WhatIsLaw2015
26/31 民法612条をめぐる議論

【テロップ】
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【ノート】
民法612条における例文解釈の事例をあげて,この事例をトゥールミンの議論の図式を使って復習することにします。 ■議論する事例というのは,賃借人が借家の一室をおおやさんに無断で又貸ししたので,怒ったおおやさんが,「賃貸借契約を解除したから借家から退去せよ」と主張したのに対して,借家ニンが,「いくらなんでもひどい」といって争いが生じたとしましょう。 ■トゥールミンの図式では,主張をするのに,データを示し,かつ,論拠を示して主張することが要求されます。そこで,おおやさんは,データを示して,主張をします。■ 賃借人は,おおやである私に無断で賃借物を転貸しました。■ そのような場合,賃貸人である私は,賃貸借契約を解除して,賃借人を追い出すことができます。■ なぜなら,民法612条には,賃借人が無断転貸した場合には,賃貸人は,契約を解除できると書かれているからです。 ■おおやさんの主張は,条文どおりの主張なので,もっともな主張だということになります。 ■従来の三段論法なら,これで,決着がつくところです。しかし,議論の場合には,反論によって,結論を覆す可能性があります。 ■そこで,賃借人が反論に出ます。■ 民法が,無断転貸を賃貸借契約の解除原因としたのは,それが,信頼関係を破壊するからです。しかし,私が又貸しをしたのは,借家の一室を,就職が決まった甥に,地元になれるまでのわずかな期間貸すことにしただけです。確かに,おおやさんに無断で又貸しをしたことは,申し訳なく思っています。しかし,このような些細なことで,賃貸借を解除するというのはあんまりです。■ このような議論をした後に,裁判官は,以下のような判決を下すことになります。■ 無断譲渡・転貸の場合に賃貸借契約を解除できるかどうかについては,つぎのように考える。■ 継続的契約関係の当事者が,信頼関係を破壊したときは,民法612条により,原則として,契約を解除できる。 そして,賃借人が無断譲渡・転貸を行ったときは,信頼関係の破壊が推定される。これが,民法612条2項の現実的な意味である。■ しかし,信頼関係を破壊したと認められない特段の事由があることを賃借人が証明したときは,この推定は覆ることになるため,契約は解除できない。 ■本件の場合,就職した甥が地元になれるまで,短期間の間,借家の一室を転貸することは,背信行為当たらない特段の事由があると認められるので,賃貸人は契約の解除をすることができない。 ■賃借人は,引き続き,借家に居住することが認められる。以上です。