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2015年度 債権総論2 レポート課題(誤振込事件)の講評

作成:2016年1月2日
明治学院大学法学部教授 加賀山 茂


レポート課題


民法判例百選II第72事件(誤振込金の返還請求権と預金債権)について,以下の要領でレポート(A4版4頁以内)を作成し,第10回目の講義(12/01)までに提出すること(提出されたレポートの講評は,第14回に行う)。

  1. 事実の概要を正確に図式化し簡潔に表現する。
  2. 判旨を簡潔にまとまる。
  3. 関連判例と学説とを要領よくまとめる。
  4. 自らの見解(私見)をIRACで簡潔に表現する。

レポートの講評


1.全体の傾向

リポート提出者は,85名であり,レポート全体の傾向としては,民法判例百選Ⅱ第72事件の岩原教授の解説を下敷きにして,私のレジュメ等(法科大学院のローレビューの私の論文を読み込んで引用した熱心な学生もいた)を吟味しながら,課題の4つの項目に答えるというものが多かった。

添削したレポートは,1月5日(火)の第14回の講義時間中に返却の予定である。

2.つまずいた人が多かった箇所

レポートの評価で差が出たのは,第4問の私見をアイラック(IRAC)で表現する箇所である。アイラック(IRAC)では,うまく書けないと訴え,判決文と同様に,「結論と理由」だけを書いたものもあった。しかし,それらの私見に,私の方で,アイラック(IRAC)の見出しをつけてみると,それなりにアイラック(IRAC)の表現となっているものが,かなりの数に上った。

また,私見をアイラック(IRAC)で表現すると宣言しながらも,アイラック(IRAC)の見出しのないレポートについても,私の方で,見出しをつけてみると,どの項目が不十分であるのかがよくわかり,どの項目をどのように追加すべきか自明となるものも多数見られた。

このことを通じて,アイラック(IRAC)で表現する場合には,見出しがあった方が,見出しにつられて,内容も充実することを実感することができた。これが,今回の添削で気づいた私にとっての最大の収穫である。

なお,レポートにつきものの,誤字・脱字等については,それぞれのレポートごとに指摘したが,文書は提出する前に,少なくとも2度は,見直す習慣をつけるとよいと,自戒をこめて強く感じた。

3.特色のあるレポート2例

 
特色のあるレポートの添削の例

添削をしていて,特に特色があると感じたレポートとしては,以下の2つをあげることができる。

A. 預金と預金債権の区別

第1は,預金債権の帰属について,預金という「お金」の帰属の問題として論じたレポートである。

この問題については,預金契約を金銭消費寄託だとする通説に従う限り,預金そのものの帰属は,占有者に帰属するのであって,論争の余地がないこと,物権法と債権法の違いを強調しつつ,徹底的な添削を行った。

B. 預金債権に無因性を与えることの適否

第2は,預金債権に無因性を与えようとするレポートである。最高裁平成8年判決がこの見解をとっているが,これについては,丁寧な添削を行った。

その趣旨は,手形・小切手のように,特別法に規定があり,かつ,手形訴訟のような特別の訴訟制度を伴う場合には,実益があるが,特別の訴訟制度を持たない場合には,法律で原因関係からの独立性を与えても,たとえば,占有訴権のように,本件による反訴が認められて,その実益が大きく失われているというのが実態であり,なによりも,不当利得に基づく返還請求訴訟を別訴でしなければならなくなる場合の無資力のリスクの問題等,実益上の問題点を指摘しておいた。

4.定期試験仮想問題(10題)のアップロード

レポートの添削を行いつつ,債権総論2の総集編と併せて定期試験の仮想試験問題(PowerPointPDF)を,HPにアップロードしておいたので,レポートの添削を参考にしながら,定期試験の試験勉強を進めてほしい。

アイラック(IRAC)で書かなければならない問題も出題するので,レポートの添削で指摘したように,第1に,アイラック(IRAC)で書くときは,I(争点)とC(結論)とは,「問いと答え」という対応関係になっていること,第2に,A(議論)では,賛否両論を紹介しつつ,それぞれの考え方に応接することが大切であることを忘れないように。ご健闘を祈る。


(参考)2015年度 債権総論2 定期試験仮想問題


Q1: 債権譲渡の譲渡禁止特約の効力

債権譲渡の禁止特約について,以下の問いに答えなさい。

1-1. 譲渡禁止特約のもともとの必要性の趣旨は何か。
1-2. 譲渡禁止特約は,実際にはどのような目的で利用されてきたのか。その弊害は何か。
1-3. 譲渡禁止特約に関する判例の動向を年代順に述べなさい(民法判例百選Ⅱ第27事件参照)。
1-4. 民法(債権法関係)改正では,譲渡禁止特約は,どのように規定されようとしているか(民法(債権法改正)改正案第466条以下参照)。

Q2: 債権譲渡の対抗要件

債権譲渡の対抗要件について,以下の問いに答えなさい。

2-1. 債権譲渡の対抗要件のうち,債務者対抗要件は何か。
2-2. 債権譲渡の対抗要件のうち,第三者対抗要件は何か。
2-3. 債権譲渡と債権差押さえが競合した場合,それぞれの対抗要件は何か。すなわち,何を基準として,どちらが優先するかが判断されるのか。
2-4. 債権の二重譲渡の場合,対抗要件が同時に備わった場合,どのような結果が生じるか。その解決方法について,さまざまな見解を検討した後,自らの見解を簡潔に述べなさい(民法判例百選Ⅱ第31,32事件参照)。

Q3: 債権譲渡と債務者の解除・相殺の抗弁

債権譲渡がなされた場合の債務者の抗弁について,以下の問いに答えなさい。

3-1. ①Yは,建設会社A(請負人)と店舗兼住宅の建築請負契約を締結した。②Aは,建築途中で建築請負代金債権をAの債権者Xに譲渡したが,その後,建築工事を中断・放置した。そのため,③注文者Yは,債務不履行を理由に,本件請負契約を解除した。④Xは,Yに対して,譲り受けた請負代金の支払いを求めて訴えを提起した。この場合,Yは,債権譲渡後の解除を理由に,支払いを拒絶することができるか(民法判例百選Ⅱ第29事件参照)。

3-2. 上記の事件において,Aが建築を完了したが,欠陥住宅のため,Yは,Aに対して,建築請負代金と相当額の損害賠償債権を有していたとする。この場合,Yは相殺の抗弁をもって,Xの請負代金支払い請求を拒絶できるか。

Q4: 債務引受

債務引受について,以下の問いに答えなさい。

4-1. ドイツ民法には存在する債務引受の定義規定が,わが国に存在しない理由は何か。
4-2. 現行民法514条(債務者の交替による更改)の立法の際に,旧民法に存在した免責的債務引受(完全指図,債務免脱による更改),および,並存的(重畳的)債務引受(不完全更改としての不完全指図,単純保証)の諸規定が削除されたのはなぜか。
4-3. 判例は,並存的債務引受がなされた場合,原債務者と引受人との間に連帯債務関係が生じると解している(民法判例百選Ⅱ第33事件参照)。この見解に対しては,不真正連帯債務であるとか,連帯保証であるとかという説が存在する。これについて検討し,自らの見解を述べなさい。

Q5: 契約上の地位の譲渡

契約上の地位の譲渡に関する以下の問いに答えなさい。

5-1. 契約上の地位の譲渡とは何か。
5-2. 判例百選Ⅱ第34事件の解説で取り上げられている最二判昭46・4・23民集25巻3号388頁をよく読んで,賃貸借契約の地位の譲渡に際して,「賃借人の承諾を必要とせず」,旧所有者(旧賃貸人)と新所有者(新賃貸人)との間だけで,契約の地位の譲渡ができるのはなぜなのか。この場合の法律関係を図示しつつ,賃借人抜きに契約上の地位の譲渡が可能な理由を簡潔に述べなさい。

Q6: 銀行預金の振込み・誤振込みと組戻し

銀行振込みについて,以下の問いに答えなさい。

6-1. 民法判例百選Ⅱ第72事件をよく読んで,銀行振り込み契約の法的性質を簡単に説明しなさい。
6-2. 銀行振り込みにおける預金債権の平行移動をどのように法律構成することができるか,自らの見解を述べなさい。
6-3. 誤振込の場合に,誤振込による預金債権は成立するか,預金者は,預金債権をどのようにして取り戻すことができるか。

Q7: 準占有者に対する弁済

準占有者に対する弁済に関する以下の問題に答えなさい。

 Xは自家用車のダッシュボードにY銀行の預金通帳を入れて自宅付近の駐車場に駐車していたところ,車ごと盗難にあい,犯人が,預金通帳と暗証番号を使って,預金300万円を全額引き落としてしまった。
 預金通帳の暗証番号は,自動車の登録番号であったが,預金通帳と暗証番号だけで他人が預金を引き落とすことができることは,Xには知らされていなかった。

問7. Xの預金返還に対して,Y銀行は,民法478条の抗弁を主張できるか(民法判例百選Ⅱ第39事件参照)。

Q8: 弁済の充当

弁済の充当に関する以下の問いに答えなさい。

 AがBに対して100万円の甲借入金債務(無利息・弁済期到来)と200万円の乙借入金債務(無利息・弁済期未到来)を負っている。
 AがBに100万円を支払ったが,弁済の充当指定をしなかったので,Bが受領の時にこれを甲債務の弁済に充当する旨をAに告げたが,Aは,直ちに異議を述べて,乙債務の弁済に充当することを指定したとする。

問8:この場合,Aが支払った100万円は,どの債務に充当されるか。

Q9: 弁済による代位

弁済による代位に関する以下の問題に答えなさい。

 債権者Aは,Bに対して6,000万円の債権を担保させるため,C,D,E,Yを連帯保証人とし,さらに,CとYとは,その所有するそれぞれの甲不動産(2,000万円),乙不動産(3,000万円)に抵当権を設定させた。
 その後YはBに代わってBの債務全額を弁済し,Aに代位してCの抵当権を実行した。
 Cの不動産に後順位抵当権を有するXは,Cの負担部分が最も少なくなる説を主張している。

問9:Xの主張は認められるか。

Q10: 相殺の担保的機能

差押えと相殺に関する以下の問いに答えなさい(名古屋高判平27・1・29金融・商事判例1468号25頁参照)。

 Xは,Aから100万円を借りていたが,期限が到来したので,B銀行の預金口座から100万円をAの取引銀行であるB銀行に振り込むつもりであった。ところが,誤って,同姓同名のCの銀行口座,すなわち,Y銀行のC名義の口座に100万円を振り込んでしまった。
 Cは,取引銀行であるY銀行から100万円を借りており,返済期日は到来している。Y銀行のCの預金口座の残額は,昨日まで0円だったが,Xからの誤振込で100万円の入金があり,現在100万円の預金を有している。
 Y銀行は,B銀行から,誤振込みによる組戻しの依頼を受けて,組戻しをするつもりであったが,預金者に問い合わせたところ,誤振込みではないとして,組戻しに応じなかったため,あえて,貸金債権と預金債権とを相殺した。

問10:Xは,Y銀行に対して,不当利得に基づいて100万円の返還を請求できるか。根拠条文と判例の見解を踏まえて答えなさい。

(参照判例)名古屋高判平27・1・29 金商1468号25頁の事実関係

 A会社に対する請負代金を支払うため,Xは,B信用金庫に振込依頼をする際に,A会社とは別会社のA組名義のY信用金庫の口座に誤って振込みを依頼し,同口座に誤振込がなされた。
 被仕向金融機関Yは,A組に対して,事実上回収不能の貸金債権等を有していたため,これを奇禍として,同日,同振込金を含むYのA組に対する預金債務とA組に対する貸金債権とを対当額をもって相殺した。
 そこで,Xが,Yに対し,Yが同相殺により法律上の原因なく振込金相当額を利得したとして,不当利得返還請求権に基づき振込相当額及び遅延損害金の支払いを求めた。
 原審が,最高裁平成8年判決の法理に基づいて,Xの請求を棄却したため,Xが控訴した。

(参照判例)名古屋高判平27・1・29 金商1468号25頁の判決要旨

 被仕向金融機関Yは,本件振込みが誤振込みであると認識しており,振込依頼人Xや受取人A組に対し,誤振込みか否かを確認して組戻しの依頼を促すなど対処すべきであった。
 それにもかかわらず,事実上回収不能な受取人A組に対する貸金債権等を回収するために,あえて支払差止め設定を一時的に解除して本件振込みを完了させて,直ちに本件相殺をしたものであり,振込制度における被仕向金融機関としては不誠実な対応である。
 正義,公平の観点から,被仕向金融機関が,事実上の回収不能な受取人に対する貸金債権等を本件相殺により回収して,本件振込金相当額について振込依頼人の事実上の損失の下に利得することは,振込依頼人に対する関係においては,法律上の原因を欠いて不当利得となる。


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