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一年次演習B(地政学)を受講して


作成:2016年1月12日
明治学院大学法学部(法律学科)1年 一受講生


この授業を振り返ると、法学部の授業では得られない視点に気づけた点で、自分にとって意義深いものだった。授業が始まったころは、地政学の知識など皆無で、テキスト(ロバート・D・カブラン『地政学の逆襲(The revenge of geography)』朝日新聞出版(2014))に書いてあることがさっぱり理解できなかった。しかし授業に出るうちに少しずつ分かり始めて、最終的に難しい本を通読できたことは自信になったし、授業に出た甲斐があったと感じるところである。

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内容で特に面白く感じたのは、国ごとの利害関係の模様である。各国は利害関係が一致すれば手を組むし、そうでなければ対立する。そして、敵の敵は味方とみなし、過去にいろいろあっても、そこは一旦置いておいて手を組む。

この利害関係に注目して米国の外交を見てみると、面白いくらい米国の外交の「本音」が紐解けた。例えば、米中は政治的に対立している。なぜか。それは米国が、正義を探求する超理想主義国家であるのに対して、中国が国益第一主義の超現実主義国家であるからだ。両国の対立の本質は価値観の相違にあるのだ。一方、ベトナム戦争は米国唯一の負け戦でありながら、米国はベトナムと現在良好な関係を築いている。なぜか。それは、米国は中国の経済的台頭に危機感を抱いているし、ベトナムもまた南シナ海問題など、中国に対する警戒心があり、両者は共通の「敵」に対して関係を強化する必要があるからだ。ここにはまさに、「敵の敵は味方」という、ダイナミズムが存在している。

もうひとつ利害関係で面白かったのは、中国がチベットを手放さない真の理由である。中国は国土に砂漠が多いため、チベットが独立して、水源が確保できなくなると死活問題なのだ。また、「対印関係、イスラム教との関係においてもチベットは要衝のため独立させることはない」という話だった。科学技術が発達した現在では、「一昔前とは地政学の持つ意味が違ってくるのかな」と気づいた瞬間だった。また、この気づきを経て、テキスト(『地政学の逆襲』)の本質が理解できるようになったと感じている。

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現代社会は通信情報技術が発達し、核兵器やミサイルも存在する。そのため、やろうと思えばその日のうちに敵国に攻撃を仕掛けることが可能である。こうなってくると地理的な距離など関係がない。しかし一方で、先に述べたように例えば資源やエネルギーの観点から地図を読み解していくと、そこには、各国のアイデンティティや利害が浮き上がってくる。難民問題や宗教対立についても同様のことが言えるだろう。

テキスト(『地政学の逆襲』)の要旨であり、筆者(ロバート・D・カブラン)のメッセージが、テキストの内表紙に書かれている。

政治的基盤が揺らぐ今の時代に、地図は次に起こることを予測する歴史的論理を発見する鍵になる。なぜなら、地理こそが唯一永続的なものだからである。

時代は移ろい、人為的な国境線は変わることがあっても、山脈や河川の位置は変わらないし、天然資源といった地理的要素が今後も国家の動向を左右するのだ。グローバル社会の今だからこそ、事象を空間的に捉え、その本質に迫るスキルが重要なのである。私は今後、こういった俯瞰的な視点から世界情勢を見るようにしていきたい。

マスコミから得られる情報は二次情報である以上、どうしても恣意的な部分を持つし、時にはひどく偏った情報の場合さえある。それに対し、この授業で得た地政学の知識を総動員して、自分で地図を広げて客観的に思考した考察は「本物」であろう。このスキルは、国際情勢の報道におけるマスコミの情報を批判的に見るうえでもきっと役立つものだ。

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社会人になる一歩手前の「大学生のうちに、様々な教養を身につけたいな」という思いから、敢えて、シラバスに「法律のことではなく」国際情勢のことが書いてあったこの授業を選択した。最初のうちは戸惑うことも多い授業展開と内容だったが、今では本当に取って良かったと感じている。その一番の理由はやはり、地図から世界をつかむという経験が新鮮で、魅力的だったからである。私に新しい世界を提供してくださり、また毎回の授業では示唆に富んだ意見を提示してくださった加賀山先生には感謝してもしきれない思いである。

さらにわたしには、先生に感謝したいことがもう一点ある。それは「法律を学ぶことがいかに素晴らしいか」を教えてくださったことである。先生が誇らしげに、また楽しそうに法律学についてお話しされている姿に私はとてもポジティブな刺激をいただいいていた。仕事に誇りを持ち、毎年論文を欠かさず発表するという実績があるにもかかわらず、決して近寄りがたい印象を与えず、親しみやすい先生のような雰囲気の教授はそうはいないと感じた。

また、先生の講義は、自分の中の法律に対する考えをより身近なものにしてくださった。特に、「法律の良さは暴力ではなく合意で、平和的な紛争解決ができる点である」というお話を聞き、硬派な印象のあった法律の優しい側面を見た気がして印象に残っている。法律は民主的な方法によって改めていくことができるし、「ルールに従って結論を出しましよう」と言えるのは、何より法学部で学ぶ学生の強みなのだということを教えていただき、法学部でもっと真面目に深く勉強していこうという気持ちになれた。

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一年生のうちにこの授業で、自分にとって新しい思考方法と、そして加賀山先生と出会えた幸運に感謝し、誇りに思う。他学部では獲得できない知識と能力を身につけるべく、二年次からの専攻や大学生活に全力で取り組んでいきたい。また、30年後や50年後の目標を思い描いて、目標を決めて向かっていく力を、明学で学べる環境と時間がある今から蓄えていきたい。そして社会的な弱者のために「DoFor Others」ができる人間になれるように、教養を深め、人とたくさん関わり、頭をはたらかせていきたい。


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