私法判例リマークス29号
2004年5月2日
名古屋大学大学院法学研究科教授 加賀山 茂
東京地判平15・3・25判時1831号132頁(損害賠償請求事件,東京地裁平一四(ワ)一二八一五号,平15・3・25民一○部判決,認容(確定)
大手の携帯電話事業者Xが提供する携帯電話の特定接続サービスを利用していたプロバイダー事業者Yが,その特定接続サービスを悪用して出会い系サイトへ勧誘する大量の宛先不明の電子メールを送信したため,正常なメールが遅延する等,Xの業務に支障を生じさせた。このため,XがYに対して,Yの行為は特定接続サービスの約款等に違反して債務不履行に当たるとして,損害賠償を請求した。本判決は,(1)大量の宛先不明メールを送信してはならないことは,約款には明示の規定はないものの利用規定には記載されており,XとYとの問で締結された特定接続サービス契約の内容に含まれており,(2)宛先不明メールの場合,受信者に課金できないが,Xの電子通信設備を使用する点では,宛先に届く正常の場合と相違ないことから,宛先不明メールが正常なメールであれば受信者に課金し得た金額が損害に当たるとし,(3)具体的損害額として,本件サービスを利用した場合の電子メール一通あたりの通信料(1.2円/通)にYが送信した宛先不明メールの合計数(404万9,725通)を乗じた額(485万9,670円)のほか,Yの行為は不法行為をも構成し得るものであり,故意に基づく悪質な行為であること等を考慮して,Xの主張どおり,調査費用(61万6,000円),および,弁護士費用(109万1,350円)の合計(656万7,020円)を損害賠償額として認めた。
(1)原告X(エヌ・ティ・ティ・ドコモ)は,携帯電話事業等を営む第一種電気通信事業者(株式会社)であり,携帯電話を使用して電子メールの送受信をしたり,インターネット上のウェブサイトを閲覧したりすることを可能にする電気通信役務である「iモード」サービスを提供している。これに対して,被告Y(スクープ)は,インターネット,プロバイダー事業等を営む有限会社である。
(2)被告Yは,Xに対し,平成14年3月11日,特定接続サービス(以下「本件サービス」という。)の申込みを行い,Xはこれを承諾した(以下「本件契約」という。)。そして,同年4月1日から,XはYに対して本件サービスの提供を開始した。本件サービスは,Xの提供する「パケット通信サービス」のうちの専用回線等接続サービスの一つで,利用者が望んでいないにもかかわらず送信されてくるいわゆる迷惑メールの大量発信によって生じる正常な電子メールの遅延を解消するために,専用の接続口を設けたもので,後記の迷惑メールを防止するための措置を採ることを条件とした上で,事業者は一定の利用料(通常の料金よりも安価な固定料金)を支払う代わりに,この接続口から円滑かつ確実に電子メール送信のサービスを受けることができるというものであった。
記 送信する電子メールには,必ずあらかじめ届け出たFROMアドレスを記載する(約款第19条第2項第六号イ)。
電子メールの送信は,契約者はXが別に定める方法により行う(約款第66条第1項第六号)。
本サービスを利用して,Xが大量と認める宛先不明の電子メールの送信を行わない(本サービス利用規約第4条第三号)。
(3)ただし,Yは,本件契約の際,Xから,利用規約の交付を受けたが,約款については交付も口頭の説明も受けなかった。
(4)Yは4月3日,本件サービスを利用して,18万8,027通の宛先不明の電子メールを送信して,宛先不明メールの送信を始め,4月23日には送信者を特定するアドレスを変更した上で同様の送信を続け,別紙(略)のとおり,同年5月21日までに計404万9,725通の宛先不明のメールを送った。なお,その間,Xは,Yによる大量の宛先不明の電子メール送信行為に対して,同年4月9日,「利用規約違反対処のお願い」と題する通知書によって,警告を行ったところ,Yは,いったん前記送信行為を中止したが,その後,4月23日から再開継続した。
(5)そこで,Xは,Yに対して,本件契約の債務不履行を理由として,以下の損害の賠償を求めた。
(a)電子メールの宛先が不明の場合,送信者に宛先不明である旨のメッセージが送信者に送り返されるが,Xの電気通信設備において電子メールの処理業務を行ったことにおいて,通常のメールが送信された場合と変わりはない。送信者はXの電気通信設備を不法に使用してXに電子メールの処理業務を行わせているのであり,使用料相当額が損害として発生している。そして,本件サービスにおいて,一パケットあたりの通信料は0・3円であり,電子メール一通あたりの平均パケット数は4パケットであるから,一通あたりの料金は1・2円である。Yの送信した宛先不明のメールは404万9,725通であるから,Xは485万9,670円の損害を被っている。
(b)Xは,ドコモエンジニアリング株式会社,ドコモ・システムズ株式会社及び伊藤忠テクノサイエンス株式会社に対し,Yの行為の具体的内容の調査を委託し,その対価として計61万6,000円を支払った。
(c)Xは,Yの行為により,日本弁護士連合会の報酬等基準に基づく弁護士費用109万1,350円の損害を被った。
これに対して,Yは,以下のように反論した。
(1)Xは,本件契約の締結にあたって,Yに対し,利用規約の交付はしたが,約款の交付をしていない。口頭による内容説明もなかった。したがって,約款は本件契約の内容となっていない。
(2)同本件サービスにおいては,Yは所定の固定された費用を支払えば足りるのであって,使用回数・数量に比例してその額が変動するのではない。また,着信しなかったメールの料金負担については,約款にも利用規則にも定めがない。メールの着信の有無に関わりなく,Yは固定料金を支払えば足りるのであり,使用料相当の損害の問題は生じない。
(1)争いのない事実及び〈証拠略〉によれば,本件契約が締結された当時は,いわゆる迷惑メールやその送信者の一つである出会い系サイトが社会問題となっており,広く報道されるに至っていたこと,Xはその対策の一環として本件サービスを設定し,これを広報するなどしていたことが認められる。そうすると,このような社会状況や本件サービス開始の経緯については,Yも本件契約締結当時において,十分に知りうる状況にあったといえる。
(2)本件契約締結に際し,XからYに対し,約款の交付及びその説明はなかったが,利用規約については少なくとも交付がなされたのであり,利用規約には,本件サービスを利用して,大量の宛先不明のメールを送信してはならない旨明示されていたことは,当事者間に争いがない。
(3)以上からすれば,Yは,本件契約締結の際,約款の交付等を受けておらず,また,利用規約を読んでいなかったとしても,少なくとも本件サービスを利用して大量の宛先不明のメールを送信してはならないという利用規約と同旨の約定を規定する約款ないし利用規約があることを十分認識していたというべきであるから,その約定に拘束されるというべきである。
これに対し,Yは,本件契約締結の際,利用規約の交付はしたが,約款の交付をしておらず,口頭による内容説明もなかったから,約款等は本件契約の内容となっていないと主張する。しかしながら,迷惑メールが社会問題となっている状況でその対処としてまさしく本件サービスが開始された中で,わざわざ一定の利用料を支払って,専用の接続□を開設して本件サービスを受けることを申し込んだYにおいて,大量の宛先不明のメールを送信してはならないという約定があることは,当然に認識して契約を締結したというべきであるから,約款の内容が当然に契約内容になりうるかどうかについて議論するまでもなく,Yの主張は採用できないというべきである。
(1)電子メールの通信料については,受信者に課金する仕組みがとられているため,宛先不明の場合,課金は不可能である。しかし,この場合,宛先不明のメッセージが送信者に送り返されるから,Xの電気通信設備を使用する点では,受信者に届いた場合と届かない場合とで変わりがない。
以上の点につき争いはなく,これを前提に考えると,宛先不明のメールが送信される場合,Xにとっては,自己の電気通信設備が利用されたにもかかわらず,課金できない状態が生じることになる。すなわち,Xは正常なメールが送信されたならば,受信者に課金することができるのに,宛先不明のメールが送信されると,自己の設備の利用に応じた料金を徴収できなくなるということができる。そうだとすれば,大量の宛先不明の電子メールが送信された場合には,これらが正常なメールだったとしたときに課金しうる金額をXの受けた損害として認めるのが相当である。
本件サービスによる電子メールの通信料は一パケットあたり0・3円であり,メール一通は平均で4パケットであるから,一通あたりの通信料は1・2円であり,これにYが送信した宛先不明のメール数404万9,725通を乗じた485万9,670円がXの被った損害というべきである。
(2)この点,Yは本件サービスの利用者は所定の固定額を支払えば足りるはずであると主張する。しかし,これは契約どおりの利用がなされた場合のことで,契約に反した行為がなされた際の損害の有無及びその算定とは別の問題である。また,メール不着の場合の料金負担につき契約上定めがないとも主張するが,定めがないとしても債務不履行による損害賠償請求ができないことにはならないし,宛先不明の大量メール送信によって,Xが受信者から本来得べかりし通信料が得られなくなることは,Yにおいて十分認識可能であったというべきであるから,Yの債務不履行行為と相当因果関係の認められる範囲の損害が生じているというべきである。したがって,Yの主張は採用できない。
(3)Xは,Yの行為により,その行為の具体的内容についての調査を余儀なくされ,これについてドコモエンジニアリング株式会社,ドコモ・システムズ株式会社,及び伊藤忠テクノサイエンス株式会社に対し委託し,調査費用として計61万6,000円を支払っており,これはXの損害と認められる。
(4)Yの行為による損害の賠償を請求するため,Xは,弁護士にその事務処理を委任せざるを得なくなったといえるから,弁護士費用はYの行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。その額としては,日本弁護士連合会の報酬等基準に基づき,109万2,250円と認める。
なお,本件請求は,債務不履行に基づくものであるが,本件のYの行為は不法行為をも構成しうるものであり,しかも,故意に基づく悪質な行為であること,警告後もこれを再開継続していることなどからすると,Xの主張するとおりの額を認めるのが相当である。
迷惑メールの送信者に対して電子メールを管理するプロバイダーや通信事業者が訴えを提起した事件としては,以下のものがある。
(1)浦和地決平11・3・9判タ1023号272頁(ニフティサーブ・スパムメール送信差止事件)
いわゆるプロバイダー(ニフティーサーブ)が,わいせつなビデオ販売の宣伝をする会員向けの電子ダイレクトメールを送信することを禁止する仮処分を申し立てて認容された事件である。債務者欠席のままなされた仮処分決定であるが,プロバイダーに「電子メールの送受信サービスを提供し社会的信用を維持する権利」および「営業資産を第三者に損壊されることなく電子メールの送受信サービスの提供のために常に良好な状態に保つ権利」を認め,スパマーに対して,「営利目的の電子メールを送信する等して…設備の機能低下…をもたらすような行為をしてはならない」とした点に特色がある。なお,この事件の判例評釈としては,岡村久道「判批・ニフティ電子ダイレクトメール仮処分決定について」判タ1041号(2000年)78頁。平野晋「判批・ニフティサーブ・スパムメール送信差止事件(仮処分決定)」『サイバー法判例解説』別冊NBL79号(2003年)2頁がある。
(2)横浜地決平13・10・29判時1765号18頁(NTTドコモ迷惑メール送信禁止仮処分事件)
第一種電気通信事業者Xが提供するパケット通信サービス「iモード」を利用して,Yは,iモードの契約者を出会い系サイトに勧誘するダイレクトメールを大量かつ継続的に送信したため,X所有の電気通信設備が予定していた処理能力を超え,設備が機能障害を起こし,その修復までの間,iモードサービスの使用が事実上不可能となり,あるいは,設備の著しい機能低下をもたらす事態が度々発生した。そこで,Xが,Yに対して,電気通信設備の所有権に基づく妨害排除請求権を被保全権利に送信行為の禁止の仮処分を求めた事件である。Xの申立てに応じて,裁判所は,Yに対して,決定送達日から1年間,電子メールアドレスの「090」以外の8桁にランダムな数字をあてはめるなどの方法により,iモード契約者の存在しない多数の電子メールアドレス(架空電子メールアドレス)宛に,営利目的の電子メールを送信するなどして,Xの所有する電気通信設備の機能低下もしくは停止をもたらすような行為の禁止を命じた。なお,この事件の判例評釈としては,丸橋透「判批・NTTドコモ迷惑メール送信禁止仮処分事件」『サイバー法判例解説』別冊NBL79号(2003年)22頁。
これらの事件のうち,特に,(2)は,原告が同じであり,しかも,本判決では明らかにされていない「迷惑メールによってXにいかなる被害が生じるのか」が理解できる点でも,さらに,後に述べるように,Xがビジネス・モデルとしてのiモードサービスのあり方および約款を改定する契機となったと思われる点で重要である。
しかし,請求内容に関しては,(1)(2)は,いずれも,迷惑メールの差止めを求める事件であり,裁判所の決定に反して,事業者が迷惑メールの発信を継続した場合の実効性には,疑問が投げかけられている。なぜなら,上記の裁判の実効性の確保は,結局,間接強制に頼らざるを得ず,損害賠償請求をしたのと大差がなくなってしまうからである。その意味で,迷惑メールの送信者に対して,損害賠償を請求した本件訴訟は,迷惑メールに対する訴訟対策の今後を左右する重要な裁判として注目を集めていることが理解できる。
判旨に反対。
法律上の争点とそれに対する裁判所の判断を見る限りでは,本判決は,正義にかない,妥当な判決にみえる(なお,訴訟物という別の観点から,本判決の理論構成に疑問を投げかけるものとして,夏井高人「スパムメールによる損害賠償についての一考察 −NTTドコモ対有限会社スクープ事件(東京地裁平成15年3月25日判決)を中心に」判タ1124号(2003年9月15日)18頁がある)。
しかし,この事件を約款紛争における「大量取引の一律・一貫的解決」という紛争処理原則,および,「約款作成者に不利に解釈すべし」という解釈原則(書面の意味に疑点が生じればその書面の起草者またはそれを証拠として提供する者の不利に解釈すべしとの原則。したがって契約条項があいまいであれば,その条項を契約に定め根拠とする者の不利に解釈すべきであるということになる(田中英夫編『英米法辞典』東大出版会))に照らして考えると,Xの損害賠償請求を認める根拠は,約款法理上は,無理があることが分かる。その理由は,以下の通りである。
(1)専用回線を利用した特定接続サービス契約においては,Yは,どれだけ大量にメールを送ろうとも,Xに対して一定の利用料(固定額)しか課金されないという契約上の権利を有している。
(2)メール不着の場合の料金負担につき契約上の定めがない。
さらに,この事件を単に「宛先不明の迷惑メール」に限定せず,少し視野を広げて,「宛先の確実な」,したがって,判決にいう「正常な」迷惑メールを含めて,迷惑メール全体について考察するならば,携帯電話のiモードサービスを利用した迷惑メールによって被害を受けているのは,Xだけでなく,受信したくもない迷惑メールを受信させられることによって受信料を支払わされているXの顧客であることがわかる。つまり,深刻な社会問題として考慮しなければならないのは,「宛先不明の」迷惑メールだけではなく,むしろ,Xが問題としていない,「宛先の確実な迷惑メール」の方なのである。
迷惑メール | 現状における負担状況 | ||
---|---|---|---|
送信者 | プロバイダ | 受信者 | |
宛先不明の迷惑メール | 有料 | 設備に過大な負担 | − |
宛先確実の迷惑メール | 有料 | 有料 |
Xは,自らが直接被害を受ける「宛先不明の迷惑メール」のみを問題とし,しかも,損害額の算定について,通信設備等の負荷や修復費用という「通常損害」の証明を省略してしまっている。そして,宛先が確実な迷惑メールであれば,顧客から徴収できたはずの通信料という「特別損害」を損害額として請求するという,迷惑メールで苦しめられている顧客にとっては,信じられないような主張を行っている。
「宛先確実な迷惑メール」については,顧客から通信料を徴収して利益をあげるばかりで十分な被害対策を講じることなく,「宛先不明の迷惑メール」に関しては,「宛先不明の大量メール送信によって,Xが受信者から本来得べかりし通信料」を損害賠償の算定に利用しようとするXの主張は,迷惑メールによって被害を受けている顧客の神経を逆なでする「暴挙」であるといわなければならない。
したがって,裁判所は,Xが負担するわけでもない顧客の損害額を自らの損害であるかのように扱うというXの路線に乗った判断を下すべきではない。なぜなら,裁判所がXの路線に乗った判断を下すことになれば,一方で,「宛先不明のメール」については,Xの儲け損ないになるから発信者に対して訴えを起こして損害を回復し,他方で,顧客に甚大な損害が生じている「宛先が確実な迷惑メール」については,送信者からも被害を受けた顧客からも料金を二重取りできるから,迅速な措置を講じないまま放置するという,Xのモラル・ハザードを助長することになるからである。
Xの「iモード」サービスは,携帯電話からインターネットへの接続を格安の料金で可能とするものであり,最も成功したビジネス・モデルの一つとしてもてはやされている。これによって,情報産業が活性化されたことは素直に認めるべきである。
しかし,その成功は,受信したくもない迷惑メールの強制受信とその受信料の支払強制という顧客の深刻な被害を無視することと引き替えに獲得されたものであった。このことは,後発のJ−フォン(現在のボーダフォン)がインターネット接続サービスに関して,メール受信の場合,最初の3パケット分(宛先,件名を含めて全角192文字分)を無料とすることを通じて,結果的に迷惑メールの受信料を強制しないシステムを実現していることと比較すれば,よく理解できる。
迷惑メールを防止するという観点からは,迷惑メールが社会問題化した時点で,少なくとも,Xが原告となって勝訴した横浜地決平13・10・29判時1765号18頁(NTTドコモ迷惑メール送信禁止仮処分事件)の時点で,Xは,約款を改定する手続を開始し,監督庁を説得して,(1)大量のメールの送信を制限する権限をXに与え,これを実行すること,および,(2)顧客が迷惑メールの受信を拒絶することのできる仕組みを作り,顧客に受信および通信料の支払を拒絶する権限を与えること,ならびに,(3)大量の迷惑メールを送付する事業者との契約を直ちに解除する権限をXに与え,これを実行することが必要であった。
年 | 月日 | 本判決後のNTT DoCoMoの迷惑メール対策 |
---|---|---|
平成15年 (2003年) |
7月10日 | 法令に違反した迷惑メール送信が確認されたiモード契約者に対して、同一名義の契約回線すべてを「パケット通信サービス契約約款」または「FOMAサービス契約約款」に基づき利用停止ならびに契約解除を実施することとなった。 |
10月20日 | iモードメールの送信回数制限(1日あたり1,000回未満)する機能を付加。 | |
12月25日 | 事業者別の「ドメイン指定受信」が可能となった。これにより,NTT DoCoMo以外の携帯電話から発信される迷惑メールの受信を拒絶できるようになった。 | |
平成16年 (2004年) |
3月15日 | 1日あたり1台から送信される200通目以降のiモードメールを、受信側の設定により受信拒否する機能を付加。 |
このような観点からするならば,Xが,迷惑メールの受信料を拒絶できない状態に顧客を放置しておきながら,しかも,迷惑メールの送信者に対する契約解除を行わないまま,Xが迷惑メールの発信者に対して,迷惑メールについて支払を強制されている顧客の通信料を,Xの損害賠償の算定基準として請求することは,信義に反して許されないというべきである。
悪質な事業者に対する見せしめ的判決は,即効性があるように見えて,結果的には,容易に改善できる約款の不備を改善させることなく現状を維持させてしまうことになる。したがって,本件のような約款紛争の場合には,裁判所は,約款作成者不利原則を無視して,例外的な処理をするのではなく,解除もせずに,根拠の薄弱な「得べかりし利益」の損害賠償を請求しているXを敗訴させるべきであったと考える。
確かに,このような解決は,総務省の監督下にあり,迅速な約款改定が困難な状況にあるXにとって酷なように見えるかもしれない。しかし,個別的な契約紛争とは異なり,約款紛争に関しては,原則として,「約款作成者に不利に解釈すべし」という解釈原則に則って,「大量取引の一律・一貫的解決」を行うべきである。
そのような原則にのっとった解決こそが,Xのモラル・ハザードを防止し,しかも,Xに対して,すべての受信者に有効な対策として迷惑メールの送信事業者に対する契約解除の措置を促進させ,さらには,宛先不明の迷惑メールだけでなく,すべての迷惑メールから受信者を保護するためのシステム改善と約款の改定を行うことを促進することになると考える。