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作成:2010年9月24日
明治学院大学法科大学院教授 加賀山 茂
債権者が同一の債権の担保として,数個の不動産の上に抵当権を有するものである共同抵当について,それぞれの不動産について利害関係を有する債権者との間でどのような配当が行われるのかを具体例を通じて理解する。さらには,物上保証人と後順位抵当権者との間で,どのような配当が行われるのかを具体例を通じて理解する。
共同抵当とは,同一の債権の担保として数個の不動産の上に設定された抵当権のことである。わが国では,土地と建物とが別個・独立の不動産とされているため,数筆の土地とか,数個の建物を抵当に取る場合ばかりでなく,1箇所にある土地と建物とを一括して抵当にとる場合でも,それは単独抵当ではなく,共同抵当となる。したがって,共同抵当は,広く用いられている。
ところが,債務者の不動産が共同抵当の目的物とされた場合(同主共同抵当)でさえ,先順位抵当権者と後順位抵当権者との利害が複雑に絡むため,その調整は単純ではない。債務者と物上保証人の別々の不動産が共同抵当の目的物とされた場合(異主共同抵当)には,物上保証人の求償権を担保するための代位弁済の制度が問題となるため,さらに複雑な問題が生じる。そこで,以下では,まず,同主共同抵当について設例によって解説を行った後,異主共同抵当について,設例を通じて解説を行うことにする。
債務者が所有する価額3,000万円の甲不動産,2,000万円の乙不動産,1,000万円の丙不動産があり,第1に,甲・乙・丙上にAの債権額3,000万円の共同抵当権が設定され,第2に,甲・乙上にBの債権額1,500万円の共同抵当権が設定され,第3に,甲・乙上にCの債権額1,000万円の共同抵当権が設定され,第4に,丙上にDの債権額500万円の単独抵当権が設定されたとする。
*図99 共同抵当の設例(同主共同抵当) |
甲・乙・丙の不動産が同時に競売された場合,A・B・Cは,それぞれの不動産から,いくらの配当を得ることができるだろうか。下の表の形式の配当表によって,各債権者が債務者所有の不動産甲乙丙の競売代金からそれぞれいくらの配当を受けうるか,(a),(b),(c),(d),(e),(f),(g),(h)の配当金額を計算しなさい。
問題の意味を表であらわすと以下のようになる。(a)〜(h)までの空欄を埋めることが求められている。
債権者 | 不動産上の順位 | 不動産評価額と債権者への配当額 | ||
---|---|---|---|---|
甲 (3,000) |
乙 (2,000) |
丙 (1,000) |
||
A(3,000) | 1(甲・乙・丙) | (a) | (b) | (c) |
B(1,500) | 2(甲・乙) | (d) | (e) | - |
C(1,000) | 3(甲・乙) | (f) | (g) | - |
D( 500) | 2(丙) | - | - | (h) |
最初に述べたように,共同抵当とは,債権者が,同一の債権の担保として,数個の不動産の上に抵当権を有するものをいう[民法392条1項]。債権を担保するために,土地と建物を一括して抵当権を設定することは,ごく普通に行われている。わが国においては,土地と建物は別個の不動産とされているため,そのような抵当権はすべて共同抵当となる。また,外形上は一区画の敷地であっても,登記簿上は数筆の土地ということがある。その場合,その敷地全部につき抵当権を設定すると共同抵当となる。このような事情を考慮するならば,わが国においては,共同抵当制度を理解することが,単独抵当を理解するのと同等に重要な意味をもつことが理解できよう。
(i) 担保価値の増大
いくつかの不動産を集めて共同抵当にすると,個々の不動産では債権の担保として不十分な場合に,担保価値を増大させることができる。
(ii) 危険の分散,担保価値の維持
共同抵当は,共同担保物件の一部の価格が値下りしても,他の共同担保物件の価格が値上りしていると,それで従来の担保価値を維持できる。
土地とその上にある同一所有の建物について,土地だけを担保の目的にすると,抵当権の実行の結果,建物のために法定地上権[民法388条]が成立する。そのため,土地だけを抵当に取ると,土地の評価が下がってしまう。そこで,土地と地上建物を共同担保にとり,同時に競売できるようにしておくと,予想通りの担保価値を維持できる。このため,共同抵当は,超過担保となることが多い。この場合の弊害については,後に述べるように,民事執行法が一定の制約を設けている[民事執行法188条の準用による73条]。
(i) 競売に関する共同抵当権者の自由裁量の確保
債権者Aは,共同抵当の目的物件,例えば,甲・乙・丙の各不動産を同時に競売してもよいし,まず甲・不動産を競売し,もし代金が不足するなら,次に乙・丙不動産を競売してもよいし,あるいは,甲・丙の評価額が減少していれば,乙不動産だけを競売することもできる。
(ii) 共同抵当の実行と後順位抵当権者の保護
(A) 同時配当の場合 同時配当の場合には,抵当権の債権額を不動産の価額に応じて割り付け,債権者はその割合に従って各不動産から優先弁済を受けることができるとして,共同抵当権者と後順位抵当権者の利害の調整を図っている[民法392条1項]。
(B) 異時配当の場合 これに対して異時配当の場合には,後順位抵当権者の利益が害されるおそれがあるため,同時配当の場合であれば配当を受け得たはずの後順位抵当権者は,共同抵当権者に代位できるとして,後順位抵当権者を保護している[民法392条2項]。
共同抵当の目的物の評価額が債権額を上回る場合には,全部の不動産を同時に競売することは不必要である。そこで,民事執行法73条は,「数個の不動産を売却した場合において,あるものの買受けの申出の額で各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済することができる見込みがあるときは,執行裁判所は,他の不動産についての売却許可決定を留保しなければならない」(1項),「前項の場合において,その買受けの申出の額で各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済することができる見込みがある不動産が数個あるときは,執行裁判所は,売却の許可をすべき不動産について,あらかじめ,債務者の意見を聴かなければならない」(2項)と規定し,超過競売が予想される場合には,抵当権設定者を保護するため,不要な競売を制限している。
共同抵当は,登記によって公示される。共同抵当の登記に当っては,共同抵当であることを示し,共同担保目録を添付しなければならない[不動産登記法83条1項4号・2項,不動産登記規則166条]。
登記簿謄本を見ると,抵当権の登記事項の末尾に「共同担保目録(あ)第○○号」という記号番号が記載されているだけで,共同担保の具体的な内容はわからない。そこで,「共同担保目録」の謄本を調べると,どのような不動産が共同担保とされているかが,初めて具体的にわかる仕組になっている。
この共同担保目録の登記によって利益を受けるのは後順位抵当権者であるが,登記をするのは後順位抵当権者ではないので,この登記は,後順位抵当権者等の,共同抵当関係の成立によって保護される者に対する対抗要件となるものではない。したがって,この登記がなくても,後順位抵当権者は,実体関係に基づき,共同抵当である旨を主張して民法392条の利益を受けることができると解されている。
最初に挙げた設例を通して,共同抵当の実行における,競売代金の配当額の算出方法について説明する。
異時配当の場合も,同時配当の場合と同様の結果が生じるように,後順位権者に代位権を与えるという方法がとられているので[民法392条2項],まず,同時配当の場合のルールを理解することが大切である。
(i) 同時配当における配当計算
共同抵当権者が目的不動産すべてに対して抵当権を実行し,同時に代価を配当すべき場合には,その各不動産の価額に応じてその債権の負担を分配する[民法392条1項]。
設例において,第1順位の抵当権者Aが甲・乙・丙不動産を同時に競売した場合には,Aは,債権額3,000万円を各不動産の評価額に応じて比例配分した額につき,それぞれの不動産から配分を受ける。すなわち,以下の計算式に従い,Aは,甲不動産から1,500万円,乙不動産から1,000万円,丙不動産から500万円の弁済を受ける。
(a):3,000×3,000/(3,000+2,000+1,000)=1,500(万円)
(b):3,000×2,000/(3,000+2,000+1,000)=1,000(万円)
(c):3,000×1,000/(3,000+2,000+1,000)=500(万円)
次に,第2順位の抵当権者の配当を行う。第1順位の債権者Aへの配当によって,各不動産の価額は,以下のように変化する。
甲不動産:3,000-1,500=1,500(万円)
乙不動産:2,000-1,000=1,000(万円)
丙不動産:1,000- 500= 500(万円)
したがって,甲・乙不動産に関して第2順位の抵当権を有するBは,債権額1,500万円につき,甲不動産の残額1,500万円,乙不動産の残額1,000万円から配分を受ける。すなわち,以下の計算式に従い,甲不動産から900万円,乙不動産から600万円の弁済を受ける。
(d):1,500×3,000/(3,000+2,000)=900(万円)
(e):1,500×2,000/(3,000+2,000)=600(万円)
なお,丙不動産につき第2順位の単独抵当権を有するDは,丙不動産の残額500万円から,全額弁済を受ける。
(h):500(万円)
最後に,第3順位の抵当権者の配当を行う。第2順位の抵当権者Bへの配当によって,甲・乙不動産の価額は,以下のように変化する。
甲不動産:1,500-900=600万円
乙不動産:1,000-600=400万円
したがって,甲・乙不動産に関して,第3順位の抵当権を有するCは,債権額1,000万円につき,甲不動産の残額600万円,乙不動産の残額400万円から配分を受ける。すなわち,以下の計算式に従い,甲不動産から600万円,乙不動産から400万円の弁済を受ける。
(f):1,000×600/(600+400)=600(万円)
(g):1,000×400/(600+400)=400(万円)
以上の計算を配当表上で行うと,下の表のようになる。
債権者 | 不動産上の順位 | 不動産評価額と債権者への配当額 | 配当額, 残額の 区別 |
||
---|---|---|---|---|---|
甲 (3,000) |
乙 (2,000) |
丙 (1,000) |
|||
A(3,000) | 1(甲・乙・丙) | (a)1,500 | (b)1,000 | (c)500 | 配当額 |
1,500 | 1,000 | 500 | 残額 | ||
B(1,500) | 2(甲・乙) | (d)900 | (e)600 | - | 配当額 |
600 | 400 | 500 | 残額 | ||
C(1,000) | 3(甲・乙) | (f)600 | (g)400 | - | 配当額 |
0 | 0 | 500 | 残額 | ||
D( 500) | 2(丙) | - | - | (h)500 | 配当額 |
0 | 0 | 0 | 残額 |
なお,債権者Aの共同抵当の目的である甲・乙・丙不動産のうち,例えば,乙不動産について,B’がAと同順位の抵当権を有する場合には,その計算方法が問題となる。最高裁は,まず乙不動産についてAとB’の債権額の割合で按分した額を算定し,その額および他の甲・丙不動産の価額に応じて各不動産の負担を分けるべきものとしている〈最三判平14・10・22判時1804号34頁〉。
最三判平14・10・22判時1804号34頁
共同抵当の目的となった数個の不動産の代価を同時に配当すべき場合に,1個の不動産上にその共同抵当に係る抵当権と同順位の他の抵当権が存するときは,まず,当該1個の不動産の不動産価額を同順位の各抵当権の被担保債権額の割合に従って案分し,各抵当権により優先弁済請求権を主張することのできる不動産の価額(各抵当権者が把握した担保価値)を算定し,次に,民法392条1項に従い,共同抵当権者への案分額及びその余の不動産の価額に準じて共同抵当の被担保債権の負担を分けるべきものである。
(ii) 同時配当における配当結果
配当表に従った計算結果をまとめると,以下のような配当表が完成する。これが,設例に関する解答である。
債権者 | 不動産上の順位 | 不動産評価額と債権者への配当額 | ||
---|---|---|---|---|
甲 (3,000) |
乙 (2,000) |
丙 (1,000) |
||
A(3,000) | 1(甲・乙・丙) | (a)1,500 | (b)1,000 | (c) 500 |
B(1,500) | 2(甲・乙) | (d) 900 | (e) 600 | - |
C(1,000) | 3(甲・乙) | (f) 600 | (g) 400 | - |
D( 500) | 2(丙) | - | - | (h) 500 |
(i) 異時配当手続
共同抵当において,ある不動産の代価のみを配当すべきときは,抵当権者は,その代価につき全部の弁済を受けることができる[民法392条2項1文]。その代り,後順位抵当権者を保護するため,次順位の抵当権者には代位権が発生する。すなわち,民法392条2項の規定に従い,先順位抵当権者が他の不動産につき弁済を受けるべき金額に達するまで,これに代位して抵当権を行うことができる[民法392条2項2文]。
設例において,Aが甲不動産の抵当権のみを実行する場合を考えてみよう。Aは,甲不動産から債権額3,000万円全額の弁済を受けることができる。そうすると,次順位の抵当権者Bは,甲不動産から弁済を受けることができなくなる。そこでBは,本来の配当額600万円のほか,民法392条2項によって,乙不動産につきAに割り付けられるべき1,000万円の中から,Bの債権額1,500万円に達するまで(900万円)の範囲で,Aに代位しうる。
Cは,乙不動産について,本来の配当額400万円のほか,BがAに代位した残りの100万円の弁済を受けることができるが,乙不動産だけでは,債権額1,00万円全額の弁済を受けることができない。そこでCは,Aが丙不動産につき,Aに割り付けられていた500万円についてAに代位し,第1順位で丙不動産から弁済を受けることができる。
設例について,Aが甲不動産のみから配当を受けた場合の計算方法を配当表上で示すと,以下の通りである。
債権者 | 不動産上の順位 | 不動産評価額と債権者への配当額 | 配当額, 残額の 区別 |
|||
---|---|---|---|---|---|---|
同時・ 異時 |
甲 (3,000) |
乙 (2,000) |
丙 (1,000) |
|||
A(3,000) | 1(甲,乙,丙) | (同時) | (1,500) | (1,000) | (500) | (基準額) |
異時 | (a)3,000 | (b)0 | (c)0 | 配当額 | ||
0 | 2,000 | 1,000 | 残額 | |||
B(1,500) | 2(甲,乙) | (同時) | (900) | (600) | (-) | (基準額) |
異時 | (d)0 | (e)1,500 | - | 配当額 | ||
0 | 500 | 1,000 | 残額 | |||
C(1,000) | 3(甲,乙) | (同時) | (600) | (400) | (-) | (基準額) |
異時 | (f)0 | (g)500 | (g')500 | 配当額 | ||
0 | 0 | 500 | 残額 | |||
D( 500) | 2(丙) | (同時) | (-) | (-) | (500) | (基準額) |
異時 | - | - | (h)500 | 配当額 | ||
0 | 0 | 0 | 残額 |
(ii) 異時配当における配当結果
異時配当の結果を配当表によって示すと,以下の通りである。異時配当の場合も,民法392条2項の代位により,各抵当権者は,同次配当の場合と同様の満足を受けうる。ただし,配当を受けるべき不動産には変更が生じうる。特に,Cは,本来抵当権の目的としていない丙不動産から弁済を受けていることに注目すべきである。
債権者 | 不動産上の順位 | 不動産評価額と債権者への配当額 | ||
---|---|---|---|---|
甲 (3,000) |
乙 (2,000) |
丙 (1,000) |
||
A(3,000) | 1(甲・乙・丙) | (a)3,000 | (b)0 | (c)0 |
B(1,500) | 2(甲・乙) | (d)0 | (e)1,500 | - |
C(1,000) | 3(甲・乙) | (f)0 | (g)500 | (g')500 |
D( 500) | 2(丙) | - | - | (h)500 |
民法392条2項の代位は,先順位抵当権者にとって不要となった先順位抵当権の他の不動産に対する抵当権が,保護されるべき後順位抵当権者へと法律上当然に移転するものと解されている。
法定移転の場合,一般的には,対抗要件としての登記は不要であるのが原則であるが,民法392条2項の代位は,代位すべき抵当権の登記にその「代位」を付記することもできる([民法393条],[不動産登記法91条])。
共同抵当の配当に関して先に述べたことは,共同抵当の目的物である各不動産が同一人に属すること(同主共同抵当)を前提としていた。しかし,共同抵当の目的物である各不動産が別々の者に属する場合(異主共同抵当)には,別の考慮が必要となる。なぜなら,この場合には,債務者の他に物上保証人が登場し,後順位抵当権者と物上保証人との利益調整を行うことが要請されるからである。
判例・通説は,物上保証人と後順位抵当権者との利益が対立する場合には,同主共同抵当に関し後順位抵当権者に認められた民法392条1項の按分比例および同条2項の後順位抵当権者の代位よりも,物上保証人の弁済による代位[民法499条,500条]を優先させるべきであるとする。その結果,異主共同抵当の場合には,民法392条は適用されないとしている(〈大判昭11・12・9民集15巻24号2172頁〉,〈最一判昭44・7・3民集23巻8号1297頁〉,[我妻・担保物権(1968)457頁],[柚木=高木・担保物権(1973)404頁],[鈴木・物権法(1994)234頁])。
最一判昭44・7・3民集23巻8号1297頁
第二順位の抵当権者と物上保証人との関係についてみるに,…乙不動産が第三者〔物上保証人〕の所有であった場合に,たとえば,共同抵当権者が乙不動産のみについて抵当権を実行し,債権の満足を得たときは,右物上保証人は,民法500条により,右共同抵当権者が甲不動産に有した抵当権の全額について代位するものと解するのが相当である。けだし,この場合,物上保証人としては,他の共同抵当物件である甲不動産から自己の求償権の満足を得ることを期待していたものというべく,その後に甲不動産に第二順位の抵当権が設定されたことにより右期待を失わしめるべきではないからである(大審院昭和2(1927)年(オ)第933号,同4年1月30日判決参照)。これを要するに,第二順位の抵当権者のする代位と物上保証人のする代位とが衝突する場合には,後者が保護されるのであって,甲不動産について競売がされたときは,もともと第二順位の抵当権者は,乙不動産について代位することができないものであり,共同抵当権者が乙不動産の抵当権を放棄しても,なんら不利益を被る地位にはないのである。したがって,かような場合には,共同抵当権者は,乙不動産の抵当権を放棄した後に甲不動産の抵当権を実行したときであっても,その代価から自己の債権の全額について満足を受けることができるというべきであり,このことは,保証人などのように弁済により当然甲不動産の抵当権に代位できる者が右抵当権を実行した場合でも,同様である。
物上保証人が登場しない同主共同抵当の場合と,物上保証人が登場する異主共同抵当の場合で,後順位抵当権者の地位に変化が生じるのは当然のことであり,その結果として配当額に差が生じても不思議ではない。
しかし,その結果が,民法392条を適用した場合にも説明可能である場合,または,たとえ結果が異なるとしても,妥当な結果が導かれるのであれば,あえて異主共同抵当の場合に,民法392条の適用を否定する必要はない。[佐久間・共同抵当(1992)75頁]は,少数説である我妻旧説(担保物権法・旧版296頁),鈴木旧説(抵当制度の研究235頁)を再評価すべきであると述べるが,まさに正当である。
判例も,同一の物上保証人所有の不動産が共同抵当権の目的物となった場合には,民法392条2項の適用を認めるに至っているのであるから〈最二判平4・11・6民集46巻8号2625頁(民法判例百選T〔第6版〕第94事件)〉,共同抵当権の目的物の所有権が債務者と物上保証人とにまたがっている場合でも,民法392条2項の適用を認めることに支障はないと思われる。
共同抵当権の目的たる甲・乙不動産が同一の物上保証人(B→C)の所有に属する場合において,甲不動産の代価のみを配当するときは,甲不動産の後順位抵当権者(X)は,民法392条2項後段の規定に基づき,先順位の共同抵当権者(Y)に代位して乙不動産に対する抵当権を行使することができる。
けだし,後順位抵当権者(X)は,先順位の共同抵当権の負担を甲・乙不動産の価額に準じて配分すれば甲不動産の担保価値に余剰が生ずることを期待して,抵当権の設定を受けているのが通常であって,先順位の共同抵当権者(Y)が甲不動産の代価につき債権の全部の弁済を受けることができるため,後順位抵当権者(X)の右の期待が害されるときは,債務者がその所有する不動産に共同抵当権を設定した場合と同様,民法392条2項後段に規定する代位により,右の期待を保護すべきものであるからである。 右の場合において,先順位の共同抵当権者(Y)が後順位抵当権者(X)の代位の対象となっている乙不動産に対する抵当権を放棄したときは,先順位の共同抵当権者(Y)は,後順位抵当権者(X)が乙不動産上の右抵当権に代位し得る限度で,甲不動産につき,後順位抵当権者(X)に優先することができないのであるから(最高裁昭和41年(オ)第1284号同44年7月3日第一小法廷判決・民集23巻8号1297頁参照),甲不動産から後順位抵当権者(X)の右の優先額についてまで配当を受けたときは,これを不当利得として,後順位抵当権者(X)に返還すべきものといわなければならない(最高裁平成2年(オ)第1820号同3年3月22日第二小法廷判決・民集45巻3号322頁参照)。 |
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*図100 最二判平4・11・6民集46巻8号2625頁 民法判例百選T〔第6版〕第94事件 |
以下において,異主共同抵当の場合にも,民法392条と民法500条を同時に適用することによって,通説・判例と同一の結果を保ちつつ,より統一的な説明が可能であるか,通説・判例よりも妥当な結果を導くことができることを示すことにする(民法392条・民法500条双方適用説)。
ところで,異主共同抵当の場合に関しては,後順位抵当権が債務者の財産に設定されたのか物上保証人の財産に設定されたのかで利益状況が異なるため,これを区別して論じるのが有用である。従って,以下では,この2つの場合のそれぞれについて,民法392条がどのように適用されるのかを示すことにしよう。
(i) 事例1:債務者と物上保証人の不動産に共同抵当権が設定され,債務者に後順位抵当権者がいる場合
(A) 事例1とその図解
債権者Aが,800万円の債権を担保するために,債務者Bの不動産(評価額800万円)および物上保証人Cの不動産(評価額800万円)に共同抵当権を設定したとする。債務者Bには,他に債権者Dがおり,800万円の債権を担保するために,債務者の不動産の上に第2順位の抵当権を設定しているとする。
*図101 異主共同抵当の事例1(同時配当) |
(B) 通説・判例による説明
(a) 債務者Bの不動産が先に競売された場合 債務者B所有の不動産上の後順位抵当権者Dは,Aが物上保証人所有の不動産上に有する抵当権には民法392条2項の規定に基づいて代位することはできない〈最一判昭44・7・3民集23巻8号1297頁〉。その理由は,物上保証人は,他の共同抵当物件である債務者所有の不動産から自己の求償権の満足を得ることを期待していたものというべきであり,その後に設定された債務者所有の不動産上の第2順位の抵当権の代位権によってその期待を失わせるべきではないというものである。
その結果として,債務者所有の不動産が先に競売されれば,Aが800万円の弁済を受け,Dの配当は0となり,抵当権の付従性によって物上保証人C所有の不動産上の抵当権は消滅する。この結果は,後順位抵当権者Dには酷とも思えるが,甲不動産(800万円)に800万円の債権を有する第1順位の抵当権者がすでに存在するのに,さらに甲不動産に第2順位の抵当権を設定したDに配当が回らなくても,やむをえないといえよう。
(b) 物上保証人Cの不動産が先に競売された場合 これに対して,物上保証人C所有の不動産が先に競売される場合には,まずAが800万円の配当を受け,自己の不動産で弁済をしたCが,債務者B所有の不動産上の抵当権800万円につき民法500条により代位する。そして,債務者の不動産の競売によってCが代位取得した抵当権から800万円の配当を受ける。したがって,この場合も,Dの配当は0となる。
(C) 本書の立場からの説明
(a) 同時配当の場合 共同抵当権者Aは,民法392条1項により,債務者所有の不動産の評価額と物上保証人所有の不動産の評価額に応じて,それぞれの不動産につき400万円ずつ,全額で800万円の配当を受ける。
物上保証人Cは,自己所有の不動産の競売代金から,Aの配当額を控除した残額400万円を取得する外,共同抵当権者Aに自己の不動産から400万円を弁済したことに基づき,民法500条の規定により,債務者所有の不動産の競売代金の残額400万円につき共同抵当権者AのBに対する抵当権に代位して,第1順位で求償権を行使しうる。
後順位抵当権者Dは,本来ならば,債務者の財産について,第1順位の共同抵当権者Aの配当額を控除した残額400万円について第2順位の抵当権者として配当を受けることができるはずである。しかしこの抵当権は,物上保証人Cが求償債権を確保するために代位によって取得する第1順位の抵当権に劣後し,後順位抵当権者Dは配当を得ることができない。
民法392条2項2文によると,後順位抵当権者は,共同抵当権者Aが物上保証人の抵当目的物に対する割付額である400万円について,第1順位の抵当権者として代位ができそうである。しかし,この場合に,もしも後順位抵当権者による代位を許すと,物上保証人はその額について債務者Bに対して求償権を有するが,その求償権について担保権を行使することができなくなり,物上保証人の利益を害することになってしまう。物上保証人Cと後順位抵当権者Dとの関係は,判例〈最一判昭44・7・3民集23巻8号1297頁〉が明らかにしているように,「第2順位の抵当権者のする代位と物上保証人のする代位とが衝突する場合には,後者が保護されるのであって,甲不動産について競売がされたときは,もともと第二順位の抵当権者は,乙不動産について代位することができない」からである。
結果的には,債務者所有と物上保証人の不動産を競売してAが800万円の配当を受け,物上保証人Cも同様に800万円の配当を受けることになる。
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*図102 異主共同抵当の事例1(同時配当,民法392条適用説) |
もっとも,Aが,債務者所有の不動産の競売のみによって債権全額の満足を得ることのできる場合には,物上保証人Cの不動産の競売は不要であり,Cは保証人の検索の抗弁権によって,AによるC所有の不動産の競売を阻止しうるであろう([民事執行法73条]参照)。
(b) 異時配当の場合
(i) 債務者Bの不動産が先に競売された場合 債務者B所有の不動産が先に競売されて,共同抵当権者Aが800万円の配当を受けた場合,本来なら,債務者B所有の不動産上の後順位抵当権者Dは,Aが物上保証人所有の不動産上に有する抵当権につき,民法392条2項の規定に基づいて代位することができるはずである。しかし,すでに同時配当の場合について述べたように,後順位抵当権者Dは,共同抵当権者に民法500条によって代位する物上保証人の求償権に劣後するのであって,配当要求をなしえない。民法392条1項に基づく配当請求をなしえない後順位抵当権者Dが,民法392条2項に基づく代位をなし得ないのは当然の成り行きである。
本来なら,次に,物上保証人C所有の不動産が競売されるはずであるが,債権者Aの債権は,全額が満足され,しかも,債務者Bの不動産上の後順位抵当権をDは,先に述べた理由により,物上保証人C所有の不動産につき,民法392条2項に基づく代位権を有しないのであるから,物上保証人Cの不動産の競売は行われずに,すべての配当が完了する。
甲不動産 | 乙不動産 | 合計 | |
先順位抵当権者A | 800万円 | 0円 | 800万円 |
物上保証人C | 0円 | 800万円 | 800万円 |
後順位抵当権者D | 0円 | 0円 | 0円 |
(ii) 物上保証人Cの不動産が先に競売された場合 物上保証人C所有の不動産が先に競売されて,共同抵当権者Aが800万円の配当を受けた場合,自己の不動産で弁済をしたCが,債務者B所有の不動産上の抵当権800万円につき民法500条により代位する。Dは,同時配当の場合にも配当額が0とされるのであるから,この場合も配当を受けないことは当然である。
甲不動産 | 乙不動産 | 合計 | |
先順位抵当権者A | 0円 | 800万円 | 800万円 |
物上保証人C | 800万円 | 0円 | 800万円 |
後順位抵当権者D | 0円 | 0円 | 0円 |
(ii) 事例2:債務者と物上保証人の不動産に共同抵当権が設定され,物上保証人に後順位抵当権者がいる場合
(A) 事例2とその図解 債権者Aが,800万円の債権を担保するために,債務者Bの不動産(評価額800万円)および物上保証人Cの不動産(評価額800万円)に共同抵当権を設定したとする。さらに,後順位抵当権者Dが,800万円の債権を担保するために債務者Bの不動産上に第2順位の抵当権を設定しているほか,物上保証人の債権者Eが,800万円の債権を担保するため,物上保証人Cの不動産の上に,第2順位の抵当権を設定しているとする。
*図103 異主共同抵当の事例2 |
(B) 通説・判例による説明
(a) 債務者Bの不動産が先に競売された場合 債務者B所有の不動産が先に競売された場合には,共同抵当権者Aが800万円の配当を受け,債務者B所有の不動産上の抵当権は消滅する。
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*図104 異主共同抵当の事例2(異時配当1・通説) |
そして,次に,Eによって物上保証人C所有の不動産が競売されると,Cの債権者である抵当権者Eが800万円の配当を受ける。
(b) 物上保証人Cの不動産が先に競売された場合 判例は,物上保証人所有の不動産を競売することによって,物上保証人Cは,債務者Bに対して求償権を取得するとともに,代位により債務者B所有の不動産上の抵当権を取得する。しかし,後順位抵当権者Eは,物上保証人に移転したこのAの抵当権から優先して弁済を受けることができるとしている〈最三判昭53・7・4民集32巻5号785頁〉。
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*図105 異主共同抵当の事例2(異時配当2・通説) |
この場合においても,異主共同抵当である以上は,民法392条は適用されず,したがって,物上保証人の抵当権者Eに対して,後順位抵当権者としての代位権を認めることはできないとしつつも,物上保証人Cに移転した債務者B所有の不動産上のAの抵当権は,Eの被担保債権を担保するものとなり,あたかもこの抵当権の上に物上代位[民法372条,304条]するのと同様に,優先弁済を受けることができるというわけである〈最三判昭53・7・4民集32巻5号785頁〉。
最三判昭53・7・4民集32巻5号785頁,金法869号45頁
債務者所有の不動産と物上保証人所有の不動産とを共同抵当の目的として順位を異にする数個の抵当権が設定されている場合において,物上保証人所有の不動産について先に競売がされ,その競落代金の交付により一番抵当権者が弁済を受けたときは,物上保証人は債務者に対して求償権を取得するとともに代位により債務者所有の不動産に対する一番抵当権を取得するが,後順位抵当権者は物上保証人に移転した右抵当権から優先して弁済を受けることができるものと解するのが,相当である。けだし,後順位抵当権者は,共同抵当の目的物のうち債務者所有の不動産の担保価値ばかりでなく,物上保証人所有の不動産の担保価値をも把握しうるものとして抵当権の設定を受けているのであり,一方,物上保証人は,自己の所有不動産に設定した後順位抵当権による負担を右後順位抵当権の設定の当初からこれを甘受しているものというべきであって,共同抵当の目的物のうち債務者所有の不動産が先に競売された場合,又は共同抵当の目的物の全部が一括競売された場合との均衡上,物上保証人所有の不動産について先に競売がされたという偶然の事情により,物上保証人がその求償権につき債務者所有の不動産から後順位抵当権者よりも優先して弁済を受けることができ,本来予定していた後順位抵当権による負担を免れうるというのは不合理であるから,物上保証人所有の不動産が先に競売された場合においては,民法392条2項後段が後順位抵当権者の保護を図っている趣旨にかんがみ,物上保証人に移転した一番抵当権は後順位抵当権者の被担保債権を担保するものとなり,後順位抵当権者は,あたかも,右一番抵当権の上に民法372条,304条1項本文の規定により物上代位をするのと同様に,その順位に従い,物上保証人の取得した一番抵当権から優先して弁済を受けることができるものと解すべきであるからである(大審院昭和11(1936)年(オ)第1590号同年12月9日判決・民集15巻24号2172頁参照)。
そして,この場合において,後順位抵当権者は,一番抵当権の移転を受けるものではないから,物上保証人から右一番抵当権の譲渡を受け附記登記を了した第三者に対し右優先弁済権を主張するについても,登記を必要としないものと解すべく,また,物上保証人又は物上保証人から右一番抵当権の譲渡を受けようとする者は不動産登記簿の記載により後順位抵当権者が優先して弁済を受けるものであることを知ることができるのであるから,後順位抵当権者はその優先弁済権を保全する要件として差押えを必要とするものではないと解するのが,相当である。
学説もこの判例理論を支持しており,結果として,物上保証人Cの不動産が先に競売された場合には,Aが800万円の配当を受け,後順位抵当権者Dの配当は0となる。そして,物上保証人Cが債務者B所有の不動産上の抵当権の800万円全額につき代位する。
しかし,次に,債務者Bの不動産が競売されると,物上保証人Cが代位取得した抵当権からEが,物上代位を通じて,800万円の配当を受ける。したがって,結果的には,物上保証人Cの配当額は0となる。
(C) 本書の立場からの説明
(a) 同時配当の場合 共同抵当権者Aは,民法392条により,債務者所有の不動産の評価額と物上保証人所有の不動産の評価額に応じて,それぞれの不動産につき400万円ずつ,全額で800万円の配当を受ける。通説は,同時配当の場合も,債務者B所有の甲不動産から割付けを行うべきだとするが,その根拠は薄弱である。同時配当というからには,物上保証人C所有の乙不動産も視野に入れて,割付けを行うべきだからである。
Dは,Aの後順位抵当権者として,甲不動産の競売代金から400万円の配当を受けるはずであるが,これは,すでに述べたように,物上保証人Cの求償権に劣後するために,配当を受けることができない。
物上保証人Cは,共同抵当権者Aに自己の不動産から400万円を弁済したことに基づき,民法500条の規定により,債務者所有の不動産の競売代金の残額400万円につき共同抵当権者AのBに対する抵当権に代位して,400万円の限度で抵当権を行使しうる。
この物上保証人Cの権利に対して,Cの抵当権者Eは物上代位権を行使しうるかどうかが問題となる。物上代位権は,民法372条による民法304条によって,抵当権者にも与えられているが,それには,民法394条による制限が課せられている。抵当権者は,先に目的物に優先弁済権を行使し,それでも不足な部分は,一般債権者として配当を受けるべきであるとの制約である。後順位抵当権者Eは,先順位抵当権者Aに劣後するのであり,乙財産から配当を受けることができるのは,せいぜい400万円であることを予期すべきであるから,たまたま,抵当権者Aが甲財産から満足を受け,優先順位が上昇したからといって,債務者の債務を肩代りして弁済し,抵当権者に代位して第1順位の抵当権を行使しうる物上保証人Cの権利を害することはできないと解すべきである。
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*図106 異主共同抵当の事例2(同時配当・民法392条適用説) |
結果的には,債務者と物上保証人の不動産を競売してAが甲不動産から400万円,乙不動産から400万円,合計800万円の配当を受ける。そして,物上保証人Cは,400万円の限度で甲不動産から求償を受ける。次に,物上保証人Cの抵当権者Eは400万円の配当を受けることになる。
これが,民法392条適用説の理論的な結論である。しかし,もしも,この理論に,本書の上記の立場とは異なるが,民法500条に基づく物上保証人の権利は,物上保証人の抵当権者Eの権利行使には劣後する〈最一判昭60・5・23民集39巻4号940頁(民法判例百選T〔第6版〕第93事件)〉とする例外原則を取り入れるならば,結果は,通説と同じになる。
共同抵当の目的である債務者所有の甲不動産及び物上保証人所有の乙不動産にそれぞれ債権者を異にする後順位抵当権が設定されている場合において,乙不動産が先に競売されて一番抵当権者(Xの1番抵当権)が弁済を受けたときは,乙不動産の後順位抵当権者(Y)は,物上保証人に移転した甲不動産に対する一番抵当権から甲不動産の後順位抵当権者(Yの2番,3番抵当権)に優先して弁済を受けることができる。 債権の一部につき代位弁済がされた場合,右債権を被担保債権とする抵当権の実行による競落代金の配当については,代位弁済者(Y)は債権者(X)に劣後する。 |
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*図107 最一判昭60・5・23民集39巻4号940頁(配当異議事件) 民法判例百選T〔第6版〕第93事件 |
すなわち,債務者と物上保証人の不動産を競売してAが甲不動産から400万円,乙不動産から400万円,合計800万円の配当を受ける。そして,物上保証人Cは,400万円の限度で甲不動産から求償を受けることになるはずであるが,物上保証人の抵当権者には劣後するため,求償を得ることができない。そして,物上保証人Cの抵当権者Eが800万円の配当を受けることになる。
(b) 異時配当の場合
(i) 債務者Bの不動産が先に競売された場合 債務者B所有の不動産が先に競売されて,共同抵当権者Aが800万円の配当を受けた場合,本来なら,後順位抵当権者Dは,民法392条2項によって,乙不動産に対して400万円の範囲で配当請求ができるはずである。しかし,すでに述べたように,この権利は物上保証人Cに劣後し,Cは,保証人として400万円の範囲で,民法392条2項によってDに与えられた権利に代位する権利を有する。
次に乙不動産が競売された場合,民法392条2項によって先順位抵当権者に代位する後順位権者Dの権利をさらに代位によって取得する物上保証人Cと,乙不動産に対して,第2順位の抵当権を有するEの権利という2つの権利が対立することになる。Eは,後順位抵当権者として割り付けられた400万円については,Cに優先する権利を有するため,400万円の配当を受ける。しかし,残りの400万円については,Cの抵当権者として,CがDに代位した権利に対して物上代位を行使して,Cに優先弁済権を取得することができるかどうかが問題となる。先に述べたように,民法372条が準用する民法304条の物上代位権は,抵当権の場合には,民法394条によって制限を受けており,物上保証人Cの権利には代位できないと考えるべきである。
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*図108 異主共同抵当の事例2(異時配当1・民法392条適用説) |
次に,物上保証人C所有の不動産が競売されると,Cの抵当債権者であるEが自らの第2順位の抵当権に基づいて400万円の配当を受ける。そして,第1順位の抵当権に代位する物上保証人Cが,後順位抵当権者Dに優先して400万円の配当を受ける。そして,これによって,すべての配当が完了する。この場合の結論は,同時配当の結果と同じである。
(ii) 物上保証人Cの不動産が先に競売された場合 物上保証人C所有の不動産が先に競売されて,共同抵当権者Aが800万円の配当を受けた場合,次に競売される債務者の不動産の競売代金について,自己の不動産で弁済をしたCが,債務者B所有の不動産上の抵当権800万円につき民法500条により代位するはずである。
しかし,本書の立場では,民法392条の適用を否定しないため,物上保証人Cの抵当債権者であるEは,債権者Aが行使しなかった抵当不動産甲に対する第1順位の抵当権を民法392条2項により,400万円の限度で甲不動産から配当を受けることになる。
そうすると,物上保証人が求償権の行使として,民法500条によって代位できるのは,甲不動産の抵当権のうち,400万円の範囲にとどまることになる。
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*図109 異主共同抵当の事例2(異時配当2・民法392条適用説) |
結果として,Aは,乙不動産から800万円を取得し,乙不動産に抵当権を設定していた後順位抵当権者Eは,民法392条2項によって甲不動産から400万円の配当を受け,物上保証人は,民法500条により,400万円の配当を受けることができることになる。
ただし,先にも述べたように,物上保証人の求償権は,物上保証人の抵当権者の権利に劣後するという最高裁の考え方〈最一判昭60・5・23民集39巻4号940頁(民法判例百選T〔第6版〕第93事件)〉を受け入れるならば,結論は通説と同じとなる。
本書の立場は,あくまで,債務なしに債務者の肩代り責任を負わされている物上保証人の求償権と,それを担保するための代位権は最大限に尊重されるべきであるというものである。物上保証人の求償の利益は,第1抵当権者の出方次第で債権全額の回収を期待することができなくなる後順位抵当権者の利益よりも優先されるべきであり,本書の結果は,物上保証人とその抵当権者(後順位抵当権者)との利害調節が,ほぼ,互角というところに落ち着いており,全面的に後順位抵当権者を優先させる結果となる通説よりも妥当であると考えている。
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