ビジネス総論1 シラバス

作成:2015年4月9日
明治学院大学法学部教授 加賀山 茂
明治学院大学経済学部教授 丸山 正博

対象:MBL 1年次 学期:春学期 日時:木曜6時限 場所:高輪校舎15101教室


■講義概要■

ビジネス総論1,および,ビジネス総論2では,「法と経営学」の6分野にかかわる重要なケースを1つずつ取り上げ,法学を専攻する教員1名と,経営学を専攻する教員1名が協働してケースの導入を行い,それについて,教員と学生との間で議論をしながら問題の所在を突き止めるという授業展開を行う。そして,「問題が生じたときに,どのように向き合うべきなのか」,さらに,「問題を解決するためには,どのような知識と考え方が必要なのか」を徐々に発見するプロセスを経ながら,それぞれの分野に特有の問題解決の方法論を理解する。

ビジネス総論1では,6分野のうちから,以下の3分野について,ケース研究を行う。

  1. プロダクション&サプライの分野では,製造物自体やその供給過程で生じトラブルが法律問題だけでなく企業経営に与える影響を理解するための事例として,三菱自動車車輪脱落事件(『空飛ぶタイヤ』として小説化・ドラマ化された事件),を取り上げる。
  2. ヒューマン・リソーシズの分野では,企業の組織的意思決定と法令遵守との矛盾および人的資源管理の重要性を理解するための事例として,内部告発者の保護が法制化(公益通報者保護法(2004年))されるきっかけとなった「トナミ運輸事件」を取り上げる。
  3. ガバメントの分野では,市場メカニズムへの信頼を前提とした企業の自由な経済活動に対する政府の関与の妥当性を判断するための事例として,「医薬品のネット販売」の是非が問題となった事件(最二判平25・1・25民集67巻1号1頁)を取り上げ,法と経営学というものの考え方の重要性を理解する。

■学修目標■

法と経営学の6分野に関する重要な事例を法律学と経営学の両面から検討することを通じて,6分野のそれぞれに特有の問題解決の方法があることを理解する。そして,各自が提案する問題解決策をIRAC(Issue, Rule, Application, Argumentation, Conclusion)を踏まえて表現できるようになること。

■授業計画■

04/09【第1回】イントロダクション・法と経営学の考え方。

法と経営学の6つの学問分野の経営学的な特色を理解するとともに,その分野に適用される代表的な法律を概観する。そして,この年度で取り上げる3つの事例のアウトラインと文献の分析的な読み方,読んだ文献の整理の仕方,報告の仕方について,説明する。

次回までに提出する課題のための資料

04/16【第2回】プロダクション&サプライ:第1事例(空飛ぶタイヤ事件)の導入

企業活動において製造物の供給は利益の源泉となるとともに,仮に瑕疵があった場合には法的責任を問われるとともに顧客の離反を招き企業の存続自体を揺るがすおそれがある。その典型的事例として,池井戸潤『空飛ぶタイヤ』の小説を読むか,または,DVDを見て,それがどのような事件であり,この小説によって何を学んだか,何が残された課題となっているかをグループごとに報告し,認識を共有する。この事例が法律問題だけでなく当該企業の経営にも大きな影響を及ぼしたことを理解する前提として、製品特性と市場における競争構造、当該企業の競争上の地位についても認識する。

04/23【第3回】第1事例(空飛ぶタイヤ事件)の分析

空飛ぶタイヤ事件について,舞台の空間的広がり(地図化),登場人物(関係図化),事件の時系列(年表化)という3つの局面から分析し,それぞれの分析方法のメリットとデメリットとを理解する。例えば,空飛ぶタイヤ事件の舞台の空間的広がり「法と経営学」の6分野に即して「地図化」すると,以下のように表現することが可能となる。

 なお,舞台の地図化(改善案),登場人物の関係図化,事件の時系列の年表化については,レポート課題の解説において,詳しく取り上げることにする。

04/30【第4回】第1事例(空飛ぶタイヤ事件)とドキュメンタリーとの対比

ノンフィクションである小林秀之『裁かれる三菱自動車』について,前回と同じく,舞台の広がり(地図化),登場人物(関係図化),事件時系列(年表化)という3つの局面から分析し,池井戸潤『空飛ぶタイヤ』と対比することで企業活動の分析に不可欠な複合的視点を醸成し分析者(あるいは当事者)による事実評価の多義性を理解する。

第1事例(空飛ぶタイヤ事件)のレポート課題

池井戸潤『空飛ぶタイヤ』の書評をノンフィクション,判決との対比を踏まえて,A4・4枚以内でまとめ,第7回に提出。

05/07【第5回】第1事例:判決の読み方

三菱自動車事件の刑事判決(浜地判平19・12・13判タ1285号300頁)と民事判決(横浜地判平18・4・18判時1937号123頁,判タ1243号164頁)を読んで,前回と同様の図式化を行い,裁判では何が問題となり,何が問題とならないのかを理解する。

05/14【第6回】第1事例:法律上の解決と企業活動への影響の分析

刑事判決と民事判決によって法律上は解決した問題が企業経営上も解決するとは限らない。当該事件が系列販売店の再編や顧客の離反など企業経営にいかなる影響を与えたのかを考察し,トラブルが顕在化する前に企業が何をなしうるかを議論する。

05/21【第7回】ヒューマン・リソーシズ:第2事例(トナミ運輸事件)の導入

企業の組織的意思決定が法令遵守にそぐわない場合,それを認識した従業員はどうあるべきか。企業はその従業員をどう遇すべきか。その典型的事例として,串岡弘昭『ホイッスルブローアー=内部告発者』桂書房(2002),串岡弘昭『「トナミ運輸」内部告発・裁判全記録―闘いにカツラはまだ早い時流れ』桂書房 (2008)を読んで,舞台の広がり(地図化),登場人物(関係図化),事件時系列(年表化)という3つの局面から分析する。

05/28【第8回】第2事例(トナミ運輸事件)の判決の分析

トナミ運輸事件民事判決(富山地判平15・2・23判タ1187号121頁)を読んで,舞台の広がり(地図化),登場人物(関係図化),事件時系列(年表化)という3つの局面から分析する。この事例が生じた背景を理解する前提として,当該企業が属する物流分野の市場構造,当該企業の競争上の地位についても分析する。

第2事例(トナミ運輸事件)のレポート課題

トナミ運輸事件判決後の立法の動向(公益通報者保護法)を調査し,この事件が投げかけた波紋の大きさと,今後の課題について,A4・4枚以内で論じ,第10回に提出すること。

06/04【第9回】第2事例(トナミ運輸事件)のゲストスピーカーによる解説

明治学院大学の卒業生としての串岡弘昭を招いて,または,インタビューの録画によって,トナミ運輸事件についての話を聴き,様々な問題点について,質疑応答を行う。

従業員の生産性向上など企業の人的資源管理の重要性を理解するとともに,法令に反した組織的意思決定に従業員がどう対応すべきかを具体的に考える機会となる。

06/11【第10回】第1事例のレポート課題の講評

池井戸潤『空飛ぶタイヤ』の書評について,講評する。

06/18【第11回】ガバメント:第3事例(医薬品のインターネット通販事件)の導入

企業の自由な経済活動が非効率を生む「市場の失敗」を防ぐには政策の関与が有効であるが,その関与次第では「政府の失敗」を生じる。この問題を考える最新の事例として,最二判平25・1・25民集67巻1号1頁を読んで,医薬品のインターネット通販に関して,裁判所がどのような判断をしたのかを理解する。

第3事例のレポート課題

医薬品のインターネット販売事件の最高裁判決後の立法の動向(薬事法の改正)を調査し,今後の課題について,A4・4枚以内で論じ,第14回に提出。

06/25【第12回】第2事例のレポート課題(トナミ運輸事件)の講評

トナミ運輸事件に関するレポートについて,講評する。

07/02【第13回】第3事例(医薬品のインターネット通販)の経営学的分析

インターネット通販の長所と短所を企業・消費者双方に分類して理解したうえで販売チャネルとしての意義を経営学の視点から考察する。また他の消費財と異なり医薬品の販売について政策的関与が行われた理由とその妥当性を,その商品特性とともに法学の視点からも考察する。

07/09【第14回】第3事例(医薬品のインターネット通販)の法と経営学的分析

本事例のように立法によらず政令によって企業活動を制約することの問題点を法学の視点から考察する。また,インターネット通販のように変化が著しく企業のイノベーションが求められる市場における法規制・政策関与のあり方を議論する。

07/16【第15回】第3事例のレポート課題の講評

医薬品のインターネット通販のレポートについて講評する。

ビジネス総論1のまとめ

担当教員のそれぞれが,3つの事件についてコメントを行い,多面性を有する企業活動に対して「法と経営学」という融合的な分析視角がいかに貢献しうるか学生との間で議論を行う。

■授業に向けての準備・アドバイス■

ビジネス総論は,本研究科の最も重要な講義科目の一つである。講義は,ケースについて,事前に小説,裁判記録等の文献を読みこなしていることを前提として進行する。文献を読んでいない学生は,厳しく減点するので,必ず,文献を読み,レポート課題を1週間でまとめることができるように,十分な準備をすること。

予習・復習に際しては,法学的視点と経営学的視点の両面からケースを分析することが求められている。その方法として,ケースを舞台の広がり(地図化),登場人物(関係図化),事件時系列(年表化)という3つの局面から分析し,ノートに描いてみることが学習効率を高める。このような作業は,回り道のようで,実は,ケースを理解する近道となるので,ぜひ実行してほしい。

予習でよく理解できなかった点があれば,それをノートにメモしておき,授業時に配布されるリアクションペーパーに,分からなかった点が授業によって解決されたかどうかを書く習慣をつける。

■教科書■

・池井戸潤『空飛ぶタイヤ』講談社文庫(2009/9)

・小林秀之『裁かれる三菱自動車』日本評論社(2005/6)

・串岡弘昭『ホイッスルブローアー=内部告発者−我が心に恥じるものなし』(2002/3)

・『ポケット六法』有斐閣,『デイリー六法』三省堂などの六法

■参考書■

・産経新聞社取材班『ブランドはなぜ墜ちたか−雪印、そごう、三菱自動車事件の深層』角川文庫(2002/3)

・串岡弘昭『「トナミ運輸」内部告発・裁判全記録−闘いにカツラはまだ早い時流れ』桂書房 (2008/4)

・DVD『空飛ぶタイヤ』ソニー・ピクチャーズ・エンタテイメント(2009/10)

・甲斐莊正晃『女子高生ちえの社長日記』プレジデント社(20010/9)

・堺憲一『この経済小説がおもしろい』ダイヤモンド社(2010/9)

・大垣尚司『金融から学ぶ民事法入門』〔第2版〕有斐閣(2013/12)

■成績評価の基準■

教員の質問に対する学生の回答の内容、リアクションペーパー(9%),レポートの内容についての平常点(21%)、学期末の試験の点数(70%)を総合的に判断して評価する。

■関連URL■

http://lawschool.jp/kagayama/

■備考■

リアクションペーパーの提出が7割(10回)に満たない場合,または,3つの事例に対して課題として課されるレポートが第14回までに3つのレポートのうち,2つ以上が提出されない場合には,定期試験の受験資格を失うので注意すること。