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1/64 『空飛ぶタイヤ』事件の法的分析

【テロップ】
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【ノート】
池井戸潤『空飛ぶタイヤ』講談社文庫(2013年)の事件を法学の視点から分析してみましょう。 ■『空飛ぶタイヤ』事件を法学の視点から見た場合に,最も重要となる問題というのは, 「交通事故の加害者の責任と製造物責任との競合」の問題です。 欠陥車によって交通事故が起きた場合,誰が責任を負うのでしょうか。刑事事件と民事事件とに分けて検討してみましょう。 『空飛ぶタイヤ』事件では,欠陥自動車を運行させていた赤松運送の「整備不良」が疑われ,業務上過失致死傷等(刑法211条)が適用されて,代表取締役の赤松徳郎と整備管理者の谷山治郎が刑事ヒコクニンとして起訴されるおそれがあります。 さらに,民事事件としては,被害者の家族から,自動車損害賠償保障法(以下,自賠法といいます。)その▲第3条に基づいて,保険会社に対する保険金請求のほか,それを超える額について,民法709条(一般不法行為),または,民法715条(使用者責任)に基づいて損害賠償請求の訴えを提起される恐れがあります。 ■『空飛ぶタイヤ』では,欠陥車による事故であることが判明したため,被害者の家族が,損害賠償請求訴訟を取り下げてくれ,赤松運送は難を逃れます。 ■しかし,民事責任上は,たとえ,赤松運送が,事故の原因は「整備不良」ではなく,事故車両に製造者による「構造的な欠陥」があったことを証明したとしても,運行供用者である赤松運送は責任を免れることはできません(自賠法3条)。■ 自動車の保有者の「整備不良」ではなく,製造者による自動車の「構造的な欠陥」であっても,自動車の保有者が免責されないのは,なぜでしょうか? ■これが,『空飛ぶタイヤ』事件を法的に分析する上で,最も重要な問題なのです。 ■困難な問題にぶつかった場合には,基本に立ち返れという考え方が有効です。 ■複数の加害者がいる場合に,その責任をどのように分配すべきかについて,基本的な考え方を提示しているのは,民法717条の土地工作物の瑕疵(欠陥)に関する責任の規定です。 ■民法717条は,危険物である欠陥工作物から生じる損害賠償責任について,占有者,所有者,欠陥の原因者の三者間での責任の分配を巧妙に処理しています。 そこで,民法717条の土地工作物責任の場合の占有者,所有者,原因者間の責任分配の方法を検討してみましょう。 ■そこでの多数加害者間の責任分配の法理を応用して, 欠陥車による交通事故の場合における欠陥車の保有者,欠陥車の販売業者,欠陥車の製造者間の責任分配のあるべき姿を解明することにしましょう。