作成:2017年8月20日
明名古屋大学名誉教授・明治学院大学名誉教授 加賀山 茂
本書は,ビジネススクールで学ぶ50の基本的なビジネス分析ツールを以下の8つの章に分類し,基本的考え方,事例,使い方のコツ・留意点という3つの観点から図解しています。
ビジネススクールで学習する経営分析ツールのうち,最も基本的なビジネス分析ツール50を短期間で学ぶのに適した概説書です。
本書の特色は,50のそれぞれの分析ツールが,すべて,基本的な考え方,事例,使い方のコツ・留意点という4つの項目を使って,わかりやすい図とともに説明している点にあります。これらの分析ツールの説明をゆっくりと読み,エクセルなどの表計算ソフトを使って,事例に上げられた数値等を使ってシミュレーションをしながら読み進めると,経営学の基本的な分析ツールを実際に使えるようになると思います。
私は,経営学の門外漢ですが,本書を読んで,エクセルの散布図を使うと,回帰分析(No.9 51頁)とか,ポートフォリオ分析(No.18)のバブルチャートまで表現できることがわかりました。そして,本書を読みながら,エクセルを実際に使ってみて,これまで経験したことがなかった経営分析なるものを身近に感じることができるようになりました。また,時系列の変化をも表現できるというウォーターフォール分析(No.8)も,少し工夫すれば,エクセルでできることがわかり,実際に使ってみて,いろいろな分析に使える便利なツールであることがわかりました。
私は,長く教育の現場にいたため,今後の教育は,アクティブラーニングの普及にかかっており,その成否は,リーダーの育成だと感じています。そして,本書を読んで,リーダーシップ論(No.41)の将来は,フォロアー分析(No.42)によって,様々な障害が取り除かれ,目標に向かう道が切り開かれるという確信を得ることができました。さらに,本書の巻末で紹介されているリーダーシップ論,フォロアー分析の参考文献を購入して,読み始めています。
このように,本書は,その本文や参考文献を起点として,様々な方向に分析を広げていくことができるように配慮している点に,大きな特色を有していると思います。
本書(『ビジネス分析ツール50)』)は,その「はじめに」でも触れられているように,『グロービスMBA キーワード 図解』シリーズの『基本フレームワーク50』(以下『フレームワーク50』と略す),および,『ビジネスの基礎知識50』(以下,『知識50』と略す)に続く第3弾です。 本書の「おわりに」によれば,「フレームワーク≒分析ツール」という側面もあるため,本書と「『フレームワーク50』を相互補完的に読めば,威力も倍以上になる」とされています。
このように,本書と『フレームワーク50』とは,もう一つの姉妹編である『基礎知識50』と比較すると,非常に密接に関連しています。なぜなら,もう一つの姉妹編である『基礎知識50』は,他の2冊の姉妹編とは異なり,その趣旨を一言でまとめると,以下のような特色を持つ貴重な本だからです。
個人も集団も,人間というものは,根深い偏見(バイアス)を持っており,経営学を含む学問を身につけないと,とんでもない経営上の誤りを犯したり(例えば,個人が合理的にふるまったつもりが,集団としては悲劇的な結果に陥る(No.26 コモンズの悲劇)とか,個人の正しい判断が集団においては無視されことが生じやすい(No.28 集団浅慮,No.29 機長症候群など))。 また,そのような学問的な知識がないと,簡単に騙されたりする(No.31 返報性以下,No.37確証バイアスなど)。
このように考えると,本書と『フレームワーク50』とは,ビジネスデータの分析を明らかにするという視点で記述がなされているのに対して,もう一つの姉妹編である『基礎知識50』は,人間の本質に迫る人間の根深い偏見(バイアス)とそれを回避する方法が論じられている点で,本書および『フレームワーク50』とはその性質が異なるということができます。
もっとも,『基本知識50』も,詳細に検討すると,そのNo.23の「ピーターの法則」は,本書のNo.41(リーダーシップ・パイプライン)と一部が重複しており,本書と『基礎知識50』も,やはり,本書の姉妹編であることがわかるのですが,密接な関係という観点からは,本書と『フレームワーク50』とが,通常の意味における姉妹編としての特色を有しているといえます。つまり,姉妹編のうちで,最も密接な関係にあるのは,本書と『フレームワーク50』のコンビであり,本書と,『フレームワーク50』とは,両方を読むことによって,「ビジネス分析ツール100」に匹敵する効用を有するというわけです。
本書の第1の課題は,章建てについてです。本書は,『フレームワーク50』の5章という章建てに従って,8章ではなく,5章,つまり,4±1(『基礎知識50』No.48)の範囲内の章立てで,記述されるべきだったと思います。というのも,もう一つの姉妹編である『基礎知識50』の特色は,従来7±2と信じられてきたマジカルナンバーを4±1へと変更すべきことを強調しているのですから,著者もこの姉妹編で「言ったことは実行すべき」であり,『フレームワーク50』と同様に,章立てを4±1に収まらない8章建てではなく,4±1に収まる5章に抑えるべきだったのです。
具体的な改善方法としては,本書の第2章は,第1章「クリティカル・シンキング編」(汎用性の高い定量分析も含む)に包摂し,3章と4章は,『フレームワーク50』と同様に,第2章「戦略・マーケティング編」とし,本書の第5章と第8章とは,『フレームワーク50』と同様に,第5章「その他上級編」とすれば,本書と『フレームワーク50』とは,4±1の5章建てとなり,形式面においても,真の姉妹編となったと思われます。
本書の第2の課題は,内容に関することですが,姉妹編間の相互参照を積極的に進めることにあります。例えば,本書のNo.1(イシューアナリシス)の記述では,いきなり「MECE(ミーシーと読む)」という概念が出現しますが(本書の補遺にも出てきません),これは,『フレームワーク50』のNo.1「MECE」として詳細に説明されているのですから,姉妹編の『フレームワーク50』との相互参照を行うべきだったと思います。
そのほかにも,本書No.18(事業ポートフォリオ分析)で引用されているPPMは,確かに,補遺のNo.8において1頁の説明がありますが,『フレームワーク50』No.18(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM))の詳細な説明が参照されるべきであり,そこに掲げられている図は,エクセルでも散布図(バブルチャート)を使って作成できることを注記すべきだった思われます。
このように,本書には,2つの課題が残されていますが,姉妹編の『フレームワーク50』と合わせて読むことを通じて,基本的なビジネス分析ツールを網羅した「ビジネスツール100」ともいえる内容を持つものとなっており,経営学を実践的に学ぶのに適した本であるといえると思います。