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42/64 適格消費者団体の差止請求権(3/5)民法を変える革命的条文(第10条)←システムとしての契約

【テロップ】
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【ノート】
消費者契約法の条文の中で,民法の役割を飛躍的に高めたのは,消費者契約法10条です。 ■この条文の出現によって,従来の民法理論は,180度転換したといってもよいでしょう。 ■この条文の影響を受けて,同様の趣旨の条文が,民法(債権関係)改正によって,民法に新設される「定型約款」の規定が民法に追加されることになり,契約と民法の条文との関係は,重大な変更を受けつつあります。 このような影響を与えることになった消費者契約法第10条の条文を見てみることにしましょう。 ■消費者契約法第10条は,以下のように規定しています。 民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定〔任意規定〕の適用による場合に比し、 消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、 民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。 ■この条文が出現する前の状況を確認しておきましょう。 ■この条文ができるまでは,民法の中で,公の秩序にかかわらない領域は,「契約自由の原則」が支配していました。 ■つまり,民法に規定されている事項について,契約によって,民法とは異なることを合意したり,異なる慣習があると,その合意や慣習が民法の規定に優先して適用されることが,民法91条,92条によって明らかにされていました。 ■シジン間で形成される契約が国家が制定した法に優先して適用されるということに違和感を覚えるヒトがいるかもしれません。 ■しかし,たいていのことは,いちいち国家の干渉を受けずに当事者間で決定できるし,当事者で決めたことは,国の法律に優先するというのが,「私的自治」の考え方であり,国民主権の具体的な表現なのだと考えると,個人の力の限界を知り尽くしている私たちであっても,元気が出てくるのではないでしょうか。 ■フランス民法には,このことを正面から規定した有名な条文があります。すなわち,フランス民法1134条は,「適法に成立した合意は,当事者間で法に代わる」と規定しています。 ■国民主権は参政権によって実現されますが,現実には,誰もが議員になれるわけではありません。しかし,毎日行う買い物や取引において,私たちの一人ひとりが,国の法律に代わる法を作っているという意識こそが,国を良くしていくのです。 ■このような考え方が,わが国においては,民法91条,92条によって表現されているのです。 ■もっとも,当事者間の合意を手放しに尊重すると,「優越的な地位」を有する当事者によって,不公正な契約が形成されるおそれがあります。特に,当事者の一方である事業者が勝手に作成して,消費者に対して,その内容で契約をするかどうかを押し付けてくる約款取引においてはその弊害が顕著に現れます。 ■このような不公正な契約を是正することを目指すのが,消費者契約法10条なのです。 ■さきに,システムとしての正義について,不正や不公正なことが横行している場合に働くのが,矯正的正義と配分的正義だという話をしました。 ■優越的な地位を利用して不公正な契約条項を押し付けられている消費者に対して,正義を回復しようとする試み,すなわち,契約正義を実現しようとしているのが,消費者契約法▲第10条なのです。 ■しかも,消費者契約法第10条が規定している契約正義は,これまで合意に劣後していた「任意規定」に新たな視点からその役割を見直すことによって,失われた正義を実現しようとするシステムでもあります。 ■正義の目的は,個人の自由と私的自治の実現にあるといいました。契約は,私的自治の代表ですが,その私的自治の成果としての「契約自由の原則」こそが,個人の自由の桎梏となり,消費者被害の最大の原因となっているというのが,現代社会の問題点なのです。 ■その場合に,私的自治の代表である契約を常に国家法に劣後させるというのでは,私的自治が死んでしまいます。 ■この点,消費者契約法第10条がとった戦略は,実に巧妙です。 ■国民の代表者が作った任意法規と個人や団体が作った契約とを,具体的問題の解決方法として競争させるという戦略です。 ■すなわち,第1に,個人や団体が作成した契約の適用の結果が,国民の代表者が作成した任意規定よりも,消費者の利益を増しているか,同じか,多少劣る程度ならば,契約を優先させる(私的自治の尊重)という戦略をとります。 ■しかし,第2に,個人や団体が作成した契約を適用した結果が,国民の代表者が作成した任意規定よりも,消費者の権利を一方的に害している場合には,契約を無効にし,私的自治よりも,「個人の尊厳」を優先させるという戦略です。 このことは,結果的には,任意法規の強行法規化をもたらしていますが,その戦略が,それほど,単純なものではないことは,消費者契約法第10条の採用している契約正義の考え方とその実現の戦略システムを振り返ってみれば,明らかになると思います。