01Orientation
15/37 法的分析能力の応用タール事件(最三判昭30・10・18民集9巻11号1642頁)の法的分析

【テロップ】
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【ノート】
法的分析能力とは何かは,タール事件,すなわち,最高裁▲第三小法廷▲昭和30年10月18日判決▲民事判例集▲9巻▲11号▲1642頁▲を例にとると分かりやすいでしょう。■ タール事件とは,売買契約の目的物である漁網用のタールが滅失し,履行が不能となったという事件でした。■ この事件において,もしも,債務者である売主にキセキ事由(善管注意義務違反)があるとすると, 民法543条(改正案によれば,541条,または,542条)によって,債権者である買主は契約を解除して,既に支払った内金の返還を求めることができるので,問題は解決します。■ もしも,債務者である売主にキセキ事由がなく,しかも,債権者である買主にもキセキ事由がないとすると, 民法536条1項によって,代金債権は消滅するため,先の場合と同様に,買主は,代金債権を免れ,既に支払った内金の返還を求めることができます。■ これに対して,債務者である売主にはキセキ事由がなく,債権者である買主だけにキセキ事由がある,例えば,受領遅滞があるとすると, その場合には,民法536条2項が適用され,買主は目的物が滅失して引渡しを受けることができないにもかかわらず,売買残代金を支払わなければなりません。 ■このように,事実が発見されるごとに,適用されるべき条文に変化が生じ,適用されるべき条文が発見されると,それを満たす要件としての事実が新たに発見されるという相互作用が生じるのです。 ■したがって,タール事件をよく理解すると,民法(債権関係)改正法案が,適切な改正であるかどうかを判断することができます。 ■今回の改正案によると,どのような事実が発見されても,買主が敗訴するように民法が変更されており,適切な改正とはいえないことが分かると思います。 ■なぜなら,売主にタールの保存について善管注意義務違反があり,買主が目的物の品質不適合を理由に履行の拒絶をした場合であっても,第1に,受領遅滞を理由に売主には注意義務違反はないとされ(改正案413条1項),第2に,履行を拒絶している間に履行が不能となったタール事件の場合には,買主にキセキ事由があったとみなされ(改正案413条2項),その結果として,買主は,代金債権が消滅していると主張することもできず(改正案536条2項),契約を解除することもできず(改正案543条),代金減額を請求することもできない(改正案563条3項)という悲惨な結果に陥るからです。 ■これほどにまで,売主保護に偏った改正案は,公正な改正とはいえないのであって,直ちに修正されるべきでしょう。