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第3回 担保法学説の問題点

作成:2010年9月24日

明治学院大学法科大学院教授 加賀山 茂


□ 第3回 担保法学説の問題点 □

担保法が好きだという学生は稀である(筆者自身はそのような学生を一人も知らない)。担保法を喜んで教えたいという教師にもめったに会えない(民法の担当者を決める際に,担当するのを渋る教師が多いため,教務委員は常に苦労している)。それは,担保法が難解だからである。従来は,その原因は,「担保法の技術的性格」にあるとされてきた。しかし,「担保法の技術的性格」の内容を突き詰めていくと,その意味は,担保法には体系的な理論が存在しないので,暗記に頼るほかないということ,すなわち,担保法学が学問として未成熟であることの裏返しに過ぎないことがわかる。

ここでは,従来の学説が抱えている問題点を理解するとともに,通説がなぜそのような問題点を抱えているのか,その理由について検討する。


第5節 担保法における従来の学説の問題点


1 担保物権の物権性からの乖離


現行民法は,物的担保を物権編に編入しているが,物的担保のすべてを物権とすることには,以下に述べるように,もともと無理がある。したがって,物的担保を物権として理論を構築すると,原則よりも例外が多いという美しくない理論を構築せざるを得ないばかりでなく,物権の定義自体が破綻することを覚悟しなければならない。

第1に,通説は,担保物権を制限物権(換価・処分権を有する権利)として説明している。しかし,物権法の体系という視点からみると,留置権は,いかなる意味でも物権(本権)とはいえない。なぜなら,留置権は,物権法の特色といわれている物に対する使用・収益権も換価・処分権(優先権を伴う換価権)も,いずれも有していないからである。物権と債権とに関して厳格な峻別を行っているドイツ民法が,留置権(Zuruckbehaltungsrecht)を物権ではなく「給付拒絶の抗弁権」として債務法の中で規定している[ドイツ民法273条]のはまさに正当である(ドイツ民法の研究者が多いわが国おいて,留置権を抗弁権ではなく,物権として認める学者が多いのは不思議でさえある)。

第2に,先取特権および質権については,確かに,それらは優先権を伴う換価・処分権を有するが,対抗要件が物権の対抗要件[民法177条,178条]に従っていないという問題点を抱えている。特に,一般先取特権は,目的物が特定せず,一物一権主義にも服さず,公示も必要としないのであるから,一般先取特権を物権と考えることには無理がある。むしろ,保護すべき特定の「債権について,債権者平等の原則の例外が認められているに過ぎない」[鈴木・物権法(2007)469頁]と考える方が,物権と考えるよりもはるかにわかりやすい。さらに,権利質については,目的物が無体財産(権利)であるため,物権の目的物は有体物に限る[民法85条]としていた現行民法の立法趣旨に反するため,現行民法の起草委員(梅謙次郎)も,無体物を対象とする権利質は物権ではないと言い切っていた[梅・要義巻二(1896)438頁]。

第3に,「物的担保制度の王座を占め」ている[我妻・担保物権(1968)6頁]とされる抵当権だけは,物権の対抗要件[民法177条]に従っているように見える。しかし,その処分(転抵当,抵当権の譲渡,抵当権の順位の譲渡,抵当権の放棄,抵当権の順位の放棄)については,債権譲渡の対抗要件の具備が必要とされており[民法377条],物権変動の対抗要件[民法177条]とは異なっている。さらに,抵当権の冒頭条文である民法369条2項は,地上権・永小作権を目的とする抵当権を規定しているが,無体物である権利を対象とするゆえに,現行民法の立法者自身も,物権としての「真の抵当権とはいい難い」としていた[民法理由書(1987)361頁]。

本書が,物的担保を物権の側面からではなく,債権の優先弁済権の側面から説明しようとする理由は,従来の学説に従って,物的担保を物権と考えると,以上のような解決不能な問題が生じるからである(*表9参照)。

*表9 担保物権の物権としての位置づけとその破綻
大分類 中分類 小分類 本質的権能 対抗要件
物権
(本権)
所有権 使用・収益権も換価・処分権もある 物権といえる 動産:引渡し(民法178条)
不動産:登記(民法177条)
制限
物権
用益
物権
地上権 使用・収益権のみがある 物権といえるが,使用貸借,賃貸借との区別は微妙。自ら対抗要件を備えることのできる賃借権と考えた方がわかりやすい。 登記(民法177条にほぼ従っている)
永小作権
地役権
担保
物権
留置権 使用・収益権も,優先権を伴う換価・処分権もない 物権とはいえない 動産:占有の継続
不動産:占有の継続
先取特権 優先権を伴う換価・処分権がある(ただし,債務不履行がある場合に限る) 債権とすることも,物権とすることも可能である。しかし,物権とすると,多くの例外を認めざるをえず,原則と例外とが逆転してしまう。 動産:不要(民法178条に反する)
不動産:不要(民法177条に反する)
質権 動産:占有の継続(民法178条に反する)
不動産:登記(抵当権と同じ)
債権:債権譲渡の対抗要件(物権とはいえない)
抵当権 登記
抵当権の処分には,債権譲渡の対抗要件が必要
(民法177条に反する)

このように,担保物権のすべてを物権として構成することは,学問的には,無理があるということになると,次の段階に移る必要がある。すなわち,留置権,先取特権,質権,抵当権をどのように構成すると,これら4つの権利を同じグループとして扱うことができるのかという問題を解かなければならない。


2 担保物権の通有性をめぐる混乱


A. 担保物権の通有性が必要とされる理由(学問としての出発点)

担保物権の通有性とは,担保物権がその類型の違いにかかわらず,共通に有している性質のことをいう。通有性は,物権編に編入されている4つの権利(留置権,先取特権,質権,抵当権)に「担保物権」という「共通の名称」を与えることの実質的理由を明らかにするための概念である。意外に思われるかもしれないが,実は,現行民法には「担保物権」という用語は存在しない。留置権,先取特権,質権,抵当権の4つの権利が,たまたま現行民法の物権編に編入されているという形式的な理由で,「担保物権」という用語法が定着しているに過ぎない。

したがって,「担保物権」という用語法を正当化する形式的な理由ではなく,正当化のための実質的な理由を示そうとすれば,担保物権の本質とか,担保物権の通有性(共通の性質)とかを明らかにする必要がある。本書の立場からすれば,通説が,民法の用語法には存在しない「担保物権」という言葉を使いたいのであれば,それ相応の理由をつけなければならないのであり,そうでなければ,担保物権という用語を使うことの学問的根拠が欠けることになるのである。

*表10 担保物権の通有性
担保物権の通有性
付従性 随伴性 不可分性 物上代位性
留置権
(占有が必要)
×
(法律上の優先弁済権なし)
先取特権 一般先取特権
(譲受人に依存)
×
(必要なし)
動産先取特権
不動産先取特権
(売却代金,賃料は必要なし)
質権 動産質権
(占有が必要)
不動産質権
(売却代金,賃料は必要なし)
権利質 ×(必要なし)
抵当権 普通抵当権
根抵当権
(根抵当の場合,その確定前はなし)

ところが,現在の通説は,「担保物権の本質」といわれるものにせよ,「担保物権の通有性」といわれるものにせよ,その学問的な根拠を示すことに成功していない。それどころか,現在の学説は,担保物権の「通有性」といっても「必ずしも共通の性質とはいえず,いちおうの整理に過ぎない」([道垣内・担保物権(2008)8頁],[清水(元)・担保物権(2008)9頁])などと述べて,通有性の概念を等閑視する傾向にあり,この問題の学問的重要性についての認識を欠いているように思われる。

しかし,担保物権法の本質とか,共通の性質とかが示されないようでは,その分野は,学問として未熟であるといわざるを得ない。そこで,以下では,担保物権法が,なぜそのような事態に陥っているかについて,その理由を考察する。

B. 担保物権の本質論(換価・処分権を有する物権)から担保物権を位置づけようとする考え方の破綻

現行民法においては,留置権,先取特権,質権,抵当権という4つの権利は,物権として位置づけられている(民法295条〜398条の22)。このため,学説は,この4つの権利を「担保物権」と呼んでいる。ここでの問題は,この4つの権利を担保物権と呼ぶ場合,その物権は,物権全体の中でどのような地位を占めるのかというものである。

先に述べたように,物権(本権)全体は,大きく分けると,使用・収益も換価・処分もできるオールマイティな権利としての所有権と,その権能のうちの一部だけを有する物権(制限物権)との2つに分類される。制限物権の中では,さらに,使用・収益権能のみを有する用益物権(地上権,永小作権,地役権)と換価・処分権能を有する担保物権(留置権,先取特権,質権,抵当権)とに分類されている。

もしも,担保物権のすべてが本当に換価・処分権を有しているのであれば,これこそが,担保物権の本質であり,かつ,共通の性質ということができる。しかし,担保物権のうち,留置権は,対抗力を有する「引渡拒絶の抗弁権」に過ぎず,目的物に対して優先権を伴う換価・処分権を有していない。確かに,留置権には,形式的競売権[民事執行法195条]が与えられているが,これは,留置権者が長期間債権の弁済を受けることることができない場合に目的物の保管の負担が増大することの不都合を避けるためにのみ与えられものであって,優先権を伴うという本来の意味での競売権(優先権を伴う換価・処分権)を有していない。そうだとすると,物権の定義に則れば,留置権は,担保物権から除外するのが学問的には正しいということになる。そのことは,先に述べたように,概念に最も忠実なドイツ民法においては,留置権(Zuruckbehaltungsrecht)を給付拒絶の抗弁権[ドイツ民法273条]として,物権法ではなく,債務法の中で定義していることからも窺い知ることができよう。

しかし,最初の目標に立ち返ると,ここでの目標は,現行民法に規定されている4つの権利に共通する性質を探し出し,それらをまとめる概念を見つけだすことである。したがって,担保物権とは,物権の権能のうち,換価・処分権能を有するものに限定されるという本質論を述べ,留置権をそこから追い出したのでは,4つの権利の共通の性質を見つけだし,4つの権利の本質を明らかにするという当初の目標から逸脱してしまう。

それでは,現行民法に規定されている4つの権利は,いかなる権利であるのか。4つの担保権のうちの留置権が優先権を伴う「換価・処分権能」を持たないこと,さらに,「使用・収益権」も有しないこと[民法298条2項,3項]も明らかとなると,問題は,重大な局面にさしかかることになる。なぜなら,第1に,担保物権全体の本質を優先弁済権を伴う換価・処分権を有する制限物権であるとの通説の議論は破綻していることになる。そればかりではない。第2に,留置権を含む4つの権利を担保物権として論じているわが国の担保物権法学は,実は,「担保物権とは何か」という実質的な理由,すなわち,学問の出発点を見つけだすことができないままに,迷走していることになるからである。

C. 担保物権の性質論から担保物権を位置づけようとする考え方の破綻

担保物権に共通の性質または共通の効力を目的物の優先権を伴う「換価・処分権」という概念を使って説明する試みは,優先権を伴う「換価・処分権」を有しない留置権を説明できず,その点で破綻していることが明らかになった。これは,担保物権法学がその出発点から危機的状況にあることを示している。そこで,担保物権としての統一性を確保するため,学説は,担保物権の本質論または効力論ではなく,担保物権の性質から,その共通性を明らかにすることを試みている。これが,担保物権の通有性の問題である。

担保物権の通有性(狭義)として挙げられている性質は,付従性(随伴性)と不可分性である。学説によっては,担保物権の通有性の中に不可分性を含めて議論するものもあるが,物上代位性は,担保物権の効力である法律上の優先弁済権の問題であり,留置権には物上代位性は認められない。そこで,本書では,物上代位性は,狭義の通有性には含めないことにする。

通有性のうち,最初の付従性については,実は,すべての担保物権が有しているのであるから,付従性は,最も典型的な担保物権の通有性といってよい。したがって,これを例外のない原則として受け入れるならば,担保物権の出発点は,まがりなりにも整うことになる。

ところが,通説は,付従性を担保物権の通有性とすることに,あらゆる面で抵抗を示す。抵当権の処分(転抵当,抵当権の放棄・譲渡,抵当権の順位の放棄・順位の譲渡)の箇所で抵当権の付従性を否定しようとしたり,根抵当権の箇所で,付従性を否定したりと,付従性を担保物権の通有性として認めることに極めて消極的である。

しかし,そのことが何を意味するかについて,通説は危機感を欠いている。もしも,担保物権の通有性が存在しないとしたら,担保物権という民法にない概念を1つのまとまりのある概念として認めることができなくなってしまう。例えば,新しいタイプの担保が考案された場合に,それを担保物権の問題として取り扱うべきなのか,それとも,保証の一種として,多数当事者の債権・債務関係の問題として取り扱うべきなのかが不明となってしまう。このことは,学問領域の決定基準が存在しないことを意味し,学問としての担保物権法の崩壊を意味する。

担保物権という学問対象の領域の境界(外延)として,留置権,先取特権,質権,抵当権という要素を例示するのはたやすい。しかし,学問対象の内容を性質(内包)として定義できなければ,民法に規定のない担保の仕組み,たとえば,譲渡担保,仮登記担保等の非典型担保,相殺,代理受領,振込指定を担保物権と呼べるかどうかを決定することはできない。

つまり,担保物権については,学問上の明確な定義すら存在しないにもかかわらず,担保物権の通有性をないがしろにする学説が多数を占めているというのが現状なのである。確かに,担保物権の通有性は,通常の債権とは一線を画するものであり,担保物権ならではの性質であると考える学説[近江・講義V(2007)12頁]も存在する。しかし,そのような学説も,付従性の例外を認めているために,厳密な通有性を明らかにするものとはなっていない。そればかりでなく,担保物権の通有性は,「必ずしも共通の性質とはいえず,いちおうの整理に過ぎない」と述べて,この考え方を重視しない学説([道垣内・担保物権(2008)8頁],[清水(元)・担保物権(2008)9頁])の方が最近の通説となりつつある。しかし,それは,まさに,担保物権法の学問としての自立を放棄するものであろう。

D. 担保物権の通有性がないがしろにされてきた理由

それでは,どうして,従来の学説は,担保物権の通有性について,本格的な研究を行わずに済ませてきたのか。それが,ここで取り上げる問題である。

その答えは,実は,単純である。もしも,付従性,随伴性,不可分性を担保物権の通有性として認めると,担保物権の物権性・独立性がことごとく否定されるからである。付従性とは,担保物権が債権に従属することを意味し,随伴性とは,担保物権が債権の移転に従属することを意味し,不可分性とは,債権がある限り担保物権としての効力が保たれるという意味であり,いずれも,担保物権といわれるものが独立の権利ではなく,債権に従属する権利であることを明らかにするものだからである。

この問題解決のための解決法は一つではない。しかし,本書のように,民法に規定された4つの権利をまとまりのあるものとするために,物的担保の本質を優先弁済権(事実上の優先弁済権と法律上の優先弁済権を含む)であるとし,共通の性質としての通有性を付従性と不可分性に求めるなら,少なくとも,学問としての担保法の破綻を免れることが可能となる。

以上の点を踏まえるならば,人的担保を債権法の問題とし,物的担保を物権法の問題として考察する従来の考え方と決別し,両者ともに債権の掴取力の強化の問題であると考える方が,論理的な破綻を免れるばかりでなく,原則と例外のバランスがとれたわかりやすい理論を展開できることが理解できるであろう。


3 抵当権に関する通説の弱点リスト


担保物権に関する通説は,留置権,先取特権については,物権としての性質が希薄であることを認めつつ,抵当権は,担保物権の「王座を占めるもの」[我妻・担保物権(1968)6頁]であり,換価・処分権を有し,登記を対抗要件とする典型的な物権であると考えている。

しかし,抵当権が物権であるという点について,現行民法の立法者も,それほどの確信を持っていたわけではない。なぜなら,抵当権の最初の条文である民法369条2項の抵当権は,立法者によれば,不動産を目的とするものではなく,権利(地上権,永小作権)を目的とするものであるため,物権としての「真の抵当権とは言い難い」[民法理由書(1987)361頁]とされていたからである。

以下の表は,抵当権が物権だとすると,説明が困難な論点をリストアップしたものである。抵当権を物権であると考える場合には,以下の問題点をすべてクリアする必要があることを認識すべきであろう。

*表11 通説が触れたがらない抵当権の論点とその理由
通説が嫌がり,触れたがらない論点 通説の立場 抵当権を債権の優先弁済効に過ぎないとする本書の立場
1 民法369条2項の抵当権の性質 地上権,永小作権も不動産上の物権だから抵当権の目的としても不都合はない(ただし,このことを公言する教科書は少ない。有体物ではない権利の上の抵当権について論じはじめると,混乱が生じるからであろう)。 地上権,永小作権は,不動産でなく,権利である。現行民法の立法者も,民法369条2項の抵当権は,「真の抵当権とは言いがたい」☆☆としていた。さらに,権利の上の担保権は,質権でなければならないはずであるが,立法者は,地上権,永小作権の上の質権を否定的に解していた。この問題について,立法者の見解に触れた教科書がないのは,民法369条2項の抵当権が不動産ではなく,権利を目的とするものであり,物権とはいえないからであろう。
2 民法372条によって準用される304条(物上代位)の性質 民法304条が準用される結果,抵当権の目的物の範囲として,金銭,その他の物にも及ぶことがある(このことを公言する教科書も少ない。物上代位の目的は有体物ではない債権であることがほぼ確定しているからであろう)。 抵当権の目的物は,上記のように,地上権,永小作権のような財産権でも,また,第三債務者に対する債権でもよい(物上代位の場合)。その理由は,抵当権が物権ではなく,債権の掴取力に与えられた優先弁済権であり,抵当権を有する債権者は,債権者代位権の場合と同じく,第三債務者に対して債務名義なしに請求することができるからである。
3 民法377条の抵当権の処分の対抗要件 民法177条によって登記が対抗要件となるが[民法376条],例外的に,債務者に対する通知が要求されているに過ぎない[民法377条](この理由を説明している教科書は存在しない。物権法からの説明は不可能だからであろう)。 物権行為とされる抵当権の処分行為について,債権譲渡の対抗要件の規定である民法467条が適用されるのは,抵当権が物権ではなく,債権の優先弁済権に過ぎないからである。抵当権の順位は,民法373条の類推によって登記が必要とされるほか,債権の優先弁済権の処分(譲渡)に債権譲渡の対抗要件の規定[民法467条]が必要とされるのは,むしろ,当然である。
4 民法339条により,後で登記された先取特権が先に登記された抵当権に優先するという問題 民法339条の規定は,物権秩序を害するものであり,削除されることが望ましい(このことを公言する学者は少数である。しかし,抵当権を物権と考える通説の本音であろう)。 債権の優先弁済権の根拠は,物権秩序に従っているのではなく,債権秩序を制御する信義と公平の観点に基づき,目的物との牽連性の有無,強弱によって判断されている。目的物の価値の維持・増加に寄与した債権者には,必然的に優先弁済権が与えられ,その優先順位は,物権法秩序とは反対に,後の保存者は先の保存者に優先するという原則[民法330条1項2文]に従うのである。

担保法に関する通説を理解することが困難である理由は,結局のところ,通説の出発点が,「保証債務は,主たる債務と別個・独立の債務であるが,この債務は主たる債務に付従する」とか,「担保物権は,被担保債権とは別個・独立の物権であるが,この物権は,被担保債権に付従する」という,論理学的には完全に破綻した命題によって成り立っているからである。

通説が論理的に行き詰っている点は,多岐にわたるが,上記の*表11は,そのような通説の破綻の中から,物権と信じて疑われていない抵当権に関しても,それが物権だとすると,説明が困難な問題を取り上げ,本書の立場から批判したものである。通説を説明する教師は,これらの点に反論できないことを知ってか知らずか,本能的に,これらの話題から逃れようとする傾向にある。

このような話題について,教師に質問すると,「勉強が足りない。質問をする前に,教科書をよく読みなさい」とか,「そのような瑣末な問題は,取り上げるに足りない」とか,「ピントはずれの質問だ」とかいわれるので,深入りしない方が得策である。そのような勧告を無視して,質問を続けると,「そんな問題であれこれ悩むのは,センスが悪い証拠だ」といわれたり,挙句の果てに,「変な学生だ」と思われたりするのが落ちである。教師も自分が理解できない通説・判例を苦労して教えているのであるから,傷口に塩を塗りこむような質問は控えるのが,大人のマナーというものであろう。どうしても,質問して議論を深めたいと思うのであれば,質問の相手が,通説に対する破壊的な学説[加賀山・担保法(2009)]に接したことがあるかどうかを事前に見極めてからにするのが賢明である。


□ 学習到達度チェック(3) 担保法における従来の学説の問題点 □

  1. 担保物権の概念について
  2. 担保物権の通有性について
  3. 無体物を目的とする権利について
  4. 担保物権を好きになれない人が多い理由について

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