TracficAccident&PLver2
45/64 差止請求権の一般的な要件(仮説)

【テロップ】
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【ノート】
消費者契約法は,差止請求権を適格消費者団体にのみ与えて,個人には与えていません。 ■事業者の営業の自由を奪うことにもなる差止は,反社会的集団でないことが明確な適格消費者団体にのみ与えるという,政策上の配慮です。 ■しかし,適格消費者団体は,非常に厳格な審査に耐えうる団体にのみに認められるため,全国で,わずか12団体が存在するにとどまっており,今後も,急激に増加する見込みは立っていません。この程度の数の消費者団体では,大多数の消費者の要望に応えることは困難です。 ■したがって,消費者個人の差止請求の可能性を見ておく必要があります。 ■民法にも,差止請求を認める規定は,あとで詳しく述べるように,物権的妨害予防請求権,占有訴権,そして,不作為の強制履行の規定があります。 ■それらの規定を総合して考察した場合に,個人が差止請求をできる要件は,以下のようにまとめることができるのではないか,というのが,私の見解です。■ すなわち,ある行為を行うと,回復困難な被害が発生することが, (1)予見可能であり, (2)当該行為をしなければ,損害を回避することが可能であるという場合には, 損害を受けるおそれがある者は,民法414条3項に基づき,回復困難な被害を防止するために,適当な処分をすること(差止請求)を裁判所に請求することができる。 ■従来は,事前の救済を認める差止請求は,事後救済としての損害賠償とは,要件がまったく異なると考えられてきました。 ■すなわち,損害賠償請求権の要件は,行為者の故意又は過失と被害者に損害が発生することと,両者の間に因果関係があることだけでよい。しかし,差止請求の場合には,生じうる損害が債権では足りず,物権とか人格権という重大な権利に限るが,反対に,故意又は過失という要件は不要であると考えてきました。 ■しかし,私の判断は,損害賠償請求と差止請求とは,連続的に考えることができるというものです。 ■損害賠償請求の場合にも,現在の学説及び判例は,加害者に過失があるかどうかを判断するに際して, ■損害の発生が予見可能であり,損害発生の結果を回避することができるのに,それをしなかったことを過失があると考えてきました。 ■そうだとすると,行為をする時点において,その行為をすれば,回復困難な損害が発生することが予見可能であり, ■その行為をやめれば,損害が回避できることがわかっている場合には, ■その行為を差し止める方が,行為を待って損害賠償請求をするよりも,優れた問題解決方法であることは,明らかでしょう。 ■このように考えると,差止請求が認められる要件は,実は,損害賠償請求権が認められる要件とほとんど同じであり, ■あえて違いを述べるならば,予見できる損害の種類が,一度発生すると回復が困難な損害に限定されることだけだということになります。 ■従来の考え方では,予想される侵害が人格権や物権などの絶対権に限定されると考えてきたのですが,特別法上の差止請求権は,例えば,営業上の利益(不正競争防止法▲第3条)とか,消費者の財産上の利益(消費者契約法▲第12条,景表法▲第10条)のように,人格権や物権に限定されているわけではありません。 ■侵害される権利の質の問題ではなく,偽ブランド商品による営業上の損害とか,不当な表示による,小額かつ多数の被害などのように,いったん侵害されると,その回復が困難な場合であると考える方が,実態に即しています。 ■したがって,このような考え方は,損害賠償請求と差止請求の要件をまったく別のものと考える従来の考え方よりも,わかりやすく,説得的だと思われます。