作成:2017年8月29日
明治学院大学法学部教授 加賀山 茂
本書は,「フォロアーあってのリーダーではないのか」との疑問からはじめて,リーダーシップ論を見直し,フォロアーをその動機,役割という2つの視点から類型化した上で,模範的なフォロアーとはどのような人で,そうなるにはどうすればよいのかを明らかにし,そのようなフォロアーシップの観点からリーダーシップ論に革命を引き起こした画期的な本です。
従来のリーダーシップ論は,リーダーを持ち上げ神格化するものであり,その歴史は2.500年を有するといわれています。そして,そのようなリーダーシップの考え方は,一種の社会通念,むしろ,「特別な才能を持つ人だけがリーダーになれる。リーダーには従うべきである」という脅迫観念的な神話となっています。
しかし,初めからリーダーになる人はいません。多くの人は,あるリーダーのフォロアーとして出発し,リーダーとなってからも,任期が来てリーダーを引退すれば,フォロアーとなります。つまり,私たちのほとんどは,リーダーとしてよりも,フォロアーとして長く働くのです。そうだとすれば,リーダーとフォロアーとの役割に,従来のようなはっきりとした境界線はなく,従来のリーダーシップ神話は,フォロアーの視点から覆されるべきではないか,というのが著者の根本的な問題提起です。
ほとんどの組織においてリーダーの貢献度は20%に過ぎないとされています。残りの80%は,フォロアーが握っています。それでは,フォロアーとは,どのような存在なのでしょうか。著者は,フォロアーになる動機に着目して,以下の図のように,横軸の左側に,主観的な人間関係,横軸の右側に客観的な個人目標をとり,縦軸の下に自己変革,縦軸の上に自己表現をとって,フォロアーを以下の7つのタイプに分類しています(49頁)。
≪自己表現≫
↑
⑤忠臣 | ⑥生き方
④仲間 | ⑦夢を持つ人
《人間関係》 ←-----+-----→ 《個人的目標》
③弟子 | ①見習い
②信奉者
↓
≪自己変革≫
さらに,著者は,読者に対して質問を投げかけながら,読者がどのタイプのフォロアーかを判断できる質問肢を用意し,読者がどのタイプのフォロアーであるかを判断できる仕組みを用意しています。
その結果としてのフォロアーのタイプは,横軸に,積極的な関与の度合いをとり,縦軸に,独自の批判的な考え方の程度を取って,4面のマトリックスとして,フォロアーの類型を分類しています(99頁)。
≪独自の批判的思考≫
④孤立型フォロアー ↑ ③模範的フォロアー
|
⑤実務型
≪消極的関与≫ ←-----+-----→ ≪積極的関与≫
フォロアー
|
①消極的フォロアー ↓ ②順応型フォロアー
≪依存的・無批判的思考≫
フォロアーのタイプとそれぞれが模範的なフォロアーになるための道筋を示した上で,フォロアーの立場からリーダーのあるべき姿を考え,最終的には,以下の結論に至っています。
リーダーは,流動的に動かなければならない。必要なら前に出て,必要がなければ後ろに下がる。専門技術を持ったフォロアーであれば,一時的にでもリードするには適任の場合がある。そうしたときは,リーダーはその任を譲り,フォロアーになるべきなのだ(245頁)。
リーダーは,単にフォロアーと別のこと〔例えば,フォロアー同士の接着剤の仕事,組織の管理・維持の仕事など〕をするパートナーなのだ。どちらの付加価値も,どちらの貢献も成功には欠かせない。そして,一方が他方より重要であるというものでもない(250頁)。
本書は,フォロアーシップの観点から,リーダーを持ち上げ,神話に近くなっていた従来のリーダーシップ論を覆すという,画期的な内容を有しています。その成果は,科学史において,「パラダイムの転換」という革命的な地平を切り開いた,トーマス・クーン(中山茂訳)『科学革命の構造』みすず書房(1971)に匹敵する衝撃をリーダーシップ論に与えたと思います。しかも,本書は,そのような内容の面ばかりでなく,その構成自体も傑出しています。
そもそも,すべての学問は,一般の人から見て同じように見えるものについて,厳密な定義によって,それらを厳密に区別し,モレとダブりを避けながら類型化し,それぞれの位置づけを行った上で,体系化し,最後に,すべての類型に共通する性質を一言で表現するという構成をとることが理想とされています。
本書は,この点,フォロアーを一律に扱うのではなく,モレとダブりを避けつつ,フォロアーをフォロアーになる動機という視点とフォロアーの性質という視点から,類型化し,かつ,リーダーもフォロアーも,組織にとって平等の価値を有する不可欠のパートナーであるとしている点に特色を有しています。
もう少し具体的に言うと,本書では,リーダーとは異なるフォロアーの類型について,第1に,フォロアーになる動機に焦点に当てて,上記のように7つの類型に分類しています。これだけでもわかりやすいのですが,第2に,関与の積極性と独自の考え方を持っているかどうかという2つの軸に基づいて,4つのマトリックスを作り,フォロアーの性質を,1.消極的,2.体制順応型,3.模範的,4.孤立型および,どれにも該当しない「ほどほど型」を5.実務型として分類しています。しかも,読者がこれらのフォロアーのどの類型に該当するかを知るためのアンケートを用意し,読者に参加を促しつつ,類型の特色と理想となる模範的なフォロアーになるための方法を明らかにしています。このようなフォロアーの類型論による厳密な分類を行った上でで,最終的には,リーダーとフォロアーとは,やるべき仕事が異なるだけで,パートナーであるという点では,同じであり,どちらも同じように重要であると結論付けているのですから,その学問的な構成のすばらしさは,高く評価されるべきです。
本書の特色はそれにとどまりません。
本書は,フォロアーの類型の一つ一つについて,なぜ,読者がそのような類型のフォロアーになっているのかを心理学や社会学的な知見を駆使して説明し,そのような類型にはどのような問題点が潜んでいるのか,そして,そのような問題のある類型から脱して,模範的なフォロアーになるためには,どのような行為を行うべきか,まるで,病気になったり,病気を予防するための処方箋のような提言が提示されています。しかも,先に述べたように,読者の病気の種類(フォロアー類型)が,この本のアンケートに従ってチェックするだけで,自己診断できるようになっているのですから,まさに,「医者のいらない病気の治療と予防の本」に匹敵する,フォロアーシップに関する先駆的で,かつ,誰にとっても役立つ本ということができます。
したがって,本書は,組織の中で,どのような役割を演じるべきか迷っているすべての人に薦めたい第一級の書物ということができます。
本書は,そのままで第一級の書物といえるのですが,課題がないわけではありません。
第1に,フォロアーシップの類型のうち,アンケートに答えることによって自分がどのタイプのフォロアーかがわかる類型(消極的,順応型,模範的,孤立型,実務型)ではなく,フォロアーになる動機によってフォロアーが分類されている類型(アプレンティス(見習い),ディサイプル(信奉者),メンティ(弟子),コムラド(仲間),ロイヤリスト(忠臣),ライフウェイ(生き)方,ドリーマー(夢を持つ人))については,読者によるアンケートが用意されていないため,自分が,ディサイプル(信奉者)なのか,メンティ(弟子)なのかなど,どの類型に入るのかが,微妙な場合があると思われます。そこで,この類型についても,読者に対するアンケートが用意されると,本書の価値がさらに高まると思われます。
第2に,本書のすすめに従って,すべての人が模範型のフォロアーを目指したとしても,ある時点を見れば,消極的フォロアー,順応型フォロアー,模範的フォロアー,孤立的フォロアー,実務型フォロアーの比率は,いずれも,10%~30%前後を占めるという実態は変わらないと思われます。もちろん,一人一人を観察すれば,本書のすすめに従って努力をする人は,それぞれの段階を上りつめてリーダーとなり,また,フォロアーに戻っていくのでしょうが,組織内での人口比率はたぶん,不変であると思われます。そうだとすると,それぞれの類型に対して,それぞれのフォロアー同士がそれぞれの類型の人たちとどのように接するべきかが問われることになると思います。本書は,リーダーがそれらの類型の人々にどのように接するべきかは論じられていますが,フォロアー同士でどのように接すべきかは論じられていません。そのような問題についても論じることが,本書の課題となっていると思われます。