張〕
子その他の利害関係人は,認知に対して反対の事実を主張することができる。

第787条 〔認知の訴え−強制認知〕
子,その直系卑属又はこれらの者の法定代理人は,認知の訴を提起することができる。但し,父又は母の死亡の日から3年を経過したときは,この限りでない。

第788条 〔認知後の子の監護〕
第766条〔離婚後の子の監護者の決定〕の規定は,父が認知する場合にこれを準用する。

第789条 〔準正〕
(1) 父が認知した子は,その父母の婚姻によつて嫡出子たる身分を取得する。
(2) 婚姻中父母が認知した子は,その認知の時から,嫡出子たる身分を取得する。
(3) 前2項の規定は,子が既に死亡した場合にこれを準用する。

第790条 〔子の氏〕
(1) 嫡出である子は,父母の氏を称する。但し,子の出生前に父母が離婚したときは,離婚の際における父母の氏を称する。
(2) 嫡出でない子は,母の氏を称する。

第791条 〔子の氏の変更〕
(1) 子が父又は母と氏を異にする場合には,子は,家庭裁判所の許可を得て,戸籍法の定めるところにより届け出ることによつて,その父又は母の氏を称することができる。
(2) 父又は母が氏を改めたことにより子が父母と氏を異にする場合には,子は,父母の婚姻中に限り,前項の許可を得ないで,戸籍法の定めるところにより届け出ることによつて,その父母の氏を称することができる。
(3) 子が15歳未満であるときは,その法定代理人が,これに代わつて,前2項の行為をすることができる。
(4) 前3項の規定によつて氏を改めた未成年の子は,成年に達した時から1年以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによつて,従前の氏に復することができる。 (昭二三法二六〇・昭六二法一〇一・一部改正)

第817条の2 〔特別養子縁組の成立〕
(1) 家庭裁判所は,次条から第817条の7までに定める要件があるときは,養親となる者の請求により,実方の血族との親族関係が終了する縁組(この款において「特別養子縁組」という。)を成立させることができる。
(2) 前項に規定する請求をするには,第794条〔後見人と被後見人の縁組〕又は第798条〔未成年の養子〕の許可を得ることを要しない。 (昭六二法一〇一・追加)


参考資料


厚生科学審議会生殖補助医療部会「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療制度の整備に関する報告書」(2003年4月28日)(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/04/s0428-5.html)

毎日新聞「親子関係:出産女性が実母、法務省が法律で明記化へ」(毎日新聞2003年5月20日号)http://www12.mainichi.co.jp/news/search-news/880439/90b690B-0-2.html

向井亜紀の出生届 不受理に
http://sports.nifty.com/headline/entertainment/entertainment_sponichi_20040609_3.htm