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61/64 相殺の担保的機能に関する学説・判例の展開

【テロップ】
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【ノート】
ソウサイの担保的機能がどのようにして進化してきたのかを学説と判例の進展に即して説明します。 ■第1段階は,民法505条のソウサイの定義どおりに,自働債権(例えば,銀行の貸金債権)とジュドウ債権(銀行に対する預金債権)の双方がともに弁済期にあり,その後,ジュドウ債権が他の債権者によって差し押さえられた場合です。 ■この場合に,自働債権の債権者である銀行が,貸金債権と預金債権をソウサイし,ソウサイの遡及効によって,ジュドウ債権の差押え債権者に優先して,自働債権の回収を図ることができます。 ■債権と債権とがソウサイによって相互に消滅しただけなのに,どうしてそれが担保的機能を有しているといえるのでしょうか? ■このことは,次のような事例を想定すると,わかりやすくなると思います。 ■A社にB銀行が1,000万円を,4月20日を返済期限として融資する一方で,A社は,B銀行に満期が4月25日に到来する1,000万円の定期預金を有しているとします。 ■皆さんの中には,A社がB銀行に十分な預金があるのなら,B銀行から融資を受けなくても済むのではないかと思うヒトがいるかもしれません。 ■しかし,この場合,A社取引上の資金が不足し,B銀行から1,000万円を借り,取引先のC社に買掛金の支払い期日である4月25日まで,借りたお金をB銀行に定期預金として保管していたと考えると,事情がわかりやすいでしょう。 ■A社は,製造した製品をD社に販売しており,売掛金の1,500万円は,4月15日に支払いを受けることになっており,それをもって,B銀行に対する貸金の返済に充てる予定だったとします。 ■ところが,4月初旬,D社について民事再生手続が開始され,当分の間,売掛金の回収のめどが立たなくなってしまいました。そこで,A社は,B銀行に支払いの猶予を申請しましたが,回答をえていません。 ■悪いことは重なるもので,4月25日にC社からA社に対して買掛金1,500万円の支払い請求が届きました。1,000万円で十分だと思っていたため,A社には,1,500万円を返済する支払能力はありません。預金は1,000万円しかなく,D社に有している売掛金債権1,500万円は回収のめどが立っていません。それなのに,A社には,B銀行に1,000万円,C社に1,500万円,合計,2,500万円の負債があるからです。 ■そして,4月30日,C社が,1,500万円の支払いを求めて,A社のB銀行に対する1,000万円の預金債権を差し押さえたとします。 ■それを知ったB銀行は,5月1日に,A社に対して,返還期日が4月20日の貸金債権(自働債権)と,満期が4月25日に到来した定期預金債権(ジュドウ債権)を1,000万円の対当額でソウサイするとの意思表示をしました。 ■この場合に,4月30日のC社による預金債権に対する債権差押えと,5月1日のB銀行による貸金債権と預金債権とのソウサイとは,どちらが優先するのでしょうか? ■この例の場合には,ソウサイ適状が,4月30日の債権差押えの前である4月25日に到来しているため,ソウサイが優先し,B銀行は,貸金債権を預金債権から優先的に回収できます。 ■ところで,ソウサイによって,貸金債権と預金債権が同時に消滅しただけなのに,なぜ,B銀行が貸金債権を回収したことになるかというと,B銀行は,預かっている預金をA社に払い戻す必要がなくなったのですから,預金で貸金債権を回収したことになるのです。 ■このことは,預金にシチ権を設定したのと同じ効果を生じるため,このことをソウサイの担保的機能と呼んでいます。 ■この事例において,自働債権(貸金債権)の弁済期,ジュドウ債権(預金債権)の弁済期,差押えの時期のそれぞれの時期を表にしたがって,すこしずつ,ずらしてみましょう。■ ■現在の学説と判例の到達点である無制限説によると,民法511条が想定している例外,すなわち,差押えがなされた後に,銀行が自働債権を取得するという例外を除いて,弁済期と差押えの時期の順序にかかわらず,常に,銀行によるソウサイが,差押えに優先するとの結論が導かれています。