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ビジュアル民法講義

新しい学習理論(インストラクショナルデザイン)に基づいて制作されたわが国で最初の法学ビデオ教材シリーズA

担保法革命

ロングバージョン(90分)

作成:2013年2月1日

明治学院大学法科大学院教授 加賀山 茂


90分で担保法の全体像を学ぶ(概要)

■担保法革命 第1部(物的担保)

担保法は,民法の中でも最も難しい科目であるとされている。特に,物的担保(担保物権)は,体系的な理論が構築されていないために,「技術的性格が強い」分野として,これまで,暗記に頼る学習が行われてきた。

このビデオは,担保法の最新の理論(担保法革命)によって,暗記に頼ることなく,担保物権をすべて整合的な理論(債権の掴取力の質的強化,すなわち,債権の優先弁済権)によって理解することができることを示したわが国最初のビデオ教材である。

このビデオ教材では,単なる講義ではなく,講師と学生との質疑応答の他,学生同士による議論も収録されており,最新の講義方法を知る上でも参考になる。

■担保法革命 第2部(人的担保)

人的担保(保証と連帯債務)は,多数当事者の債権債務関係に関する重要な概念であるが,わが国の民法は,その中核概念である「保証」を「連帯債務」の後に配置し,「連帯債務」の規定を「保証」の規定が準用するという倒錯した方法を採用しているために,学生が保証と連帯債務とを全体として統一的に理解することを妨げてきた。

この教材は,「保証」から始めて,その応用として「連帯債務(本来の債務と連帯保証の結合)」を説明するという順序での講義方法を採用しているため,人的担保全体を暗記に頼ることなく,無理なく理解することができることを明らかにしている。

最後に示した,最高裁判決(最二判昭57・12・17民集36巻12号2399頁)の解説は,わかりやすい図解と,学生と講師との間の質疑応答を通じて,わが国の判例研究としても最も高度なレベルに到達しており,研究者にとっても見逃せない内容となっている。



はじめに ビデオ教材作成の意図


01 はじめに 担保法のビデオ教材制作の意図

1.担保法を苦手とする学生が多いのはなぜか?

担保法という領域については,学生さんに聞きますとですね,「苦手」という人が圧倒的に多いわけですね。

担保法の中には,「人的担保」としての保証と連帯債務,「物的担保」としての担保物権が含まれているわけですけど,特に,担保物権については,「苦手だ」という人が多い。

私も長い経験がありますけれども,「担保物権が好きだ」という学生には,一度もお目にかかったことがないということです。

「これは,なぜなのか?」ということを明らかにしていきますと,この担保物権を「物権」として教えるということが,一つの分かりにくさを増長しているのではないかというぐあいに考えているわけです。

2.担保法を暗記せずに理解できる理論の提示

優秀な学生がですね,優秀な先生に教えていただいても,なお,「苦手だ」ということが現状なので,新しい理論を作る必要があるのではないのか,というのが,このビデオを作成した一つの理由です。

このビデオでは,担保法を全体として理解し,例外のない理論によって,暗記に頼らずに,学修ができるという工夫をしています。


第1部 担保法革命と物的担保


第1章 担保法革命の全体像


02 担保法の歴史と新しい担保法の着想
(アニメーションを見ながら講師の着想を理解しよう!)

1.担保法の分断の歴史

全国の大学でも,共通にですね,担保物権とか担保法は嫌いと,好きになれない人が圧倒的に多いと,そういう現象があるので,それで何とか解消したいということです。

旧民法の時代は,この担保法というのは,債権担保編という〔ように〕法典の中で〔一か所にまとめられていた〕。これが,旧法令集。〔ここに〕昔の法律をですね,載せてくれている。そこに,旧民法というものがこの中に載っているんですけれども,そこを見ると,担保物権も,それから保証と連帯債務もですね,債権担保編というところで統合されていたんですね。

2.担保法の分断による理論的発展の阻害

それを,現在の民法は,ドイツのパンデクテン方式というのを取り入れたために,担保物権にあたる物的担保と言われているものを物権編に移動し,それから,債権担保編の中にあった,はじめの保証と連帯債務,不可分債務を含めて,債権総論に移した。こういう歴史があって,それぞれ別々の法理〔へと分断されてしまった〕。

だから,物権をやる先生は担保物権をやるし,それから債権をやる人が保証と連帯債務〔をやるということ〕で,両方やる人が今度はかなり少なくなってしまって,そこで,その両方に共通の法理〔例えば,付従性の法理〕というものがあまり発展しなかった。それぞれ物権と債権ということで,違う法理が,そこで使われるために,統一的な理解というものがかなり難しくなってしまったということなんです。

3.担保法革命と担保法の体系の再構築 

3−1.物権と債権と担保物権との関係

このビデオで紹介している担保法の新しい理論,「担保法革命」といわれている理論をどのようにして私が着想するに至ったか,ということについて,一言,お話をさせていただきたいと思います。

まず,従来は,担保物権を物権として考えてきたわけです。これは民法の編別が,担保物権を物権の中に入れているということですから,当然のことのように思われるわけですね。

それで,物権というのは,「ある物に対して,直接・排他的に支配する権利」,内容は,「ある人がある物に対して,使用・収益・換価・処分ができる」。この使用・収益もしくは換価・処分ができる権利だということを考えていたわけです。担保物権というのも,物に対して,「換価・処分の権限」を持つということですから,これは物権であるというぐあいに,従来は考えてきたということになります。

債権は,本来的には,「ある人が他の人に対してあることをする,あることをしないでほしいと要求できる権利」に過ぎないのですけれども,物権が人と物との関係を規定するのに対して,債権は,人と人との関係なんだから,担保物権は,債権ではないと一応考えられてきたわけです。

しかし,よく考えてみますと,債権の場合でも,債務者がその債務を任意に履行しないという場合は,これは,債務者が支配している物に対して,「債権者が換価・処分をする,すなわち,強制執行をすることができる」。これを債権の「掴取力」と呼んでいるんですけれども,債権も,債務が任意に履行されないときは,債務者の物に対して,換価・処分権を持つということがある。そうだとすると,担保物権が持っているといわれていた,換価・処分権と実は,同じようなことになる。

じゃ,どこが違うのかというと,担保権者というのもですね,実は,債権者であるということが条件になっています。もし,債権がないと,担保物権がいくらあってもですね,それは,無効の担保物権ということになる。ですから,債権者であるということは前提とされていて,そして,債務者が任意に履行しないときには,同じように,掴取力を債務者に対して持つわけですけれども,その掴取力が,普通の債権者よりも強い。すなわち,優先弁済権を持っているということです。

そうだとすると,担保物権というのは,「債権者が,他の債権者に対して,優先的に弁済を受ける権利」だということになるので,「これは物権ではなくて,債権の掴取力が強化されただけではないのか?」ということを思うようになったわけですね。

〔これが,〕新しい理論の着想だということになります。

3−2.今回の講義の特色

03 新しい担保法の体系の特色
(担保法のパラダイムを転換する新・体系図に注目!)

こちらの席には通説を擁護する人たち,一応まあ座ってもらって,こちらは,新しい説についても,面白いんじゃないかと思ってくださる人が,一応仮定的にですね,分かれていただいて,「通説」と「50年後の通説」(これは,私の同僚の先生から聞いた話ではですね,「先生50年無理ですよ。100年後の通説といってください」と言われたですけども),私は説得の仕方によっては50年でということで。

今日は,通説側と50年後か100年後か知りませんけど,〔将来の〕通説との間で,対話ないし対決をやっていただく。その前に,私が自分の説を簡単に説明する。そういう形で講義を構成していきたいと思います。

4.担保法の新体系

最初は,私がどう考えているかということをまず説明します。

担保法というのは,先ほど言いましたように,債権の債権が任意に弁済されないときに強制執行ができる力,それを「掴取力」と呼んでいますけども,それを強化するというただ一つの概念から出発した。

これを2つに分けます。2つに分けるということはどういうことかというと,「量的強化」と「質的強化」。この2つに分けるんですね。

「量的強化」というのは何か?というと,その掴取力を及ぼす債務者というのは,一人しかいないのですけども,それを保証人とか連帯債務者という形で「責任財産の個数を増やす」。

もう一つは,一人でも債務者〔でも〕いいんだけれども,他の債権者よりも先立って,優先して回収することができる,そういう「質的な強化」というものを考えて,これを物的担保という形で,要するに,債権者同士が争った時に,その順番が付けられている。

そうすると対抗の問題にもなって,物権的に近くはなるんですけども,あくまで争っているのは物権者じゃなくて,債権者同士の順位を決めている。そういう意味で物的担保と言われているものがある。

それは,〔留置権のように,引渡を拒絶できることによって〕優先的に弁済が受けられるという事実上の優先弁済権と,〔先取特権,質権,抵当権のように〕強制執行したときでもですね,配当がその順番に従って,きちっと優先弁済権が確保されるという,法律上の優先弁済権,こういう具合に分けようということですね。

4−1.人的担保

講師:そして,債務者以外の人に責任を負わせる制度として,これは何になりますか?制度としては?
学生N:保証です。
講師:はい,保証ですよね。そして,この保証と本来の債務と結合させる。これはなんになりますか?
学生N:連帯債務です。
講師:はい。連帯債務ということになりますね。

4−2.物的担保

事実上の優先弁済権とは,先ほど言ったように,「債権を弁済してくれるまでは渡しませんよ,という形で履行拒絶の抗弁権となっているものは何か?」

学生N:留置権です。
講師:はい,留置権ですね。
講師:優先弁済権そのもの。例えば,給料債権というのはですね,登記いらないですね。会社財産全部に対して,登記もいらない。占有もいらない。ただ,ただ,給料債権だという債権の性質に応じて,他の債権者よりも優先して弁済をしてもらうことができる。これがなんでしょうか?
学生N:先取特権です。
講師:そうですね。優先弁済権にさらに留置的な効力,留置権と同じような効力を一緒に併せて持たせるというのは何?
学生N:質権です。
講師:はい,質権ですね。

最後に追及効と言われているもの〔抵当権〕。抵当権を設定しておいて,それが第三者に譲渡されたという場合でも,債権者はどこまででも追及できる。

これは物権だから追及できるという従来の説明だったんですけども,詐害行為取消権ですね。登記がなくとも,その責任財産をわざとで他の人に逸失させるという詐害的な責任財産の移転をした場合には,債権者でもですね,物権ではなくて,単純な債権者でも,詐害行為取消権によって,その詐害的な責任財産の逸失を否定して,その人〔受益者,転得者〕に対して,強制執行ができるという制度がありますから,詐害行為取消権の場合には,「害意」が原因となって,どこまでも追及できる。

抵当権の場合は「登記」があるから,どこまでも追及できる,ということで,これも債権の優先弁済権の一つのあらわれじゃないかと考えて…。

最後に出てきましたけども,「付従性」というこの共通の性質ですね。ただ一つの概念から始まり,全てが,付従性という同じ性質を持っている。こういう形で理論構成をした。ですから,ここでは例外もない。全て「債権の掴取力の強化」という言葉で,全てを説明することができるので,いろいろ難しい問題をですね。簡単に説明することができるのではないか。


第2章 物的担保(担保物権)の新しい解釈


04 留置権
履行拒絶の抗弁権
(同時履行の抗弁権との対比のニメーションが面白い!)

1.留置権

まず一つ一つ話を進めて行きたいんですが,留置権というのは,担保物権の一番最初に書かれている。形としては「引渡しを拒絶することができる抗弁権」にすぎないと考えているわけですね。

通説は物権だという具合に説明するんですけども,物権だとするとこの物権の代表は,所有権で,使用・収益・換価・処分という4つの権利を持っている。

そのうち制限物権というのは,例えば,用益物権だと,換価・処分はできないけど,使用・収益はできるということで,所有権の権利が狭められているというのが,制限物権。 担保物権も制限物権であると考えてられますので,所有権の権能のうち使用・収益はできない。抵当権は,使用・収益できないわけですね。だけども,換価・処分できるというところで,物権だと言われているわけです。

ところが,この留置権を見ると,使用・収益・換価・処分,全部できない。人のものを預かっているだけで,勝手に使っちゃいけない,収益できないと明文の規定がありますね〔民法298条〕。換価も強制執行というのはできる権利じゃなくて,形式的な処分はできますけども,腐ってしまうから駄目だからということで,換価することはできますけども,本来の優先弁済権としての処分ではないということですから,留置権は物権の性質の一つも持っていないというところがまず問題だろう。

対抗要件にしてみても,先ほど言ったように〔占有の継続であって〕,物権総則には全く従っていない。したがって,これは物権じゃなく債権。先ほどの定義もありましたように,債権の弁済を受けるまで,債権が実際にあって,今修理したものを持っているのであれば,それを弁済,〔すなわち,〕修理代金をもらうまで拒絶できる引渡しを拒絶できる〔権利に過ぎない〕。

相手方が引渡しを請求してきても,それを拒絶できるという権利。そうすると,これは同時履行の抗弁権ですよね。

修理した人,これは,請負契約ですので,報酬請求権と終わったあと引渡請求権がでてきます。それが拒絶できるというのは,同時履行の抗弁権だからこれは,判決は「引換給付判決」〔民事執行法31条〕。

それ〔同時履行の抗弁権〕と同じなのかというのですが,それは違ってくるんで,同時履行の抗弁権というのは,契約当事者の間でだけしか言えない。だから,これを所有者が誰かに譲渡してしまいますと,この人は,所有権に基づいて返せとこの車をといってきます。そのときに,この人〔注文者・旧所有者〕に拒絶してもしょうがないんですね。言ってきているのはこの人〔新所有者〕ですから。

ここ〔新所有者〕に言えるかというのが,同時履行の抗弁権では言えないんだけども,留置権はここで拒絶できる。そうすると,どうなるかというとこれ判決〔最一判昭47・11・16民集26巻9号1619頁(民法判例百選T〔第6版〕第79事件)〕があるんですけども,この人〔新所有者〕に対して,「引換給付判決」が下されるんですね。

ですから,このお金〔被担保債権〕を払えば,この物を引渡すことができる。お金を払うまでは誰が払うかって言うと,この人〔注文者・旧所有者〕が払ってもいいし,〔新所有者が〕立替払いしてもいい。とにかく,この債権〔報酬債権〕が弁済されない限りは拒絶できますよというのが留置権の意味なんです。

そうするとこれは,ここであった,同時履行の抗弁権が,第三者に対抗できるというのであって,何か物権が別に生じているのではない。これが,なぜ第三者に言えるかというと,対抗要件が占有の継続,今も占有をし続けているということであって,これは物権変動の対抗要件とは違う。物権変動の対抗要件は,とにかく,持っていればいい,引渡しがあればいい。

〔しかし,留置権の場合は,〕引渡しだけでは駄目だ。これをずっと持ち続けていない限りは,留置権は主張できない。そういう意味で,物権の対抗要件とは違う,対抗要件が債権に与えられているという具合に考えたらどうかな,というのが私の考え方ですね。

2.先取特権

05 債権者平等の原則と優先弁済権との対比
(これで,先取特権の本質が理解できる!)

2−1.具体例による優先順位と配当額の決定

先取特権なんですけども,これが「優先弁済権そのもの」だと考えています。

どういう問題かっていうと,借家人。みなさんの学生生活の中で下宿している人いると思いますけど,下宿してですね,エアコンをその家に設置した。

これは先取特権の対象(目的物)になる。まずこれを買うのに,サラ金からお金を借りたとします。25万円を借りた。そして,代金をですね。まだ,20万円残っている。

このエアコン壊れちゃったんですね。で,修理した修理代金も5万円,まだ残っている。

最後に,この家賃も踏み倒している(10万円)。

こういう関係で,この借家人Aに対して,債権者がB,C,D,Eといて,Bは10万円,Cは5万円,Dは20万円,Eは25万円。こういう債権を持っているとします。

講師:もしも,これ先取特権がないとしたら,これはどういう具合に配当されると思いますか?もし,先取特権が全くない。全部債権者平等だとすると?
学生Hi:按分されるのではないでしょうか。
講師:その通りです。按分されるとなると,競売代金が30万円だとします。全部これ〔債権〕合わせると60万円になります。そうすると,ここはいくらになりますか?配当はいくら?Bは?・・・全部で60万債権。ところが配当される原資は30万しかない。そうするとこれはいくらになりますか?
学生Hi:半分に。
講師:はい,そうです。いくらですか?
学生Hi:5万。
講師:5万ですね。配当は5万しかもらえないですね。この人は,債権5万ですので。
学生Hi:2.5万。
講師:そうですね2万5千円。
学生Hi:はい。
講師:それから売主は残代金20万円ありますが。
学生Hi:この場合は10万円。
講師:はい,それから?
学生Hi:12万5千円。
講師:その通り。12万5千円そうなるはずなんですね。それが「債権者平等の原則」というものなんですけど,先取特権があるからそうじゃなくなるんですよ。
講師:実際はどうなりますか。この場合に?
学生Ha:第一順位のBに10万円。
講師:第一順位なんですよ,この人〔不動産の賃貸人〕が。その人が10万円とっちゃうわけね。そうすると残りは30万円のうちの20万ですね。Cさん〔請負人〕はいくらもらえますか?
学生Ha:5万です。
講師:5万。満額ですね。だから両方共満額もらえるというところが,債権者平等の原則と違う。順位が決まっている。この人〔不動産賃貸人〕が10万円とって,この人〔請負人〕が5万円とると15万円。残り15万円しかないですね。だから,この売主は20万円〔の債権を〕持ってますが,いくらもらえますか?
学生Ha:15万円です。
講師:その通り。引き算した残りしかもらえない。そうすると一番お金を貸していたサラ金業者はいくらもらえる?
学生Ha:0です。
講師:0ですね。これが先取特権の意味なんです。

按分比例ではなくて,順番が付けられている。債権に順番が付けられている。これは,物に順番がつけられているかというと,物は一つですね。動産だけなんですよ。

「なんでそんな差ができるか?」というと,なんで差が出たか?債権が違うからですね。債権の種類によって,これ被担保債権というんですけど,これ〔B〕は賃料債権です。これ〔C〕は請負の報酬代金債権。こちら〔D〕は売買代金債権。こちら〔E〕は貸金債権なんです。それに順番が付いているのであって,先取特権の本質というのは,物で決まるんじゃなくて,被担保債権によって決まる場合があるいうわけですね。これはまさに物権とは違う話なんです。

2−2.担保物権の3要素

これをもう少しみてみると,担保物権は3つの要素から構成されていて,これ,すごく大事なんです。担保物権というのは,まず「被担保債権」,債権が何かによって順番が変わってきますから,非常に重要だということになる。

それと「目的物」が何かということで,例えば一般財産,全部の財産。これを一般先取特権という形で先取特権の順番にも影響を与えます。物が全財産なのか,動産だけなのか。不動産なら登記もあったほうがいい。なくても大丈夫なんですけども〔民法336条〕,あったら順位が上がるんですね〔民法339条〕。そういう意味では,目的物も大切だ。

それから,「優先順位」というのが最も大切なんです。先取特権の一番の命は,「優先順位」なんです。

それをどう決めたらいいのか?というのを,物権法理で決められるでしょうか?というのがここでの問題になりますね。「優先順位はどうやって決まるか」というと,「目的物の保存に対する被担保債権の貢献度で決まるんではないか?」というのが,私のここでの考え方ですね。   なぜかって言うとですね,この人〔E〕は一番最初に,順番こっちから始まってるんですね。お金を貸しましたっていうだけ。物に対して貢献してないんですね。

売主〔D〕っていうのは物をここに運んでこれたっていうのは,この人がお金を全部払わないのに同時履行の抗弁言えるはずなのに許した。そのことによって貢献している。次に,〔Cが〕壊れたのを直したから30万円の価値がある壊れた0円になってるんですね。価値を維持するのに保存というのが貢献しているから優先順位は上がっている。最後の〔Bの〕賃料って何かって言うと,これ家を引き払われるというと,雨露防げないで,これすぐ壊れちゃう。最後まで保存に貢献した。だから順番が逆になってるんですね。

ここが一番貢献して,これが「供給」という形で貢献し,「保存」という形で貢献し,最後まで「環境設定」して保存した。順番が,逆こっちから順位なのに,時間的にはね。こういう形で順番がついているのが不思議なんです。なぜこうなのか?「順番逆でしょうよ」,ということなんですが,それが次にお話する優先順位の考え方によって解決するだろうと思う。

本件の場合では,「黙示の質権(gage tacite)」と言われている,こういう自分は占有していないんだけど人が占有して間接占有しているという黙示の質権(不動産賃貸)。それから第2順位は「保存」,第3順位は「供給」である売買ですね。そしてこちらは無担保という形で決まってくる。そして配当額は10万,5万,15万,0。今やったとおりですね。

2−3.優先弁済権の順位の決定法理

〔優先順位ってのが,最も大切。先取特権の一番の命は優先順位なんです。〕

06 優先弁済権の順位の決定法理
(このビデオ教材の最高傑作!ここだけは見ないと損!)

なぜそうなるのか?もしも先取特権がなかったらどうなるのか?は先ほどやってもらったように按分比例になるはずなんだ。じゃあどういう形で順番は決まるのか?

ここがすごく大事な所で,今日の講義の1番,担保物権についてですはね,1番大事なところなんです。〔民法〕330条に順番についての法理が書かれている。

「同一の動産について特別の先取特権が互いに競合する場合には,その優先権の順位は,次に掲げる順序に従う。この場合において,第二号に掲げる動産の保存の先取特権について数人の保存者があるときは,後の保存者が前の保存者に優先する。」

ここがポイントなんですね。物権だと,先に権利を得た人が優先するということになっているんですけども,「後が優先する」。なぜか?っていうと,それは保存の本質に関わる問題なんですね。

今ここにあるものが壊れた時に,それを修理した人が一番貢献している。その後でまた壊れたという時に,直した人がさらに優先するというそういう順番ですね。

これは比喩的にいうとですね,自分を一番大切に育ててくれた人は誰かいうと,ずっと祖先まで行く。でも,誰に親孝行しなければいけないかというと,まず父親・母親。それで余力があればおじいさん・おばあさんという順番になるのと同じ事なんです。法律的な順番は,あとほど優先することになる。これは物権ではないですね。

この場合も,民法の条文でいきますと,〔民法330条1項〕

〔第1順位〕1号が,黙示の質権と言われている不動産賃貸,運輸,宿泊の先取特権。
第2順位が,保存の先取特権。
第3順位が,売買の先取特権。

どうしてこの順番になっているかというと,図の色がわざとずらしてあるんですね。

1位のこれがゴールドメダル。金メダルだと思ってください。黄色ですね。
2位はシルバーで銀メダル。それから
3位は銅メダルだという具合に考えていただくと,

1位はちょっと銅の色を出しているんですね。2位はこれは金メダルです。それからこれ〔3位〕がシルバーなんですね。

なぜこういうこと〔銅メダル,金メダル,銀メダルという変な順序〕になっているかというと,ここが大事なんです。〔民法330条〕2項を見て頂きますと, 「前項の場合において,第1の先取特権,この人が知っている」という場合ですね。第一順位要するに「黙示の質権」ですけれども,

「先取特権者は,その先取特権の取得の時において,第2順位または第3順位の先取特権者があることを知っていたときは,これらの者に対して,優先権を行使することができない。」

そうすると,知っている場合どうなるか?

ここはこうなる。ここにいた黙示の質権が,知っているとここに下がる。次に,この人が第三順位を知っている,売買を知っていたらどうなるか?というと,知ってる。そうすると下がる。全部下がってしまった。順番は,色は〔順位の色と先取特権の種類の色とが〕同じ。保存〔金〕,売買〔銀〕,それから黙示の質権〔銅〕という形で,順番が確定している。

そして〔民法330条〕3項を見ると,その通りのことが書いてある。果実に関しては,

第1の順位の農業の労務に従事する「保存」者である。
第2の順位は種苗又は肥料の「供給」者売買の売主である。
第3順位は土地の賃貸人。これ不動産賃貸と同じですね「環境を設定」した人。

こういう順番になっている。これが元々の順位だったんだと考える。

元々の順位がどうしてこういう不動産〔賃貸〕これが1位で,これ〔保存〕が2位で,〔供給が〕3位になっているか?というと,これは逆であってですね。今は,知っているから落ちていったんですが,〔民法〕319条という条文があって,この黙示の質権(第1順位の先取特権)については,「善意取得の規定を準用する」 という条文があるので,結局,この人が善意・無過失で売買を知らなかったとしますよね。そうすると,こう上がるわけです。それから保存の先取特権を知らなっかたとなると,上へ上がる。

これが民法330条〔1項〕に書かれている,はじめの順番〔@環境設定,A保存,B供給〕。しかし知っていると下がります。知っていると下がります。知らなければ,上がります。知らなければ上がる。こういう形で,順番が決められているのではないかいう具合に考えたわけですね。知ってると,こう下がる。そうすると〔@保存,A供給,B環境設定〕,なるほどと。

この〔民法〕330条っていうのは説明が難しいんですよ。どの教科書見ても,満足する説明は書いてない。

私だけですよ。わかりやすく説明したのは。こういう形で,先取特権は順番が命なんだけども,なぜ順番が決まるか?きちっと説明しきった理論っていうのは今までなかった。

だから,みんなどうしたかって言うと,覚えているんですね。

1番:何1号に書いてある,不動産賃貸,運輸,宿泊旅客とか宿泊だ。
第2順位は,保存だ。
第3順位は売買の先取特権だ,

と覚えておいて,知っていたらどうなるということで,書いてあるから動かすわけですね。それで終わり。理由は?って,聞かれると何も答えられない。そう書いてありますと。

大事なことなんですね。書いてあることをしっかりと理解して試験に出たらそれに従って解決案を出せる。大事なことなんだけども,何故?と聞かれた時に,「そう書いてあるから」だけでは科学ではないし,困るわけですね。応用問題の時に答えられなくなってしまうから。

今度は譲渡担保。それぞれの〔債権者〕の中に,今度は譲渡担保をしている人が出てきた。その人はどこに入れたらいいんだ?ということは,最高裁の判決〔最三判昭62・11・10民集41巻8号1559頁〕であるんですけども,その場合には理解しているときっちりと答えられる。

理解してなかったらどんなこと言うかというと,譲渡担保って質権に似ているよねって。じゃあここ〔黙示の質権〕と同じにしたらいいのか。そうすると知ってると上がってくと理解されますよね。それから,いやいやそうじゃなくて,質権のとこに規定があるから質権の順位,それと一緒じゃないのかとか,〔民法333条適用説,民法334条類推説,民法319条類推説など〕いろんな説があるんですけども,そういうその応用問題がでてきたときにたじろかないというのは,理由がわかっているからだと思うんですね。この理由を考えていかなければならないんじゃいか。

今は,先取特権です。一番大事なことなんだけど,従来の講義では,先取特権というのはほとんど教えないんですよ。今一番重要なのは抵当権だからねって。抵当権からいきなり入る。一番難しい問題だからわけわかんなくなる。

それから,そうじゃなくて,〔民〕法典の順番通りで,留置権を教える人がいる。留置権だと,もっとわからない。なぜかっていうと,同時履行の抗弁権との関係はどうなんですか?ってわけがわかんなくなるし,その留置権の持っている特異なその性質ですね。物権としては一番弱い。だけど,第三者に譲渡された途端に,物権だと言い出す。非常に難しい問題があって,何を教えても学生はわからない。みんなが苦手になるということだったんですけども。

私の考えを使ってもらうと,理由がつく,応用力がつく,何聞かれても答えられるということなので,便利かなと思っている。

07 質権
財産権(無体物)の上の物権は認められるか?
(債権者代位権との関連がおもしろい!)

3.質権

先取特権の次は質権なんですけども,現在の質権〔のうち動産質権の中心を占めるはずの〕質屋さんというのは斜陽になっていて,ほとんど使われてなくっている。安全な担保手段で,私は非常にいいと思っているのですが。もし返せなくても,その物が没収されるだけですね。でも,無担保に押されて,今は下がっている。

それから,不動産質というのは殆ど使われていない。今一番使われているのは,債権質ですね。債権質というのは一体なんだというと目的物が無体物である債権。

債権の上の物権というのは本来認めちゃいけない。なぜかっていうと,債権の上の所有権というの認めると,債権と物権の区別なくなるんですね。債権者が物権者〔債権の所有者〕になる。債権の物権者,「債権の所有者」いうと「債権というのは物権」でしょ〔ということになる〕。全部物権になってしまう。だから,無体物の物権は認めない。従って,〔民法〕85条で「物とは有体物をいう」と日本の民法は定義しているんですね。

だから,債権の上に成立する質権,権利質というのは立法者はこれは物権ではないとはっきり書いている。債権質のところで,最初の条文〔民法362条2項〕は,この編の総則を含め準用する。なぜ準用するって言ったかっていうと,立法者は,さすがに無体物の物権を認めたくないので,債権質とか権利質は物権ではない。だけど書くとこないんで,ここに入れておきますということですね。

質権者っていうのは,直接に取り立てをすることが,この人たち質権設定すると直接取り立てをすることができる。直接取り立てをすることができるということは追及効があることに他ならないので,物権だと説明しているのですけども,そんなことはなくて,債権者にだって,ドイツは,直接請求出来ませんけども〔わが国では,債務者が〕無資力であればお金を払わなければ,債権者代位権〔民法423条〕で直接取り立てをすることができるし,債権差押えもできるいうことで,物権という具合に説明する必要は無いんじゃないのか。

08 抵当権と物的担保のまとめ
質疑応答(物上代位と相殺の関係がおもしろい!)

4.抵当権

抵当権も同じで,不動産についての先取特権だと考えればいいわけですね。先取特権の先の図とほとんど一緒ですが,登場人物がやたらと多いんです。

一般債権者が押さえることできるし,抵当権者はそれに優先して,(この点線が太くなっていますが)優先権を持って押さえることができる。

しかし,転質,いや,転抵当しますと,その人がさらに優先する。だから,抵当権に関しては順位の遅れた「後順位」抵当権者っていうのがあります。この後順位抵当権者っていうのが物権では絶対説明できない。所有者に後順位所有者ってのあるか?これは絶対に認められない。共有はあっても,後順位所有者ってのはありえない。これは債権の順番なんですね。取り立てすることができる順番で,物権ではないということ。

それから今一番問題になっているのは,〔抵当権者の〕物上代位〔民法392条による民法304条の準用〕。賃借人が賃料債権を払っていない。しかし敷金〔返還〕請求権を持っている。ここで〔賃借人が〕相殺するって主張に対して,抵当権者,債権を持っていますから,債権者代位権に似ている「物上代位」を行使する。この「物上代位」とここ〔賃借人〕の「相殺」と,どちらが優先するか?

相殺っていうと債権ですね。抵当権は物権だと勘違いしている人多い。そんなことない。

抵当権が行使しているのは債権をここで執行しようとしている。債権の上の物権ってありえない。これ何度も言ってますけど,「物上代位」っていうのは,立法者も債権の上の実行である。従って,現在でも〔民事執行法〕193条。民事執行法の債権執行に準用する形でこの物上代位の実行が行われている。物権〔抵当権の目的物であるはずの不動産に対する実行〕として行われているんじゃない。

そういうことから考えても,抵当権というのは物権として構成するよりも,債権の優先順位。これが〔不動産という目的物に関しては〕登記によって第三者にも対抗できるようになっているにすぎないと考えた方がわかりやすいんじゃないかと考えてるわけですね〔対象が不動産以外の場合は,登記は機能しないと考えるべきであろう(民法394条参照)〕。

5.物的担保のまとめと質疑応答

ここでまとめておくと,通説は物権担保物権を物権だと考えているけども,留置権については使用・収益・換価・処分どれも持っていない。それから他の担保物権もほとんどが物権変動の対抗要件に従っていない。だから,通説に従って勉強するとどうなるかいうと,例外が原則よりうんと多い。従って全部暗記ということになる。

加賀山説だとどうなるか?というと,例外を認めませんので,債権の権利である掴取力が強化されているという風に考えればいい。

その対抗要件としては物権変動の対抗要件とは違って,〔留置権の〕占有の場合だったら,動産であれ,不動産であれ,占有の継続一本でいい。先取特権の場合は,一般先取特権は,何もいらない。対抗要件がね〔民法336条,339条〕。その被担保債権の性質によって債権によって決まるんだということでいい。それから動産の場合は,先ほどいったように保存をどれだけしたか〔民法330条〕,不動産の場合も,保存をどれだけしたかによって順番が決まる〔民法331条〕。

それは物権じゃなくて,債権の〔目的物に対する〕貢献によって決まるんだということで,すべてを例外なしで説明することができるので,暗記の必要がない。どうだろう。

講師:〔あなたは,担保法が〕苦手だと言われてた。どういう点が苦手ですか?担保物権とか勉強していく上で,非常に困ったという話を聞いたんだけど?
学生Hi:一番僕が苦手だなって思うのは,優先順位ですか。先程の話〔にもありました通り〕。相殺によって相殺と物上代位とか。とにかく,この順番矢印の順番。この整理の仕方ってのが,非常にこう自分は苦手。そのパターンを覚えてしまえばって話が,おそらく判例とか通説。根底として,一体何が流れているのか見えにくい。これが苦手な理由です。
講師:ありがとうございました。

私はそれをどう考えているかっていうと,牽連性という,どの債権とどの債権が密接に関連していて,その関係を保持することが重要かどうか。例えば,賃料債権と敷金〔返還〕請求権ね。この2つの間には密接な関係があって,家を借りようとすると,敷金,絶対いるんですね。これ出さないと賃借できないことが多い。〔これは一体になっているので,〕この敷金が返還されないで,賃料が残っていることは,相殺をさせるということの方が牽連関係が強い。

それに対して物上代位というのは,抵当権者が,この債権〔被担保債権:貸金債権〕と賃料債権とにどれだけの密接な関係を持っているか?こちら〔敷金返還債権〕は賃料債権に対して密接不可分の関係。それに対して,これ〔貸金債権〕はお金を貸していることですよね。賃料とどんだけ関係があるかっていうと,これを押さえることについて,密接な関連性はない。そうだとすると,ここ〔敷金返還債権〕を優先すべきじゃないか?という形で問題を解決しようと考える。

先ほどいったように,債権の性質に応じて優先弁債権ってのは決まっているのだから。それをよく考える。そのときに,「保存」ってのがキーワードになっている。これ敷金を出して賃料と〔目的物の保存と〕の関係で,本当に密接な関係がある。

それに対して,これ〔貸金債権〕はそんな関係ないわけですから,これは相殺を優先させたほうがいいのじゃないかと私は考える。最高裁〔最三判平13・3・13民集55巻2号363頁〕とちょっとずれたことはありますけど,こういう感じで進めて行きたいと思っている〔最一判平14・3・28民集53巻3号689頁と結論は同じ〕。

09 学生同士の議論(物権説 vs. 債権説)
(物権説は生き残れるだろうか?)

6.物権説と債権説に分かれての議論

私の説で担保物権は物権じゃなくて債権の優先権だと考えたほうがわかりやすくないかということなんですけど,ちょっと議論を。

講師:問題提起があったので,それに対して,いやいや,やはり物権という形でいいんじゃないか?という議論をしてもらえたら。
学生T:確かに,抵当権ですとか先取特権ですとか,いわゆる制限担保と言われるものは,優先順位を決めるというツールとして使うのが原則だと考えております。それについては順番を覚えなくてはいけないと割りきって覚えたんですけど。
講師:〔順番が〕動くとき大変でしょ?
学生T:そうですね。
講師:はじめ覚えたのが,動かされるとですね。しかも,黙示の質権だけが動く。他は知っていても動かない。そういうのが難しいと思うんですけど,どうぞ。
学生T:そうですよね,じゃあ物権じゃないのか?という風な話になってくると,私は原則,やはり,「物権というのは,誰に対しても言える,第三者に対して絶対効がある原則」は立っていると。
学生T:先ほど先生は,第一抵当権者と第二抵当権者の順位を決めるものだとおっしゃったと思うんですけど,その前提として,総債権者がいると思うんですね。総債権者に対して,まず,俺は,この抵当権を持っている。絶対的効力があるとまず前提としてあると。もし,それが競合した場合は,順位を決めるというのは当然。原則は,債権者平等の原則じゃないので,自分の物が絶対だというのが原則なので,それはしょうがないと思うんですけど,そういう意味では債権じゃないのかと思いますね。
講師:債権ではないのかではなくて,〔担保物権は〕債権じゃないと思うと。今の点についてどうだろう?
学生A:まず,第三者効についての反論としては,債権にも,債権譲渡の第三者効。対抗要件を備えれば,第三者に対抗できる。その点を捉えれば,債権も第三者効はあるという点と。
学生A:あと,質権でもそうなんですが,〔民法〕364条で,質権は債権譲渡の規定に従って対抗力を備えるといっているので,この文言からすると,債権の規定に従っている点からして,質権というのも,債権で説明しようと思えばできることですよね。
学生A:もう一点としては,債権者代位権を行使して,自分のところに直接引き渡してもらって,それを〔民法〕506条で相殺して,自分の債権を回収するということは事実上の優先弁済権になるので,そうすると,留置権は事実上の優先弁済権を規定していますけども,留置権についても,債権で説明することができるんじゃないかと,可能ではないのかということですね。
講師:はい,どうですか?
学生T:そうですね。〔民法〕364条の話を最初権利質を。
講師:そうですね権利質。
学生T:権利質の場合,そこは,正直,条文読んでも,おっしゃる通り,〔民法〕467条の規定〔債権譲渡の対抗要件〕に従っているので,性質としては,〔債権的に〕なっているのは事実だと思います。
学生T:債権譲渡に対して,対抗要件を具備するかしないかってのは,原則が債権者平等の原則があるけども,債権を譲渡したことに対して,債務者を保護しなければならないというのはあるので,債権にも第三者効があるんだってのは,取引の安全からしょうがないとは思います。
学生T:ただ原則は,債権者平等の原則ですよね。相対的に考えるのが前提だと。それに対して,物権は,権利質に関しては例外だと思いますし,立法者もおかしい,置いている場所は。それ以外に対して,原則は,第三者の絶対効があるのは物権であって制限物権いえると。
学生T:今,〔民法〕423条の事実上の優先弁済権は,自己に払えってのがあったと思うんですけど,あれも,もともと債権者代位ってのが,総債権者の被保全債権を保全するためにあるのだという中で,債務者に引き渡せってのがあって,それをやったとしても,債務者が弁済を拒絶する場合に,結果的に,債権者代位権をした者が守られないという時代の背景があった中で,裁判所が認めた法理なので,原則は債権者平等の原則を貫徹しているので,矛盾はないのかと。個人的には思っています。
講師:いい,そうすると要するに攻め〔ぎ合い〕。

二人で議論してもらった非常に良かったのだけれども,物権が原則だからといってやったときに,ぼろがいっぱいでてくる。例えば,追及効とか第三者効の場合には,先取特権というのは,要するに,例えば,動産先取特権。これは第三者に譲渡すると追及効がなくなるとはっきりと書いてありますよね〔民法333条〕。物権だったらそれはおかしいはずですよね。

抵当権は追及効ありますよね。それをどう説明するのか?物権なのに,追及効が,先取特権は一般先取特権もないし,動産先取特権もない。物権は第三者効あると言ったんだけど,ないものもいっぱいあるんじゃないのか。留置権もそうですね。質権もそうです。占有を失ったら終わりですよね〔民法302条,352条〕。それは物権としてどのように構成するのかと言われるとどうしますか。

学生T:制限物権だと割り切った法理しかないのかと思うんですけど。
講師:ああ。でも,抵当権はどうして追及できるわけ?どこまでも追及できますよ,抵当権は。そういうの難しいと思いますよ。

私の場合どうなるかというと,抵当権も,要するに対抗要件を備えるためには登記がいる。登記がある限りは,〔不動産については〕追及できる。

それと,債権でも,悪意で逃している害意があれば,害意がある人だったらどこまでも追及できる。そういう意味で,要するに,追及効は登記がある,みんなが知っているから追及できるという一つの方法と,害意でみんながそれを明らかであるという時には,追及できるという形でね。

全部理由がある。追及できるっていうのは理由があるので,先取特権の場合にも,物が譲渡されると追及効がなくなるけども,その代わりに物上代位という考え方でそれを補っているという形でですね。

物上代位とは,債権者代位権に優先権が与えられたものだと私は考えていますけども,そういう債権的な説明だと矛盾なく説明できる気もしている。だからそういうことはいろいろ考えて議論してほしいし,答案書くときは物権として書かなければいけないし,そこだけで×されても癪だから,頭のなかで考えるときに債権的な構成も考慮して,いろいろ考えておいて,頭をスッキリさせておくと,試験にも強くなるのではないのかと。

講師:どうですかそういった勉強のしかた,してみませんか。あの指導してあげますから。
学生Hi:是非実践したいと思います

よろしい,じゃあ,次行きましょうか。


第2部 担保法革命と人的担保


今,担保物権の話を中心にしたんですけども,残りは,保証と連帯債務について。〔これ〕も非常に大きな問題を抱えているので。


第3章 保証


10 保証の性質と求償権
債務者の弁済と保証人の弁済との区別
(これで「保証」の本質が理解できる!)

1.保証の法的性質

まず,その保証なんですけども,冒頭条文を私は非常に重視しますので,冒頭条文を見てもらいたいのですが,〔民法〕446条で規定されています。

「保証人は,主たる債務者がその債務を履行しないときに,その履行をする責任を負う。」

こう書いてあって,その意味,非常に重要だと思うんですけども,債権者と債務者があって,債権者が,主たる債務者に対して,主たる債務を持っていて,保証委託契約で,もしくは,保証を直接債務者と保証人との間で保証契約をするとですね,この保証人がですね,債権者に対して,この債務を履行する責任だけを負うという具合に読めるんじゃないのかと。

もう少しはっきり言いますと,厳密に解釈すると,この債務ですね。主たる債務者が「その債務」を履行しないときに,その履行をすると,その履行とはなんの履行かって言うと,「主たる債務」を履行するという意味であって,債務は一つしかなくて,保証人は保証債務という債務を持っているわけじゃなくて,主たる債務を代わって弁済しなければいけない。だから,責任を負っているだけで,債務を負っているのではないんじゃないのか?

だから,今までだと,どう考えるのかというと,そこは債務が2つあると考えるんですね。保証債務があって,それは主たる債務と別個独立だという具合に考えるんです。でも,これ,文章としてすごくおかしくて,於先生の教科書〔於保不二雄『債権総論』(1972)254頁〕そのまま写したんですけど。

「保証債務は,主たる債務と別個独立の債務であるが,主たる債務者に附従する」(於保・債権総論(1972)254頁)

と考えている。独立して付従というのは論理破綻の最たるものですよね。

物上保証について「債務なき責任」であることに争いはないですから,それと同じ。責任だけの問題であって,債務はひとつしかない。保証人は,ひとつしかない債務を肩代わりして履行する責任を負っているだけだ。だから,責任があるので債務があるわけじゃない。債務がないんだから,別個独立ではないと言えますよね。債務がなくなれば責任もなくなる。それが付従性なんだということで,何も目新しい事を言う必要はないということです。

しかも,物上保証と普通の保証とどう違うんですかって言ったら,物上保証は差し出したものだけで責任を負うんだから有限責任。普通の保証は,債務額全額について無限責任を負う,この違い。こういう具合に考えればすっきりしませんかっていうことなんですね。

2.保証と債務との区別(弁済による消滅と求償権)

一番大事なのはこの図ですね。保証については,この図だけで,すべてが解決すると私は思っていて,この弁済をした時の違いが明らかなんですね。債務者が弁済をすると,いったいなにが起きるか?

債務者が弁済すると,債務が消滅し,債務が消滅するので,責任も付従性で消滅する。何も残らない。だから,債務者が弁済したときは何も残らないんです。

ところが,保証人が弁済したときはどうなるか?って言うと,これは決定的で,債務者じゃなくて,保証人が弁済します。

そうすると,この保証人の債務(保証債務と言われているの)は消えないです。民法500条がありますから,弁済について正当な利益を有する者(保証人が正当な利益を受けることについて争いはない)は,「弁済によって債権者に当然に代位する」って書いてありますから,もともとあった債務者が,債権者に対する権利が,このままここに〔保証人に〕移転しているんですね。

債権が法定的に移転していることが消滅だという人は誰もいない。債権譲渡は消滅原因か?っていって,「いや消滅原因です」って「債権者と債務者の間では債権はなくなります。消滅です」って言ったら,笑われますよね。

債権譲渡は,明らかに消滅ではない。この場合も同じで,債権者が持っていた権利は,保証人にそのまま移転する。弁済〔による〕代位ですね。従って,債権は消滅しないんですよ。

こちら〔債務者の弁済の場合〕は,債務者が弁済すると債務者の弁済によって消滅し,付従性によって保証されている責任も消えるわけ。

ところが,保証人が弁済したときは何も消えないんです。債務も移転するだけです。保証もそのままここに一切の権利が501条によって移転するということなので,全く違う。これがわかっている人は,説明するとわかるっていうんだけれども,連帯債務になると途端にわからなくなるんですね。連帯債務を見てみましょうか。連帯債務の弁済はどうなるのか?

先ほどは保証の弁済をやったんですね。保証の場合には,債務者が弁済する場合と保証人が弁済する場合は全然違う。


第4章 連帯債務


11 連帯債務の性質と求償権
負担部分の弁済と保証部分の弁済との区別
(学生が教壇で説明する箇所に注目しよう!)

1.連帯債務者の一人による全額弁済

これを連帯債務についても応用してみようというわけです。連帯債務を全額弁済するとどうなるか?

通説は,もちろん,600万の連帯債務。一人が300万借りて,あと保証一人は200万借りて保証,それから100万借りて連帯債務負う。私は保証と考えますが,そういう,こういう構成をした時に全額600万ですね。

例えば,Y1。ここY1。連帯債務を負う一人が全額600万を弁済する。自分は300万しか借りてないんだけど,600万弁済する。そうすると何が起きるか?って言うと,通説は,全部の連帯債務が消滅すると書いてあります。嘘です。それを今から示したいと思うんですけど。

まず,600万弁済したうちのちょっと分けて考えたいと思います。

2−1−1.負担部分の弁済

講師:600万弁済したという時に,それは300万の負担部分を弁済した部分と,人の部分を保証部分を弁済したときに分けようと。まず,300万は,本来の債務です。負担部分。そこを弁済するとどういうことが起きますか?
学生H:Y1がその自己の負担部分を弁済すると,このY2に対して保証していたY1の保証部分の300万円と,Y3が保証していたY1に対する保証部分が,付従性によって消滅します。
講師:はい,その通りですね。今正しい説明ですね。だから,300万円の本来の債務を弁済したことによって,あそこが空白になってしまう。

2−1−2.保証部分の弁済

講師:次に,残りの200万と100万は,自分の債務じゃなくて,人の債務を弁済し,肩代わり弁済したことになるので,求償が生じるはずですよね。それをちょっと説明してもらえますか?
学生H:まずY1のY2に対する200万円の保証部分が,弁済した時にどうなりますか?というと,Y2の200万円を弁済すると,要するに,Y2の自己の負担部分200万円が消滅することになります。そうですね。肩代わりして代位して弁済したことになります。
学生H:すいません消滅ではないです。〔代位弁済〕ということになるので,この債権者Xに対する〔の〕債権がY2からY1にここからここに移転する。求償権として移転することになります。Y3もY2の200万円を保証していたということになるので,これも,この権利もここに移転する。
講師:そういうことになりますね。ちょっとみてみるとどうなるかというと,こんな感じですね。
学生H:代位したY1から,Y2に対して,200万円の求償が生じるということになります。
講師:最後ですね。
学生H:最後は,Y3に関しても,Y2と同様に,Y1がY3の保証部分100万円を弁済したとなると,要は,Y3に肩代わりして代位して弁済したということになるので,この債権者XのY3に対するこの100万円の債権が,Y3からY1に,ここからここに移転するということになります。
学生H:同様にY2に関しても,Y3の保証債務100万がここからここに移転します。
講師:こういうことになりますね。求償権が生じる。ということで,実際は,債務は,自分が負担していた300万は消滅するけども,残りの300万については,求償権として残る。ここがポイントですね。普通は,みんな消滅すると考えて,その後で,みんな消滅するんだけども,いや求償権は内部関係で別ですよと,全然別の話なんですよとごまかすんです。そうじゃない。

これはなぜかって言うと,〔学生Hさん〕,ありがとうございました。

先ほど言ったように,連帯債務ってのは,債務と保証の連帯保証ですけども,それぞれの結合なのだから,それぞれきちっと分けて,先ほどと同じようにですね。債務者300万円(負担部分)を払った場合には,全部が消える。300万円は消えているわけですね。

残りの300万は,保証人として弁済したのだから,求償権として消滅せずに残る。そうすると,外的な,債務が消えて,全部消えてしまって,あと突如,求償権というのがどこかからでてくる,そういう説明よりは,ずっと理論的で整合的なんじゃないのかというのが私の考え方なんですね。そうすると,連帯債務と保証については非常に密接な関係に立つということがわかりますし。

12 連帯債務者の一人に生じた事由の絶対的効力とは何か?
相対的効力と絶対的効力との区別
(「債権なのに絶対的効力」の意味がわかるようになるよ!)

2.連帯債務者の一人に生じた事由の相対的効力と絶対的効力

例えば,免除した場合に,絶対的効力が生じるのか,相対的効力が生じるのか?という話をする場合に,連帯債務については440条が原則で,相対。債権なんだから,ひとりの人に生じた事由は他の人に生じないこれが原則である。しかし例外があって,絶対的効力がある。

絶対的効力とは何かというと,「履行の請求,更改,相殺,免除,混同,消滅時効」という具合に書かれてあって,条文にそう書かれている。それを除いて,他の場合は相対的な効力しか生じないんだよと。

じゃあ絶対的効力は,どうして,債権なのにね,絶対的効力なるものがでてくるのか?

講師:先ほどね,担保物権は物権だから絶対的効力が出てくるならわかるけど,この連帯債務が物権って人は誰もいないなんで,なんで絶対的効力が生じるか問題になりますけど。
学生E:絶対的効力が発生する理由としまして,債権の不満足の消滅。それから債権の満足の消滅。それで付従性で消滅するということと求償が生じるということ。
講師:満足消滅だからね。
学生E:あとは,絶対的効力によって履行を請求することができる。
講師:ちょっと今のわかりにくかったな。不満足消滅の場合は,付従性のみが生じる。これは例でいいから,例でいきますね。
2−2−1.免除の絶対的効力

免除というのは,不満足消滅の一種なんですね。それから,債権者,全然,得しない。免除してあげたということなんですけども,免除すると,付従性によってここの債権がなくなる。先ほど説明してもらったように,ここが消える。

講師:残りの連帯部分,消えますけども,連帯保証部分が消えたら絶対的効力生じる?連帯保証が消えると効力は生じるか?
学生E:…
講師:これちょっともう一度やると,早すぎてわかりにくかったと思いますけど。

この人の債務を全部免除する。債権者がね。そうすると負担部分がなくなりますよね。なくなると,これを保証していた部分は,付従性によって消えちゃうんですね。ここが消える。

ここ〔Y1が負担している保証部分〕がどうなるかというと,ここ〔Y2,Y3が負担していたY1に対する保証部分〕〕は免除だからなくなるんだけど。これは,保証部分なので,保証人がいなくなったというだけで,主たる債務には影響を与えない。

だから,これを見ていただくと,全額免除すると,ここ〔Y1 の保証部分〕が消えますよね。これなくなります。ここも。だけど,ここ〔Y2,Y3の保証部部分が〕なくなったとしても債務じゃないんだから他の人に効力生じない。絶対的効力が生じない。そうするとこれが正しい答えで,答えは全額免除すると,残りの債務は600万だったのが300万になる。これは条文〔民法437条〕に書かれている通り,

「連帯債務者に対して一人にした債務の免除は連帯債務者の負担部分につき他に債務者に対しても効力を生じる。」

ということの意味がわかる。

2−2−2.絶対的効力の理論的根拠としての付従性

今まで,〔学生たちは,〕これを暗記してたんです。負担部分について効力を生じるんだって。はい,おわり。

そうじゃなくて,負担部分について効力が生じるってどういう意味かというと,負担部分がなくなれば,本来の債務なんだから付従性によって消滅する。それが絶対的効力の意味なんで,はっきりと分かる。理論的な意味なんですよ。わかる?

本来の債務が消えれば,保証は付従性によって消えますよね。ところが,保証が免除されたからといって,債務は消える?消えない?そこ〔債務の免除と連帯保証の免除との違い〕を区別すればいいだけ。

「絶対的効力とは,何か」というと,「付従性」なんだ。そこが理解できると,条文で書かれていることを暗記しないで理解することができる。他にその絶対的効力が生じる場合というのは,3つにわけて考えることができる(図参照)。不成立だとか免除だとか消滅時効こういうのは要するに弁済的効力〔のような〕満足的効力はないから,付従性だけで処理する。だから,半分減ったり本来の負担部分だけ。それで終わりなんですね。

ところが弁済とか,更改とか,代物弁済,とか相殺のように,債権者に利益があるような満足消滅の場合には,〔付従性のほかに〕求償権が生じる。人の分まで払ったという事になるので,ただ単に消えるというだけじゃなくて,求償権が発生する。

それから請求の絶対効はどこに規定があるかというと,保証に規定があってね〔民法457条1項〕。保証人が要するに,主たる債務者に請求すると,保証人に対しても,時効中断の効力が生じる効力はあるわけですね。それが連帯債務の場合にも,そのまま使われて,連帯債務者の一人に対して請求すると,他の連帯債務者にも効力が生じる〔民法434条〕ということで,これは政策的な考え方。

付従性ではないんですね。プラスのほうだから違うんですよ。こちらの附従性は債務が減ることによって〔生じる〕。だから,債務者が負担なくなることによって効力が生じる。

これ〔民法434条〕は債権者に有利な規定なんですね。債権者が有利に他の人に効力生じるということで,少し違うんですけど,この3つにまとめて考えることができて,暗記する必要がないということで,先程の免除の話ですね。

一部免除の時も同じで,これは一部免除のときは,みんな難しいと思うんだけども,負担部分についても,半分と考えると,半分だけ減っていくと考えるとですね,さきほど全額免除のときは300万となったんだけど,450万。そういう答えも簡単に導くことができる〔大判昭15・9・21民集19巻1701頁〕ということで,暗記がひとつもいらない。ということに〔なって〕非常に便利な考え方がここで言えるのではないかと思います。


第5章 求償の要件としての通知


13 求償の要件としての事前・事後の通知
最二判昭57・12・17民集36巻12号2399頁の批判的検討
(このビデオ教材の中で最も難しい箇所。君は理解できるか?)

1.保証人の場合と債務者の場合との区別

最後に,練習問題として,一番難しい問題に挑戦して終わりたいと思いますので,付き合って貰いたいのですけども。

どういう問題かというと,「事前・事後の通知」の要件が求償には必要とされていまして。どういうことかというと,連帯債務者の一人が弁済するときに,誰かがすでに弁済してくれているかもしれない。だから,その事前の通知をしてくださいね。これは求償する要件になっていますよということで「事前の通知」が443条の1項で書かれている。

それから,弁済したあとは,他の人が二重弁済しないように,「事後の通知」をしてくださいという規定があるんですね〔443条2項〕。この要件を怠ると求償できなくなりますよと,求償制限されますよという条文が443条にあるんです。

ところが,これは,ひとりひとりについて事前の事後の通知をしなかった効力が書かれているだけで,両方共が事前とか事後の通知を怠ったという場合に,求償がどうなるかについて条文はないんです。

条文がないときこそ,1時間目〔民法入門〕でもやりましたとおり,我々の解釈力というものが非常に重要となると思うんですね。連帯債務の場合ではなくて〔まず〕保証の場合には〔どうなるかを確認しておくことが重要〕ですね。

「保証人が主たる債務者の委託を受けて保証した場合において善意で弁済し自己の債権を持って債権を消滅させるときは443条(これは,事前・事後の通知がいるという規定ですね)を債務者についても準用する。」

と書いてあるんですけども,これをおかしいっていうのが通説判例で,2項の事後の通知だけ準用する。

なぜかっていうと,〔債務者の場合,〕「事前の通知は必要がない」ってことで決まりなんですね。なぜかっていうと,債務者が弁済するときは自分は絶対求償できない〔わけ〕ですよ。保証人は求償できるだから事前事後の通知がいるんですけども,債務者は自分の債務なんだから,勝手に払えばいい。そしたら保証人は付従性によって利益を受けるだけで求償されるおそれがないんだから,事前の通知はいらない。これは確立しているわけですね。

でも事後の通知はいる。なぜ事後の通知がいるかって言うと,払うのは勝手なんだけど,払ってしまって,「もう債務ないよ。私が払いましたから,あなた債務者〔債権者の誤り〕に払うと,二重弁済になって損をしますよ」ということを親切に安全配慮義務として教えてあげなさいということだけなんです。

求償とは関係がない。1項の事前の通知はいらない。事後の通知は求償が関係する〔二重弁済を回避するためだ〕からいるんだ。そういうことで争いがないので,これを参考にしながら考えていただきたいと思います。

2.最高裁判決(最二判昭57・12・17民集36巻12号2399頁)とその検討

2−1.事案の概要

事例としてはどういうことかって言うと,XとYとが,訴外Aに対し連帯して損失補償金の支払を約し,その負担割合をほぼ平等としていたところ,Xが上記補償金の金額を代物弁済する一方,Yも上記補償金の一部を弁済し,二重弁済となった。

Xが全額弁済した。Yも。これ,債権者が悪いですね。「もう払ってもらったよ」といえば,払わないで済んだのに,Yも知らずに一部弁済した。2重弁済になったので,Xは全額払ったのだから,求償したい。負担部分以上のものは求償したいということで考えるし,YはYで,自分も弁済しているのだから,「あなたが事後の通知をしないから,払ってしまったのであって,事後の通知をしてれば,払わなかった。だから,あなたは求償する資格はない」と言えますし。二人が争いになったというわけですね。

2−2.適用すべき条文

条文がないわけです。どうすればいいのかという。ぴったりする条文ですね。条文は一応あるんですけども。

図示すると,5,600万円の債権をこの連帯債務ですね。負担部分がだいたい平等。こっちが2,800いくら,2,700ですけど,ほとんど同率で負担部分を負って,そして,それぞれ,保証しあっている。連帯保証しあっているいう場合ですね。

そして,Xさんのほうが全額Aさんに弁済した。本来だったら,これ負担部分,ここの負担部分については消えて,それを超えて弁済した部分については,求償ができるということになって。ですから,ここの権利も消えてここに移っていますから,Yはここ〔債権者〕に払っちゃいけない。もう債務消えているわけですから。あと求償こちら〔X〕に応じなければいけないところが,こっち〔債権者A〕に払っちゃんたんですけども。

何故払ったかというと,ここXさんですね。Xさんが事後の通知を怠ったんですよ。「もう払ったんだからあなた払わなくていいよ」ということを怠った。ということは求償権は制限されているはずなんですよ。

2−3.最高裁判決(最二判昭57・12・17民集36巻12号2399頁)

〔Yとしては,Xから〕全額求償されるとおかしい。最高裁は全額求償できるってしちゃったんですよ。本当にいいのか?条文に反していないか?〔通知を怠ると求償を〕制限すると書いてあるのに,事後の通知を怠ったら求償できないと書いてあるのに,認めちゃったわけですよ。

こちら〔Y〕はどうかというと,事前の通知をしていれば,Xさんは私払ったよと言ってくれるのだから払わなくてすんだ。にも関わらず,〔Yは〕事前の通知をしなかったんですね。だから払っちゃった。そうすると,求償権がこちらに来ている。無効な弁済だから効力がないいう具合に最高裁は考えるんだけど。

でも,待てよと。一番最初に通知を怠ったのは,「事後の通知」を怠ったXが最初の原因を作ったんですね。その後,「事前の通知」をせずに,Yさんが払っちゃった。これが次のミスですね。それの両方が重なって,こういう事態が発生した。

一番の原因を作ったのはXさん。二番目の原因を作ったのは,Y。このときにどのように考えればいいのか?条文はありませんよということなんですけど,どう考えればいいか?

最高裁は,「連帯債務者の一人が弁済その他の免責の行為をするに先立ち連帯債務者に対し,1項の通知を怠った。」だから,最高裁は,条文が1項2項と並んでいるから,1項は事前の通知,2項は事後の通知ですから,まず事前の通知から調べましょう。こういったわけですね。

事前の通知を怠ったのは,二番目のYですよ。Yは事前の通知を怠った。そうするとどうなるかというと,「すでに弁済その他により,共同の免責を得ていた他の債権者Xに対して,2項の規定により自己の免責行為を有効であるとみなすことはできない。」

だから,1項で事前の弁済しなかったからアウトなんだ。そうするとXさんが全部勝つ。先に弁済しているからそのような話なんだけど。

2−4.最高裁判決(最二判昭57・12・17民集36巻12号2399頁)の問題点

逆から考えると,最高裁は,そのように判断してくれたんたけども,よく考えるとどこかおかしいんですね。よく考えてみると,一番最初に原因作ったのは2項の方なんですので,この人〔X〕が全額払って通知していない。 通知していれば,〔Yは〕絶対に払わない。通知していれば。先に怠ったのはXさんの方ですね。だから,もし2項を適用すると考えれば,先に義務を怠ったのはXさんなんだから,「Xさん求償は制限されますよ」ということになるはずなんですね。

それを全部無視して,とにかく先に弁済したら勝つんだ。これはいかにも物権的ですよね。先物勝ちだ。でも,過失をしたのは最初に過失をしたのはXさんですよ。これをどう考えたらいいのかということなんですけども。

負担部分と保証部分とを分けるという考え方が最高裁には全くないんですよ。連帯債務っていうのは,全額でいくらってしか考えていないんですね。負担部分がいくらかは気にしているんですよ,いくら借りたかはわかるから。でも,負担部分の弁済と保証部分の弁済と区別していない。区別すると,ちゃんと区別するとどうなるかというと,次の図のようになります。

まず,ここ〔X〕の弁済ですよね。全額払ってしまった。その後,通知を怠っていますよね。そうしたら,〔求償が〕制限されると考えるんですよね。こういう具合に払っても,全額求償するわけにはいきませんよ。できないと書いてあるわけ。事後の通知を怠ると,求償出来ませんよと書いてある。だから求償はまだできない。そうすると,ここ〔Yの債務が〕残っていることになりますよね。この人〔Y〕は,ここ〔自分の債務を〕払うことできる。

いくら払ったか?大事なんです。最高裁はまったく問題にしていないんですけども。

3.質疑応答(Yの支払は負担部分の支払か?保証部分の支払か?)

講師:いくら払いました。Yさんは誰にいくら払ったの?
学生Ha:1,000万です。
講師:1,000万払ってる。1,000万円は負担部分の範囲内それとも超えてる?
学生Ha:範囲内です。
講師:範囲内ですよね。そうすると,これは本来の債務を払ったことになる。本来の債務を払うときに,事前の通知はいりますか?いりませんか?本来の債務を払うときに,事前の通知はいるかいらないか?
学生Ha:必要ないです。
講師:必要はないですよね。

なぜか?求償は生じないのだから,本来の債務を払っても求償はできません。自分の債務なんだからと。ここは事前の通知要らない。

こちら〔X〕は人の分まで払ったのだから,「もう払ったぞ」と。「あなたの分,私が払ったよ」と。「だから払っちゃダメですよ」という通知をXさんはしなきゃいけない。

Yさんは,自分の債務を払ったんだから,事前に通知する必要はないんですよ。これは明らかに,Yさんは過失なし。

Xさんだけが過失があるということになるので,答えはまるっきり変わってきて。どう変わるか?というと,そんな変わらないですよ。まるっきり変わるってわけじゃなくて。

この〔Yの〕弁済有効ですよね。そうすると,ここを払った分は有効である。消えます。そうするとこの人の債務はこれだけになっていますから,負担部分のうちの有効な部分は。この部分〔Yに対する保証部分1,775万円の弁済〕は有効だ〔この部分のみYに求償できる〕!そうすると,残り。この人取りはぐれているのは何かというと,1,000万を,このA会社から取り返す。これは不当利得だろう。

こういう具合に考えると,条文のすべての条項を満たした判決になるわけですね。なぜかっていうと,Xさんは「事後の通知を怠っている」わけだから求償制限されますよと。それから,Yさんは「負担部分の範囲内だから事前の通知はいらなかった」んですよね。そうすると,ここ〔Y〕の弁済は有効だということになりますから,有効な弁済によって求償できる部分は減額されている。

残りは,誰が悪いかって言うとAが悪いんです。二重に受け取っているわけですから。そこは,Xさんが取り戻すということになるのではないか。ということになって,最高裁の結論とはちょっと違いますけども,そうすれば,条文通りの判決であって,条文がないから,全然違う判決をしていいという事にはならないんじゃないのかと思うわけですね。

14 最高裁判決の一応の弁護
負担部分の範囲内で弁済しても求償権が発生するという通説の影響
(学生の鋭い指摘に講師も大興奮!)

4.最高裁判決の一応の弁護

講師:これどう思いますか?これで終わりですけども。はい。
学生T:先生がおっしゃるとおりで,1項と2項1項が優先されるという根拠のない理由付けをしたのは不当なのかなと思います。ただ結論として,一度Xがすべてを弁済したので,債務が消滅したと割り切っているなら,残りの処理は債務者同士でやって欲しいという思惑があったととらえられなくもない思います。

ただ,条文の解釈として成り立つのかが問題であるのと,最高裁の問題というのは,負担部分の範囲内なのか負担部分の範囲を超えているのかことを判断しないということにね,これからの問題点が隠されていると思うんですね。

これがなぜかっていうと,最後にちょっと補足しますと,〔今日の講義で〕飛ばしたところなんですけども,ここも,歴史的なことがわかっているとわかっていないとで違ってくる問題なんですけども…。

負担部分っていうのをどのように考えるということなんですけども。諸外国の考え方というのは,今は一致していて,求償の要件としては,諸外国ではヨーロッパ契約法原則今一番リードしているんですけども,

「連帯債務者の一人が負担部分を超えて履行したときは,他のいずれの連帯債務者に対してもそれらの債務者各自の未履行部分を限度として,自らの負担部分を超える部分を求償できる」

ので,負担部分を超えない限りは求償できないという具合に考えているんですね。

なぜかっていうと,負担部分に満つるまでは,自分の債務だ。「自分の債務を弁済しても,求償できませんよ」ということで一貫してるんです。それを超えたときに,はじめて人の債務払っているのだから,保証人としての弁済だから,求償できるっていうことではっきりと区別しているのですが。

これは,日本の弁済充当の考え方から見ても,要するに,「全額払わずに一部払ったという時にどういう具合に弁済充当されるか」というと,債務者の利益になる方。まず,自分の負担部分が消えた方が有利になりますから,そこから充当される。それを超えた時に連帯債務者の保証部分として弁済充当されるってのが正しいと思うんですね。これ,世界中のことになっているんだけど,日本でそれがそうなっていないんです。

どうなっているかというと,まず,442条連帯債務者間の求償ってのをみるとね,

「連帯債務者の一人が弁済をし,その他自己の財産をもって共同の免責を得たときは,その連帯債務者は,他の連帯債務者に対し,各自の負担部分について求償権を有する。」

と書いてあって,「負担部分を超えたかどうか」は書いてないんですよ。次の保証の規定を見るとですね,〔民法〕442条のこの規定ですね。求償の規定を準用して,

「各保証人が全額を弁済すべき旨の特約があるため,その全額又は自己の負担部分を超える額を弁済した時について準用する。」

と書いてあって,保証の場合には「負担部分を超えた時に求償できる」と書いてある。ところが,連帯債務の時には「超えた時に求償できる」という文言がないわけですね。そうすると,通説はどう考えているか?というと。

講師:この場合に,こちらの連帯債務には「超える」という文言がない。保証については超えるという文言がある。そうすると,連帯債務の場合は超えなくても求償できるのか?超えた時に求償できるのか?どちらだと思う?
学生T:超えた時しか求償できません。

5.求償の要件に関する通説・判例の反対解釈の誤り

講師:と,思う?〔確かに,連帯債務の場合と異なり,不真正連帯債務の場合には,判例(大判大6・5・3民録23輯863頁)はそのように判断している。しかし,真正の連帯債務の場合,判例・通説とも,そうじゃないんだよね。反対解釈しているんですよ。これが「反対解釈の誤り」ってやつ。全体を知らないから。

「こちら〔保証〕に書いてあるぞ」と。「こちら〔連帯債務に〕書いてないぞ」と。「だったら,こちら〔保証の場合に〕超えた時,求償できるんだったら,こちら〔連帯債務の場合には〕超えなくても,ちょっと払っても求償できる。1円払ったら50銭ずつ求償できる。」みたいにね。そういうことになっているんですよ。

ところが,これ歴史的に見ると条文は逆だったんですね。保証が先に書いてあって,次に連帯債務が書いてあったんです。そういう具合に順番を変えてみますね。

変えるとどうなるかというと,まず保証の規定があって,「負担部分を超えた時だけ求償できる」と書いてある。次に連帯債務の規定があって,準用すると書いてある。そうすると,これは反対解釈は絶対にできない。負担部分を超えた時だけ,求償ができて,それを準用するんだから,連帯債務も負担部分を超えた時だけだとなりますよね。

ところが,順番変えるとね。立法者は順番を変えただけなんだ。旧民法はこう書いてあった。新しい現在の民法は,順番を逆にした。連帯債務を前に持ってきたわけね。連帯債務の規定を保証が準用するとなっている。そうすると,これ反対解釈が可能でしょ。

ところが,元々の条文だったら,絶対に可能じゃない。それが世界中の今の通説。日本は,こちらが通説になっている。だからさきほどのね。事前事後の通知の場合でも,最高裁は,ちょっと払っただけでも,求償ができると考えている。ちょっと払っただけでも,求償ができるんだから,事前・事後の通知が,Yについても必要だと考えているらしい。

そうすると,どっちも〔通知を〕怠っているということだから,先に払った方に優先するいう考え方にと帰着しているんじゃないかと。

最高裁を弁護するとすれば,通説は,負担部分の範囲内で弁済したとしても,それは超えてなくても求償できるのだから,求償できるってことは,事前・事後の通知がいるんじゃないのか。Yは事前の通知を怠っている。だから悪いと。Xさんも事前・事後の通知を怠っているだから悪い。どっちも悪いとなると,二人は平等だから,先に払った方を優先したらいいじゃないかという,ことの理論的な援護にはなるわけね。

でもそれは世界では通用しない。日本の条文が歴史的に見ても,単に,これはひっくり返しただけだから,保証の規定が連帯債務に応用出来るんですよ。

保証がわかると,さきほど言ったように,保証理論があれば,本来の債務者が弁済したときは全部消えるけども,保証人が弁済したときは求償権が生じると。保証が基礎になって「保証と債務とが合体したものが連帯債務」という形で,全部説明できる。

ところが,連帯債務先にやると,保証がわかっていないのに,連帯債務勉強するから,何もわからない。こういう状況が出てくる。

担保を勉強するときには,人的担保の場合は保証をしっかり理解するそうすると,連帯債務はその応用にすぎないから,なんの問題なしに全部理解できる。覚えることは何もない。理論だけで勝負できるということになるんですね。

ところが,日本の場合は,連帯債務が先に規定されているから,連帯債務を勉強して,それが保証に準用されていると思うから,話があべこべになっていて,反対解釈してみたりミスったり,そういうことが続出しているということですね。

ですから,担保法革命をしっかりと理解してもらったら,話は簡単。難しい話は何もないし,暗記する必要はなくなる。そういうことだと思うんです。

15 訴訟法との関係
(民法の講義でも訴訟法の問題が扱われる)

6.訴訟法との関係

講師:どうでしょうか?ちょっとまた随分と延長していますけども,何かあったら。
学生A:先生,補足で一つだけ。さっきの先生の理論を使うとですね,付従性によって連帯債務も消滅するじゃないですか。
講師:どこを言っているのかわからないんだけども。
学生A:連帯保証した場合に,保証した債務主債務が弁済された場合に,付従性によって消滅する場合に,手続法の観点から,反射効理論を肯定することにもなるで,先生の理論を使うと連帯債務者には優しい解決になる。
講師:そういうことですね。

連帯債務者ってのは,〔他〕人の債務まで負わされているわけだからなるべく保護する必要があるんで。全額弁済したときは,求償権を確保するために,例えば訴訟手続だったら引込訴訟とか,要するに単に補助参加を促すんじゃなくて,判決の効力。一人の債務者に対して負担部分がいくらで,どんだけ払ったというようなことを他の人も言えるようにしてあげないと,全額払った人がすごく不利な立場になる。

だから被害者を救済するために,例えば共同不法行為の場合に不真正とか連帯債務していますよね。その場合に,全額ね。ちょっとしか〔加害物質を〕出していなくても,全部払わなければいけない人は,負担が多いので,その人を保護するためには,訴訟制度をもう少し改革して,今のような反射効を認める。あとは,引込訴訟とか共同訴訟をもっと広げてね。いっぺんに訴訟を解決する,紛争解決することが大事。確かにその通りです。

これで担保法革命,要するに,一つの概念ね。「債権の掴取力の強化」という形でそれが債権者同士の争いに対して対抗力を生じなければいけないから,全部対抗要件だということが書かれているんだけども,それは物権の対抗要件と全然違っている。質権の場合に動産の場合も引渡しじゃなくて〔占有の〕継続ですね。それから権利の場合は債権譲渡の対抗要件になっているという形で,むしろ債権的な対抗要件という形で考えると担保法の問題は人的担保も物的担保も何も暗記しなくて理解することができる。

そういう勉強をしていくとですね,それをきちっと理解した上で,司法試験のときは頭を切り替えて,物権的に書けば,何も覚えなくてよいということになるんじゃないのか。どうですかね。ぜひ勉強してみてください。


おわりに −始め良ければ,終り良し−


16 おわりに
(講師は,このことが言いたくてビデオ教材を制作した)

皆さん,ビデオをご覧になって,〔誰もが難しいと感じている〕担保法を楽しく学習できるようになると思われたでしょうか。

これまで,「担保法の学習が非常に難しかった」という原因は,私の考え方によると,従来の考え方というのが,担保法である,例えば,保証,それから,担保物権について,〔第1に,〕「保証は」,保証債務である,「本来の債務とは,別個・独立の債務である」といいながら,本来の債務が消滅すると,〔保証債務も〕従属して消滅する,これ「付従性」と言いますけれども,「付従性によって消滅する」という理論を建てていたわけですね。

「別個・独立」といいながら,「付従性によって消滅する」というのは,概念矛盾ですね。

それから〔第2に〕,担保物権についても,債権とは別に,担保物権という,別の,「別個・独立の権利がある」といいながら,しかし,債権が消滅すると,いくら抵当権が,例えば,登記されていても,その抵当権は,無効となってしまう。「これは,なぜなのか? 」という説明が非常に難しかったわけです。

このビデオで紹介している新しい理論によりますと,「保証債務」も,「債務」ではなくて,本来の債務というのは一つしかなくて,その債務を保証人が肩代わりして弁済するという,そういう「責任」だけを負っている。したがって,「債務がなくなれば,責任もなくなる」ということは,矛盾なく説明することができます。

それから,「担保物権」も,「独立の物権」とは考えずに,「債権の掴取力を強化するもの」,すなわち「優先弁済権」が「債権者」に与えられている,それだけのことだと考えますので,「債権」が消滅すれば,その掴取力である,いわゆる「担保物権」も消滅するということが理論的に説明できるということになります。

このように,このビデオで紹介した理論によりますと,例外がないのですね。したがって,きちんと理論を理解すれば,暗記に頼らずに,担保法を楽しく学習することができると思います。

皆さんのご健闘をお祈りしています。


講義:明治学院大学法科大学院教授 加賀山茂
参加学生:有賀,海老塚,竹田,能本,針谷,広瀬
録音速記:針谷

映像制作:ホライズン・フューチャーズ


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