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第20回 抵当権の実行

作成:2010年9月24日

明治学院大学法科大学院教授 加賀山 茂


□ 第20回 抵当権の実行 □

債務者が債務を任意に履行しないときは,抵当権者は抵当権を実行し,実行によって得られる金銭から他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受けることができる。その場合の実行方法は,目的物が不動産の場合には,担保不動産競売[民事執行法180条1号]と担保不動産収益執行[民事執行法180条2号],動産の場合には,動産競売[民事執行法190条],債権の場合(物上代位権の行使の場合)には,債権についての担保権の実行[民事執行法193条1項2文]の各手続きにしたがって実行される。そして,最終的には,目的物の所有権は買受人に移転する[民事執行法79条,184条]とともに,抵当権者は目的物の売却代金から優先的に配当を受ける。そして,抵当権は優先弁済権の満足によって消滅する(消除主義)[民事執行法59条1項]。

担保権の実行手続きについては,代表的な担保不動産競売手続きを例にとって,その開始決定と差押え,換価準備,換価,そして,満足による抵当権の消滅という手続きの流れを理解する。また,平成15年に創設された不動産収益執行についても,その手続きの流れと特色を理解する。


4 抵当権の実行


A. 抵当権の実行の種類

抵当権の実行手続について,競売手続のあらましと私的実行である抵当直流れについて概観するのがここでのねらいである。

民事執行法の第3章(180条〜195条)が,「担保権の実行としての競売等」を規定しているため,抵当権の実行については,民事執行法の規定を参照することが必要となる。

*表63 抵当権の実行方法
抵当権の実行の種類 条文
民事執行 担保不動産競売 民事執行法180条1号,188条で強制競売の規定を準用
担保不動産収益執行 民事執行法180条2号,188条で強制管理の規定を準用
私的実行 抵当直流れ(流抵当) 代物弁済予約と同じ
任意売却 破産法78条(破産管財人が管理処分権に基づき,裁判所の許可を得て行う)

民事執行法に基づく担保不動産競売と担保不動産収益執行とは,並存的に認められ,抵当権者は,いずれを選ぶこともできるし,両者を同時に行うこともできる。すなわち,抵当権者は,担保不動産収益執行によって賃料から優先弁済を受けつつ,それで満足できない場合には,担保不動産競売で最終的な満足を受けるということができる。

抵当権の実行による実体法上の問題としては,抵当権は,抵当権の実行によって消滅するという点が重要である。抵当不動産が他の債権者によって強制執行に付された場合にも,抵当権は消滅する(消除主義:[民事執行法59条])。抵当不動産に対する他の担保権者(後順位抵当権者を含む)がこれを担保不動産競売に付した場合も同様である[民事執行法188条]。また,担保不動産競売が実施されると抵当権は消滅するから[民事執行法59条1項],担保不動産収益執行も終了することになる。

担保不動産競売および担保不動産収益執行の詳細は,民事執行法の解説書([中野・民事執行概説(2006)],[上原他・民事執行法(2006)]など)を参照されたい。ここでは,それぞれの概略について解説するに留める。

B. 担保不動産競売手続

不動産を対象とする民事執行のほとんどは担保不動産競売であり,その件数は,通常の強制競売の10倍以上を占めている[上原他・民事執行法(2006)217頁]。担保不動産競売のなかでも,抵当権に基づくものが大半を占めるとされている。

担保権の実行としての執行手続きは,概略,@債権者の申立て,A担保目的財産の差押え,B換価の準備,C換価,D配当,E満足という経過をたどる点で,「原則として,金銭債権の強制執行におけると同一の手続きによることになった」[中野・民事執行概説(2006)281頁]。

(a) 担保不動産競売の申立て

不動産を目的とする担保権の実行は,抵当権による場合を含めて,執行裁判所に対する書面(申立書)による申立てによる[民事執行規則1条]。申立書には,債権者,債務者のほか,目的物の所有者,担保権・被担保債権・目的物の表示などが記載されなければならない[民事執行規則170条]。

*表64 担保不動産競売手続きの流れ(1)
  債権者 執行裁判所
手続きの流れ 根拠条文 手続きの流れ 根拠条文
競売の申立て 担保不動産競売の申立て 民事執行法181条 抵当権の存在を証する
文書の目録等の
相手方への送付
民事執行法181条4項
抵当権の存在を証する文書
(執行名義)
(通常は,「登記事項証明書」)
民事執行法181条
不動産競売の申立書の提出 民事執行規則170条

担保不動産競売を開始するには,強制執行の場合とは異なり,債務名義は要求されない。それに代えて,担保権の存在を証する一定の文書(法定文書)の提出(いわゆる執行名義)が必要である[民事執行法181条]。通常の債権に基づく強制執行の場合と担保権の実行とでこのような区別が生じた理由は,以下のような歴史的な経緯に基づくものである[中野・民事執行概説(2006)275-277頁]。

民事執行法の成立(1979年)以前には,旧民事訴訟法第6編に規定されていた強制執行とは異なり,担保権の実行は競売法(1980年廃止)に規定されており,両者は,完全に区別されていた。担保権を有しない一般債権者の債権を満足させるために,国家の強制執行権に基づいて債務者の一般財産を差し押さえて換価するのが強制執行の手続きであるから,一般債権者の債権の存在を公証する文書である判決等の債務名義を必要とする(この例外が債権者代位権,詐害行為取消権である)。これに対して,担保権の実行は,物権者である担保権者が担保権に内在する換価権を行使して担保目的物である特定財産を換価し,被担保債権の優先的弁済に充てる手続き(任意競売)であるから,債務名義は必要ないと考えられてきたのである。

もっとも,担保権の実行手続きである任意競売においては,強制競売の場合よりも開始要件は緩やかであるが,後になって担保権が存在しないことが証明されると,競落人(買受人)の代金納入後もその所有権取得を争うことができるとされており〈最三判昭37・8・28民集16巻8号1799頁〉,強制競売の場合に比べて,買受人の地位は不安定なものであった。しかし,一般債権者であれ,担保権を有する債権者であれ,債務者が債務不履行になった場合には,債権の効力として掴取力を有しており,その作用として実体法上も債権の満足を得ることのできる範囲で換価権を有するのであるから,両者を区別する実質的な理由は存在しない。そこで,民事執行法の制定により,競売法は廃止され,強制執行も担保権の実行も,同一の法典の中に組み込まれることになった。

その際,立法論としては,さらに一歩を進め,担保権の実行についても,国家の執行権行使の前提として債務名義を要求すべきであり,かつ,強制執行の一部として同一の法典の中に規定すべきであると主張されていた。そして,担保権の実行手続きにも,公正証書や受忍判決などの債務名義(物的債務名義)を要求する方向で検討がなされた。しかし,担保権の実行には債務名義を必要としないという慣行が定着していたことを尊重して,民事執行法においても,従来どおり,担保権の実行には債務名義が要求されないことになったのである。

ただし,民事執行法における担保権実行の規定については,強制執行の場合と比較した場合に,以下の問題が生じていた。入口の要件が厳しく,確定判決等の有効な債務名義が要求されるために,仮に現実には執行債権が存在しない場合でも,目的物が債務者の財産に属する限り,買受人は所有権を取得しうる(ただし,民法568条の担保責任の問題が生じる)と解されている強制執行と比較してみよう。担保権の実行は,入り口の要件が緩く,債務名義が要求しないにもかかわらず,出口の公信的効果として,買受人が代金を納入すれば,たとえ担保権が存在しない場合にも,買受人の競売による所有権の取得は妨げられないと規定されている[民事執行法184条]。これでは整合性が保たれていないといわざるを得ない。

そこで,民事執行法における担保権の実行においては,入口の要件が緩く,債務名義を要求しないにもかかわらず,出口の公信的効果を認めていることを正当化するために,旧競売法とは異なる,以下のような手続上の手当てが行われている[中野・民事執行概説(2006)279-280頁]。

*表65 旧競売法,担保権の実行,強制執行との異同
  旧競売法
(1980年廃止)
民事執行法(1979年制定)
担保権の実行 強制執行
競売開始の要件 債務名義も法定文書も必要としない(旧競売法22条1項参照)。 債務名義は必要としないが,法定文書の提出が必要[民事執行法181条]。 債務名義が必要[民事執行法22条]。
競売開始決定
に対する異議
明文の規定なし。
判例は,実体上の理由に基づいて異議を申し立てることができるとしていた(大決大2・6・13民録19輯436頁等)。
執行異議[民事執行法11条],執行抗告[民事執行法10条]という「決定手続き」によって,債務者・所有者は,担保権の不存在や消滅(実体異議)を,買受人の代金納付に至るまで主張することができる[民事執行法182条]。さらに,担保権不存在確認の訴え等を提起して,判決手続きによる救済を求めることもできる([民事執行法183条1項1号,2号]参照)。 実体法上の不服申立ては,請求異議等の「訴訟手続き」による必要がある。
手続きの
停止・取消し
明文の規定なし。
異議の申立てがあっても,競売手続停止の効力を有しないとされていた。
担保権の登記抹消に関する登記事項証明書など,担保権の実行を妨げる事由を証する法定の公文書があれば,担保権の実行手続きを停止し,執行処分を取り消すことができる[民事執行法183条]。 民事執行法39条に掲げられた裁判の正本等の「執行取消文書」が提出された場合に限定されている。
買受人の
権利の確保
明文の規定なし。
判例は,競売に公信的効果はないとしていた〈最三判昭37・8・28民集16巻8号1799頁〉。
競売に公信的効果がある[民事執行法184条]。
ただし,第1に,目的物の所有者が担保権のないことを理由に競売手続きを阻止する機会を十分に保証されなかった場合(偽造文書によって競売が行われた場合など),第2に,買受人が担保権のないことを知っていた場合など,買受人の信頼利益を保護する必要がない場合にも,公信的効果は否定される。
競売に公信的効果はない。
目的物に権利の瑕疵がある場合には,買受人は追奪を受けるので,買受人は,民法568条によって保護される(ただし,民法570条の保護はない)。

上の表からもわかるように,担保権の実行手続きは,@担保権を通常の債権とは異なる権利(物権)として,特別法(旧競売法)によって処理され,過剰に優遇された時代から,A通常の金銭債権と同様に,民事執行法という同一の法典の下で,かつ,強制執行手続きを準用する[民事執行法188条,192条,194条]という形で統一化が進行する時代へと移行しているといえよう。

本書の立場のように,物的担保を物権ではなく,保護されるべき法定の債権の場合(留置権,先取特権)または一般債権でも,物的担保とする合意と公示とがある場合(質権,抵当権,仮登記担保,譲渡担保)には,債権の掴取力が強化され,一定の範囲で他の債権者に先立って弁済を受けることができるに過ぎないと考えるならば,担保権の実行手続きは,金銭債権の強制執行と区別する必要はなくなるのであるから,将来的には,担保権の実行手続きは,強制執行と全く同一の手続きに組み込むことも可能となろう。

なお,上の表でも明らかなように,民事執行法184条で規定された公信的効力は,担保権実行の入口で債務名義が要求されないにもかかわらず,競売手続きにおける実体法上の理由に基づく異議を広く認めていることに基づいて認められたものであり,以下の判例〈最三判平5・12・17民集47巻10号5508頁〉のように,所有者が悪意の場合であっても,所有者が手続き上当事者として扱われていない場合には,買受人は,民事執行法184条による所有権の取得を主張できないとしている点に注意を要する。

最三判平5・12・17民集47巻10号5508頁
 民事執行法184条を適用するためには,競売不動産の所有者がたまたま不動産競売手続が開始されたことを知り,その停止申立て等の措置を講ずることができたというだけでは足りず,所有者が不動産競売手続上当事者として扱われたことを要する。
(b) 差押え−担保権実行の開始

抵当権の実行手続きを含めて,担保権の実行手続きの第1段階は,強制執行と同様に,執行機関による担保目的物の差押えによって開始される[民事執行法188条,45条1項]。旧競売法には,強制競売の場合とは異なり,債権者のために不動産の差押えを宣言する旨の規定がなかった[斎藤・競売法(1960)116頁]。このため,差し押えの効力がいつ,どのように生じるのか等を含めて,手続きの不安定が生じることもあった。民事執行法は,担保権の実行においても,強制執行の差押えに関する規定を準用することによって,この問題を解消したのである。すなわち,担保権者が法定文書(抵当権の場合には,登記事項証明書が一般的)を提出して不動産競売の申立てをすれば,執行裁判所が不動産競売の開始決定をし,不動産を差し押さえる旨を宣言することによって開始する[民事執行法188条による45条1項の準用]。

担保権の実行の開始としての不動産競売の差し押さえについては,以下の表のように,基本的に,強制執行の競売に関する規定が準用される。ここでは,担保権の実行に関する特則だけを説明するに留める。

競売開始決定前の保全処分 担保不動産競売手続きについては,不動産占有による価値減少行為を防止するため,独自の類型として,開始決定前の保全処分が認められている[民事執行法187条]。

平成15(2003年)年の担保法改正(「担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律」(平成15年法134号)に基づく一連の改正)以前は,この規定は,滌除に関連した執行妨害を防止するための規定として存在していたが,滌除制度が廃止されて,滌除に関連する抵当権の実行通知制度[民法旧381条]が廃止された後も,抵当権の実行直前に執行妨害が行われることを考慮して,開始決定前の保全処分が存続されることになった。

強制執行における売却のための保全処分[民事執行法55条]は,競売申立てと同時か,それ以降でないと申し立てることができないが,担保権執行では,担保不動産に対する価値減少行為があるときは,競売開始決定前でも,担保権者の申立てによって執行裁判所は,売却のための保全処分とほぼ同等の行為命令・執行官保管命令,公示保全処分ができる[民事執行法187条1項]。

競売開始決定前の保全処分は,債務者または不動産の所有者・占有者が不動産の価格を減少させる行為をするおそれがある場合に,執行裁判所が特に必要があると認められるときに命じられる[民事執行法197条1項本文]。申立権者は,担保権を実行しようとする者であり,処分の内容は,禁止命令,行為命令,執行官保管命令,公示保全命令であり,売却のための保全処分と同じである[民事執行法187条1項,55条1項の準用]。

競売開始決定前保全処分の特則として重要な点は,第1に,競売開始決定が将来なされるであろうことを明らかにするために,担保権実行に必要な文書を提出しなければならないこと[民事執行法187条3項],第2に,申立人が保全処分の決定の告知から3ヶ月以内に競売申立てをしたことを証する文書を提出しないときは,保全処分の相手方または不動産の所有者の申立てにより,保全処分が取り消されること[民事執行法187条4項]である。

この競売開始決定前の保全処分は,競売開始後も継続し,引渡命令まで引き継がれて行く。この点は,売却のための保全処分と同じである[民事執行法187条,55条の準用]。

競売開始決定−差押え−の効力 差押えの効力については,強制競売の差押えに関する規定が準用されている[民事執行法188条]。差押えの効力は,開始決定が債務者に送達されたときに生じるが,差押えの登記がこの送達よりも前のときは,登記のときに生じる[民事執行法46条1項の準用]。

債務者は,差押えの効力発生後も,通常の用法により,不動産を使用・収益することができる[民事執行法46条2項の準用]。差押えの処分禁止の効力は,「手続相対効」と解されている(詳しくは,[中野・民事執行法(2006)388頁]参照)。すなわち,差押えの効力発生後に所有者のする処分は,所有権の譲渡,抵当権の設定,用益権の設定を問わず,差押債権者のほか,手続きに参加する他の債権者に対抗できない。したがって,差押えの効力が発生した後の処分は,競売手続上,すべて無視されることになる。例えば,差押登記後に抵当権の設定登記を受けた債権者は,たとえ抵当権の実行としての二重競売開始決定を受けたとしても,それだけでは,配当にあずかることはできない。

(c) 不動産の換価の準備

担保権の実行手続きの第2段階として,差し押さえられた目的財産を金銭化する換価の手続きについても,金銭債権の強制執行の換価についての規定が準用され,これと同一の手続きによって処理される[民事執行法188条]。

換価を適正に行うためには,関係者が,目的不動産およびそれに付随する物の現況,ならびに,不動産上の権利関係の内容を正しく把握することが必要である。これが,不動産の換価のための準備である。

不動産換価のための準備として,第1に,執行裁判所は,執行官に不動産の現況調査を命じなければならない[民事執行法188条による57条の準用]。また,執行裁判所は,評価人を選任して,不動産を評価させなければならない[民事執行法188条による58条の準用]。

第2に,執行裁判所は,評価人の評価に基づいて,不動産の売却額の基準となるべき価額(売却基準価額)を定めなければならない[民事執行法188条による60条の準用]。

第3に,裁判所書記官は,物件明細書を作成して,売却実施の日の1週間前までに裁判所にその写しを備置き,一般の閲覧に供し,または裁判所規則で定める措置(インターネットに接続された自動公衆送信装置を使うなど)を講じて,不特定多数の者がその内容の提供を受けることができるようにしなければならない[民事執行法188条による62条2項,民事執行規則31条1項,2項の準用]。

これらの措置は,買受けの申出をしようとする者が,正確な情報を事前に,かつ,容易に入手できるようにし,買受人が不足の損害を受けないようにするとともに,売却価額が不当に安くなることを避けるために規定されたものである。

(d) 不動産の換価

不動産の換価の準備に引き続き,換価手続きが行われる。不動産執行の強制競売に関する規定がそのまま準用される結果[民事執行法188条],旧競売法の下で,担保権実行の特色として強制執行とは異なる手続きによっていたものが,強制執行と統一的に解決されることになったものが多い。

第1に,強制執行における剰余主義[民事執行法63条]を準用する結果として,旧競売法下では,担保権に内在する換価権の行使であることを理由に無剰余換価を認めていた実務が改められることになり,担保権の実行と金銭債権の強制執行の差がさらに縮められたことになる。先順位抵当権者の債権および手続費用を弁済してもなお剰余が生じる見込みがないときは,後順位抵当権者自らが,それらの債権と費用とを弁済できる価格で買い受けるとの保証をしない限り競売の申立てが認められないのは,以上の経緯による。

第2に,超過売却禁止の原則,すなわち,数個の不動産を売却した場合において,あるものの買受けの申出の額で各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済することができる見込みがあるときは,執行裁判所は,他の不動産についての売却許可決定を留保しなければならないという原則[民事執行法73条]についても,旧競売法下では準用されていなかった[旧競売法32条2項]。立法者は超過競売を許す趣旨であったとみられるが,通説・判例は超過競売を許さないとしていた[斎藤・競売法(1960)160頁]。そこで,民事執行法は,上記の原則を適用して,超過競売を禁止した。ここでも,担保権の実行手続きと金銭債権の強制競売の手続きが統一化されている。

なお,担保不動産競売の場合に法定地上権の規定[民事執行法81条]が準用されない理由は,もともと,民法には,担保不動産の実行の場合に,法定地上権の条文[民法388条]が用意されているからである。もっとも,現代語化前の民法旧388条の規定には不備があったが,現代語化の際に,民事執行法81条と同様の規定に改められ,ここでも,担保法の実行手続きと金銭債権の強制執行手続きの統一化が実現されている。

ここでいう「民法旧388条の不備」とは,第1は,民法旧388条は,「抵当権設定者は競売の場合に付き地上権を設定したるものと看做す」と規定していたことである。これでは,建物のみに抵当権が設定された場合の解決策だけが規定されただけであり,土地のみに抵当権が設定された場合については,何の解決策も示されていなかった。第2は,第1点と関連するが,民法旧388条が,法定地上権の成立について,「抵当権設定者は…地上権を設定したるものと看做す」と規定していたため,法定地上権の目的が,本来は「建物の保護」という客観的な基準であるにもかかわらず,「当事者の意思の推測」という主観的な基準であるかのような誤解を招くことになった。この2つの不備を補うため,現代語化に際して,現行民法388条は,民事執行法81条の規定にならって,「土地又は建物につき抵当権が設定され,その実行により所有者を異にするに至ったときは,その建物について,地上権が設定されたものとみなす」と規定した。このことによって,法定地上権は,建物を保護するという客観的な目的のために,建物の利用権を確保するものであるということが明確となったのである。

上に述べたように,民法388条と民事執行法との間で完全な疎通が図られたため,民事執行法188条は,抵当権の実行(担保不動産競売)の場合に,不動産強制執行の規定を準用するに際し,法定地上権の成立の重複を避けるために,民事執行法81条の準用だけを除外したのである。したがって,民法388条の解釈においては,仮に民事執行法が適用されたならば,法定地上権が成立するという場合(抵当権設定時には土地およびその上の建物の所有権が同一人に帰属していないが,抵当権の実行の時には同一人に帰属している場合など)について,民法388条の適用を除外してはならないという点に留意すべきである。なぜなら,民法388条による法定地上権の成立の範囲を狭めるならば,同調(シンクロ)が取れていたはずの両規定の間に隙間ができ,建物の保護という民事執行法と民法との共通目的が実現されないことになるからである。

不動産の売却によって,抵当権は消滅する[民事執行法59条1項]。また,抵当権に対抗できない権利も同時に効力を失う[民事執行法59条2項]。

不動産競売の買受人は,代金を納付することによって不動産の所有権を取得する[民事執行法188条による79条の準用]。そして,この効果は,担保権の不存在または担保権の消滅によって妨げられない[民事執行法184条]。

この規定によって,担保不動産競売に公信的効果が認められたことになる。この点については,(i)「担保不動産競売の申立て」の箇所において,旧競売法,担保権の実行,強制執行との比較を通じて,詳しく論じたので,ここでは繰り返さない。

なお,競売による買受に関しては,民法390条は,「抵当不動産の第三取得者は,その競売において買受人となることができる」としている。抵当目的物の所有者である第三取得者が自分の物の買受人になるというのは,一見したところでは,奇妙である(通説は,「自己が自己に売る関係になるので,特に規定を置いたものであるが,当然のことである」[内田・民法V(2005)449頁]と説明している)。そこで,民法の立法理由を見てみると,「当然のこと」ではなく,以下のように記述されていることがわかる。

(理由)本条は既成法典担保編第280条に文字の修正を加ヘたるのみ。原文に「原証書確認の証書」としてと云ヘるは啻〔タダ〕に法文としての体裁宣しきを得さるのみならず,第三取得者が競落人となりたる場合に於ては,寧ろ,新権原に由りて之を取得したるものと視るを妥当とす。而して唯権原の更まるのみにして取得者は其人を同じうするを以て,単に附記を爲せば足れるものとするなり。殊に「証書確認」と言ふは頗る解し難きものなり。或は草案に於て「権原(titre)の確認」と云ひしを誤りて「証書確認」と訳したるものならん。
旧民法債権担保編 第280条
@総ての場合に於て,解除の請求なく又は其認許なきときは,第三所持者は競売の際競買人と為ることを得。
A第三所持者の利益に於て競落を宣告したるときは,其判決は原証書確認の証拠として,其原証書に依る登記に之を附記するのみ

以上のように,民法の立法者によれば,民法390条は,競売によって,第三取得者に抵当権が消滅した物件を,「新権原」として取得することを認めるものであった。このように,一見,意味が不明の条文の立法理由をたどると,現行民法の立法者の意図を理解することができるとともに,旧民法には,ボワソナードの作成した草案(Projet)の趣旨を読み誤った誤訳(旧民法に「原証書」とあるのは,実は,「権原(titre)の誤訳)が存在することも明らかとなって興味深い。

(e) 満足

担保権の実行手続きも,金銭債権の強制執行と同様に,その最終段階(第3段階)として,目的物の換価金から債権者に満足させることによって終了する。債権者が1人であるか,2人以上でも,換価金から執行費用および債権額全額を弁済できれば,それで終了するが[民事執行法84条2項],競合する債権者の全員を満足させることができないときは,配当手続きによって換価金を分配しなければならない。

配当手続きにおいては,第1に,第三取得者に対して,「他の債権者より先に」その支出した費用が償還される[民法391条]。これは,第三取得者に一種の共益費用の先取特権[民法329条2項]を認めたものである。その理由は,第三取得者が支出した必要費または有益費は,抵当不動産の価値を維持するのに最も密接な関連を有するものだからである。

配当手続きにおける担保権の実行としての二重の競売申立ての取扱い,配当要求の範囲および配当手続きについても,強制執行と同一の手続きによって処理される。

旧競売法の下では,不動産に対する任意競売と強制競売の競合の取り扱い,任意競売についての配当要求の可否,配当手続きの有無について説が分かれており,判例は,競売法による競売手続きには,強制執行の配当手続きに関する規定の準用はないとしてきた(〈大判大2・10・28民録19輯875頁〉ほか)。

この問題を解決するため,民事執行法は,いずれの場合にも,不動産の強制競売と同様の手続きによって処理することにしている[民事執行法188条]。すなわち,第1の競合の問題については,強制競売または担保権実行としての競売開始決定がなされた不動産について,さらに担保権の実行または強制競売の申立てがなされた場合には,二重の競売開始決定がなされる[民事執行法188条による47条1項の準用]。第2に,配当要求の可否については,担保不動産競売においても,強制競売と同様,債務名義のある債権者,仮差押えの登記をした債権者および一般の先取特権者だけが配当要求をすることができる[民事執行法188条による51条1項の準用]。第3に,配当手続きについては,担保不動産競売においても,強制競売と同様の配当手続きが行われることになる[民事執行法188条による84条以下の準用]。

(f) 抵当不動産が第三者に譲渡された場合

平成15(2003)年の担保・執行法の改正以前は,抵当不動産の第三取得者による滌除の制度をめぐって,さまざまな問題点が指摘され,改正が要望されていた。担保・執行法の改正によって,滌除の仕組み自体は廃止されず,従来からその弊害とされていた点を改め,名称も,滌除から,「抵当権消滅請求」へと変更された[民法379条〜386条]。

抵当権消滅請求[民法379条〜386条]の実体法上の意義については,後に,第9節C(b)で詳しく論じるが,その手続きの概略は,以下の通りである。

第1に,抵当権の第三取得者は,抵当権の実行としての競売による差押えの効力が発生する前に,抵当権の登記をした各債権者に対して,抵当不動産の代価等,法定の要件を記載した書面を送付して,抵当権の消滅請求を行う。第2に,抵当権の登記をした各債権者が抵当権消滅請求の書面の送付を受けた後2ヶ月以内に抵当権を実行して競売の申立てをしないときは,送達された書面によって提供された代価等を債権優先の順位に従って弁済(供託)する旨を承諾したものとみなされる。第3に,抵当不動産の第三取得者がその代価等を払い渡すか,供託したときに抵当権は消滅する。

(g) 一般債権者による担保目的物の差押え

抵当権者も債権者であるから,一般債権者の立場で債務者の一般財産に対して強制執行をすることもできる。しかし,抵当権者は,抵当目的物に対して優先弁済権を確保しておきながら,債務者の一般財産に対して強制執行をすることを認めたのでは,他の一般債権者を害することになる。そこで,民法394条は,抵当権者の一般財産への執行を制限している。すなわち,抵当権者は,まず,抵当目的物に対して担保執行を行い,その代価で弁済を受けられなかった債権の部分についてのみ債務者の強制執行をすることができるに過ぎない[民法394条1項]。

しかし,抵当権の実行前に他の財産が強制執行される場合には,抵当権者は,債権全額について,強制執行の目的となった財産から他の債権者と平等の立場で配当を受けることができる[民法394条2項1文]。ただし,この配当に対しては,他の債権者は,その後抵当権が実行されて抵当権者が優先弁済を受けうる額についてはそれを控除すべきであることを根拠として,抵当権者に優先弁済を受ける額を控除した債権額での按分比例による配当額のみを受け取らせるために,抵当権者に配当すべき金額を供託するように請求することができる[民法394条2項2文]。そうなると,結果的には,抵当権者は,民法394条1項の場合と同じ配当しか得られないことになる。

(h) 滞納処分と強制執行との競合

国税[国税徴収法8条]および地方税[地方税法14条]の租税債権は,納税者の総財産の上に効力を及ぼす一般の先取特権として扱われる。国税,地方税の法定納期限等以前に抵当権が設定されているときは,抵当権が国税,地方税に優先する。なお,滞納処分(国税徴収法)と強制執行(担保権の実行としての競売を含む)との競合に関しては,滞納処分と強制執行との手続の調整に関する法律が,両者の手続きの調整を図っている。

C. 担保不動産収益執行
(a) 担保不動産収益執行が創設された経緯

2003(平成15)年の担保・執行法改正以前は,抵当権などの不動産担保権の実行方法としては,競売のみが認められ,不動産の収益を対象とする強制管理類似の制度は認められていなかった。しかし,抵当不動産が大規模のテナントビルであるような場合には,抵当不動産の売却には時間を要するが,賃料等の収益が継続的に認められることがあり,抵当不動産の賃料から優先弁済を受けることのできる制度を求める声が高まっていた。

また,抵当不動産の賃料に対する抵当権の行使を認めた判例〈最二判平1・10・27民集43巻9号1070頁(民法判例百選T〔第6版〕第86事件)〉を契機として,抵当権に基づく物上代位による賃料差押えの手続きが実務上定着するようになった。この手続きによって,抵当権者は,債務者の債務不履行後は,実質的に目的不動産の収益を把握できることになった.。

しかし,抵当権に基づく賃料債権に対する物上代位の手続きについては,以下のように,さまざまな弊害が指摘されている。

第1に,物上代位によると,不動産の賃料の中に含まれている管理費相当額まで取り立ててしまうため,所有者は,抵当不動産の管理を適切に行うことができなくなり,不動産がスラム化するおそれがある。第2に,担保不動産に多数の賃借人がいるときは,賃借人を特定して賃借人ごとにその賃料債権を差し押さえる必要があり,債権者にとっても面倒である。第3に,債権者は,賃料不払いなどを理由に賃貸借契約を解除したり,新たに賃貸借契約を結ぶことができないなど,不動産自体を管理することができない。第4に,執行妨害のおそれがある場合には,不動産自体を占有する管理手続きでなければ適切に対処できない。

このような点を考慮して,2003(平成15)年の担保・執行法改正によって,担保不動産収益執行制度[民事執行法180条以下]が新たに導入されるに至った。

この担保不動産収益執行制度は,従来の担保不動産競売手続きと別個に規定するのではなく,ともに不動産担保権実行の方法として,一括して両者に適用される規定が置かれることになった[民事執行法180条〜183条]。そして,不動産担保権の実行は,担保権者が,担保不動産競売の方法と担保不動産収益執行の方法のいずれか,または,双方を選択して申し立てることができる[民事執行法180条]。

さらに,抵当権に基づく物上代位による賃料差押えも,担保不動産収益執行制度と引換にその廃止論が唱えられたにもかかわらず,廃止することなく維持されることになったため,担保権者は,事案に応じて,担保不動産収益執行の手続きか,物上代位の手続きかを選択できる。双方の関係は,理論的には,賃借人の数が少なく賃料額も低いような不動産には,物上代位の手続きが適し,賃借人が多数で不法占拠者の排除や新規契約等の管理行為を必要とするような不動産には,担保不動産収益執行の手続きが適しているとされている。しかし,現在においても,賃料が高くて効率のいい物件に対して,物上代位手続きが濫用的に用いられている。このような実態からみても,2003(平成15)年に担保不動産収益執行の制度が創設された時点で,抵当権に基づく賃料債権に対する物上代位の制度は廃止されるべきであった[内田・民法V(2005)461頁]。したがって,解釈論としても,物上代位の及ぶ範囲は,少なくとも,管理費用に及ぶことがないよう,限定的に解釈すべきであると思われる。

(b) 収益執行の開始要件

担保不動産収益執行の開始要件は,担保不動産競売の場合と同じであり,法定文書の提出を要する[民事執行法181条]。

(c) 収益執行の開始決定

担保不動産収益執行における開始決定・差押えについても,担保不動産競売と同じ規定が適用され[民事執行法181条以下],担保不動産収益執行については,強制管理の規定が準用される[民事執行法188条]。

したがって,担保権者が法定文書を提出して,担保不動産収益執行の申立てをすれば,執行裁判所は,担保不動産収益執行の開始を決定し,担保不動産の差押えを宣言し,債務者に対して収益の処分禁止を命ずるとともに,管理人を選任して,不動産の賃借人に対して賃料等を管理人に交付すべき旨を命ずる[民事執行法188条による93条,94条の準用]。

担保不動産の収益執行においては,未収穫の天然果実,未払いの法定果実については,差押えの処分禁止効が及ぶが,差押時に収穫済みの天然果実については,差押えの処分禁止効は及ばないと解されている。そこで,平成15(2003)年の担保・執行法改正によって,強制管理と担保不動産収益執行における差押えの処分禁止効の範囲を統一するため,民事執行法93条2項の規定から,「既に収穫した天然果実」を削り,「後に収穫すべき天然果実及び既に弁済期が到来し,又は後に弁済期が到来すべき法定果実」に差押えの処分禁止効が及ぶことになった。両手続きにおける処分禁止効の範囲が異なることになれば,二重開始決定をした場合の処理が複雑になるからである。

(d) 収益執行手続き

不動産収益執行における換価としての収益の収取および換価についても,強制執行における強制管理の規定が準用される[民事執行法188条]。したがって,執行裁判所による不動産収益執行開始決定とともに管理人が選任される[民事執行法94条]。

管理人は,不動産を管理し,また不動産の収益を収取することができる[民事執行法95条1項]。管理人は,不動産につき第三者と賃貸借契約を締結し(長期の場合は抵当権設定者の同意が必要である),賃借人を抵当不動産に入居させることができる[民事執行法95条2項]。また,管理人は抵当権設定者の占有を解いて管理人自らが不動産を占有することもできる([民事執行法96条],ただし[民事執行法97条]は,執行裁判所が抵当権設定者および同居の親族の建物使用の許可をすることができる旨を規定している)。さらに,担保不動産収益執行により,抵当権設定者の生活が著しく困窮することとなるときは,執行裁判所は,申立てにより,管理人に対し,収益又はその換価代金からその困窮の程度に応じ必要な金銭又は収益を債務者に分与すべき旨を命ずることができる[民事執行法98条]。管理人は,一方で,善良な管理者の注意をもってその職務を行わなければならず,注意を怠ったときは,管理人は,利害関係を有する者に対し,連帯して損害を賠償する責任を負う[民事執行法100条]が,他方で,管理人は,強制管理のため必要な費用の前払及び執行裁判所の定める報酬を受けることができる[民事執行法101条]。

この不動産の収益は,すでに述べたように,「後に収穫すべき天然果実及び既に弁済期が到来し,又は後に弁済期が到来すべき法定果実」[民事執行法93条2項]である。管理人は,天然果実を売却し,地代・賃料を取り立てるなど,これらの収益の収取および換価をするため,必要な裁判上・裁判外の行為をすることができる([民事執行法95条〜98条]参照)。

(e) 配当手続き

不動産収益執行・強制管理において配当を受ける債権者は,執行裁判所の定める期間ごとに,その期間の満了するまでに執行の申立て等の手続きを経た以下のような者である[民事執行法188条による107条の準用]。

  1. 強制管理の申立てをした差押・仮差押債権者[民事執行法107条4項1号イ]
  2. 一般の先取特権の実行として担保不動産収益執行の申立てをした者[民事執行法107条4項1号ロ]
  3. 最初の強制管理による差押えの登記前に登記がなされた担保権に基づき担保不動産収益執行の申立てをした者[民事執行法107条4項1号ハ]
  4. 配当要求をした有名義債権者と一般の先取特権者[民事執行法105条]
  5. 先行手続きで債権執行・配当要求をしていた者[民事執行法93条の4第3項]

強制執行とは異なり,不動産上に登記を有する担保権者であっても,上記に該当しない者は配当を受けることができないことになるが,収益執行の場合は,担保権が消滅するわけではないこと,すなわち,不動産収益執行は競売に代替する終局的な優先弁済の方法ではないことが,このような規定が制定された理由となっている。

配当等に充てるべき金銭は,第98条第1項の規定(抵当権設定者困窮の場合)による分与をした後の収益又はその換価代金から,不動産に対して課される租税その他の公課及び管理人の報酬その他の必要な費用(賃貸ビルや賃貸マンション等の管理会社の報酬・共用部分の電気代・ガス代・水道代・エレベータの保守管理費用等)を控除したものである[民事執行法106条]。

管理人は,執行裁判所の定める期間ごとに,配当等を実施しなければならない[民事執行法107条1項]。債権者が1人である場合又は債権者が2人以上であって配当等に充てるべき金銭で各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済することができる場合には,管理人は,債権者に弁済金を交付し,剰余金を抵当権設定者に交付する[民事執行法107条2項]。これ以外の場合で,配当等に充てるべき金銭の配当について債権者間に協議が調ったときは,管理人は,その協議に従い配当を実施する[民事執行法107条3項]。協議が調わないときは,管理人は,その事情を執行裁判所に届け出なければならない[民事執行法107条5項]。その場合には,執行裁判所が直ちに配当等の手続を実施しなければならない[民事執行法109条]。

(f) 担保不動産収益執行と他の手続きとの調整

担保不動産収益執行の差押えと強制管理および物上代位による差押えが重複して申し立てられた場合に,相互を調整する規定が置かれている[民事執行法188条による93条の2,93条の3,93条の4]。

第1に,強制管理または他の収益執行の開始決定が先行した不動産について収益執行(または強制管理)の申立てがなされた場合には,二重の開始決定をする[民事執行法188条による93条の2の準用]。

第2に,不動産収益の給付請求権について,物上代位等の債権執行による差押命令または仮差押命令が先行した後に収益執行等の開始決定の効力が生じた場合には,先行手続きを吸収して収益執行等の手続きに一本化するため,先行する物上代位等の差押命令等の効力は停止することになった[民事執行法188条による93条の4第1項本文,同条2項の準用]。

(g) 担保不動産収益執行の問題点

担保不動産執行は,抵当権者による物上代位の行使が,自らは管理も何もせずに,賃料全額を収奪するものであるため,賃貸物件のスラム化を招く等大きな弊害をもたらしているのに比較して,弊害の少ない制度ということができる。

しかし,第1に,制度設計の根本にさかのぼるならば,この制度は,不動産質を管理会社に委ねたのと同じ機能を有することになる。したがって,いわゆる非占有担保権(厳密には,使用・収益を奪わない担保権)である抵当権に,いわゆる占有担保物権である不動産質と同じ権能を認めることが理論的に許容されるかどうかという問題を抱えている。

第2に,担保不動産収益執行の実際の運用は,管理人が抵当権者のために長期にわたり債権の優先回収を図るという制度趣旨に沿ったものになっておらず,「近い将来申し立てる担保不動産競売申立て(これによって,抵当権の設定登記に遅れて成立した賃貸借契約をすべて覆ることができる)を効率的に行うために,管理人に不動産を管理させ,抵当権実行妨害目的の占有者等の入居を阻止したり,占有者の実態を把握させる」ために(担保不動産競売の補完的役割を果たすに過ぎないものとして)利用されているという(詳細については,生熊長幸「担保不動産収益執行制度−物上代位との関係」[伊藤古稀記念・担保制度の現代的展開(2006)43-44頁]参照)。

このような実態からすると,いわゆる非占有担保権としての抵当権者にいわゆる占有担保権としての不動産質権者の権能まで認めることには,せいどっ設計上無理があったのであり,「単に抵当権に基づく賃料債権への物上代位を合理化するだけの制度設計のほうが現実的ではなかったか」生熊長幸「担保不動産収益執行制度−物上代位との関係」[伊藤古稀記念・担保制度の現代的展開(2006)44頁]という説が説得的である。後に述べるように*第5節5(抵当権の物上代位),物上代位については,それを合理化するために,効力の及ぶ範囲を「担保目的物のなし崩し的減価」(賃料から管理費等を差し引いた部分)に限定するという解釈論が採用されるべきであろう。

D. 競売手続以外の方法としての抵当直流れ[民法349条の反対解釈]
(a) 抵当直流れの意義と清算の必要性

債権の弁済期前の特約で,債権者である抵当権者に目的不動産を取得させることが可能である。このような特約を抵当直流れ(じきながれ)という。

抵当直流れは,抵当権の実行に関して,通常の実行手続を回避して,抵当権者に「抵当権の私的実行」を認めるものであり,その性質は一種の代物弁済の予約である[高木・担保物権(2005)183頁]。

質権の場合には,私的実行である流質契約は原則的に禁止されているが[民法349条],抵当権については禁止規定がないため,通説・判例〈大判明41・3・20民録14輯313頁〉は,これを有効と解してきた。

担保権の私的実行が問題とされるのは,担保目的物の価値が債権額を大きく上回る場合であり,この場合に私的実行を有効と解すると,債権者の暴利行為を認めることになり,妥当ではないからである。したがって,私的実行の場合にも,債権者に清算義務があると解することができれば,私的実行を禁止する必要はなくなる。

質権の場合に原則的に私的実行が禁止されているのは[民法349条],比較的値段の低い動産をも目的物とする質権に関して,常に清算手続を義務づけるとすれば,質権の実行が費用倒れになるおそれが大きいからであり,営業質の場合にも清算義務は課されていないことはすでに論じた。したがって,流質の禁止原則を脱法する結果を生じる動産譲渡担保の場合は,私的実行が認められている代りに譲渡担保権者に清算義務が課せられている。

(b) 抵当直流れと仮登記担保との関係

抵当直流れを認めるとともに,抵当権者に清算義務を課すという解釈をとる場合,抵当直流れと仮登記担保との関係が問題となる。抵当直流れも,一種の代物弁済予約であると考えると,抵当直流特約が仮登記によって保全されている場合には,それは,仮登記担保と解することができる。

これに反して,抵当直流れの特約が仮登記によって保全されていない場合が,純粋の抵当直流れということになる。もっとも,この抵当直流れに関しても,清算義務や受戻権等につき,仮登記担保法の規定が類推適用されるべきである。


□ 学習到達度チェック(20) 抵当権の実行 □


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