TracficAccident&PLver2
39/64 差止請求権(被害の未然防止)

【テロップ】
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【ノート】
差止請求は,比較的新しい問題です。 ■刑事法では,違法な行為の抑止を重視するため,犯罪行為の既遂ばかりでなく,犯罪行為の未遂をも罰しています。 しかし,民事法では,被害の救済を重視するため,従来は,損害の発生が救済の要件とされ,損害が発生していない段階での救済は,重視されてきませんでした。■ 民事法で重要な問題とされる,強制履行も,契約解除も,損害賠償も,約束どおりの結果が生じない場合とか,損害が発生した場合にのみ認められるものなのです。 ■しかし,医学においても,病気になってから治療をするだけでなく,最近は,病気の予防が重要な課題となっています。 ■同様にして,最近では,民事法においても,損害の発生を未然に防止することが重要な課題となっています。 ■特に,損害が発生してからでは,その回復が困難な場合には,損害の回復よりも,損害の未然防止が重要な課題となります。 もっとも,損害が発生する前に,行為を差し止めることには,危険も伴います。 ■差止は,刑法にいう「未遂」を罰することに相当するため,それが行き過ぎると,営業の自由が侵害されたり,新規事業に対するインセンティブが減少したりするおそれがあるからです。 ■しかし,津波の予想の制度が飛躍的に向上している現代においては,例えば,海底で大地震が起き,津波の発生が予想される場合に,海岸近くの事業者に対して,すべての操業を停止して避難を命じることは,津波も被害が生じてからしか,救済を認めないというよりも合理的だと考えられます。 ■同様にして,消費者に回復困難な被害が予想される場合に,事業者に対して,不正な勧誘行為や,不当な約款の使用を差し止めることは,甚大な消費者被害が生じた後に,救済を与えるよりも,重要であると考えられます。 そこで,消費者契約法は,2007年の改正に際して,適格消費者団体に事業者の不当な勧誘行為,不当な契約条項の使用を差し止めることができるという規定(消費者契約法第12条以下)を新設しました。 ■消費者契約法第12条以下が,消費者個人ではなく,適格消費者団体にのみ差止請求権を与えているのは,差止請求権の濫用の危険を配慮したためです。 ■消費者個人が差止請求をできるかどうかは,解釈にゆだねられています。 そこで,個人に差止請求権を与えている,民法の規定を見てみることにしましょう。 民法には,占有訴権の一つとして,占有保全の訴え(民法199条)が規定されています。 ソウリン関係の一環として,民法216条(水流に関する工作物の修繕等),民法234条2項(境界付近の建築の中止)が規定されており,講学上は,物権的請求権のうちの,妨害予防請求権と呼ばれています。 また,これらの権利を実現するために,民法は,不作為の履行強制(民法414条3項)の規定を置いており,損害をこうむるおそれがあるヒトは,差止請求を含めて,「将来のため適当な処分をすることを裁判所に請求することができる」ことになっています。