「債権に付与された優先弁済権」としての担保物権

2001年7月7日

名古屋大学大学院法学研究科教授 加賀山 茂



はじめに


担保物権の性質に関する通説的見解(我妻・担保物権13頁以下)は,以下の通りである。

  1. 担保物権が物権であることは,現行法の編成(担保物権は物権編に編入されている)からも明らかである。
  2. 担保物権は,債権とは別個の物権である。確かに,担保物権は,債権(被担保債権)が発生しなければ発生せず,債権が消滅すれば,原則として,消滅する。しかし,このことは,担保物権が債権とは別個の権利であることを妨げるものではなく,担保物権が単に「付従性」いう性質を有しているからに過ぎない。

通説は,以上のように,担保物権を債権とは別個の物権であると考え,その上で,それと密接に関係する債権を担保物権の「被担保債権」として観念し,担保物権は,その「被担保債権」に付従する性質を有すると考えている。

これに対して,本稿は,まず,債権自体が,債務者が任意に履行しない場合には,債務者の総財産に対して換価・処分を行うことのできる権能,すなわち,「掴取力」を有することに注目する。そして,債権の掴取力は,原則として債権者平等の原則に服することを認めつつ,債権の掴取力を担保するため,法律の規定に従って,債権の掴取力に優先弁済権が付加されうること(債権者平等原則の例外)を素直に受け入れる(旧民法債権担保編1条2項参照)。そうすると,優先弁済権の根拠を強いて物権に求める必要がなくなり,債権者平等の原則に反して優先弁済を受ける権利は,物権だけに限定されるという硬直的な考えから解放されることになる。

債権の掴取力と債権者平等の原則

つまり,債権は原則として優先弁済権を持たないが,法律の規定によって(租税債権,先取特権など),または,当事者の合意と公示によって(質権,抵当権等),優先弁済権を有する債権が存在すると考えるのが,本稿の基本的な考え方である。この考え方を,最初に述べた通説との対比で2点に絞って要約すると以下のようになる。

  1. 現行民法が物的担保を物権として編成したのは,便宜的な理由によるものであり,立法者自身,担保物権すべてが物権であるとは考えておらず,少なくとも,一般先取特権,権利質は,物権ではないと考えていた。担保物権とは,実は,債権者平等の原則の例外として,「債権の掴取力に付加された優先弁済効」のことであり,物を直接かつ排他的に支配するという意味での物権ではない(物的担保が物権であることの否定)。
  2. 担保物権は,債権の効力としての掴取力に付与された優先権に過ぎないのであるから,債権が発生しなければ発生せず,債権が消滅すればそれに付従して消滅するのは当然であり,債権とは別個の権利としての担保物権は存在しない(物的担保が債権とは別個の権利であることの否定)。

このように考えると,担保物権は被担保債権とは別の権利であるが,被担保債権に付従する性質を有するなどというもって回った言い方をする必要もなくなる。なぜなら,担保物権とは,実は,債権の掴取力が他の債権者よりも強化されている状態に過ぎないのであって,債権とは別個に担保物権という権利を観念する必要がなくなるからである。

担保物権の性質を「債権に付与された優先弁済権」に過ぎず,担保物権という「独立した物権」など存在しない,すなわち,債権のほかに担保物権という別の権利があると考えるのは幻想に過ぎないという理論を展開しようとすると,一般には,奇をてらった暴論,または,野心的な売名行為と誤解されかねない。

しかし,筆者がこのような理論を主張するに至ったのは,担保物権を物権として講義するうちに,担保物権を「物権」と考えるには余りにも障害が多すぎ,その障害を乗り越えることはとうてい不可能であることに気づいたこと,すなわち,通説に従った講義を続けることを学者としての良心が許さなくなったことに起因する。つまり,自分自身の良心を納得させる担保物権理論を完成させなければ,担保物権の講義を続けることができなくなってしまったからに他ならない(さらには,抵当権が先に登記された物権であるという理由だけで,抵当権設定後に成立した正常な長期賃貸借が,売買には対抗できるのに,抵当権によって破られ,賃貸建物が取り壊されていく事実を傍観できないと考えたことも一因である。この点については,最後に触れることにする)。

筆者は,大阪大学に在任中,水準の高さ,コンパクト性,判例選択の的確さ等を根拠に高木・担保物権法を教科書として選択し,担保物権法の講義をしていたことがある(この教科書の一見矛盾すると思われる記述を通じて,一方で,担保物権を物権として講義することの呵責と,他方で,筆者の新しい考え方が同時に育まれていったように思われる)。

この教科書によると,各種の担保物権を概観する箇所では,先取特権が以下のように的確に位置付けられている。

先取特権 法律の定める一定の債権を有する者がその債務者の財産につき,他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利である(民303条)。いわば,債権者平等の原則の例外として,特定の債権に優先弁済権を認めるものである高木・担保物権法3頁)。

これだけ読むと,現在の筆者の見解(担保物権=債権に付与された優先弁済権説)と全く同じである(先取特権に限定すれば,おそらく,これが,多くの学者の本音であろう)。ところが,後の箇所,すなわち,先取特権を詳しく論じた箇所では,上記の記述が以下のように全く逆方向に変更される。

先取特権は,債権の特殊な効力(債権者平等原則の例外としての)ではなく,物権としての地位が与えられている高木・担保物権法37頁)。

このように,担保物権の教科書には,この他にも,前後で矛盾すると思われる記述が多く見られるのであるが,紙幅の関係で,もう一つの例をあげるにとどめておこう。

留置権の物権性としての希薄性を指摘しながら,留置権の対抗力に関しては,一転して,第三者に対抗できるのは,「物権だからである」と,物権性を強調する。このくだりは,担保物権法の教科書にほぼ共通してみられる傾向である。私は,この現象を「困ったときの物権頼み」と呼んでいる。

留置権の物権的性格は希薄である高木・担保物権法12頁),他の担保物権のように,目的物の価値を物権的に支配する権利ではないのである(13-14頁)。留置権には物権的請求権はなく,この点で,物権性を希薄ならしめている(14頁)。
留置権は物権である故に,一旦留置権が成立した後に目的物が第三者に譲渡された場合,第三者に留置権を主張しうる。(高木・担保物権法29頁)

以上の例はほんの一例に過ぎないが,通説にしたがって,担保物権を「物権」であると説明しようとすると,物権の性質を統一的に説明することはほとんど不可能となる。そして,担保物権の講義を行ったことのある人ならば誰でも経験することであるが,物権の定義を変更するか,担保物権を物権から除外するかという,以下のような選択を迫られることになる。

  1. 「物権とは,物に対する直接かつ排他的に支配する権能である」という物権の定義は,一般先取特権のように,目的物が特定せず,かつ,目的物に対する追及力も有せず,他の債権者に先立って優先弁済を受ける地位を有するに過ぎない担保物権には妥当しない。そこで,物権の定義を変更するのか,担保物権を物権とは考えないのかについての選択を迫られる。
  2. 物権の対象は有体物に限定されるという大前提(民法85条)についても,一般先取特権,物上代位,権利質,地上権または永小作権を対象とする抵当権については適用できない。そこで,民法85条は,物権に適用されないと考えるのか,担保物権を物権とは考えないのかという選択を迫られる。
  3. 物権には,「一物一権主義」が成り立ち,例えば,一つの物件について,上位所有権,下位所有権というような重層的な権利関係が成り立つことはないとされているが,この考え方は,担保物権には,全く適用できない。同一物件について,先取特権,抵当権等が同時に成立することはまれではない。さらに,同一物件に先順位抵当権,後順位抵当権というように,同一の物権が,重畳的に成立しうる。ここにおいても,物権法利における「一物一権主義」を捨てるのか,担保物権を物権ではないと考えるのかという選択を迫られる。
  4. 民法175条の物権法定主義についても,譲渡担保等の非典型担保については,これを担保物権と考えるならば,物権法定主義の例外とせざるをえない。ここにおいても,物権法定主義を捨てるのか,担保物権を物権ではないと考えるのかという選択を迫られる。
  5. 民法177条,178条の物権変動の対抗要件については,後に詳しく論じるように,担保物権に関しては,原則よりも例外の数の方が多くなってしまう。担保物権のうち,留置権,先取特権,動産質,権利質は,明らかに,物権変動の対抗要件に従っていないからである。ここにおいても,民法177条,178条は,物権変動の対抗要件に関する原則ではないと割り切るのか,担保物権は,物権ではないと考えるのかという選択を迫られることになる。

そこで,筆者は,10年ほど前から,担保物権を物権としてではなく債権の側に引き寄せて講義することを思い立った。そして,担保物権を,すべての債権に付与されている掴取力につき,債権者を保護するために,法律,または,当事者の合意と公示に基づいて,それに付与することが許された優先弁済権であると説明することの方が,担保物権の本質を捉えているのでないかと考えるようになった。このような考えによって講義を行うと,通説と自らの見解を同時に,かつ,区別して説明しなければならず,時間的な制約を受けるものの,学者としての良心の呵責に苛まされることはなくなった。

このような新しい考え方(担保物権=債権に付与された優先弁済権説)を示すには,本来なら,担保物権の体系書を著すことによって,具体的な問題点を含めて解説することが妥当であるかもしれない。しかし,そのような教科書で学ぶ学生の不利益(新しい考え方に染まると,通説に戻ることが困難になってしまう)を考えると,まずは,学術的な論文を執筆し,学界に対して,筆者の考え方のアウトラインを知ってもらう方がより適切であるように思われる。そこで,挑戦的な論文である本稿を,学生時代から,先輩として,常に仮想論敵として論文を書く励みとさせていただいた國井和郎教授に捧げることにした。異説に対する偏見が少なく,かつ,論理構成の欠陥に対しては非常に厳しい國井教授のご批判をあえて受けてみようというわけである。

筆者が以前経験したように,担保物権を物権として講義してみて,さまざまな局面で矛盾したことを言わざるを得ず,そのことに良心の痛みを感じている学者が存在するとすれば,本稿は,まさに,そういう学者にとって,何がしかの癒しを提供できるであろう。

本稿によって,担保物権とは,「債権に付与された優先弁済権」のことをいうのであって,債権とは別に担保物権という物権が存在するものではないこと,担保物権を硬直的な物権法の法理に服させるのではなく,信義と公平に基づく債権法の法理に服させることの方が,一般債権者間のみならず用益権者との調整に関しても,公平で柔軟な解決を導くことができることを理解いただければ幸いである。


T 物的担保を物権と考えることに対する疑問


1 立法者は,一般先取特権,権利質を物権とは考えていなかった

わが国の学界においては,担保物権が債権とは別個の物権であることについて,疑いの余地がないとされている。このため,現行民法の立法者が,一部の担保物権について,それを物権ではないと明言していたという事実は,案外知られていない。そこで,担保物権を物権と考えることに疑問をもつ筆者としては,この点から論じはじめることにする。

さて,わが国の担保制度は,諸外国の場合と同様,人的担保(保証および連帯債務)を債権として分類し,物的担保(留置権,先取特権,質権,抵当権)を物権として分類し,両者を,異なる制度として構成している。

しかし,ボワソナードによって起草された旧民法においては,人的担保も物的担保も,債権に付従して債権を担保するという統一的な観点から,債権担保編(明治23年法律第28号)というタイトルの下に,統一的に規定されていた。そして,旧民法債権担保編の第1条は,債権には掴取力があり,「債務者ノ総財産ハ…債権者ノ共同ノ担保」であること,債権の掴取力は,債権者平等の原則に服するが,「債権者ノ間ニ優先ノ正当ナル原因」がある場合には,例外が認められることを明確に規定していた。

現行民法は,旧民法を修正し,人的担保と物的担保とを分離し,物的担保をすべて物権に編入した(民法理由書311頁)。しかし,留置権,先取特権,質権,抵当権のすべてを物権として統一的に捉えることについては,以下のような無理があることが,当初から認識されていた(民法理由書348頁,361頁)。

  1. 先取特権のうち,共益費用,雇人給料,葬式費用,日用品供給に関する一般先取特権は,特定の物との結びつきが全くなく(民法306条),追及力もない(民法333条)。そのため,一般先取特権の実態は,物権というよりは,優先権のある債権に過ぎない。
     立法者の一人である梅謙次郎は,その教科書において(梅・民法要義285頁),以下のように指摘して,債権やその他有体物以外の物の上に存することになる「物上代位」,「一般先取特権」は,物権ではないことを認めていた(下線および〔 〕内は,筆者が付加した)。
  2. 権利質,特に債権質の目的物は,債権であり,物権の目的物は有体物に限定されるという前提(民法85条)に反する。もしも,物権の目的物に債権を含めることを認めてしまうと,「債権の上の所有権」という概念をも認めることになり,債権は,所有権の中に解消されてしまう。そうすると,物権と債権の区別も消滅してしまうことになりかねない。
     立法者は,権利質が物権に属さないことを,民法362条2項の文言,すなわち,権利質には質権総則の規定を「準用ス」るという文言によって,明確に表現していた。

なお,権利質のうち,地上権または永小作権を目的とする質権に関しては,立法者は,債権質の場合と異なり,地上権または永小作権が物の利用を目的とするものであって,かつ,その権利を行うにつき他人の行為を要しないことから,物権と考えてよいと考えていた(梅・民法要義438-439頁)。

しかし,地上権または永小作権を目的とする質権のみを他の権利質と区別して取り扱うことができるかどうかは,学理上は疑問である。地上権も永小作権も有体物でないことは明らかだからである。この点に関しては,地上権または永小作権を目的とする抵当権(民法369条2項)を物権として分類できるかどうかも,疑問となる。

立法者が,地上権または永小作権を目的とする抵当権について,抵当権の規定を「適用」ではなく,「準用」するとしたのは,地上権または永小作権を目的とする抵当権については,民法374条から民法377条,および,民法378条以下の規定を適用することができないからであるが,同時に,「物権ノ目的ヲ物トセルニヨリ権利ヲ目的トセルモノハ真ノ抵当権ト謂ヒ難キ所アリ」(民法理由書361頁)という理由に基づいていることを立法者自身が認めている。

2 有体物以外の財産を目的とする担保物権(一般先取特権,権利質)は物権か

ところが,現在の通説は,有体物以外の財産を目的とする担保物権は実は物権ではないという立法者の考えをほとんど無視している。この点に関する通説の考え方は以下の通りである。

しかし,物権と債権を区別するかどうか,区別するとすれば,その基準を何に求めるかどうかは,もともと,形式的な議論に過ぎない。それを,我妻・担保物権法179頁のように,「あまりに形式的な議論であって問題とするに足らない」とするのは,問題であろう。

物権の目的物を有体物以外の権利にも及ぶことを認めれば,「債権の上の所有権」をも認めざるを得ず,物権と債権との区別は,完全に崩壊するからである。

3 一般先取特権は,手続的にも,他の担保物権と異なる扱いをされている

わが国の学説の中にも,一般先取特権の物権性に疑いを持ち,その教科書において,一般先取特権を物権の最後に,しかも,付録として掲載するものもある(鈴木・物権法講義366頁以下)。この教科書は,通説を以下のように批判している。

担保物権が物権であることの理由として,債務名義なしに目的物を競売しうるという点が強調されることがある。旧競売法(明治31法15)においては,担保権実行のための競売を担保権に内在する換価権の発動とみて,担保権の実行には,債務名義を前提とせず,差押えが存在しないなどの点で,強制競売と区別されていた。しかし,民事執行法の下では,任意競売は意味を失い,強制執行と担保執行(民事執行法181条〜194条)は,民事執行法の下に統一され,その要件も,基本的には,債務名義を含む,「執行名義」という統一的な要件へと収束しつつある(詳しくは,三ヶ月『民事執行法』437頁以下参照)。

手続法と実体法との関係は重要であるが,手続の相違を根拠に実体法における権利の性質を決定するというのは,話が逆であろう。百歩譲って,手続法の取り扱いを実体法に反映すべきであると考えるのであれば,手続法においては,担保物権は,決して統一的なものとして扱われておらず,最終的には,優先弁済権としてしか取り扱われないという事実こそを重視すべきである。

例えば,留置権は,民事執行手続においては,事実上の優先権が確保されるが(民事執行法195条),破産法においては,その効力を否定されている(破産法93条2項)。そして,先取特権は,破産法,民事再生法の下では,統一的にではなく,2つに区別して取り扱われる。すなわち,一般先取特権は,他の担保権とは異なり,優先破産債権,または,一般優先権とされる(破産法39条,民事再生法122条)。これに対して,特別の先取特権は,他の担保物権と同様,別除権としての地位を与えられる(破産法92条,民事再生法53条)。ところが,会社更生法においては,一般先取特権が,「優先権のある債権を有する更正債権者」とされるばかりでなく,特別の先取特権を含む他の担保物権も,手続き上別扱いはされず,単に優先権を有するに過ぎない「更正担保権者」として,更正手続に組み込まれる。

このように,担保物権は,実体法上は,物権として扱われているが,手続法においては,優先弁済権以外の効力は,それぞれの手続の目的・趣旨に従って,異なる扱いがなされているのであって,統一的な扱いを受けているわけではない。

4 「交換価値」を把握する「価値権」は,物権か

通説は,一般先取特権や債権質を物権と考えることの理論的な破綻を回避するため,物権の定義に変更を加える。すなわち,物権は,有体物を直接かつ排他的に支配する権利であるが,担保物権も,目的物の「交換価値」を直接かつ排他的に支配するので,物権といって差し支えないと考えている。

しかし,交換価値とは,債務者の財産を競売したときの価値(競売代金)に他ならないのであって,担保物権者であっても,直接かつ排他的に交換価値を支配することはできない。そもそも,すべての債権者は,掴取力,すなわち,債務者が任意の履行をなさない場合には,債務者の財産を換価・処分し,競売代金に関して配当請求を有するのであり,債権者の中で,優先順位の高いものから競売代金の配当を受けうるに過ぎない。たとえ第1順位の抵当権者であっても,それに優先する先取特権者(民法339条)が存在すれば,配当を受けられないことがありうるのであって,担保物権を有するからといって,目的物の交換価値を直接かつ排他的に支配しているわけではない。第2順位の抵当権者の場合のように,後順位担保権者であれば,配当を受けることができない危険性はさらに高くなる。

ここで問題としている債権質の場合においても,例えば,抵当権が設定された建物に関する火災保険について,保険金請求権の上に質権が設定された場合,抵当権の物上代位と債権質のどちらが優先するかについては,質権設定の対抗要件よりも,抵当権が先に登記されていた場合には,必ずしも,債権質のみが,保険金請求権の価値を直接かつ排他的に支配できるわけではない。また,一般先取特権の場合には,共益費用の先取特権を除き(民法392条2項但し書き),特別の先取特権に劣後するので,必ずしも,交換価値を直接かつ排他的には把握しえないことは明らかである。

このように考えると,担保物権を有する債権者と,担保物権を有しない債権者との違いは,前者が交換価値を直接かつ排他的に支配しているのに対して,後者は,交換価値を間接的にしか支配していないというわけではない。むしろ,両者ともに債務者の財産に対して掴取力を有しているが,前者が優先弁済権を有しているのに対して,後者は,そのような優先弁済権を有していないというだけに過ぎない。競売された債務者の財産の価値が高く,すべての債権者を満足させるに足りるときは,すべての債権者が,債務者の財産について交換価値を把握する。反対に,財産の価値が低く,すべての財産者を満足させることができない場合には,高順位の債権者から順次弁済を受けることができるのであり,担保物権を有するからという理由だけで,常に,債務者の財産から満足を受けることができるわけではない。

物権と債権との区別 債権の掴取力と物権との相違

通説が,担保物権を「交換価値を把握する権利」であるとか,「価値権」であるとかいうのは,担保物権が有体物を直接かつ排他的に支配する権利(物権)ではないことを認めざるをえないからである。それでもなおかつ,担保物権を物権として位置付けようとして,担保物権は,「交換価値を直接かつ排他的に支配する権利」であるとか,「価値権」という苦し紛れの説明をしているに過ぎない。しかし,交換価値を把握する権利とか,価値権とか言われるものは,有体物を支配する物権の効力ではなく,まさしく,有体物・無体物の区別なしに,債務者のすべての財産に対して換価・処分権能を認められている「債権の掴取力」に他ならない。

債権の掴取力に優先権を認めるか否かは,法政策的な判断によるのであって,その権利が債権か物権かによって決まる問題ではないのである(なお,抵当権を価値権として捉える考え方の成立とその批判に関しては,松井宏興「近代的抵当制度の成立過程」,同「近代抵当権の『特質』とわが民法」(椿・担保物権法167頁以下)を参照されたい)。

5 物権変動の対抗要件原則に従っていない留置権,先取特権,質権

物権と債権とを区別する際に重要となる対抗要件に関しても,担保物権の多くは,以下に示すように,物権の対抗要件の一般原則に従っていない。したがって,物的担保を物権に分類することは,体系上も大きな問題点を抱えている。

  1. 留置権の対抗要件
  2. 先取特権の対抗要件
  3. 質権の対抗要件

以上のことから,担保物権のうち,物権の対抗要件の原則に従っているのは,ほぼ,抵当権だけであるといえよう。

6 抵当権も目的物(または交換価値)を直接かつ排他的に支配する物権ではない

物権の対抗要件に関する原則に従っているように見える抵当権も,以下に詳しく述べるように,目的物を直接かつ排他的に支配している所有権や用益物権とは異なり,目的物を直接かつ排他的に支配できるという意味での物権ではない。

確かに,抵当権は,担保物権の中でも,特定の不動産を目的としているために,物との結びつきが強いように見える。この点を過大評価し,抵当権は,目的物の価値を排他的に支配する権利であるから物権であると考える人がいるかもしれない。

しかし,抵当権は,明らかに,目的物そのもの(有体物)を直接に支配しているわけではない。もしも,債権者が債務者から弁済を受け,債権が消滅した場合には,抵当権も目的物を支配することなく自動的に消滅する。抵当権者者が,目的物を換価・処分できるのは,通常の債権の場合と同様,債務者が債務を弁済しないときに限定される。

このように考えると,抵当権者は,目的物を直接に支配しているのではなく,目的物の代価から優先的に弁済を受けることができるに過ぎない。つまり,抵当権は,有体物を直接かつ排他的に支配するという意味での物権ではありえない。

抵当権者は,目的物そのものではないが,目的物の交換価値を支配しているから物権であると考える人もいる。しかし,先にも論じたように,交換価値を把握しているのは,債権の掴取力に他ならないのであって,抵当権といえども,交換価値を直接かつ排他的に支配することはできない。なぜなら,抵当権者が交換価値を支配できるかどうかは,目的物の市場価値に依存するほか,執行手続にも依存するのであって,実体法上の問題として,抵当権者が交換価値を支配しているとはいえない。抵当権者が,実際に交換価値を支配できるかどうかは,競合する債権者の優先権の強さ,および,執行手続の違いによって変化するからである。

例えば,民事執行の場合には,抵当権は,一般の強制執行とは異なる担保執行手続(民事執行法181条〜194条)に従って手続が行われる。また,破産手続においても,抵当権は,別除権として,通常の破産債権者に先立って弁済を受けうる。しかし,民事再生手続においては,抵当権は別除権とされつつ(民事再生法53条),担保権の実行中止命令(同法31条)と担保権の消滅請求(同法148条)にさらされ,必ずしも,優先権が確保されるとは限らない。さらに,会社更生法においては,抵当権は,更正担保権として,優先弁済権を有するにとどまる(会社更生法123条,124条)。

1990年代後半にバブル経済が崩壊し,不動産神話が崩れ去った現在においては,抵当権の価値も,土地の価格の下落に依存すること,交換価値の直接の支配といっても,それが確固としたものではないことが明らかとなった。抵当権は,決して債権額に見合う価値を常に把握するものでもなく,物権の価格変動にさらされつつ,その価格の範囲内で優先弁済を受けうるものに過ぎないことが改めて認識されるところとなったのである。


U 債権者平等の原則と優先権を有する債権の存在


1 債権者平等の原則

債権は,原則として,「債権者平等の原則」に服するとされている。

債権者平等の原則とは,例えば,債務者Aに対して,債権者B,C,D,Eが,それぞれ10万円,20万円,5万円,25万円(総計60万円)の債権をもっているような場合に,債務者Aに30万円の財産しかなく,全部の債権を満足させることができないときには,破産又は強制執行手続において,B,C,D,Eは,債権発生原因(賃貸借,売買,請負,消費貸借契約など)が何であるか,債権がいつ発生したかにかかわりなく,平等に,すなわち,債権額に応じて按分比例的に満足を受ける(上記の例では,Bは5万円,Cは10万円,Dは2万5,000円,Eは12万5,000円の弁済しか受けられない)ものとされる。このような取扱いは,そもそも債権には排他性がなく,同一内容の給付を求める債権相互間においても,債権成立の時間的前後を問うことなくそれらの債権は平等の効力をもって並存し,互いに他の債権に優先することがないという,債権の平等性からの帰結であるとされている。

もちろん,現実には,「給料債権」のように,優先権を有する債権が多数存在するのであるが,それらは,「先取特権」という「物権だから,債権に優先する」というように説明され,物権ではない純粋の債権であって,しかも,優先権を有する債権というものは,存在しないか,存在するとしても,特別の例外に属するとして,債権の優先権については,立ち入った考察をすることが避けられてきた。

しかし,物権とは認められていない純粋な債権であって,しかも,他の債権者に先立って弁済を受ける権利を有する債権は,以下に示すように,実は,かなり多く存在する。

2 租税債権における優先権の付与

国又は地方公共団体が,租税法規の定めるところに従い,納税者に対してもつ債権である租税債権,例えば,国税は,「納税者の総財産について,この章に別段の定がある場合を除き,すべての公課その他の債権に先だつて徴収する」(国税徴収法8条)とされており,他の債権に対し一般的優先権を与えられている。また,地方税についても,地方税法14条により,国税と同様の一般的優先権が与えられている。

租税債権が,物権ではなく,債権であるにもかかわらず,他の債権に優先する理由は,租税が財政需要の充足という高度の公益性をもっていることから正当化されており,判例も,租税の公益性にかんがみ,以下のように述べて,これを合憲としている(最大判昭和35・12・21民集14巻14号3140頁)

国税徴収法の条項は,国税およびその滞納処分費は他の公課および債権に先だつてこれを徴収する旨を規定しており,私法上の財産権たる債権が同法の定めるところに従い,右国税およびその滞納処分費に後れる点において,財産権がその効力を制限されることは所論のとおりである。しかし,国家活動を営むに当つて必要な財力は,これを租税として広く国家の構成員たる国民から徴収する必要があると共に,右租税収入の確保を図ることは,国家の財政的基礎を保持し国家活動の運営を全からしめる上に極めて緊要なものであることはいうまでもない。…国税徴収法2条1項の規定が前記のように公共の福祉の要請に副うものである以上,同規定が所論のような憲法29条に違反し,同法98条1項により効力を有しないものとは認められず,その他憲法の精神に反する点は認められない。

3 預金債権によって事実上担保された貸金債権

銀行の有する貸金債権は,借主がその銀行に有している預金債権と相殺するという方法を利用することによって,他の差押え債権者に優先することが判例(最大判昭45・6・24民集24巻6号587頁)によって認められている。

最高裁は,以下のように述べて,国税債権に基づく預金債権の差押えに対して,貸付金債権を自働債権とする銀行による相殺が優先することを認めている。

相殺の制度は,互いに同種の債権を有する当事者間において,相対立する債権債務を簡易な方法によつて決済し,もつて両者の債権関係を円滑かつ公平に処理することを目的とする合理的な制度であつて,相殺権を行使する債権者の立場からすれば,債務者の資力が不十分な場合においても,自己の債権については確実かつ十分な弁済を受けたと同様な利益を受けることができる点において,受働債権につきあたかも担保権を有するにも似た地位が与えられるという機能を営むものである。相殺制度のこの目的および機能は,現在の経済社会において取引の助長にも役立つものであるから,この制度によつて保護される当事者の地位は,できるかぎり尊重すべきものであつて,当事者の一方の債権について差押が行なわれた場合においても,明文の根拠なくして,たやすくこれを否定すべきものではない。

さらには,相殺の担保的効力を利用して,第三債務者から債務者への弁済を債務者の銀行口座へ振り込ませることによって,貸金に対する優先権を確保する方法(振込指定)が,担保として用いられている。

「振込指定」とは,債務者Aに対して債権者である金融機関Bが有する債権を担保するため,Aが第三債務者Cに対して有する債権の弁済方法として,AがBに開設した口座にCに振り込ませ,その振込金に対するAの預金返還請求権に対して,金融機関BがAに対して有する債権でもって相殺することである。

名古屋高判昭58・3・31判時1077号79頁は,銀行融資の返済に充てるため退職金を預金することを約束した者が破産宣告を受けた場合につき,その後退職金の振込によって銀行が負担した預金債務は破産法104条二号但書の「前ニ生ジタル原因」に基づく債務であるとして,相殺の担保的効力を認めている。


V 先取特権の優先順位の決定プロセスにおける債権法理の優越


優先弁済権を有する債権者間で,優先弁済の順位がどのような考えに基づいて決定されるかを理解することは,担保物権の本質を知る上で重要である。

ここでは,ある特定の動産について,法定担保物権である先取特権を有する債権者が競合した場合を例に取り上げることにする。この設例の検討を通じて,法律は,優先弁済権の順序を,物権法の排他性の原理,すなわち,先に権利を取得した者を優先させるのではなく,反対に,後に保存行為をした者を先に保存行為をした者を優先させるという不思議な決定プロセス(民法330条1項第2号但し書き)を採用していることがわかる。

この設例を通じて,動産先取特権における優先権の決定は,物権法における排他性の原理,すなわち,対抗要件の先後ではなく,むしろ,債権の性質に着目して,その債権者が債務者の責任財産の拡大・保全にいかなる貢献をしたかという公平の観点,すなわち,信義と公平の原則という,債権を支配する原理に従って行われていることが理解されるであろう。

1 設例

AはB所有のアパートを借りて住んでいる。Aは,1年前に大型のカラーテレビ・ビデオセットを40万円でC電気店から購入したが,購入代金のうち,頭金以外の残代金20万円の支払いを待ってもらっている。その上,保証期限が切れた直後にカラーテレビが故障してしまい,D修理業者に出張修理してもらった修理代金5万円をまだDに支払っていない。また,派手な生活のため,貸金業者Eに25万円の借金があり,家賃も2ヶ月分の10万円をBに支払っておらず滞納している。

優先弁済権

カラーテレビ・ビデオセットが30万円で競売された場合,Aの債権者B,C,D,Eはどのような割合で配当を受けるか。15万円で競売された場合はどうか。(ただし,訴訟費用等の諸費用は無視するものとする。)

2 設例における優先順位決定のプロセス

A. 先取特権の種類とその優先順位

民法における先取特権は,以下の表のように分類できるが,本件は,借家に持ち込まれたカラーテレビ・ビデオセットの競売に関する優先権の問題であるので,動産の先取特権のみが,考察の対象となる。

先取特権の分類 順位 先取特権の種類
一般の先取特権 1 共益費用の先取特権
2 雇い人給料の先取特権
3 葬式費用の先取特権
4 日用品供給の先取特権
動産の先取特権 1 不動産賃貸,旅店宿泊,運輸の先取特権
2 動産保存の先取特権
3 動産売買,種苗肥料,農工労役の先取特権
不動産の先取特権 1 不動産保存の先取特権
2 不動産工事の先取特権
3 不動産売買の先取特権

B. 優先弁済の順位

上の表(民法330条)にしたがって,それぞれの債権者の優先弁済権の順位を決定すると,以下の表のようになる。

なお,優先順位の決定において考慮された要素は,質権を設定したのと同じに扱おうとする「当事者意思の推測」,目的物の価値の増大・維持に果たした債権者の貢献度を考慮した「公平の原理」であるとされている(梅・民法要義351頁以下,鈴木・物権法講義281頁参照)。

債権者 債権の種類 目的物 先取特権の種類 順位
B 借家の賃料債権 Bの借家にあるAのカラーテレビ・ビデオセット 不動産賃貸の先取特権 1
C 売買代金 CがAに売却したカラーテレビ・ビデオセット 動産売買の先取特権 3
D 修理の報酬請求権 Dが修理したAのカラーテレビ・ビデオセット 動産保存の先取特権 2
E 貸金債権 Aの一般財産

C. 債権者に配当される金額の決定

優先弁済の順序に従って,各債権者が配当を受ける配当額を計算すると,以下の表のようになる。

a. 目的物が30万円で競売された場合
債権者 優先弁済の順位 債権額 配当の余地 配分額 評価残額−債権額=残額
B(賃貸人) 1 10 30>10 10 30-10=20
D(修理業者) 2 5 20>5 5 20-5=15
C(売主) 3 20 15<20 15 15-20<0
E(貸金業者) 4 25 0<25 0 0
b. 目的物が15万円で競売された場合
債権者 優先弁済の順位 債権額 配当の余地 配当額 評価残額−債権額=残額
B(賃貸人) 1 10 15>10 10 15-10=5
D(修理業者) 2 5 5=5 5 5-5=0
C(売主) 3 20 0<20 0 0-20<0
E(貸金業者) 4 25 0<25 0 0

3 優先弁済の順位の決定の根拠・理由

先取特権の優先順位は,先に述べたように,債務者の責任財産の拡大・保全に貢献した程度によって決定される。しかし,その決定方針は単純ではなく,以下の方針による。

  1. 一般財産の拡大・保全よりも特定財産の拡大・保全に貢献した債権者を優先する。
  2. 遠因よりも直近の拡大・保全を優先する。

先の例題の場合,E(貸金業者)は,債務者の一般財産の拡大には貢献しているが,カラーテレビ・ビデオセットという特定財産の拡大・保全には貢献していない。この点で,特定財産の拡大・保全に貢献したその他の債権者B,C,Dに劣後する。

特定財産の拡大・保全に貢献した債権者のうち,拡大・保全の順序は,(1)Cの売却によるカラーテレビ・ビデオセットの借家への搬入,(2)Dの修理による特定物の価値の保全,(3)修理された特定物のBの借家での保全という順序を経ている。遠因よりも直近の拡大・保全を優先するという原則に従うと,優先権の順位は,反対に,最後のものから最初のものへとさかのぼることになる。したがって,優先権の順位は,B,D,Cとなる。

比喩的に言えば,現在の自分があるのは,曾祖父母,祖父母,父母のお陰である。しかし,敬愛すべきは,最も身近な父母であり,次に祖父母,その次に曾祖父母の順となるのが穏当であろう。

いずれにせよ,ここで重要なことは,このような順序決定の原理は,物権における順序決定の原則,すなわち,先に権利を得たものが,後に権利を得たものに優先するという排他性の原理とは根本的に異なっており,債権を支配する原理,すなわち,信義と公平の原則に近いということである。


W 担保物権を債権に付与された優先弁済権と考えることの利点


1 人的担保と物的担保との連続性の確保

担保物権を「債権に付与された優先弁済権」と考えることによって,人的担保と物的担保を,債権に付従するものとして統一的に理解することができる。

そもそも,人的担保は,債権の担保となる責任財産を本来の債務を負う債務者だけでなく,本来の債務を負わない保証人の一般財産を追加することによって,一般財産(無限責任)の個数増加させるものであり,物的担保は,債権の担保となる責任財産を原則として特定した上で(有限責任),その責任財産に関して債権者に優先弁済権を付与するものである。

両者には,債務の範囲内ではあるが,責任が有限的(物的担保)か無限的(人的担保)か,優先権がある(物的担保)か優先権がない(人的担保)かの違いはあるが,本来の債務に付従するという共通の性質を有している。

担保の種類 担保の機能 責任の程度
人的担保 保証 責任財産の個数の拡大 保証人は無限責任を負う
連帯債務
物的担保 法定担保 責任財産の質の拡大
(優先弁済効)
財産の価値に応じた
有限責任を負担する
約定担保

このように,人的担保と物的担保とを,ともに,債権の担保という共通の基盤で捉え直すならば,例えば,物的担保である留置権が,人的担保である保証を提供することによって消滅しうること(民法301条),物上保証人の求償権が,物権法の法理ではなく,債権法の法理に従うこと,すなわち,保証債務に関する規定に従う(民法351条,民法)ことも,容易に説明しうるであろう。

2 債権者代位権,債権者取消権との連続性の確保

優先弁済権というのは,債権者間における権利であり,債権者と債務者という当事者間の関係を超えた問題である。つまり,優先弁済権は,対世権の問題であって,常に,対抗要件が問題となる。

しかし,対抗要件の問題は,何も,物権の対抗要件に限定されるわけではない。債権者と債務者の間の関係だけでなく,他の債権者との関係が問題となる場合には,債権においても,対抗要件が問題となる。債権譲渡の対抗要件はその典型である。

そもそも,債権においても,その対外的効力として,対世権が認められている。債務者が無資力の場合には,債権者代位権(民法423条)によって,物権と同じように,対世的な効力を取得することができるのであり,債務者が詐害行為を行った場合には,詐害行為の目的物に対して,物権と同じように追及力を行使することができる(民法424条以下)。

債権者代位権,債権者取消権をも視野に入れるならば,担保権に基づく物上代位権は,「優先権を付与された債権者代位権」だと考えるとが可能であるし,担保物権の追及効は,債権者取消権における責任説(責任移転の無効)の考え方と本質的には異ならないこともわかる。

最近注目を集めている物上代位の法的性質も,債権者代位権をベースにして,「優先弁済権が付与された債権」の債権者が債権者代位権を行う場合には,一定の条件(目的物の滅失・毀損又はなし崩し的な滅失・毀損)の下で,債権者代位権にも優先弁済権が付与されることがあると考えることによって容易に説明が可能となる。例えば,建物抵当権者の賃料債権に対する物上代位に基づく差押えと,賃借人が賃貸人に対する保証金の返還請求権に基づいて賃料債権に対して相殺をした場合(最三判平13・3・13取立債権請求事件)についても,判旨とは異なるが,差押えと相殺に関する民法511条の法理に基づく解決(最大判昭45・6・24民集24巻6号587頁)をそのまま利用することが可能となると思われる。

3 担保物権の付従性と処分可能性の整合性の確保

担保物権が債権とは別個の物権だと考えると,担保物権は,債権がなければそもそも成立せず,債権が消滅すると同時に消滅する,つまり,担保物権の存否は,債権に依存するという性質(付従性)を有するとされるのは,奇妙な話である。

従来の説明によれば,担保物権は,債権とは異なり,債権とは別個の物権ではあるが,債権を担保するための権利であるという性質上,債権の存否に依存せざるを得ない。それが,担保物権の付従性の意味であると考えられてきた。しかし,債権とは別個の物権であるとしながら,債権に依存するというのは,論理矛盾であって,物権における付従性という現象を論理的に説明することは困難である。

しかし,本稿のように,担保物権を「債権に付与された優先弁済権」のことだと考えるならば,優先弁済権が,債権の存否に依存するというのは,当然のことであり,担保物権の付従性という性質は,この考え方によって簡単に説明することができる。

ところで,担保物権という債権とは別個の権利として確立している権利を,債権に付与された優先弁済権であるとすると,優先弁済権の処分可能性ということが問題とならざるを得ない。この点についても,担保物権を債権に付与された優先弁済権であると立場からは,以下のように,付従性・随伴性と処分可能性とを矛盾なく説明することが可能となる。

このように,担保物権を,法律の規定または当事者の合意と公示によって「債権に付与された優先弁済権」と考えることによって,はじめて,担保物権の通有性(優先弁済効,付従性・随伴性,不可分性,物上代位,追及効)を含めて,すべての性質を,統一的に説明することができる。


おわりに


物権と債権の相違から出発し,それぞれの権利の目的物の範囲,財産に対する換価・処分権能の分析を通じて,第1に,担保物権は,物権ではなく,債権の掴取力に対して優先弁済権が付与されたものに過ぎず,物権ではないこと,したがって,第2に,担保物権は,物権としてではなく債権担保法として,人的担保としての保証・連帯債務と並べて理解されるべきことを論じた。

このような考え方は,一見,体系的な美しさを尊重する学者の論理の遊びのように感じられるかも知れないが,本稿のそもそもの目的は,以下のような実践的な意義を有している。

本稿で詳しく論じたように,担保物権は,抵当権を含めて,本来は,債権に従属する権利に過ぎず,また,他の債権者に先立って弁済を受ける権利に過ぎない。ところが,担保物権は,それが物権の中に規定されることによって,賃借権等の債権,ひいては,担保権の後に設定されたすべての用益権に優越するという危険な考え方が通説・判例を支配するに至っている。

わが国においても,「売買は賃貸借を破らず」という法理が建物保護法(現在の借地借家法10条)や借家法(現在の借地借家法31条)によって確定されている。しかし,それにもかかわらず,わが国においては,抵当権が物権として規定されているため,更地に設定された抵当権は,その後に設定された地上権や賃借権に優先するとされ,抵当権の設定された土地に建てられた建物は抵当権の実行によってすべて取り壊され,また,建物所有者,借家人はその土地から追い出されるという悲惨な現状が続いている。

本来,抵当権は,土地の用益には関与できない権利であり,用益権が設定されたとしても,その賃料等から物上代位によって優先的な弁済権が確保されれば,それで満足すべきもののはずである。しかし,わが国においては,抵当権等が物権として規定されたため,優先弁済権を超えた不当な権利が抵当権に与えられ,新築建物の取り壊しなど,国民経済に大きな損失を与える事態が,抵当権の実行の下に行われ続けている。

債権を保全し,債権の実現を実効あるものにすることは重要な課題ではあるが,そのことは,民事執行法の充実と,その的確な運用によって行われるべきであって,担保権を物権として規定することによって実現すべきものではない。

抵当権に代表される担保物権を債権に付与された優先弁済権に過ぎないと考える本稿の考え方は,抵当権と用益権との調整について,地震売買を防止するに寄与した借地・借家法と同様に,建物保護の方向での新たな視点を提供しうるものと考える。

さらには,本稿のように,物上代位を優先権を付与された債権者代位権に他ならないと考えるならば,原則として用益権に影響を及ぼすことが許されず,民法371条によって果実について効力を及ぼすことが制限されている抵当権者に対して,物上代位の優先弁済権の範囲を,賃借物の保全・管理を害する範囲に制限を加えることが可能となる。

このようにして,本稿の考え方は,抵当権は,賃貸借を破るかという問題にとどまらず,抵当権者の賃料債権に対する物上代位の問題を,排他的・直接的な支配関係という物権法の観点からではなく,信義と公平に基づく債権法の観点から,柔軟な解決策を導き出すことが可能となるのである。


参考文献