①私権は,公共の福祉に適合しなければならない。
②権利の行使及び義務の履行は,信義に従い誠実に行わなければならない。
③権利の濫用は,これを許さない。
この法律は,個人の尊厳と両性の本質的平等を旨として,解釈しなければならない。
正確な地図を調べるには,5万分の1の地図を見なければならない。しかし,名所案内の地図の方がかえってよくわかる。
旅行をして,ロンドンやパリに着いたときに,私は必ず市街地図を買う。しかし,詳細で正確なものほど,なかなかわかりにくい。いま自分はどこにいて,日本大使館がどっちのほうにあたるとか,見物する値うちのあるものがどこで,それがおよそどの辺にあるか,というような,最小限度に必要なことを探し出そうとしても,なかなかわからない。
ところが,観光案内書のくれる案内図だと,それが一目にしてわかる。むろん,日本大使館もないし,自分のホテルも出ていない。しかし,何か目じるしになるものを探せば,およその見当はすぐにつく。そして,ロンドンなりパリなりの全貌を頭に入れたうえで,例えば人を訪問する場合には,詳しい正確な地図を調べる。道に迷っても,とんでもない見当外れの方向にうろつく心配はない。
Googleマップをスマートフォンで見る場合には,ピンチインとピンチアウトを繰り返すことによって,1つのファイルだけで,大まかな全体図と詳細で正確な部分図とを交互に対比することができるようになった。つまり,Googleマップは,従来,トレードオフの関係になるとされてきた全体と部分のトレードオフ問題を見事に解決したのである。
https://www.google.com/maps/place/〒879-1504/
法律の勉強についても,同じようなことがいえる。先生の講義は,5万分の1の地図-10万分の1のことも,20万分の1のこともあろうが,とにかく,細い線で正確に書かれた地図を右の端から説明していくようなものである。
先生は,やがて出てくる名所の所在地も,高い山や大きな流れのあり場所も心得ているから,いろいろの伏線を用意して説明していくであろう。
しかし,聴く方の諸君は,何も知らない。川の源だといわれても,山の麓だと説かれても,どこに流れる川なのか,どれだけ意味のある山になるのか,それさえもわからない場合が少なくないのであろう。
そこに,案内図のありがたみがある。全体が一目でわかる。重要なものだけを心に止めることができる。これを予め見ておけば,先生の講義が活きてくる。講義の後に見ても,全体の関連をさとることができるであろう。
教員が作成したXMLを学生に配布しておけば,学生たちは,必要に応じて全体像を見ることも,関心のある部分についての正確な情報にもアクセスできるようになる。そうすれば,学生たちは,教員の説明を全体との関連においても,また,部分部分の正確さにおいても,深く理解できるようになることであろう。
この本は,そうした意味で,法律を学ぶ者にとっての案内図の役目を心がけたものである。これだけは心得ておかなければならない,という点に力を入れて,そのほかのことは思いきって省略している。重要なことは,目につくようにわざと大きく書いている。
だから,この本に書いてないことは覚える必要がないと考えたり,この本に書いてあることだけが意味のあることことだと思ったら,それはとんでもない間違いになりかねない。それは,ちょうど,案内図に出ている道しかないと考えたり,案内図で距離をはかったり大きさをくらべては,大へんな間違いになるのと同じである。この本は,あくまでも,諸君が詳細正確な勉強をするための案内図である。
この名著が書かれた時代には,確かに,全体を示す地図(例えば,世界地図,案内図)と,部分を示す市街地図とは,別の媒体に記述されており,全体を見せようとすれば,正確さを犠牲にしなければならず,部分を正確に記述すれば全体像が見えなくなるというトレードオフの関係が生じ,これを解決する方法は存在しなかった。
しかし,Googleマップの出現により,1つのファイルだけで,部分的に正確な住宅地図をピンチインすることにより全体像としての世界地図を示すこともできるし,反対に,世界地図をピンチアウトすることによって部分的に正確の住宅地図を示すことができるようになった。
同様にして,XML文書を作成することによっても,全体を示すことと正確な部分を示すこととは両立できることになった。そうすると,あるデータが案内図とか案内書とかだからといって,正確さを欠くことを正当化することはできなくなった。反対も同じで,正確な部分を示すものだから,全体像を示せなくても仕方がないとはいえなくなったのである。
このように考えると,名著『民法案内1 私法の道しるべ』のはしがきに記された最後の注意書きは,現在では,その正当性が薄らぎ,説得力のない言い訳のように聞こえてしまうことになる。なぜなら,Googleマップと同様に,誰もが作成可能なXML文書においても,分かりやすい全体像と部分的な正確さとを両立させることができるようになったからである。
①私権の享有は,出生に始まる。
②外国人は,法令又は条約の規定により禁止される場合を除き,私権を享有する。
法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは,その法律行為は,無効とする。
年齢18歳をもって,成年とする。
①未成年者が法律行為をするには,その法定代理人の同意を得なければならない。ただし,単に権利を得,又は義務を免れる法律行為については,この限りでない。
②前項の規定に反する法律行為は,取り消すことができる。
③第1項の規定にかかわらず,法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は,その目的の範囲内において,未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも,同様とする。
①一種又は数種の営業を許された未成年者は,その営業に関しては,成年者と同一の行為能力を有する。
②前項の場合において,未成年者がその営業に堪えることができない事由があるときは,その法定代理人は,第4編(親族)の規定に従い,その許可を取り消し,又はこれを制限することができる。
精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については,家庭裁判所は,本人,配偶者,4親等内の親族,未成年後見人,未成年後見監督人,保佐人,保佐監督人,補助人,補助監督人又は検察官の請求により,後見開始の審判をすることができる。
後見開始の審判を受けた者は,成年被後見人とし,これに成年後見人を付する。
成年被後見人の法律行為は,取り消すことができる。ただし,日用品の購入その他日常生活に関する行為については,この限りでない。
第7条に規定する原因が消滅したときは,家庭裁判所は,本人,配偶者,4親等内の親族,後見人(未成年後見人及び成年後見人をいう。以下同じ。),後見監督人(未成年後見監督人及び成年後見監督人をいう。以下同じ。)又は検察官の請求により,後見開始の審判を取り消さなければならない。
精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者については,家庭裁判所は,本人,配偶者,4親等内の親族,後見人,後見監督人,補助人,補助監督人又は検察官の請求により,保佐開始の審判をすることができる。ただし,第7条に規定する原因がある者については,この限りでない。
保佐開始の審判を受けた者は,被保佐人とし,これに保佐人を付する。
①被保佐人が次に掲げる行為をするには,その保佐人の同意を得なければならない。ただし,第9条ただし書に規定する行為については,この限りでない。
一 元本を領収し,又は利用すること。
二 借財又は保証をすること。
三 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
四 訴訟行為をすること。
五 贈与,和解又は仲裁合意(仲裁法(平成15年法律第138号)第2条第1項に規定する仲裁合意をいう。)をすること。
六 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
七 贈与の申込みを拒絶し,遺贈を放棄し,負担付贈与の申込みを承諾し,又は負担付遺贈を承認すること。
八 新築,改築,増築又は大修繕をすること。
九 第602条に定める期間を超える賃貸借をすること。
十 前各号に掲げる行為を制限行為能力者(未成年者,成年被後見人,被保佐人及び第17条第1項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の法定代理人としてすること。
②家庭裁判所は,第11条本文に規定する者又は保佐人若しくは保佐監督人の請求により,被保佐人が前項各号に掲げる行為以外の行為をする場合であってもその保佐人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。ただし,第9条ただし書に規定する行為については,この限りでない。
③保佐人の同意を得なければならない行為について,保佐人が被保佐人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは,家庭裁判所は,被保佐人の請求により,保佐人の同意に代わる許可を与えることができる。
④保佐人の同意を得なければならない行為であって,その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは,取り消すことができる。
①第11条本文に規定する原因が消滅したときは,家庭裁判所は,本人,配偶者,4親等内の親族,未成年後見人,未成年後見監督人,保佐人,保佐監督人又は検察官の請求により,保佐開始の審判を取り消さなければならない。
②家庭裁判所は,前項に規定する者の請求により,前条第2項の審判の全部又は一部を取り消すことができる。
①精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者については,家庭裁判所は,本人,配偶者,4親等内の親族,後見人,後見監督人,保佐人,保佐監督人又は検察官の請求により,補助開始の審判をすることができる。ただし,第7条又は第11条本文に規定する原因がある者については,この限りでない。
②本人以外の者の請求により補助開始の審判をするには,本人の同意がなければならない。
③補助開始の審判は,第17条第1項の審判又は第876条の9第1項の審判とともにしなければならない。
補助開始の審判を受けた者は,被補助人とし,これに補助人を付する。
①家庭裁判所は,第15条第1項本文に規定する者又は補助人若しくは補助監督人の請求により,被補助人が特定の法律行為をするにはその補助人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。ただし,その審判によりその同意を得なければならないものとすることができる行為は,第13条第1項に規定する行為の一部に限る。
②本人以外の者の請求により前項の審判をするには,本人の同意がなければならない。
③補助人の同意を得なければならない行為について,補助人が被補助人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは,家庭裁判所は,被補助人の請求により,補助人の同意に代わる許可を与えることができる。
④補助人の同意を得なければならない行為であって,その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは,取り消すことができる。
①第15条第1項本文に規定する原因が消滅したときは,家庭裁判所は,本人,配偶者,4親等内の親族,未成年後見人,未成年後見監督人,補助人,補助監督人又は検察官の請求により,補助開始の審判を取り消さなければならない。
②家庭裁判所は,前項に規定する者の請求により,前条第1項の審判の全部又は一部を取り消すことができる。
③前条第1項の審判及び第876条の9第1項の審判をすべて取り消す場合には,家庭裁判所は,補助開始の審判を取り消さなければならない。
①後見開始の審判をする場合において,本人が被保佐人又は被補助人であるときは,家庭裁判所は,その本人に係る保佐開始又は補助開始の審判を取り消さなければならない。
②前項の規定は,保佐開始の審判をする場合において本人が成年被後見人若しくは被補助人であるとき,又は補助開始の審判をする場合において本人が成年被後見人若しくは被保佐人であるときについて準用する。
①制限行為能力者の相手方は,その制限行為能力者が行為能力者(行為能力の制限を受けない者をいう。以下同じ。)となった後,その者に対し,1箇月以上の期間を定めて,その期間内にその取り消すことができる行為を追認するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において,その者がその期間内に確答を発しないときは,その行為を追認したものとみなす。
②制限行為能力者の相手方が,制限行為能力者が行為能力者とならない間に,その法定代理人,保佐人又は補助人に対し,その権限内の行為について前項に規定する催告をした場合において,これらの者が同項の期間内に確答を発しないときも,同項後段と同様とする。
③特別の方式を要する行為については,前2項の期間内にその方式を具備した旨の通知を発しないときは,その行為を取り消したものとみなす。
④制限行為能力者の相手方は,被保佐人又は第17条第1項の審判を受けた被補助人に対しては,第1項の期間内にその保佐人又は補助人の追認を得るべき旨の催告をすることができる。この場合において,その被保佐人又は被補助人がその期間内にその追認を得た旨の通知を発しないときは,その行為を取り消したものとみなす。
制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは,その行為を取り消すことができない。
各人の生活の本拠をその者の住所とする。
①住所が知れない場合には,居所を住所とみなす。
②日本に住所を有しない者は,その者が日本人又は外国人のいずれであるかを問わず,日本における居所をその者の住所とみなす。ただし,準拠法を定める法律に従いその者の住所地法によるべき場合は,この限りでない。
ある行為について仮住所を選定したときは,その行為に関しては,その仮住所を住所とみなす。
①従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という。)がその財産の管理人(以下この節において単に「管理人」という。)を置かなかったときは,家庭裁判所は,利害関係人又は検察官の請求により,その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。本人の不在中に管理人の権限が消滅したときも,同様とする。
②前項の規定による命令後,本人が管理人を置いたときは,家庭裁判所は,その管理人,利害関係人又は検察官の請求により,その命令を取り消さなければならない。
不在者が管理人を置いた場合において,その不在者の生死が明らかでないときは,家庭裁判所は,利害関係人又は検察官の請求により,管理人を改任することができる。
①前2条の規定により家庭裁判所が選任した管理人は,その管理すべき財産の目録を作成しなければならない。この場合において,その費用は,不在者の財産の中から支弁する。
②不在者の生死が明らかでない場合において,利害関係人又は検察官の請求があるときは,家庭裁判所は,不在者が置いた管理人にも,前項の目録の作成を命ずることができる。
③前2項に定めるもののほか,家庭裁判所は,管理人に対し,不在者の財産の保存に必要と認める処分を命ずることができる。
管理人は,第103条に規定する権限を超える行為を必要とするときは,家庭裁判所の許可を得て,その行為をすることができる。不在者の生死が明らかでない場合において,その管理人が不在者が定めた権限を超える行為を必要とするときも,同様とする。
①家庭裁判所は,管理人に財産の管理及び返還について相当の担保を立てさせることができる。
②家庭裁判所は,管理人と不在者との関係その他の事情により,不在者の財産の中から,相当な報酬を管理人に与えることができる。
①不在者の生死が7年間明らかでないときは,家庭裁判所は,利害関係人の請求により,失踪そう の宣告をすることができる。
②戦地に臨んだ者,沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が,それぞれ,戦争が止や んだ後,船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後1年間明らかでないときも,前項と同様とする。
前条第1項の規定により失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時に,同条第2項の規定により失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に,死亡したものとみなす。
①失踪者が生存すること又は前条に規定する時と異なる時に死亡したことの証明があったときは,家庭裁判所は,本人又は利害関係人の請求により,失踪の宣告を取り消さなければならない。この場合において,その取消しは,失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。
②失踪の宣告によって財産を得た者は,その取消しによって権利を失う。ただし,現に利益を受けている限度においてのみ,その財産を返還する義務を負う。
数人の者が死亡した場合において,そのうちの一人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは,これらの者は,同時に死亡したものと推定する。
①法人は,この法律その他の法律の規定によらなければ,成立しない。
②学術,技芸,慈善,祭祀し ,宗教その他の公益を目的とする法人,営利事業を営むことを目的とする法人その他の法人の設立,組織,運営及び管理については,この法律その他の法律の定めるところによる。
法人は,この法律その他の法律の規定によらなければ,成立しない。
法人は,法令の規定に従い,定款その他の基本約款で定められた目的の範囲内において,権利を有し,義務を負う。
学術,技芸,慈善,祭祀(し),宗教その他の公益に関する社団又は財団であって,営利を目的としないものは,主務官庁の許可を得て,法人とすることができる。
①外国法人は,国,国の行政区画及び外国会社を除き,その成立を認許しない。ただし,法律又は条約の規定により認許された外国法人は,この限りでない。
②前項の規定により認許された外国法人は,日本において成立する同種の法人と同一の私権を有する。ただし,外国人が享有することのできない権利及び法律又は条約中に特別の規定がある権利については,この限りでない。
社団法人又は財団法人でない者は,その名称中に社団法人若しくは財団法人という文字又はこれらと誤認されるおそれのある文字を用いてはならない。
①営利を目的とする社団は商事会社設立の条件に従って法人とすることができる。
②前項の社団法人には総て商事会社に関する規定を準用する
法人及び外国法人は,この法律その他の法令の定めるところにより,登記をするものとする。
①外国法人は,国,国の行政区画及び商事会社を除き,その成立を認許しない。ただし,法律又は条約の規定により認許された外国法人は,この限りでない。
②前項の規定により認許された外国法人は,日本において成立する同種の法人と同一の私権を有する。ただし,外国人が享有することのできない権利及び法律又は条約中に特別の規定がある権利については,この限りでない。
①外国法人(第35条第1項ただし書に規定する外国法人に限る。以下この条において同じ。)が日本に事務所を設けたときは,3週間以内に,その事務所の所在地において,次に掲げる事項を登記しなければならない。
一 外国法人の設立の準拠法
二 目的
三 名称
四 事務所の所在場所
五 存続期間を定めたときは,その定め
六 代表者の氏名及び住所
②前項各号に掲げる事項に変更を生じたときは,3週間以内に,変更の登記をしなければならない。この場合において,登記前にあっては,その変更をもって第三者に対抗することができない。
③代表者の職務の執行を停止し,若しくはその職務を代行する者を選任する仮処分命令又はその仮処分命令を変更し,若しくは取り消す決定がされたときは,その登記をしなければならない。この場合においては,前項後段の規定を準用する。
④前2項の規定により登記すべき事項が外国において生じたときは,登記の期間は,その通知が到達した日から起算する。
⑤外国法人が初めて日本に事務所を設けたときは,その事務所の所在地において登記するまでは,第三者は,その法人の成立を否認することができる。
⑥外国法人が事務所を移転したときは,旧所在地においては3週間以内に移転の登記をし,新所在地においては4週間以内に第1項各号に掲げる事項を登記しなければならない。
⑦同一の登記所の管轄区域内において事務所を移転したときは,その移転を登記すれば足りる。
⑧外国法人の代表者が,この条に規定する登記を怠ったときは,50万円以下の過料に処する。
社団法人を設立しようとする者は,定款を作成し,次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 目的
二 名称
三 事務所の所在地
四 資産に関する規定
五 理事の任免に関する規定
六 社員の資格の得喪に関する規定
①定款は,総社員の4分の3以上の同意があるときに限り,変更することができる。ただし,定款に別段の定めがあるときは,この限りでない。
②定款の変更は,主務官庁の認可を受けなければ,その効力を生じない。
財団法人を設立しようとする者は,その設立を目的とする寄附行為で,第37条第一号から第五号までに掲げる事項〔目的,名称,事務所の所在地,資産に関する規定,理事の任免に関する規定〕を定めなければならない。
財団法人を設立しようとする者が,その名称,事務所の所在地又は理事の任免の方法を定めないで死亡したときは,裁判所は,利害関係人又は検察官の請求により,これを定めなければならない。
①生前の処分で寄附行為をするときは,その性質に反しない限り,贈与に関する規定を準用する。
②遺言で寄附行為をするときは,その性質に反しない限り,遺贈に関する規定を準用する。
①生前の処分で寄附行為をしたときは,寄附財産は,法人の設立の許可があった時から法人に帰属する。
②遺言で寄附行為をしたときは,寄附財産は,遺言が効力を生じた時から法人に帰属したものとみなす。
法人は,法令の規定に従い,定款又は寄附行為で定められた目的の範囲内において,権利を有し,義務を負う。
①法人は,理事その他の代理人がその職務を行うについて他人に加えた損害を賠償する責任を負う。
②法人の目的の範囲を超える行為によって他人に損害を加えたときは,その行為に係る事項の決議に賛成した社員及び理事並びにその決議を履行した理事その他の代理人は,連帯してその損害を賠償する責任を負う。
①法人は,その設立の日から,主たる事務所の所在地においては2週間以内に,その他の事務所の所在地においては3週間以内に,登記をしなければならない。
②法人の設立は,その主たる事務所の所在地において登記をしなければ,第三者に対抗することができない。
③法人の設立後に新たに事務所を設けたときは,その事務所の所在地においては3週間以内に,登記をしなければならない。
①法人の設立の登記において登記すべき事項は,次のとおりとする。
一 目的
二 名称
三 事務所の所在地
四 設立の許可の年月日
五 存立時期を定めた時は,その時期
六 資産の総額
七 出資の方法を定めた時は,その方法
八 理事の氏名及び住所
②前項各号に掲げる事項に変更を生じたときは,主たる事務所の所在地においては2週間以内に,その他の事務所の所在地においては3週間以内に,変更の登記をしなければならない。この場合において,それぞれ登記前にあっては,その変更をもって第三者に対抗することができない。
③理事の職務の執行を停止し,若しくはその職務を代行する者を選任する仮処分又はその仮処分の変更若しくは取消しがあったときは,主たる事務所及びその他の事務所の所在地においてその登記をしなければならない。この場合においては,前項後段の規定を準用する。
第45条第1項及び前条の規定〔法人の設立の登記〕により登記すべき事項であって,官庁の許可を要するものは,その許可書が到達した時から登記の期間を起算する。
①法人が主たる事務所を移転したときは,2週間以内に,旧所在地においては移転の登記をし,新所在地においては第46条第1項各号に掲げる事項〔目的,名称,事務所の所在地,設立の許可の年月日,存立時期を定めたときはその時期,資産の総額,出資の方法を定めたときはその方法,理事の氏名及び住所〕を登記しなければならない。
②法人が主たる事務所以外の事務所を移転したときは,旧所在地においては3週間以内に移転の登記をし,新所在地においては4週間以内に第46条第1項各号に掲げる事項を登記しなければならない。
③登記所の同一管轄区域内において事務所を移転したときは,その移転を登記すれば足りる。
①第45条第3項,第46条〔法人の設立の登記〕及び前条〔事務所の移転の登記〕の規定は,外国法人が日本に事務所を設ける場合について準用する。ただし,外国において生じた事項については,その通知が到達した時から登記の期間を起算する。
②外国法人が初めて日本に事務所を設けたときは,その事務所の所在地において登記するまでは,第三者は,その法人の成立を否認することができる。
法人の住所は,その主たる事務所の所在地にあるものとする。
①法人は,設立の時及び毎年1月から3月までの間に財産目録を作成し,常にこれをその主たる事務所に備え置かなければならない。ただし,特に事業年度を設けるものは,設立の時及び毎事業年度の終了の時に財産目録を作成しなければならない。
②社団法人は,社員名簿を備え置き,社員の変更があるごとに必要な変更を加えなければならない。
①法人には,1人又は数人の理事を置かなければならない。
②理事が数人ある場合において,定款又は寄附行為に別段の定めがないときは,法人の事務は,理事の過半数で決する。
理事は,法人のすべての事務について,法人を代表する。ただし,定款の規定又は寄附行為の趣旨に反することはできず,また,社団法人にあっては総会の決議に従わなければならない。
理事の代理権に加えた制限は,善意の第三者に対抗することができない。
理事は,定款,寄附行為又は総会の決議によって禁止されていないときに限り,特定の行為の代理を他人に委任することができる。
理事が欠けた場合において,事務が遅滞することにより損害を生ずるおそれがあるときは,裁判所は,利害関係人又は検察官の請求により,仮理事を選任しなければならない。
法人と理事との利益が相反する事項については,理事は,代理権を有しない。この場合においては,裁判所は,利害関係人又は検察官の請求により,特別代理人を選任しなければならない。
法人には,定款,寄附行為又は総会の決議で,1人又は数人の監事を置くことができる。
監事の職務は,次のとおりとする。
一 法人の財産の状況を監査すること。
二 理事の業務の執行の状況を監査すること。
三 財産の状況又は業務の執行について,法令,定款若しくは寄附行為に違反し,又は著しく不当な事項があると認めるときは,総会又は主務官庁に報告をすること。
四 前号の報告をするため必要があるときは,総会を招集すること。
社団法人の理事は,少なくとも毎年1回,社員の通常総会を開かなければならない。
①社団法人の理事は,必要があると認めるときは,いつでも臨時総会を招集することができる。
②総社員の5分の1以上から会議の目的である事項を示して請求があったときは,理事は,臨時総会を招集しなければならない。ただし,総社員の5分の1の割合については,定款でこれと異なる割合を定めることができる。
総会の招集の通知は,会日より少なくとも5日前に,その会議の目的である事項を示し,定款で定めた方法に従ってしなければならない。
社団法人の事務は,定款で理事その他の役員に委任したものを除き,すべて総会の決議によって行う。
総会においては,第62条〔総会の招集〕の規定によりあらかじめ通知をした事項についてのみ,決議をすることができる。ただし,定款に別段の定めがあるときは,この限りでない。
①各社員の表決権は,平等とする。
②総会に出席しない社員は,書面で,又は代理人によって表決をすることができる。
③前2項の規定は,定款に別段の定めがある場合には,適用しない。
社団法人と特定の社員との関係について議決をする場合には,その社員は,表決権を有しない。
①法人の業務は,主務官庁の監督に属する。
②主務官庁は,法人に対し,監督上必要な命令をすることができる。
③主務官庁は,職権で,いつでも法人の業務及び財産の状況を検査することができる。
①法人は,次に掲げる事由によって解散する。
一 定款又は寄附行為で定めた解散事由の発生
二 法人の目的である事業の成功又はその成功の不能
三 破産手続開始の決定
四 設立の許可の取消し
②社団法人は,前項各号に掲げる事由のほか,次に掲げる事由によって解散する。
一 総会の決議
二 社員が欠けたこと。
社団法人は,総社員の4分の3以上の賛成がなければ,解散の決議をすることができない。ただし,定款に別段の定めがあるときは,この限りでない。
①法人がその債務につきその財産をもって完済することができなくなった場合には,裁判所は,理事若しくは債権者の申立てにより又は職権で,破産手続開始の決定をする。
②前項に規定する場合には,理事は,直ちに破産手続開始の申立てをしなければならない。
法人がその目的以外の事業をし,又は設立の許可を得た条件若しくは主務官庁の監督上の命令に違反し,その他公益を害すべき行為をした場合において,他の方法により監督の目的を達することができないときは,主務官庁は,その許可を取り消すことができる。正当な事由なく引き続き3年以上事業をしないときも,同様とする。
①解散した法人の財産は,定款又は寄附行為で指定した者に帰属する。
②定款又は寄附行為で権利の帰属すべき者を指定せず,又はその者を指定する方法を定めなかったときは,理事は,主務官庁の許可を得て,その法人の目的に類似する目的のために,その財産を処分することができる。ただし,社団法人にあっては,総会の決議を経なければならない。
③前2項の規定により処分されない財産は,国庫に帰属する。
解散した法人は,清算の目的の範囲内において,その清算の結了に至るまではなお存続するものとみなす。
法人が解散したときは,破産手続開始の決定による解散の場合を除き,理事がその清算人となる。ただし,定款若しくは寄附行為に別段の定めがあるとき,又は総会において理事以外の者を選任したときは,この限りでない。
前条の規定により清算人となる者がないとき,又は清算人が欠けたため損害を生ずるおそれがあるときは,裁判所は,利害関係人若しくは検察官の請求により又は職権で,清算人を選任することができる。
重要な事由があるときは,裁判所は,利害関係人若しくは検察官の請求により又は職権で,清算人を解任することができる。
①清算人は,破産手続開始の決定及び設立の許可の取消しの場合を除き,解散後主たる事務所の所在地においては2週間以内に,その他の事務所の所在地においては3週間以内に,その氏名及び住所並びに解散の原因及び年月日の登記をし,かつ,これらの事項を主務官庁に届け出なければならない。
②清算中に就職した清算人は,就職後主たる事務所の所在地においては2週間以内に,その他の事務所の所在地においては3週間以内に,その氏名及び住所の登記をし,かつ,これらの事項を主務官庁に届け出なければならない。
③前項の規定は,設立の許可の取消しによる解散の際に就職した清算人について準用する。
①
一 現務の結了
二 債権の取立て及び債務の弁済
三 残余財産の引渡し
②清算人は,前項各号に掲げる職務を行うために必要な一切の行為をすることができる。
①清算人は,その就職の日から2箇月以内に,少なくとも3回の公告をもって,債権者に対し,一定の期間内にその債権の申出をすべき旨の催告をしなければならない。この場合において,その期間は,2箇月を下ることができない。
②前項の公告には,債権者がその期間内に申出をしないときは,その債権は清算から除斥されるべき旨を付記しなければならない。ただし,清算人は,知れている債権者を除斥することができない。
③清算人は,知れている債権者には,各別にその申出の催告をしなければならない。
前条第1項の期間の経過後に申出をした債権者は,法人の債務が完済された後まだ権利の帰属すべき者に引き渡されていない財産に対してのみ,請求をすることができる。
①清算中に法人の財産がその債務を完済するのに足りないことが明らかになったときは,清算人は,直ちに破産手続開始の申立てをし,その旨を公告しなければならない。
②清算人は,清算中の法人が破産手続開始の決定を受けた場合において,破産管財人にその事務を引き継いだときは,その任務を終了したものとする。
③前項に規定する場合において,清算中の法人が既に債権者に支払い,又は権利の帰属すべき者に引き渡したものがあるときは,破産管財人は,これを取り戻すことができる。
①法人の解散及び清算は,裁判所の監督に属する。
②裁判所は,職権で,いつでも前項の監督に必要な検査をすることができる。
清算が結了したときは,清算人は,その旨を主務官庁に届け出なければならない。
この章に規定する主務官庁の権限は,政令で定めるところにより,その全部又は一部を国に所属する行政庁に委任することができる。
①この章に規定する主務官庁の権限に属する事務は,政令で定めるところにより,都道府県の知事その他の執行機関(以下「都道府県の執行機関」という。)においてその全部又は一部を処理することとすることができる。
②前項の場合において,主務官庁は,政令で定めるところにより,法人に対する監督上の命令又は設立の許可の取消しについて,都道府県の執行機関に対し指示をすることができる。
③第1項の場合において,主務官庁は,都道府県の執行機関がその事務を処理するに当たってよるべき基準を定めることができる。
④主務官庁が前項の基準を定めたときは,これを告示しなければならない。
①
一 この章に規定する登記を怠ったとき。
二 第51条〔財産目録及び社員名簿〕の規定に違反し,又は財産目録若しくは社員名簿に不正の記載をしたとき。
三 第67条第3項〔法人の業務及び財産の状況の検査〕又は第82条第2項〔法人の解散及び清算の監督に必要な検査〕の規定による主務官庁,その権限の委任を受けた国に所属する行政庁若しくはその権限に属する事務を処理する都道府県の執行機関又は裁判所の検査を妨げたとき。
四 第67条第2項〔法人の業務の監督上必要な命令〕の規定による主務官庁又はその権限の委任を受けた国に所属する行政庁若しくはその権限に属する事務を処理する都道府県の執行機関の監督上の命令に違反したとき。
五 官庁,主務官庁の権限に属する事務を処理する都道府県の執行機関又は総会に対し,不実の申立てをし,又は事実を隠ぺいしたとき。
六 第70条第2項〔理事による破産手続の開始の申立て〕又は第81条第1項〔清算人による破産手続の開始の申立て〕の規定による破産手続開始の申立てを怠ったとき。
七 第79条第1項〔清算人による債権の申出の催告〕又は第81条第1項〔清算人による破産手続の開始の申立て〕の公告を怠り,又は不正の公告をしたとき。
②第35条〔名称の使用制限〕の規定に違反した者は,10万円以下の過料に処する。
この法律において「物」とは,有体物をいう。
①土地及びその定着物は,不動産とする。
②不動産以外の物は,すべて動産とする。
【無体動産という概念】ここで,無体物をも物の概念に含めることにすると,フランス民法では,一般に承認されている「無体動産(meubles Incorporels)」という概念が有用となる。
【無記名債権は無体動産として位置づけることができる】この無体動産(meubles Incorporels)という概念には,後に出てくる「有価証券(negotiable paper)」とか,債権法改正のあおりを食って削除された,本条3項の「無記名債権」とか,民法から弾き飛ばられたが,現在では民法でも扱うべき有用な概念である「無体財産権」(例えば,その一つとしての「著作物」という物概念)とかが含まれることになる。したがって,無体物という概念を民法に導入する場合には,無記名債権は,無記名証券の個所ではなく,元通り動産の個所で規定し,現金(国が発行する無記名証券とは言わない)と同様の位置づけが可能となる。
③無記名債権は,動産とみなす。
①物の所有者が,その物の常用に供するため,自己の所有に属する他の物をこれに附属させたときは,その附属させた物を従物とする。
②従物は,主物の処分に従う。
①物の用法に従い収取する産出物を天然果実とする。
②物の使用の対価として受けるべき金銭その他の物を法定果実とする。
①天然果実は,その元物から分離する時に,これを収取する権利を有する者に帰属する。
②法定果実は,これを収取する権利の存続期間に応じて,日割計算によりこれを取得する。
公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は,無効とする。
公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は,無効とする。
民法90条の旧条文に規定されていた「事項を目的とする」という文言を削除した理由は,「公序良俗に反するかどうかの判断にあたっては,その法律行為の内容にのみ着目するのではなく,法律行為が行われた過程その他の諸事情を考慮している点を反映したものである」(部会資料73A・24 頁)とされている。
しかし,法律行為の内容・目的が適法であれば,後は,意思の不存在(相対無効),瑕疵ある意思表示(取消し)の問題として解決されるべきである。絶対無効という圧倒的な効果を生じる民法90条の要件において,法律行為の内容・目的以外の事情を考慮して結果を判断するのは極めて危険であって,あえて考慮すべきではない。したがって,旧条文を改正する必要はなかったと思われる。
法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは,その意思に従う。
この規定は,債権法改正によって従来の民法521条(承諾の期間の定めのある申込み)が,新民法521条(契約の締結及び内容の自由)として登場するまでは,実質的な「契約自由」の規定として重要な意味を有していた。現在でも,私的自治を認める規定として依然として重要な意義を有している。
この条文の起源は,旧民法財産編第327条第1項(適法に為したる合意は当事者の間に於て法律に同じき効力を有す)を通じて,フランス民法典1103条(改正前1134条1項)の「適法に成立した契約は,その契約を成立させた当事者間で法律に代わる(Les contrats légalement formés tiennent de la loi à ceux qui les ont faits.)」に遡る。
もっとも,この条文(民法91条(任意規定と異なる意思表示))は,経済的な強者によって悪用される危険性をはらんでいる。その典型例が,不当契約条項(事業者に有利な約款)の濫用によって,民法の合理的な任意規定を機能不全に陥らせ,消費者全体に莫大な損害を生じさせるというものであった。このような弊害を改めるために生まれたのが,2000年に成立した消費者契約法第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)であり, 2017年の債権法改正によって規定された民法548条の2第2項(相手方の利益を一方的に害する定型約款の無効)もその流れの中にあるといえよう。
法令中の公の秩序に関しない規定と異なる慣習がある場合において,法律行為の当事者がその慣習による意思を有しているものと認められるときは,その慣習に従う。
①意思表示は,表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても,そのためにその効力を妨げられない。ただし,相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り,又は知ることができたときは,その意思表示は,無効とする。
【意義1:意思の不存在(意思の欠缺)の具体例】民法93条は,内心の意思と表示とが食い違うという「意思の不存在」の最初の例を示す条文である。もっとも,この条文が意思と表示が食い違う場合の例(冗談による意思表示などの例)であるというのであれば,そこには,意思は存在するのであるから,「意思の不存在」という用語法に違和感を覚えるかもしれない。確かに,この場合も当事者の一方である表意者の意思は存在するのであるが,相手方の立場に立って,相手方が受け取る「表示」を基準にすると,その「表示に該当する意思は存在しない」ということになる。その意味で心裡留保に基づく意思表示は,「意思の不存在」ということになるのである。したがって,反対に「意思」を基準にして考えると,意思に反した意思表示がなされているのであるから,不実表示(misrepresentation)とか,次の条文に出てくる「虚偽表示」という用語法も成り立つことが理解できるであろう。
【効果1:原則としての無効】内心の意思と表示された意思とが食い違っているのが「意思の不存在」である。意思が存在しない以上,その意思表示の法律効果は,原則として無効である。民法93条の条文では,本文とただし書の条文の順序が,原則と例外というまっとうな書き方とは逆に,例外と原則という順序で書かれているが,文章の記述の順序に惑わされてはならない。意思の不存在の具体例としての心裡留保の法律効果の原則は,あくまで無効である。ただし,意思の不存在による意思表示の無効の原則にも,例外が存在する。それが,民法93条の本文に書かれている場合である。この場合には,意思表示は無効であるはずであるにもかかわらず,表意者本人の帰責性の大きさと外観を信頼した相手方の保護の必要性を考慮して,表意者は無効を主張できないことが規定されている。
【効果2:例外としての無効を主張できない場合】民法93条は,先に述べたように,意思の不存在の場合の法律効果が無効であることをそのただし書で明らかにしている(民法93条ただし書)。しかし,民法93条は,同時に,意思の不存在の場合の意思表示は,原則として無効であるにもかかわらず,表意者がその無効を主張できないという例外をも規定している(民法93条本文)。なぜ,表意者は,原則無効のはずの意思表示の無効を主張できなくなるのであろうか。それを明らかにするのが,「権利外観法理(Rechtsscheintheorie)」であり,民法93条は,「意思の不存在」に関する最初の条文であるばかりでなく,「権利外観法理」を明らかにする最初の条文でもある。
【効果3:権利外観法理による無効の対抗不能】「権利外観法理」とは,真実に反する外観(例えば,意思表示が真意による意思表示であるような外観を呈しているとか,代理人として行動しいる者が権限を有する代理人であるかのような外観を有しているとか,集金に来た者が真正な弁済受領権者であるかのような外観を呈しているなどの状態)が存在する場合に,過失(帰責事由)によってその外観を作出した者(本人)は,そのような外観を善意・無過失で信頼して行動した第三者(相手方)に対して責任(履行を含む広義の不法行為責任,厳密には,外観を利用した無権代理などと共同不法行為者としての連帯責任)を負うという理論である。民法93条にこの法理を当てはめてみよう。まず,表意者は,冗談などのように,わざとで,内心の意思と食い違う表示(心裡留保による意思表)をしている。そして,相手方は,表意者本人の真意を知らずに,その意思表示が真実の意思表示と信頼して行動している(民法93条ただし書の反対解釈)。もしも,相手方が悪意である場合とか,たとえ,善意であっても外観を信じるについて過失があるときは,93条ただし書によって意思表示は無効となって保護されない。したがって,民法93条は,ただし書と本文とが一体となって,まさに,権利外観法理がそのまま適用されている条文であることを理解することができる。
②前項ただし書の規定による意思表示の無効は,善意の第三者に対抗することができない。
【意義】心裡留保(意思の不存在)による無効は,善意・無過失の相手方に対抗できない。それでは,相手方当事者の関係ではなく,第三者との関係では心裡留保(意思の不存在)による無効は,どのような効果を生じるのか?これが,新設された民法93条2項が解決すべき問題である。新設条文(93条2項)は,心裡留保の無効は,「善意」の第三者に対抗できないとしている。その理由は,この場合は,民法94条2項が準用できるからだとしている。
【矛盾点】民法93条2項が採用した民法94条2項の準用という考え方は,民法93条1項の考え方と矛盾している。なぜなら,民法93条1項は,無効が対抗できなくなる要件として,相手方の善意だけでなく,相手方の善意・無過失を要求しているからである。そもそも,民法93条1項が意思の不存在が相手方に対抗できないとした理由は,権利外観法理を援用したからである。そうだとすれば,無効が対抗できなくなる理由は,善意・無過失で外観を信頼した者を保護するためである。単に善意であるだけで保護するという法理は,意思表示理論においては存在しない。後に述べるように,民法94条2項が「善意」の第三者を保護しているのは,通謀した当事者の帰責性の大きさがあまりに大きいために,善意の第三者は,相対的に「無過失」と推定されるからである。したがって,判例も,第三者の無過失が推定されない場面(いわゆる「意思外形非対応型」の場面)では,民法94条の適用に当たっても,第三者の善意・無過失を要求している(「意思外形非対応型の虚偽表示について,第三者の保護要件として,「善意」だけでは足りず,「善意・無過失」が必要と判断した一連の判決として,最一判昭・45・11・19民集24巻12号1916頁,最三判昭・47・11・28民集26巻9号1716頁,最一判平・18・2・23民集24巻12号1916頁参照)。
甲が,乙からその所有不動産を買い受けたものであるにもかかわらず,乙に対する貸金を被担保債権とする抵当権と,右貸金を弁済期に弁済しないことを停止条件とする代物弁済契約上の権利とを有するものとして,抵当権設定登記および所有権移転請求権保全の仮登記を経由した場合において,丙が乙から右不動産を買い受けて所有権取得登記を経由したときは,丙が善意無過失であるかぎり,甲は,丙に対し,自己の経由した登記が実体上の権利関係と相違し,自己が仮登記を経由した所有権者であると主張することはできないと解すべきである。
民法94条2項,民法369条,民法482条,不動産登記法2条2号
甲が、乙と相通じ、仮装の所有権移転請求権保全の仮登記手続をする意思で、乙の提示した所有権移転登記手続に必要な書類に、これを仮登記手続に必要な書類と誤解して署名押印したところ、乙がほしいままに右書類を用いて所有権移転登記手続をしたときは、甲は、乙の所有権取得の無効をもつて善意・無過失の第三者に対抗することができない。
民法94条2項,民法110条
不動産の所有者であるXから当該不動産の賃貸に係る事務や他の土地の所有権移転登記手続を任せられていた甲が,Xから交付を受けた当該不動産の登記済証,印鑑登録証明書等を利用して当該不動産につき甲への不実の所有権移転登記を了した場合において,Xが,合理的な理由なく上記登記済証を数か月間にわたって甲に預けたままにし,甲の言うままに上記印鑑登録証明書を交付した上,甲がXの面前で登記申請書にXの実印を押捺したのにその内容を確認したり使途を問いただしたりすることなく漫然とこれを見ていたなど判示の事情の下では,Xには,不実の所有権移転登記がされたことについて自らこれに積極的に関与した場合やこれを知りながらあえて放置した場合と同視し得るほど重い帰責性があり,Xは,民法94条2項,110条の類推適用により,甲から当該不動産を買い受けた善意無過失のYに対し,甲が当該不動産の所有権を取得していないことを主張することができない。
民法94条2項,民法110条
【改正理由】第1に,民法93条1項本文が,心裡留保(意思の不存在)の場合に無効が相手方に対抗できなくなる場合について,相手方の善意無過失が要求されていること(民法93条1項ただし書の反対解釈),第2に,民法94条2項の解釈においても,虚偽表示が通謀によって生じているのではなく,一方の当事者の虚偽表示に他方の当事者が巻き込まれたことによって生じ,虚偽表示の意思と外形とが乖離している場合には,判例も第三者保護要件として善意だけでなく,善意・無過失を要求していること,第3に,善意・悪意は,内心の意思であって,訴訟上の証明が困難であるのに対して,過失・無過失は,なすべき行為をしているか,怠っているかというように,行為規範であるため証明が比較的容易であり,善意を証明主題とするよりも,善意・無過失を証明することの方が,事実認定を透明化することに寄与することになる。以上の3点の理由に基づいて,改正民法93条2項は,以下のように再改正すべきである。
【改正提案(その1)第三者に善意・無過失の証明を負担させるもの】②前項ただし書の規定による意思表示の無効は,善意かつ無過失の第三者に対抗することができない。
【改正提案(その2)表意者に証明責任を負わせるもの】②前項ただし書の規定による無効は,第三者がその意思表示が表意者の真意でないことを知り,又は知ることができたときに限り,表意者がその第三者に対して主張することができる
意思表示は,表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても,そのためにその効力を妨げられない。ただし,相手方が表意者の真意を知り,又は知ることができたときは,その意思表示は,無効とする。
①相手方と通じてした虚偽の意思表示は,無効とする。
【虚偽表示の表面的な理解を超えた,深い理解の必要性】虚偽表示が無効という意味は,当事者の真意と表示が食い違っている場合に,当事者間では,真意を有効とし,それに反する虚偽の表示を無効とするという意味である。通常の場合は,当事者の真意は,虚偽の表示とは反対のところにあるため,虚偽の表示を無効として,真意(虚偽表示は無効とする合意)を有効とすることになる。つまり,真意と異なる「虚偽の表示は無効である」との合意があるから,虚偽表示が無効になるのであって,虚偽表示が常に無効となるわけではない。例えば,わが国では,動産抵当が法律上は認められていないため,当事者同士で,債務者が動産を売買したことにして代金(真意は借金)取得し,売却した動産を債務者が債権者から賃借して利用しながら,賃料(真意は利子)を支払い,動産の利用によってもうけが出たたら買い戻す(真意は,借金の弁済による動産抵当の消滅)という契約(譲渡担保:売買,賃貸,買戻し)は,当事者の真意(借金に伴う動産抵当の設定,利子の支払い,元本の弁済)から判断すれば,明らかに虚偽表示であるが,裁判所も,すべての学説も,真意(動産抵当)を優先して,譲渡担保契約を有効としている。
②前項の規定による意思表示の無効は,善意の第三者に対抗することができない。
①意思表示は,次に掲げる錯誤に基づくものであって,その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは,取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
②前項第2号の規定による意思表示の取消しは,その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り,することができる。
③錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には,次に掲げる場合を除き,第1項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り,又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
意思表示は,法律行為の要素に錯誤があったときは,無効とする。ただし,表意者に重大な過失があったときは,表意者は,自らその無効を主張することができない。
①詐欺又は強迫による意思表示は,取り消すことができる。
②相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては,相手方がその事実を知り,又は知ることができたときに限り,その意思表示を取り消すことができる。
③前2項の規定による詐欺による意思表示の取消しは,善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
①詐欺又は強迫による意思表示は,取り消すことができる。
②相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては,相手方がその事実を知っていたときに限り,その意思表示を取り消すことができる。
③前2項の規定による詐欺による意思表示の取消しは,善意の第三者に対抗することができない。
①意思表示は,その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。
②相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは,その通知は,通常到達すべきであった時に到達したものとみなす。
③意思表示は,表意者が通知を発した後に死亡し,意思能力を喪失し,又は行為能力の制限を受けたときであっても,そのためにその効力を妨げられない。
①隔地者に対する意思表示は,その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。
②隔地者に対する意思表示は,表意者が通知を発した後に死亡し,又は行為能力を喪失したときであっても,そのためにその効力を妨げられない。
①意思表示は,表意者が相手方を知ることができず,又はその所在を知ることができないときは,公示の方法によってすることができる。
②前項の公示は,公示送達に関する民事訴訟法(平成8年法律第109号)の規定に従い,裁判所の掲示場に掲示し,かつ,その掲示があったことを官報に少なくとも1回掲載して行う。ただし,裁判所は,相当と認めるときは,官報への掲載に代えて,市役所,区役所,町村役場又はこれらに準ずる施設の掲示場に掲示すべきことを命ずることができる。
③公示による意思表示は,最後に官報に掲載した日又はその掲載に代わる掲示を始めた日から2週間を経過した時に,相手方に到達したものとみなす。ただし,表意者が相手方を知らないこと又はその所在を知らないことについて過失があったときは,到達の効力を生じない。
④公示に関する手続は,相手方を知ることができない場合には表意者の住所地の,相手方の所在を知ることができない場合には相手方の最後の住所地の簡易裁判所の管轄に属する。
⑤公示に関する手続は,相手方を知ることができない場合には表意者の住所地の,相手方の所在を知ることができない場合には相手方の最後の住所地の簡易裁判所の管轄に属する。
意思表示の相手方がその意思表示を受けた時に意思能力を有しなかったとき又は未成年者若しくは成年被後見人であったときは,その意思表示をもってその相手方に対抗することができない。ただし,次に掲げる者がその意思表示を知った後は,この限りでない。
一 相手方の法定代理人
二 意思能力を回復し,又は行為能力者となった相手方
意思表示の相手方がその意思表示を受けた時に未成年者又は成年被後見人であったときは,その意思表示をもってその相手方に対抗することができない。ただし,その法定代理人がその意思表示を知った後は,この限りでない。
①代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は,本人に対して直接にその効力を生ずる。
②前項の規定は,第三者が代理人に対してした意思表示について準用する。
代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示は,自己のためにしたものとみなす。ただし,相手方が,代理人が本人のためにすることを知り,又は知ることができたときは,前条第1項の規定を準用する。
①代理人が相手方に対してした意思表示の効力が意思の不存在,錯誤,詐欺,強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には,その事実の有無は,代理人について決するものとする。
②相手方が代理人に対してした意思表示の効力が意思表示を受けた者がある事情を知っていたこと又は知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には,その事実の有無は,代理人について決するものとする。
③特定の法律行為をすることを委託された代理人がその行為をしたときは,本人は,自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができない。本人が過失によって知らなかった事情についても,同様とする。
①意思表示の効力が意思の不存在,詐欺,強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には,その事実の有無は,代理人について決するものとする。
②特定の法律行為をすることを委託された場合において,代理人が本人の指図に従ってその行為をしたときは,本人は,自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができない。本人が過失によって知らなかった事情についても,同様とする。
制限行為能力者が代理人としてした行為は,行為能力の制限によっては取り消すことができない。ただし,制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為については,この限りでない。
代理人は,行為能力者であることを要しない。
権限の定めのない代理人は,次に掲げる行為のみをする権限を有する。
一 保存行為
二 代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において,その利用又は改良を目的とする行為
委任による代理人は,本人の許諾を得たとき,又はやむを得ない事由があるときでなければ,復代理人を選任することができない。
法定代理人は,自己の責任で復代理人を選任することができる。この場合において,やむを得ない事由があるときは,本人に対してその選任及び監督についての責任のみを負う。
【新105条は,旧106条と内容は同じ】新105条は,旧106条の内容と同じであり,旧106条を1条繰り上げただけである。なぜ,このような繰上げが行われたのか?その理由は,最高裁によって確立した「代理権の濫用」の規定を新107条として挿入したいがために,旧105条を実質的に削除し,条文番号に空きを作りたかっただけである。
【新105条,106条の改正理由と驚くべき無駄と有害性】最高裁によって確立した法理としての「代理権の濫用」の規定を挿入したければ,新107条の2(代理権の濫用)として規定すればそれで済むことである(章や節の途中での枝番号の創設を嫌う法務官僚のゆがめられた美意識には辟易せざるを得ない)。つまり,解釈上は今なお必要な条文である105条(復代理人を選任した代理人の責任)を実質的に削除して,旧106条を新105条へ,旧107条を新106条へと繰り上げ操作をする必要なかったのである。このように考えると,民法105条~107条に関する改正は,有害かつ無駄な改正と言わざるを得ない。
①代理人は,前条の規定により復代理人を選任したときは,その選任及び監督について,本人に対してその責任を負う。
②代理人は,本人の指名に従って復代理人を選任したときは,前項の責任を負わない。ただし,その代理人が,復代理人が不適任又は不誠実であることを知りながら,その旨を本人に通知し又は復代理人を解任することを怠ったときは,この限りでない。
【旧105条の規定は今なお有用な規定でであり削除の必要性は存在しない】任意復代理人に関する旧105条は,新104条に吸収されたことになっているが,実は,新104条の規定は,旧104条の規定と同じなので,実質的には,旧105条は削除されたのと同様である。それにもかかわらず,削除された旧105条は,新104条補完する解釈規定として,今後も生き残ることになると思われる。その意味では,旧105条は,今なお重要な役割を果たしており,削除する必要はなかったのである。なぜなら,新107条(代理権の濫用)は,新107条の2(代理権の濫用)とすれば,それと連動する民法105条,106条,107条の一連の改正は,全く必要がなかったからである。
①復代理人は,その権限内の行為について,本人を代表する。
②復代理人は,本人及び第三者に対して,その権限の範囲内において,代理人と同一の権利を有し,義務を負う。
法定代理人は,自己の責任で復代理人を選任することができる。この場合において,やむを得ない事由があるときは,前条第1項〔選任及び監督〕の責任のみを負う。
旧106条は,上記の新105条の内容と同じである。旧105条が,先に述べたように,理由もなく(解釈論としては必要),実質的に削除されたため,旧106条が,新105条に繰り上げられただけのことであり,条文の内容は,全く変更されていない。
このような改正は,新107条に「代理権の濫用」という規定を枝番号ではなく,通常の条文として規定したいという,法務官僚のゆがめられた美意識(章や節の中間での枝番号を嫌うという意味不明の美意識)による改悪であり,全く無意味である。
①復代理人は,その権限内の行為について,本人を代表する。
②復代理人は,本人及び第三者に対して,代理人と同一の権利を有し,義務を負う。
代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において,相手方がその目的を知り,又は知ることができたときは,その行為は,代理権を有しない者がした行為とみなす。
①復代理人は,その権限内の行為について,本人を代表する。
②復代理人は,本人及び第三者に対して,代理人と同一の権利を有し,義務を負う。
【旧107条が新106条へと繰り下げられた理由】旧105条(復代理人を選任した代理人の責任)は,改正法では,削除され,旧106条は,新105条へ,旧107条は新106条へと条文が繰り上げられ,空きとなった新107条に「代理権の濫用」の規定が創設されたのであるが,新107条を107条の2(代理権の濫用)とすれば,旧105条を削除する必要はなかった。民法105条を削除したため,復委任に関する規定が新設せざるを得なくなって,644条の2(復受任者の選任等)の規定が創設されるのであるが,旧106条の規定をすべてカバーすることはできておらず,依然として,旧106条は,復代理の選任における代理人の責任を判断する上で,重要な意義を有している。
【旧105条を削除した立法理由は破綻している】改正民法の立法者は,旧106条は,削除しても,債務不履行の一般規定で判断できるとしている(部会資料66A・17頁)。しかし,債務不履行の一般規定が委任契約,および,代理権授与契約に直接適用されるというのであれば,新104条~106条と重複する新644条の2(復委任選任等)を新設する必要もなかったのであるし,ひいては,代理権授与契約の無因性を緩和して,債務不履行の一般規定の適用に委ねることを規定する新107条自体の創設も,その必要がなかったはずであり,旧105条を削除する理由にはなっていない。
①同一の法律行為について,相手方の代理人として,又は当事者双方の代理人としてした行為は,代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし,債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については,この限りでない。
②前項本文に規定するもののほか,代理人と本人との利益が相反する行為については,代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし,本人があらかじめ許諾した行為については,この限りでない。
同一の法律行為については,相手方の代理人となり,又は当事者双方の代理人となることはできない。ただし,債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については,この限りでない。
①第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は,その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について,その責任を負う。ただし,第三者が,その他人が代理権を与えられていないことを知り,又は過失によって知らなかったときは,この限りでない。
②第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は,その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において,その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは,第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り,その行為についての責任を負う。
第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は,その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について,その責任を負う。ただし,第三者が,その他人が代理権を与えられていないことを知り,又は過失によって知らなかったときは,この限りでない。
前条第1項本文の規定は,代理人がその権限外の行為をした場合において,第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。
前条〔代理権授与の表示による表見代理〕本文の規定は,代理人がその権限外の行為をした場合において,第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。
①代理権は,次に掲げる事由によって消滅する。
一 本人の死亡
二 代理人の死亡又は代理人が破産手続開始の決定若しくは後見開始の審判を受けたこと。
②委任による代理権は,前項各号に掲げる事由のほか,委任の終了によって消滅する。
①他人に代理権を与えた者は,代理権の消滅後にその代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について,代理権の消滅の事実を知らなかった第三者に対してその責任を負う。ただし,第三者が過失によってその事実を知らなかったときは,この限りでない。
②他人に代理権を与えた者は,代理権の消滅後に,その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において,その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは,第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り,その行為についての責任を負う。
代理権の消滅は,善意の第三者に対抗することができない。ただし,第三者が過失によってその事実を知らなかったときは,この限りでない。
①代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は,本人がその追認をしなければ,本人に対してその効力を生じない。
②追認又はその拒絶は,相手方に対してしなければ,その相手方に対抗することができない。ただし,相手方がその事実を知ったときは,この限りでない。
前条の場合において,相手方は,本人に対し,相当の期間を定めて,その期間内に追認をするかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において,本人がその期間内に確答をしないときは,追認を拒絶したものとみなす。
代理権を有しない者がした契約は,本人が追認をしない間は,相手方が取り消すことができる。ただし,契約の時において代理権を有しないことを相手方が知っていたときは,この限りでない。
追認は,別段の意思表示がないときは,契約の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし,第三者の権利を害することはできない。
①
②
一 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき。
二 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし,他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは,この限りでない。
三 他人の代理人として契約をした者が行為能力の制限を受けていたとき。
①他人の代理人として契約をした者は,自己の代理権を証明することができず,かつ,本人の追認を得ることができなかったときは,相手方の選択に従い,相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
②前項の規定は,他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき,若しくは過失によって知らなかったとき,又は他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかったときは,適用しない。
単独行為については,その行為の時において,相手方が,代理人と称する者が代理権を有しないで行為をすることに同意し,又はその代理権を争わなかったときに限り,第113条から前条までの規定を準用する。代理権を有しない者に対しその同意を得て単独行為をしたときも,同様とする。
無効な行為は,追認によっても,その効力を生じない。ただし,当事者がその行為の無効であることを知って追認をしたときは,新たな行為をしたものとみなす。
①行為能力の制限によって取り消すことができる行為は,制限行為能力者(他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為にあっては,当該他の制限行為能力者を含む。)又はその代理人,承継人若しくは同意をすることができる者に限り,取り消すことができる。
②錯誤,詐欺又は強迫によって取り消すことができる行為は,瑕疵(かし)ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り,取り消すことができる。
①行為能力の制限によって取り消すことができる行為は,制限行為能力者又はその代理人,承継人若しくは同意をすることができる者に限り,取り消すことができる。
②詐欺又は強迫によって取り消すことができる行為は,瑕疵(かし)ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り,取り消すことができる。
取り消された行為は,初めから無効であったものとみなす。
取り消された行為は,初めから無効であったものとみなす。ただし,制限行為能力者は,その行為によって現に利益を受けている限度において,返還の義務を負う。
①無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は,相手方を原状に復させる義務を負う。
②前項の規定にかかわらず,無効な無償行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は,給付を受けた当時その行為が無効であること(給付を受けた後に前条の規定により初めから無効であったものとみなされた行為にあっては,給付を受けた当時その行為が取り消すことができるものであること)を知らなかったときは,その行為によって現に利益を受けている限度において,返還の義務を負う。
③第1項の規定にかかわらず,行為の時に意思能力を有しなかった者は,その行為によって現に利益を受けている限度において,返還の義務を負う。行為の時に制限行為能力者であった者についても,同様とする。
取り消すことができる行為は,第120条に規定する者が追認したときは,以後,取り消すことができない。
取り消すことができる行為は,第120条〔取消権者〕に規定する者が追認したときは,以後,取り消すことができない。ただし,追認によって第三者の権利を害することはできない。
取り消すことができる行為の相手方が確定している場合には,その取消し又は追認は,相手方に対する意思表示によってする。
①取り消すことができる行為の追認は,取消しの原因となっていた状況が消滅し,かつ,取消権を有することを知った後にしなければ,その効力を生じない。
②次に掲げる場合には,前項の追認は,取消しの原因となっていた状況が消滅した後にすることを要しない。
一 法定代理人又は制限行為能力者の保佐人若しくは補助人が追認をするとき。
二 制限行為能力者(成年被後見人を除く。)が法定代理人,保佐人又は補助人の同意を得て追認をするとき。
①追認は,取消しの原因となっていた状況が消滅した後にしなければ,その効力を生じない。
②成年被後見人は,行為能力者となった後にその行為を了知したときは,その了知をした後でなければ,追認をすることができない。
③前2項の規定は,法定代理人又は制限行為能力者の保佐人若しくは補助人が追認をする場合には,適用しない。
追認をすることができる時以後に,取り消すことができる行為について次に掲げる事実があったときは,追認をしたものとみなす。ただし,異議をとどめたときは,この限りでない。
一 全部又は一部の履行
二 履行の請求
三 更改
四 担保の供与
五 取り消すことができる行為によって取得した権利の全部又は一部の譲渡
六 強制執行
取消権は,追認をすることができる時から5年間行使しないときは,時効によって消滅する。行為の時から20年を経過したときも,同様とする。
①停止条件付法律行為は,停止条件が成就した時からその効力を生ずる。
②解除条件付法律行為は,解除条件が成就した時からその効力を失う。
③当事者が条件が成就した場合の効果をその成就した時以前にさかのぼらせる意思を表示したときは,その意思に従う。
条件付法律行為の各当事者は,条件の成否が未定である間は,条件が成就した場合にその法律行為から生ずべき相手方の利益を害することができない。
条件の成否が未定である間における当事者の権利義務は,一般の規定に従い,処分し,相続し,若しくは保存し,又はそのために担保を供することができる。
①条件が成就することによって不利益を受ける当事者が故意にその条件の成就を妨げたときは,相手方は,その条件が成就したものとみなすことができる。
②条件が成就することによって利益を受ける当事者が不正にその条件を成就させたときは,相手方は,その条件が成就しなかったものとみなすことができる。
条件が成就することによって不利益を受ける当事者が故意にその条件の成就を妨げたときは,相手方は,その条件が成就したものとみなすことができる。
①条件が法律行為の時に既に成就していた場合において,その条件が停止条件であるときはその法律行為は無条件とし,その条件が解除条件であるときはその法律行為は無効とする。
②条件が成就しないことが法律行為の時に既に確定していた場合において,その条件が停止条件であるときはその法律行為は無効とし,その条件が解除条件であるときはその法律行為は無条件とする。
③前2項に規定する場合において,当事者が条件が成就したこと又は成就しなかったことを知らない間は,第128条〔条件の成否未定の間における相手方の利益の侵害の禁止〕及び第129条〔条件の成否未定の間における権利の処分等〕の規定を準用する。
不法な条件を付した法律行為は,無効とする。不法な行為をしないことを条件とするものも,同様とする。
①不能の停止条件を付した法律行為は,無効とする。
②不能の解除条件を付した法律行為は,無条件とする。
停止条件付法律行為は,その条件が単に債務者の意思のみに係るときは,無効とする。
①法律行為に始期を付したときは,その法律行為の履行は,期限が到来するまで,これを請求することができない。
②法律行為に終期を付したときは,その法律行為の効力は,期限が到来した時に消滅する。
①期限は,債務者の利益のために定めたものと推定する。
②期限の利益は,放棄することができる。ただし,これによって相手方の利益を害することはできない。
次に掲げる場合には,債務者は,期限の利益を主張することができない。
一 債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。
二 債務者が担保を滅失させ,損傷させ,又は減少させたとき。
三 債務者が担保を供する義務を負う場合において,これを供しないとき。
期間の計算方法は,法令若しくは裁判上の命令に特別の定めがある場合又は法律行為に別段の定めがある場合を除き,この章の規定に従う。
時間によって期間を定めたときは,その期間は,即時から起算する。
日,週,月又は年によって期間を定めたときは,期間の初日は,算入しない。ただし,その期間が午前零時から始まるときは,この限りでない。
前条の場合には,期間は,その末日の終了をもって満了する。
期間の末日が日曜日,国民の祝日に関する法律(昭和23年法律第178号)に規定する休日その他の休日に当たるときは,その日に取引をしない慣習がある場合に限り,期間は,その翌日に満了する。
①週,月又は年によって期間を定めたときは,その期間は,暦に従って計算する。
②週,月又は年の初めから期間を起算しないときは,その期間は,最後の週,月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。ただし,月又は年によって期間を定めた場合において,最後の月に応当する日がないときは,その月の末日に満了する。
時効の効力は,その起算日にさかのぼる。
時効は,当事者(消滅時効にあっては,保証人,物上保証人,第3取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ,裁判所がこれによって裁判をすることができない。
時効は,当事者が援用しなければ,裁判所がこれによって裁判をすることができない。
時効の利益は,あらかじめ放棄することができない。
①
一 裁判上の請求
二 支払督促
三 民事訴訟法第275条第1項の和解又は民事調停法(昭和26年法律第222号)若しくは家事事件手続法(平成23年法律第52号)による調停
四 破産手続参加,再生手続参加又は更生手続参加
②前項の場合において,確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは,時効は,同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。
時効は,次に掲げる事由によって中断する。
一 請求
二 差押え,仮差押え又は仮処分
三 承認
①次に掲げる事由がある場合には,その事由が終了する(申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合にあっては,その終了の時から6箇月を経過する)までの間は,時効は,完成しない。
一 強制執行
二 担保権の実行
三 民事執行法(昭和54年法律第4号)第195条に規定する担保権の実行としての競売の例による競売
四 民事執行法第196条に規定する財産開示手続
②前項の場合には,時効は,同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。ただし,申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合は,この限りでない。
次に掲げる事由がある場合には,その事由が終了した時から6箇月を経過するまでの間は,時効は,完成しない。
一 仮差押え
二 仮処分
①催告があったときは,その時から6箇月を経過するまでの間は,時効は,完成しない。
②催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は,前項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。
①権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは,次に掲げる時のいずれか早い時までの間は,時効は,完成しない。
一 その合意があった時から1年を経過した時
二 その合意において当事者が協議を行う期間(1年に満たないものに限る。)を定めたときは,その期間を経過した時
三 当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは,その通知の時から6箇月を経過した時
②前項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた再度の同項の合意は,同項の規定による時効の完成猶予の効力を有する。ただし,その効力は,時効の完成が猶予されなかったとすれば時効が完成すべき時から通じて5年を超えることができない。
③催告によって時効の完成が猶予されている間にされた第1項の合意は,同項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。同項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた催告についても,同様とする。
④第1項の合意がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって,電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)によってされたときは,その合意は,書面によってされたものとみなして,前3項の規定を適用する。
⑤前項の規定は,第1項第3号の通知について準用する。
①時効は,権利の承認があったときは,その時から新たにその進行を始める。
②前項の承認をするには,相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しない。
①第147条〔裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新〕又は第148条〔強制執行等による時効の完成猶予及び更新〕の規定による時効の完成猶予又は更新は,完成猶予又は更新の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ,その効力を有する。
②第149条〔仮差押え等による時効の完成猶予〕から第151条〔協議を行う旨の合意による時効の完成猶予〕までの規定による時効の完成猶予は,完成猶予の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ,その効力を有する。
③前条の規定による時効の更新は,更新の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ,その効力を有する。
第148条〔強制執行等による時効の完成猶予及び更新〕第1項各号又は第149条〔仮差押え等による時効の完成猶予〕各号に掲げる事由に係る手続は,時効の利益を受ける者に対してしないときは,その者に通知をした後でなければ,第148条又は第149条の規定による時効の完成猶予又は更新の効力を生じない。
差押え,仮差押え及び仮処分は,時効の利益を受ける者に対してしないときは,その者に通知をした後でなければ,時効の中断の効力を生じない。
時効の中断の効力を生ずべき承認をするには,相手方の権利についての処分につき行為能力又は権限があることを要しない。
①中断した時効は,その中断の事由が終了した時から,新たにその進行を始める。
②裁判上の請求によって中断した時効は,裁判が確定した時から,新たにその進行を始める。
①時効の期間の満了前6箇月以内の間に未成年者又は成年被後見人に法定代理人がないときは,その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から6箇月を経過するまでの間は,その未成年者又は成年被後見人に対して,時効は,完成しない。
②未成年者又は成年被後見人がその財産を管理する父,母又は後見人に対して権利を有するときは,その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は後任の法定代理人が就職した時から6箇月を経過するまでの間は,その権利について,時効は,完成しない。
夫婦の一方が他の一方に対して有する権利については,婚姻の解消の時から6箇月を経過するまでの間は,時効は,完成しない。
相続財産に関しては,相続人が確定した時,管理人が選任された時又は破産手続開始の決定があった時から6箇月を経過するまでの間は,時効は,完成しない。
時効の期間の満了の時に当たり,天災その他避けることのできない事変のため第147条第1項各号又は第148条第1項各号に掲げる事由に係る手続を行うことができないときは,その障害が消滅した時から3箇月を経過するまでの間は,時効は,完成しない。
時効の期間の満了の時に当たり,天災その他避けることのできない事変のため時効を中断することができないときは,その障害が消滅した時から2週間を経過するまでの間は,時効は,完成しない。
①20年間,所有の意思をもって,平穏に,かつ,公然と他人の物を占有した者は,その所有権を取得する。
②10年間,所有の意思をもって,平穏に,かつ,公然と他人の物を占有した者は,その占有の開始の時に,善意であり,かつ,過失がなかったときは,その所有権を取得する。
所有権以外の財産権を,自己のためにする意思をもって,平穏に,かつ,公然と行使する者は,前条の区別に従い20年又は10年を経過した後,その権利を取得する。
第162条〔所有権の取得時効〕の規定による時効は,占有者が任意にその占有を中止し,又は他人によってその占有を奪われたときは,中断する。
前条の規定は,第163条の場合について準用する。
①債権は,次に掲げる場合には,時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。
②債権又は所有権以外の財産権は,権利を行使することができる時から20年間行使しないときは,時効によって消滅する。
③前2項の規定は,始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために,その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし,権利者は,その時効を更新するため,いつでも占有者の承認を求めることができる。
①消滅時効は,権利を行使することができる時から進行する。
②前項の規定は,始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために,その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし,権利者は,その時効を中断するため,いつでも占有者の承認を求めることができる。
人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第1項第2号の規定の適用については,同号中「10年間」とあるのは,「20年間」とする。
①債権は,10年間行使しないときは,消滅する。
②債権又は所有権以外の財産権は,20年間行使しないときは,消滅する。
【条数を変更する必要がなかった典型例】従来の民法167条は,債権又は所有権以外の消滅時効について規定する重要な条文であった。改正法では,この条文を1条繰り上げて166条で規定しているが,これは,従来の判例等を検索するのを困難にする等弊害ばかりが大きい無駄な改正である。新167条は,167条の2(人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効)として規定しておけば,従来の民法166条も167条も全く改正する必要がなく,従来通りの判例検索等が可能となったはずである。枝番号の嫌う法務官僚の歪められた美意識によって学術研究に障害が生じることになった許すべからざる暴挙というべき典型例であろう。
①定期金の債権は,次に掲げる場合には,時効によって消滅する。
一 債権者が定期金の債権から生ずる金銭その他の物の給付を目的とする各債権を行使することができることを知った時から10年間行使しないとき。
二 前号に規定する各債権を行使することができる時から20年間行使しないとき。
②定期金の債権者は,時効の更新の証拠を得るため,いつでも,その債務者に対して承認書の交付を求めることができる。
①定期金の債権は,第1回の弁済期から20年間行使しないときは,消滅する。最後の弁済期から10年間行使しないときも,同様とする。
②定期金の債権者は,時効の中断の証拠を得るため,いつでも,その債務者に対して承認書の交付を求めることができる。
①確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利については,10年より短い時効期間の定めがあるものであっても,その時効期間は,10年とする。
②前項の規定は,確定の時に弁済期の到来していない債権については,適用しない。
①確定判決によって確定した権利については,10年より短い時効期間の定めがあるものであっても,その時効期間は,10年とする。裁判上の和解,調停その他確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利についても,同様とする。
②前項の規定は,確定の時に弁済期の到来していない債権については,適用しない。
年又はこれより短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権は,5年間行使しないときは,消滅する。
次に掲げる債権は,3年間行使しないときは,消滅する。ただし,第二号に掲げる債権の時効は,同号の工事が終了した時から起算する。
一 医師,助産師又は薬剤師の診療,助産又は調剤に関する債権
二 工事の設計,施工又は監理を業とする者の工事に関する債権
弁護士又は弁護士法人は事件が終了した時から,公証人はその職務を執行した時から3年を経過したときは,その職務に関して受け取った書類について,その責任を免れる。
①弁護士,弁護士法人又は公証人の職務に関する債権は,その原因となった事件が終了した時から2年間行使しないときは,消滅する。
②前項の規定にかかわらず,同項の事件中の各事項が終了した時から5年を経過したときは,同項の期間内であっても,その事項に関する債権は,消滅する。
次に掲げる債権は,2年間行使しないときは,消滅する。
一 生産者,卸売商人又は小売商人が売却した産物又は商品の代価に係る債権
二 自己の技能を用い,注文を受けて,物を製作し又は自己の仕事場で他人のために仕事をすることを業とする者の仕事に関する債権
三 学芸又は技能の教育を行う者が生徒の教育,衣食又は寄宿の代価について有する債権
一 月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給料に係る債権
二 自己の労力の提供又は演芸を業とする者の報酬又はその供給した物の代価に係る債権
三 運送賃に係る債権
四 旅館,料理店,飲食店,貸席又は娯楽場の宿泊料,飲食料,席料,入場料,消費物の代価又は立替金に係る債権
五 動産の損料に係る債権
①確定判決によって確定した権利については,10年より短い時効期間の定めがあるものであっても,その時効期間は,10年とする。裁判上の和解,調停その他確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利についても,同様とする。
②前項の規定は,確定の時に弁済期の到来していない債権については,適用しない。
物権は,この法律その他の法律に定めるもののほか,創設することができない。
物権の設定及び移転は,当事者の意思表示のみによって,その効力を生ずる。
不動産に関する物権の得喪及び変更は,不動産登記法(平成16年法律第123号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ,第三者に対抗することができない。
動産に関する物権の譲渡は,その動産の引渡しがなければ,第三者に対抗することができない。
①同一物について所有権及び他の物権が同一人に帰属したときは,当該他の物権は,消滅する。ただし,その物又は当該他の物権が第三者の権利の目的であるときは,この限りでない。
②所有権以外の物権及びこれを目的とする他の権利が同一人に帰属したときは,当該他の権利は,消滅する。この場合においては,前項ただし書の規定を準用する。
③前2項の規定は,占有権については,適用しない。
占有権は,自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得する。
占有権は,代理人によって取得することができる。
①占有権の譲渡は,占有物の引渡しによってする。
②譲受人又はその代理人が現に占有物を所持する場合には,占有権の譲渡は,当事者の意思表示のみによってすることができる。
代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したときは,本人は,これによって占有権を取得する。
代理人によって占有をする場合において,本人がその代理人に対して以後第三者のためにその物を占有することを命じ,その第三者がこれを承諾したときは,その第三者は,占有権を取得する。
権原の性質上占有者に所有の意思がないものとされる場合には,その占有者が,自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示し,又は新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始めるのでなければ,占有の性質は,変わらない。
①占有者は,所有の意思をもって,善意で,平穏に,かつ,公然と占有をするものと推定する。
②前後の両時点において占有をした証拠があるときは,占有は,その間継続したものと推定する。
①占有者の承継人は,その選択に従い,自己の占有のみを主張し,又は自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張することができる。
②前の占有者の占有を併せて主張する場合には,その瑕疵をも承継する。
占有者が占有物について行使する権利は,適法に有するものと推定する。
①善意の占有者は,占有物から生ずる果実を取得する。
②善意の占有者が本権の訴えにおいて敗訴したときは,その訴えの提起の時から悪意の占有者とみなす。
①悪意の占有者は,果実を返還し,かつ,既に消費し,過失によって損傷し,又は収取を怠った果実の代価を償還する義務を負う。
②前項の規定は,暴行若しくは強迫又は隠匿によって占有をしている者について準用する。
占有物が占有者の責めに帰すべき事由によって滅失し,又は損傷したときは,その回復者に対し,悪意の占有者はその損害の全部の賠償をする義務を負い,善意の占有者はその滅失又は損傷によって現に利益を受けている限度において賠償をする義務を負う。ただし,所有の意思のない占有者は,善意であるときであっても,全部の賠償をしなければならない。
取引行為によって,平穏に,かつ,公然と動産の占有を始めた者は,善意であり,かつ,過失がないときは,即時にその動産について行使する権利を取得する。
前条の場合において,占有物が盗品又は遺失物であるときは,被害者又は遺失者は,盗難又は遺失の時から2年間,占有者に対してその物の回復を請求することができる。
占有者が,盗品又は遺失物を,競売若しくは公の市場において,又はその物と同種の物を販売する商人から,善意で買い受けたときは,被害者又は遺失者は,占有者が支払った代価を弁償しなければ,その物を回復することができない。
家畜以外の動物で他人が飼育していたものを占有する者は,その占有の開始の時に善意であり,かつ,その動物が飼主の占有を離れた時から1箇月以内に飼主から回復の請求を受けなかったときは,その動物について行使する権利を取得する。
①占有者が占有物を返還する場合には,その物の保存のために支出した金額その他の必要費を回復者から償還させることができる。ただし,占有者が果実を取得したときは,通常の必要費は,占有者の負担に帰する。
②占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については,その価格の増加が現存する場合に限り,回復者の選択に従い,その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし,悪意の占有者に対しては,裁判所は,回復者の請求により,その償還について相当の期限を許与することができる。
占有者は,次条から第202条までの規定に従い,占有の訴えを提起することができる。他人のために占有をする者も,同様とする。
占有者がその占有を妨害されたときは,占有保持の訴えにより,その妨害の停止及び損害の賠償を請求することができる。
占有者がその占有を妨害されるおそれがあるときは,占有保全の訴えにより,その妨害の予防又は損害賠償の担保を請求することができる。
①占有者がその占有を奪われたときは,占有回収の訴えにより,その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。
②占有回収の訴えは,占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができない。ただし,その承継人が侵奪の事実を知っていたときは,この限りでない。
①占有保持の訴えは,妨害の存する間又はその消滅した後1年以内に提起しなければならない。ただし,工事により占有物に損害を生じた場合において,その工事に着手した時から1年を経過し,又はその工事が完成したときは,これを提起することができない。
②占有保全の訴えは,妨害の危険の存する間は,提起することができる。この場合において,工事により占有物に損害を生ずるおそれがあるときは,前項ただし書の規定を準用する。
③占有回収の訴えは,占有を奪われた時から1年以内に提起しなければならない。
①占有の訴えは本権の訴えを妨げず,また,本権の訴えは占有の訴えを妨げない。
②占有の訴えについては,本権に関する理由に基づいて裁判をすることができない。
占有権は,占有者が占有の意思を放棄し,又は占有物の所持を失うことによって消滅する。ただし,占有者が占有回収の訴えを提起したときは,この限りでない。
①代理人によって占有をする場合には,占有権は,次に掲げる事由によって消滅する。
一 本人が代理人に占有をさせる意思を放棄したこと。
二 代理人が本人に対して以後自己又は第三者のために占有物を所持する意思を表示したこと。
三 代理人が占有物の所持を失ったこと。
②占有権は,代理権の消滅のみによっては,消滅しない。
この章の規定は,自己のためにする意思をもって財産権の行使をする場合について準用する。
所有者は,法令の制限内において,自由にその所有物の使用,収益及び処分をする権利を有する。
土地の所有権は,法令の制限内において,その土地の上下に及ぶ。
①数人にてー棟の建物を区分し,各其一部を所有するときは,建物及び其附属物の共用部分は,其共有に属するものと推定す。
②共用部分の修繕,其他ノ負担は,各自の所有部分の価格に応じて之を分つ。
①土地の所有者は,境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で,隣地の使用を請求することができる。ただし,隣人の承諾がなければ,その住家に立ち入ることはできない。
②前項の場合において,隣人が損害を受けたときは,その償金を請求することができる。
①他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は,公道に至るため,その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。
②池沼,河川,水路若しくは海を通らなければ公道に至ることができないとき,又は崖(がけ)があって土地と公道とに著しい高低差があるときも,前項と同様とする。
①前条の場合には,通行の場所及び方法は,同条の規定による通行権を有する者のために必要であり,かつ,他の土地のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
②前条の規定による通行権を有する者は,必要があるときは,通路を開設することができる。
第210条の規定による通行権を有する者は,その通行する他の土地の損害に対して償金を支払わなければならない。ただし,通路の開設のために生じた損害に対するものを除き,1年ごとにその償金を支払うことができる。
①分割によって公道に通じない土地が生じたときは,その土地の所有者は,公道に至るため,他の分割者の所有地のみを通行することができる。この場合においては,償金を支払うことを要しない。
②前項の規定は,土地の所有者がその土地の一部を譲り渡した場合について準用する。
土地の所有者は,隣地から水が自然に流れて来るのを妨げてはならない。
水流が天災その他避けることのできない事変により低地において閉塞(そく)したときは,高地の所有者は,自己の費用で,水流の障害を除去するため必要な工事をすることができる。
他の土地に貯水,排水又は引水のために設けられた工作物の破壊又は閉塞により,自己の土地に損害が及び,又は及ぶおそれがある場合には,その土地の所有者は,当該他の土地の所有者に,工作物の修繕若しくは障害の除去をさせ,又は必要があるときは予防工事をさせることができる。
前2条の場合において,費用の負担について別段の慣習があるときは,その慣習に従う。
土地の所有者は,直接に雨水を隣地に注ぐ構造の屋根その他の工作物を設けてはならない。
①溝,堀その他の水流地の所有者は,対岸の土地が他人の所有に属するときは,その水路又は幅員を変更してはならない。
②両岸の土地が水流地の所有者に属するときは,その所有者は,水路及び幅員を変更することができる。ただし,水流が隣地と交わる地点において,自然の水路に戻さなければならない。
③前2項の規定と異なる慣習があるときは,その慣習に従う。
高地の所有者は,その高地が浸水した場合にこれを乾かすため,又は自家用若しくは農工業用の余水を排出するため,公の水流又は下水道に至るまで,低地に水を通過させることができる。この場合においては,低地のために損害が最も少ない場所及び方法を選ばなければならない。
①土地の所有者は,その所有地の水を通過させるため,高地又は低地の所有者が設けた工作物を使用することができる。
②前項の場合には,他人の工作物を使用する者は,その利益を受ける割合に応じて,工作物の設置及び保存の費用を分担しなければならない。
①水流地の所有者は,堰(せき)を設ける必要がある場合には,対岸の土地が他人の所有に属するときであっても,その堰を対岸に付着させて設けることができる。ただし,これによって生じた損害に対して償金を支払わなければならない。
②対岸の土地の所有者は,水流地の一部がその所有に属するときは,前項の堰を使用することができる。
③前条第2項の規定は,前項の場合について準用する
土地の所有者は,隣地の所有者と共同の費用で,境界標を設けることができる。
境界標の設置及び保存の費用は,相隣者が等しい割合で負担する。ただし,測量の費用は,その土地の広狭に応じて分担する。
①2棟の建物がその所有者を異にし,かつ,その間に空地があるときは,各所有者は,他の所有者と共同の費用で,その境界に囲障を設けることができる。
②当事者間に協議が調わないときは,前項の囲障は,板塀又は竹垣その他これらに類する材料のものであって,かつ,高さ2メートルのものでなければならない。
前条の囲障の設置及び保存の費用は,相隣者が等しい割合で負担する。
相隣者の一人は,第225条第2項に規定する材料より良好なものを用い,又は同項に規定する高さを増して囲障を設けることができる。ただし,これによって生ずる費用の増加額を負担しなければならない。
前3条の規定と異なる慣習があるときは,その慣習に従う。
境界線上に設けた境界標,囲障,障壁,溝及び堀は,相隣者の共有に属するものと推定する。
①1棟の建物の一部を構成する境界線上の障壁については,前条の規定は,適用しない。
②高さの異なる2棟の隣接する建物を隔てる障壁の高さが,低い建物の高さを超えるときは,その障壁のうち低い建物を超える部分についても,前項と同様とする。ただし,防火障壁については,この限りでない。
①相隣者の一人は,共有の障壁の高さを増すことができる。ただし,その障壁がその工事に耐えないときは,自己の費用で,必要な工作を加え,又はその障壁を改築しなければならない。
②前項の規定により障壁の高さを増したときは,その高さを増した部分は,その工事をした者の単独の所有に属する。
前条の場合において,隣人が損害を受けたときは,その償金を請求することができる。
①隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは,その竹木の所有者に,その枝を切除させることができる。
②隣地の竹木の根が境界線を越えるときは,その根を切り取ることができる。
①建物を築造するには,境界線から50センチメートル以上の距離を保たなければならない。
②前項の規定に違反して建築をしようとする者があるときは,隣地の所有者は,その建築を中止させ,又は変更させることができる。ただし,建築に着手した時から1年を経過し,又はその建物が完成した後は,損害賠償の請求のみをすることができる。
①境界線から1メートル未満の距離において他人の宅地を見通すことのできる窓又は縁側(ベランダを含む。次項において同じ。)を設ける者は,目隠しを付けなければならない。
②前項の距離は,窓又は縁側の最も隣地に近い点から垂直線によって境界線に至るまでを測定して算出する。
前2条の規定と異なる慣習があるときは,その慣習に従う。
①井戸,用水だめ,下水だめ又は肥料だめを掘るには境界線から2メートル以上,池,穴蔵又はし尿だめを掘るには境界線から1メートル以上の距離を保たなければならない。
②導水管を埋め,又は溝若しくは堀を掘るには,境界線からその深さの2分の1以上の距離を保たなければならない。ただし,1メートルを超えることを要しない。
境界線の付近において前条の工事をするときは,土砂の崩壊又は水若しくは汚液の漏出を防ぐため必要な注意をしなければならない。
①所有者のない動産は,所有の意思をもって占有することによって,その所有権を取得する。
②所有者のない不動産は,国庫に帰属する。
遺失物は,遺失物法(平成18年法律第73号)の定めるところに従い公告をした後3箇月以内にその所有者が判明しないときは,これを拾得した者がその所有権を取得する。
埋蔵物は,遺失物法の定めるところに従い公告をした後6箇月以内にその所有者が判明しないときは,これを発見した者がその所有権を取得する。ただし,他人の所有する物の中から発見された埋蔵物については,これを発見した者及びその他人が等しい割合でその所有権を取得する。
不動産の所有者は,その不動産に従として付合した物の所有権を取得する。ただし,権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げない。
所有者を異にする数個の動産が,付合により,損傷しなければ分離することができなくなったときは,その合成物の所有権は,主たる動産の所有者に帰属する。分離するのに過分の費用を要するときも,同様とする。
付合した動産について主従の区別をすることができないときは,各動産の所有者は,その付合の時における価格の割合に応じてその合成物を共有する。
前2条の規定は,所有者を異にする物が混和して識別することができなくなった場合について準用する。
①他人の動産に工作を加えた者(以下この条において「加工者」という。)があるときは,その加工物の所有権は,材料の所有者に帰属する。ただし,工作によって生じた価格が材料の価格を著しく超えるときは,加工者がその加工物の所有権を取得する。
②前項に規定する場合において,加工者が材料の一部を供したときは,その価格に工作によって生じた価格を加えたものが他人の材料の価格を超えるときに限り,加工者がその加工物の所有権を取得する。
①第242条から前条までの規定により物の所有権が消滅したときは,その物について存する他の権利も,消滅する。
②前項に規定する場合において,物の所有者が,合成物,混和物又は加工物(以下この項において「合成物等」という。)の単独所有者となったときは,その物について存する他の権利は以後その合成物等について存し,物の所有者が合成物等の共有者となったときは,その物について存する他の権利は以後その持分について存する。
第242条から前条までの規定の適用によって損失を受けた者は,第703条及び第704条の規定に従い,その償金を請求することができる。
各共有者は,共有物の全部について,その持分に応じた使用をすることができる。
各共有者の持分は,相等しいものと推定する。
各共有者は,他の共有者の同意を得なければ,共有物に変更を加えることができない。
共有物の管理に関する事項は,前条の場合を除き,各共有者の持分の価格に従い,その過半数で決する。ただし,保存行為は,各共有者がすることができる。
①各共有者は,その持分に応じ,管理の費用を支払い,その他共有物に関する負担を負う。
②共有者が1年以内に前項の義務を履行しないときは,他の共有者は,相当の償金を支払ってその者の持分を取得することができる。
共有者の一人が共有物について他の共有者に対して有する債権は,その特定承継人に対しても行使することができる。
共有者の一人が,その持分を放棄したとき,又は死亡して相続人がないときは,その持分は,他の共有者に帰属する。
①各共有者は,いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし,5年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。
②前項ただし書の契約は,更新することができる。ただし,その期間は,更新の時から5年を超えることができない。
前条の規定は,第229条に規定する共有物については,適用しない。
①共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは,その分割を裁判所に請求することができる。
②前項の場合において,共有物の現物を分割することができないとき,又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは,裁判所は,その競売を命ずることができる。
①共有者の一人が他の共有者に対して共有に関する債権を有するときは,分割に際し,債務者に帰属すべき共有物の部分をもって,その弁済に充てることができる。
②債権者は,前項の弁済を受けるため債務者に帰属すべき共有物の部分を売却する必要があるときは,その売却を請求することができる。
①共有物について権利を有する者及び各共有者の債権者は,自己の費用で,分割に参加することができる。
②前項の規定による参加の請求があったにもかかわらず,その請求をした者を参加させないで分割をしたときは,その分割は,その請求をした者に対抗することができない。
各共有者は,他の共有者が分割によって取得した物について,売主と同じく,その持分に応じて担保の責任を負う。
①分割が完了したときは,各分割者は,その取得した物に関する証書を保存しなければならない。
②共有者の全員又はそのうちの数人に分割した物に関する証書は,その物の最大の部分を取得した者が保存しなければならない。
③前項の場合において,最大の部分を取得した者がないときは,分割者間の協議で証書の保存者を定める。協議が調わないときは,裁判所が,これを指定する。
④証書の保存者は,他の分割者の請求に応じて,その証書を使用させなければならない。
共有の性質を有する入会権については,各地方の慣習に従うほか,この節の規定を適用する。
この節の規定は,数人で所有権以外の財産権を有する場合について準用する。ただし,法令に特別の定めがあるときは,この限りでない。
地上権者は,他人の土地において工作物又は竹木を所有するため,その土地を使用する権利を有する。
①地上権の地代に関する第274条から第276条まで〔小作料の減免,小作料の放棄,小作料の消滅請求〕の規定は,地上権者が土地の所有者に定期の地代を支払わなければならない場合について準用する。
②地代については,前項に規定するもののほか,その性質に反しない限り,賃貸借に関する規定を準用する。
前章第1節第2款(相隣関係)の規定は,地上権者間又は地上権者と土地の所有者との間について準用する。ただし,第229条の規定は,境界線上の工作物が地上権の設定後に設けられた場合に限り,地上権者について準用する。
①設定行為で地上権の存続期間を定めなかった場合において,別段の慣習がないときは,地上権者は,いつでもその権利を放棄することができる。ただし,地代を支払うべきときは,1年前に予告をし,又は期限の到来していない1年分の地代を支払わなければならない。
②地上権者が前項の規定によりその権利を放棄しないときは,裁判所は,当事者の請求により,20年以上50年以下の範囲内において,工作物又は竹木の種類及び状況その他地上権の設定当時の事情を考慮して,その存続期間を定める。
①地上権者は,その権利が消滅した時に,土地を原状に復してその工作物及び竹木を収去することができる。ただし,土地の所有者が時価相当額を提供してこれを買い取る旨を通知したときは,地上権者は,正当な理由がなければ,これを拒むことができない。
②前項の規定と異なる慣習があるときは,その慣習に従う。
①地下又は空間は,工作物を所有するため,上下の範囲を定めて地上権の目的とすることができる。この場合においては,設定行為で,地上権の行使のためにその土地の使用に制限を加えることができる。
②前項の地上権は,第三者がその土地の使用又は収益をする権利を有する場合においても,その権利又はこれを目的とする権利を有するすべての者の承諾があるときは,設定することができる。この場合において,土地の使用又は収益をする権利を有する者は,その地上権の行使を妨げることができない。
永小作人は,小作料を支払って他人の土地において耕作又は牧畜をする権利を有する。
永小作人は,土地に対して,回復することのできない損害を生ずべき変更を加えることができない。
永小作人は,その権利を他人に譲り渡し,又はその権利の存続期間内において耕作若しくは牧畜のため土地を賃貸することができる。ただし,設定行為で禁じたときは,この限りでない。
永小作人の義務については,この章の規定及び設定行為で定めるもののほか,その性質に反しない限り,賃貸借に関する規定を準用する。
永小作人は,不可抗力により収益について損失を受けたときであっても,小作料の免除又は減額を請求することができない。
永小作人は,不可抗力によって,引き続き3年以上全く収益を得ず,又は5年以上小作料より少ない収益を得たときは,その権利を放棄することができる。
永小作人が引き続き2年以上小作料の支払を怠ったときは,土地の所有者は,永小作権の消滅を請求することができる。
第271条から前条までの規定と異なる慣習があるときは,その慣習に従う。
①永小作権の存続期間は,20年以上50年以下とする。設定行為で50年より長い期間を定めたときであっても,その期間は,50年とする。
②永小作権の設定は,更新することができる。ただし,その存続期間は,更新の時から50年を超えることができない。
③設定行為で永小作権の存続期間を定めなかったときは,その期間は,別段の慣習がある場合を除き,30年とする。
第269条〔地上権における工作物等の収去〕の規定は,永小作権について準用する。
地役権者は,設定行為で定めた目的に従い,他人の土地を自己の土地の便益に供する権利を有する。ただし,第3章第1節(所有権の限界)の規定(公の秩序に関するものに限る。)に違反しないものでなければならない。
①地役権は,要役地(地役権者の土地であって,他人の土地から便益を受けるものをいう。以下同じ。)の所有権に従たるものとして,その所有権とともに移転し,又は要役地について存する他の権利の目的となるものとする。ただし,設定行為に別段の定めがあるときは,この限りでない。
②地役権は,要役地から分離して譲り渡し,又は他の権利の目的とすることができない。
①土地の共有者の一人は,その持分につき,その土地のために又はその土地について存する地役権を消滅させることができない。
②土地の分割又はその一部の譲渡の場合には,地役権は,その各部のために又はその各部について存する。ただし,地役権がその性質により土地の一部のみに関するときは,この限りでない。
地役権は,継続的に行使され,かつ,外形上認識することができるものに限り,時効によって取得することができる。
①土地の共有者の一人が時効によって地役権を取得したときは,他の共有者も,これを取得する。
②共有者に対する時効の更新〔中断の誤り〕は,地役権を行使する各共有者に対してしなければ,その効力を生じない。
③地役権を行使する共有者が数人ある場合には,その一人について時効の完成猶予の事由があっても,時効は,各共有者のために進行する。
①土地の共有者の1人が時効によって地役権を取得したときは,他の共有者も,これを取得する。
②共有者に対する時効の中断は,地役権を行使する各共有者に対してしなければ,その効力を生じない。
③地役権を行使する共有者が数人ある場合には,その1人について時効の停止の原因があっても,時効は,各共有者のために進行する。
①用水地役権の承役地(地役権者以外の者の土地であって,要役地の便益に供されるものをいう。以下同じ。)において,水が要役地及び承役地の需要に比して不足するときは,その各土地の需要に応じて,まずこれを生活用に供し,その残余を他の用途に供するものとする。ただし,設定行為に別段の定めがあるときは,この限りでない。
②同一の承役地について数個の用水地役権を設定したときは,後の地役権者は,前の地役権者の水の使用を妨げてはならない。
設定行為又は設定後の契約により,承役地の所有者が自己の費用で地役権の行使のために工作物を設け,又はその修繕をする義務を負担したときは,承役地の所有者の特定承継人も,その義務を負担する。
承役地の所有者は,いつでも,地役権に必要な土地の部分の所有権を放棄して地役権者に移転し,これにより前条の義務を免れることができる。
①承役地の所有者は,地役権の行使を妨げない範囲内において,その行使のために承役地の上に設けられた工作物を使用することができる。
②前項の場合には,承役地の所有者は,その利益を受ける割合に応じて,工作物の設置及び保存の費用を分担しなければならない。
承役地の占有者が取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは,地役権は,これによって消滅する。
前条の規定による地役権の消滅時効は,地役権者がその権利を行使することによって中断する。
第166条第2項に規定する消滅時効の期間〔20年〕は,継続的でなく行使される地役権については最後の行使の時から起算し,継続的に行使される地役権についてはその行使を妨げる事実が生じた時から起算する。
第167条第2項に規定する消滅時効の期間〔20年間〕は,継続的でなく行使される地役権については最後の行使の時から起算し,継続的に行使される地役権についてはその行使を妨げる事実が生じた時から起算する。
要役地が数人の共有に属する場合において,その一人のために時効の完成猶予又は更新があるときは,その完成猶予又は更新は,他の共有者のためにも,その効力を生ずる。
要役地が数人の共有に属する場合において,その1人のために時効の中断又は停止があるときは,その中断又は停止は,他の共有者のためにも,その効力を生ずる。
地役権者がその権利の一部を行使しないときは,その部分のみが時効によって消滅する。
共有の性質を有しない入会権については,各地方の慣習に従うほか,この章の規定を準用する。
①他人の物の占有者は,その物に関して生じた債権を有するときは,その債権の弁済を受けるまで,その物を留置することができる。ただし,その債権が弁済期にないときは,この限りでない。
②前項の規定は,占有が不法行為によって始まった場合には,適用しない。
留置権者は,債権の全部の弁済を受けるまでは,留置物の全部についてその権利を行使することができる。
①留置権者は,留置物から生ずる果実を収取し,他の債権者に先立って,これを自己の債権の弁済に充当することができる。
②前項の果実は,まず債権の利息に充当し,なお残余があるときは元本に充当しなければならない。
①留置権者は,善良な管理者の注意をもって,留置物を占有しなければならない。
②留置権者は,債務者の承諾を得なければ,留置物を使用し,賃貸し,又は担保に供することができない。ただし,その物の保存に必要な使用をすることは,この限りでない。
③留置権者が前2項の規定に違反したときは,債務者は,留置権の消滅を請求することができる。
①留置権者は,留置物について必要費を支出したときは,所有者にその償還をさせることができる。
②留置権者は,留置物について有益費を支出したときは,これによる価格の増加が現存する場合に限り,所有者の選択に従い,その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし,裁判所は,所有者の請求により,その償還について相当の期限を許与することができる。
留置権の行使は,債権の消滅時効の進行を妨げない。
債務者は,相当の担保を供して,留置権の消滅を請求することができる。
留置権は,留置権者が留置物の占有を失うことによって,消滅する。ただし,第298条第2項の規定により留置物を賃貸し,又は質権の目的としたときは,この限りでない。
民法203条本文は,確かに,「占有権は,占有者が占有の意思を放棄し,又は占有物の所持を失うことによって消滅する」と規定している。しかし,同条ただし書は,「占有者が占有回収の訴え〔民法200条,201条3項〕を提起したときは,この限りでない」と規定している。したがって,留置権者が留置物の所持を失った場合でも,1年以内(民法201条3項)に占有回収の訴えを提起すれば,留置権の消滅を防ぐことができる。
上記のように,占有の喪失による留置権の消滅(民法302条)を考察する際には,留置権の規定だけ見ていても問題解決には至らない。占有権の個所(民法第2編(物権)第2章(占有権))にある,占有の消滅に関する民法203条ただし書を参照しなければならない。
留置権の消滅(民法302条)に関して,占有の規定(民法203条ただし書)を参照すべきであることはすでに述べた。しかし,そればかりではない。実は留置権の規定は,民法第2編(物権)第7章(留置権)の個所だけでなく,第2編(物権)第2章(占有権)の個所(民法194条:盗品又は遺失物を公開市場で取得した場合の例外・占有者に与えられる留置権),および,第3編(債権)第1章(総則)第6節(債権の消滅)第1款(弁済)第1目(総則)の個所(民法475条:弁済として引き渡した物の取戻し・債権者の留置権)にも存在するからである。
先取特権者は,この法律その他の法律の規定に従い,その債務者の財産について,他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
①先取特権は,その目的物の売却,賃貸,滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭〔代金債権,賃料債権,損害賠償債権=無体物〕その他の物〔金銭に代わる米,麦など〕に対しても,行使することができる。ただし,先取特権者は,その〔債権の〕払渡し又は〔その他の物の〕引渡しの前に差押えをしなければならない。
②債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても,前項と同様とする。
第296条〔留置権の不可分性〕の規定は,先取特権について準用する。
次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は,債務者の総財産について先取特権を有する。
一 共益の費用
二 雇用関係
三 葬式の費用
四 日用品の供給
①共益の費用の先取特権は,各債権者の共同の利益のためにされた債務者の財産の保存,清算又は配当に関する費用について存在する。
②前項の費用のうちすべての債権者に有益でなかったものについては,先取特権は,その費用によって利益を受けた債権者に対してのみ存在する。
雇用関係の先取特権は,給料その他債務者と使用人との間の雇用関係に基づいて生じた債権について存在する。
①葬式の費用の先取特権は,債務者のためにされた葬式の費用のうち相当な額について存在する。
②前項の先取特権は,債務者がその扶養すべき親族のためにした葬式の費用のうち相当な額についても存在する。
日用品の供給の先取特権は,債務者又はその扶養すべき同居の親族及びその家事使用人の生活に必要な最後の6箇月間の飲食料品,燃料及び電気の供給について存在する。
次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は,債務者の特定の動産について先取特権を有する。
一 不動産の賃貸借
二 旅館の宿泊
三 旅客又は荷物の運輸
四 動産の保存
五 動産の売買
六 種苗又は肥料(蚕種又は蚕の飼養に供した桑葉を含む。以下同じ。)の供給
七 農業の労務
八 工業の労務
不動産の賃貸の先取特権は,その不動産の賃料その他の賃貸借関係から生じた賃借人の債務に関し,賃借人の動産について存在する。
①土地の賃貸人の先取特権は,その土地又はその利用のための建物に備え付けられた動産,その土地の利用に供された動産及び賃借人が占有するその土地の果実について存在する。
②建物の賃貸人の先取特権は,賃借人がその建物に備え付けた動産について存在する。
賃借権の譲渡又は転貸の場合には,賃貸人の先取特権は,譲受人又は転借人の動産にも及ぶ。譲渡人又は転貸人が受けるべき金銭についても,同様とする。
賃借人の財産のすべてを清算する場合には,賃貸人の先取特権は,前期,当期及び次期の賃料その他の債務並びに前期及び当期に生じた損害の賠償債務についてのみ存在する。
賃貸人は,第622条の2第1項〔敷金の定義及び敷金を受け取った場合の賃貸人の返還義務〕に規定する敷金を受け取っている場合には,その敷金で弁済を受けない債権の部分についてのみ先取特権を有する。
賃貸人は,敷金を受け取っている場合には,その敷金で弁済を受けない債権の部分についてのみ先取特権を有する。
旅館の宿泊の先取特権は,宿泊客が負担すべき宿泊料及び飲食料に関し,その旅館に在るその宿泊客の手荷物について存在する。
運輸の先取特権は,旅客又は荷物の運送賃及び付随の費用に関し,運送人の占有する荷物について存在する。
第192条から第195条までの規定は,第312条から前条までの規定〔動産の即時取得及びその例外〕による先取特権について準用する。
動産の保存の先取特権は,動産の保存のために要した費用又は動産に関する権利の保存,承認若しくは実行のために要した費用に関し,その動産について存在する。
動産の売買の先取特権は,動産の代価及びその利息に関し,その動産について存在する。
種苗又は肥料の供給の先取特権は,種苗又は肥料の代価及びその利息に関し,その種苗又は肥料を用いた後1年以内にこれを用いた土地から生じた果実(蚕種又は蚕の飼養に供した桑葉の使用によって生じた物を含む。)について存在する。
農業の労務の先取特権は,その労務に従事する者の最後の1年間の賃金に関し,その労務によって生じた果実について存在する。
工業の労務の先取特権は,その労務に従事する者の最後の3箇月間の賃金に関し,その労務によって生じた製作物について存在する。
次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は,債務者の特定の不動産について先取特権を有する。
一 不動産の保存
二 不動産の工事
三 不動産の売買
不動産の保存の先取特権は,不動産の保存のために要した費用又は不動産に関する権利の保存,承認若しくは実行のために要した費用に関し,その不動産について存在する。
①不動産の工事の先取特権は,工事の設計,施工又は監理をする者が債務者の不動産に関してした工事の費用に関し,その不動産について存在する。
②前項の先取特権は,工事によって生じた不動産の価格の増加が現存する場合に限り,その増価額についてのみ存在する。
不動産の売買の先取特権は,不動産の代価及びその利息に関し,その不動産について存在する。
①一般の先取特権が互いに競合する場合には,その優先権の順位は,第306条各号に掲げる順序に従う。
②一般の先取特権と特別の先取特権とが競合する場合には,特別の先取特権は,一般の先取特権に優先する。ただし,共益の費用の先取特権は,その利益を受けたすべての債権者に対して優先する効力を有する。
①同一の動産について特別の先取特権が互いに競合する場合には,その優先権の順位は,次に掲げる順序に従う。この場合において,第2号に掲げる動産の保存の先取特権について数人の保存者があるときは,後の保存者が前の保存者に優先する。
一 不動産の賃貸,旅館の宿泊及び運輸の先取特権
二 動産の保存の先取特権
三 動産の売買,種苗又は肥料の供給,農業の労務及び工業の労務の先取特権
②前項の場合において,第1順位の先取特権者は,その債権取得の時において第2順位又は第3順位の先取特権者があることを知っていたときは,これらの者に対して優先権を行使することができない。第1順位の先取特権者のために物を保存した者に対しても,同様とする。
③果実に関しては,第1の順位は農業の労務に従事する者に,第2の順位は種苗又は肥料の供給者に,第3の順位は土地の賃貸人に属する。
①同一の不動産について特別の先取特権が互いに競合する場合には,その優先権の順位は,第325条〔不動産先取特権の種類〕各号に掲げる順序に従う。
②同一の不動産について売買が順次された場合には,売主相互間における不動産売買の先取特権の優先権の順位は,売買の前後による。
同一の目的物について同一順位の先取特権者が数人あるときは,各先取特権者は,その債権額の割合に応じて弁済を受ける。
先取特権は,債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は,その動産について行使することができない。
先取特権と動産質権とが競合する場合には,動産質権者は,第330条の規定による第1順位の先取特権者〔不動産の賃貸,旅館の宿泊及び運輸の先取特権者=環境設定の先取特権:悪意者の場合は,その順位は最下位まで転落する〕と同一の権利を有する。
①一般の先取特権者は,まず不動産以外の財産から弁済を受け,なお不足があるのでなければ,不動産から弁済を受けることができない。
②一般の先取特権者は,不動産については,まず特別担保の目的とされていないものから弁済を受けなければならない。
③一般の先取特権者は,前2項の規定に従って配当に加入することを怠ったときは,その配当加入をしたならば弁済を受けることができた額については,登記をした第三者に対してその先取特権を行使することができない。
④前3項の規定は,不動産以外の財産の代価に先立って不動産の代価を配当し,又は他の不動産の代価に先立って特別担保の目的である不動産の代価を配当する場合には,適用しない。
一般の先取特権は,不動産について登記をしなくても,特別担保を有しない債権者に対抗することができる。ただし,登記をした第三者に対しては,この限りでない。
不動産の保存の先取特権の効力を保存するためには,保存行為が完了した後直ちに登記をしなければならない。
①不動産の工事の先取特権の効力を保存するためには,工事を始める前にその費用の予算額を登記しなければならない。この場合において,工事の費用が予算額を超えるときは,先取特権は,その超過額については存在しない。
②工事によって生じた不動産の増価額は,配当加入の時に,裁判所が選任した鑑定人に評価させなければならない。
前2条の規定に従って登記をした先取特権は,抵当権に先立って行使することができる。
不動産の売買の先取特権の効力を保存するためには,売買契約と同時に,不動産の代価又はその利息の弁済がされていない旨を登記しなければならない。
先取特権の効力については,この節に定めるもののほか,その性質に反しない限り,抵当権に関する規定を準用する。
質権者は,その債権の担保として債務者又は第三者から受け取った物を占有し,かつ,その物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
質権は,譲り渡すことができない物をその目的〔物〕とすることができない。
質権の設定は,債権者にその目的物を引き渡すことによって,その効力を生ずる。
質権者は,質権設定者に,自己に代わって質物の占有をさせることができない。
質権は,元本,利息,違約金,質権の実行の費用,質物の保存の費用及び債務の不履行又は質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償を担保する。ただし,設定行為に別段の定めがあるときは,この限りでない。
質権者は,前条に規定する債権の弁済を受けるまでは,質物を留置することができる。ただし,この権利は,自己に対して優先権を有する債権者に対抗することができない。
質権者は,その権利の存続期間内において,自己の責任で,質物について,転質をすることができる。この場合において,転質をしたことによって生じた損失については,不可抗力によるものであっても,その責任を負う。
質権設定者は,設定行為又は債務の弁済期前の契約において,質権者に弁済として質物の所有権を取得させ,その他法律に定める方法によらないで質物を処分させることを約することができない。
第296条から第300条まで〔留置権の不可分性,留置権による果実の収取,留置権者による留置物の保管等,留置権者による費用の償還請求,留置権の行使と債権の消滅時効〕及び第304条〔物上代位〕の規定は,質権について準用する。
他人の債務を担保するため質権を設定した者は,その債務を弁済し,又は質権の実行によって質物の所有権を失ったときは,保証債務に関する規定に従い,債務者に対して求償権を有する。
動産質権者は,継続して質物を占有しなければ,その質権をもって第三者に対抗することができない。
動産質権者は,質物の占有を奪われたときは,占有回収の訴えによってのみ,その質物を回復することができる。
動産質権者は,その債権の弁済を受けないときは,正当な理由がある場合に限り,鑑定人の評価に従い質物をもって直ちに弁済に充てることを裁判所に請求することができる。この場合において,動産質権者は,あらかじめ,その請求をする旨を債務者に通知しなければならない。
同一の動産について数個の質権が設定されたときは,その質権の順位は,設定の前後による。
不動産質権者は,質権の目的である不動産の用法に従い,その使用及び収益をすることができる。
不動産質権者は,管理の費用を支払い,その他不動産に関する負担を負う。
不動産質権者は,その債権の利息を請求することができない。
前3条の規定〔不動産質権者による使用及び収益,不動産質権者による管理の費用等の負担,不動産質権者による利息の請求の禁止〕は,設定行為に別段の定めがあるとき,又は担保不動産収益執行(民事執行法第180条第2号に規定する担保不動産収益執行をいう。以下同じ。)の開始があったときは,適用しない。
前3条〔不動産質権者の使用収益権,管理費用等の負担,利息請求の禁止〕の規定は,設定行為に別段の定めがあるとき,又は担保不動産収益執行(民事執行法(昭和54年法律第4号)第180条第二号に規定する担保不動産収益執行をいう。以下同じ。)の開始があったときは,適用しない。
①不動産質権の存続期間は,10年を超えることができない。設定行為でこれより長い期間を定めたときであっても,その期間は,10年とする。
②不動産質権の設定は,更新することができる。ただし,その存続期間は,更新の時から10年を超えることができない。
不動産質権については,この節に定めるもののほか,その性質に反しない限り,次章(抵当権)の規定を準用する。
①質権は,財産権をその目的〔物〕とすることができる。
②前項の質権については,この節に定めるもののほか,その性質に反しない限り,前3節(総則,動産質及び不動産質)の規定を準用する。
債権であってこれを譲り渡すにはその証書を交付することを要するものを質権の目的〔物〕とするときは,質権の設定は,その証書を交付することによって,その効力を生ずる(平成15(2003)年法134本条全部改正)
債権を以て質権の目的と為す場合に於て,其債権の証書あるときは〔指図債権の場合だけでなく,指名債権の場合であっても〕,質権の設定は,其証書の交付を為すに因りて其効力を生ず。
削除
債権を目的とする質権の設定(現に発生していない債権を目的とするものを含む。)は,第467条の規定に従い,第三債務者にその質権の設定を通知し,又は第三債務者がこれを承諾しなければ,これをもって第三債務者その他の第三者に対抗することができない。
指図債権を質権の目的〔物〕としたときは,その証書に質権の設定の裏書をしなければ,これをもって第三者に対抗することができない。
①質権者は,質権の目的である債権を直接に取り立てることができる。
②債権の目的物が金銭であるときは,質権者は,自己の債権額に対応する部分に限り,これを取り立てることができる。
③前項の債権の弁済期が質権者の債権の弁済期前に到来したときは,質権者は,第三債務者にその弁済をすべき金額を供託させることができる。この場合において,質権は,その供託金について存在する。
④債権の目的物が金銭でないときは,質権者は,弁済として受けた物について質権を有する。
①質権者は,質権の目的〔物〕である債権を直接に取り立てることができる。
②債権の目的物が金銭であるときは,質権者は,自己の債権額に対応する部分に限り,これを取り立てることができる。
③前項の債権の弁済期が質権者の債権の弁済期前に到来したときは,質権者は,第三債務者にその弁済をすべき金額を供託させることができる。この場合において,質権は,その供託金について存在する。
④債権の目的物が金銭でないときは,質権者は,弁済として受けた物について質権を有する。
質権者は,前条の規定に依る外民事訴訟法に定むる執行方法に依りて質権の実行を為すことを得。
①抵当権者は,債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について,他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
②地上権及び永小作権も,抵当権の目的とすることができる。この場合においては,この章の規定を準用する。
抵当権は,抵当地の上に存する建物を除き,その目的〔物〕である不動産(以下「抵当不動産」という。)に付加して一体となっている物に及ぶ。ただし,設定行為に別段の定めがある場合及び債務者の行為について第424条第3項に規定する詐害行為取消請求をすることができる場合は,この限りでない。
抵当権は,抵当地の上に存する建物を除き,その目的〔物〕である不動産(以下「抵当不動産」という。)に付加して一体となっている物に及ぶ。ただし,設定行為に別段の定めがある場合及び第424条〔詐害行為取消権〕の規定により債権者が債務者の行為を取り消すことができる場合は,この限りでない。
抵当権は,その担保する債権について不履行があったときは,その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶ。
第296条〔留置権の不可分性〕,第304条〔先取特権の物上代位〕及び第351条〔物上保証人の求償権〕の規定は,抵当権について準用する。
同一の不動産について数個の抵当権が設定されたときは,その抵当権の順位は,登記の前後による。
①抵当権の順位は,各抵当権者の合意によって変更することができる。ただし,利害関係を有する者があるときは,その承諾を得なければならない。
②前項の規定による順位の変更は,その登記をしなければ,その効力を生じない。
①抵当権者は,利息その他の定期金を請求する権利を有するときは,その満期となった最後の2年分についてのみ,その抵当権を行使することができる。ただし,それ以前の定期金についても,満期後に特別の登記をしたときは,その登記の時からその抵当権を行使することを妨げない。
②前項の規定は,抵当権者が債務の不履行によって生じた損害の賠償を請求する権利を有する場合におけるその最後の2年分についても適用する。ただし,利息その他の定期金と通算して2年分を超えることができない。
①抵当権者は,その抵当権を他の債権の担保とし,又は同一の債務者に対する他の債権者の利益のためにその抵当権若しくはその順位を譲渡し,若しくは放棄することができる。
②前項の場合において,抵当権者が数人のためにその抵当権の処分をしたときは,その処分の利益を受ける者の権利の順位は,抵当権の登記にした付記の前後による。
①前条の場合には,第467条の規定に従い,主たる債務者に抵当権の処分を通知し,又は主たる債務者がこれを承諾しなければ,これをもって主たる債務者,保証人,抵当権設定者及びこれらの者の承継人に対抗することができない。
②主たる債務者が前項の規定により通知を受け,又は承諾をしたときは,抵当権の処分の利益を受ける者の承諾を得ないでした弁済は,その受益者に対抗することができない。
抵当不動産について所有権又は地上権を買い受けた第三者が,抵当権者の請求に応じてその抵当権者にその代価を弁済したときは,抵当権は,その第三者のために消滅する。
抵当不動産の第三取得者は,第383条〔抵当権消滅請求の手続〕の定めるところにより,抵当権消滅請求をすることができる。
主たる債務者,保証人及びこれらの者の承継人は,抵当権消滅請求をすることができない。
抵当不動産の停止条件付第三取得者は,その停止条件の成否が未定である間は,抵当権消滅請求をすることができない。
抵当不動産の第三取得者は,抵当権の実行としての競売による差押えの効力が発生する前に,抵当権消滅請求をしなければならない。
一 取得の原因及び年月日,譲渡人及び取得者の氏名及び住所並びに抵当不動産の性質,所在及び代価その他取得者の負担を記載した書面
二 抵当不動産に関する登記事項証明書(現に効力を有する登記事項のすべてを証明したものに限る。)
三 債権者が2箇月以内に抵当権を実行して競売の申立てをしないときは,抵当不動産の第三取得者が第1号に規定する代価又は特に指定した金額を債権の順位に従って弁済し又は供託すべき旨を記載した書面
次に掲げる場合には,前条各号に掲げる書面の送付を受けた債権者は,抵当不動産の第三取得者が同条第3号に掲げる書面に記載したところにより提供した同号の代価又は金額を承諾したものとみなす。
一 その債権者が前条各号に掲げる書面の送付を受けた後2箇月以内に抵当権を実行して競売の申立てをしないとき。
二 その債権者が前号の申立てを取り下げたとき。
三 第1号の申立てを却下する旨の決定が確定したとき。
四 第1号の申立てに基づく競売の手続を取り消す旨の決定(民事執行法第188条において準用する同法第63条第3項若しくは第68条の3第3項の規定又は同法第183条第1項第5号の謄本が提出された場合における同条第2項の規定による決定を除く。)が確定したとき。
第383条〔競売の申立ての通知〕各号に掲げる書面の送付を受けた債権者は,前条第1号の申立てをするときは,同号の期間内に,債務者及び抵当不動産の譲渡人にその旨を通知しなければならない。
登記をしたすべての債権者が抵当不動産の第三取得者の提供した代価又は金額を承諾し,かつ,抵当不動産の第三取得者がその承諾を得た代価又は金額を払い渡し又は供託したときは,抵当権は,消滅する。
①登記をした賃貸借は,その登記前に登記をした抵当権を有するすべての者が同意をし,かつ,その同意の登記があるときは,その同意をした抵当権者に対抗することができる。
②抵当権者が前項の同意をするには,その抵当権を目的とする権利を有する者その他抵当権者の同意によって不利益を受けるべき者の承諾を得なければならない。
土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において,その土地又は建物につき抵当権が設定され,その実行により所有者を異にするに至ったときは,その建物について,地上権が設定されたものとみなす。この場合において,地代は,当事者の請求により,裁判所が定める。
土地及び其上に存する建物が同一の所有者に属する場合に於て其土地又は建物のみを抵当と為したるときは,抵当権設定者は競売の場合に付き地上権を設定したるものと看做す。但地代は,当事者の請求に因り裁判所之を定む。
①抵当権の設定後に抵当地に建物が築造されたときは,抵当権者は,土地とともにその建物を競売することができる。ただし,その優先権は,土地の代価についてのみ行使することができる。
②前項の規定は,その建物の所有者が抵当地を占有するについて抵当権者に対抗することができる権利を有する場合には,適用しない。
抵当不動産の第三取得者は,その競売において買受人となることができる。
抵当不動産の第三取得者は,抵当不動産について必要費又は有益費を支出したときは,第196条の区別に従い,抵当不動産の代価から,他の債権者より先にその償還を受けることができる。
①債権者が同一の債権の担保として数個の不動産につき抵当権を有する場合において,同時にその代価を配当すべきときは,その各不動産の価額に応じて,その債権の負担を按(あん)分する。
②債権者が同一の債権の担保として数個の不動産につき抵当権を有する場合において,ある不動産の代価のみを配当すべきときは,抵当権者は,その代価から債権の全部の弁済を受けることができる。この場合において,次順位の抵当権者は,その弁済を受ける抵当権者が前項の規定に従い他の不動産の代価から弁済を受けるべき金額を限度として,その抵当権者に代位して抵当権を行使することができる。
前条第2項後段の規定により代位によって抵当権を行使する者は,その抵当権の登記にその代位を付記することができる。
①抵当権者は,抵当不動産の代価から弁済を受けない債権の部分についてのみ,他の財産から弁済を受けることができる。
②前項の規定は,抵当不動産の代価に先立って他の財産の代価を配当すべき場合には,適用しない。この場合において,他の各債権者は,抵当権者に同項の規定による弁済を受けさせるため,抵当権者に配当すべき金額の供託を請求することができる。
①抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用又は収益をする者であって次に掲げるもの(次項において「抵当建物使用者」という。)は,その建物の競売における買受人の買受けの時から6箇月を経過するまでは,その建物を買受人に引き渡すことを要しない。
一 競売手続の開始前から使用又は収益をする者
二 強制管理又は担保不動産収益執行の管理人が競売手続の開始後にした賃貸借により使用又は収益をする者
②前項の規定は,買受人の買受けの時より後に同項の建物の使用をしたことの対価について,買受人が抵当建物使用者に対し相当の期間を定めてその1箇月分以上の支払の催告をし,その相当の期間内に履行がない場合には,適用しない。
抵当権は,債務者及び抵当権設定者に対しては,その担保する債権と同時でなければ,時効によって消滅しない。
債務者又は抵当権設定者でない者が抵当不動産について取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは,抵当権は,これによって消滅する。
地上権又は永小作権を抵当権の目的とした地上権者又は永小作人は,その権利を放棄しても,これをもって抵当権者に対抗することができない。
①抵当権は,設定行為で定めるところにより,一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保するためにも設定することができる。
②前項の規定による抵当権(以下「根抵当権」という。)の担保すべき不特定の債権の範囲は,債務者との特定の継続的取引契約によって生ずるものその他債務者との一定の種類の取引によって生ずるものに限定して,定めなければならない。
③特定の原因に基づいて債務者との間に継続して生ずる債権,手形上若しくは小切手上の請求権又は電子記録債権(電子記録債権法(平成19年法律第102号)第2条第1項に規定する電子記録債権をいう。次条第2項において同じ。)は,前項の規定にかかわらず,根抵当権の担保すべき債権とすることができる。
①根抵当権者は,確定した元本並びに利息その他の定期金及び債務の不履行によって生じた損害の賠償の全部について,極度額を限度として,その根抵当権を行使することができる。
②債務者との取引によらないで取得する手形上若しくは小切手上の請求権又は電子記録債権を根抵当権の担保すべき債権とした場合において,次に掲げる事由があったときは,その前に取得したものについてのみ,その根抵当権を行使することができる。ただし,その後に取得したものであっても,その事由を知らないで取得したものについては,これを行使することを妨げない。
一 債務者の支払の停止
二 債務者についての破産手続開始,再生手続開始,更生手続開始又は特別清算開始の申立て
三 抵当不動産に対する競売の申立て又は滞納処分による差押え
①根抵当権者は,確定した元本並びに利息その他の定期金及び債務の不履行によって生じた損害の賠償の全部について,極度額を限度として,その根抵当権を行使することができる。
②債務者との取引によらないで取得する手形上又は小切手上の請求権を根抵当権の担保すべき債権とした場合において,次に掲げる事由があったときは,その前に取得したものについてのみ,その根抵当権を行使することができる。ただし,その後に取得したものであっても,その事由を知らないで取得したものについては,これを行使することを妨げない。
一 債務者の支払の停止
二 債務者についての破産手続開始,再生手続開始,更生手続開始,整理開始又は特別清算開始の申立て
三 抵当不動産に対する競売の申立て又は滞納処分による差押え
①元本の確定前においては,根抵当権の担保すべき債権の範囲の変更をすることができる。債務者の変更についても,同様とする。
②前項の変更をするには,後順位の抵当権者その他の第三者の承諾を得ることを要しない。
③第1項の変更について元本の確定前に登記をしなかったときは,その変更をしなかったものとみなす。
根抵当権の極度額の変更は,利害関係を有する者の承諾を得なければ,することができない。
①根抵当権の担保すべき元本については,その確定すべき期日を定め又は変更することができる。
②第398条の4第2項の規定〔根抵当権の被担保債権の範囲及び債務者の変更の場合の後順位の抵当権者その他の第三者の承諾の不要〕は,前項の場合について準用する。
③第1項の期日は,これを定め又は変更した日から5年以内でなければならない。
④第1項の期日の変更についてその変更前の期日より前に登記をしなかったときは,担保すべき元本は,その変更前の期日に確定する。
①元本の確定前に根抵当権者から債権を取得した者は,その債権について根抵当権を行使することができない。元本の確定前に債務者のために又は債務者に代わって弁済をした者も,同様とする。
②元本の確定前に債務の引受けがあったときは,根抵当権者は,引受人の債務について,その根抵当権を行使することができない。
③元本の確定前に免責的債務引受があった場合における債権者は,第472条の4第1項の規定〔免責的債務引受による担保の移転〕にかかわらず,根抵当権を引受人が負担する債務に移すことができない。
④元本の確定前に債権者の交替による更改があった場合における更改前の債権者は,第518条第1項の規定〔更改後の債務への担保の移転〕にかかわらず,根抵当権を更改後の債務に移すことができない。元本の確定前に債務者の交替による更改があった場合における債権者も,同様とする。
①元本の確定前に根抵当権者から債権を取得した者は,その債権について根抵当権を行使することができない。元本の確定前に債務者のために又は債務者に代わって弁済をした者も,同様とする。
②元本の確定前に債務の引受けがあったときは,根抵当権者は,引受人の債務について,その根抵当権を行使することができない。
③元本の確定前に債権者又は債務者の交替による更改があったときは,その当事者は,第518条〔更改後の債務への担保の移転〕の規定にかかわらず,根抵当権を更改後の債務に移すことができない。
①元本の確定前に根抵当権者について相続が開始したときは,根抵当権は,相続開始の時に存する債権のほか,相続人と根抵当権設定者との合意により定めた相続人が相続の開始後に取得する債権を担保する。
②元本の確定前にその債務者について相続が開始したときは,根抵当権は,相続開始の時に存する債務のほか,根抵当権者と根抵当権設定者との合意により定めた相続人が相続の開始後に負担する債務を担保する。
③第398条の4第2項の規定〔根抵当権の被担保債権の範囲及び債務者の変更における後順位の抵当権者その他の第三者の承諾の不要性〕は,前2項の合意をする場合について準用する。
④第1項及び第2項の合意について相続の開始後6箇月以内に登記をしないときは,担保すべき元本は,相続開始の時に確定したものとみなす。
①元本の確定前に根抵当権者について合併があったときは,根抵当権は,合併の時に存する債権のほか,合併後存続する法人又は合併によって設立された法人が合併後に取得する債権を担保する。
②元本の確定前にその債務者について合併があったときは,根抵当権は,合併の時に存する債務のほか,合併後存続する法人又は合併によって設立された法人が合併後に負担する債務を担保する。
③前2項の場合には,根抵当権設定者は,担保すべき元本の確定を請求することができる。ただし,前項の場合において,その債務者が根抵当権設定者であるときは,この限りでない。
④前項の規定による請求があったときは,担保すべき元本は,合併の時に確定したものとみなす。
⑤第3項の規定による請求は,根抵当権設定者が合併のあったことを知った日から2週間を経過したときは,することができない。合併の日から1箇月を経過したときも,同様とする。
①元本の確定前に根抵当権者を分割をする会社とする分割があったときは,根抵当権は,分割の時に存する債権のほか,分割をした会社及び分割により設立された会社又は当該分割をした会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を当該会社から承継した会社が分割後に取得する債権を担保する。
②元本の確定前にその債務者を分割をする会社とする分割があったときは,根抵当権は,分割の時に存する債務のほか,分割をした会社及び分割により設立された会社又は当該分割をした会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を当該会社から承継した会社が分割後に負担する債務を担保する。
③前条第3項から第5項までの規定は,前2項の場合について準用する。
①元本の確定前においては,根抵当権者は,第376条第1項の規定〔転抵当,抵当権の譲渡,抵当権の放棄,抵当権の順位の譲渡,抵当権の順位の放棄〕による根抵当権の処分をすることができない。ただし,その根抵当権を他の債権の担保とすることを妨げない。
②第377条第2項の規定〔抵当権の処分の対抗要件が供えられた後の弁済の効果〕は,前項ただし書の場合において元本の確定前にした弁済については,適用しない。
①元本の確定前においては,根抵当権者は,根抵当権設定者の承諾を得て,その根抵当権を譲り渡すことができる。
②根抵当権者は,その根抵当権を2個の根抵当権に分割して,その一方を前項の規定により譲り渡すことができる。この場合において,その根抵当権を目的とする権利は,譲り渡した根抵当権について消滅する。
③前項の規定による譲渡をするには,その根抵当権を目的とする権利を有する者の承諾を得なければならない。
元本の確定前においては,根抵当権者は,根抵当権設定者の承諾を得て,その根抵当権の一部譲渡(譲渡人が譲受人と根抵当権を共有するため,これを分割しないで譲り渡すことをいう。以下この節において同じ。)をすることができる。
①根抵当権の共有者は,それぞれその債権額の割合に応じて弁済を受ける。ただし,元本の確定前に,これと異なる割合を定め,又はある者が他の者に先立って弁済を受けるべきことを定めたときは,その定めに従う。
②根抵当権の共有者は,他の共有者の同意を得て,第398条の12第1項の規定によりその権利を譲り渡すことができる。
抵当権の順位の譲渡又は放棄を受けた根抵当権者が,その根抵当権の譲渡又は一部譲渡をしたときは,譲受人は,その順位の譲渡又は放棄の利益を受ける。
第392条〔共同抵当における代価の配当〕及び第393条〔共同抵当における代位の付記登記〕の規定は,根抵当権については,その設定と同時に同一の債権の担保として数個の不動産につき根抵当権が設定された旨の登記をした場合に限り,適用する。
①前条の登記がされている根抵当権の担保すべき債権の範囲,債務者若しくは極度額の変更又はその譲渡若しくは一部譲渡は,その根抵当権が設定されているすべての不動産について登記をしなければ,その効力を生じない。
②前条の登記がされている根抵当権の担保すべき元本は,一個の不動産についてのみ確定すべき事由が生じた場合においても,確定する。
数個の不動産につき根抵当権を有する者は,第398条の16の場合を除き,各不動産の代価について,各極度額に至るまで優先権を行使することができる。
①根抵当権設定者は,根抵当権の設定の時から3年を経過したときは,担保すべき元本の確定を請求することができる。この場合において,担保すべき元本は,その請求の時から2週間を経過することによって確定する。
②根抵当権者は,いつでも,担保すべき元本の確定を請求することができる。この場合において,担保すべき元本は,その請求の時に確定する。
③前2項の規定は,担保すべき元本の確定すべき期日の定めがあるときは,適用しない。
①次に掲げる場合には,根抵当権の担保すべき元本は,確定する。
一 根抵当権者が抵当不動産について競売若しくは担保不動産収益執行又は第372条において準用する第304条の規定による差押えを申し立てたとき。ただし,競売手続若しくは担保不動産収益執行手続の開始又は差押えがあったときに限る。
二 根抵当権者が抵当不動産に対して滞納処分による差押えをしたとき。
三 根抵当権者が抵当不動産に対する競売手続の開始又は滞納処分による差押えがあったことを知った時から2週間を経過したとき
四 債務者又は根抵当権設定者が破産手続開始の決定を受けたとき。
②前項第3号の競売手続の開始若しくは差押え又は同項第4号の破産手続開始の決定の効力が消滅したときは,担保すべき元本は,確定しなかったものとみなす。ただし,元本が確定したものとしてその根抵当権又はこれを目的とする権利を取得した者があるときは,この限りでない。
①元本の確定後においては,根抵当権設定者は,その根抵当権の極度額を,現に存する債務の額と以後2年間に生ずべき利息その他の定期金及び債務の不履行による損害賠償の額とを加えた額に減額することを請求することができる。
②第398条の16〔共同根抵当〕の登記がされている根抵当権の極度額の減額については,前項の規定による請求は,そのうちの一個の不動産についてすれば足りる。
①元本の確定後において現に存する債務の額が根抵当権の極度額を超えるときは,他人の債務を担保するためその根抵当権を設定した者又は抵当不動産について所有権,地上権,永小作権若しくは第三者に対抗することができる賃借権を取得した第三者は,その極度額に相当する金額を払い渡し又は供託して,その根抵当権の消滅請求をすることができる。この場合において,その払渡し又は供託は,弁済の効力を有する。
②第398条の16〔共同根抵当〕の登記がされている根抵当権は,一個の不動産について前項の消滅請求があったときは,消滅する。
③第380条及び第381条の規定〔抵当権消滅請求権を行使できない者〕は,第1項の消滅請求について準用する。
債権は,金銭に見積もることができないものであっても,その目的とすることができる。
債権の目的が特定物の引渡しであるときは,債務者は,その引渡しをするまで,契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって,その物を保存しなければならない。
債権の目的が特定物の引渡しであるときは,債務者は,その引渡しをするまで,善良な管理者の注意をもって,その物を保存しなければならない。
①債権の目的物を種類のみで指定した場合において,法律行為の性質又は当事者の意思によってその品質を定めることができないときは,債務者は,中等の品質を有する物を給付しなければならない。
②前項の場合において,債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了し,又は債権者の同意を得てその給付すべき物を指定したときは,以後その物を債権の目的物とする。
①債権の目的物が金銭であるときは,債務者は,その選択に従い,各種の通貨で弁済をすることができる。ただし,特定の種類の通貨の給付を債権の目的としたときは,この限りでない。
②債権の目的物である特定の種類の通貨が弁済期に強制通用の効力を失っているときは,債務者は,他の通貨で弁済をしなければならない。
③前2項の規定は,外国の通貨の給付を債権の目的とした場合について準用する。
外国の通貨で債権額を指定したときは,債務者は,履行地における為替相場により,日本の通貨で弁済をすることができる。
①利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは,その利率は,その利息が生じた最初の時点における法定利率による。
②法定利率は,年3パーセントとする。
③前項の規定にかかわらず,法定利率は,法務省令で定めるところにより,3年を1期とし,1期ごとに,次項の規定により変動するものとする。
④各期における法定利率は,この項の規定により法定利率に変動があった期のうち直近のもの(以下この項において「直近変動期」という。)における基準割合と当期における基準割合との差に相当する割合(その割合に1パーセント未満の端数があるときは,これを切り捨てる。)を直近変動期における法定利率に加算し,又は減算した割合とする。
⑤前項に規定する「基準割合」とは,法務省令で定めるところにより,各期の初日の属する年の6年前の年の1月から前々年の12月までの各月における短期貸付けの平均利率(当該各月において銀行が新たに行った貸付け(貸付期間が1年未満のものに限る。)に係る利率の平均をいう。)の合計を60で除して計算した割合(その割合に0・1パーセント未満の端数があるときは,これを切り捨てる。)として法務大臣が告示するものをいう。
利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは,その利率は,年5分とする。
利息の支払が1年分以上延滞した場合において,債権者が催告をしても,債務者がその利息を支払わないときは,債権者は,これを元本に組み入れることができる。
債権の目的が数個の給付の中から選択によって定まるときは,その選択権は,債務者に属する。
【選択債務と考えると条文の意味が理解しやすい】選択債権の選択権が,債権者ではなく債務者にあるのはなぜか?「選択債権」という考えだと思考を停止して,暗記に走ることになる。しかし,「選択債務」と考えると,債務者保護の規定として素直に理解できる。
①前条の選択権は,相手方に対する意思表示によって行使する。
②前項の意思表示は,相手方の承諾を得なければ,撤回することができない。
債権が弁済期にある場合において,相手方から相当の期間を定めて催告をしても,選択権を有する当事者がその期間内に選択をしないときは,その選択権は,相手方に移転する。
【民法が与える形成権の特徴】取消権は,当事者の一方に権利を与えるものであるが,その濫用を防止するために,相手方には催告権が与えられることが多い(民法20条(制限行為者の相手方の催告権),民法114条(無権利代理の相手方の催告権))。この場合,相手方の催告に対して,確答をしないでいると,取消権を失う(追認したものとみなされる)という,逆転現象を起こすことによって,取消権の濫用を未然に防止している。選択権の場合も同様であり,選択権者が相当期間内に選択権を行使しないと,選択権を失うことになる(民法408条,409条2項)。
【異なる制度に共通する「権利濫用の防止」という一貫した趣旨の発見】申込みに対する承諾の権限を一種の形成権(契約締結権限)と捉えると,この場面においても,民法は,契約締結権限の濫用防止のための規定を用意していることを知ることができる。民法528条が,申し込みに変更を加えた承諾を「新たな申込み」とみなしているのは,被申込者が,申込者から与えられた契約締結権限を濫用して,契約内容を自分の有利なものへと変更しようとする濫用行為を防止するために,契約締結権限を被申込者から申込者へと移転させている規定であると解釈することができる。そのように解釈すると,民法20条,民法114条における相手方の催告権も,民法408条の選択権の移転も,民法528条の「変更を加えた承諾」の「新たな申込み」への権限の移転も,すべて,形成権者による濫用の防止という趣旨による同一の制度であることを理解することができるようになる。
①第三者が選択をすべき場合には,その選択は,債権者又は債務者に対する意思表示によってする。
②前項に規定する場合において,第三者が選択をすることができず,又は選択をする意思を有しないときは,選択権は,債務者に移転する。
債権の目的である給付の中に不能のものがある場合において,その不能が選択権を有する者の過失によるものであるときは,債権は,その残存するものについて存在する。
①債権の目的である給付の中に,初めから不能であるもの又は後に至って不能となったものがあるときは,債権は,その残存するものについて存在する。
②選択権を有しない当事者の過失によって給付が不能となったときは,前項の規定は,適用しない。
【不能には原始的不能と後発的不能とが含まれる】本条は,不能には,原始的不能と後発的不能が存在し,いずれも,債務不履行の次元で取り扱うことができるという点で,新設された改正民法412条の2第2項(原始的不能と後発的不能の区別の廃止)の先駆けとなる重要な条文である。それにもかかわらず原始的不能と後発的不能という重要な用語法を残すことなく,一律に「不能」と改正した新410条は,歴史的な用語法の重要性を無視した暴挙であると言わざるを得ない。効果が異なる場合には,それぞれの場合を分けて区別を明確にするというのが改正法の基本方針だったはずである。それににもかかわらず,民法410条においては,旧規定が,選択権が特定する場合と,選択権が存続する場合とを,1項と2項とに分けて明確に区別していたのに対して,それらを一つの項にまとめてしまいその区別をあいまいにしてしまったのであるから,この変更は,改悪以外の何物でもない。
選択は,債権の発生の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし,第三者の権利を害することはできない。
①債務の履行について確定期限があるときは,債務者は,その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。
②債務の履行について不確定期限があるときは,債務者は,その期限の到来した後に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負う。
③債務の履行について期限を定めなかったときは,債務者は,履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
①債務の履行について確定期限があるときは,債務者は,その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。
②債務の履行について不確定期限があるときは,債務者は,その期限の到来したことを知った時から遅滞の責任を負う。
③債務の履行について期限を定めなかったときは,債務者は,履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
①債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは,債権者は,その債務の履行を請求することができない。
②契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは,第415条〔債務不履行による損害賠償〕の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。
①債権者が債務の履行を受けることを拒み,又は受けることができない場合において,その債務の目的が特定物の引渡しであるときは,債務者は,履行の提供をした時からその引渡しをするまで,自己の財産に対するのと同一の注意をもって,その物を保存すれば足りる。
②債権者が債務の履行を受けることを拒み,又は受けることができないことによって,その履行の費用が増加したときは,その増加額は,債権者の負担とする。
①債務者がその債務について遅滞の責任を負っている間に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは,その履行の不能は,債務者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。
②債権者が債務の履行を受けることを拒み,又は受けることができない場合において,履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは,その履行の不能は,債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。
①債務者が任意に債務の履行をしないときは,債権者は,民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定に従い,直接強制,代替執行,間接強制その他の方法による履行の強制を裁判所に請求することができる。ただし,債務の性質がこれを許さないときは,この限りでない。
②前項の規定は,損害賠償の請求を妨げない。
①債務者が任意に債務の履行をしないときは,債権者は,その強制履行を裁判所に請求することができる。ただし,債務の性質がこれを許さないときは,この限りでない。
②債務の性質が強制履行を許さない場合において,その債務が作為を目的とするときは,債権者は,債務者の費用で第三者にこれをさせることを裁判所に請求することができる。ただし,法律行為を目的とする債務については,裁判をもって債務者の意思表示に代えることができる。
③不作為を目的とする債務については,債務者の費用で,債務者がした行為の結果を除去し,又は将来のため適当な処分をすることを裁判所に請求することができる。
①債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは,債権者は,これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし,その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは,この限りでない。
②前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において,債権者は,次に掲げるときは,債務の履行に代わる損害賠償の請求〔填補賠償請求〕をすることができる。
一 債務の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務が契約によって生じたものである場合において,その契約が解除され,又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。
改正民法415条2項の各号に掲げられた場合は,いずれの場合も,民法542条(催告によらない解除)によって,催告不要の解除権が発生する場合である。その場合に債権者が解除をすれば,解除(代金請求との清算処理による同時履行・同時消滅(改正民法546条))と矛盾することになる「履行に代わる損害賠償請求権」は,信義則に反して行使できなくなるはずである(民法545条4項の損害賠償請求には,填補賠償は含まれない)。
解除によって,履行請求と代金請求の双方の問題が同時に解決するにもかかわらず,あえて,填補賠償請求と代金請求とを温存させて,ことさら相殺の問題を顕在化させ,問題を複雑化させる必要性は存在しない。つまり,改正民法415条2項は,債権者を過剰に保護する不要な規定であって,削除されるべき規定である。
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは,債権者は,これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも,同様とする。
①債務の不履行に対する損害賠償の請求は,これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
②特別の事情によって生じた損害であっても,当事者がその事情を予見すべきであったときは,債権者は,その賠償を請求することができる。
①債務の不履行に対する損害賠償の請求は,これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
②特別の事情によって生じた損害であっても,当事者がその事情を予見し,又は予見することができたときは,債権者は,その賠償を請求することができる。
損害賠償は,別段の意思表示がないときは,金銭をもってその額を定める。
①将来において取得すべき利益についての損害賠償の額を定める場合において,その利益を取得すべき時までの利息相当額を控除するときは,その損害賠償の請求権が生じた時点における法定利率により,これをする。
②将来において負担すべき費用についての損害賠償の額を定める場合において,その費用を負担すべき時までの利息相当額を控除するときも,前項と同様とする。
債務の不履行又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して債権者に過失があったときは,裁判所は,これを考慮して,損害賠償の責任及びその額を定める。
債務の不履行に関して債権者に過失があったときは,裁判所は,これを考慮して,損害賠償の責任及びその額を定める。
①金銭の給付を目的とする債務の不履行については,その損害賠償の額は,債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める。ただし,約定利率が法定利率を超えるときは,約定利率による。
②前項の損害賠償については,債権者は,損害の証明をすることを要しない。
③第1項の損害賠償については,債務者は,不可抗力をもって抗弁とすることができない。
①金銭の給付を目的とする債務の不履行については,その損害賠償の額は,法定利率によって定める。ただし,約定利率が法定利率を超えるときは,約定利率による。
②前項の損害賠償については,債権者は,損害の証明をすることを要しない。
③第1項の損害賠償については,債務者は,不可抗力をもって抗弁とすることができない。
①当事者は,債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。
②賠償額の予定は,履行の請求又は解除権の行使を妨げない。
③違約金は,賠償額の予定と推定する。
①当事者は,債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。この場合において,裁判所は,その額を増減することができない。
②賠償額の予定は,履行の請求又は解除権の行使を妨げない。
③違約金は,賠償額の予定と推定する。
前条の規定は,当事者が金銭でないものを損害の賠償に充てるべき旨を予定した場合について準用する。
債権者が,損害賠償として,その債権の目的〔物〕である物又は権利の価額の全部の支払を受けたときは,債務者は,その物又は権利について当然に債権者に代位する。
債務者が,その債務の履行が不能となったのと同一の原因により債務の目的物の代償である権利又は利益を取得したときは,債権者は,その受けた損害の額の限度において,債務者に対し,その権利の移転又はその利益の償還を請求することができる。
①債権者は,自己の債権を保全するため必要があるときは,債務者に属する権利(以下「被代位権利」という。)を行使することができる。ただし,債務者の一身に専属する権利及び差押えを禁じられた権利は,この限りでない。
②債権者は,その債権の期限が到来しない間は,被代位権利を行使することができない。ただし,保存行為は,この限りでない。
③債権者は,その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは,被代位権利を行使することができない。
①債権者は,自己の債権を保全するため,債務者に属する権利を行使することができる。ただし,債務者の一身に専属する権利は,この限りでない。
②債権者は,その債権の期限が到来しない間は,裁判上の代位によらなければ,前項の権利を行使することができない。ただし,保存行為は,この限りでない。
債権者は,被代位権利を行使する場合において,被代位権利の目的が可分であるときは,自己の債権の額の限度においてのみ,被代位権利を行使することができる。
債権者は,被代位権利を行使する場合において,被代位権利が金銭の支払又は動産の引渡しを目的とするものであるときは,相手方に対し,その支払又は引渡しを自己に対してすることを求めることができる。この場合において,相手方が債権者に対してその支払又は引渡しをしたときは,被代位権利は,これによって消滅する。
債権者が被代位権利を行使したときは,相手方は,債務者に対して主張することができる抗弁をもって,債権者に対抗することができる。
債権者が被代位権利を行使した場合であっても,債務者は,被代位権利について,自ら取立てその他の処分をすることを妨げられない。この場合においては,相手方も,被代位権利について,債務者に対して履行をすることを妨げられない。
債権者は,被代位権利の行使に係る訴えを提起したときは,遅滞なく,債務者に対し,訴訟告知をしなければならない。
登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない財産を譲り受けた者は,その譲渡人が第三者に対して有する登記手続又は登録手続をすべきことを請求する権利を行使しないときは,その権利を行使することができる。この場合においては,前3条の規定を準用する。
①債権者は,債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし,その行為によって利益を受けた者(以下この款において「受益者」という。)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは,この限りでない。
②前項の規定は,財産権を目的としない行為については,適用しない。
③債権者は,その債権が第1項に規定する行為の前の原因に基づいて生じたものである場合に限り,同項の規定による請求(以下「詐害行為取消請求」という。)をすることができる。
④債権者は,その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは,詐害行為取消請求をすることができない。
①債権者は,債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし,その行為によって利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは,この限りでない。
②前項の規定は,財産権を目的【物】としない法律行為については,適用しない。
債務者が,その有する財産を処分する行為をした場合において,受益者から相当の対価を取得しているときは,債権者は,次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り,その行為について,詐害行為取消請求をすることができる。
一 その行為が,不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により,債務者において隠匿,無償の供与その他の債権者を害することとなる処分(以下この条において「隠匿等の処分」という。)をするおそれを現に生じさせるものであること。
二 債務者が,その行為の当時,対価として取得した金銭その他の財産について,隠匿等の処分をする意思を有していたこと。
三 受益者が,その行為の当時,債務者が隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。
①債務者がした既存の債務についての担保の供与又は債務の消滅に関する行為について,債権者は,次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り,詐害行為取消請求をすることができる。
一 その行為が,債務者が支払不能(債務者が,支払能力を欠くために,その債務のうち弁済期にあるものにつき,一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいう。次項第1号において同じ。)の時に行われたものであること。
二 その行為が,債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであること。
②前項に規定する行為が,債務者の義務に属せず,又はその時期が債務者の義務に属しないものである場合において,次に掲げる要件のいずれにも該当するときは,債権者は,同項の規定にかかわらず,その行為について,詐害行為取消請求をすることができる。
一 その行為が,債務者が支払不能になる前30日以内に行われたものであること。
二 その行為が,債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであること。
債務者がした債務の消滅に関する行為であって,受益者の受けた給付の価額がその行為によって消滅した債務の額より過大であるものについて,第424条に規定する要件に該当するときは,債権者は,前条第1項の規定にかかわらず,その消滅した債務の額に相当する部分以外の部分については,詐害行為取消請求をすることができる。
債権者は,受益者に対して詐害行為取消請求をすることができる場合において,受益者に移転した財産を転得した者があるときは,次の各号に掲げる区分に応じ,それぞれ当該各号に定める場合に限り,その転得者に対しても,詐害行為取消請求をすることができる。
一 その転得者が受益者から転得した者である場合 その転得者が,転得の当時,債務者がした行為が債権者を害することを知っていたとき。
二 その転得者が他の転得者から転得した者である場合 その転得者及びその前に転得した全ての転得者が,それぞれの転得の当時,債務者がした行為が債権者を害することを知っていたとき。
①債権者は,受益者に対する詐害行為取消請求において,債務者がした行為の取消しとともに,その行為によって受益者に移転した財産の返還を請求することができる。受益者がその財産の返還をすることが困難であるときは,債権者は,その価額の償還を請求することができる。
②債権者は,転得者に対する詐害行為取消請求において,債務者がした行為の取消しとともに,転得者が転得した財産の返還を請求することができる。転得者がその財産の返還をすることが困難であるときは,債権者は,その価額の償還を請求することができる。
①詐害行為取消請求に係る訴えについては,次の各号に掲げる区分に応じ,それぞれ当該各号に定める者を被告とする。
一 受益者に対する詐害行為取消請求に係る訴え 受益者
二 転得者に対する詐害行為取消請求に係る訴え その詐害行為取消請求の相手方である転得者
②債権者は,詐害行為取消請求に係る訴えを提起したときは,遅滞なく,債務者に対し,訴訟告知をしなければならない。
①債権者は,詐害行為取消請求をする場合において,債務者がした行為の目的が可分であるときは,自己の債権の額の限度においてのみ,その行為の取消しを請求することができる。
②債権者が第424条の6〔財産の返還又は価額の償還の請求〕第1項後段又は第2項後段の規定により価額の償還を請求する場合についても,前項と同様とする。
①債権者は,第424条の6〔財産の返還又は価額の償還の請求〕第1項前段又は第2項前段の規定により受益者又は転得者に対して財産の返還を請求する場合において,その返還の請求が金銭の支払又は動産の引渡しを求めるものであるときは,受益者に対してその支払又は引渡しを,転得者に対してその引渡しを,自己に対してすることを求めることができる。この場合において,受益者又は転得者は,債権者に対してその支払又は引渡しをしたときは,債務者に対してその支払又は引渡しをすることを要しない。
②債権者が第424条の6〔財産の返還又は価額の償還の請求〕第1項後段又は第2項後段の規定により受益者又は転得者に対して価額の償還を請求する場合についても,前項と同様とする。
詐害行為取消請求を認容する確定判決は,債務者及びその全ての債権者に対してもその効力を有する。
今回の改正によって,遅れてきた債権者は,他の債権者の訴訟への関与なしに,受益者又は転得者から逸失財産の引渡等を独占的に受けることができることになった。それにもかかわらず,判決の効力が,手続に関与しない他の債権者に及ぶというのは理解しがたい。
破産管財人が選任されない民法の詐害行為取消訴訟においては,債権者は,すべての債権者のために行動し,責任説を尊重して,逸失物の引渡し受けるのではなく,逸失物に対して,債権者平等の精神が生かされる強制執行手続への参加にとどめるべきであると思われる。
前条の規定による取消しは,すべての債権者の利益のためにその効力を生ずる。
債務者がした財産の処分に関する行為(債務の消滅に関する行為を除く。)が取り消されたときは,受益者は,債務者に対し,その財産を取得するためにした反対給付の返還を請求することができる。債務者がその反対給付の返還をすることが困難であるときは,受益者は,その価額の償還を請求することができる。
債務者がした債務の消滅に関する行為が取り消された場合(第424条の4〔過大な代物弁済等の特則〕の規定により取り消された場合を除く。)において,受益者が債務者から受けた給付を返還し,又はその価額を償還したときは,受益者の債務者に対する債権は,これによって原状に復する。
(詐害行為取消請求を受けた転得者の権利)
債務者がした行為が転得者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたときは,その転得者は,次の各号に掲げる区分に応じ,それぞれ当該各号に定める権利を行使することができる。ただし,その転得者がその前者から財産を取得するためにした反対給付又はその前者から財産を取得することによって消滅した債権の価額を限度とする。
一 第425条の2に規定する行為が取り消された場合 その行為が受益者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたとすれば同条の規定により生ずべき受益者の債務者に対する反対給付の返還請求権又はその価額の償還請求権
二 前条に規定する行為が取り消された場合(第424条の4〔過大な代物弁済等の特則〕の規定により取り消された場合を除く。) その行為が受益者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたとすれば前条の規定により回復すべき受益者の債務者に対する債権
詐害行為取消請求に係る訴えは,債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時から2年を経過したときは,提起することができない。行為の時から10年を経過したときも,同様とする。
第424条〔詐害行為取消権〕の規定による取消権は,債権者が取消しの原因を知った時から2年間行使しないときは,時効によって消滅する。行為の時から20年を経過したときも,同様とする。
数人の債権者又は債務者がある場合において,別段の意思表示がないときは,各債権者又は各債務者は,それぞれ等しい割合で権利を有し,又は義務を負う。
わが国の通説,例えば,我妻栄=有泉亨=清水誠『我妻・有泉コンメンタール民法 総則・物権・債権』〔第5版〕日本評論社(2018/4/1)822頁は,民法427条(分割債権及び分割債務)について,以下のような見解をとっている。
民法は,「多数当事者の債権及び債務」の総則として,「分割債権」(可分債権ともいう)と「分割債務」(可分債務ともいう)に関する427条の1か条をおく。すなわち,民法は,この形態をもって多数当事者の債権債務における原則としたのである。
この見解が破綻していることは,以下の立法理由を読むだけで明らかとなる。
広中俊雄『民法修正案(前三編)の理由書』有斐閣(1987)415頁は,本条の意義を以下のように明確に述べている。
本案に於ては不可分債務連帯債務及び保証債務の総則として本条を設け以て其主義を明にせり。而して此規定を設くる以上は財産編第444条〔不可分債務の履行〕の如き規定は自ら其必要なきに至るべきなり。
①債権者の一人が不可分債務の履行を受けたるときは,他の債権者の権利の限度に応じて,之に其利益を分与することを要す。
②又債務者の一人が義務の履行を為したるときは,義務の原因に従ひ又は従来相互の関係に従ひて,他の債務者の分担す可き部分に付き之に対して,担保の求償権を有す。
「不可分債務」の場合に,一人の債務者が全額の弁済をした場合,求償権が発生する。しかし,負担部分の観念がない「不可分債務」の個所には,求償の規定がない。したがって,「不可分債務」の場合にも,民法427条が適用され,弁済した債務者は,他の債務者に対して,「それぞれ等しい割合で」求償することができる。
同様にして,「連帯債務」において,負担部分が不明の時,または,証明ができない場合にも,民法427条が適用され,全額弁済した連帯債務者は,他の連帯債務者に対して,「それぞれ等しい割合で」求償することができる。以上が,「民法427条の立法者意思」であり,そのことは,条文の編別構成からも明らかである。
民法427条は,すでに述べたように,分割債権・分割債務のみについて規定する条文ではない。この条文の表題が「多数当事者の債権及び債務」の「総則」と書かれているように,民法427条は,可分債権・可分債務だけではなく,不可分債権・不可分債務,連帯債権・連帯債務,および,保証にも適用される。
この条文は,まさに,多数当事者の債権及び債務のすべてに適用される「総則」であって,「分割(可分)債権・債務」のみに適用される条文ではありえない。
したがって,民法427条の見出しは完全に誤りであって,削除されるか(そもそも,章・節・款が1か条のみから成り立っている場合には,条文見出しはつけてはいけないというのが立法上の大原則である),あえて見出しを付けるのであれば,「(多数当事者の債権及び債務関係における権利部分及び負担部分平等の推定)」へと変更されなければならない。
これほど明らかな誤りが,民法のほとんどすべての教科書において是認され,反論がなされていないことに現在の民法学の腐敗の一斑が示されているといえよう。権威に弱く,「判例」とか「立法」に対して無批判で盲従するという民法学者の一般的な傾向が,この条文見出しの削除,または,修正を主張することもなく放置していることに集約されているのではないだろうか。
次款(連帯債権)の規定(第433条及び第435条の規定を除く。)は,債権の目的がその性質上不可分である場合において,数人の債権者があるときについて準用する。
債権の目的がその性質上又は当事者の意思表示によって不可分である場合において,数人の債権者があるときは,各債権者はすべての債権者のために履行を請求し,債務者はすべての債権者のために各債権者に対して履行をすることができる。
不可分債権者の一人と債務者との間に更改又は免除があった場合においても,他の不可分債権者は,債務の全部の履行を請求することができる。この場合においては,その一人の不可分債権者がその権利を失わなければ分与されるべき利益を債務者に償還しなければならない。
①不可分債権者の1人と債務者との間に更改又は免除があった場合においても,他の不可分債権者は,債務の全部の履行を請求することができる。この場合においては,その1人の不可分債権者がその権利を失わなければ分与される利益を債務者に償還しなければならない。
②前項に規定する場合のほか,不可分債権者の1人の行為又は1人について生じた事由は,他の不可分債権者に対してその効力を生じない。
第4款(連帯債務)の規定(第440条〔連帯債務者の一人との間の混同〕の規定を除く。)は,債務の目的がその性質上不可分である場合において,数人の債務者があるときについて準用する。
前条の規定及び次款(連帯債務)の規定(第434条から第440条まで〔連帯債務者の1人について生じた事由の他の連帯債務者に対する効力〕の規定を除く。)は,数人が不可分債務を負担する場合について準用する。
不可分債権が可分債権となったときは,各債権者は自己が権利を有する部分についてのみ履行を請求することができ,不可分債務が可分債務となったときは,各債務者はその負担部分についてのみ履行の責任を負う。
債権の目的がその性質上可分である場合において,法令の規定又は当事者の意思表示によって数人が連帯して債権を有するときは,各債権者は,全ての債権者のために全部又は一部の履行を請求することができ,債務者は,全ての債権者のために各債権者に対して履行をすることができる。
連帯債権者の一人と債務者との間に更改又は免除があったときは,その連帯債権者がその権利を失わなければ分与されるべき利益に係る部分については,他の連帯債権者は,履行を請求することができない。
債務者が連帯債権者の一人に対して債権を有する場合において,その債務者が相殺を援用したときは,その相殺は,他の連帯債権者に対しても,その効力を生ずる。
連帯債権者の一人と債務者との間に混同があったときは,債務者は,弁済をしたものとみなす。
第432条から前条までに規定する場合を除き,連帯債権者の一人の行為又は一人について生じた事由は,他の連帯債権者に対してその効力を生じない。ただし,他の連帯債権者の一人及び債務者が別段の意思を表示したときは,当該他の連帯債権者に対する効力は,その意思に従う。
債務の目的がその性質上可分である場合において,法令の規定又は当事者の意思表示によって数人が連帯して債務を負担するときは,債権者は,その連帯債務者の一人に対し,又は同時に若しくは順次に全ての連帯債務者に対し,全部又は一部の履行を請求することができる。
数人が連帯債務を負担するときは,債権者は,その連帯債務者の1人に対し,又は同時に若しくは順次にすべての連帯債務者に対し,全部又は一部の履行を請求することができる。
連帯債務者の一人について法律行為の無効又は取消しの原因があっても,他の連帯債務者の債務は,その効力を妨げられない。
連帯債務者の1人について法律行為の無効又は取消しの原因があっても,他の連帯債務者の債務は,その効力を妨げられない。
連帯債務者の1人に対する履行の請求は,他の連帯債務者に対しても,その効力を生ずる。
連帯債務者の一人と債権者との間に更改があったときは,債権は,全ての連帯債務者の利益のために消滅する。
連帯債務者の一人と債権者との間に更改があったときは,債権は,すべての連帯債務者の利益のために消滅する。
①連帯債務者の一人が債権者に対して債権を有する場合において,その連帯債務者が相殺を援用したときは,債権は,全ての連帯債務者の利益のために消滅する。
②前項の債権を有する連帯債務者が相殺を援用しない間は,その連帯債務者の負担部分の限度において,他の連帯債務者は,債権者に対して債務の履行を拒むことができる。
①連帯債務者の1人が債権者に対して債権を有する場合において,その連帯債務者が相殺を援用したときは,債権は,すべての連帯債務者の利益のために消滅する。
②前項の債権を有する連帯債務者が相殺を援用しない間は,その連帯債務者の負担部分についてのみ他の連帯債務者が相殺を援用することができる。
連帯債務者の一人に対してした債務の免除は,その連帯債務者の負担部分についてのみ,他の連帯債務者の利益のためにも,その効力を生ずる。
連帯債務者の一人と債権者との間に混同があったときは,その連帯債務者は,弁済をしたものとみなす。
連帯債務者の一人と債権者との間に混同があったときは,その連帯債務者は,弁済をしたものとみなす。
連帯債務者の一人のために時効が完成したときは,その連帯債務者の負担部分については,他の連帯債務者も,その義務を免れる。
第438条,第439条第1項及び前条に規定する場合を除き,連帯債務者の一人について生じた事由は,他の連帯債務者に対してその効力を生じない。ただし,債権者及び他の連帯債務者の一人が別段の意思を表示したときは,当該他の連帯債務者に対する効力は,その意思に従う。
第434条から前条まで〔連帯債務者の1人について生じた事由の他の連帯債務者に対する絶対的効力〕に規定する場合を除き,連帯債務者の1人について生じた事由は,他の連帯債務者に対してその効力を生じない。
連帯債務者の全員又はそのうちの数人が破産手続開始の決定を受けたときは,債権者は,その債権の全額について各破産財団の配当に加入することができる。
①連帯債務者の一人が弁済をし,その他自己の財産をもって共同の免責を得たときは,その連帯債務者は,その免責を得た額が自己の負担部分を超えるかどうかにかかわらず,他の連帯債務者に対し,その免責を得るために支出した財産の額(その財産の額が共同の免責を得た額を超える場合にあっては,その免責を得た額)のうち各自の負担部分に応じた額の求償権を有する。
②前項の規定による求償は,弁済その他免責があった日以後の法定利息及び避けることができなかった費用その他の損害の賠償を包含する。
①連帯債務者の1人が弁済をし,その他自己の財産をもって共同の免責を得たときは,その連帯債務者は,他の連帯債務者に対し,各自の負担部分について求償権を有する。
②前項の規定による求償は,弁済その他免責があった日以後の法定利息及び避けることができなかった費用その他の損害の賠償を包含する。
①他の連帯債務者があることを知りながら,連帯債務者の一人が共同の免責を得ることを他の連帯債務者に通知しないで弁済をし,その他自己の財産をもって共同の免責を得た場合において,他の連帯債務者は,債権者に対抗することができる事由を有していたときは,その負担部分について,その事由をもってその免責を得た連帯債務者に対抗することができる。この場合において,相殺をもってその免責を得た連帯債務者に対抗したときは,その連帯債務者は,債権者に対し,相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。
②弁済をし,その他自己の財産をもって共同の免責を得た連帯債務者が,他の連帯債務者があることを知りながらその免責を得たことを他の連帯債務者に通知することを怠ったため,他の連帯債務者が善意で弁済その他自己の財産をもって免責を得るための行為をしたときは,当該他の連帯債務者は,その免責を得るための行為を有効であったものとみなすことができる。
①連帯債務者の1人が債権者から履行の請求を受けたことを他の連帯債務者に通知しないで弁済をし,その他自己の財産をもって共同の免責を得た場合において,他の連帯債務者は,債権者に対抗することができる事由を有していたときは,その負担部分について,その事由をもってその免責を得た連帯債務者に対抗することができる。この場合において,相殺をもってその免責を得た連帯債務者に対抗したときは,過失のある連帯債務者は,債権者に対し,相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。
②連帯債務者の1人が弁済をし,その他自己の財産をもって共同の免責を得たことを他の連帯債務者に通知することを怠ったため,他の連帯債務者が善意で弁済をし,その他有償の行為をもって免責を得たときは,その免責を得た連帯債務者は,自己の弁済その他免責のためにした行為を有効であったものとみなすことができる。
①連帯債務者の中に償還をする資力のない者があるときは,その償還をすることができない部分は,求償者及び他の資力のある者の間で,各自の負担部分に応じて分割して負担する。
②前項に規定する場合において,求償者及び他の資力のある者がいずれも負担部分を有しない者であるときは,その償還をすることができない部分は,求償者及び他の資力のある者の間で,等しい割合で分割して負担する。
③前2項の規定にかかわらず,償還を受けることができないことについて求償者に過失があるときは,他の連帯債務者に対して分担を請求することができない。
連帯債務者の中に償還をする資力のない者があるときは,その償還をすることができない部分は,求償者及び他の資力のある者の間で,各自の負担部分に応じて分割して負担する。ただし,求償者に過失があるときは,他の連帯債務者に対して分担を請求することができない。
連帯債務者の一人に対して債務の免除がされ,又は連帯債務者の一人のために時効が完成した場合においても,他の連帯債務者は,その一人の連帯債務者に対し,第442条第1項の求償権を行使することができる。
連帯債務者の1人が連帯の免除を得た場合において,他の連帯債務者の中に弁済をする資力のない者があるときは,債権者は,その資力のない者が弁済をすることができない部分のうち連帯の免除を得た者が負担すべき部分を負担する。
この条文は,連帯債務の免除ではなく,連帯の免除に関する唯一の条文であったが,この条文も,不当にも削除されてしまった。
①保証人は,主たる債務者がその債務を履行しないときに,その履行をする責任を負う。
②保証契約は,書面でしなければ,その効力を生じない。
③保証契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは,その保証契約は,書面によってされたものとみなして,前項の規定を適用する。
①保証人は,主たる債務者がその債務を履行しないときに,その履行をする責任を負う。
②保証契約は,書面でしなければ,その効力を生じない。
③保証契約がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって,電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)によってされたときは,その保証契約は,書面によってされたものとみなして,前項の規定を適用する。
①保証債務は,主たる債務に関する利息,違約金,損害賠償その他その債務に従たるすべてのものを包含する。
②保証人は,その保証債務についてのみ,違約金又は損害賠償の額を約定することができる。
①保証人の負担が債務の目的又は態様において主たる債務より重いときは,これを主たる債務の限度に減縮する。
②主たる債務の目的又は態様が保証契約の締結後に加重されたときであっても,保証人の負担は加重されない。
保証人の負担が債務の目的又は態様において主たる債務より重いときは,これを主たる債務の限度に減縮する。
行為能力の制限によって取り消すことができる債務を保証した者は,保証契約の時においてその取消しの原因を知っていたときは,主たる債務の不履行の場合又はその債務の取消しの場合においてこれと同一の目的を有する独立の債務を負担したものと推定する。
この規定は,保証の付従性を緩和する非常に危険な契約であり,「独立担保契約」という別の名前で呼ぶのが正しく,保証契約とは別個の異なる契約であることに留意すべきである。
①債務者が保証人を立てる義務を負う場合には,その保証人は,次に掲げる要件を具備する者でなければならない。
一 行為能力者であること。
二 弁済をする資力を有すること。
②保証人が前項第2号に掲げる要件を欠くに至ったときは,債権者は,同項各号に掲げる要件を具備する者をもってこれに代えることを請求することができる。
③前2項の規定は,債権者が保証人を指名した場合には,適用しない。
債務者は,前条第1項各号に掲げる要件を具備する保証人を立てることができないときは,他の担保を供してこれに代えることができる。
債権者が保証人に債務の履行を請求したときは,保証人は,まず主たる債務者に催告をすべき旨を請求することができる。ただし,主たる債務者が破産手続開始の決定を受けたとき,又はその行方が知れないときは,この限りでない。
債権者が前条の規定に従い主たる債務者に催告をした後であっても,保証人が主たる債務者に弁済をする資力があり,かつ,執行が容易であることを証明したときは,債権者は,まず主たる債務者の財産について執行をしなければならない。
保証人は,主たる債務者と連帯して債務を負担したときは,前2条の権利を有しない。
第452条〔催告の抗弁権〕又は第453条〔検索の抗弁権〕の規定により保証人の請求又は証明があったにもかかわらず,債権者が催告又は執行をすることを怠ったために主たる債務者から全部の弁済を得られなかったときは,保証人は,債権者が直ちに催告又は執行をすれば弁済を得ることができた限度において,その義務を免れる。
数人の保証人がある場合には,それらの保証人が各別の行為により債務を負担したときであっても,第427条〔多数当事者の債権及び債務の総則〕の規定を適用する。
①主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の完成猶予及び更新は,保証人に対しても,その効力を生ずる。
②保証人は,主たる債務者が主張することができる抗弁をもって債権者に対抗することができる。
③主たる債務者が債権者に対して相殺権,取消権又は解除権を有するときは,これらの権利の行使によって主たる債務者がその債務を免れるべき限度において,保証人は,債権者に対して債務の履行を拒むことができる。
①主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の中断は,保証人に対しても,その効力を生ずる。
②保証人は,〔自己又は〕主たる債務者の債権による相殺をもって債権者に対抗することができる
第438条,第439条第1項,第440条及び第441条〔連帯債務者の一人について生じた事由の他の連帯債務者に対する効力〕の規定は,主たる債務者と連帯して債務を負担する保証人について生じた事由について準用する。
第434条から第440条まで〔連帯債務者の一人について生じた事由の他の連帯債務者に対する効力〕の規定は,主たる債務者が保証人と連帯して債務を負担する場合について準用する。
保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において,保証人の請求があったときは,債権者は,保証人に対し,遅滞なく,主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息,違約金,損害賠償その他その債務に従たる全てのものについての不履行の有無並びにこれらの残額及びそのうち弁済期が到来しているものの額に関する情報を提供しなければならない。
①主たる債務者が期限の利益を有する場合において,その利益を喪失したときは,債権者は,保証人に対し,その利益の喪失を知った時から2箇月以内に,その旨を通知しなければならない。
②前項の期間内に同項の通知をしなかったときは,債権者は,保証人に対し,主たる債務者が期限の利益を喪失した時から同項の通知を現にするまでに生じた遅延損害金(期限の利益を喪失しなかったとしても生ずべきものを除く。)に係る保証債務の履行を請求することができない。
③前2項の規定は,保証人が法人である場合には,適用しない。
①保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において,主たる債務者に代わって弁済その他自己の財産をもって債務を消滅させる行為(以下「債務の消滅行為」という。)をしたときは,その保証人は,主たる債務者に対し,そのために支出した財産の額(その財産の額がその債務の消滅行為によって消滅した主たる債務の額を超える場合にあっては,その消滅した額)の求償権を有する。
②第442条第2項の規定は,前項の場合について準用する。
①保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において,過失なく債権者に弁済をすべき旨の裁判の言渡しを受け,又は主たる債務者に代わって弁済をし,その他自己の財産をもって債務を消滅させるべき行為をしたときは,その保証人は,主たる債務者に対して求償権を有する。
②第442条第2項〔連帯債務者間の求償権の範囲〕の規定は,前項の場合について準用する。
①保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において,主たる債務の弁済期前に債務の消滅行為をしたときは,その保証人は,主たる債務者に対し,主たる債務者がその当時利益を受けた限度において求償権を有する。この場合において,主たる債務者が債務の消滅行為の日以前に相殺の原因を有していたことを主張するときは,保証人は,債権者に対し,その相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。
②前項の規定による求償は,主たる債務の弁済期以後の法定利息及びその弁済期以後に債務の消滅行為をしたとしても避けることができなかった費用その他の損害の賠償を包含する。
③第1項の求償権は,主たる債務の弁済期以後でなければ,これを行使することができない。
保証人は,主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において,次に掲げるときは,主たる債務者に対して,あらかじめ,求償権を行使することができる。
一 主たる債務者が破産手続開始の決定を受け,かつ,債権者がその破産財団の配当に加入しないとき。
二 債務が弁済期にあるとき。ただし,保証契約の後に債権者が主たる債務者に許与した期限は,保証人に対抗することができない。
三 保証人が過失なく債権者に弁済をすべき旨の裁判の言渡しを受けたとき。
保証人は,主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において,次に掲げるときは,主たる債務者に対して,あらかじめ,求償権を行使することができる。
一 主たる債務者が破産手続開始の決定を受け,かつ,債権者がその破産財団の配当に加入しないとき。
二 債務が弁済期にあるとき。ただし,保証契約の後に債権者が主たる債務者に許与した期限は,保証人に対抗することができない。
三 債務の弁済期が不確定で,かつ,その最長期をも確定することができない場合において,保証契約の後10年を経過したとき。
①前条の規定により主たる債務者が保証人に対して償還をする場合において,債権者が全部の弁済を受けない間は,主たる債務者は,保証人に担保を供させ,又は保証人に対して自己に免責を得させることを請求することができる。
②前項に規定する場合において,主たる債務者は,供託をし,担保を供し,又は保証人に免責を得させて,その償還の義務を免れることができる。
①前2条〔委託を受けた保証人の求償権〕の規定により主たる債務者が保証人に対して償還をする場合において,債権者が全部の弁済を受けない間は,主たる債務者は,保証人に担保を供させ,又は保証人に対して自己に免責を得させることを請求することができる。
②前項に規定する場合において,主たる債務者は,供託をし,担保を供し,又は保証人に免責を得させて,その償還の義務を免れることができる。
①第459条の2第1項〔債務の弁済期前に債務の消滅行為をした保証人の債務者又は債権者に対する履行請求権の範囲〕の規定は,主たる債務者の委託を受けないで保証をした者が債務の消滅行為をした場合について準用する。
②主たる債務者の意思に反して保証をした者は,主たる債務者が現に利益を受けている限度においてのみ求償権を有する。この場合において,主たる債務者が求償の日以前に相殺の原因を有していたことを主張するときは,保証人は,債権者に対し,その相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。
③第459条の2第3項〔求償権の行使時期〕の規定は,前2項に規定する保証人が主たる債務の弁済期前に債務の消滅行為をした場合における求償権の行使について準用する。
①主たる債務者の委託を受けないで保証をした者が弁済をし,その他自己の財産をもって主たる債務者にその債務を免れさせたときは,主たる債務者は,その当時利益を受けた限度において償還をしなければならない。
②主たる債務者の意思に反して保証をした者は,主たる債務者が現に利益を受けている限度においてのみ求償権を有する。この場合において,主たる債務者が求償の日以前に相殺の原因を有していたことを主張するときは,保証人は,債権者に対し,その相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。
①保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において,主たる債務者にあらかじめ通知しないで債務の消滅行為をしたときは,主たる債務者は,債権者に対抗することができた事由をもってその保証人に対抗することができる。この場合において,相殺をもってその保証人に対抗したときは,その保証人は,債権者に対し,相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。
②保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において,主たる債務者が債務の消滅行為をしたことを保証人に通知することを怠ったため,その保証人が善意で債務の消滅行為をしたときは,その保証人は,その債務の消滅行為を有効であったものとみなすことができる。
③保証人が債務の消滅行為をした後に主たる債務者が債務の消滅行為をした場合においては,保証人が主たる債務者の意思に反して保証をしたときのほか,保証人が債務の消滅行為をしたことを主たる債務者に通知することを怠ったため,主たる債務者が善意で債務の消滅行為をしたときも,主たる債務者は,その債務の消滅行為を有効であったものとみなすことができる。
①第443条〔通知を怠った連帯債務者の求償の制限〕の規定は,保証人について準用する。
②保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において,善意で弁済をし,その他自己の財産をもって債務を消滅させるべき行為をしたときは,第443条〔通知を怠った連帯債務者の求償の制限〕の規定は,主たる債務者についても準用する。
連帯債務者又は不可分債務者の一人のために保証をした者は,他の債務者に対し,その負担部分のみについて求償権を有する。
①第442条〔連帯債務者間の求償権〕から第444条〔償還をする資力のない者の負担部分の分担〕までの規定は,数人の保証人がある場合において,そのうちの一人の保証人が,主たる債務が不可分であるため又は各保証人が全額を弁済すべき旨の特約があるため,その全額又は自己の負担部分を超える額を弁済したときについて準用する。
②第462条〔委託を受けない保証人の求償権〕の規定は,前項に規定する場合を除き,互いに連帯しない保証人の一人が全額又は自己の負担部分を超える額を弁済したときについて準用する。
①一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であって保証人が法人でないもの(以下「個人根保証契約」という。)の保証人は,主たる債務の元本,主たる債務に関する利息,違約金,損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について,その全部に係る極度額を限度として,その履行をする責任を負う。
②個人根保証契約は,前項に規定する極度額を定めなければ,その効力を生じない。
③第446条第2項及び第3項〔電磁記録の書面性〕の規定は,個人根保証契約における第1項に規定する極度額の定めについて準用する。
①一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であってその債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務(以下「貸金等債務」という。)が含まれるもの(保証人が法人であるものを除く。以下「貸金等根保証契約」という。)の保証人は,主たる債務の元本,主たる債務に関する利息,違約金,損害賠償その他その債務に従たるすべてのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について,その全部に係る極度額を限度として,その履行をする責任を負う。
②貸金等根保証契約は,前項に規定する極度額を定めなければ,その効力を生じない。
③第446条第2項及び第3項〔保証契約の書面性〕の規定は,貸金等根保証契約における第1項に規定する極度額の定めについて準用する。
①個人根保証契約であってその主たる債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務(以下「貸金等債務」という。)が含まれるもの(以下「個人貸金等根保証契約」という。)において主たる債務の元本の確定すべき期日(以下「元本確定期日」という。)の定めがある場合において,その元本確定期日がその個人貸金等根保証契約の締結の日から5年を経過する日より後の日と定められているときは,その元本確定期日の定めは,その効力を生じない。
②個人貸金等根保証契約において元本確定期日の定めがない場合(前項の規定により元本確定期日の定めがその効力を生じない場合を含む。)には,その元本確定期日は,その個人貸金等根保証契約の締結の日から3年を経過する日とする。
③個人貸金等根保証契約における元本確定期日の変更をする場合において,変更後の元本確定期日がその変更をした日から5年を経過する日より後の日となるときは,その元本確定期日の変更は,その効力を生じない。ただし,元本確定期日の前2箇月以内に元本確定期日の変更をする場合において,変更後の元本確定期日が変更前の元本確定期日から5年以内の日となるときは,この限りでない。
④第446条第2項及び第3項〔保証契約の書面性〕の規定は,個人貸金等根保証契約における元本確定期日の定め及びその変更(その個人貸金等根保証契約の締結の日から3年以内の日を元本確定期日とする旨の定め及び元本確定期日より前の日を変更後の元本確定期日とする変更を除く。)について準用する。
①貸金等根保証契約において主たる債務の元本の確定すべき期日(以下「元本確定期日」という。)の定めがある場合において,その元本確定期日がその貸金等根保証契約の締結の日から5年を経過する日より後の日と定められているときは,その元本確定期日の定めは,その効力を生じない。
②貸金等根保証契約において元本確定期日の定めがない場合(前項の規定により元本確定期日の定めがその効力を生じない場合を含む。)には,その元本確定期日は,その貸金等根保証契約の締結の日から3年を経過する日とする。
③貸金等根保証契約における元本確定期日の変更をする場合において,変更後の元本確定期日がその変更をした日から5年を経過する日より後の日となるときは,その元本確定期日の変更は,その効力を生じない。ただし,元本確定期日の前2箇月以内に元本確定期日の変更をする場合において,変更後の元本確定期日が変更前の元本確定期日から5年以内の日となるときは,この限りでない。
④第446条第2項及び第3項〔保証契約の書面性〕の規定は,貸金等根保証契約における元本確定期日の定め及びその変更(その貸金等根保証契約の締結の日から3年以内の日を元本確定期日とする旨の定め及び元本確定期日より前の日を変更後の元本確定期日とする変更を除く。)について準用する。
①次に掲げる場合には,個人根保証契約における主たる債務の元本は,確定する。ただし,第1号に掲げる場合にあっては,強制執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る。
一 債権者が,保証人の財産について,金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。
二 保証人が破産手続開始の決定を受けたとき。
三 主たる債務者又は保証人が死亡したとき。
②前項に規定する場合のほか,個人貸金等根保証契約における主たる債務の元本は,次に掲げる場合にも確定する。ただし,第1号に掲げる場合にあっては,強制執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る。
一 債権者が,主たる債務者の財産について,金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。
二 主たる債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。
次に掲げる場合には,貸金等根保証契約における主たる債務の元本は,確定する。
一 債権者が,主たる債務者又は保証人の財産について,金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。ただし,強制執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る。
二 主たる債務者又は保証人が破産手続開始の決定を受けたとき。
三 主たる債務者又は保証人が死亡したとき。
①保証人が法人である根保証契約において,第465条の2第1項に規定する極度額の定めがないときは,その根保証契約の保証人の主たる債務者に対する求償権に係る債務を主たる債務とする保証契約は,その効力を生じない。
②保証人が法人である根保証契約であってその主たる債務の範囲に貸金等債務が含まれるものにおいて,元本確定期日の定めがないとき,又は元本確定期日の定め若しくはその変更が第465条の3〔個人貸金等根保証契約の元本確定期日〕第1項若しくは第3項の規定を適用するとすればその効力を生じないものであるときは,その根保証契約の保証人の主たる債務者に対する求償権に係る債務を主たる債務とする保証契約は,その効力を生じない。主たる債務の範囲にその求償権に係る債務が含まれる根保証契約も,同様とする。
③前2項の規定は,求償権に係る債務を主たる債務とする保証契約又は主たる債務の範囲に求償権に係る債務が含まれる根保証契約の保証人が法人である場合には,適用しない。
保証人が法人である根保証契約であってその主たる債務の範囲に貸金等債務が含まれるものにおいて,第465条の2〔貸金等根保証契約〕第1項に規定する極度額の定めがないとき,元本確定期日の定めがないとき,又は元本確定期日の定め若しくはその変更が第465条の3〔貸金等根保証契約の元本確定期日〕第1項若しくは第3項の規定を適用するとすればその効力を生じないものであるときは,その根保証契約の保証人の主たる債務者に対する求償権についての保証契約(保証人が法人であるものを除く。)は,その効力を生じない。
①事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約又は主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約は,その契約の締結に先立ち,その締結の日前1箇月以内に作成された公正証書で保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ,その効力を生じない。
②前項の公正証書を作成するには,次に掲げる方式に従わなければならない。
一 保証人になろうとする者が,次のイ又はロに掲げる契約の区分に応じ,それぞれ当該イ又はロに定める事項を公証人に口授すること。
イ 保証契約(ロに掲げるものを除く。) 主たる債務の債権者及び債務者,主たる債務の元本,主たる債務に関する利息,違約金,損害賠償その他その債務に従たる全てのものの定めの有無及びその内容並びに主たる債務者がその債務を履行しないときには,その債務の全額について履行する意思(保証人になろうとする者が主たる債務者と連帯して債務を負担しようとするものである場合には,債権者が主たる債務者に対して催告をしたかどうか,主たる債務者がその債務を履行することができるかどうか,又は他に保証人があるかどうかにかかわらず,その全額について履行する意思)を有していること。
ロ 根保証契約 主たる債務の債権者及び債務者,主たる債務の範囲,根保証契約における極度額,元本確定期日の定めの有無及びその内容並びに主たる債務者がその債務を履行しないときには,極度額の限度において元本確定期日又は第465条の4第1項各号若しくは第2項各号に掲げる事由その他の元本を確定すべき事由が生ずる時までに生ずべき主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息,違約金,損害賠償その他その債務に従たる全てのものの全額について履行する意思(保証人になろうとする者が主たる債務者と連帯して債務を負担しようとするものである場合には,債権者が主たる債務者に対して催告をしたかどうか,主たる債務者がその債務を履行することができるかどうか,又は他に保証人があるかどうかにかかわらず,その全額について履行する意思)を有していること。
二 公証人が,保証人になろうとする者の口述を筆記し,これを保証人になろうとする者に読み聞かせ,又は閲覧させること。
三 保証人になろうとする者が,筆記の正確なことを承認した後,署名し,印を押すこと。ただし,保証人になろうとする者が署名することができない場合は,公証人がその事由を付記して,署名に代えることができる。
四 公証人が,その証書は前3号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して,これに署名し,印を押すこと。
③前2項の規定は,保証人になろうとする者が法人である場合には,適用しない。
①前条第1項の保証契約又は根保証契約の保証人になろうとする者が口がきけない者である場合には,公証人の前で,同条第2項第1号イ又はロに掲げる契約の区分に応じ,それぞれ当該イ又はロに定める事項を通訳人の通訳により申述し,又は自書して,同号の口授に代えなければならない。この場合における同項第2号の規定の適用については,同号中「口述」とあるのは,「通訳人の通訳による申述又は自書」とする。
②前条第1項の保証契約又は根保証契約の保証人になろうとする者が耳が聞こえない者である場合には,公証人は,同条第2項第2号に規定する筆記した内容を通訳人の通訳により保証人になろうとする者に伝えて,同号の読み聞かせに代えることができる。
③公証人は,前2項に定める方式に従って公正証書を作ったときは,その旨をその証書に付記しなければならない。
①第465条の6〔個人貸金等根保証契約の元本確定期日〕第1項及び第2項並びに前条の規定は,事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約又は主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約の保証人の主たる債務者に対する求償権に係る債務を主たる債務とする保証契約について準用する。主たる債務の範囲にその求償権に係る債務が含まれる根保証契約も,同様とする。
②前項の規定は,保証人になろうとする者が法人である場合には,適用しない。
前3条の規定は,保証人になろうとする者が次に掲げる者である保証契約については,適用しない。
一 主たる債務者が法人である場合のその理事,取締役,執行役又はこれらに準ずる者
二 主たる債務者が法人である場合の次に掲げる者
イ 主たる債務者の総株主の議決権(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株式についての議決権を除く。以下この号において同じ。)の過半数を有する者
ロ 主たる債務者の総株主の議決権の過半数を他の株式会社が有する場合における当該他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者
ハ 主たる債務者の総株主の議決権の過半数を他の株式会社及び当該他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者が有する場合における当該他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者
ニ 株式会社以外の法人が主たる債務者である場合におけるイ,ロ又はハに掲げる者に準ずる者
三 主たる債務者(法人であるものを除く。以下この号において同じ。)と共同して事業を行う者又は主たる債務者が行う事業に現に従事している主たる債務者の配偶者
①主たる債務者は,事業のために負担する債務を主たる債務とする保証又は主たる債務の範囲に事業のために負担する債務が含まれる根保証の委託をするときは,委託を受ける者に対し,次に掲げる事項に関する情報を提供しなければならない。
一 財産及び収支の状況
二 主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況
三 主たる債務の担保として他に提供し,又は提供しようとするものがあるときは,その旨及びその内容
②主たる債務者が前項各号に掲げる事項に関して情報を提供せず,又は事実と異なる情報を提供したために委託を受けた者がその事項について誤認をし,それによって保証契約の申込み又はその承諾の意思表示をした場合において,主たる債務者がその事項に関して情報を提供せず又は事実と異なる情報を提供したことを債権者が知り又は知ることができたときは,保証人は,保証契約を取り消すことができる。
③前2項の規定は,保証をする者が法人である場合には,適用しない。
①債権は,譲り渡すことができる。ただし,その性質がこれを許さないときは,この限りでない。
②当事者が債権の譲渡を禁止し,又は制限する旨の意思表示(以下「譲渡制限の意思表示」という。)をしたときであっても,債権の譲渡は,その効力を妨げられない。
③前項に規定する場合には,譲渡制限の意思表示がされたことを知り,又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対しては,債務者は,その債務の履行を拒むことができ,かつ,譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することができる。
④前項の規定は,債務者が債務を履行しない場合において,同項に規定する第三者が相当の期間を定めて譲渡人への履行の催告をし,その期間内に履行がないときは,その債務者については,適用しない。
①債権は,譲り渡すことができる。ただし,その性質がこれを許さないときは,この限りでない。
②前項の規定は,当事者が反対の意思を表示した場合には,適用しない。ただし,その意思表示は,善意の第三者に対抗することができない。
①債務者は,譲渡制限の意思表示がされた金銭の給付を目的とする債権が譲渡されたときは,その債権の全額に相当する金銭を債務の履行地(債務の履行地が債権者の現在の住所により定まる場合にあっては,譲渡人の現在の住所を含む。次条において同じ。)の供託所に供託することができる。
②前項の規定により供託をした債務者は,遅滞なく,譲渡人及び譲受人に供託の通知をしなければならない。
③第1項の規定により供託をした金銭は,譲受人に限り,還付を請求することができる。
前条第1項に規定する場合において,譲渡人について破産手続開始の決定があったときは,譲受人(同項の債権の全額を譲り受けた者であって,その債権の譲渡を債務者その他の第三者に対抗することができるものに限る。)は,譲渡制限の意思表示がされたことを知り,又は重大な過失によって知らなかったときであっても,債務者にその債権の全額に相当する金銭を債務の履行地の供託所に供託させることができる。この場合においては,同条第2項及び第3項の規定を準用する。
①第466条〔債権の譲渡性〕第3項の規定は,譲渡制限の意思表示がされた債権に対する強制執行をした差押債権者に対しては,適用しない。
②前項の規定にかかわらず,譲受人その他の第三者が譲渡制限の意思表示がされたことを知り,又は重大な過失によって知らなかった場合において,その債権者が同項の債権に対する強制執行をしたときは,債務者は,その債務の履行を拒むことができ,かつ,譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもって差押債権者に対抗することができる。
①預金口座又は貯金口座に係る預金又は貯金に係る債権(以下「預貯金債権」という。)について当事者がした譲渡制限の意思表示は,第466条〔債権の譲渡性〕第2項の規定にかかわらず,その譲渡制限の意思表示がされたことを知り,又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対抗することができる。
②前項の規定は,譲渡制限の意思表示がされた預貯金債権に対する強制執行をした差押債権者に対しては,適用しない。
①債権の譲渡は,その意思表示の時に債権が現に発生していることを要しない。
②債権が譲渡された場合において,その意思表示の時に債権が現に発生していないときは,譲受人は,発生した債権を当然に取得する。
③前項に規定する場合において,譲渡人が次条の規定による通知をし,又は債務者が同条の規定による承諾をした時(以下「対抗要件具備時」という。)までに譲渡制限の意思表示がされたときは,譲受人その他の第三者がそのことを知っていたものとみなして,第466条第3項(譲渡制限の意思表示がされた債権が預貯金債権の場合にあっては,前条第1項)の規定を適用する。
①債権の譲渡(現に発生していない債権の譲渡を含む。)は,譲渡人が債務者に通知をし,又は債務者が承諾をしなければ,債務者その他の第三者に対抗することができない。
②前項の通知又は承諾は,確定日付のある証書によってしなければ,債務者以外の第三者に対抗することができない。
①指名債権の譲渡は,譲渡人が債務者に通知をし,又は債務者が承諾をしなければ,債務者その他の第三者に対抗することができない。
②前項の通知又は承諾は,確定日付のある証書によってしなければ,債務者以外の第三者に対抗することができない。
①債務者は,対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる。
②第466条第4項の場合における前項の規定の適用については,同項中「対抗要件具備時」とあるのは,「第466条第4項の相当の期間を経過した時」とし,第466条の3の場合における同項の規定の適用については,同項中「対抗要件具備時」とあるのは,「第466条の3の規定により同条の譲受人から供託の請求を受けた時」とする。
①債務者が異議をとどめないで前条の承諾をしたときは,譲渡人に対抗することができた事由があっても,これをもって譲受人に対抗することができない。この場合において,債務者がその債務を消滅させるために譲渡人に払い渡したものがあるときはこれを取り戻し,譲渡人に対して負担した債務があるときはこれを成立しないものとみなすことができる。
②譲渡人が譲渡の通知をしたにとどまるときは,債務者は,その通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる。
①債務者は,対抗要件具備時より前に取得した譲渡人に対する債権による相殺をもって譲受人に対抗することができる。
②債務者が対抗要件具備時より後に取得した譲渡人に対する債権であっても,その債権が次に掲げるものであるときは,前項と同様とする。ただし,債務者が対抗要件具備時より後に他人の債権を取得したときは,この限りでない。
一 対抗要件具備時より前の原因に基づいて生じた債権
二 前号に掲げるもののほか,譲受人の取得した債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権
③第466条第4項の場合における前2項の規定の適用については,これらの規定中「対抗要件具備時」とあるのは,「第466条第4項の相当の期間を経過した時」とし,第466条の3の場合におけるこれらの規定の適用については,これらの規定中「対抗要件具備時」とあるのは,「第466条の3の規定により同条の譲受人から供託の請求を受けた時」とする。
指図債権の譲渡は,その証書に譲渡の裏書をして譲受人に交付しなければ,債務者その他の第三者に対抗することができない。
指図債権の債務者は,その証書の所持人並びにその署名及び押印の真偽を調査する権利を有するが,その義務を負わない。ただし,債務者に悪意又は重大な過失があるときは,その弁済は,無効とする。
前条の規定は,債権に関する証書に債権者を指名する記載がされているが,その証書の所持人に弁済をすべき旨が付記されている場合について準用する。
指図債権の債務者は,その証書に記載した事項及びその証書の性質から当然に生ずる結果を除き,その指図債権の譲渡前の債権者に対抗することができた事由をもって善意の譲受人に対抗することができない。
前条の規定は,無記名債権について準用する。
①併存的債務引受の引受人は,債務者と連帯して,債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担する。
②併存的債務引受は,債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。
③併存的債務引受は,債務者と引受人となる者との契約によってもすることができる。この場合において,併存的債務引受は,債権者が引受人となる者に対して承諾をした時に,その効力を生ずる。
④前項の規定によってする併存的債務引受は,第三者のためにする契約に関する規定に従う。
①引受人は,併存的債務引受により負担した自己の債務について,その効力が生じた時に債務者が主張することができた抗弁をもって債権者に対抗することができる。
②債務者が債権者に対して取消権又は解除権を有するときは,引受人は,これらの権利の行使によって債務者がその債務を免れるべき限度において,債権者に対して債務の履行を拒むことができる。
①免責的債務引受の引受人は債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担し,債務者は自己の債務を免れる。
②免責的債務引受は,債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。この場合において,免責的債務引受は,債権者が債務者に対してその契約をした旨を通知した時に,その効力を生ずる。
③免責的債務引受は,債務者と引受人となる者が契約をし,債権者が引受人となる者に対して承諾をすることによってもすることができる。
①引受人は,免責的債務引受により負担した自己の債務について,その効力が生じた時に債務者が主張することができた抗弁をもって債権者に対抗することができる。
②債務者が債権者に対して取消権又は解除権を有するときは,引受人は,免責的債務引受がなければこれらの権利の行使によって債務者がその債務を免れることができた限度において,債権者に対して債務の履行を拒むことができる。
免責的債務引受の引受人は,債務者に対して求償権を取得しない。
①債権者は,第472条第1項の規定により債務者が免れる債務の担保として設定された担保権を引受人が負担する債務に移すことができる。ただし,引受人以外の者がこれを設定した場合には,その承諾を得なければならない。
②前項の規定による担保権の移転は,あらかじめ又は同時に引受人に対してする意思表示によってしなければならない。
③前2項の規定は,第472条第1項の規定により債務者が免れる債務の保証をした者があるときについて準用する。
④前項の場合において,同項において準用する第1項の承諾は,書面でしなければ,その効力を生じない。
⑤前項の承諾がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは,その承諾は,書面によってされたものとみなして,同項の規定を適用する。
債務者が債権者に対して債務の弁済をしたときは,その債権は,消滅する。
従来は,改正法の次条(第474条(第三者の弁済))の規定だけが存在し,債務者が債権者に弁済したときは,債務が消滅するのはあまりにも当然のことであるとして,明文の規定が設けられていなかった。今回の改正によってごく当然と思われていた法理が,明文化されることになった。
当然の法理が明文化されたのであるから,問題は残されていないように思われる。しかし,実は,大きな問題が残されている。なぜなら,今回の改正によっても,保証人は保証債務者と位置付けられているため,保証債務の債務者である保証人が弁済した場合,本当に債権は消滅するのかという問題が生じているからである。本来の債務者が債務を弁済した場合には,確かに,債権は消滅する。しかし,保証人が弁済した場合には,債権は消滅せずに,保証人の債務者に対する求償権(民法459条以下)を確保するために,債権者の有する債権は,消滅せず,そのまま保証人へと法定移転する(民法500条(法定代位))。
保証人の弁済を次条の第三者の弁済とは認めず,保証債務という債務の弁済であるとする通説の考えによれば,前期のように,保証債務の弁済によっても債権は消滅せず,保証人へと移転するだけなのであるから,改正法第473条は誤りであるということになる。この誤りを正したいのであれば,保証とは,債務ではなく,「債務なき責任」であり,保証人の弁済は,債務者の弁済ではなく,「第三者の弁済」であるという加賀山説(一人説)を採用した場合にのみ,正当化されるのであり,通説の見解に従うのであれば,改正法第473条は誤りであることを認識しなければならない。
①債務の弁済は,第三者もすることができる。
②弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者は,債務者の意思に反して弁済をすることができない。ただし,債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときは,この限りでない。
③前項に規定する第三者は,債権者の意思に反して弁済をすることができない。ただし,その第三者が債務者の委託を受けて弁済をする場合において,そのことを債権者が知っていたときは,この限りでない。
④前3項の規定は,その債務の性質が第三者の弁済を許さないとき,又は当事者が第三者の弁済を禁止し,若しくは制限する旨の意思表示をしたときは,適用しない。
①債務の弁済は,第三者もすることができる。ただし,その債務の性質がこれを許さないとき,又は当事者が反対の意思を表示したときは,この限りでない。
②利害関係を有しない第三者は,債務者の意思に反して弁済をすることができない。
弁済をした者が弁済として他人の物を引き渡したときは,その弁済をした者は,更に有効な弁済をしなければ,その物を取り戻すことができない。
譲渡につき行為能力の制限を受けた所有者が弁済として物の引渡しをした場合において,その弁済を取り消したときは,その所有者は,更に有効な弁済をしなければ,その物を取り戻すことができない。
民法は,旧民法で各編に分散していた留置権の規定を295条~302条にまとめて規定している。しかし,それらの統一的な留置権の規定から零れ落ちた留置権の個別規定が現行民法にも存在する。その一つが,この475条および476条である。
留置権は,わが国では担保物権の中に規定されているが,実は,所有権に基づく返還請求権を含めて,返還請求権に対する「履行拒絶の抗弁権」に他ならない。したがって,留置権は,物権編の中で規定するよりも,ドイツ民法の場合と同様,むしろ,民法の債権編に規定するのが適切である。その意味で,民法475条および476条が留置権を債権編の中で規定しているのは,大きな意義を有するということができる。
留置権の個別規定のもう一つの例としては,民法194条(盗品又は遺失物の回復)を挙げることができる。なぜなら,この条文は,盗品又は遺失物の被害者の立場から,回復請求権が制限されるとの趣旨で書かれているが,盗品又は遺失物を競売若しくは公の市場等において善意で買い受けた占有者の立場で読み替えると,まさに,「所有権に基づく返還請求権に対する履行拒絶の抗弁権(留置権)」の規定となっているからである。
前条の場合において,債権者が弁済として受領した物を善意で消費し,又は譲り渡したときは,その弁済は,有効とする。この場合において,債権者が第三者から賠償の請求を受けたときは,弁済をした者に対して求償をすることを妨げない。
前2条〔弁済として引き渡した物の取戻し〕の場合において,債権者が弁済として受領した物を善意で消費し,又は譲り渡したときは,その弁済は,有効とする。この場合において,債権者が第三者から賠償の請求を受けたときは,弁済をした者に対して求償をすることを妨げない。
債権者の預金又は貯金の口座に対する払込みによってする弁済は,債権者がその預金又は貯金に係る債権の債務者に対してその払込みに係る金額の払戻しを請求する権利を取得した時に,その効力を生ずる。
一般の銀行では,現金による場合も,預金による場合も,「振込み」という用語を使うことができるが,ゆうちょ銀行では,現金による場合は,「振込み」を使うことができるが,預金による場合には,「振込み」ではなく,「振替え」という用語を使っているため,誤解を防ぐために,改正民法では,「払込み」という用語を使っている。
一部の銀行では,確かに,払込み先(債権者)が預金債権を取得するのとほぼ同時に,払込み元(債務者)の預金債権を消滅させている。しかし,多くの銀行においては,債務者が払込みの委託をした時点,例えば,金曜日の午後3時以降に払込みを委託した場合,債権者の預金口座に預金債権が発生するのは,月曜日まで待たなければならないにもかかわらず,金曜日の時点で,すでに,債務者の預金債権を消滅させるという手続を行っている。このような手続が許されているのは,銀行に対する信頼が一般化しているからである。
①債権者の預金又は貯金の口座に対する払込みによってする弁済の場合には,弁済者が払込みを依頼し,弁済者の預金又は貯金の口座から払込み相当額が引き落とされた時点で,弁済の提供及び供託が行われたのと同様に扱い,弁済者は,その時点から,債務の不履行によって生ずべき一切の責任を免れる。
②前項の払込みによってする弁済の場合には,債権者がその預金又は貯金に係る債権の債務者(以下,「銀行等」という。)に対してその払込みに係る金額の払戻しを請求する権利を取得するまでは,弁済者は,銀行等に対して,払込みの組戻しを請求することができる。この場合においては,弁済者は,払込みをしなかったものとみなす。
③第1項の払込みによってする弁済は,債権者がその預金又は貯金に係る債権の債務者に対してその払込みに係る金額の払戻しを請求する権利を取得したときは,弁済者の預金又は貯金の口座から払込み相当額が引き落とされた時点に遡って,その効力を生ずる。
受領権者(債権者及び法令の規定又は当事者の意思表示によって弁済を受領する権限を付与された第三者をいう。以下同じ。)以外の者であって取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するものに対してした弁済は,その弁済をした者が善意であり,かつ,過失がなかったときに限り,その効力を有する。
債権の準占有者に対してした弁済は,その弁済をした者が善意であり,かつ,過失がなかったときに限り,その効力を有する。
前条の場合を除き,受領権者以外の者に対してした弁済は,債権者がこれによって利益を受けた限度においてのみ,その効力を有する。
前条の場合を除き,弁済を受領する権限を有しない者に対してした弁済は,債権者がこれによって利益を受けた限度においてのみ,その効力を有する。
受取証書の持参人は,弁済を受領する権限があるものとみなす。ただし,弁済をした者がその権限がないことを知っていたとき,又は過失によって知らなかったときは,この限りでない。
①差押えを受けた債権の第三債務者が自己の債権者に弁済をしたときは,差押債権者は,その受けた損害の限度において更に弁済をすべき旨を第三債務者に請求することができる。
②前項の規定は,第三債務者からその債権者に対する求償権の行使を妨げない。
①支払の差止めを受けた第三債務者が自己の債権者に弁済をしたときは,差押債権者は,その受けた損害の限度において更に弁済をすべき旨を第三債務者に請求することができる。
②前項の規定は,第三債務者からその債権者に対する求償権の行使を妨げない。
弁済をすることができる者(以下「弁済者」という。)が,債権者との間で,債務者の負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をした場合において,その弁済者が当該他の給付をしたときは,その給付は,弁済と同一の効力を有する。
債務者が,債権者の承諾を得て,その負担した給付に代えて他の給付をしたときは,その給付は,弁済と同一の効力を有する。
債権の目的が特定物の引渡しである場合において,契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らしてその引渡しをすべき時の品質を定めることができないときは,弁済をする者は,その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない。
債権の目的が特定物の引渡しであるときは,弁済をする者は,その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない。
①弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは,特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において,その他の弁済は債権者の現在の住所において,それぞれしなければならない。
②法令又は慣習により取引時間の定めがあるときは,その取引時間内に限り,弁済をし,又は弁済の請求をすることができる。
弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは,特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において,その他の弁済は債権者の現在の住所において,それぞれしなければならない。
弁済の費用について別段の意思表示がないときは,その費用は,債務者の負担とする。ただし,債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは,その増加額は,債権者の負担とする。
弁済をする者は,弁済と引換えに,弁済を受領する者に対して受取証書の交付を請求することができる。
弁済をした者は,弁済を受領した者に対して受取証書の交付を請求することができる。
債権に関する証書がある場合において,弁済をした者が全部の弁済をしたときは,その証書の返還を請求することができる。
①債務者が同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担する場合において,弁済として提供した給付が全ての債務を消滅させるのに足りないとき(次条第1項に規定する場合を除く。)は,弁済をする者は,給付の時に,その弁済を充当すべき債務を指定することができる。
②弁済をする者が前項の規定による指定をしないときは,弁済を受領する者は,その受領の時に,その弁済を充当すべき債務を指定することができる。ただし,弁済をする者がその充当に対して直ちに異議を述べたときは,この限りでない。
③前2項の場合における弁済の充当の指定は,相手方に対する意思表示によってする。
④弁済をする者及び弁済を受領する者がいずれも第1項又は第2項の規定による指定をしないときは,次の各号の定めるところに従い,その弁済を充当する。
一 債務の中に弁済期にあるものと弁済期にないものとがあるときは,弁済期にあるものに先に充当する。
二 全ての債務が弁済期にあるとき,又は弁済期にないときは,債務者のために弁済の利益が多いものに先に充当する。
三 債務者のために弁済の利益が相等しいときは,弁済期が先に到来したもの又は先に到来すべきものに先に充当する。
四 前2号に掲げる事項が相等しい債務の弁済は,各債務の額に応じて充当する。
①債務者が同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担する場合において,弁済として提供した給付がすべての債務を消滅させるのに足りないときは,弁済をする者は,給付の時に,その弁済を充当すべき債務を指定することができる。
②弁済をする者が前項の規定による指定をしないときは,弁済を受領する者は,その受領の時に,その弁済を充当すべき債務を指定することができる。ただし,弁済をする者がその充当に対して直ちに異議を述べたときは,この限りでない。
③前2項の場合における弁済の充当の指定は,相手方に対する意思表示によってする。
弁済をする者及び弁済を受領する者がいずれも前条の規定による弁済の充当の指定をしないときは,次の各号の定めるところに従い,その弁済を充当する。
一 債務の中に弁済期にあるものと弁済期にないものとがあるときは,弁済期にあるものに先に充当する。
二 すべての債務が弁済期にあるとき,又は弁済期にないときは,債務者のために弁済の利益が多いものに先に充当する。
三 債務者のために弁済の利益が相等しいときは,弁済期が先に到来したもの又は先に到来すべきものに先に充当する。
四 前二号に掲げる事項が相等しい債務の弁済は,各債務の額に応じて充当する。
①債務者が1個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合(債務者が数個の債務を負担する場合にあっては,同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担するときに限る。)において,弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは,これを順次に費用,利息及び元本に充当しなければならない。
②前条の規定は,前項の場合において,費用,利息又は元本のいずれかの全てを消滅させるのに足りない給付をしたときについて準用する。
①債務者が1個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合において,弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは,これを順次に費用,利息及び元本に充当しなければならない。
②第489条〔法定充当〕の規定は,前項の場合について準用する。
前2条の規定にかかわらず,弁済をする者と弁済を受領する者との間に弁済の充当の順序に関する合意があるときは,その順序に従い,その弁済を充当する。
1個の債務の弁済として数個の給付をすべき場合において,弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは,前3条の規定を準用する。
1個の債務の弁済として数個の給付をすべき場合において,弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは,前2条〔弁済の充当の指定,法定充当〕の規定を準用する。
債務者は,弁済の提供の時から,債務を履行しないことによって生ずべき責任を免れる。
債務者は,弁済の提供の時から,債務の不履行によって生ずべき一切の責任を免れる。
弁済の提供の効果に関する民法492条は,民法理由書によれば,以下に示す,旧民法財産編476条,および,478条1項を修正したものである。
①時期を失せず,且,有効に為したる提供は,法律を以て規定し若くは合意を以て要約したる失権,解除及び責罰を予防す。
②此提供は,付遅滞を防止し又既に付遅滞の存せるときは,将来に向ひて其効力を止め、且、遅延利息を停む。
①債権者が提供を受諾せざるときは,債務者は供託の日までに債務に生じたる填補利息と共に,弁済の金額を供託所に供託することを得。
②特定物又は定量物に付ては,債務者は,其物を供託す可き場所を指定すること及び其保管人を選任することを,裁判所に請求す。
③供託の方式及び条件は,特別法を以て之を規定す。
①有効に属したる供託は,債務者に義務を免がれしめ,且,債務者が意外の事に任じたるときと雖も,其物の危険を債権者に帰せしむ。
②然れども,債権者が供託を受諾せず又は其供託が債務者の請求にて既判力を有する判決に因りて有効と宣告せられざる間は,債務者は其供託物を引取ることを得。但此場合に於ては義務は旧に依り存在す。
③右の受諾又は判決ありたる後と雖も,債務者は債権者の承諾を以て供託物を引取ることを得。然れども,共同債務者及び保証人の義務解脱をも質権及び抵当権の消滅をも供託物に付き債権者の債権者が為したる払渡差押をも妨碍することを得ず。
旧民法は,フランス民法に倣って,弁性提供につき,それは供託の準備にすぎず,債務者の履行遅滞の責任を免責するだけであり(旧民法財産編476条),その後の供託によってはじめて,債務者を完全に免責し,危険を債権者に負担させるとしていた(旧民法財産編477条,478条1項)。
現行民法の起草者は,以下のように述べて民法492条によって,弁済の提供に対して,供託とは独立した債務者免責の効果を付与した。
提供に依りて債務者は不履行に本づく一切の責任を免がれ,此時以後危険の負担は債権者に移転するものと為せり。
しかし,供託を伴わない場合であっても,弁済提供に債務者の完全免責の効果を与えるという現行民法の立場は,国際的に見ても行き過ぎである。債務者にこのような過剰な保護を与えることは,弁済提供のまま供託を怠る債務者を増加させるばかりでなく,これが,ドイツ民法に倣って取り入れられた受領遅滞の制度と結びつくことによって,様々な理由に基づいて弁済を拒絶した債権者(例えば,不良商品の買主)は,危険を移転され(改正民法413条2項,413条の2),結果的に解除権まで奪われる(改正民法543条)という,国際的な動向から逸脱した不当な結果を甘受しなければならなくなったのである。
これらの不当な結果が生じた根本原因は,弁済の提供にあまりにも強い効果を与え過ぎたことにあるのだから,民法492条は,以下のように改正すべきである。
債務者は,供託によって債務を消滅させたときに限り,弁済の提供の時から,履行遅滞の責任を免れる。
弁済の提供は,債務の本旨に従って現実にしなければならない。ただし,債権者があらかじめその受領を拒み,又は債務の履行について債権者の行為を要するときは,弁済の準備をしたことを通知してその受領の催告をすれば足りる。
①弁済者は,次に掲げる場合には,債権者のために弁済の目的物を供託することができる。この場合においては,弁済者が供託をした時に,その債権は,消滅する。
一 弁済の提供をした場合において,債権者がその受領を拒んだとき。
二 債権者が弁済を受領することができないとき。
②弁済者が債権者を確知することができないときも,前項と同様とする。ただし,弁済者に過失があるときは,この限りでない。
債権者が弁済の受領を拒み,又はこれを受領することができないときは,弁済をすることができる者(以下この目において「弁済者」という。)は,債権者のために弁済の目的物を供託してその債務を免れることができる。弁済者が過失なく債権者を確知することができないときも,同様とする。
①前条の規定による供託は,債務の履行地の供託所にしなければならない。
②供託所について法令に特別の定めがない場合には,裁判所は,弁済者の請求により,供託所の指定及び供託物の保管者の選任をしなければならない。
③前条の規定により供託をした者は,遅滞なく,債権者に供託の通知をしなければならない。
①債権者が供託を受諾せず,又は供託を有効と宣告した判決が確定しない間は,弁済者は,供託物を取り戻すことができる。この場合においては,供託をしなかったものとみなす。
②前項の規定は,供託によって質権又は抵当権が消滅した場合には,適用しない。
弁済者は,次に掲げる場合には,裁判所の許可を得て,弁済の目的物を競売に付し,その代金を供託することができる。
一 その物が供託に適しないとき。
二 その物について滅失,損傷その他の事由による価格の低落のおそれがあるとき。
三 その物の保存について過分の費用を要するとき。
四 前3号に掲げる場合のほか,その物を供託することが困難な事情があるとき。
弁済の目的物が供託に適しないとき,又はその物について滅失若しくは損傷のおそれがあるときは,弁済者は,裁判所の許可を得て,これを競売に付し,その代金を供託することができる。その物の保存について過分の費用を要するときも,同様とする。
①弁済の目的物又は前条の代金が供託された場合には,債権者は,供託物の還付を請求することができる。
②債務者が債権者の給付に対して弁済をすべき場合には,債権者は,その給付をしなければ,供託物を受け取ることができない。
債務者が債権者の給付に対して弁済をすべき場合には,債権者は,その給付をしなければ,供託物を受け取ることができない。
債務者のために弁済をした者は,債権者に代位する。
①債務者のために弁済をした者は,その弁済と同時に債権者の承諾を得て,債権者に代位することができる。
②第467条〔指名債権の譲渡の対抗要件〕の規定は,前項の場合について準用する。
第467条の規定は,前条の場合(弁済をするについて正当な利益を有する者が債権者に代位する場合を除く。)について準用する。
弁済をするについて正当な利益を有する者は,弁済によって当然に債権者に代位する。
①前2条の規定により債権者に代位した者は,債権の効力及び担保としてその債権者が有していた一切の権利を行使することができる。
②前項の規定による権利の行使は,債権者に代位した者が自己の権利に基づいて債務者に対して求償をすることができる範囲内(保証人の一人が他の保証人に対して債権者に代位する場合には,自己の権利に基づいて当該他の保証人に対して求償をすることができる範囲内)に限り,することができる。
③第1項の場合には,前項の規定によるほか,次に掲げるところによる。
一 第三取得者(債務者から担保の目的となっている財産を譲り受けた者をいう。以下この項において同じ。)は,保証人及び物上保証人に対して債権者に代位しない。
二 第三取得者の一人は,各財産の価格に応じて,他の第三取得者に対して債権者に代位する。
三 前号の規定は,物上保証人の一人が他の物上保証人に対して債権者に代位する場合について準用する。
四 保証人と物上保証人との間においては,その数に応じて,債権者に代位する。ただし,物上保証人が数人あるときは,保証人の負担部分を除いた残額について,各財産の価格に応じて,債権者に代位する。
五 第三取得者から担保の目的となっている財産を譲り受けた者は,第三取得者とみなして第1号及び第2号の規定を適用し,物上保証人から担保の目的となっている財産を譲り受けた者は,物上保証人とみなして第1号,第3号及び前号の規定を適用する。
前2条の規定により債権者に代位した者は,自己の権利に基づいて求償をすることができる範囲内において,債権の効力及び担保としてその債権者が有していた一切の権利を行使することができる。この場合においては,次の各号の定めるところに従わなければならない。
一 保証人は,あらかじめ先取特権,不動産質権又は抵当権の登記にその代位を付記しなければ,その先取特権,不動産質権又は抵当権の目的【物】である不動産の第三取得者に対して債権者に代位することができない。
二 第三取得者は,保証人に対して債権者に代位しない。
三 第三取得者の1人は,各不動産の価格に応じて,他の第三取得者に対して債権者に代位する。
四 物上保証人の1人は,各財産の価格に応じて,他の物上保証人に対して債権者に代位する。
五 保証人と物上保証人との間においては,その数に応じて,債権者に代位する。ただし,物上保証人が数人あるときは,保証人の負担部分を除いた残額について,各財産の価格に応じて,債権者に代位する。
六 前号の場合において,その財産が不動産であるときは,第一号の規定を準用する。
①債権の一部について代位弁済があったときは,代位者は,債権者の同意を得て,その弁済をした価額に応じて,債権者とともにその権利を行使することができる。
②前項の場合であっても,債権者は,単独でその権利を行使することができる。
③前2項の場合に債権者が行使する権利は,その債権の担保の目的となっている財産の売却代金その他の当該権利の行使によって得られる金銭について,代位者が行使する権利に優先する。
④第1項の場合において,債務の不履行による契約の解除は,債権者のみがすることができる。この場合においては,代位者に対し,その弁済をした価額及びその利息を償還しなければならない。
①債権の一部について代位弁済があったときは,代位者は,その弁済をした価額に応じて,債権者とともにその権利を行使する。
②前項の場合において,債務の不履行による契約の解除は,債権者のみがすることができる。この場合においては,代位者に対し,その弁済をした価額及びその利息を償還しなければならない。
①代位弁済によって全部の弁済を受けた債権者は,債権に関する証書及び自己の占有する担保物を代位者に交付しなければならない。
②債権の一部について代位弁済があった場合には,債権者は,債権に関する証書にその代位を記入し,かつ,自己の占有する担保物の保存を代位者に監督させなければならない。
①弁済をするについて正当な利益を有する者(以下この項において「代位権者」という。)がある場合において,債権者が故意又は過失によってその担保を喪失し,又は減少させたときは,その代位権者は,代位をするに当たって担保の喪失又は減少によって償還を受けることができなくなる限度において,その責任を免れる。その代位権者が物上保証人である場合において,その代位権者から担保の目的となっている財産を譲り受けた第三者及びその特定承継人についても,同様とする。
②前項の規定は,債権者が担保を喪失し,又は減少させたことについて取引上の社会通念に照らして合理的な理由があると認められるときは,適用しない。
この規定は,広く代位権者に適用されるが,その中心は,債務者に代わって弁済した保証人である。従来は,保証は無償の片務契約とされており,義務(責任)を負うのは保証人だけであって,債務者は,保証人に対して何らの義務を負わないとされてきた(今回の民法改正によって,保証人に対する債権者の情報提供義務等(民法458条の2(主たる債務の履行状況に関する情報の提供義務),民法458条の3(主たる債務者が期限の利益を喪失した場合における情報の提供義務))が規定されることになったのが,数少ない例外と解されている)。しかし,実は,民法の制定当時から,民法504条を通じて,債権者は保証人に対して,その求償権を害しないことが明確に規定されていたのである。その意味で,民法504条は,保証人保護に関する最重要条文である。
債権者が保証人に対して担保保存義務を負う根拠は何か?それは,通常義務を有しないとされる債権者といえども,保証人が債務者に対して有している求償権およびそれを強化している代位権を害してはならないという信義則上の義務を負うからである。
民法504条の母法であるフランス民法(フランス民法典2314条)は,以下の示すように,担保保存義務を免責する特約は,信義則に反することを理由に無効とされている。先に述べたように,担保保存義務の根拠が信義則によって裏付けられている以上,その免責が信義則に反する許されざる暴挙であることは当然というべきであろう。
債権者の行為によって保証人が債権者の権利,抵当権及び先取特権について代位ができなくなるに至ったときは,保証人はその責任を免れる。これに反するすべての条項は書かれなかったものとみなす。
今回の民法改正によって,「相手方の権利を制限し,又は相手方の義務を加重する条項であって,その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては,合意をしなかったものとみなす。」(改正民法548条の2第2項)という条項が創設された。民法この条項の趣旨からしても,民法504条2項は,保証人の犠牲によって故意または過失のある債権者をほごするという不当な条項であって破棄されるべきである。つまり,フランス民法2314条に倣って,「第1項に反する特約は,書かれなかったものとみなす」と改正されるべきである。
第500条〔法定代位〕の規定により代位をすることができる者がある場合において,債権者が故意又は過失によってその担保を喪失し,又は減少させたときは,その代位をすることができる者は,その喪失又は減少によって償還を受けることができなくなった限度において,その責任を免れる。
①二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において,双方の債務が弁済期にあるときは,各債務者は,その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし,債務の性質がこれを許さないときは,この限りでない。
②前項の規定にかかわらず,当事者が相殺を禁止し,又は制限する旨の意思表示をした場合には,その意思表示は,第三者がこれを知り,又は重大な過失によって知らなかったときに限り,その第三者に対抗することができる。
①二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において,双方の債務が弁済期にあるときは,各債務者は,その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし,債務の性質がこれを許さないときは,この限りでない。
②前項の規定は,当事者が反対の意思を表示した場合には,適用しない。ただし,その意思表示は,善意の第三者に対抗することができない。
①相殺は,当事者の一方から相手方に対する意思表示によってする。この場合において,その意思表示には,条件又は期限を付することができない。
②前項の意思表示は,双方の債務が互いに相殺に適するようになった時にさかのぼってその効力を生ずる。
相殺は,双方の債務の履行地が異なるときであっても,することができる。この場合において,相殺をする当事者は,相手方に対し,これによって生じた損害を賠償しなければならない。
時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた場合には,その債権者は,相殺をすることができる。
次に掲げる債務の債務者は,相殺をもって債権者に対抗することができない。ただし,その債権者がその債務に係る債権を他人から譲り受けたときは,この限りでない。
一 悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務
二 人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務(前号に掲げるものを除く。)
債務が不法行為によって生じたときは,その債務者は,相殺をもって債権者に対抗することができない。
債権が差押えを禁じたものであるときは,その債務者は,相殺をもって債権者に対抗することができない。
①差押えを受けた債権の第3債務者は,差押え後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することはできないが,差押え前に取得した債権による相殺をもって対抗することができる。
②前項の規定にかかわらず,差押え後に取得した債権が差押え前の原因に基づいて生じたものであるときは,その第三債務者は,その債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができる。ただし,第三債務者が差押え後に他人の債権を取得したときは,この限りでない。
支払の差止めを受けた第三債務者は,その後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができない。
①債権者が債務者に対して有する1個又は数個の債権と,債権者が債務者に対して負担する1個又は数個の債務について,債権者が相殺の意思表示をした場合において,当事者が別段の合意をしなかったときは,債権者の有する債権とその負担する債務は,相殺に適するようになった時期の順序に従って,その対当額について相殺によって消滅する。
② 前項の場合において,相殺をする債権者の有する債権がその負担する債務の全部を消滅させるのに足りないときであって,当事者が別段の合意をしなかったときは,次に掲げるところによる。
一 債権者が数個の債務を負担するとき(次号に規定する場合を除く。)は,第488条第4項第2号から第4号までの規定を準用する。
二 債権者が負担する1個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべきときは,第489条の規定を準用する。この場合において,同条第2項中「前条」とあるのは,「前条第4項第2号から第4号まで」と読み替えるものとする。
③第1項の場合において,相殺をする債権者の負担する債務がその有する債権の全部を消滅させるのに足りないときは,前項の規定を準用する。
第488条から第491条まで〔弁済の充当〕の規定は,相殺について準用する。
債権者が債務者に対して有する債権に,1個の債権の弁済として数個の給付をすべきものがある場合における相殺については,前条の規定を準用する。債権者が債務者に対して負担する債務に,1個の債務の弁済として数個の給付をすべきものがある場合における相殺についても,同様とする。
当事者が従前の債務に代えて,新たな債務であって次に掲げるものを発生させる契約をしたときは,従前の債務は,更改によって消滅する。
一 従前の給付の内容について重要な変更をするもの
二 従前の債務者が第三者と交替するもの
三 従前の債権者が第三者と交替するもの
①当事者が債務の要素を変更する契約をしたときは,その債務は,更改によって消滅する。
②条件付債務を無条件債務としたとき,無条件債務に条件を付したとき,又は債務の条件を変更したときは,いずれも債務の要素を変更したものとみなす。
①債務者の交替による更改は,債権者と更改後に債務者となる者との契約によってすることができる。この場合において,更改は,債権者が更改前の債務者に対してその契約をした旨を通知した時に,その効力を生ずる。
②債務者の交替による更改後の債務者は,更改前の債務者に対して求償権を取得しない。
債務者の交替による更改は,債権者と更改後に債務者となる者との契約によってすることができる。ただし,更改前の債務者の意思に反するときは,この限りでない。
旧民法は,以下のように,「債務者の交代による更改」の個所(旧民法財産編496条~502条)において,改正民法が創設した債務引受の規定(改正民法470条~472条の4)をすでに規定していた。特に,以下に示す旧民法財産編496条は,ボワソナードが,フランス民法典1274条(現行民法514条本文に同じ)を参考にしつつも,フランスの学説・判例によって発展した債務引受の制度(免責的債務引受,併存的債務引受)を明文化した貴重な条文である。旧民法の規定は,現行民法によって廃棄されていたが,それが,改正民法によって復活されたことになる。しかし,そのような歴史を知っている民法学者はほとんど存在しないように思われる。
①債務者の交替に因る更改は,或は,旧債務者より新債務者に為せる嘱託〔délégation:第三者のためにする契約〕に因り,或は,旧債務者の承諾なくして新債務者の随意の干渉〔l'intervention spontanée:直接契約〕に因りて行はる。
②嘱託には完全のもの〔第三者のためにする免責的債務引受〕有り,不完全〔第三者のためにする並存的債務引受〕のもの有り。
③第三者の随意の干渉〔l‘intervention spontanée d’un tiers〕は下に記載する如く除約〔novation par expromission:直接の免責的債務引受〕又は補約〔simple adpromission:直接の並存的債務引受〕を成す。
①債権者の交替による更改は,更改前の債権者,更改後に債権者となる者及び債務者の契約によってすることができる。
債権者の交代による更改は,債権譲渡と同様に,更改前の債権者と更改後に債権者となる者によってすることもできるし,または,第三者のためにする契約によって,更改前の債権者と債務者との間でもすることができるのであって,改正法515条1項は,以下のように改正されるべきである。
①債権者の交替による更改は,更改前の債権者及び更改後に債権者となる者の契約〔直接契約〕によってすること,又は,更改前の債権者及び債務者の契約〔第三者のためにする契約〕によってすることができる。
②債権者の交替による更改は,確定日付のある証書によってしなければ,第三者に対抗することができない。
債権者の交替による更改は,確定日付のある証書によってしなければ,第三者に対抗することができない。
第468条第1項〔異議をとどめない承諾の効力〕の規定は,債権者の交替による更改について準用する。
更改によって生じた債務が,不法な原因のため又は当事者の知らない事由によって成立せず又は取り消されたときは,更改前の債務は,消滅しない。
①債権者(債権者の交替による更改にあっては,更改前の債権者)は,更改前の債務の目的の限度において,その債務の担保として設定された質権又は抵当権を更改後の債務に移すことができる。ただし,第三者がこれを設定した場合には,その承諾を得なければならない。
②前項の質権又は抵当権の移転は,あらかじめ又は同時に更改の相手方(債権者の交替による更改にあっては,債務者)に対してする意思表示によってしなければならない。
更改の当事者は,更改前の債務の目的の限度において,その債務の担保として設定された質権又は抵当権を更改後の債務に移すことができる。ただし,第三者がこれを設定した場合には,その承諾を得なければならない。
債権者が債務者に対して債務を免除する意思を表示したときは,その債権は,消滅する。
債権及び債務が同一人に帰属したときは,その債権は,消滅する。ただし,その債権が第三者の権利の目的であるときは,この限りでない。
指図証券の譲渡は,その証券に譲渡の裏書をして譲受人に交付しなければ,その効力を生じない。
指図証券の譲渡については,その指図証券の性質に応じ,手形法(昭和7年法律第20号)中裏書の方式に関する規定を準用する。
指図証券の所持人が裏書の連続によりその権利を証明するときは,その所持人は,証券上の権利を適法に有するものと推定する。
何らかの事由により指図証券の占有を失った者がある場合において,その所持人が前条の規定によりその権利を証明するときは,その所持人は,その証券を返還する義務を負わない。ただし,その所持人が悪意又は重大な過失によりその証券を取得したときは,この限りでない。
指図証券の債務者は,その証券に記載した事項及びその証券の性質から当然に生ずる結果を除き,その証券の譲渡前の債権者に対抗することができた事由をもって善意の譲受人に対抗することができない。
第520条の2から前条までの規定は,指図証券を目的とする質権の設定について準用する。
指図証券の弁済は,債務者の現在の住所においてしなければならない。
指図証券の債務者は,その債務の履行について期限の定めがあるときであっても,その期限が到来した後に所持人がその証券を提示してその履行の請求をした時から遅滞の責任を負う。
指図証券の債務者は,その証券の所持人並びにその署名及び押印の真偽を調査する権利を有するが,その義務を負わない。ただし,債務者に悪意又は重大な過失があるときは,その弁済は,無効とする。
指図証券は,非訟事件手続法(平成23年法律第51号)第100条に規定する公示催告手続によって無効とすることができる。
金銭その他の物又は有価証券の給付を目的とする指図証券の所持人がその指図証券を喪失した場合において,非訟事件手続法第114条に規定する公示催告の申立てをしたときは,その債務者に,その債務の目的物を供託させ,又は相当の担保を供してその指図証券の趣旨に従い履行をさせることができる。
記名式所持人払証券(債権者を指名する記載がされている証券であって,その所持人に弁済をすべき旨が付記されているものをいう。以下同じ。)の譲渡は,その証券を交付しなければ,その効力を生じない。
記名式所持人払証券の所持人は,証券上の権利を適法に有するものと推定する。
何らかの事由により記名式所持人払証券の占有を失った者がある場合において,その所持人が前条の規定によりその権利を証明するときは,その所持人は,その証券を返還する義務を負わない。ただし,その所持人が悪意又は重大な過失によりその証券を取得したときは,この限りでない。
記名式所持人払証券の債務者は,その証券に記載した事項及びその証券の性質から当然に生ずる結果を除き,その証券の譲渡前の債権者に対抗することができた事由をもって善意の譲受人に対抗することができない。
第520条の13から前条までの規定は,記名式所持人払証券を目的とする質権の設定について準用する。
第520条の8から第520条の12までの規定は,記名式所持人払証券について準用する。
①債権者を指名する記載がされている証券であって指図証券及び記名式所持人払証券以外のものは,債権の譲渡又はこれを目的とする質権の設定に関する方式に従い,かつ,その効力をもってのみ,譲渡し,又は質権の目的とすることができる。
②第520条の11及び第520条の12の規定は,前項の証券について準用する。
第2款(記名式所持人払証券)の規定は,無記名証券について準用する。
①何人も,法令に特別の定めがある場合を除き,契約をするかどうかを自由に決定することができる。
②契約の当事者は,法令の制限内において,契約の内容を自由に決定することができる。
①契約は,契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたとき〔民法97条1項によって,承諾が到達したとき〕に成立する。
改正民法522条1項は,承諾が延着することがあることを無視し,かつ,承諾の意思表示の発信の重要性(国際物品売買契約に関する国際連合条約(CISG)第16条1項〔申込みの撤回の到達に先立って発信された承諾の効力〕,同条約第21条〔遅延した承諾の効力〕)をないがしろにして,承諾の到達時点(民法97条1項)によってのみ契約の成立を判断しようとする国際的にも例を見ない無謀な立法である。削除された旧規定第522条,旧規定526条1項,旧規定527条のように,承諾の適時の到達を条件として,契約の成立時期は発信の時に遡らせるという主義を採用すべきであったと思われる。
参照すべき国際的な傾向,例えば,国際物品売買契約に関する国際連合条約(CISG)の条文は,以下の通りである。
申込みは,契約が締結されるまでの間,相手方が承諾の通知を発する前に撤回の通知が当該相手方に到達する場合には,撤回することができる。
遅延した承諾が記載された書簡その他の書面が,通信状態が通常であったとしたならば期限までに申込者に到達したであろう状況の下で発送されたことを示している場合には,当該承諾は,承諾としての効力を有する。ただし,当該申込者が自己の申込みを失効していたものとすることを遅滞なく相手方に対して口頭で知らせ,又はその旨の通知を発した場合は,この限りでない。
①隔地者間の契約は,承諾の通知を発した時に成立する。
②申込者の意思表示又は取引上の慣習により承諾の通知を必要としない場合には,契約は,承諾の意思表示と認めるべき事実があった時に成立する。
②契約の成立には,法令に特別の定めがある場合を除き,書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
保証契約(民法446条2項),免責的債務引受による担保の移転の承諾(民法472条の4第4項),諾成的消費貸借契約(民法587条の2),婚姻届け(民法793条2項)については,書面によらなければ,その効力を生じない。
消費貸借契約(民法587条),書面によらない使用貸借(593条,593条の2)は,当事者が合意したときではなく,目的物の交付がなされたときに,はじめて契約が成立する(要物契約)。
①承諾の期間を定めてした申込みは,撤回することができない。ただし,申込者が撤回をする権利を留保したときは,この限りでない。
②申込者が前項の申込みに対して同項の期間内に承諾の通知を受けなかったときは,その申込みは,その効力を失う。
①承諾の期間を定めてした契約の申込みは,撤回する【取り消す】ことができない。
②申込者が前項の申込みに対して同項の期間内に承諾の通知を受けなかったときは,その申込みは,その効力を失う。
①前条第1項の申込み〔承諾期間の定めのある申込み〕に対する承諾の通知が同項の期間の経過後に到達した場合であっても,通常の場合にはその期間内に到達すべき時に発送したものであることを知ることができるときは,申込者は,遅滞なく,相手方に対してその延着の通知を発しなければならない。ただし,その到達前に遅延の通知を発したときは,この限りでない。
②申込者が前項本文の延着の通知を怠ったときは,承諾の通知は,前条第1項の〔承諾〕期間内に到達したものとみなす。
旧規定522条(承諾の通知の延着)は,改正民法522条(契約の成立と方式)によって,上書きされ,削除されてしまった。しかし,国際的な傾向としては,以下に示すように,わが国も批准している国際物品売買契約に関する国際連合条約第21条2項(通信の遅延によって延着した承諾の効力)のように,承諾の通知が通信の遅延によって延着した場合の承諾者の救済方法が規定されている。 遅延した承諾が記載された書簡その他の書面が,通信状態が通常であったとしたならば期限までに申込者に到達したであろう状況の下で発送されたことを示している場合には,当該承諾は,承諾としての効力を有する。ただし,当該申込者が自己の申込みを失効していたものとすることを遅滞なく相手方に対して口頭で知らせ,又はその旨の通知を発した場合は,この限りでない。
現在においても,e-mailはパケット通信で行われているために,通信状態によっては,遅延することがあるばかりでなく,往復はがきによる承諾通知は広く行われており,その場合の承諾者の保護規定は今なお必要である。今回の民法(債権関係)改正によって,民法旧522条,および,旧527条が削除されたことは,通信事情の現状を無視した,明らかな立法の過誤というべきであろう。
申込者は,遅延した承諾を新たな申込みとみなすことができる。
①承諾の期間を定めないでした申込みは,申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは,撤回することができない。ただし,申込者が撤回をする権利を留保したときは,この限りでない。
②対話者に対してした前項の申込みは,同項の規定にかかわらず,その対話が継続している間は,いつでも撤回することができる。
③対話者に対してした第1項の申込みに対して対話が継続している間に申込者が承諾の通知を受けなかったときは,その申込みは,その効力を失う。ただし,申込者が対話の終了後もその申込みが効力を失わない旨を表示したときは,この限りでない。
承諾の期間を定めないで隔地者に対してした申込みは,申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは,撤回する【取り消す】ことができない。
①申込みの撤回【取消し】の通知が承諾の通知を発した後に到達した場合であっても,通常の場合にはその前に到達すべき時に発送したものであることを知ることができるときは,承諾者は,遅滞なく,申込者に対してその延着の通知を発しなければならない。
②承諾者が前項の延着の通知を怠ったときは,契約は,成立しなかったものとみなす。
申込者が申込みの通知を発した後に死亡し,意思能力を有しない常況にある者となり,又は行為能力の制限を受けた場合において,申込者がその事実が生じたとすればその申込みは効力を有しない旨の意思を表示していたとき,又はその相手方が承諾の通知を発するまでにその事実が生じたことを知ったときは,その申込みは,その効力を有しない。
第97条〔隔地者に対する意思表示〕第2項の規定は,申込者が反対の意思を表示した場合又はその相手方が申込者の死亡若しくは行為能力の喪失の事実を知っていた場合には,適用しない。
申込者の意思表示又は取引上の慣習により承諾の通知を必要としない場合には,契約は,承諾の意思表示と認めるべき事実があった時に成立する。
①隔地者間の契約は,承諾の通知を発した時に成立する。
②申込者の意思表示又は取引上の慣習により承諾の通知を必要としない場合には,契約は,承諾の意思表示と認めるべき事実があった時に成立する。
承諾者が,申込みに条件を付し,その他変更を加えてこれを承諾したときは,その申込みの拒絶とともに新たな申込みをしたものとみなす。
ある行為をした者に一定の報酬を与える旨を広告した者(以下「懸賞広告者」という。)は,その行為をした者がその広告を知っていたかどうかにかかわらず,その者に対してその報酬を与える義務を負う。
ある行為をした者に一定の報酬を与える旨を広告した者(以下この款において「懸賞広告者」という。)
は,その行為をした者に対してその報酬を与える義務を負う。
①懸賞広告者は,その指定した行為をする期間を定めてした広告を撤回することができない。ただし,その広告において撤回をする権利を留保したときは,この限りでない。
②前項の広告は,その期間内に指定した行為を完了する者がないときは,その効力を失う。
懸賞広告者は,その指定した行為を完了する者がない間は,その指定した行為をする期間を定めないでした広告を撤回することができる。ただし,その広告中に撤回をしない旨を表示したときは,この限りでない。
①前の広告と同一の方法による広告の撤回は,これを知らない者に対しても,その効力を有する。
②広告の撤回は,前の広告と異なる方法によっても,することができる。ただし,その撤回は,これを知った者に対してのみ,その効力を有する。
①前条の場合において,懸賞広告者は,その指定した行為を完了する者がない間は,前の広告と同一の方法によってその広告を撤回する【撤回又は取り消する】ことができる。ただし,その広告中に撤回【撤回又は取消し】をしない旨を表示したときは,この限りでない。
②前項本文に規定する方法によって撤回【撤回又は取消し】をすることができない場合には,他の方法によって撤回【撤回又は取消し】をすることができる。この場合において,その撤回【撤回又は取消し】は,これを知った者に対してのみ,その効力を有する。
③懸賞広告者がその指定した行為をする期間を定めたときは,その撤回【取消し】をする権利を放棄したものと推定する。
①広告に定めた行為をした者が数人あるときは,最初にその行為をした者のみが報酬を受ける権利を有する。
②数人が同時に前項の行為をした場合には,各自が等しい割合で報酬を受ける権利を有する。ただし,報酬がその性質上分割に適しないとき,又は広告において一人のみがこれを受けるものとしたときは,抽選でこれを受ける者を定める。
③前2項の規定は,広告中にこれと異なる意思を表示したときは,適用しない。
①広告に定めた行為をした者が数人ある場合において,その優等者のみに報酬を与えるべきときは,その広告は,応募の期間を定めたときに限り,その効力を有する。
②前項の場合において,応募者中いずれの者の行為が優等であるかは,広告中に定めた者が判定し,広告中に判定をする者を定めなかったときは懸賞広告者が判定する。
③応募者は,前項の判定に対して異議を述べることができない。
④前条第2項の規定は,数人の行為が同等と判定された場合について準用する。
双務契約の当事者の一方は,相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)を提供するまでは,自己の債務の履行を拒むことができる。ただし,相手方の債務が弁済期にないときは,この限りでない。
双務契約の当事者の一方は,相手方がその債務の履行を提供するまでは,自己の債務の履行を拒むことができる。ただし,相手方の債務が弁済期にないときは,この限りでない。
同時履行の抗弁権において,同時履行に対立する概念は何かを考えてみよう。同時履行に対立する概念は,先履行と後履行との組み合わせ(異時履行)である。同時履行の典型例としては,売買契約における財産権の移転(目的物の引渡し)債務と代金支払い義務とが同時履行の関係にあることはよく知られている。しかし,売買契約においても,代金を後払いにすることはよく行わており,割賦販売とかクレジット契約等は,まず,売主によって商品の引渡しが行われた後,買主が代金を後払いする。このような信用取引は,同時履行ではなく,先履行(商品の引渡し)と後履行(代金支払)との組み合わせによって成り立っており,このような取引は,一般には特殊の売買(同時履行の例外)と考えられている。しかし,理論的な考察を好む学説によれば,そのような信用取引は,同時履行ではない点で,もはや純粋な売買とは言えず,通常の売買(同時履行)と準消費貸借(同時に支払うべき代金相当額の借金)との組み合わせであると考えられている。
民法が規定する13の契約類型のうち,一方当事者だけが債務を負う契約を片務契約という。この片務契約には,贈与(無償),消費貸借(有償・無償),使用貸借(無償),無償委任,無償寄託が含まれており,これらの片務契約は,そもそも,民法533条の適用範囲から外れている。民法533条の適用対象となる双務契約のうち,同時履行の関係とか,先履行と後履行との関係が鮮明に現れる,代金債務,賃料債務,報酬債務,出資金債務,年金債務が含まれる契約をピックアップしてみると,それらは,売買,賃貸借,雇用,請負,有償委任,有償寄託,組合,終身定期金という8つの双務契約であることがわかる。それでは,これらの8つの契約において,一方当事者の給付(例えば,物の引渡し,役務の提供)と相手方の給付(代金支払,賃料支払,報酬支払等)は,同時履行の関係に立つのだろうか,それとも,先履行・後履行(異時履行)の関係に立つのだろうか。
双務契約のうち,売買が同時履行の関係に立つことは明らかである。それでは,売買以外の契約において,物や役務の提供とその対価としての代金や報酬支払との関係は同時履行の関係に立つのであろうか,それとも,先履行・後履行(異時履行)の関係に立つのであろうか。
第1に,賃貸借に関しては,民法614条(賃料の支払時期)が,賃料後払い(毎年末とか毎月末)の原則を定めている。現実の契約書では,家賃は1か月前払いが原則となっている。いずれにしても,同時履行の関係とはなっていない。
第2に,雇用では,民法624条(報酬の支払時期)が,報酬後払いの原則を規定している(もっとも,民法642条の2(履行の割合に応じた報酬)は,同時履行に近づいているとはいえ,やはり,一定期間の労働の後の報酬であるという点で,報酬の後払いという原則は,以前として維持されている)。
第3に,請負の場合の報酬も,民法633条(報酬の支払時期)の文言は,「仕事の目的物の引渡しと同時に」と書かれているので,同時履行のように見えるが,実は,仕事の完成があって初めて目的物の引渡しが行えるのであるから,報酬の後払いの原則は,ここでも維持されている。
第4に,有償委任については,民法648条2項(委任者の報酬の委任事務終了後の支払)が,報酬の後払いを規定している。
第5に,有償寄託については,民法665条(委任の規定の準用)が,民法648条2項を準用して,報酬の後払いを規定している。
第6に,組合については,民法667条(組合契約),および,民法667条の2(他の組合員の債務不履行による同時履行の抗弁等の援用の禁止)が,出資の前払いを規定している。
第7に,終身定期金については,民法691条(終身定期金契約の解除)が,元本の先履行を前提とした規定を置いている。終身定期金債務者が年金の給付を怠った場合の元本の返還請求とすでに受け取った終身定期金の返還請求権とは同時履行の関係に立つが(民法692条),そもそもの元本は終身定期金債権者が先履行する義務を負っているのである。
このように見てくると,民法が規定してる13の典型契約の中に存在する8つの双務契約のうち,本来の給付関係が同時履行となっているのは,売買(交換を含む)だけであり,その他のすべての役務提供契約は,すべて,先履行・後履行(異時履行)であることがわかる。
総ての役務提供契約において,民法が報酬後払いの原則を貫いているのは,面倒な仕事は手を抜く傾向にあるという,人間の本質に鑑みて,誠実な役務提供を促進するため,逆から言えば,モラルハザードを防止するためである。アルバイトを例にとって言えば,仕事を終える前に,報酬全額を手にしてしまうと,その後の仕事はいい加減になる危険性が高い。きちんとした仕事をして,初めて報酬を得ることができる環境の下でのみ,一般人は,誠実な履行を行うことが一般経験則として明らかとなっているからである。治療を受ける前に治療費を全額支払えば,どのような治療がなされるか分かったものではない。理容サービスを受ける前に代金を全額支払うのは危険である。この点からも,エステ契約が全額前払いを採用しているのは,異様というべきであろう。
同時履行と異時履行とは決定的に異なるように見える。しかし,双務契約における相互の給付の価値の等質性という観点から見ると,仕事を完成した上でその成果を引き渡すという価値とそれに相応する報酬を支払うという結果は,同時履行となっているともいえる。役務提供のためには時間がかかるが,報酬の支払には時間がかからないために,仕事の先履行と報酬の後払いという現象が生じているに過ぎない。等価交換という観点から双務契約の相互の履行を観察するならば,時間をかけた役務の提供とその総体を評価して支払われる報酬とは,抽象的には,引渡しの時点では,同時履行となっているのである。
同時履行が債権編で規定されているのに対して,留置権は物権編で規定されているために,両者は根本的に異なる制度だと考えている人が多い。しかし,留置権は,債権(例えば,修理代金債権)を担保するために,目的物の占有者に,目的物の返還拒絶の抗弁権を与えたものであって,実は,物権とは言えない。なぜなら,留置権は,物権が備えるべき,目的物に対する使用・収益権も有してておらず(民法298条2項),処分権も有していない(民法298条1項,3項)。その上,留置権は,物権の対抗要件の規定(民法177条,178条)にも従っていない。動産の留置権の対抗要件は占有の移転ではなく,占有の継続であるし,不動産留置権の対抗要件は,登記ではなく,占有の継続だからである。
それでは,同時履行の抗弁権と返還拒絶の抗弁権である留置権とは,どの点が同じで,どの点が異なるのであろうか。
同時履行の抗弁権と留置権とが併存するとされる典型例は,自動車の修理業者(請負人)が自動車の所有者(注文者)に依頼されて自動車を修理して,注文者が修理された自動車を受け取りに来た際に,注文者の自動車の返還請求と請負人の修理代金の請求が,双務契約の本質として相対立する場合である。この場合,民法533条(民法633条の特則も存在する)によって,同時履行の抗弁権が成立することは疑われていない。また,この場合に,民法295条によって,修理業者に返還拒絶の抗弁権としての留置権が発生することも疑われていない。
並存する同時履行の抗弁権と留置権の抗弁とに差が生じるのは,通常は,目的物が第三者に譲渡された場合である。この場合,通説によると,同時履行の抗弁権は債権上の権利だから第三者に対抗できないため,返還拒絶の抗弁権を第三者に主張でいないが,留置権は物権なので第三者に対しても,返還拒絶の抗弁権を対抗できると考えられている。しかし,同時履行の抗弁権が第三者に対抗できるかどうかは,解釈と立法によって両者の境界があいまいとなっている。例えば,消費者法においては,同時履行の抗弁権が第三者に対抗できるとされている(割賦販売法30条の4)。また,留置権は物権だから第三者に対抗できるとされているが,その対抗要件は,その他の物権の対抗要件とは異なっている。すなわち,動産留置権の場合には,留置権は占有を失うと消滅する(民法301条)とされているのであるから,留置権の対抗要件は,占有の継続であり,動産物権の対抗要件としての動産の引渡し(民法178条)とは,明らかに異なっている。また,不動産留置権の対抗要件は,通常の不動産物権の対抗要件としての登記ではな。不動産留置権の対抗要件は,動産留置権の場合と同じく,占有の継続である。このように考えると,留置権が第三者に対抗できるとされているのは,物権の対抗要件を備えているからだということはできない。留置権が第三者に対抗できるのは,占有を備えた返還拒絶の抗弁権に対して,占有の継続を条件として,抗弁権に独自の第三者対抗要件与えられているに過ぎないと考えるべきあろう。
従来は,同時履行の抗弁権よりも,物権である留置権の方がより強い権利であると考えられてきた。しかし,消費者法によって,同時履行の抗弁権が第三者にも対抗できる道が切り開かれるようになると,留置権は,同時履行の抗弁権の中で,占有を継続しているという要件を備えた場合に限って第三者対抗要件が付与されている抗弁権にすぎず,その適用範囲は,むしろ,同時履行の抗弁権よりも狭いけんりであるということが認識されて来ている。その典型例は,修理業者が修理を終えて自動車を注文者に返還し,注文者が修理に問題がないかどうか検査したところ,修理が完全ではないとして修理代金の支払いを拒絶し,そればかりでなく,注文者が請負人に対して損害賠償を請求した場合であろう。この場合,占有を失っている請負人は,留置権を主張できないが,注文者は,現行民法634条2項,改正民法533条によって,請負人の報酬請求を拒絶することができる(この場合には,注文者は相殺の抗弁を行使することによって,報酬請求権と損害賠償請求権とを対当額でもって同時に消滅されることもできる)。このように考えると,留置権とは,自らの債権を保全するために,占有の継続を要件として,目的物の返還を拒絶することができる同時履行の抗弁権の一種であると位置づけることができるように思われる。
①特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において,その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し,又は損傷したときは,その滅失又は損傷は,債権者の負担に帰する。
②不特定物に関する契約については,第401条〔種類債権〕第2項の規定によりその物が確定した時から,前項の規定を適用する。
①前条の規定は,停止条件付双務契約の目的物が条件の成否が未定である間に滅失した場合には,適用しない。
②停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰することができない事由によって損傷したときは,その損傷は,債権者の負担に帰する。
③停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰すべき事由によって損傷した場合において,条件が成就したときは,債権者は,その選択に従い,契約の履行の請求又は解除権の行使をすることができる。この場合においては,損害賠償の請求を妨げない。
①当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは,債権者は,反対給付の履行を拒むことができる。
②債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは,債権者は,反対給付の履行を拒むことができない。この場合において,債務者は,自己の債務を免れたことによって利益を得たときは,これを債権者に償還しなければならない。
①前2条に規定する場合を除き,当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは,債務者は,反対給付を受ける権利を有しない。
②債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは,債務者は,反対給付を受ける権利を失わない。この場合において,自己の債務を免れたことによって利益を得たときは,これを債権者に償還しなければならない。
①契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは,その第三者は,債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する。
②前項の契約は,その成立の時に第三者が現に存しない場合又は第三者が特定していない場合であっても,そのためにその効力を妨げられない。
③第1項の場合において,第三者の権利は,その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する。
①契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは,その第三者は,債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する。
②前項の場合において,第三者の権利は,その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する。
①前条の規定により第三者の権利が発生した後は,当事者は,これを変更し,又は消滅させることができない。
②前条の規定により第三者の権利が発生した後に,債務者がその第三者に対する債務を履行しない場合には,同条第1項の契約の相手方は,その第三者の承諾を得なければ,契約を解除することができない。
前条の規定により第三者の権利が発生した後は,当事者は,これを変更し,又は消滅させることができない。
債務者は,第537条第1項の契約に基づく抗弁をもって,その契約の利益を受ける第三者に対抗することができる。
契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合において,その契約の相手方がその譲渡を承諾したときは,契約上の地位は,その第三者に移転する。
①契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは,その解除は,相手方に対する意思表示によってする。
②前項の意思表示は,撤回することができない。
当事者の一方がその債務を履行しない場合において,相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし,その期間内に履行がないときは,相手方は,契約の解除をすることができる。ただし,その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは,この限りでない。
当事者の一方がその債務を履行しない場合において,相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし,その期間内に履行がないときは,相手方は,契約の解除をすることができる。
①次に掲げる場合には,債権者は,前条の催告をすることなく,直ちに契約の解除をすることができる。
一 債務の全部の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において,残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。
四 契約の性質又は当事者の意思表示により,特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において,債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。
五 前各号に掲げる場合のほか,債務者がその債務の履行をせず,債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。
②次に掲げる場合には,債権者は,前条の催告をすることなく,直ちに契約の一部の解除をすることができる。
一 債務の一部の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
契約の性質又は当事者の意思表示により,特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において,当事者の一方が履行をしないでその時期を経過したときは,相手方は,前条の催告をすることなく,直ちにその契約の解除をすることができる。
債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは,債権者は,前2条の規定による契約の解除をすることができない。
履行の全部又は一部が不能となったときは,債権者は,契約の解除をすることができる。ただし,その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは,この限りでない。
①当事者の一方が数人ある場合には,契約の解除は,その全員から又はその全員に対してのみ,することができる。
②前項の場合において,解除権が当事者のうちの一人について消滅したときは,他の者についても消滅する。
①当事者の一方がその解除権を行使したときは,各当事者は,その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし,第三者の権利を害することはできない。
②前項本文の場合において,金銭を返還するときは,その受領の時から利息を付さなければならない。
③第1項本文の場合において,金銭以外の物を返還するときは,その受領の時以後に生じた果実をも返還しなければならない。
④解除権の行使は,損害賠償の請求を妨げない。
①当事者の一方がその解除権を行使したときは,各当事者は,その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし,第三者の権利を害することはできない。
②前項本文の場合において,金銭を返還するときは,その受領の時から利息を付さなければならない。
③解除権の行使は,損害賠償の請求を妨げない。
第533条の規定は,前条の場合について準用する。
解除権の行使について期間の定めがないときは,相手方は,解除権を有する者に対し,相当の期間を定めて,その期間内に解除をするかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において,その期間内に解除の通知を受けないときは,解除権は,消滅する。
解除権を有する者が故意若しくは過失によって契約の目的物を著しく損傷し,若しくは返還することができなくなったとき,又は加工若しくは改造によってこれを他の種類の物に変えたときは,解除権は,消滅する。ただし,解除権を有する者がその解除権を有することを知らなかったときは,この限りでない。
①解除権を有する者が自己の行為若しくは過失によって契約の目的物を著しく損傷し,若しくは返還することができなくなったとき,又は加工若しくは改造によってこれを他の種類の物に変えたときは,解除権は,消滅する。
②契約の目的物が解除権を有する者の行為又は過失によらないで滅失し,又は損傷したときは,解除権は,消滅しない。
①定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって,その内容の全部又は一部が画1的であることがその双方にとって合理的なものをいう。以下同じ。)を行うことの合意(次条において「定型取引合意」という。)をした者は,次に掲げる場合には,定型約款(定型取引において,契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう。以下同じ。)の個別の条項についても合意をしたものとみなす。
一 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。
二 定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」という。)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。
前項の規定にかかわらず,同項の条項のうち,相手方の権利を制限し,又は相手方の義務を加重する条項であって,その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては,合意をしなかったものとみなす。
①定型取引を行い,又は行おうとする定型約款準備者は,定型取引合意の前又は定型取引合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には,遅滞なく,相当な方法でその定型約款の内容を示さなければならない。ただし,定型約款準備者が既に相手方に対して定型約款を記載した書面を交付し,又はこれを記録した電磁的記録を提供していたときは,この限りでない。
②定型約款準備者が定型取引合意の前において前項の請求を拒んだときは,前条の規定は,適用しない。ただし,一時的な通信障害が発生した場合その他正当な事由がある場合は,この限りでない。
①定型約款準備者は,次に掲げる場合には,定型約款の変更をすることにより,変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし,個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。
一 定型約款の変更が,相手方の一般の利益に適合するとき。
二 定型約款の変更が,契約をした目的に反せず,かつ,変更の必要性,変更後の内容の相当性,この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。
②定型約款準備者は,前項の規定による定型約款の変更をするときは,その効力発生時期を定め,かつ,定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければならない。
③第1項第2号の規定による定型約款の変更は,前項の効力発生時期が到来するまでに同項の規定による周知をしなければ,その効力を生じない。
④第548条の2第2項の規定は,第1項の規定による定型約款の変更については,適用しない。
贈与は,当事者の一方〔贈与者〕がある財産を無償で相手方〔受贈者〕に与える意思を表示し,相手方が受諾をすることによって,その効力を生ずる。
贈与は,当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し,相手方が受諾をすることによって,その効力を生ずる。
書面によらない贈与は,各当事者が解除をすることができる。ただし,履行の終わった部分については,この限りでない。
書面によらない贈与は,各当事者が撤回することができる。ただし,履行の終わった部分については,この限りでない。
①贈与者は,贈与の目的である物又は権利を,贈与の目的として特定した時の状態で引き渡し,又は移転することを約したものと推定する。
②負担付贈与については,贈与者は,その負担の限度において,売主と同じく担保の責任を負う。
①贈与者は,贈与の目的【物】である物又は権利の瑕疵又は不存在について,その責任を負わない。ただし,贈与者がその瑕疵又は不存在を知りながら受贈者に告げなかったときは,この限りでない。
②負担付贈与については,贈与者は,その負担の限度において,売主と同じく担保の責任を負う
定期の給付を目的とする贈与は,贈与者又は受贈者の死亡によって,その効力を失う。
負担付贈与については,この節に定めるもののほか,その性質に反しない限り,双務契約に関する規定を準用する。
贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与については,その性質に反しない限り,遺贈に関する規定を準用する。
売買は,当事者の一方〔売主〕がある財産権を相手方に移転することを約し,相手方〔買主〕がこれに対してその代金を支払うことを約することによって,その効力を生ずる。
①売買の一方の予約は,相手方が売買を完結する意思を表示した時から,売買の効力を生ずる。
②前項の意思表示について期間を定めなかったときは,予約者は,相手方に対し,相当の期間を定めて,その期間内に売買を完結するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において,相手方がその期間内に確答をしないときは,売買の一方の予約は,その効力を失う。
①買主が売主に手付を交付したときは,買主はその手付を放棄し,売主はその倍額を現実に提供して,契約の解除をすることができる。ただし,その相手方が契約の履行に着手した後は,この限りでない。
②第545条第4項解除権の行使は損害賠償の請求を妨げない〕の規定は,前項の場合には,適用しない。
①買主が売主に手付を交付したときは,当事者の一方が契約の履行に着手するまでは,買主はその手付を放棄し,売主はその倍額を償還して,契約の解除をすることができる。
②第545条第3項〔解除権の行使は損害賠償の請求を妨げない〕の規定は,前項の場合には,適用しない。
売買契約に関する費用は,当事者双方が等しい割合で負担する。
この節の規定は,売買以外の有償契約について準用する。ただし,その有償契約の性質がこれを許さないときは,この限りでない。
売主は,買主に対し,登記,登録その他の売買の目的である権利の移転についての対抗要件を備えさせる義務を負う。
他人の権利(権利の一部が他人に属する場合におけるその権利の一部を含む。)を売買の目的としたときは,売主は,その権利を取得して買主に移転する義務を負う。
他人の権利を売買の目的【物】としたときは,売主は,その権利を取得して買主に移転する義務を負う。
前条の場合において,売主がその売却した権利を取得して買主に移転することができないときは,買主は,契約の解除をすることができる。この場合において,契約の時においてその権利が売主に属しないことを知っていたときは,損害賠償の請求をすることができない。
①引き渡された目的物が種類,品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは,買主は,売主に対し,目的物の修補,代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし,売主は,買主に不相当な負担を課するものでないときは,買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
②前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは,買主は,同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。
①前条第1項本文に規定する場合において,買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし,その期間内に履行の追完がないときは,買主は,その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。
②前項の規定にかかわらず,次に掲げる場合には,買主は,同項の催告をすることなく,直ちに代金の減額を請求することができる。
一 履行の追完が不能であるとき。
二 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 契約の性質又は当事者の意思表示により,特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において,売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき。
四 前3号に掲げる場合のほか,買主が前項の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき。
③第1項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは,買主は,前2項の規定による代金の減額の請求をすることができない。
前2条の規定は,第415条の規定による損害賠償の請求並びに第541条及び第542条の規定による解除権の行使を妨げない。〔ただし,第542条が準用する第543条によって,債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは,債権者は,契約の解除をすることができない。〕
前3条の規定は,売主が買主に移転した権利が契約の内容に適合しないものである場合(権利の一部が他人に属する場合においてその権利の一部を移転しないときを含む。)について準用する。
①売主が契約の時においてその売却した権利が自己に属しないことを知らなかった場合において,その権利を取得して買主に移転することができないときは,売主は,損害を賠償して,契約の解除をすることができる。
②前項の場合において,買主が契約の時においてその買い受けた権利が売主に属しないことを知っていたときは,売主は,買主に対し,単にその売却した権利を移転することができない旨を通知して,契約の解除をすることができる。
①売買の目的【物】である権利の一部が他人に属することにより,売主がこれを買主に移転することができないときは,買主は,その不足する部分の割合に応じて代金の減額を請求することができる。
②前項の場合において,残存する部分のみであれば買主がこれを買い受けなかったときは,善意の買主は,契約の解除をすることができる。
③代金減額の請求又は契約の解除は,善意の買主が損害賠償の請求をすることを妨げない。
前条の規定による権利は,買主が善意であったときは事実を知った時から,悪意であったときは契約の時から,それぞれ1年以内に行使しなければならない。
前2条〔権利の一部が他人に属する場合における売主の担保責任〕の規定は,数量を指示して売買をした物に不足がある場合又は物の一部が契約の時に既に滅失していた場合において,買主がその不足又は滅失を知らなかったときについて準用する。
①売買の目的物が地上権,永小作権,地役権,留置権又は質権の目的【物】である場合において,買主がこれを知らず,かつ,そのために契約をした目的を達することができないときは,買主は,契約の解除をすることができる。この場合において,契約の解除をすることができないときは,損害賠償の請求のみをすることができる。
②前項の規定は,売買の目的【物】である不動産のために存すると称した地役権が存しなかった場合及びその不動産について登記をした賃貸借があった場合について準用する。
③前2項の場合において,契約の解除又は損害賠償の請求は,買主が事実を知った時から1年以内にしなければならない。
売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは,第566条〔地上権等がある場合等における売主の担保責任〕の規定を準用する。ただし,強制競売の場合は,この限りでない。
売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において,買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは,買主は,その不適合を理由として,履行の追完の請求,代金の減額の請求,損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし,売主が引渡しの時にその不適合を知り,又は重大な過失によって知らなかったときは,この限りでない。
①売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る。以下この条において同じ。)を引き渡した場合において,その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失し,又は損傷したときは,買主は,その滅失又は損傷を理由として,履行の追完の請求,代金の減額の請求,損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。この場合において,買主は,代金の支払を拒むことができない。
②売主が契約の内容に適合する目的物をもって,その引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず,買主がその履行を受けることを拒み,又は受けることができない場合において,その履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその目的物が滅失し,又は損傷したときも,前項と同様とする。
①民事執行法その他の法律の規定に基づく競売(以下この条において単に「競売」という。)における買受人は,第541条及び第542条の規定並びに第563条(第565条において準用する場合を含む。)の規定により,債務者に対し,契約の解除をし,又は代金の減額を請求することができる。
②前項の場合において,債務者が無資力であるときは,買受人は,代金の配当を受けた債権者に対し,その代金の全部又は一部の返還を請求することができる。
③前2項の場合において,債務者が物若しくは権利の不存在を知りながら申し出なかったとき,又は債権者がこれを知りながら競売を請求したときは,買受人は,これらの者に対し,損害賠償の請求をすることができる。
④前3項の規定は,競売の目的物の種類又は品質に関する不適合については,適用しない。
①強制競売における買受人は,第561条から前条まで〔売主の追奪担保責任〕の規定により,債務者に対し,契約の解除をし,又は代金の減額を請求することができる。
②前項の場合において,債務者が無資力であるときは,買受人は,代金の配当を受けた債権者に対し,その代金の全部又は一部の返還を請求することができる。
③前2項の場合において,債務者が物若しくは権利の不存在を知りながら申し出なかったとき,又は債権者がこれを知りながら競売を請求したときは,買受人は,これらの者に対し,損害賠償の請求をすることができる。
①債権の売主が債務者の資力を担保したときは,契約の時における資力を担保したものと推定する。
②弁済期に至らない債権の売主が債務者の将来の資力を担保したときは,弁済期における資力を担保したものと推定する。
買い受けた不動産について契約の内容に適合しない先取特権,質権又は抵当権が存していた場合において,買主が費用を支出してその不動産の所有権を保存したときは,買主は,売主に対し,その費用の償還を請求することができる。
①売買の目的【物】である不動産について存した先取特権又は抵当権の行使により買主がその所有権を失ったときは,買主は,契約の解除をすることができる。
②買主は,費用を支出してその所有権を保存したときは,売主に対し,その費用の償還を請求することができる。
③前2項の場合において,買主は,損害を受けたときは,その賠償を請求することができる。
第533条〔同時履行の抗弁権〕の規定は,第563条から第566条まで及び前条〔売主の担保責任〕の場合について準用する。
売主は,第562条第1項本文又は第565条に規定する場合における担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても,知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については,その責任を免れることができない。
売主は,第560条から前条まで〔売主の担保責任〕の規定による担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても,知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については,その責任を免れることができない。
売買の目的物の引渡しについて期限があるときは,代金の支払についても同一の期限を付したものと推定する。
売買の目的物の引渡しと同時に代金を支払うべきときは,その引渡しの場所において支払わなければならない。
①まだ引き渡されていない売買の目的物が果実を生じたときは,その果実は,売主に帰属する。
②買主は,引渡しの日から,代金の利息を支払う義務を負う。ただし,代金の支払について期限があるときは,その期限が到来するまでは,利息を支払うことを要しない。
売買の目的〔物〕について権利を主張する者があることその他の事由により,買主がその買い受けた権利の全部若しくは一部を取得することができず,又は失うおそれがあるときは,買主は,その危険の程度に応じて,代金の全部又は一部の支払を拒むことができる。ただし,売主が相当の担保を供したときは,この限りでない。
売買の目的【物】について権利を主張する者があるために買主がその買い受けた権利の全部又は一部を失うおそれがあるときは,買主は,その危険の限度に応じて,代金の全部又は一部の支払を拒むことができる。ただし,売主が相当の担保を供したときは,この限りでない。
①買い受けた不動産について契約の内容に適合しない抵当権の登記があるときは,買主は,抵当権消滅請求の手続が終わるまで,その代金の支払を拒むことができる。この場合において,売主は,買主に対し,遅滞なく抵当権消滅請求をすべき旨を請求することができる。
②前項の規定は,買い受けた不動産について契約の内容に適合しない先取特権又は質権の登記がある場合について準用する。
①買い受けた不動産について抵当権の登記があるときは,買主は,抵当権消滅請求の手続が終わるまで,その代金の支払を拒むことができる。この場合において,売主は,買主に対し,遅滞なく抵当権消滅請求をすべき旨を請求することができる。
②前項の規定は,買い受けた不動産について先取特権又は質権の登記がある場合について準用する。
前2条の場合においては,売主は,買主に対して代金の供託を請求することができる。
不動産の売主は,売買契約と同時にした買戻しの特約により,買主が支払った代金(別段の合意をした場合にあっては,その合意により定めた金額。第583条第1項において同じ。)及び契約の費用を返還して,売買の解除をすることができる。この場合において,当事者が別段の意思を表示しなかったときは,不動産の果実と代金の利息とは相殺したものとみなす。
不動産の売主は,売買契約と同時にした買戻しの特約により,買主が支払った代金及び契約の費用を返還して,売買の解除をすることができる。この場合において,当事者が別段の意思を表示しなかったときは,不動産の果実と代金の利息とは相殺したものとみなす。
①買戻しの期間は,10年を超えることができない。特約でこれより長い期間を定めたときは,その期間は,10年とする。
②買戻しについて期間を定めたときは,その後にこれを伸長することができない。
③買戻しについて期間を定めなかったときは,5年以内に買戻しをしなければならない。
①売買契約と同時に買戻しの特約を登記したときは,買戻しは,第三者に対抗することができる。
②前項の登記がされた後に第605条の2第1項に規定する対抗要件を備えた賃借人の権利は,その残存期間中1年を超えない期間に限り,売主に対抗することができる。ただし,売主を害する目的で賃貸借をしたときは,この限りでない。
①売買契約と同時に買戻しの特約を登記したときは,買戻しは,第三者に対しても,その効力を生ずる。
②登記をした賃借人の権利は,その残存期間中1年を超えない期間に限り,売主に対抗することができる。ただし,売主を害する目的で賃貸借をしたときは,この限りでない。
売主の債権者が第423条の規定により売主に代わって買戻しをしようとするときは,買主は,裁判所において選任した鑑定人の評価に従い,不動産の現在の価額から売主が返還すべき金額を控除した残額に達するまで売主の債務を弁済し,なお残余があるときはこれを売主に返還して,買戻権を消滅させることができる。
①売主は,第580条に規定する期間内に代金及び契約の費用を提供しなければ,買戻しをすることができない。
②買主又は転得者が不動産について費用を支出したときは,売主は,第196条の規定に従い,その償還をしなければならない。ただし,有益費については,裁判所は,売主の請求により,その償還について相当の期限を許与することができる。
不動産の共有者の一人が買戻しの特約を付してその持分を売却した後に,その不動産の分割又は競売があったときは,売主は,買主が受け,若しくは受けるべき部分又は代金について,買戻しをすることができる。ただし,売主に通知をしないでした分割及び競売は,売主に対抗することができない。
①前条の場合において,買主が不動産の競売における買受人となったときは,売主は,競売の代金及び第583条〔買戻しの際の費用償還請求権〕に規定する費用を支払って買戻しをすることができる。この場合において,売主は,その不動産の全部の所有権を取得する。
②他の共有者が分割を請求したことにより買主が競売における買受人となったときは,売主は,その持分のみについて買戻しをすることはできない。
①交換は,当事者〔交換当事者〕が互いに金銭の所有権以外の財産権を移転することを約することによって,その効力を生ずる。
②当事者の一方が他の権利とともに金銭の所有権を移転することを約した場合におけるその金銭については,売買の代金に関する規定〔代金の支払の拒絶権(576~578条),売主の先取特権(321条,328条)〕を準用する。
消費貸借は,当事者の一方〔借主〕が種類,品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方〔貸主〕から金銭その他の物を受け取ることによって,その効力を生ずる。
①前条の規定にかかわらず,書面でする消費貸借は,当事者の一方が金銭その他の物を引き渡すことを約し,相手方がその受け取った物と種類,品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約することによって,その効力を生ずる。
②書面でする消費貸借の借主は,貸主から金銭その他の物を受け取るまで,契約の解除をすることができる。この場合において,貸主は,その契約の解除によって損害を受けたときは,借主に対し,その賠償を請求することができる。
③書面でする消費貸借は,借主が貸主から金銭その他の物を受け取る前に当事者の一方が破産手続開始の決定を受けたときは,その効力を失う。
④消費貸借がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは,その消費貸借は,書面によってされたものとみなして,前3項の規定を適用する。
金銭その他の物を給付する義務を負う者がある場合において,当事者がその物を消費貸借の目的とすることを約したときは,消費貸借は,これによって成立したものとみなす。
消費貸借によらないで金銭その他の物を給付する義務を負う者がある場合において,当事者がその物を消費貸借の目的【物】とすることを約したときは,消費貸借は,これによって成立したものとみなす。
①貸主は,特約がなければ,借主に対して利息を請求することができない。
②前項の特約があるときは,貸主は,借主が金銭その他の物を受け取った日以後の利息を請求することができる。
消費貸借の予約は,その後に当事者の一方が破産手続開始の決定を受けたときは,その効力を失う。
①第551条の規定は,前条第1項の特約のない消費貸借について準用する。
②前条第1項の特約の有無にかかわらず,貸主から引き渡された物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないものであるときは,借主は,その物の価額を返還することができる。
①利息付きの消費貸借において,物に隠れた瑕疵があったときは,貸主は,瑕疵がない物をもってこれに代えなければならない。この場合においては,損害賠償の請求を妨げない。
②無利息の消費貸借においては,借主は,瑕疵がある物の価額を返還することができる。この場合において,貸主がその瑕疵を知りながら借主に告げなかったときは,前項の規定を準用する。
①当事者が返還の時期を定めなかったときは,貸主は,相当の期間を定めて返還の催告をすることができる。
②借主は,返還の時期の定めの有無にかかわらず,いつでも返還をすることができる。
③当事者が返還の時期を定めた場合において,貸主は,借主がその時期の前に返還をしたことによって損害を受けたときは,借主に対し,その賠償を請求することができる。
①当事者が返還の時期を定めなかったときは,貸主は,相当の期間を定めて返還の催告をすることができる。
②借主は,いつでも返還をすることができる。
借主が貸主から受け取った物と種類,品質及び数量の同じ物をもって返還をすることができなくなったときは,その時における物の価額を償還しなければならない。ただし,第402条第2項に規定する場合〔ある特定の種類の通貨が強制通用力を失っている場合〕は,この限りでない。
使用貸借は,当事者の一方〔貸主〕がある物を引き渡すことを約し,相手方〔借主〕がその受け取った物について無償で使用及び収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって,その効力を生ずる。
使用貸借は,当事者の一方が無償で使用及び収益をした後に返還をすることを約して相手方からある物を受け取ることによって,その効力を生ずる。
貸主は,借主が借用物を受け取るまで,契約の解除をすることができる。ただし,書面による使用貸借については,この限りでない。
①借主は,契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い,その物の使用及び収益をしなければならない。
②借主は,貸主の承諾を得なければ,第三者に借用物の使用又は収益をさせることができない。
③借主が前2項の規定に違反して使用又は収益をしたときは,貸主は,契約の解除をすることができる。
①借主は,借用物の通常の必要費を負担する。
②第583条第2項の規定〔買戻しの際の費用償還請求権〕は,前項の通常の必要費以外の費用について準用する。
第551条〔贈与者の引渡し義務等=贈与者の担保責任〕の規定は,使用貸借について準用する。
第551条〔贈与者の担保責任〕の規定は,使用貸借について準用する。
①当事者が使用貸借の期間を定めたときは,使用貸借は,その期間が満了することによって終了する。
②当事者が使用貸借の期間を定めなかった場合において,使用及び収益の目的を定めたときは,使用貸借は,借主がその目的に従い使用及び収益を終えることによって終了する。
③使用貸借は,借主の死亡によって終了する。
①借主は,契約に定めた時期に,借用物の返還をしなければならない。
②当事者が返還の時期を定めなかったときは,借主は,契約に定めた目的に従い使用及び収益を終わった時に,返還をしなければならない。ただし,その使用及び収益を終わる前であっても,使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは,貸主は,直ちに返還を請求することができる。
③当事者が返還の時期並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは,貸主は,いつでも返還を請求することができる。
使用貸借は,借主の死亡によって,その効力を失う。
①貸主は,前条第2項に規定する場合において,同項の目的に従い借主が使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは,契約の解除をすることができる。
②当事者が使用貸借の期間並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは,貸主は,いつでも契約の解除をすることができる。
③借主は,いつでも契約の解除をすることができる。
①借主は,借用物を受け取った後にこれに附属させた物がある場合において,使用貸借が終了したときは,その附属させた物を収去する義務を負う。ただし,借用物から分離することができない物又は分離するのに過分の費用を要する物については,この限りでない。
②借主は,借用物を受け取った後にこれに附属させた物を収去することができる。
③借主は,借用物を受け取った後にこれに生じた損傷がある場合において,使用貸借が終了したときは,その損傷を原状に復する義務を負う。ただし,その損傷が借主の責めに帰することができない事由によるものであるときは,この限りでない。
借主は,借用物を原状に復して,これに附属させた物を収去することができる。
①契約の本旨に反する使用又は収益によって生じた損害の賠償及び借主が支出した費用の償還は,貸主が返還を受けた時から1年以内に請求しなければならない。
②前項の損害賠償の請求権については,貸主が返還を受けた時から1年を経過するまでの間は,時効は,完成しない。
契約の本旨に反する使用又は収益によって生じた損害の賠償及び借主が支出した費用の償還は,貸主が返還を受けた時から1年以内に請求しなければならない。
賃貸借は,当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し,相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって,その効力を生ずる。
賃貸借は,当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し,相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって,その効力を生ずる。
処分の権限を有しない者が賃貸借をする場合には,次の各号に掲げる賃貸借は,それぞれ当該各号に定める期間を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても,その期間は,当該各号に定める期間とする。
一 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃貸借 10年
二 前号に掲げる賃貸借以外の土地の賃貸借 5年
三 建物の賃貸借 3年
四 動産の賃貸借 6箇月
処分につき行為能力の制限を受けた者又は処分の権限を有しない者が賃貸借をする場合には,次の各号に掲げる賃貸借は,それぞれ当該各号に定める期間を超えることができない。
一 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃貸借 10年
二 前号に掲げる賃貸借以外の土地の賃貸借 5年
三 建物の賃貸借 3年
四 動産の賃貸借 6箇月
前条に定める期間は,更新することができる。ただし,その期間満了前,土地については1年以内,建物については3箇月以内,動産については1箇月以内に,その更新をしなければならない。
①賃貸借の存続期間は,50年を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても,その期間は,50年とする。
②賃貸借の存続期間は,更新することができる。ただし,その期間は,更新の時から50年を超えることができない。
①賃貸借の存続期間は,20年を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても,その期間は,20年とする。
②賃貸借の存続期間は,更新することができる。ただし,その期間は,更新の時から20年を超えることができない。
不動産の賃貸借は,これを登記したときは,その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。
不動産の賃貸借は,これを登記したときは,その後その不動産について物権を取得した者に対しても,その効力を生ずる。
①前条,借地借家法(平成3年法律第90号)第10条又は第31条その他の法令の規定による賃貸借の対抗要件を備えた場合において,その不動産が譲渡されたときは,その不動産の賃貸人たる地位は,その譲受人に移転する。
②前項の規定にかかわらず,不動産の譲渡人及び譲受人が,賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨及びその不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意をしたときは,賃貸人たる地位は,譲受人に移転しない。この場合において,譲渡人と譲受人又はその承継人との間の賃貸借が終了したときは,譲渡人に留保されていた賃貸人たる地位は,譲受人又はその承継人に移転する。
③第1項又は前項後段の規定による賃貸人たる地位の移転は,賃貸物である不動産について所有権の移転の登記をしなければ,賃借人に対抗することができない。
④第1項又は第2項後段の規定により賃貸人たる地位が譲受人又はその承継人に移転したときは,第608条の規定による費用の償還に係る債務及び第622条の2第1項の規定による同項に規定する敷金の返還に係る債務は,譲受人又はその承継人が承継する。
不動産の譲渡人が賃貸人であるときは,その賃貸人たる地位は,賃借人の承諾を要しないで,譲渡人と譲受人との合意により,譲受人に移転させることができる。この場合においては,前条第3項及び第4項の規定を準用する。
不動産の賃借人は,第605条の2第1項に規定する対抗要件を備えた場合において,次の各号に掲げるときは,それぞれ当該各号に定める請求をすることができる。
一 その不動産の占有を第三者が妨害しているとき その第三者に対する妨害の停止の請求
二 その不動産を第三者が占有しているとき その第三者に対する返還の請求
①賃貸人は,賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし,賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは,この限りでない。
②賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは,賃借人は,これを拒むことができない。
①賃貸人は,賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。
②賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは,賃借人は,これを拒むことができない。
賃貸人が賃借人の意思に反して保存行為をしようとする場合において,そのために賃借人が賃借をした目的を達することができなくなるときは,賃借人は,契約の解除をすることができる。
賃借物の修繕が必要である場合において,次に掲げるときは,賃借人は,その修繕をすることができる。
一 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し,又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず,賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。
二 急迫の事情があるとき。
①賃借人は,賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは,賃貸人に対し,直ちにその償還を請求することができる。
②賃借人が賃借物について有益費を支出したときは,賃貸人は,賃貸借の終了の時に,第196条第2項の規定〔占有者による有益費の償還請求〕に従い,その償還をしなければならない。ただし,裁判所は,賃貸人の請求により,その償還について相当の期限を許与することができる。
耕作又は牧畜を目的とする土地の賃借人は,不可抗力によって賃料より少ない収益を得たときは,その収益の額に至るまで,賃料の減額を請求することができる。
収益を目的とする土地の賃借人は,不可抗力によって賃料より少ない収益を得たときは,その収益の額に至るまで,賃料の減額を請求することができる。ただし,宅地の賃貸借については,この限りでない。
前条の場合において,同条の賃借人は,不可抗力によって引き続き2年以上賃料より少ない収益を得たときは,契約の解除をすることができる。
①賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において,それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは,賃料は,その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて,減額される。
②賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において,残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは,賃借人は,契約の解除をすることができる。
①賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したときは,賃借人は,その滅失した部分の割合に応じて,賃料の減額を請求することができる。
②前項の場合において,残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは,賃借人は,契約の解除をすることができる。
①賃借人は,賃貸人の承諾を得なければ,その賃借権を譲り渡し,又は賃借物を転貸することができない。
②賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは,賃貸人は,契約の解除をすることができる。
①賃借人が適法に賃借物を転貸したときは,転借人は,賃貸人と賃借人との間の賃貸借に基づく賃借人の債務の範囲を限度として,賃貸人に対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負う。この場合においては,賃料の前払をもって賃貸人に対抗することができない。
②前項の規定は,賃貸人が賃借人に対してその権利を行使することを妨げない。
③賃借人が適法に賃借物を転貸した場合には,賃貸人は,賃借人との間の賃貸借を合意により解除したことをもって転借人に対抗することができない。ただし,その解除の当時,賃貸人が賃借人の債務不履行による解除権を有していたときは,この限りでない。
①賃借人が適法に賃借物を転貸したときは,転借人は,賃貸人に対して直接に義務を負う。この場合においては,賃料の前払をもって賃貸人に対抗することができない。
②前項の規定は,賃貸人が賃借人に対してその権利を行使することを妨げない。
賃料は,動産,建物及び宅地については毎月末に,その他の土地については毎年末に,支払わなければならない。ただし,収穫の季節があるものについては,その季節の後に遅滞なく支払わなければならない。
賃借物が修繕を要し,又は賃借物について権利を主張する者があるときは,賃借人は,遅滞なくその旨を賃貸人に通知しなければならない。ただし,賃貸人が既にこれを知っているときは,この限りでない。
第594条第1項の規定〔借主の用法遵守義務〕は,賃貸借について準用する。
第594条第1項〔借主による使用及び収益〕,第597条第1項〔借用物の返還の時期〕及び第598条〔借主による収去〕の規定は,賃貸借について準用する。
賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には,賃貸借は,これによって終了する。
①当事者が賃貸借の期間を定めなかったときは,各当事者は,いつでも解約の申入れをすることができる。この場合においては,次の各号に掲げる賃貸借は,解約の申入れの日からそれぞれ当該各号に定める期間を経過することによって終了する。
一 土地の賃貸借 1年
二 建物の賃貸借 3箇月
三 動産及び貸席の賃貸借
②収穫の季節がある土地の賃貸借については,その季節の後次の耕作に着手する前に,解約の申入れをしなければならない。
当事者が賃貸借の期間を定めた場合であっても,その一方又は双方がその期間内に解約をする権利を留保したときは,前条の規定を準用する。
①賃貸借の期間が満了した後賃借人が賃借物の使用又は収益を継続する場合において,賃貸人がこれを知りながら異議を述べないときは,従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものと推定する。この場合において,各当事者は,第617条の規定〔期間の定めのない賃貸借の解約の申入れ〕により解約の申入れをすることができる。
②従前の賃貸借について当事者が担保を供していたときは,その担保は,期間の満了によって消滅する。ただし,第622条の2第1項に規定する敷金については,この限りでない。
①賃貸借の期間が満了した後賃借人が賃借物の使用又は収益を継続する場合において,賃貸人がこれを知りながら異議を述べないときは,従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものと推定する。この場合において,各当事者は,第617条〔期間の定めのない賃貸借の解約の申入れ〕の規定により解約の申入れをすることができる。
②従前の賃貸借について当事者が担保を供していたときは,その担保は,期間の満了によって消滅する。ただし,敷金については,この限りでない。
賃貸借の解除をした場合には,その解除は,将来に向かってのみその効力を生ずる。この場合においては,損害賠償の請求を妨げない。
賃貸借の解除をした場合には,その解除は,将来に向かってのみその効力を生ずる。この場合において,当事者の一方に過失があったときは,その者に対する損害賠償の請求を妨げない。
賃借人は,賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において,賃貸借が終了したときは,その損傷を原状に復する義務を負う。ただし,その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは,この限りでない。
第597条第1項〔期間満了による使用貸借の終了〕,第599条第1項及び第2項〔貸主による附属物の収去〕並びに第600条〔損害賠償及び費用の償還の請求権についての期間の制限〕の規定は,賃貸借について準用する。
第600条〔使用貸借の場合の損害賠償及び費用の償還の請求権についての期間の制限〕の規定は,賃貸借について準用する。
①賃貸人は,敷金(いかなる名目によるかを問わず,賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で,賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取っている場合において,次に掲げるときは,賃借人に対し,その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
一 賃貸借が終了し,かつ,賃貸物の返還を受けたとき。
二 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。
②賃貸人は,賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは,敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において,賃借人は,賃貸人に対し,敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。
雇用は,当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し,相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって,その効力を生ずる。
①労働者は,その約した労働を終わった後でなければ,報酬を請求することができない。
②期間によって定めた報酬は,その期間を経過した後に,請求することができる。
労働者は,次に掲げる場合には,既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。
一 使用者の責めに帰することができない事由によって労働に従事することができなくなったとき。
二 雇用が履行の中途で終了したとき。
①使用者は,労働者の承諾を得なければ,その権利を第三者に譲り渡すことができない。
②労働者は,使用者の承諾を得なければ,自己に代わって第三者を労働に従事させることができない。
③労働者が前項の規定に違反して第三者を労働に従事させたときは,使用者は,契約の解除をすることができる。
①雇用の期間が5年を超え,又はその終期が不確定であるときは,当事者の一方は,5年を経過した後,いつでも契約の解除をすることができる。
②前項の規定により契約の解除をしようとする者は,それが使用者であるときは3箇月前,労働者であるときは2週間前に,その予告をしなければならない。
①雇用の期間が5年を超え,又は雇用が当事者の一方若しくは第三者の終身の間継続すべきときは,当事者の一方は,5年を経過した後,いつでも契約の解除をすることができる。ただし,この期間は,商工業の見習を目的とする雇用については,10年とする。
②前項の規定により契約の解除をしようとするときは,3箇月前にその予告をしなければならない。
①当事者が雇用の期間を定めなかったときは,各当事者は,いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において,雇用は,解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。
②期間によって報酬を定めた場合には,使用者からの解約の申入れは,次期以後についてすることができる。ただし,その解約の申入れは,当期の前半にしなければならない。
③6箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には,前項の解約の申入れは,3箇月前にしなければならない。
①当事者が雇用の期間を定めなかったときは,各当事者は,いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において,雇用は,解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。
②期間によって報酬を定めた場合には,解約の申入れは,次期以後についてすることができる。ただし,その解約の申入れは,当期の前半にしなければならない。
③6箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には,前項の解約の申入れは,3箇月前にしなければならない。
当事者が雇用の期間を定めた場合であっても,やむを得ない事由があるときは,各当事者は,直ちに契約の解除をすることができる。この場合において,その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは,相手方に対して損害賠償の責任を負う。
①雇用の期間が満了した後労働者が引き続きその労働に従事する場合において,使用者がこれを知りながら異議を述べないときは,従前の雇用と同一の条件で更に雇用をしたものと推定する。この場合において,各当事者は,第627条〔期間の定めのない雇用の解約の申入れ〕の規定により解約の申入れをすることができる。
②従前の雇用について当事者が担保を供していたときは,その担保は,期間の満了によって消滅する。ただし,身元保証金については,この限りでない。
第620条〔賃貸借の解除の効力の不遡及〕の規定は,雇用について準用する。
使用者が破産手続開始の決定を受けた場合には,雇用に期間の定めがあるときであっても,労働者又は破産管財人は,第627条の規定により解約の申入れをすることができる。この場合において,各当事者は,相手方に対し,解約によって生じた損害の賠償を請求することができない。
請負は,当事者の一方〔請負人〕がある仕事を完成することを約し,相手方〔注文者〕がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって,その効力を生ずる。
報酬は,仕事の目的物の引渡しと同時に,支払わなければならない。ただし,物の引渡しを要しないときは,第624条第1項〔報酬の支払時期・労務の提供の後〕の規定を準用する。
次に掲げる場合において,請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは,その部分を仕事の完成とみなす。この場合において,請負人は,注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる。
一 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき。
二 請負が仕事の完成前に解除されたとき。
①仕事の目的物に瑕疵があるときは,注文者は,請負人に対し,相当の期間を定めて,その瑕疵の修補を請求することができる。ただし,瑕疵が重要でない場合において,その修補に過分の費用を要するときは,この限りでない。
②注文者は,瑕疵の修補に代えて,又はその修補とともに,損害賠償の請求をすることができる。この場合においては,第533条〔同時履行の抗弁権〕の規定を準用する。
仕事の目的物に瑕疵があり,そのために契約をした目的を達することができないときは,注文者は,契約の解除をすることができる。ただし,建物その他の土地の工作物については,この限りでない。
請負人が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない仕事の目的物を注文者に引き渡したとき(その引渡しを要しない場合にあっては,仕事が終了した時に仕事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないとき)は,注文者は,注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じた不適合を理由として,履行の追完の請求,報酬の減額の請求,損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし,請負人がその材料又は指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは,この限りでない。
請負人の担保責任に関する規定の不適用
①前条本文に規定する場合において,注文者がその不適合を知った時から1年以内にその旨を請負人に通知しないときは,注文者は,その不適合を理由として,履行の追完の請求,報酬の減額の請求,損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。
②前項の規定は,仕事の目的物を注文者に引き渡した時(その引渡しを要しない場合にあっては,仕事が終了した時)において,請負人が同項の不適合を知り,又は重大な過失によって知らなかったときは,適用しない。
①前3条〔請負人の担保責任〕の規定による瑕疵の修補又は損害賠償の請求及び契約の解除は,仕事の目的物を引き渡した時から1年以内にしなければならない。
②仕事の目的物の引渡しを要しない場合には,前項の期間は,仕事が終了した時から起算する。
①建物その他の土地の工作物の請負人は,その工作物又は地盤の瑕疵について,引渡しの後5年間その担保の責任を負う。ただし,この期間は,石造,土造,れんが造,コンクリート造,金属造その他これらに類する構造の工作物については,10年とする。
②工作物が前項の瑕疵によって滅失し,又は損傷したときは,注文者は,その滅失又は損傷の時から1年以内に,第634条〔請負人の担保責任〕の規定による権利を行使しなければならない。
第637条及び前条第1項の期間は,第167条〔債権等の消滅時効〕の規定による消滅時効の期間内に限り,契約で伸長することができる。
請負人は,第634条又は第635条の規定による担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても,知りながら告げなかった事実については,その責任を免れることができない。
請負人が仕事を完成しない間は,注文者は,いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。
①注文者が破産手続開始の決定を受けたときは,請負人又は破産管財人は,契約の解除をすることができる。ただし,請負人による契約の解除については,仕事を完成した後は,この限りでない。
②前項に規定する場合において,請負人は,既にした仕事の報酬及びその中に含まれていない費用について,破産財団の配当に加入することができる。
③第1項の場合には,契約の解除によって生じた損害の賠償は,破産管財人が契約の解除をした場合における請負人に限り,請求することができる。この場合において,請負人は,その損害賠償について,破産財団の配当に加入する。
①注文者が破産手続開始の決定を受けたときは,請負人又は破産管財人は,契約の解除をすることができる。この場合において,請負人は,既にした仕事の報酬及びその中に含まれていない費用について,破産財団の配当に加入することができる。
②前項の場合には,契約の解除によって生じた損害の賠償は,破産管財人が契約の解除をした場合における請負人に限り,請求することができる。この場合において,請負人は,その損害賠償について,破産財団の配当に加入する。
委任は,当事者の一方〔委任者〕が法律行為をすることを相手方に委託し,相手方〔受任者〕がこれを承諾することによって,その効力を生ずる。
受任者は,委任の本旨に従い,善良な管理者の注意をもって,委任事務を処理する義務を負う。
①受任者は,委任者の許諾を得たとき,又はやむを得ない事由があるときでなければ,復受任者を選任することができない。
②代理権を付与する委任において,受任者が代理権を有する復受任者を選任したときは,復受任者は,委任者に対して,その権限の範囲内において,受任者と同一の権利を有し,義務を負う。
受任者は,委任者の請求があるときは,いつでも委任事務の処理の状況を報告し,委任が終了した後は,遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。
①受任者は,委任事務を処理するに当たって受け取った金銭その他の物を委任者に引き渡さなければならない。その収取した果実についても,同様とする。
②受任者は,委任者のために自己の名で取得した権利を委任者に移転しなければならない。
受任者は,委任者に引き渡すべき金額又はその利益のために用いるべき金額を自己のために消費したときは,その消費した日以後の利息を支払わなければならない。この場合において,なお損害があるときは,その賠償の責任を負う。
①受任者は,特約がなければ,委任者に対して報酬を請求することができない。
②受任者は,報酬を受けるべき場合には,委任事務を履行した後でなければ,これを請求することができない。ただし,期間によって報酬を定めたときは,第624条第2項〔報酬の支払時期・期間経過後〕の規定を準用する。
③受任者は,次に掲げる場合には,既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。
一 委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務の履行をすることができなくなったとき。
二 委任が履行の中途で終了したとき。
①受任者は,特約がなければ,委任者に対して報酬を請求することができない。
②受任者は,報酬を受けるべき場合には,委任事務を履行した後でなければ,これを請求することができない。ただし,期間によって報酬を定めたときは,第624条第2項〔報酬の支払時期・期間経過後〕の規定を準用する。
③委任が受任者の責めに帰することができない事由によって履行の中途で終了したときは,受任者は,既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。
①委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合において,その成果が引渡しを要するときは,報酬は,その成果の引渡しと同時に,支払わなければならない。
②第634条〔注文者が受ける利益の割合に応じた報酬〕の規定は,委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合について準用する。
委任事務を処理するについて費用を要するときは,委任者は,受任者の請求により,その前払をしなければならない。
①受任者は,委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは,委任者に対し,その費用及び支出の日以後におけるその利息の償還を請求することができる。
②受任者は,委任事務を処理するのに必要と認められる債務を負担したときは,委任者に対し,自己に代わってその弁済をすることを請求することができる。この場合において,その債務が弁済期にないときは,委任者に対し,相当の担保を供させることができる。
③受任者は,委任事務を処理するため自己に過失なく損害を受けたときは,委任者に対し,その賠償を請求することができる。
①委任は,各当事者がいつでもその解除をすることができる。
②前項の規定により委任の解除をした者は,次に掲げる場合には,相手方の損害を賠償しなければならない。ただし,やむを得ない事由があったときは,この限りでない。
一 相手方に不利な時期に委任を解除したとき。
二 委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く。)をも目的とする委任を解除したとき。
①委任は,各当事者がいつでもその解除をすることができる。
②当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしたときは,その当事者の一方は,相手方の損害を賠償しなければならない。ただし,やむを得ない事由があったときは,この限りでない。
第620条〔賃貸借の解除の効力の不遡及〕の規定は,委任について準用する。
委任は,次に掲げる事由によって終了する。
一 委任者又は受任者の死亡
二 委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと。
三 受任者が後見開始の審判を受けたこと。
委任が終了した場合において,急迫の事情があるときは,受任者又はその相続人若しくは法定代理人は,委任者又はその相続人若しくは法定代理人が委任事務を処理することができるに至るまで,必要な処分をしなければならない。
委任の終了事由は,これを相手方に通知したとき,又は相手方がこれを知っていたときでなければ,これをもってその相手方に対抗することができない。
この節〔委任〕の規定は,法律行為でない事務の委託について準用する。
寄託は,当事者の一方がある物を保管することを相手方に委託し,相手方がこれを承諾することによって,その効力を生ずる。
寄託は,当事者の一方が相手方のために保管をすることを約してある物を受け取ることによって,その効力を生ずる。
寄託契約は諾成契約へと変更された。しかし,次条で,寄託者は,受寄者が寄託物を受け取るまでは,契約を解除できるとしているため,実質的な要物契約性が保持されている。
今回の民法(債権関係)改正によって,従来通りに要物契約性が維持されたのは,消費貸借だけである。その消費貸借も,書面による消費貸借は諾成契約とされた。もっとも,書面による消費貸借契約であっても,目的物を受け取るまでは,借主は契約の解除をすることができるため,一部であるとはいえ,実質的な要物性が残ることになった。
その他の従来の要物契約は,第1に,使用貸借については,要物契約から諾成解約とへと変更されたが,書面によらない使用貸借については,貸主は,借主が借用物を受け取るまでは契約の解除をすることができるとして,実質的な要物性が一部で残されている。
第2に,寄託契約は,使用貸借と同様に,諾成契約とされたが,受寄者が寄託物を受け取るまでは,寄託者に解除権を認めている。書面による寄託については,無償寄託の場合には,契約の解除を認めない点も,使用貸借の場合と同じである。
①寄託者は,受寄者が寄託物を受け取るまで,契約の解除をすることができる。この場合において,受寄者は,その契約の解除によって損害を受けたときは,寄託者に対し,その賠償を請求することができる。
②無報酬の受寄者は,寄託物を受け取るまで,契約の解除をすることができる。ただし,書面による寄託については,この限りでない。
③受寄者(無報酬で寄託を受けた場合にあっては,書面による寄託の受寄者に限る。)は,寄託物を受け取るべき時期を経過したにもかかわらず,寄託者が寄託物を引き渡さない場合において,相当の期間を定めてその引渡しの催告をし,その期間内に引渡しがないときは,契約の解除をすることができる。
①受寄者は,寄託者の承諾を得なければ,寄託物を使用することができない。
②受寄者は,寄託者の承諾を得たとき,又はやむを得ない事由があるときでなければ,寄託物を第三者に保管させることができない。
③再受寄者は,寄託者に対して,その権限の範囲内において,受寄者と同一の権利を有し,義務を負う。
①受寄者は,寄託者の承諾を得なければ,寄託物を使用し,又は第三者にこれを保管させることができない。
②第105条〔復代理人を選任した代理人の責任〕及び第107条第2項〔復代理人の権利・義務〕の規定は,受寄者が第三者に寄託物を保管させることができる場合について準用する。
無報酬の受寄者は,自己の財産に対するのと同一の注意をもって,寄託物を保管する義務を負う。
無報酬で寄託を受けた者は,自己の財産に対するのと同一の注意をもって,寄託物を保管する義務を負う。
①寄託物について権利を主張する第三者が受寄者に対して訴えを提起し,又は差押え,仮差押え若しくは仮処分をしたときは,受寄者は,遅滞なくその事実を寄託者に通知しなければならない。ただし,寄託者が既にこれを知っているときは,この限りでない。
②第三者が寄託物について権利を主張する場合であっても,受寄者は,寄託者の指図がない限り,寄託者に対しその寄託物を返還しなければならない。ただし,受寄者が前項の通知をした場合又は同項ただし書の規定によりその通知を要しない場合において,その寄託物をその第三者に引き渡すべき旨を命ずる確定判決(確定判決と同一の効力を有するものを含む。)があったときであって,その第三者にその寄託物を引き渡したときは,この限りでない。
③受寄者は,前項の規定により寄託者に対して寄託物を返還しなければならない場合には,寄託者にその寄託物を引き渡したことによって第三者に損害が生じたときであっても,その賠償の責任を負わない。
寄託物について権利を主張する第三者が受寄者に対して訴えを提起し,又は差押え,仮差押え若しくは仮処分をしたときは,受寄者は,遅滞なくその事実を寄託者に通知しなければならない。
寄託者は,寄託物の性質又は瑕疵によって生じた損害を受寄者に賠償しなければならない。ただし,寄託者が過失なくその性質若しくは瑕疵を知らなかったとき,又は受寄者がこれを知っていたときは,この限りでない。
①当事者が寄託物の返還の時期を定めたときであっても,寄託者は,いつでもその返還を請求することができる。
②前項に規定する場合において,受寄者は,寄託者がその時期の前に返還を請求したことによって損害を受けたときは,寄託者に対し,その賠償を請求することができる。
当事者が寄託物の返還の時期を定めたときであっても,寄託者は,いつでもその返還を請求することができる。
①当事者が寄託物の返還の時期を定めなかったときは,受寄者は,いつでもその返還をすることができる。
②返還の時期の定めがあるときは,受寄者は,やむを得ない事由がなければ,その期限前に返還をすることができない。
寄託物の返還は,その保管をすべき場所でしなければならない。ただし,受寄者が正当な事由によってその物を保管する場所を変更したときは,その現在の場所で返還をすることができる。
①寄託物の一部滅失又は損傷によって生じた損害の賠償及び受寄者が支出した費用の償還は,寄託者が返還を受けた時から1年以内に請求しなければならない。
②前項の損害賠償の請求権については,寄託者が返還を受けた時から1年を経過するまでの間は,時効は,完成しない。
第646条〔受任者による受取物の引渡し等,受任者の金銭の消費についての責任〕から第648条〔受任者の報酬〕まで,第649条〔受任者による費用の前払請求〕並びに第650条第1項〔受任者による費用等の償還請求〕及び第2項〔受任者の委任者に対する代弁済請求〕の規定は,寄託について準用する。
第646条〔受任者による受取物の引渡し等,受任者の金銭の消費についての責任,受任者の報酬,受任者による費用の前払請求〕から第650条〔受任者による費用等の償還請求等〕まで(同条第3項を除く。)の規定は,寄託について準用する。
①複数の者が寄託した物の種類及び品質が同一である場合には,受寄者は,各寄託者の承諾を得たときに限り,これらを混合して保管することができる。
②前項の規定に基づき受寄者が複数の寄託者からの寄託物を混合して保管したときは,寄託者は,その寄託した物と同じ数量の物の返還を請求することができる。
③前項に規定する場合において,寄託物の一部が滅失したときは,寄託者は,混合して保管されている総寄託物に対するその寄託した物の割合に応じた数量の物の返還を請求することができる。この場合においては,損害賠償の請求を妨げない。
①受寄者が契約により寄託物を消費することができる場合には,受寄者は,寄託された物と種類,品質及び数量の同じ物をもって返還しなければならない。
②第590条〔貸主の引渡義務等〕及び第592条〔価額の償還〕の規定は,前項に規定する場合について準用する。
③第591条第2項〔借主の返還自由の原則〕及び第3項〔返還の時期の定めがある場合の貸主の期日前返還に対する貸主の損害賠償請求(根拠のない悪法)〕の規定は,預金又は貯金に係る契約により金銭を寄託した場合について準用する。
①第五節(消費貸借)の規定は,受寄者が契約により寄託物を消費することができる場合について準用する。
②前項において準用する第591条第1項〔返還の時期・貸主による返還の催告〕の規定にかかわらず,前項の契約に返還の時期を定めなかったときは,寄託者は,いつでも返還を請求することができる。
①組合契約は,各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することによって,その効力を生ずる。
②組合契約は,各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することによって,その効力を生ずる。
①第533条〔同時履行の抗弁権〕及び第536条〔債務者の危険負担等〕の規定は,組合契約については,適用しない。
②組合員は,他の組合員が組合契約に基づく債務の履行をしないことを理由として,組合契約を解除することができない。
組合員の一人について意思表示の無効又は取消しの原因があっても,他の組合員の間においては,組合契約は,その効力を妨げられない。
各組合員の出資その他の組合財産は,総組合員の共有〔分割・処分が制限されているため合有という〕に属する。
金銭を出資の目的とした場合において,組合員がその出資をすることを怠ったときは,その利息を支払うほか,損害の賠償をしなければならない。
①組合の業務は,組合員の過半数をもって決定し,各組合員がこれを執行する。
②組合の業務の決定及び執行は,組合契約の定めるところにより,一人又は数人の組合員又は第三者に委任することができる。
③前項の委任を受けた者(以下「業務執行者」という。)は,組合の業務を決定し,これを執行する。この場合において,業務執行者が数人あるときは,組合の業務は,業務執行者の過半数をもって決定し,各業務執行者がこれを執行する。
④前項の規定にかかわらず,組合の業務については,総組合員の同意によって決定し,又は総組合員が執行することを妨げない。
⑤組合の常務は,前各項の規定にかかわらず,各組合員又は各業務執行者が単独で行うことができる。ただし,その完了前に他の組合員又は業務執行者が異議を述べたときは,この限りでない。
①組合の業務の執行は,組合員の過半数で決する。
②前項の業務の執行は,組合契約でこれを委任した者(次項において「業務執行者」という。)が数人あるときは,その過半数で決する。
③組合の常務は,前2項の規定にかかわらず,各組合員又は各業務執行者が単独で行うことができる。ただし,その完了前に他の組合員又は業務執行者が異議を述べたときは,この限りでない。
①各組合員は,組合の業務を執行する場合において,組合員の過半数の同意を得たときは,他の組合員を代理することができる。
②前項の規定にかかわらず,業務執行者があるときは,業務執行者のみが組合員を代理することができる。この場合において,業務執行者が数人あるときは,各業務執行者は,業務執行者の過半数の同意を得たときに限り,組合員を代理することができる。
③前2項の規定にかかわらず,各組合員又は各業務執行者は,組合の常務を行うときは,単独で組合員を代理することができる。
第644条〔受任者の注意義務,受任者による報告,受任者による受取物の引渡し等,受任者の金銭の消費についての責任,受任者の報酬,受任者による費用の前払請求〕から第650条〔受任者による費用等の償還請求権〕までの規定は,組合の業務を決定し,又は執行する組合員について準用する。
第644条〔受任者の注意義務,受任者による報告,受任者による受取物の引渡し等,受任者の金銭の消費についての責任,受任者の報酬,受任者による費用の前払請求〕から第650条〔受任者による費用等の償還請求等〕までの規定は,組合の業務を執行する組合員について準用する。
①組合契約の定めるところにより一人又は数人の組合員に業務の決定及び執行を委任したときは,その組合員は,正当な事由がなければ,辞任することができない。
②前項の組合員は,正当な事由がある場合に限り,他の組合員の一致によって解任することができる。
①組合契約で1人又は数人の組合員に業務の執行を委任したときは,その組合員は,正当な事由がなければ,辞任することができない。
②前項の組合員は,正当な事由がある場合に限り,他の組合員の一致によって解任することができる。
各組合員は,組合の業務の決定及び執行をする権利を有しないときであっても,その業務及び組合財産の状況を検査することができる。
各組合員は,組合の業務を執行する権利を有しないときであっても,その業務及び組合財産の状況を検査することができる。
①当事者が損益分配の割合を定めなかったときは,その割合は,各組合員の出資の価額に応じて定める。
②利益又は損失についてのみ分配の割合を定めたときは,その割合は,利益及び損失に共通であるものと推定する。
①組合の債権者は,組合財産についてその権利を行使することができる。
②組合の債権者は,その選択に従い,各組合員に対して損失分担の割合又は等しい割合でその権利を行使することができる。ただし,組合の債権者がその債権の発生の時に各組合員の損失分担の割合を知っていたときは,その割合による。
組合の債権者は,その債権の発生の時に組合員の損失分担の割合を知らなかったときは,各組合員に対して等しい割合でその権利を行使することができる。
①組合員は,組合財産についてその持分を処分したときは,その処分をもって組合及び組合と取引をした第三者に対抗することができない。
②組合員は,組合財産である債権について,その持分についての権利を単独で行使することができない。
③組合員は,清算前に組合財産の分割を求めることができない。
①組合員は,組合財産についてその持分を処分したときは,その処分をもって組合及び組合と取引をした第三者に対抗することができない。
②組合員は,清算前に組合財産の分割を求めることができない。
組合員の債権者は,組合財産についてその権利を行使することができない。
組合の債務者は,その債務と組合員に対する債権とを相殺することができない。
①組合員は,その全員の同意によって,又は組合契約の定めるところにより,新たに組合員を加入させることができる。
②前項の規定により組合の成立後に加入した組合員は,その加入前に生じた組合の債務については,これを弁済する責任を負わない。
①組合契約で組合の存続期間を定めなかったとき,又はある組合員の終身の間組合が存続すべきことを定めたときは,各組合員は,いつでも脱退することができる。ただし,やむを得ない事由がある場合を除き,組合に不利な時期に脱退することができない。
②組合の存続期間を定めた場合であっても,各組合員は,やむを得ない事由があるときは,脱退することができる。
一 死亡
二 破産手続開始の決定を受けたこと。
三 後見開始の審判を受けたこと。
四 除名
組合員の除名は,正当な事由がある場合に限り,他の組合員の一致によってすることができる。ただし,除名した組合員にその旨を通知しなければ,これをもってその組合員に対抗することができない。
①脱退した組合員は,その脱退前に生じた組合の債務について,従前の責任の範囲内でこれを弁済する責任を負う。この場合において,債権者が全部の弁済を受けない間は,脱退した組合員は,組合に担保を供させ,又は組合に対して自己に免責を得させることを請求することができる。
②脱退した組合員は,前項に規定する組合の債務を弁済したときは,組合に対して求償権を有する。
①脱退した組合員と他の組合員との間の計算は,脱退の時における組合財産の状況に従ってしなければならない。
②脱退した組合員の持分は,その出資の種類を問わず,金銭で払い戻すことができる。
③脱退の時にまだ完了していない事項については,その完了後に計算をすることができる。
組合は,次に掲げる事由によって解散する。
一 組合の目的である事業の成功又はその成功の不能
二 組合契約で定めた存続期間の満了
三 組合契約で定めた解散の事由の発生
四 総組合員の同意
組合は,その目的である事業の成功又はその成功の不能によって解散する。
やむを得ない事由があるときは,各組合員は,組合の解散を請求することができる。
第620条〔賃貸借の解除の効力の不遡及〕の規定は,組合契約について準用する。
①組合が解散したときは,清算は,総組合員が共同して,又はその選任した清算人がこれをする。
②清算人の選任は,組合員の過半数で決する。
①組合が解散したときは,清算は,総組合員が共同して,又はその選任した清算人がこれをする。
②清算人の選任は,総組合員の過半数で決する。
第670条第3項から第5項まで〔業務執行者による業務の執行方法,総組合員の同意による決定及び執行方法,組合の常務の単独行使〕並びに第670条の2第2項及び第3項〔業務執行者による組合員の代理,組合の常務に関する組合員の単独代理〕の規定は,清算人について準用する。
第670条〔業務の執行の方法〕の規定は,清算人が数人ある場合について準用する。
第672条〔業務執行組合員の解任及び責任〕の規定は,組合契約の定めるところにより組合員の中から清算人を選任した場合について準用する。
第672条〔業務執行組合員の辞任及び解任〕の規定は,組合契約で組合員の中から清算人を選任した場合について準用する。
①清算人の職務は,次のとおりとする。
一 現務の結了
二 債権の取立て及び債務の弁済
三 残余財産の引渡し
②清算人は,前項各号に掲げる職務を行うために必要な一切の行為をすることができる。
③残余財産は,各組合員の出資の価額に応じて分割する。
終身定期金契約は,当事者の一方が,自己,相手方又は第三者〔終身定期金債権者〕の死亡に至るまで,定期に金銭その他の物を相手方又は第三者に給付することを約することによって,その効力を生ずる。
終身定期金は,日割りで計算する。
①終身定期金債務者が終身定期金の元本を受領した場合において,その終身定期金の給付を怠り,又はその他の義務を履行しないときは,相手方は,元本の返還を請求することができる。この場合において,相手方は,既に受け取った終身定期金の中からその元本の利息を控除した残額を終身定期金債務者に返還しなければならない。
②前項の規定は,損害賠償の請求を妨げない。
第533条〔同時履行の抗弁権〕の規定は,前条の場合について準用する。
①終身定期金債務者の責めに帰すべき事由によって第689条〔終身定期金契約〕に規定する死亡が生じたときは,裁判所は,終身定期金債権者又はその相続人の請求により,終身定期金債権が相当の期間存続することを宣告することができる。
②前項の規定は,第691条の権利の行使を妨げない。
この節〔終身定期金〕の規定は,終身定期金の遺贈について準用する。
和解は,当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約することによって,その効力を生ずる。
当事者の一方が和解によって争いの目的である権利を有するものと認められ,又は相手方がこれを有しないものと認められた場合において,その当事者の一方が従来その権利を有していなかった旨の確証又は相手方がこれを有していた旨の確証が得られたときは,その権利は,和解によってその当事者の一方に移転し,又は消滅したものとする。
①義務なく他人のために事務の管理を始めた者(以下この章において「管理者」という。)は,その事務の性質に従い,最も本人の利益に適合する方法によって,その事務の管理(以下「事務管理」という。)をしなければならない。
②管理者は,本人の意思を知っているとき,又はこれを推知することができるときは,その意思に従って事務管理をしなければならない。
管理者は,本人の身体,名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をしたときは,悪意又は重大な過失があるのでなければ,これによって生じた損害を賠償する責任を負わない。
管理者は,事務管理を始めたことを遅滞なく本人に通知しなければならない。ただし,本人が既にこれを知っているときは,この限りでない。
管理者は,本人又はその相続人若しくは法定代理人が管理をすることができるに至るまで,事務管理を継続しなければならない。ただし,事務管理の継続が本人の意思に反し,又は本人に不利であることが明らかであるときは,この限りでない。
第645条〔受任者による報告,受任者による受取物の引渡し等〕から第647条〔受任者の金銭の消費についての責任〕までの規定は,事務管理について準用する。
①管理者は,本人のために有益な費用を支出したときは,本人に対し,その償還を請求することができる。
②第650条第2項〔代弁済請求〕の規定は,管理者が本人のために有益な債務を負担した場合について準用する。
③管理者が本人の意思に反して事務管理をしたときは,本人が現に利益を受けている限度においてのみ,前2項の規定を適用する。
法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け,そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は,その利益の存する限度において,これを返還する義務を負う。
悪意の受益者は,その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において,なお損害があるときは,その賠償の責任を負う。
債務の弁済として給付をした者は,その時において債務の存在しないことを知っていたときは,その給付したものの返還を請求することができない。
債務者は,弁済期にない債務の弁済として給付をしたときは,その給付したものの返還を請求することができない。ただし,債務者が錯誤によってその給付をしたときは,債権者は,これによって得た利益を返還しなければならない。
①債務者でない者が錯誤によって債務の弁済をした場合において,債権者が善意で証書を滅失させ若しくは損傷し,担保を放棄し,又は時効によってその債権を失ったときは,その弁済をした者は,返還の請求をすることができない。
②前項の規定は,弁済をした者から債務者に対する求償権の行使を妨げない。
不法な原因のために給付をした者は,その給付したものの返還を請求することができない。ただし,不法な原因が受益者についてのみ存したときは,この限りでない。
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
他人の身体,自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず,前条の規定により損害賠償の責任を負う者は,財産以外の損害に対しても,その賠償をしなければならない。
他人の生命を侵害した者は,被害者の父母,配偶者及び子に対しては,その財産権が侵害されなかった場合においても,損害の賠償をしなければならない。
未成年者は,他人に損害を加えた場合において,自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは,その行為について賠償の責任を負わない。
精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は,その賠償の責任を負わない。ただし,故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは,この限りでない。
①前2条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において,その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は,その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし,監督義務者がその義務を怠らなかったとき,又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは,この限りでない。
②監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も,前項の責任を負う。
①ある事業のために他人を使用する者は,被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし,使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき,又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは,この限りでない。
②使用者に代わって事業を監督する者も,前項の責任を負う。
③前2項の規定は,使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。
注文者は,請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない。ただし,注文又は指図についてその注文者に過失があったときは,この限りでない。
①土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは,その工作物の占有者は,被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし,占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは,所有者がその損害を賠償しなければならない。
②前項の規定は,竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。
③前2項の場合において,損害の原因について他にその責任を負う者があるときは,占有者又は所有者は,その者に対して求償権を行使することができる。
①動物の占有者は,その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし,動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは,この限りでない。
②占有者に代わって動物を管理する者も,前項の責任を負う。
①数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは,各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも,同様とする。
②行為者を教唆した者及び幇ほう 助した者は,共同行為者とみなして,前項の規定を適用する。
①他人の不法行為に対し,自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するため,やむを得ず加害行為をした者は,損害賠償の責任を負わない。ただし,被害者から不法行為をした者に対する損害賠償の請求を妨げない。
②前項の規定は,他人の物から生じた急迫の危難を避けるためその物を損傷した場合について準用する。
胎児は,損害賠償の請求権については,既に生まれたものとみなす。
①第417条〔損害賠償の方法〕及び第417条の2〔中間利息の控除〕の規定は,不法行為による損害賠償について準用する。
②被害者に過失があったときは,裁判所は,これを考慮して,損害賠償の額を定めることができる。
①第417条〔損害賠償の方法〕の規定は,不法行為による損害賠償について準用する。
②被害者に過失があったときは,裁判所は,これを考慮して,損害賠償の額を定めることができる。
他人の名誉を毀(き)損した者に対しては,裁判所は,被害者の請求により,損害賠償に代えて,又は損害賠償とともに,名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。
不法行為による損害賠償の請求権は,次に掲げる場合には,時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき。
二 不法行為の時から20年間行使しないとき。
不法行為による損害賠償の請求権は,被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは,時効によって消滅する。不法行為の時から20年を経過したときも,同様とする。
人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第1号の規定の適用については,同号中「3年間」とあるのは,「5年間」とする。
一 6親等内の血族
二 配偶者
三 3親等内の姻族
①親等は,親族間の世代数を数えて,これを定める。
②傍系親族の親等を定めるには,その一人又はその配偶者から同一の祖先にさかのぼり,その祖先から他の一人に下るまでの世代数による。
養子と養親及びその血族との間においては,養子縁組の日から,血族間におけるのと同一の親族関係を生ずる。
①姻族関係は,離婚によって終了する。
②夫婦の一方が死亡した場合において,生存配偶者が姻族関係を終了させる意思を表示したときも,前項と同様とする。
養子及びその配偶者並びに養子の直系卑属及びその配偶者と養親及びその血族との親族関係は,離縁によって終了する。
直系血族及び同居の親族は,互いに扶(たす)け合わなければならない。
婚姻は,18歳にならなければ,することができない。
男は,18歳に,女は,16歳にならなければ,婚姻をすることができない。
配偶者のある者は,重ねて婚姻をすることができない。
①女は,前婚の解消又は取消しの日から起算して100日を経過した後でなければ,再婚をすることができない。
②前項の規定は,次に掲げる場合には,適用しない。
一 女が前婚の解消又は取消しの時に懐胎していなかった場合
二 女が前婚の解消又は取消しの後に出産した場合
①直系血族又は3親等内の傍系血族の間では,婚姻をすることができない。ただし,養子と養方の傍系血族との間では,この限りでない。
②第817条の9〔実方との姻族関係の終了〕の規定により親族関係が終了した後も,前項と同様とする。
直系姻族の間では,婚姻をすることができない。第728条〔離婚等による姻族関係の終了〕又は第817条の9〔実方との姻族関係の終了〕の規定により姻族関係が終了した後も,同様とする。
養子若しくはその配偶者又は養子の直系卑属若しくはその配偶者と養親又はその直系尊属との間では,第729条の規定により親族関係が終了した後でも,婚姻をすることができない。
①未成年の子が婚姻をするには,父母の同意を得なければならない。
②父母の一方が同意しないときは,他の一方の同意だけで足りる。父母の一方が知れないとき,死亡したとき,又はその意思を表示することができないときも,同様とする。
成年被後見人が婚姻をするには,その成年後見人の同意を要しない。
①婚姻は,戸籍法(昭和22年法律第224号)の定めるところにより届け出ることによって,その効力を生ずる。
②前項の届出は,当事者双方及び成年の証人二人以上が署名した書面で,又はこれらの者から口頭で,しなければならない。
婚姻の届出は,その婚姻が第731条から第736条まで及び前条第2項の規定その他の法令の規定に違反しないことを認めた後でなければ,受理することができない。
外国に在る日本人間で婚姻をしようとするときは,その国に駐在する日本の大使,公使又は領事にその届出をすることができる。この場合においては,前2条の規定を準用する。
婚姻は,次に掲げる場合に限り,無効とする。
一 人違いその他の事由によって当事者間に婚姻をする意思がないとき。
二 当事者が婚姻の届出をしないとき。ただし,その届出が第739条第2項〔二人以上の証人〕に定める方式を欠くだけであるときは,婚姻は,そのためにその効力を妨げられない。
婚姻は,次条から第747条までの規定〔不適法な婚姻の取消し〕によらなければ,取り消すことができない。
①第731条〔婚姻適齢〕から〔重婚の禁止,再婚禁止期間,近親者間の婚姻の禁止,直系姻族間の婚姻の禁止〕第736条〔養親子等の間の婚姻の禁止〕までの規定に違反した婚姻は,各当事者,その親族又は検察官から,その取消しを家庭裁判所に請求することができる。ただし,検察官は,当事者の一方が死亡した後は,これを請求することができない。
②第732条〔重婚の禁止〕又は第733条〔再婚禁止期間〕の規定に違反した婚姻については,当事者の配偶者又は前配偶者も,その取消しを請求することができる。
①第731条の規定〔婚姻適齢〕に違反した婚姻は,不適齢者が適齢に達したときは,その取消しを請求することができない。
②不適齢者は,適齢に達した後,なお3箇月間は,その婚姻の取消しを請求することができる。ただし,適齢に達した後に追認をしたときは,この限りでない。
第733条の規定に違反した婚姻は,前婚の解消若しくは取消しの日から起算して100日を経過し,又は女が再婚後に出産したときは,その取消しを請求することができない。
①詐欺又は強迫によって婚姻をした者は,その婚姻の取消しを家庭裁判所に請求することができる。
②前項の規定による取消権は,当事者が,詐欺を発見し,若しくは強迫を免れた後3箇月を経過し,又は追認をしたときは,消滅する。
①婚姻の取消しは,将来に向かってのみその効力を生ずる。
②婚姻の時においてその取消しの原因があることを知らなかった当事者が,婚姻によって財産を得たときは,現に利益を受けている限度において,その返還をしなければならない。
③婚姻の時においてその取消しの原因があることを知っていた当事者は,婚姻によって得た利益の全部を返還しなければならない。この場合において,相手方が善意であったときは,これに対して損害を賠償する責任を負う。
第728条第1項〔離婚等による婚姻関係の終了〕,第766条から第769条まで〔離婚の効果〕,第790条第1項ただし書〔子の氏〕並びに第819条第2項,第3項,第5項及び第6項の規定離婚の際の親権者の決定〕は,婚姻の取消しについて準用する。
夫婦は,婚姻の際に定めるところに従い,夫又は妻の氏を称する。
夫婦は,婚姻の際に定めるところに従い,夫又は妻の氏を称することができる。
①夫婦の一方が死亡したときは,生存配偶者は,婚姻前の氏に復することができる。
②第769条〔離婚による復氏の際の権利の承継〕の規定は,前項及び第728条第2項〔夫婦の一方が死亡した場合の姻族関係の終了〕の場合について準用する。
夫婦は同居し,互いに協力し扶助しなければならない。
未成年者が婚姻をしたときは,これによって成年に達したものとみなす。
夫婦間でした契約は,婚姻中,いつでも,夫婦の一方からこれを取り消す〔撤回する〕ことができる。ただし,第三者の権利を害することはできない。
夫婦が,婚姻の届出前に,その財産について別段の契約をしなかったときは,その財産関係は,次款に定めるところによる。
夫婦が法定財産制と異なる契約をしたときは,婚姻の届出までにその登記をしなければ,これを夫婦の承継人及び第三者に対抗することができない。
外国人が,夫の本国の法定財産制に異なりたる契約を為したる場合に於て,婚姻の後,日本の国籍を取得し又は日本に住所を定めたるときは,1年以内に其契約を登記するに非ざれば,日本に於ては,之を以て夫婦の承継人及び第三者に対抗することを得ず。
①夫婦の財産関係は,婚姻の届出後は,変更することができない。
②夫婦の一方が,他の一方の財産を管理する場合において,管理が失当であったことによってその財産を危うくしたときは,他の一方は,自らその管理をすることを家庭裁判所に請求することができる。
③共有財産については,前項の請求とともに,その分割を請求することができる。
前条の規定又は第755条の契約の結果により,財産の管理者を変更し,又は共有財産の分割をしたときは,その登記をしなければ,これを夫婦の承継人及び第三者に対抗することができない。
夫婦は,その資産,収入その他一切の事情を考慮して,婚姻から生ずる費用を分担する。
夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは,他の一方は,これによって生じた債務について,連帯してその責任を負う。ただし,第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は,この限りでない。
①夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は,その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。
②夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は,その共有に属するものと推定する。
①妻又は入夫が婚姻前より有せる財産及び婚姻中自己の名に於て得たる財産は,其特有財産とす。
②夫婦の孰れに属するか分明ならざる財産は,夫又は女戸主の財産と推定す。
①婦夫財産とは,婦夫が婚姻生活を維持するために明示又は黙示に出資して形成する組合的共有財産をいう。
②婦夫の持分はそれぞれの出資の多寡にかかわらず,常に平等とする。婦夫財産について,たとえ配偶者の一方を登記名義とした場合であっても,その登記は,他方の配偶者との共有名義とみなされる。
③婦夫の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産であっても,その財産を婦夫の共用に供した場合には,初めに遡って婦夫財産となる。
④婦夫の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産であって,かつ,婦夫の共用に供しない場合には,婦夫の一方の特有財産(婦夫の一方が単独で有する財産をいう。)とし,婦夫財産から除外される。
⑤婦夫のいずれに属するか明かでない財産は,婦夫財産(組合的共有財産)と推定する。
夫婦は,その協議で,離婚をすることができる。
第738条〔成年被後見人の婚姻〕,第739条〔婚姻の届出〕及び第747条〔再婚禁止期間内にした婚姻の取消し〕の規定は,協議上の離婚について準用する。
①離婚の届出は,その離婚が前条において準用する第739条第2項〔婚姻届出の方式〕の規定及び第819条第1項〔親権者の決定〕の規定その他の法令の規定に違反しないことを認めた後でなければ,受理することができない。
②離婚の届出が前項の規定に違反して受理されたときであっても,離婚は,そのためにその効力を妨げられない。
①父母が協議上の離婚をするときは,子の監護をすべき者,父又は母と子との面会及びその他の交流,子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は,その協議で定める。この場合においては,子の利益を最も優先して考慮しなければならない
②前項の協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,家庭裁判所が,同項の事項を定める。
③家庭裁判所は,必要があると認めるときは,前2項の規定による定めを変更し,その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。
④前3項の規定によっては,監護の範囲外では,父母の権利義務に変更を生じない。
①婚姻によって氏を改めた夫又は妻は,協議上の離婚によって婚姻前の氏に復する。
②前項の規定により婚姻前の氏に復した夫又は妻は,離婚の日から3箇月以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって,離婚の際に称していた氏を称することができる。
①協議上の離婚をした者の一方は,相手方に対して財産の分与を請求することができる。
②前項の規定による財産の分与について,当事者間に協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,当事者は,家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし,離婚の時から2年を経過したときは,この限りでない。
③前項の場合には,家庭裁判所は,当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して,分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。
①婚姻によって氏を改めた夫又は妻が,第897条第1項の権利〔祭祀に関する権利〕を承継した後,協議上の離婚をしたときは,当事者その他の関係人の協議で,その権利を承継すべき者を定めなければならない。
②前項の協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,同項の権利を承継すべき者は,家庭裁判所がこれを定める。
①夫婦の一方は,次に掲げる場合に限り,離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり,回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
②裁判所は,前項第1号から第4号までに掲げる事由がある場合であっても,一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは,離婚の請求を棄却することができる。
第766条から第769条までの規定〔離婚後の子の監護,離婚による復氏,財産分与,復氏の際の祭祀に関する権利の承継〕は,裁判上の離婚について準用する。
①妻が婚姻中に懐胎した子は,夫の子と推定する。
②婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は,婚姻中に懐胎したものと推定する。
第733条第1項の規定〔女だけに課される100日の再婚禁止期間〕に違反して再婚をした女が出産した場合において,前条の規定によりその子の父を定めることができないときは,裁判所が,これを定める。
第772条〔嫡出の推定〕の場合において,夫は,子が嫡出であることを否認することができる。
前条の規定による否認権は,子又は親権を行う母に対する嫡出否認の訴えによって行う。親権を行う母がないときは,家庭裁判所は,特別代理人を選任しなければならない。
夫は,子の出生後において,その嫡出であることを承認したときは,その否認権を失う。
嫡出否認の訴えは,夫が子の出生を知った時から1年以内に提起しなければならない。
夫が成年被後見人であるときは,前条の期間は,後見開始の審判の取消しがあった後夫が子の出生を知った時から起算する。
嫡出でない子は,その父又は母がこれを認知することができる。
母と非嫡出子間の親子関係は、原則として、母の認知をまたず、分娩の事実により当然発生する。
母とその非嫡出子との間の親子関係は,原則として,母の認知を俟たず,分娩の事実により当然発生すると解するのが相当であるから,被上告人〔母〕が上告人〔子〕を認知した事実を確定することなく,その分娩の事実を認定したのみで,その間に親子関係の存在を認めた原判決は正当である。
民法779条
認知をするには,父又は母が未成年者又は成年被後見人であるときであっても,その法定代理人の同意を要しない。
①認知は,戸籍法の定めるところにより届け出ることによってする。
②認知は,遺言によっても,することができる。
成年の子は,その承諾がなければ,これを認知することができない。
①父は,胎内に在る子でも,認知することができる。この場合においては,母の承諾を得なければならない。
②父又は母は,死亡した子でも,その直系卑属があるときに限り,認知することができる。この場合において,その直系卑属が成年者であるときは,その承諾を得なければならない。
認知は,出生の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし,第三者が既に取得した権利を害することはできない。
認知をした父又は母は,その認知を取り消すことができない。
子その他の利害関係人は,認知に対して反対の事実を主張することができる。
子,その直系卑属又はこれらの者の法定代理人は,認知の訴えを提起することができる。ただし,父又は母の死亡の日から3年を経過したときは,この限りでない。
第766条の規定〔離婚後の子の監護に関する事項の定め等〕は,父が認知する場合について準用する。
①父が認知した子は,その父母の婚姻によって嫡出子の身分を取得する。
②婚姻中父母が認知した子は,その認知の時から,嫡出子の身分を取得する。
③前2項の規定は,子が既に死亡していた場合について準用する。
①嫡出である子は,父母の氏を称する。ただし,子の出生前に父母が離婚したときは,離婚の際における父母の氏を称する。
②嫡出でない子は,母の氏を称する。
①子が父又は母と氏を異にする場合には,子は,家庭裁判所の許可を得て,戸籍法の定めるところにより届け出ることによって,その父又は母の氏を称することができる。
②父又は母が氏を改めたことにより子が父母と氏を異にする場合には,子は,父母の婚姻中に限り,前項の許可を得ないで,戸籍法の定めるところにより届け出ることによって,その父母の氏を称することができる。
③子が15歳未満であるときは,その法定代理人が,これに代わって,前2項の行為をすることができる。
④前3項の規定により氏を改めた未成年の子は,成年に達した時から1年以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって,従前の氏に復することができる。
20歳に達した者は,養子をすることができる。
尊属又は年長者は,これを養子とすることができない。
後見人が被後見人(未成年被後見人及び成年被後見人をいう。以下同じ。)を養子とするには,家庭裁判所の許可を得なければならない。後見人の任務が終了した後,まだその管理の計算が終わらない間も,同様とする。
配偶者のある者が未成年者を養子とするには,配偶者とともにしなければならない。ただし,配偶者の嫡出である子を養子とする場合又は配偶者がその意思を表示することができない場合は,この限りでない。
配偶者のある者が縁組をするには,その配偶者の同意を得なければならない。ただし,配偶者とともに縁組をする場合又は配偶者がその意思を表示することができない場合は,この限りでない。
①養子となる者が15歳未満であるときは,その法定代理人が,これに代わって,縁組の承諾をすることができる。
②法定代理人が前項の承諾をするには,養子となる者の父母でその監護をすべき者であるものが他にあるときは,その同意を得なければならない。養子となる者の父母で親権を停止されているものがあるときも,同様とする。
未成年者を養子とするには,家庭裁判所の許可を得なければならない。ただし,自己又は配偶者の直系卑属を養子とする場合は,この限りでない。
第738条〔成年被後見人の婚姻〕及び第739条〔婚姻の届出〕の規定は,縁組について準用する。
縁組の届出は,その縁組が第792条から前条までの規定その他の法令の規定に違反しないことを認めた後でなければ,受理することができない。
外国に在る日本人間で縁組をしようとするときは,その国に駐在する日本の大使,公使又は領事にその届出をすることができる。この場合においては,第799条において準用する第739条の規定及び前条の規定を準用する。
一 人違いその他の事由によって当事者間に縁組をする意思がないとき。
二 当事者が縁組の届出をしないとき。ただし,その届出が第799条〔婚姻の規定の準用〕において準用する第739条第2項に定める方式〔届出の際の二人以上の証人の必要性〕を欠くだけであるときは,縁組は,そのためにその効力を妨げられない。
縁組は,次条から第808条までの規定〔縁組の取消しの諸要件〕によらなければ,取り消すことができない。
第792条の規定〔養親となる宇者の年齢〕に違反した縁組は,養親又はその法定代理人から,その取消しを家庭裁判所に請求することができる。ただし,養親が,20歳に達した後6箇月を経過し,又は追認をしたときは,この限りでない。
第793条の規定〔尊属又は年長者を養子とすることの禁止〕に違反した縁組は,各当事者又はその親族から,その取消しを家庭裁判所に請求することができる。
①第794条の規定〔(家庭裁判所の許可が必要な)後見人が被後見人を養子にする縁組〕に違反した縁組は,養子又はその実方の親族から,その取消しを家庭裁判所に請求することができる。ただし,管理の計算が終わった後,養子が追認をし,又は6箇月を経過したときは,この限りでない。
②前項ただし書の追認は,養子が,成年に達し,又は行為能力を回復した後にしなければ,その効力を生じない。
③養子が,成年に達せず,又は行為能力を回復しない間に,管理の計算が終わった場合には,第1項ただし書の期間は,養子が,成年に達し,又は行為能力を回復した時から起算する。
①第796条の規定〔配偶者のある者の縁組〕に違反した縁組は,縁組の同意をしていない者から,その取消しを家庭裁判所に請求することができる。ただし,その者が,縁組を知った後6箇月を経過し,又は追認をしたときは,この限りでない。
②詐欺又は強迫によって第796条〔配偶者のある者の縁組〕の同意をした者は,その縁組の取消しを家庭裁判所に請求することができる。ただし,その者が,詐欺を発見し,若しくは強迫を免れた後6箇月を経過し,又は追認をしたときは,この限りでない。
①第797条第2項〔15歳未満の者を養子とする縁組の場合の同意権者〕の規定に違反した縁組は,縁組の同意をしていない者から,その取消しを家庭裁判所に請求することができる。ただし,その者が追認をしたとき,又は養子が15歳に達した後6箇月を経過し,若しくは追認をしたときは,この限りでない。
②前条第2項の規定は,詐欺又は強迫によって第797条第2項の同意をした者について準用する。
第798条の規定〔(家庭裁判所の許可を要する)未成年者を養子とする縁組〕に違反した縁組は,養子,その実方の親族又は養子に代わって縁組の承諾をした者から,その取消しを家庭裁判所に請求することができる。ただし,養子が,成年に達した後6箇月を経過し,又は追認をしたときは,この限りでない。
①第747条〔詐欺又は強迫による婚姻の取消し〕及び第748条〔婚姻の取消しの効力〕の規定は,縁組について準用する。この場合において,第747条第2項中「3箇月」とあるのは,「6箇月」と読み替えるものとする。
②第769条〔離婚による復氏の際の権利の承継〕及び第816条〔離縁による復氏等〕の規定は,縁組の取消しについて準用する。
養子は,縁組の日から,養親の嫡出子の身分を取得する。
養子は,養親の氏を称する。ただし,婚姻によって氏を改めた者については,婚姻の際に定めた氏を称すべき間は,この限りでない。
①縁組の当事者は,その協議で,離縁をすることができる。
②養子が15歳未満であるときは,その離縁は,養親と養子の離縁後にその法定代理人となるべき者との協議でこれをする。
③前項の場合において,養子の父母が離婚しているときは,その協議で,その一方を養子の離縁後にその親権者となるべき者と定めなければならない。
④前項の協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,家庭裁判所は,同項の父若しくは母又は養親の請求によって,協議に代わる審判をすることができる。
⑤第2項の法定代理人となるべき者がないときは,家庭裁判所は,養子の親族その他の利害関係人の請求によって,養子の離縁後にその未成年後見人となるべき者を選任する。
⑥縁組の当事者の一方が死亡した後に生存当事者が離縁をしようとするときは,家庭裁判所の許可を得て,これをすることができる。
養親が夫婦である場合において未成年者と離縁をするには,夫婦が共にしなければならない。ただし,夫婦の一方がその意思を表示することができないときは,この限りでない。
第738条〔成年被後見人の婚姻〕,第739条〔婚姻の届出〕及び第747条〔詐欺又は強迫による婚姻の取消し〕の規定は,協議上の離縁について準用する。この場合において,同条第2項中「3箇月」とあるのは,「6箇月」と読み替えるものとする。
①離縁の届出は,その離縁が前条において準用する第739条第2項〔婚姻の届出〕の規定並びに第811条〔協議上の離縁等〕及び第811条の2〔夫婦である養親と未成年者との離縁〕の規定その他の法令の規定に違反しないことを認めた後でなければ,受理することができない。
②離縁の届出が前項の規定に違反して受理されたときであっても,離縁は,そのためにその効力を妨げられない。
①
一 他の一方から悪意で遺棄されたとき。
二 他の一方の生死が3年以上明らかでないとき。
三 その他縁組を継続し難い重大な事由があるとき。
②第770条第2項〔裁判上の離婚の請求棄却〕の規定は,前項第一号及び第二号に掲げる場合について準用する。
養子が15歳に達しない間は,第811条〔協議上の離縁等〕の規定により養親と離縁の協議をすることができる者から,又はこれに対して,離縁の訴えを提起することができる。
①養子は,離縁によって縁組前の氏に復する。ただし,配偶者とともに養子をした養親の一方のみと離縁をした場合は,この限りでない。
②縁組の日から7年を経過した後に前項の規定により縁組前の氏に復した者は,離縁の日から3箇月以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって,離縁の際に称していた氏を称することができる。
第769条〔離婚による復氏の際の権利の承継〕の規定は,離縁について準用する。
①家庭裁判所は,次条から第817条の7までに定める要件〔特別養子の要件〕があるときは,養親となる者の請求により,実方の血族との親族関係が終了する縁組(以下この款において「特別養子縁組」という。)を成立させることができる。
②前項に規定する請求をするには,第794条〔後見人が被後見人を養子とする縁組〕又は第798条〔未成年者を養子とする縁組〕の〔家庭裁判所の〕許可を得ることを要しない。
①養親となる者は,配偶者のある者でなければならない。
②夫婦の一方は,他の一方が養親とならないときは,養親となることができない。ただし,夫婦の一方が他の一方の嫡出である子(特別養子縁組以外の縁組による養子を除く。)の養親となる場合は,この限りでない。
25歳に達しない者は,養親となることができない。ただし,養親となる夫婦の一方が25歳に達していない場合においても,その者が20歳に達しているときは,この限りでない。
第817条の2に規定する請求の時に6歳に達している者は,養子となることができない。ただし,その者が8歳未満であって6歳に達する前から引き続き養親となる者に監護されている場合は,この限りでない。
特別養子縁組の成立には,養子となる者の父母の同意がなければならない。ただし,父母がその意思を表示することができない場合又は父母による虐待,悪意の遺棄その他養子となる者の利益を著しく害する事由がある場合は,この限りでない。
特別養子縁組は,父母による養子となる者の監護が著しく困難又は不適当であることその他特別の事情がある場合において,子の利益のため特に必要があると認めるときに,これを成立させるものとする。
①特別養子縁組を成立させるには,養親となる者が養子となる者を6箇月以上の期間監護した状況を考慮しなければならない。
②前項の期間は,第817条の2に規定する請求の時から起算する。ただし,その請求前の監護の状況が明らかであるときは,この限りでない。
養子と実方の父母及びその血族との親族関係は,特別養子縁組によって終了する。ただし,第817条の3第2項ただし書に規定する他の一方及びその血族との親族関係については,この限りでない。
①次の各号のいずれにも該当する場合において,養子の利益のため特に必要があると認めるときは,家庭裁判所は,養子,実父母又は検察官の請求により,特別養子縁組の当事者を離縁させることができる。
一 養親による虐待,悪意の遺棄その他養子の利益を著しく害する事由があること。
二 実父母が相当の監護をすることができること。
②離縁は,前項の規定による場合のほか,これをすることができない。
養子と実父母及びその血族との間においては,離縁の日から,特別養子縁組によって終了した親族関係と同一の親族関係を生ずる。
①成年に達しない子は,父母の親権に服する。
②子が養子であるときは,養親の親権に服する。
③親権は,父母の婚姻中は,父母が共同して行う。ただし,父母の一方が親権を行うことができないときは,他の一方が行う。
①父母が協議上の離婚をするときは,その協議で,その一方を親権者と定めなければならない。
②裁判上の離婚の場合には,裁判所は,父母の一方を親権者と定める。
③子の出生前に父母が離婚した場合には,親権は,母が行う。ただし,子の出生後に,父母の協議で,父を親権者と定めることができる。
④父が認知した子に対する親権は,父母の協議で父を親権者と定めたときに限り,父が行う。
⑤第1項,第3項又は前項の協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,家庭裁判所は,父又は母の請求によって,協議に代わる審判をすることができる。
⑥子の利益のため必要があると認めるときは,家庭裁判所は,子の親族の請求によって,親権者を他の一方に変更することができる。
親権を行う者は,子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し,義務を負う。
子は,親権を行う者が指定した場所に,その居所を定めなければならない。
親権を行う者は,第820条の規定による監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる。
①子は,親権を行う者の許可を得なければ,職業を営むことができない。
②親権を行う者は,第6条第2項〔未成年者の営業の許可の取消し・制限〕の場合には,前項の許可を取り消し,又はこれを制限することができる。
親権を行う者は,子の財産を管理し,かつ,その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし,その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には,本人の同意を得なければならない。
父母が共同して親権を行う場合において,父母の一方が,共同の名義で,子に代わって法律行為をし又は子がこれをすることに同意したときは,その行為は,他の一方の意思に反したときであっても,そのためにその効力を妨げられない。ただし,相手方が悪意であったときは,この限りでない。
①親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については,親権を行う者は,その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
②親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において,その一人と他の子との利益が相反する行為については,親権を行う者は,その一方のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
親権を行う者は,自己のためにするのと同一の注意をもって,その管理権を行わなければならない。
子が成年に達したときは,親権を行った者は,遅滞なくその管理の計算をしなければならない。ただし,その子の養育及び財産の管理の費用は,その子の財産の収益と相殺したものとみなす。
前条ただし書の規定は,無償で子に財産を与える第三者が反対の意思を表示したときは,その財産については,これを適用しない。
①無償で子に財産を与える第三者が,親権を行う父又は母にこれを管理させない意思を表示したときは,その財産は,父又は母の管理に属しないものとする。
②前項の財産につき父母が共に管理権を有しない場合において,第三者が管理者を指定しなかったときは,家庭裁判所は,子,その親族又は検察官の請求によって,その管理者を選任する。
③第三者が管理者を指定したときであっても,その管理者の権限が消滅し,又はこれを改任する必要がある場合において,第三者が更に管理者を指定しないときも,前項と同様とする。
④第27条から第29条までの規定〔不在者の財産管理人の権利義務〕は,前2項の場合について準用する。
第654条〔委任の終了後の処分〕及び第655条〔委任の終了の対抗要件〕の規定は,親権を行う者が子の財産を管理する場合及び前条の場合について準用する。
①親権を行った者とその子との間に財産の管理について生じた債権は,その管理権が消滅した時から5年間これを行使しないときは,時効によって消滅する。
②子がまだ成年に達しない間に管理権が消滅した場合において子に法定代理人がないときは,前項の期間は,その子が成年に達し,又は後任の法定代理人が就職した時から起算する。
親権を行う者は,その親権に服する子に代わって親権を行う。
父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するときは,家庭裁判所は,子,その親族,未成年後見人,未成年後見監督人又は検察官の請求により,その父又は母について,親権喪失の審判をすることができる。ただし,2年以内にその原因が消滅する見込みがあるときは,この限りでない。
父又は母が,親権を濫用し,又は著しく不行跡であるときは,家庭裁判所は,子の親族又は検察官の請求によって,その親権の喪失を宣告することができる。
①父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは,家庭裁判所は,子,その親族,未成年後見人,未成年後見監督人又は検察官の請求により,その父又は母について,親権停止の審判をすることができる。
②家庭裁判所は,親権停止の審判をするときは,その原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間,子の心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して,2年を超えない範囲内で,親権を停止する期間を定める。
父又は母による管理権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは,家庭裁判所は,子,その親族,未成年後見人,未成年後見監督人又は検察官の請求により,その父又は母について,管理権喪失の審判をすることができる。
親権を行う父又は母が,管理が失当であったことによってその子の財産を危うくしたときは,家庭裁判所は,子の親族又は検察官の請求によって,その管理権の喪失を宣告することができる。
第834条本文,第834条の2第1項又は前条に規定する原因が消滅したときは,家庭裁判所は,本人又はその親族の請求によって,それぞれ親権喪失,親権停止又は管理権喪失の審判を取り消すことができる。
前2条に規定する原因が消滅したときは,家庭裁判所は,本人又はその親族の請求によって,前2条の規定による親権又は管理権の喪失の宣告を取り消すことができる。
①親権を行う父又は母は,やむを得ない事由があるときは,家庭裁判所の許可を得て,親権又は管理権を辞することができる。
②前項の事由が消滅したときは,父又は母は,家庭裁判所の許可を得て,親権又は管理権を回復することができる。
一 未成年者に対して親権を行う者がないとき,又は親権を行う者が管理権を有しないとき。
二 後見開始の審判があったとき。
①未成年者に対して最後に親権を行う者は,遺言で,未成年後見人を指定することができる。ただし,管理権を有しない者は,この限りでない。
②親権を行う父母の一方が管理権を有しないときは,他の一方は,前項の規定により未成年後見人の指定をすることができる。
①前条の規定により未成年後見人となるべき者がないときは,家庭裁判所は,未成年被後見人又はその親族その他の利害関係人の請求によって,未成年後見人を選任する。未成年後見人が欠けたときも,同様とする。
②未成年後見人がある場合においても,家庭裁判所は,必要があると認めるときは,前項に規定する者若しくは未成年後見人の請求により又は職権で,更に未成年後見人を選任することができる。
③未成年後見人を選任するには,未成年被後見人の年齢,心身の状態並びに生活及び財産の状況,未成年後見人となる者の職業及び経歴並びに未成年被後見人との利害関係の有無(未成年後見人となる者が法人であるときは,その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と未成年被後見人との利害関係の有無),未成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならない。
前条の規定により未成年後見人となるべき者がないときは,家庭裁判所は,未成年被後見人又はその親族その他の利害関係人の請求によって,未成年後見人を選任する。未成年後見人が欠けたときも,同様とする。
父若しくは母が親権若しくは管理権を辞し,又は父若しくは母について親権喪失,親権停止若しくは管理権喪失の審判があったことによって未成年後見人を選任する必要が生じたときは,その父又は母は,遅滞なく未成年後見人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。
未成年後見人は,1人でなければならない。
①家庭裁判所は,後見開始の審判をするときは,職権で,成年後見人を選任する。
②成年後見人が欠けたときは,家庭裁判所は,成年被後見人若しくはその親族その他の利害関係人の請求により又は職権で,成年後見人を選任する。
③成年後見人が選任されている場合においても,家庭裁判所は,必要があると認めるときは,前項に規定する者若しくは成年後見人の請求により又は職権で,更に成年後見人を選任することができる。
④成年後見人を選任するには,成年被後見人の心身の状態並びに生活及び財産の状況,成年後見人となる者の職業及び経歴並びに成年被後見人との利害関係の有無(成年後見人となる者が法人であるときは,その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と成年被後見人との利害関係の有無),成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならない。
後見人は,正当な事由があるときは,家庭裁判所の許可を得て,その任務を辞することができる。
後見人がその任務を辞したことによって新たに後見人を選任する必要が生じたときは,その後見人は,遅滞なく新たな後見人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。
後見人に不正な行為,著しい不行跡その他後見の任務に適しない事由があるときは,家庭裁判所は,後見監督人,被後見人若しくはその親族若しくは検察官の請求により又は職権で,これを解任することができる。
一 未成年者
二 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人,保佐人又は補助人
三 破産者
四 被後見人に対して訴訟をし,又はした者並びにその配偶者及び直系血族
五 行方の知れない者
未成年後見人を指定することができる者は,遺言で,未成年後見監督人を指定することができる。
家庭裁判所は,必要があると認めるときは,被後見人,その親族若しくは後見人の請求により又は職権で,後見監督人を選任することができる。
後見人の配偶者,直系血族及び兄弟姉妹は,後見監督人となることができない。
後見監督人の職務は,次のとおりとする。
一 後見人の事務を監督すること。
二 後見人が欠けた場合に,遅滞なくその選任を家庭裁判所に請求すること。
三 急迫の事情がある場合に,必要な処分をすること。
四 後見人又はその代表する者と被後見人との利益が相反する行為について被後見人を代表すること。
第644条〔受任者の注意義務〕,第654条〔委任の終了後の処分〕,第655条〔委任の終了の対抗要件〕,第844条〔後見人の辞任〕,第846条〔後見人の解任〕,第847条〔後見人の欠格事由〕,第861条第2項〔後見の事務の費用の支弁〕及び第862条〔後見人の報酬〕の規定は後見監督人について,第840条第3項〔家庭裁判所が未成年後見人を選任する際の考慮事項〕及び第857条の2〔未成年後見人が数人ある場合の権限の行使〕の規定は未成年後見監督人について,第843条第4項〔家庭裁判所による成年後見人の追加的選任〕,第859条の2〔成年後見人が数人ある場合の権限の行使〕及び第859条の3〔成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可〕の規定は成年後見監督人について準用する。
第644条〔受任者の注意義務〕,第654条〔委任の終了後の処分〕,第655条〔委任の終了の対抗要件〕,第843条第4項〔成年後見人の選任〕,第844条〔後見人の辞任〕,第846条〔後見人の解任〕,第847条〔後見人の欠格事由〕,第859条の2〔成年後見人が数人ある場合の権限の行使等〕,第859条の3〔成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可〕,第861条第2項〔後見の事務の費用〕及び第862条〔後見人の報酬〕の規定は,後見監督人について準用する。
①後見人は,遅滞なく被後見人の財産の調査に着手し,1箇月以内に,その調査を終わり,かつ,その目録を作成しなければならない。ただし,この期間は,家庭裁判所において伸長することができる。
②財産の調査及びその目録の作成は,後見監督人があるときは,その立会いをもってしなければ,その効力を生じない。
後見人は,財産の目録の作成を終わるまでは,急迫の必要がある行為のみをする権限を有する。ただし,これをもって善意の第三者に対抗することができない。
①後見人が,被後見人に対し,債権を有し,又は債務を負う場合において,後見監督人があるときは,財産の調査に着手する前に,これを後見監督人に申し出なければならない。
②後見人が,被後見人に対し債権を有することを知ってこれを申し出ないときは,その債権を失う。
前3条の規定は,後見人が就職した後被後見人が包括財産を取得した場合について準用する。
未成年後見人は,第820条から第823条までに規定する事項〔監護及び教育の権利義務,居所の指定,懲戒,職業の許可〕について,親権を行う者と同一の権利義務を有する。ただし,親権を行う者が定めた教育の方法及び居所を変更し,営業を許可し,その許可を取り消し,又はこれを制限するには,未成年後見監督人があるときは,その同意を得なければならない。
①未成年後見人が数人あるときは,共同してその権限を行使する。
②未成年後見人が数人あるときは,家庭裁判所は,職権で,その一部の者について,財産に関する権限のみを行使すべきことを定めることができる。
③未成年後見人が数人あるときは,家庭裁判所は,職権で,財産に関する権限について,各未成年後見人が単独で又は数人の未成年後見人が事務を分掌して,その権限を行使すべきことを定めることができる。
④家庭裁判所は,職権で,前2項の規定による定めを取り消すことができる。
⑤未成年後見人が数人あるときは,第三者の意思表示は,その一人に対してすれば足りる。
成年後見人は,成年被後見人の生活,療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては,成年被後見人の意思を尊重し,かつ,その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。
①後見人は,被後見人の財産を管理し,かつ,その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。
②第824条ただし書の規定〔子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には,本人の同意を得なければならない〕は,前項の場合について準用する。
①成年後見人が数人あるときは,家庭裁判所は,職権で,数人の成年後見人が,共同して又は事務を分掌して,その権限を行使すべきことを定めることができる。
②家庭裁判所は,職権で,前項の規定による定めを取り消すことができる。
③成年後見人が数人あるときは,第三者の意思表示は,その一人に対してすれば足りる。
成年後見人は,成年被後見人に代わって,その居住の用に供する建物又はその敷地について,売却,賃貸,賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには,家庭裁判所の許可を得なければならない。
第826条の規定は,後見人について準用する。ただし,後見監督人がある場合は,この限りでない。
①家庭裁判所は,成年後見人がその事務を行うに当たって必要があると認めるときは,成年後見人の請求により,信書の送達の事業を行う者に対し,期間を定めて,成年被後見人に宛てた郵便物又は民間事業者による信書の送達に関する法律(平成14年法律第99号)第2条第3項に規定する信書便物(次条において「郵便物等」という。)を成年後見人に配達すべき旨を嘱託することができる。
②前項に規定する嘱託の期間は,6箇月を超えることができない。
③家庭裁判所は,第1項の規定による審判があった後事情に変更を生じたときは,成年被後見人,成年後見人若しくは成年後見監督人の請求により又は職権で,同項に規定する嘱託を取り消し,又は変更することができる。ただし,その変更の審判においては,同項の規定による審判において定められた期間を伸長することができない。
④成年後見人の任務が終了したときは,家庭裁判所は,第1項に規定する嘱託を取り消さなければならない。
①成年後見人は,成年被後見人に宛てた郵便物等を受け取ったときは,これを開いて見ることができる。
②成年後見人は,その受け取った前項の郵便物等で成年後見人の事務に関しないものは,速やかに成年被後見人に交付しなければならない。
③成年被後見人は,成年後見人に対し,成年後見人が受け取った第1項の郵便物等(前項の規定により成年被後見人に交付されたものを除く。)の閲覧を求めることができる。
①後見人は,その就職の初めにおいて,被後見人の生活,教育又は療養看護及び財産の管理のために毎年支出すべき金額を予定しなければならない。
②後見人が後見の事務を行うために必要な費用は,被後見人の財産の中から支弁する。
家庭裁判所は,後見人及び被後見人の資力その他の事情によって,被後見人の財産の中から,相当な報酬を後見人に与えることができる。
①後見監督人又は家庭裁判所は,いつでも,後見人に対し後見の事務の報告若しくは財産の目録の提出を求め,又は後見の事務若しくは被後見人の財産の状況を調査することができる。
②家庭裁判所は,後見監督人,被後見人若しくはその親族その他の利害関係人の請求により又は職権で,被後見人の財産の管理その他後見の事務について必要な処分を命ずることができる。
後見人が,被後見人に代わって営業若しくは第13条第1項各号に掲げる行為〔保佐人の同意を要する行為〕をし,又は未成年被後見人がこれをすることに同意するには,後見監督人があるときは,その同意を得なければならない。ただし,同項第1号に掲げる元本の領収については,この限りでない。
①後見人が,前条の規定に違反してし又は同意を与えた行為は,被後見人又は後見人が取り消すことができる。この場合においては,第20条〔制限行為能力者の相手方の催告権〕の規定を準用する。
②前項の規定は,第121条から第126条までの規定〔取消及び追認の規定〕の適用を妨げない。
①後見人が被後見人の財産又は被後見人に対する第三者の権利を譲り受けたときは,被後見人は,これを取り消すことができる。この場合においては,第20条〔制限行為能力者の相手方の催告権〕の規定を準用する。
②前項の規定は,第121条から第126条までの規定〔取消及び追認の規定〕の適用を妨げない。
①未成年後見人は,未成年被後見人に代わって親権を行う。
②第853条から第857条まで〔後見人による被後見人の財産管理及び身上監護〕及び第861条から前条までの規定〔後見人の事務の管理及び後見監督人による後見人の監督並びに被後見人の取消権〕は,前項の場合について準用する。
親権を行う者が管理権を有しない場合には,未成年後見人は,財産に関する権限のみを有する。
第644条〔受任者の注意義務〕及び第830条〔第三者が無償で子に与えた財産の管理〕の規定は,後見について準用する。
後見人の任務が終了したときは,後見人又はその相続人は,2箇月以内にその管理の計算(以下「後見の計算」という。)をしなければならない。ただし,この期間は,家庭裁判所において伸長することができる。
後見の計算は,後見監督人があるときは,その立会いをもってしなければならない。
①未成年被後見人が成年に達した後後見の計算の終了前に,その者と未成年後見人又はその相続人との間でした契約は,その者が取り消すことができる。その者が未成年後見人又はその相続人に対してした単独行為も,同様とする。
②第20条〔制限行為能力者の相手方の催告権〕及び第121条から第126条までの規定〔取消し及び追認の規定〕は,前項の場合について準用する。
①後見人が被後見人に返還すべき金額及び被後見人が後見人に返還すべき金額には,後見の計算が終了した時から,利息を付さなければならない。
②後見人は,自己のために被後見人の金銭を消費したときは,その消費の時から,これに利息を付さなければならない。この場合において,なお損害があるときは,その賠償の責任を負う。
成年後見人は,成年被後見人が死亡した場合において,必要があるときは,成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き,相続人が相続財産を管理することができるに至るまで,次に掲げる行為をすることができる。ただし,第3号に掲げる行為をするには,家庭裁判所の許可を得なければならない。
一 相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為
二 相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る。)の弁済
三 その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為
第654条〔委任の終了後の処分〕及び第655条〔委任の終了の対抗要件〕の規定は,後見について準用する。
①第832条〔財産の管理について生じた親子間の債権の5年の消滅時効〕の規定は,後見人又は後見監督人と被後見人との間において後見に関して生じた債権の消滅時効について準用する。
②前項の消滅時効は,第872条〔未成年被後見人と未成年後見人等との間の契約等の取消し〕の規定により法律行為を取り消した場合には,その取消しの時から起算する。
保佐は,保佐開始の審判によって開始する。
①家庭裁判所は,保佐開始の審判をするときは,職権で,保佐人を選任する。
②第843条第2項から第4項まで〔成年後見人補充的・追加的選任および選任に際しての考慮事項〕及び第844条から第847条までの規定〔後見人の辞任・解任・欠格事由〕は,保佐人について準用する。
③保佐人又はその代表する者と被保佐人との利益が相反する行為については,保佐人は,臨時保佐人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。ただし,保佐監督人がある場合は,この限りでない。
①家庭裁判所は,必要があると認めるときは,被保佐人,その親族若しくは保佐人の請求により又は職権で,保佐監督人を選任することができる。
②第644条〔受任者の注意義務〕,第654条〔委任の終了後の処分〕,第655条〔委任の終了の対抗要件〕,第843条第4項〔成年後見人の選任の際の考慮事項〕,第844条〔後見人の辞任〕,第846条〔後見人の解任〕,第847条〔後見人の欠格事由〕,第850条〔後見監督人の欠格事由〕,第851条〔後見監督人の職務〕,第859条の2〔成年後見人が数人ある場合の権限の行使等〕,第859条の3〔成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可〕,第861条第2項〔後見の事務の費用の支弁〕及び第862条〔後見人の報酬〕の規定は,保佐監督人について準用する。この場合において,第851条〔後見監督人の職務〕第4号〔後見人又はその代表する者と被後見人との利益が相反する行為について被後見人を代表すること〕中「被後見人を代表する」とあるのは,「被保佐人を代表し,又は被保佐人がこれをすることに同意する」と読み替えるものとする。
①家庭裁判所は,第11条本文に規定する者又は保佐人若しくは保佐監督人の請求によって,被保佐人のために特定の法律行為について保佐人に代理権を付与する旨の審判をすることができる。
②本人以外の者の請求によって前項の審判をするには,本人の同意がなければならない。
③家庭裁判所は,第1項に規定する者の請求によって,同項の審判の全部又は一部を取り消すことができる。
①保佐人は,保佐の事務を行うに当たっては,被保佐人の意思を尊重し,かつ,その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。
②第644条〔受任者の注意義務〕,第859条の2〔成年後見人が数人ある場合の権限の行使等〕,第859条の3〔成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可〕,第861条第2項〔後見の事務の費用の支弁〕,第862条〔後見人の報酬〕及び第863条〔後見の事務の監督〕の規定は保佐の事務について,第824条ただし書〔財産の管理が子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には,本人の同意が必要〕の規定は保佐人が前条第1項の代理権を付与する旨の審判に基づき被保佐人を代表する場合について準用する。
③第654条〔委任の終了後の処分〕,第655条〔委任の終了の対抗要件〕,第870条〔後見の計算1〕,第871条〔後見の計算2〕及び第873条〔返還金に対する利息の支払等〕の規定は保佐人の任務が終了した場合について,第832条〔財産の管理について生じた親子間の債権の消滅時効〕の規定は保佐人又は保佐監督人と被保佐人との間において保佐に関して生じた債権について準用する。
補助は,補助開始の審判によって開始する。
①家庭裁判所は,補助開始の審判をするときは,職権で,補助人を選任する。
②第843条第2項から第4項まで〔成年後見人の選任〕及び第844条から第847条まで〔後見人の辞任,辞任した後見人による新たな後見人の選任の請求,後見人の解任,後見人の欠格事由〕の規定は,補助人について準用する。
③補助人又はその代表する者と被補助人との利益が相反する行為については,補助人は,臨時補助人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。ただし,補助監督人がある場合は,この限りでない。
①家庭裁判所は,必要があると認めるときは,被補助人,その親族若しくは補助人の請求により又は職権で,補助監督人を選任することができる。
②第644条〔受任者の注意義務〕,第654条〔委任の終了後の処分〕,第655条〔委任の終了の対抗要件〕,第843条第4項〔成年後見人の選任〕,第844条〔後見人の辞任〕,第846条〔後見人の解任〕,第847条〔後見人の欠格事由〕,第843条第4項〔家庭裁判所が成年後見人を選任する際の考慮事項〕,第850条〔後見監督人の欠格事由〕,第851条〔後見監督人の職務〕,第859条の2〔成年後見人が数人ある場合の権限の行使等〕,第859条の3〔成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可〕,第861条第2項〔後見の事務の費用の支弁〕及び第862条〔後見人の報酬〕の規定は,補助監督人について準用する。この場合において,第851条第四号〔後見人と被後見人との利益相反行為〕中「被後見人を代表する」とあるのは,「被補助人を代表し,又は被補助人がこれをすることに同意する」と読み替えるものとする。
①家庭裁判所は,第15条第1項本文〔補助開始の審判〕に規定する者又は補助人若しくは補助監督人の請求によって,被補助人のために特定の法律行為について補助人に代理権を付与する旨の審判をすることができる。
②第876条の4第2項及び第3項〔保佐人に代理権を付与する旨の審判における本人の同意の要件,家庭裁判所の審判取消権〕の規定は,前項の審判について準用する。
①第644条〔受任者の注意義務〕,第859条の2〔成年後見人が数人ある場合の権限の行使等〕,第859条の3〔成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可〕,第861条第2項〔後見の事務の費用の支弁〕,第862条〔後見人の報酬〕,第863条〔後見の事務の監督〕及び第876条の5第1項〔保佐の事務処理の基準〕の規定は補助の事務について,第824条ただし書〔財産の管理が子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には,本人の同意が必要〕の規定は補助人が前条第1項の代理権を付与する旨の審判に基づき被補助人を代表する場合について準用する。
②第654条〔委任の終了後の処分〕,第655条〔委任の終了の対抗要件〕,第870条〔後見の計算〕,第871条〔後見の計算における後見監督人の立会いの必要性〕及び第873条〔返還金に対する利息の支払等〕の規定は補助人の任務が終了した場合について,第832条〔財産の管理について生じた親子間委任の債権の5年の消滅時効〕の規定は補助人又は補助監督人と被補助人との間において補助に関して生じた債権について準用する。
①直系血族及び兄弟姉妹は,互いに扶養をする義務がある。
②家庭裁判所は,特別の事情があるときは,前項に規定する場合のほか,3親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。
③前項の規定による審判があった後事情に変更を生じたときは,家庭裁判所は,その審判を取り消すことができる。
扶養をする義務のある者が数人ある場合において,扶養をすべき者の順序について,当事者間に協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,家庭裁判所が,これを定める。扶養を受ける権利のある者が数人ある場合において,扶養義務者の資力がその全員を扶養するのに足りないときの扶養を受けるべき者の順序についても,同様とする。
扶養の程度又は方法について,当事者間に協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,扶養権利者の需要,扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮して,家庭裁判所が,これを定める。
扶養をすべき者若しくは扶養を受けるべき者の順序又は扶養の程度若しくは方法について協議又は審判があった後事情に変更を生じたときは,家庭裁判所は,その協議又は審判の変更又は取消しをすることができる。
扶養を受ける権利は,処分することができない。
相続は,死亡によって開始する。
民法で唯一の五・七・五調の条文。憲法では,第23条(学問の自由)が,「学問の 自由はこれを 保障する。」となっていて,やはり,五・七・五調である。
相続は,被相続人の住所において開始する。
相続回復の請求権は,相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から5年間行使しないときは,時効によって消滅する。相続開始の時から20年を経過したときも,同様とする。
相続財産に関する費用は,その財産の中から支弁する。ただし,相続人の過失によるものは,この限りでない。
①相続財産に関する費用は,その財産の中から支弁する。ただし,相続人の過失によるものは,この限りでない。
②前項の費用は,遺留分権利者が贈与の減殺によって得た財産をもって支弁することを要しない。
①胎児は,相続については,既に生まれたものとみなす。
②前項の規定は,胎児が死体で生まれたときは,適用しない。
①被相続人の子は,相続人となる。
②被相続人の子が,相続の開始以前に死亡したとき,又は第891条の規定に該当し,若しくは廃除によって,その相続権を失ったときは,その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし,被相続人の直系卑属でない者は,この限りでない。
③前項の規定は,代襲者が,相続の開始以前に死亡し,又は第891条の規定に該当し,若しくは廃除によって,その代襲相続権を失った場合について準用する。
①前条〔次の項目で紹介〕の規定によつて相続人となるべき者が、相続の開始前に、死亡し、又はその相続権を失つた場合において、その者に直系卑属があるときは、その直系卑属は、前条の規定に従つてその者と同順位で相続人となる。
②前項の規定の適用については、胎児は、既に生まれたものとみなす。但し、死体で生まれたときは、この限りでない。
被相続人の直系卑属は、左の規定に従つて相続人となる。
一 親等の異なつた者の間では、その近い者を先にする。
二 親等の同じである者は、同順位で相続人となる。
①次に掲げる者は,第887条の規定により相続人となるべき者がない場合には,次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
一 被相続人の直系尊属。ただし,親等の異なる者の間では,その近い者を先にする。
二 被相続人の兄弟姉妹
②第887条第2項〔直系卑属の代襲相続〕の規定は,前項第2号の場合について準用する。
被相続人の配偶者は,常に相続人となる。この場合において,第887条〔子及びその代襲者等の相続権〕又は前条〔直系尊属及び兄弟姉妹の相続権〕の規定により相続人となるべき者があるときは,その者と同順位とする。
一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ,又は至らせようとしたために,刑に処せられた者
二 被相続人の殺害されたことを知って,これを告発せず,又は告訴しなかった者。ただし,その者に是非の弁別がないとき,又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは,この限りでない。
三 詐欺又は強迫によって,被相続人が相続に関する遺言をし,撤回し,取り消し,又は変更することを妨げた者
四 詐欺又は強迫によって,被相続人に相続に関する遺言をさせ,撤回させ,取り消させ,又は変更させた者
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し,変造し,破棄し,又は隠匿した者
遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が,被相続人に対して虐待をし,若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき,又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは,被相続人は,その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。
被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは,遺言執行者は,その遺言が効力を生じた後,遅滞なく,その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において,その推定相続人の廃除は,被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。
①被相続人は,いつでも,推定相続人の廃除の取消しを家庭裁判所に請求することができる。
②前条の規定は,推定相続人の廃除の取消しについて準用する。
①推定相続人の廃除又はその取消しの請求があった後その審判が確定する前に相続が開始したときは,家庭裁判所は,親族,利害関係人又は検察官の請求によって,遺産の管理について必要な処分を命ずることができる。推定相続人の廃除の遺言があったときも,同様とする。
②第27条から第29条までの規定〔不在者の財産の管理人の権利義務〕は,前項の規定により家庭裁判所が遺産の管理人を選任した場合について準用する。
相続人は,相続開始の時から,被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし,被相続人の一身に専属したものは,この限りでない。
①系譜,祭具及び墳墓の所有権は,前条の規定にかかわらず,慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし,被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは,その者が承継する。
②前項本文の場合において慣習が明らかでないときは,同項の権利を承継すべき者は,家庭裁判所が定める。
相続人が数人あるときは,相続財産は,その共有〔いわゆる合有〕に属する。
各共同相続人は,その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。
①相続による権利の承継は,遺産の分割によるものかどうかにかかわらず,次条及び第901条の規定〔法定相続分〕により算定した相続分を超える部分については,登記,登録その他の対抗要件を備えなければ,第三者に対抗することができない。
②前項の権利が債権である場合において,次条及び第901条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては,当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは,共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして,同項の規定を適用する。
同順位の相続人が数人あるときは,その相続分は,次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは,子の相続分及び配偶者の相続分は,各2分の1とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは,配偶者の相続分は,3分の2とし,直系尊属の相続分は,3分の1とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは,配偶者の相続分は,4分の3とし,兄弟姉妹の相続分は,4分の1とする。
四 子,直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは,各自の相続分は,相等しいものとする。ただし,父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は,父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とする。
①第887条第2項又は第3項の規定〔子の代襲者等の相続権〕により相続人となる直系卑属の相続分は,その直系尊属が受けるべきであったものと同じとする。ただし,直系卑属が数人あるときは,その各自の直系尊属が受けるべきであった部分について,前条の規定に従ってその相続分を定める。
②前項の規定は,第889条第2項〔姉妹兄弟の代襲者の権利〕の規定により兄弟姉妹の子が相続人となる場合について準用する。
①被相続人は,前2条の規定にかかわらず,遺言で,共同相続人の相続分を定め,又はこれを定めることを第三者に委託することができる。
②被相続人が,共同相続人中の一人若しくは数人の相続分のみを定め,又はこれを第三者に定めさせたときは,他の共同相続人の相続分は,前2条の規定により定める。
①被相続人は,前2条の規定にかかわらず,遺言で,共同相続人の相続分を定め,又はこれを定めることを第三者に委託することができる。ただし,被相続人又は第三者は,遺留分に関する規定に違反することができない。
②被相続人が,共同相続人中の1人若しくは数人の相続分のみを定め,又はこれを第三者に定めさせたときは,他の共同相続人の相続分は,前2条の規定により定める。
被相続人が相続開始の時において有した債務の債権者は,前条の規定による相続分の指定がされた場合であっても,各共同相続人に対し,第900条及び第901条の規定により算定した相続分に応じてその権利を行使することができる。ただし,その債権者が共同相続人の一人に対してその指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときは,この限りでない。
①共同相続人中に,被相続人から,遺贈を受け,又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし,第900条から第902条までの規定〔法定相続分,代襲相続人の相続分,遺言による相続分の指定〕により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
②遺贈又は贈与の価額が,相続分の価額に等しく,又はこれを超えるときは,受遺者又は受贈者は,その相続分を受けることができない。
③被相続人が前2項の規定と異なった意思を表示したときは,その意思に従う。
④婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が,他の一方に対し,その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは,当該被相続人は,その遺贈又は贈与について第1項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。
①共同相続人中に,被相続人から,遺贈を受け,又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし,前3条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
②遺贈又は贈与の価額が,相続分の価額に等しく,又はこれを超えるときは,受遺者又は受贈者は,その相続分を受けることができない。
③被相続人が前2項の規定と異なった意思を表示したときは,その意思表示は,遺留分に関する規定に違反しない範囲内で,その効力を有する。
前条に規定する贈与の価額は,受贈者の行為によって,その目的である財産が滅失し,又はその価格の増減があったときであっても,相続開始の時においてなお原状のままであるものとみなしてこれを定める。
①共同相続人中に,被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付,被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし,第900条から第902条までの規定〔法定相続分〕により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
②前項の協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,家庭裁判所は,同項に規定する寄与をした者の請求により,寄与の時期,方法及び程度,相続財産の額その他一切の事情を考慮して,寄与分を定める。
③寄与分は,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
④第2項の請求は,第907条第2項の規定〔遺産分割協議の不調の場合の家庭裁判所に対する分割請求〕による請求があった場合又は第910条〔相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権〕に規定する場合にすることができる。
①共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは,他の共同相続人は,その価額及び費用を償還して,その相続分を譲り受けることができる。
②前項の権利は,1箇月以内に行使しなければならない。
遺産の分割は,遺産に属する物又は権利の種類及び性質,各相続人の年齢,職業,心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。
①遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても,共同相続人は,その全員の同意により,当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。
②前項の規定にかかわらず,共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは,当該共同相続人については,同項の同意を得ることを要しない。
①共同相続人は,次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き,いつでも,その協議で,遺産の全部又は一部の分割をすることができる。
②遺産の分割について,共同相続人間に協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,各共同相続人は,その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし,遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については,この限りでない。
③前項本文の場合において特別の事由があるときは,家庭裁判所は,期間を定めて,遺産の全部又は一部について,その分割を禁ずることができる。
①共同相続人は,次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き,いつでも,その協議で,遺産の分割をすることができる。
②遺産の分割について,共同相続人間に協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,各共同相続人は,その分割を家庭裁判所に請求することができる。
③前項の場合において特別の事由があるときは,家庭裁判所は,期間を定めて,遺産の全部又は一部について,その分割を禁ずることができる。
被相続人は,遺言で,遺産の分割の方法を定め,若しくはこれを定めることを第三者に委託し,又は相続開始の時から5年を超えない期間を定めて,遺産の分割を禁ずることができる。
遺産の分割は,相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし,第三者の権利を害することはできない。
各共同相続人は,遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の3分の1に第900条及び第901条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費,平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については,単独でその権利を行使することができる。この場合において,当該権利の行使をした預貯金債権については,当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。
相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において,他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは,価額のみによる支払の請求権を有する。
各共同相続人は,他の共同相続人に対して,売主と同じく,その相続分に応じて担保の責任を負う。
①各共同相続人は,その相続分に応じ,他の共同相続人が遺産の分割によって受けた債権について,その分割の時における債務者の資力を担保する。
②弁済期に至らない債権及び停止条件付きの債権については,各共同相続人は,弁済をすべき時における債務者の資力を担保する。
担保の責任を負う共同相続人中に償還をする資力のない者があるときは,その償還することができない部分は,求償者及び他の資力のある者が,それぞれその相続分に応じて分担する。ただし,求償者に過失があるときは,他の共同相続人に対して分担を請求することができない。
前3条の規定は,被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは,適用しない。
①相続人は,自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に,相続について,単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし,この期間は,利害関係人又は検察官の請求によって,家庭裁判所において伸長することができる。
②相続人は,相続の承認又は放棄をする前に,相続財産の調査をすることができる。
相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは,前条第1項の期間は,その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する。
相続人が未成年者又は成年被後見人であるときは,第915条第1項の期間は,その法定代理人が未成年者又は成年被後見人のために相続の開始があったことを知った時から起算する。
①相続人は,その固有財産におけるのと同一の注意をもって,相続財産を管理しなければならない。ただし,相続の承認又は放棄をしたときは,この限りでない。
②家庭裁判所は,利害関係人又は検察官の請求によって,いつでも,相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。
③第27条から第29条までの規定〔不在者の財産管理人の権利義務〕は,前項の規定により家庭裁判所が相続財産の管理人を選任した場合について準用する。
①相続の承認及び放棄は,第915条第1項〔相続の承認又は放棄をすべき熟慮期間〕の期間内でも,撤回することができない。
②前項の規定は,第1編(総則)及び前編(親族)の規定により相続の承認又は放棄の取消しをすることを妨げない。
③前項の取消権は,追認をすることができる時から6箇月間行使しないときは,時効によって消滅する。相続の承認又は放棄の時から10年を経過したときも,同様とする。
④第2項の規定により限定承認又は相続の放棄の取消しをしようとする者は,その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
相続人は,単純承認をしたときは,無限に被相続人の権利義務を承継する。
次に掲げる場合には,相続人は,単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし,保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは,この限りでない。
二 相続人が第915条第1項の期間内〔相続人が自己のために相続の開始があったことを知ってから3か月以内〕に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
三 相続人が,限定承認又は相続の放棄をした後であっても,相続財産の全部若しくは一部を隠匿し,私にこれを消費し,又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし,その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は,この限りでない。
相続人は,相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して,相続の承認をすることができる。
相続人が数人あるときは,限定承認は,共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。
相続人は,限定承認をしようとするときは,第915条第1項の期間内〔相続人が自己のために相続の開始があったことを知ってから3か月以内〕に,相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し,限定承認をする旨を申述しなければならない。
相続人が限定承認をしたときは,その被相続人に対して有した権利義務は,消滅しなかったものとみなす。
①限定承認者は,その固有財産におけるのと同一の注意をもって,相続財産の管理を継続しなければならない。
②第645条〔受任者による報告〕,第646条〔受任者による受取物の引渡し等〕,第650条第1項及び第2項〔受任者による費用等の償還請求等〕並びに第918条第2項及び第3項の規定〔家庭裁判所による相続財産の保存に必要な処分・管理人の選任〕は,前項の場合について準用する。
①限定承認者は,限定承認をした後5日以内に,すべての相続債権者(相続財産に属する債務の債権者をいう。以下同じ。)及び受遺者に対し,限定承認をしたこと及び一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において,その期間は,2箇月を下ることができない。
②前項の規定による公告には,相続債権者及び受遺者がその期間内に申出をしないときは弁済から除斥されるべき旨を付記しなければならない。ただし,限定承認者は,知れている相続債権者及び受遺者を除斥することができない。
③限定承認者は,知れている相続債権者及び受遺者には,各別にその申出の催告をしなければならない。
④第1項の規定による公告は,官報に掲載してする。
限定承認者は,前条第1項の期間の満了前には,相続債権者及び受遺者に対して弁済を拒むことができる。
第927条第1項〔相続債権者及び受遺者に対する公告〕の期間が満了した後は,限定承認者は,相続財産をもって,その期間内に同項の申出をした相続債権者その他知れている相続債権者に,それぞれその債権額の割合に応じて弁済をしなければならない。ただし,優先権を有する債権者の権利を害することはできない。
①限定承認者は,弁済期に至らない債権であっても,前条の規定に従って弁済をしなければならない。
②条件付きの債権又は存続期間の不確定な債権は,家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って弁済をしなければならない。
限定承認者は,前2条の規定に従って各相続債権者に弁済をした後でなければ,受遺者に弁済をすることができない。
前3条の規定に従って弁済をするにつき相続財産を売却する必要があるときは,限定承認者は,これを競売に付さなければならない。ただし,家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従い相続財産の全部又は一部の価額を弁済して,その競売を止めることができる。
相続債権者及び受遺者は,自己の費用で,相続財産の競売又は鑑定に参加することができる。この場合においては,第260条第2項〔共有物の分割への参加において参加請求者を参加させずにした分割の対抗不能〕の規定を準用する。
①限定承認者は,第927条〔相続債権者及び受遺者に対する公告及び催告〕の公告若しくは催告をすることを怠り,又は同条第1項の期間内に相続債権者若しくは受遺者に弁済をしたことによって他の相続債権者若しくは受遺者に弁済をすることができなくなったときは,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。第929条から第931条までの規定〔相続債権者への弁済〕に違反して弁済をしたときも,同様とする。
②前項の規定は,情を知って不当に弁済を受けた相続債権者又は受遺者に対する他の相続債権者又は受遺者の求償を妨げない。
③第724条〔不法行為による損害賠償請求権の消滅時効〕の規定は,前2項の場合について準用する。
第927条第1項〔相続債権者及び受遺者に対する公告〕の期間内に同項の申出をしなかった相続債権者及び受遺者で限定承認者に知れなかったものは,残余財産についてのみその権利を行使することができる。ただし,相続財産について特別担保を有する者は,この限りでない。
①相続人が数人ある場合には,家庭裁判所は,相続人の中から,相続財産の管理人を選任しなければならない。
②前項の相続財産の管理人は,相続人のために,これに代わって,相続財産の管理及び債務の弁済に必要な一切の行為をする。
③第926条から前条までの規定〔限定承認者の任務〕は,第1項の相続財産の管理人について準用する。この場合において,第927条第1項〔相続債権者及び受遺者に対する公告〕中「限定承認をした後5日以内」とあるのは,「その相続財産の管理人の選任があった後10日以内」と読み替えるものとする。
限定承認をした共同相続人の一人又は数人について第921条〔法定単純承認〕第1号〔相続財産の全部又は一部の処分〕又は第3号〔悪意による違法な限定承認又は相続の放棄〕に掲げる事由があるときは,相続債権者は,相続財産をもって弁済を受けることができなかった債権額について,当該共同相続人に対し,その相続分に応じて権利を行使することができる。
相続の放棄をしようとする者は,その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
相続の放棄をした者は,その相続に関しては,初めから相続人とならなかったものとみなす。
①相続の放棄をした者は,その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで,自己の財産におけるのと同一の注意をもって,その財産の管理を継続しなければならない。
②第645条〔受任者による報告〕,第646条〔受任者による受取物の引渡し等〕,第650条第1項及び第2項〔受任者による費用等の償還請求等〕並びに第918条第2項及び第3項の規定〔家庭裁判所による相続財産の保存に必要な処分・管理人の選任〕は,前項の場合について準用する。
①相続債権者又は受遺者は,相続開始の時から3箇月以内に,相続人の財産の中から相続財産を分離することを家庭裁判所に請求することができる。相続財産が相続人の固有財産と混合しない間は,その期間の満了後も,同様とする。
②家庭裁判所が前項の請求によって財産分離を命じたときは,その請求をした者は,5日以内に,他の相続債権者及び受遺者に対し,財産分離の命令があったこと及び一定の期間内に配当加入の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において,その期間は,2箇月を下ることができない。
③前項の規定による公告は,官報に掲載してする。
財産分離の請求をした者及び前条第2項の規定により配当加入の申出をした者は,相続財産について,相続人の債権者に先立って弁済を受ける。
①財産分離の請求があったときは,家庭裁判所は,相続財産の管理について必要な処分を命ずることができる。
②第27条から第29条までの規定〔不在者の財産管理人の権利義務〕は,前項の規定により家庭裁判所が相続財産の管理人を選任した場合について準用する。
①相続人は,単純承認をした後でも,財産分離の請求があったときは,以後,その固有財産におけるのと同一の注意をもって,相続財産の管理をしなければならない。ただし,家庭裁判所が相続財産の管理人を選任したときは,この限りでない。
②第645条から第647条まで〔受任者の責任〕並びに第650条第1項及び第2項の規定〔受任者の費用償還請求等〕は,前項の場合について準用する。
財産分離は,不動産については,その登記をしなければ,第三者に対抗することができない。
第304条〔先取特権の物上代位〕の規定は,財産分離の場合について準用する。
①相続人は,第941条〔相続債権者又は受遺者の請求による財産分離〕第1項及び第2項〔財産分離命令の公告〕の期間の満了前には,相続債権者及び受遺者に対して弁済を拒むことができる。
②財産分離の請求があったときは,相続人は,第941条第2項の期間の満了後に,相続財産をもって,財産分離の請求又は配当加入の申出をした相続債権者及び受遺者に,それぞれその債権額の割合に応じて弁済をしなければならない。ただし,優先権を有する債権者の権利を害することはできない。
③第930条から第934条までの規定〔限定承認者による弁済〕は,前項の場合について準用する。
財産分離の請求をした者及び配当加入の申出をした者は,相続財産をもって全部の弁済を受けることができなかった場合に限り,相続人の固有財産についてその権利を行使することができる。この場合においては,相続人の債権者は,その者に先立って弁済を受けることができる。
相続人は,その固有財産をもって相続債権者若しくは受遺者に弁済をし,又はこれに相当の担保を供して,財産分離の請求を防止し,又はその効力を消滅させることができる。ただし,相続人の債権者が,これによって損害を受けるべきことを証明して,異議を述べたときは,この限りでない。
①相続人が限定承認をすることができる間又は相続財産が相続人の固有財産と混合しない間は,相続人の債権者は,家庭裁判所に対して財産分離の請求をすることができる。
②第304条(先取特権の物上代位),第925条〔限定承認をしたときの権利義務〕,第927条から第934条まで〔限定承認における相続財産の清算〕,第943条から第945条まで〔相続債権者又は受遺者の請求による財産分離における相続財産の管理・対抗要件〕及び第948条〔相続債権者又は受遺者の請求による財産分離における相続人の固有財産からの弁済〕の規定は,前項の場合について準用する。ただし,第927条〔限定承認の場合の相続債権者及び受遺者に対する公告及び催告〕の公告及び催告は,財産分離の請求をした債権者がしなければならない。
相続人のあることが明らかでないときは,相続財産は,法人とする。
①前条の場合には,家庭裁判所は,利害関係人又は検察官の請求によって,相続財産の管理人を選任しなければならない。
②前項の規定により相続財産の管理人を選任したときは,家庭裁判所は,遅滞なくこれを公告しなければならない。
第27条から第29条までの規定〔不在者の財産管理人の権利義務〕は,前条第1項の相続財産の管理人(以下この章において単に「相続財産の管理人」という。)について準用する。
相続財産の管理人は,相続債権者又は受遺者の請求があるときは,その請求をした者に相続財産の状況を報告しなければならない。
相続人のあることが明らかになったときは,第951条の法人は,成立しなかったものとみなす。ただし,相続財産の管理人がその権限内でした行為の効力を妨げない。
①相続財産の管理人の代理権は,相続人が相続の承認をした時に消滅する。
②前項の場合には,相続財産の管理人は,遅滞なく相続人に対して管理の計算をしなければならない。
①第952条第2項〔相続財産管理人の選任の公告〕の公告があった後2箇月以内に相続人のあることが明らかにならなかったときは,相続財産の管理人は,遅滞なく,すべての相続債権者及び受遺者に対し,一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において,その期間は,2箇月を下ることができない。
②第972条第2項から第4項まで〔相続債権者及び受遺者に対する公告及び催告〕及び第928条から第935条まで(第932条ただし書き〔「家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従い相続財産の全部又は一部の価額を弁済して,その競売を止めることができる」という競売阻止の規定〕を除く。)〔限定承認における相続財産の清算〕の規定は,前項の場合について準用する。
前条第1項の期間の満了後,なお相続人のあることが明らかでないときは,家庭裁判所は,相続財産の管理人又は検察官の請求によって,相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければならない。この場合において,その期間は,6箇月を下ることができない。
前条の期間内に相続人としての権利を主張する者がないときは,相続人並びに相続財産の管理人に知れなかった相続債権者及び受遺者は,その権利を行使することができない。
①前条の場合において,相当と認めるときは,家庭裁判所は,被相続人と生計を同じくしていた者,被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって,これらの者に,清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
②前項の請求は,第958条の期間の満了後3箇月以内にしなければならない。
前条の規定により処分されなかった相続財産は,国庫に帰属する。この場合においては,第956条第2項〔相続財産管理人の計算義務〕の規定を準用する。
遺言は,この法律に定める方式に従わなければ,することができない。
15歳に達した者は,遺言をすることができる。
第5条〔未成年者の法律行為〕,第9条〔成年被後見人の法律行為〕,第13条〔保佐人の同意を要する行為等〕及び第17条〔補助人の同意を要する旨の審判等〕の規定は,遺言については,適用しない。
遺言者は,遺言をする時においてその能力を有しなければならない。
遺言者は,包括又は特定の名義で,その財産の全部又は一部を処分することができる。
遺言者は,包括又は特定の名義で,その財産の全部又は一部を処分することができる。ただし,遺留分に関する規定に違反することができない。
第886条〔相続に関する胎児の権利能力〕及び第891条〔相続人の欠格事由〕の規定は,受遺者について準用する。
①被後見人が,後見の計算の終了前に,後見人又はその配偶者若しくは直系卑属の利益となるべき遺言をしたときは,その遺言は,無効とする。
②前項の規定は,直系血族,配偶者又は兄弟姉妹が後見人である場合には,適用しない。
遺言は,自筆証書,公正証書又は秘密証書によってしなければならない。ただし,特別の方式によることを許す場合は,この限りでない。
①自筆証書によって遺言をするには,遺言者が,その全文,日付及び氏名を自書し,これに印を押さなければならない。
②前項の規定にかかわらず,自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第997条第1項に規定する場合〔相続財産に属しない権利を目的とする遺贈が有効であるとき〕における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には,その目録については,自書することを要しない。この場合において,遺言者は,その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては,その両面)に署名し,印を押さなければならない。
③自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は,遺言者が,その場所を指示し,これを変更した旨を付記して特にこれに署名し,かつ,その変更の場所に印を押さなければ,その効力を生じない。
①自筆証書によって遺言をするには,遺言者が,その全文,日付及び氏名を自書し,これに印を押さなければならない。
②自筆証書中の加除その他の変更は,遺言者が,その場所を指示し,これを変更した旨を付記して特にこれに署名し,かつ,その変更の場所に印を押さなければ,その効力を生じない。
公正証書によって遺言をするには,次に掲げる方式に従わなければならない。
一 証人二人以上の立会いがあること。
二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
三 公証人が,遺言者の口述を筆記し,これを遺言者及び証人に読み聞かせ,又は閲覧させること。
四 遺言者及び証人が,筆記の正確なことを承認した後,各自これに署名し,印を押すこと。ただし,遺言者が署名することができない場合は,公証人がその事由を付記して,署名に代えることができる。
五 公証人が,その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して,これに署名し,印を押すこと。
①口がきけない者が公正証書によって遺言をする場合には,遺言者は,公証人及び証人の前で,遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述し,又は自書して,前条第2号の口授に代えなければならない。この場合における同条第3号の規定の適用については,同号中「口述」とあるのは,「通訳人の通訳による申述又は自書」とする。
②前条の遺言者又は証人が耳が聞こえない者である場合には,公証人は,同条第3号に規定する筆記した内容を通訳人の通訳により遺言者又は証人に伝えて,同号の読み聞かせに代えることができる。
③公証人は,前2項に定める方式に従って公正証書を作ったときは,その旨をその証書に付記しなければならない。
①秘密証書によって遺言をするには,次に掲げる方式に従わなければならない。
一 遺言者が,その証書に署名し,印を押すこと。
二 遺言者が,その証書を封じ,証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
三 遺言者が,公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出して,自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
四 遺言者が,公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出して,自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
②第968条第3項〔自筆証書遺言の加除訂正の効力要件〕の規定は,秘密証書による遺言について準用する。
①秘密証書によって遺言をするには,次に掲げる方式に従わなければならない。
一 遺言者が,その証書に署名し,印を押すこと。
二 遺言者が,その証書を封じ,証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
三 遺言者が,公証人1人及び証人2人以上の前に封書を提出して,自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
四 公証人が,その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後,遺言者及び証人とともにこれに署名し,印を押すこと。
②第968条第2項〔自筆証書遺言の加除訂正〕の規定は,秘密証書による遺言について準用する。
秘密証書による遺言は,前条に定める方式に欠けるものがあっても,第968条〔自筆証書遺言〕に定める方式を具備しているときは,自筆証書による遺言としてその効力を有する。
①口がきけない者が秘密証書によって遺言をする場合には,遺言者は,公証人及び証人の前で,その証書は自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を通訳人の通訳により申述し,又は封紙に自書して,第970条第1項第3号〔公証人及び証人二人に対する申述〕の申述に代えなければならない。
②前項の場合において,遺言者が通訳人の通訳により申述したときは,公証人は,その旨を封紙に記載しなければならない。
③第1項の場合において,遺言者が封紙に自書したときは,公証人は,その旨を封紙に記載して,第970条第1項第4号〔公証人の封書への申述の記載と遺言者及び証人二人及び公証人の署名・押印〕に規定する申述の記載に代えなければならない。
①成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには,医師二人以上の立会いがなければならない。
②遺言に立ち会った医師は,遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して,これに署名し,印を押さなければならない。ただし,秘密証書による遺言にあっては,その封紙にその旨の記載をし,署名し,印を押さなければならない。
一 未成年者
二 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
三 公証人の配偶者,4親等内の親族,書記及び使用人
遺言は,二人以上の者が同一の証書ですることができない。
①疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは,証人3人以上の立会いをもって,その一人に遺言の趣旨を口授して,これをすることができる。この場合においては,その口授を受けた者が,これを筆記して,遺言者及び他の証人に読み聞かせ,又は閲覧させ,各証人がその筆記の正確なことを承認した後,これに署名し,印を押さなければならない。
②口がきけない者が前項の規定により遺言をする場合には,遺言者は,証人の前で,遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述して,同項の口授に代えなければならない。
③第1項後段の遺言者又は他の証人が耳が聞こえない者である場合には,遺言の趣旨の口授又は申述を受けた者は,同項後段に規定する筆記した内容を通訳人の通訳によりその遺言者又は他の証人に伝えて,同項後段の読み聞かせに代えることができる。
④前3項の規定によりした遺言は,遺言の日から20日以内に,証人の一人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ,その効力を生じない。
⑤家庭裁判所は,前項の遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ,これを確認することができない。
伝染病のため行政処分によって交通を断たれた場所に在る者は,警察官一人及び証人一人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。
船舶中に在る者は,船長又は事務員一人及び証人二人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。
①船舶が遭難した場合において,当該船舶中に在って死亡の危急に迫った者は,証人二人以上の立会いをもって口頭で遺言をすることができる。
②口がきけない者が前項の規定により遺言をする場合には,遺言者は,通訳人の通訳によりこれをしなければならない。
③前2項の規定に従ってした遺言は,証人が,その趣旨を筆記して,これに署名し,印を押し,かつ,証人の一人又は利害関係人から遅滞なく家庭裁判所に請求してその確認を得なければ,その効力を生じない。
④第976条第5項〔遺言者の真意の確認の要件〕の規定は,前項の場合について準用する。
第977条〔伝染病隔離者の遺言〕及び第978条〔在船者の遺言〕の場合には,遺言者,筆者,立会人及び証人は,各自遺言書に署名し,印を押さなければならない。
第977条から第979条までの場合〔伝染病隔離者の遺言,在船者の遺言,船舶遭難者の遺言〕において,署名又は印を押すことのできない者があるときは,立会人又は証人は,その事由を付記しなければならない。
第968条第3項〔自筆証書遺言の加除訂正〕及び第973条から第975条まで〔成年被後見人の遺言,証人及び立会人の欠格事由,共同遺言の禁止〕の規定は,第976条から前条までの規定による遺言について準用する。
第968条第2項〔自筆証書遺言の加除訂正〕及び第973条から第975条まで〔成年被後見人の遺言,証人及び立会人の欠格事由,共同遺言の禁止〕の規定は,第976条から前条までの規定による遺言について準用する。
第976条から前条までの規定〔特別の方式〕によりした遺言は,遺言者が普通の方式によって遺言をすることができるようになった時から6箇月間生存するときは,その効力を生じない。
日本の領事の駐在する地に在る日本人が公正証書又は秘密証書によって遺言をしようとするときは,公証人の職務は,領事が行う。
①遺言は,遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。
②遺言に停止条件を付した場合において,その条件が遺言者の死亡後に成就したときは,遺言は,条件が成就した時からその効力を生ずる。
①受遺者は,遺言者の死亡後,いつでも,遺贈の放棄をすることができる。
②遺贈の放棄は,遺言者の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。
遺贈義務者(遺贈の履行をする義務を負う者をいう。以下この節において同じ。)その他の利害関係人は,受遺者に対し,相当の期間を定めて,その期間内に遺贈の承認又は放棄をすべき旨の催告をすることができる。この場合において,受遺者がその期間内に遺贈義務者に対してその意思を表示しないときは,遺贈を承認したものとみなす。
形成権が行使されるかどうかわからないために不安定な地位にある者による催告によって権利義務関係の確定を図る制度には,以下の条文がある。
第20条(制限行為能力者の相手方の催告権),第114条(無権代理の相手方の催告権),第408条(選択権の移転),第547条(催告による解除権の消滅),第556条(売買の一方の予約)第2項(予約完結権の消滅), 第865条〔後見人が後見監督人の同意を要する行為に違反した場合の取消し〕,第866条(被後見人の財産等の譲受けの取消し),第872条(未成年被後見人と未成年後見人等との間の契約等の取消し),本条である第987条(受遺者に対する遺贈の承認又は放棄の催告),第1008条(遺言執行者に対する就職の催告),第1027条(負担付遺贈に係る遺言の取消し)
第455条(催告の抗弁権及び検索の抗弁権の効果)も,不安定な立場の救済という点では共通する点を有している。
受遺者が遺贈の承認又は放棄をしないで死亡したときは,その相続人は,自己の相続権の範囲内で,遺贈の承認又は放棄をすることができる。ただし,遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは,その意思に従う。
①遺贈の承認及び放棄は,撤回することができない。
②第919条第2項〔相続の承認・放棄の取消しの要件〕及び第3項〔相続の承認・放棄の取消権の消滅時効〕の規定は,遺贈の承認及び放棄について準用する。
包括受遺者は,相続人と同一の権利義務を有する。
受遺者は,遺贈が弁済期に至らない間は,遺贈義務者に対して相当の担保を請求することができる。停止条件付きの遺贈についてその条件の成否が未定である間も,同様とする。
受遺者は,遺贈の履行を請求することができる時から果実を取得する。ただし,遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは,その意思に従う。
①第299条〔留置権者による費用の償還請求〕の規定は,遺贈義務者が遺言者の死亡後に遺贈の目的物について費用を支出した場合について準用する。
②果実を収取するために支出した通常の必要費は,果実の価格を超えない限度で,その償還を請求することができる。
①遺贈は,遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは,その効力を生じない。
②停止条件付きの遺贈については,受遺者がその条件の成就前に死亡したときも,前項と同様とする。ただし,遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは,その意思に従う。
遺贈が,その効力を生じないとき,又は放棄によってその効力を失ったときは,受遺者が受けるべきであったものは,相続人に帰属する。ただし,遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは,その意思に従う。
遺贈は,その目的である権利が遺言者の死亡の時において相続財産に属しなかったときは,その効力を生じない。ただし,その権利が相続財産に属するかどうかにかかわらず,これを遺贈の目的としたものと認められるときは,この限りでない。
①相続財産に属しない権利を目的とする遺贈が前条ただし書の規定により有効であるときは,遺贈義務者は,その権利を取得して受遺者に移転する義務を負う。
②前項の場合において,同項に規定する権利を取得することができないとき,又はこれを取得するについて過分の費用を要するときは,遺贈義務者は,その価額を弁償しなければならない。ただし,遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは,その意思に従う。
遺贈義務者は,遺贈の目的である物又は権利を,相続開始の時(その後に当該物又は権利について遺贈の目的として特定した場合にあっては,その特定した時)の状態で引き渡し,又は移転する義務を負う。ただし,遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは,その意思に従う。
①不特定物を遺贈の目的とした場合において,受遺者がこれにつき第三者から追奪を受けたときは,遺贈義務者は,これに対して,売主と同じく,担保の責任を負う。
②不特定物を遺贈の目的とした場合において,物に瑕疵があったときは,遺贈義務者は,瑕疵のない物をもってこれに代えなければならない。
①遺言者が,遺贈の目的物の滅失若しくは変造又はその占有の喪失によって第三者に対して償金を請求する権利を有するときは,その権利を遺贈の目的としたものと推定する。
②遺贈の目的物が,他の物と付合し,又は混和した場合において,遺言者が第243条から第245条までの規定〔動産の附合,混和〕により合成物又は混和物の単独所有者又は共有者となったときは,その全部の所有権又は持分を遺贈の目的としたものと推定する。
遺贈の目的である物又は権利が遺言者の死亡の時において第三者の権利の目的であるときは,受遺者は,遺贈義務者に対しその権利を消滅させるべき旨を請求することができない。ただし,遺言者がその遺言に反対の意思を表示したときは,この限りでない。
民法1000条が削除された理由は,民法998条が改正され,その第2項が削除されたため,条文の存在理由が失われたからであるという。しかし,残しても害のない規定であり,分かりやすいのであるから,削除する必要はなかったと思われる。
①債権を遺贈の目的とした場合において,遺言者が弁済を受け,かつ,その受け取った物がなお相続財産中に在るときは,その物を遺贈の目的としたものと推定する。
②金銭を目的とする債権を遺贈の目的とした場合においては,相続財産中にその債権額に相当する金銭がないときであっても,その金額を遺贈の目的としたものと推定する。
①負担付遺贈を受けた者は,遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ,負担した義務を履行する責任を負う。
②受遺者が遺贈の放棄をしたときは,負担の利益を受けるべき者は,自ら受遺者となることができる。ただし,遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは,その意思に従う。
負担付遺贈の目的の価額が相続の限定承認又は遺留分回復の訴えによって減少したときは,受遺者は,その減少の割合に応じて,その負担した義務を免れる。ただし,遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは,その意思に従う。
①遺言書の保管者は,相続の開始を知った後,遅滞なく,これを家庭裁判所に提出して,その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において,相続人が遺言書を発見した後も,同様とする。
②前項の規定は,公正証書による遺言については,適用しない。
③封印のある遺言書は,家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ,開封することができない。
前条の規定により遺言書を提出することを怠り,その検認を経ないで遺言を執行し,又は家庭裁判所外においてその開封をした者は,5万円以下の過料に処する。
①遺言者は,遺言で,一人又は数人の遺言執行者を指定し,又はその指定を第三者に委託することができる。
②遺言執行者の指定の委託を受けた者は,遅滞なく,その指定をして,これを相続人に通知しなければならない。
③遺言執行者の指定の委託を受けた者がその委託を辞そうとするときは,遅滞なくその旨を相続人に通知しなければならない。
①遺言執行者が就職を承諾したときは,直ちにその任務を行わなければならない。
②遺言執行者は,その任務を開始したときは,遅滞なく,遺言の内容を相続人に通知しなければならない。
遺言執行者が就職を承諾したときは,直ちにその任務を行わなければならない。
相続人その他の利害関係人は,遺言執行者に対し,相当の期間を定めて,その期間内に就職を承諾するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において,遺言執行者が,その期間内に相続人に対して確答をしないときは,就職を承諾したものとみなす。
第20条(制限行為能力者の相手方の催告権),第114条(無権代理の相手方の催告権),第408条(選択権の移転),第547条(催告による解除権の消滅),第556条(売買の一方の予約)第2項(予約完結権の消滅), 第865条〔後見人が後見監督人の同意を要する行為に違反した場合の取消し〕,第866条(被後見人の財産等の譲受けの取消し),第872条(未成年被後見人と未成年後見人等との間の契約等の取消し),第987条(受遺者に対する遺贈の承認又は放棄の催告),本条である第1008条(遺言執行者に対する就職の催告),第1027条(負担付遺贈に係る遺言の取消し)
未成年者及び破産者は,遺言執行者となることができない。
遺言執行者がないとき,又はなくなったときは,家庭裁判所は,利害関係人の請求によって,これを選任することができる。
①遺言執行者は,遅滞なく,相続財産の目録を作成して,相続人に交付しなければならない。
②遺言執行者は,相続人の請求があるときは,その立会いをもって相続財産の目録を作成し,又は公証人にこれを作成させなければならない。
①遺言執行者は,遺言の内容を実現するため,相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
②遺言執行者がある場合には,遺贈の履行は,遺言執行者のみが行うことができる。
③第644条〔受任者の注意義務〕,第645条から第647条まで〔受任者による報告,受任者による受取物の引渡し等,受任者の金銭等の消費についての責任〕及び第650条〔受任者による費用等の償還請求〕の規定は,遺言執行者について準用する。
①遺言執行者は,相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
②第644条から第647条まで〔受任者の責任〕及び第650条〔受任者による費用等の償還請求等〕の規定は,遺言執行者について準用する。
①遺言執行者がある場合には,相続人は,相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
②前項の規定に違反してした行為は,無効とする。ただし,これをもって善意の第三者に対抗することができない。
③前2項の規定は,相続人の債権者(相続債権者を含む。)が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。
遺言執行者がある場合には,相続人は,相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をするとができない。
①前3条の規定は,遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には,その財産についてのみ適用する。
②遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは,遺言執行者は,当該共同相続人が第899条の2第1項〔共同相続における法定相続分を超える相続分の第三者対抗要件〕に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。
③前項の財産が預貯金債権である場合には,遺言執行者は,同項に規定する行為のほか,その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができる。ただし,解約の申入れについては,その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る。
④前2項の規定にかかわらず,被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは,その意思に従う。
前3条の規定は,遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には,その財産についてのみ適用する。
遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は,相続人に対して直接にその効力を生ずる。
遺言執行者は,相続人の代理人とみなす。
①遺言執行者は,自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。ただし,遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは,その意思に従う。
②前項本文の場合において,第三者に任務を行わせることについてやむを得ない事由があるときは,遺言執行者は,相続人に対してその選任及び監督についての責任のみを負う。
①遺言執行者は,やむを得ない事由がなければ,第三者にその任務を行わせることができない。ただし,遺言者がその遺言に反対の意思を表示したときは,この限りでない。
②遺言執行者が前項ただし書の規定により第三者にその任務を行わせる場合には,相続人に対して,第105条〔復代理人を選任した代理人の責任〕に規定する責任を負う。
①遺言執行者が数人ある場合には,その任務の執行は,過半数で決する。ただし,遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは,その意思に従う。
②各遺言執行者は,前項の規定にかかわらず,保存行為をすることができる。
①家庭裁判所は,相続財産の状況その他の事情によって遺言執行者の報酬を定めることができる。ただし,遺言者がその遺言に報酬を定めたときは,この限りでない。
②第648条第2項及び第3項〔受任者の報酬の支払方法〕並びに第648条の2〔成果等に関する報酬〕の規定は,遺言執行者が報酬を受けるべき場合について準用する。
①家庭裁判所は,相続財産の状況その他の事情によって遺言執行者の報酬を定めることができる。ただし,遺言者がその遺言に報酬を定めたときは,この限りでない。
②第648条第2項及び第3項〔受任者の報酬の支払方法〕の規定は,遺言執行者が報酬を受けるべき場合について準用する。
①遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときは,利害関係人は,その解任を家庭裁判所に請求することができる。
②遺言執行者は,正当な事由があるときは,家庭裁判所の許可を得て,その任務を辞することができる。
第654条〔復代理人を選任した代理人の責任〕及び第655条〔委任の終了の対抗要件〕の規定は,遺言執行者の任務が終了した場合について準用する。
遺言の執行に関する費用は,相続財産の負担とする。ただし,これによって遺留分を減ずることができない。
遺言者は,いつでも,遺言の方式に従って,その遺言の全部又は一部を撤回することができる。
①前の遺言が後の遺言と抵触するときは,その抵触する部分については,後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
②前項の規定は,遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。
遺言者が故意に遺言書を破棄したときは,その破棄した部分については,遺言を撤回したものとみなす。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも,同様とする。
前3条の規定により撤回された遺言は,その撤回の行為が,撤回され,取り消され,又は効力を生じなくなるに至ったときであっても,その効力を回復しない。ただし,その行為が錯誤,詐欺又は強迫による場合は,この限りでない。
前3条の規定により撤回された遺言は,その撤回の行為が,撤回され,取り消され,又は効力を生じなくなるに至ったときであっても,その効力を回復しない。ただし,その行為が詐欺又は強迫による場合は,この限りでない。
遺言者は,その遺言を撤回する権利を放棄することができない。
負担付遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないときは,相続人は,相当の期間を定めてその履行の催告をすることができる。この場合において,その期間内に履行がないときは,その負担付遺贈に係る遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができる。
第20条(制限行為能力者の相手方の催告権),第114条(無権代理の相手方の催告権),第408条(選択権の移転),第547条(催告による解除権の消滅),第556条(売買の一方の予約)第2項(予約完結権の消滅), 第865条〔後見人が後見監督人の同意を要する行為に違反した場合の取消し〕,第866条(被後見人の財産等の譲受けの取消し),第872条(未成年被後見人と未成年後見人等との間の契約等の取消し),第987条(受遺者に対する遺贈の承認又は放棄の催告),第1008条(遺言執行者に対する就職の催告),本条である第1027条(負担付遺贈に係る遺言の取消し)
①被相続人の配偶者(以下この章において単に「配偶者」という。)は,被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において,次の各号のいずれかに該当するときは,その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の全部について無償で使用及び収益をする権利(以下この章において「配偶者居住権」という。)を取得する。ただし,被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては,この限りでない。
一 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。
二 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。
②居住建物が配偶者の財産に属することとなった場合であっても,他の者がその共有持分を有するときは,配偶者居住権は,消滅しない。
③第903条第4項〔婚姻期間が20年以上の婦夫における持戻し免除の推定〕の規定は,配偶者居住権の遺贈について準用する。
遺産の分割の請求を受けた家庭裁判所は,次に掲げる場合に限り,配偶者が配偶者居住権を取得する旨を定めることができる。
一 共同相続人間に配偶者が配偶者居住権を取得することについて合意が成立しているとき。
二 配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において,居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき(前号に掲げる場合を除く。)。
配偶者居住権の存続期間は,配偶者の終身の間とする。ただし,遺産の分割の協議若しくは遺言に別段の定めがあるとき,又は家庭裁判所が遺産の分割の審判において別段の定めをしたときは,その定めるところによる。
①居住建物の所有者は,配偶者(配偶者居住権を取得した配偶者に限る。以下この節において同じ。)に対し,配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負う。
②第605条〔不動産賃借権の対抗力〕の規定は配偶者居住権について,第605条の4の規定は配偶者居住権の設定の登記を備えた場合について準用する。
①配偶者は,従前の用法に従い,善良な管理者の注意をもって,居住建物の使用及び収益をしなければならない。ただし,従前居住の用に供していなかった部分について,これを居住の用に供することを妨げない。
②配偶者居住権は,譲渡することができない。
③配偶者は,居住建物の所有者の承諾を得なければ,居住建物の改築若しくは増築をし,又は第三者に居住建物の使用若しくは収益をさせることができない。
④配偶者が第1項又は前項の規定に違反した場合において,居住建物の所有者が相当の期間を定めてその是正の催告をし,その期間内に是正がされないときは,居住建物の所有者は,当該配偶者に対する意思表示によって配偶者居住権を消滅させることができる。
①配偶者は,居住建物の使用及び収益に必要な修繕をすることができる。
②居住建物の修繕が必要である場合において,配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしないときは,居住建物の所有者は,その修繕をすることができる。
③居住建物が修繕を要するとき(第1項の規定により配偶者が自らその修繕をするときを除く。),又は居住建物について権利を主張する者があるときは,配偶者は,居住建物の所有者に対し,遅滞なくその旨を通知しなければならない。ただし,居住建物の所有者が既にこれを知っているときは,この限りでない。
①配偶者は,居住建物の通常の必要費を負担する。
②第583条第2項〔買戻しの際の費用償還請求権〕の規定は,前項の通常の必要費以外の費用について準用する。
①配偶者は,配偶者居住権が消滅したときは,居住建物の返還をしなければならない。ただし,配偶者が居住建物について共有持分を有する場合は,居住建物の所有者は,配偶者居住権が消滅したことを理由としては,居住建物の返還を求めることができない。
②第599条第1項及び第2項〔使用貸借の借主の収去権・原状回復義務〕並びに第621条〔賃借人の原状回復義務〕の規定は,前項本文の規定により配偶者が相続の開始後に附属させた物がある居住建物又は相続の開始後に生じた損傷がある居住建物の返還をする場合について準用する。
第597条第1項〔期間満了による使用貸借の終了〕及び第3項〔借主の死亡による使用貸借の終了〕,第600条〔使用貸借における損害賠償及び費用の償還の請求権についての期間の制限〕,第613条〔適法転貸借の効果〕並びに第616条の2〔賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了〕の規定は,配偶者居住権について準用する。
①配偶者は,被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合には,次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める日までの間,その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の所有権を相続又は遺贈により取得した者(以下この節において「居住建物取得者」という。)に対し,居住建物について無償で使用する権利(居住建物の一部のみを無償で使用していた場合にあっては,その部分について無償で使用する権利。以下この節において「配偶者短期居住権」という。)を有する。ただし,配偶者が,相続開始の時において居住建物に係る配偶者居住権を取得したとき,又は第891条の規定に該当し若しくは廃除によってその相続権を失ったときは,この限りでない。
一 居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合 遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から6箇月を経過する日のいずれか遅い日
二 前号に掲げる場合以外の場合 第3項の申入れの日から6箇月を経過する日
②前項本文の場合においては,居住建物取得者は,第三者に対する居住建物の譲渡その他の方法により配偶者の居住建物の使用を妨げてはならない。
③居住建物取得者は,第1項第1号に掲げる場合を除くほか,いつでも配偶者短期居住権の消滅の申入れをすることができる。
①配偶者(配偶者短期居住権を有する配偶者に限る。以下この節において同じ。)は,従前の用法に従い,善良な管理者の注意をもって,居住建物の使用をしなければならない。
②配偶者は,居住建物取得者の承諾を得なければ,第三者に居住建物の使用をさせることができない。
③配偶者が前2項の規定に違反したときは,居住建物取得者は,当該配偶者に対する意思表示によって配偶者短期居住権を消滅させることができる。
配偶者が居住建物に係る配偶者居住権を取得したときは,配偶者短期居住権は,消滅する。
①配偶者は,前条に規定する場合を除き,配偶者短期居住権が消滅したときは,居住建物の返還をしなければならない。ただし,配偶者が居住建物について共有持分を有する場合は,居住建物取得者は,配偶者短期居住権が消滅したことを理由としては,居住建物の返還を求めることができない。
②第599条第1項及び第2項〔使用貸借の借主の収去権・原状回復義務〕並びに第621条〔賃借人の原状回復義務〕の規定は,前項本文の規定により配偶者が相続の開始後に附属させた物がある居住建物又は相続の開始後に生じた損傷がある居住建物の返還をする場合について準用する。
第597条第3項借主の死亡による使用貸借の終了〕,第600条〔使用貸借における損害賠償及び費用の償還の請求権についての期間の制限〕,第616条の2,第1,032条第2項賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了〕,第1,033条〔居住建物の修繕等〕及び第1,034条〔居住建物の費用の負担〕の規定は,配偶者短期居住権について準用する。
①減殺を受けるべき受贈者が贈与の目的を他人に譲り渡したときは,遺留分権利者にその価額を弁償しなければならない。ただし,譲受人が譲渡の時において遺留分権利者に損害を加えることを知っていたときは,遺留分権利者は,これに対しても減殺を請求することができる。
②前項の規定は,受贈者が贈与の目的につき権利を設定した場合について準用する。
①受贈者及び受遺者は,減殺を受けるべき限度において,贈与又は遺贈の目的の価額を遺留分権利者に弁償して返還の義務を免れることができる。
②前項の規定は,前条第1項ただし書の場合について準用する。
第887条第2項及び第3項〔子の代襲者等〕,第900条〔法定相続分〕,第901条〔代襲相続分〕,第903条並びに第904条〔特別受益者の相続分〕の規定は,遺留分について準用する。
①兄弟姉妹以外の相続人は,遺留分として,次条第1項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に,次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 遺留分の帰属及びその割合
二 前号に掲げる場合以外の場合 2分の1
②相続人が数人ある場合には,前項各号に定める割合は,これらに第900条〔法定相続分〕及び第901条〔代襲相続人の相続分〕の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。
兄弟姉妹以外の相続人は,遺留分として,次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人であるときは,被相続人の財産の3分の1
二 前号に掲げる場合以外の場合被相続人の財産の2分の1
①遺留分を算定するための財産の価額は,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。
②条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は,家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って,その価格を定める。
①遺留分は,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して,これを算定する。
②条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は,家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って,その価格を定める。
①贈与は,相続開始前の1年間にしたものに限り,前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは,1年前の日より前にしたものについても,同様とする。
②第904条〔特別受益は原状のまま維持されたものとのみなし〕の規定は,前項に規定する贈与の価額について準用する。
③相続人に対する贈与についての第1項の規定の適用については,同項中「1年」とあるのは「10年」と,「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。
贈与は,相続開始前の1年間にしたものに限り,前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは,1年前の日より前にしたものについても,同様とする。
①負担付贈与がされた場合における第1,043条第1項〔遺留分の算定の基礎となる財産の価額〕に規定する贈与した財産の価額は,その目的の価額から負担の価額を控除した額とする。
負担付贈与は,その目的の価額から負担の価額を控除したものについて,その減殺を請求することができる。
②不相当な対価をもってした有償行為は,当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り,当該対価を負担の価額とする負担付贈与とみなす。
不相当な対価をもってした有償行為は,当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り,これを贈与とみなす。この場合において,遺留分権利者がその減殺を請求するときは,その対価を償還しなければならない。
①遺留分権利者及びその承継人は,受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し,遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
遺留分権利者及びその承継人は,遺留分を保全するのに必要な限度で,遺贈及び前条に規定する贈与の減殺を請求することができる。
②遺留分侵害額は,第1,042条〔遺留分の帰属及びその割合〕の規定による遺留分から第1号及び第2号に掲げる額を控除し,これに第3号に掲げる額を加算して算定する。
一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第903条第1項に規定する贈与の価額
二 第900条から第902条〔具体的相続分〕まで,第903条〔特別受益の相続分〕及び第904条〔特別受益は原状のまま維持されたものとのみなし〕の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額
三 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち,第899条〔共同相続における共有持分〕の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第3項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額
条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利を贈与又は遺贈の目的とした場合において,その贈与又は遺贈の一部を減殺すべきときは,遺留分権利者は,第1029条第2項の規定により定めた価格に従い,直ちにその残部の価額を受贈者又は受遺者に給付しなければならない。
受贈者は,その返還すべき財産のほか,減殺の請求があった日以後の果実を返還しなければならない。
①受遺者又は受贈者は,次の各号の定めるところに従い,遺贈(特定財産承継遺言による財産の承継又は相続分の指定による遺産の取得を含む。以下この章において同じ。)又は贈与(遺留分を算定するための財産の価額に算入されるものに限る。以下この章において同じ。)の目的の価額(受遺者又は受贈者が相続人である場合にあっては,当該価額から第1,042条の規定による遺留分として当該相続人が受けるべき額を控除した額)を限度として,遺留分侵害額を負担する。
一 受遺者と受贈者とがあるときは,受遺者が先に負担する。
贈与は,遺贈を減殺した後でなければ,減殺することができない。
二 受遺者が複数あるとき,又は受贈者が複数ある場合においてその贈与が同時にされたものであるときは,受遺者又は受贈者がその目的の価額の割合に応じて負担する。ただし,遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは,その意思に従う。
遺贈は,その目的の価額の割合に応じて減殺する。ただし,遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは,その意思に従う。
三 受贈者が複数あるとき(前号に規定する場合を除く。)は,後の贈与に係る受贈者から順次前の贈与に係る受贈者が負担する。
贈与の減殺は,後の贈与から順次前の贈与に対してする。
②第904条,第1,043条第2項〔不確定な権利の価格の算定方法〕及び第1,045条〔負担付贈与がなされた場合の贈与の扱いの特則〕の規定は,前項に規定する遺贈又は贈与の目的の価額について準用する。
③前条第1項の請求を受けた受遺者又は受贈者は,遺留分権利者承継債務について弁済その他の債務を消滅させる行為をしたときは,消滅した債務の額の限度において,遺留分権利者に対する意思表示によって第1項の規定により負担する債務を消滅させることができる。この場合において,当該行為によって遺留分権利者に対して取得した求償権は,消滅した当該債務の額の限度において消滅する。
④受遺者又は受贈者の無資力によって生じた損失は,遺留分権利者の負担に帰する。
減殺を受けるべき受贈者の無資力によって生じた損失は,遺留分権利者の負担に帰する。
⑤裁判所は,受遺者又は受贈者の請求により,第1項の規定により負担する債務の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる。
遺留分侵害額の請求権は,遺留分権利者が,相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは,時効によって消滅する。相続開始の時から10年を経過したときも,同様とする。
減殺の請求権は,遺留分権利者が,相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは,時効によって消滅する。相続開始の時から10年を経過したときも,同様とする。
①相続の開始前における遺留分の放棄は,家庭裁判所の許可を受けたときに限り,その効力を生ずる。
②共同相続人の一人のした遺留分の放棄は,他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない。
①被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人,相続の放棄をした者及び第891条〔相続人の欠格事由〕の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。以下この条において「特別寄与者」という。)は,相続の開始後,相続人に対し,特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下この条において「特別寄与料」という。)の支払を請求することができる。
②前項の規定による特別寄与料の支払について,当事者間に協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,特別寄与者は,家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし,特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6箇月を経過したとき,又は相続開始の時から1年を経過したときは,この限りでない。
③前項本文の場合には,家庭裁判所は,寄与の時期,方法及び程度,相続財産の額その他一切の事情を考慮して,特別寄与料の額を定める。
④特別寄与料の額は,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
⑤相続人が数人ある場合には,各相続人は,特別寄与料の額に第900条から第902条までの規定〔法定相続分,代襲相続人の相続分,遺言による相続分の指定〕により算定した当該相続人の相続分を乗じた額を負担する。
この法律は,公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし,次の各号に掲げる規定は,当該各号に定める日から施行する。
一 附則第30条及び第31条の規定 公布の日
二 第1条中民法第968条,第970条第2項及び第982条の改正規定並びに附則第6条の規定 公布の日から起算して6月を経過した日
三 第1条中民法第998条,第1000条及び第1025条ただし書の改正規定並びに附則第7条及び第9条の規定 民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)の施行の日
四 第2条並びに附則第10条,第13条,第14条,第17条,第18条及び第23条から第26条までの規定 公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日
この法律の施行の日(以下「施行日」という。)前に開始した相続については,この附則に特別の定めがある場合を除き,なお従前の例による。
第1条の規定による改正後の民法(以下「新民法」という。)第899条の2の規定は,施行日前に開始した相続に関し遺産の分割による債権の承継がされた場合において,施行日以後にその承継の通知がされるときにも,適用する。
新民法第903条第4項の規定は,施行日前にされた遺贈又は贈与については,適用しない。
①新民法第909条の2の規定は,施行日前に開始した相続に関し,施行日以後に預貯金債権が行使されるときにも,適用する。
②施行日から附則第1条第3号に定める日の前日までの間における新民法第909条の2の規定の適用については,同条中「預貯金債権のうち」とあるのは,「預貯金債権(預金口座又は貯金口座に係る預金又は貯金に係る債権をいう。以下同じ。)のうち」とする。
附則第1条第2号に掲げる規定の施行の日前にされた自筆証書遺言については,新民法第968条第2項及び第3項の規定にかかわらず,なお従前の例による。
①附則第1条第3号に掲げる規定の施行の日(以下「第3号施行日」という。)前にされた遺贈に係る遺贈義務者の引渡義務については,新民法第998条の規定にかかわらず,なお従前の例による。
②第1条の規定による改正前の民法第1,000条の規定は,第3号施行日前にされた第三者の権利の目的である財産の遺贈については,なおその効力を有する。
①新民法第1,007条第2項及び第1,012条の規定は,施行日前に開始した相続に関し,施行日以後に遺言執行者となる者にも,適用する。
②新民法第1,014条第2項から第4項までの規定は,施行日前にされた特定の財産に関する遺言に係る遺言執行者によるその執行については,適用しない。
③施行日前にされた遺言に係る遺言執行者の復任権については,新民法第1,016条の規定にかかわらず,なお従前の例による。
第3号施行日前に撤回された遺言の効力については,新民法第1,025条ただし書の規定にかかわらず,なお従前の例による。
①第2条の規定による改正後の民法(次項において「第4号新民法」という。)第1,028条から第1,041条までの規定は,次項に定めるものを除き,附則第1条第4号に掲げる規定の施行の日(以下この条において「第4号施行日」という。)以後に開始した相続について適用し,第4号施行日前に開始した相続については,なお従前の例による。
②第4号新民法第1,028条から第1,036条までの規定は,第4号施行日前にされた遺贈については,適用しない。
この附則に規定するもののほか,この法律の施行に関し必要な経過措置は,政令で定める。
この法律は,平成34(2022)年4月1日から施行する。ただし,附則第26条〔政令への委任〕の規定は,公布の日から施行する。
①この法律による改正後の民法(以下「新法」という。)第4条〔成年〕の規定は,この法律の施行の日(以下「施行日」という。)以後に18歳に達する者について適用し,この法律の施行の際に20歳以上の者の成年に達した時については,なお従前の例による。
②この法律の施行の際に18歳以上20歳未満の者(次項に規定する者を除く。)は,施行日において成年に達するものとする。
③施行日前に婚姻をし,この法律による改正前の民法(次条第3項において「旧法」という。)第753条〔婚姻による成年擬制〕の規定により成年に達したものとみなされた者については,この法律の施行後も,なお従前の例により当該婚姻の時に成年に達したものとみなす。
①施行日前にした婚姻の取消し(女が適齢に達していないことを理由とするものに限る。)については,新法第731条〔婚姻適齢〕及び第745条〔不適齢者の婚姻の取消し〕の規定にかかわらず,なお従前の例による。
②この法律の施行の際に16歳以上18歳未満の女は,新法第731条〔婚姻適齢〕の規定にかかわらず,婚姻をすることができる。
③前項の規定による婚姻については,旧法第737条〔未成年者の婚姻についての父母の同意〕,第740条〔婚姻の届の受理〕(旧法第741条〔外国に在る日本人間の婚姻の方式〕において準用する場合を含む。)及び第753条〔婚姻による成年擬制〕の規定は,なおその効力を有する。
施行日前にした縁組の取消し(養親となる者が成年に達していないことを理由とするものに限る。)については,新法第4条〔成年〕,第792条〔養親となる者の年齢〕及び第804条〔養親が未成年者である場合の縁組の取消し〕の規定並びに附則第2条第2項の規定〔施行前に婚姻して成年擬制された者〕にかかわらず,なお従前の例による。
施行日前にした行為及び附則第13条の規定によりなお従前の例によることとされる場合における施行日以後にした行為に対する罰則の適用については,なお従前の例による。
この附則に規定するもののほか,この法律の施行に関し必要な経過措置は,政令で定める。
この法律は,公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし,次の各号に掲げる規定は,当該各号に定める日から施行する。
一 附則第37条の規定 公布の日
二 附則第33条〔定型約款に関する経過措置〕第3項〔反対の意思表示は施行日前にしなければならない〕の規定 公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日
三 附則第21条〔保証に関する経過措置〕第2項〔公正証書の作成の嘱託〕及び第3項〔公証人による公正証書の作成〕の規定 公布の日から起算して2年9月を超えない範囲内において政令で定める日
この法律による改正後の民法(以下「新法」という。)第3条の2〔意思能力〕の規定は,この法律の施行の日(以下「施行日」という。)前にされた意思表示については,適用しない。
施行日前に制限行為能力者(新法第13条第1項第10号に規定する制限行為能力者〔未成年者,成年被後見人,被保佐人及び第17条第1項の審判〔補助人の同意を要する旨の審判〕を受けた被補助人〕をいう。以下この条において同じ。)が他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為については,同項及び新法第102条〔代理人の行為能力〕の規定〔ただし,制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為については,取り消すことができる〕にかかわらず,なお従前の例〔代理人は,行為能力者であることを要しない〕による。
施行日前に生じたこの法律による改正前の民法(以下「旧法」という。)第86条第3項に規定する無記名債権(その原因である法律行為が施行日前にされたものを含む。)については,なお従前の例による。
施行日前にされた法律行為については,新法第90条の規定にかかわらず,なお従前の例による。
①施行日前にされた意思表示については,新法第93条〔心裡留保〕,第95条〔錯誤〕,第96条第2項及び第3項〔詐欺〕並びに第98条の2〔意思表示の受領能力〕の規定にかかわらず,なお従前の例による。
②施行日前に通知が発せられた意思表示については,新法第97条〔意思表示の効力の発生時期等〕の規定にかかわらず,なお従前の例による。
①施行日前に代理権の発生原因が生じた場合(代理権授与の表示がされた場合を含む。)におけるその代理については,附則第3条に規定するもののほか,なお従前の例による。
②施行日前に無権代理人が代理人として行為をした場合におけるその無権代理人の責任については,新法第117条〔無権代理人の責任〕(新法第118条〔単独行為の無権代理〕において準用する場合を含む。)の規定にかかわらず,なお従前の例による。
①施行日前に無効な行為に基づく債務の履行として給付がされた場合におけるその給付を受けた者の原状回復の義務については,新法第121条の2〔原状回復の義務〕(新法第872条第2項〔未成年被後見人と未成年後見人等との間の契約等の取消し〕において準用する場合を含む。)の規定にかかわらず,なお従前の例による。
②施行日前に取り消すことができる行為がされた場合におけるその行為の追認(法定追認を含む。)については,新法第122条〔取り消すことができる行為の追認〕,第124条〔追認の要件〕及び第125条〔法定追認〕(これらの規定を新法第872条第2項〔未成年被後見人と未成年後見人等との間の契約等の取消し〕において準用する場合を含む。)の規定にかかわらず,なお従前の例による。
新法第130条第2項〔不正に条件を成就させたときに条件が成就しないとみなされる場合〕の規定は,施行日前にされた法律行為については,適用しない。
①施行日前に債権が生じた場合(施行日以後に債権が生じた場合であって,その原因である法律行為が施行日前にされたときを含む。以下同じ。)におけるその債権の消滅時効の援用については,新法第145条〔時効の援用〕の規定にかかわらず,なお従前の例による。
②施行日前に旧法第147条〔時効の中断事由〕に規定する時効の中断の事由又は旧法第158条から第161条までに規定する時効の停止の事由が生じた場合におけるこれらの事由の効力については,なお従前の例による。
③新法第151条〔協議を行う旨の合意による時効の完成猶予〕の規定は,施行日前に権利についての協議を行う旨の合意が書面でされた場合(その合意の内容を記録した電磁的記録(新法第151条第4項に規定する電磁的記録をいう。附則第33条〔提起約款に関する経過措置〕第2項〔書面による反対の意思表示〕において同じ。)によってされた場合を含む。)におけるその合意については,適用しない。
④施行日前に債権が生じた場合におけるその債権の消滅時効の期間については,なお従前の例による。
施行日前に設定契約が締結された債権を目的とする質権の対抗要件については,新法第364条〔債権を目的とする質権の対抗要件〕の規定にかかわらず,なお従前の例による。
施行日前に生じた旧法第365条〔指図債権を目的とする質権の対抗要件〕に規定する指図債権(その原因である法律行為が施行日前にされたものを含む。)については,なお従前の例による。
①施行日前に設定契約が締結された根抵当権の被担保債権の範囲については,新法第398条の2〔根抵当権〕第3項〔継続的に生じる債権又は手形上若しくは小切手上の請求権又は電子記録債権〕及び第398条の3〔根抵当権の被担保債権の範囲〕第2項〔債務者との取引によらないで取得する手形上若しくは小切手上の請求権又は電子記録債権〕の規定にかかわらず,なお従前の例による。
②新法第398条の7〔根抵当権の被担保債権の譲渡等〕第3項〔元本の確定前の免責的債務引受け〕の規定は,施行日前に締結された債務の引受けに関する契約については,適用しない。
③施行日前に締結された更改の契約に係る根抵当権の移転については,新法第398条の7〔根抵当権の被担保債権の譲渡等〕第4項〔債権者・債務者の交替による更改〕の規定にかかわらず,なお従前の例による。
施行日前に債権が生じた場合におけるその債務者の注意義務については,新法第400条〔特定物のj引渡しの場合の注意義務〕の規定にかかわらず,なお従前の例による。
①施行日前に利息が生じた場合におけるその利息を生ずべき債権に係る法定利率については,新法第404条〔法定利率〕の規定にかかわらず,なお従前の例による。
②新法第404条第4項〔法定利率の変動の算定方法〕の規定により法定利率に初めて変動があるまでの各期における同項の規定の適用については,同項中「この項の規定により法定利率に変動があった期のうち直近のもの(以下この項において「直近変動期」という。)」とあるのは「民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)の施行後最初の期」と,「直近変動期における法定利率」とあるのは「年3パーセント」とする。
施行日前に債権が生じた場合における選択債権の不能による特定については,新法第410条〔不能による選択債務の特定〕の規定にかかわらず,なお従前の例による。
①施行日前に債務が生じた場合(施行日以後に債務が生じた場合であって,その原因である法律行為が施行日前にされたときを含む。附則第25条第1項において同じ。)におけるその債務不履行の責任等については,新法第412条第2項〔不確定期限の到来に関する「期限の到来した後に履行の請求を受けた時」の追加〕,第412条の2から第413条の2〔履行不能,受領遅滞,履行遅滞中又は受領遅滞中の履行不能と帰責事由〕まで,第415条〔債務不履行による損害賠償〕,第416条第2項〔損害賠償の範囲における予見義務〕,第418条〔過失相殺における「損害の発生若しくは拡大」の追加〕及び第422条の2〔代償請求権〕の規定にかかわらず,なお従前の例による。
②新法第417条の2〔中間利息の控除〕(新法第722条第1項〔損害賠償における中間利息の控除〕において準用する場合を含む。)の規定は,施行日前に生じた将来において取得すべき利益又は負担すべき費用についての損害賠償請求権については,適用しない。
③施行日前に債務者が遅滞の責任を負った場合における遅延損害金を生ずべき債権に係る法定利率については,新法第419条第1項〔金銭債務における損害賠償額の算定〕の規定にかかわらず,なお従前の例による。
④施行日前にされた旧法第420条第1項〔損害賠償額の予定〕に規定する損害賠償の額の予定に係る合意及び旧法第421条に規定する金銭でないものを損害の賠償に充てるべき旨の予定に係る合意については,なお従前の例による。
①施行日前に旧法第423条第1項〔債権者代位権の要件〕に規定する債務者に属する権利が生じた場合におけるその権利に係る債権者代位権については,なお従前の例による。
②新法第423条の7〔登記又は登録の請求権を保全するための債権者代位権〕の規定は,施行日前に生じた同条に規定する譲渡人が第三者に対して有する権利については,適用しない。
施行日前に旧法第424条第1項〔詐害行為取消権の行使要件〕に規定する債務者が債権者を害することを知ってした法律行為がされた場合におけるその行為に係る詐害行為取消権については,なお従前の例による。
①施行日前に生じた旧法第428条〔不可分債権〕に規定する不可分債権(その原因である法律行為が施行日前にされたものを含む。)については,なお従前の例による。
②施行日前に生じた旧法第430条に規定する不可分債務及び旧法第432条に規定する連帯債務(これらの原因である法律行為が施行日前にされたものを含む。)については,なお従前の例による。
③新法第432条から第435条の2までの規定〔連帯債務者の一人との間に生じた事由の相対的効力〕は,施行日前に生じた新法第432条に規定する債権(その原因である法律行為が施行日前にされたものを含む。)については,適用しない。
①施行日前に締結された保証契約に係る保証債務については,なお従前の例による。
②保証人になろうとする者は,施行日前においても,新法第465条の6第1項〔公正証書の作成と保証の効力〕(新法第465条の8第1項〔公正証書の作成と求償権についての保証の効力〕において準用する場合を含む。)の公正証書の作成を嘱託することができる。
③公証人は,前項の規定による公正証書の作成の嘱託があった場合には,施行日前においても,新法第465条の6第2項〔公正証書の作成の方式〕及び第465条の7〔保証に係る公正証書の方式の特則〕(これらの規定を新法第465条の8第1項〔公正証書の作成と求償権についての保証の効力〕において準用する場合を含む。)の規定の例により,その作成をすることができる。
施行日前に債権の譲渡の原因である法律行為がされた場合におけるその債権の譲渡については,新法第466条から第469条までの規定〔債権の譲渡〕にかかわらず,なお従前の例による。
新法第470条から第472条の4までの規定〔債務の引受け〕は,施行日前に締結された債務の引受けに関する契約については,適用しない。
施行日前に生じた旧法第471条〔記名式所持人払債権の債務者の調査の権利等〕に規定する記名式所持人払債権(その原因である法律行為が施行日前にされたものを含む。)については,なお従前の例による。
①施行日前に債務が生じた場合におけるその債務の弁済については,次項に規定するもののほか,なお従前の例による。
②施行日前に弁済がされた場合におけるその弁済の充当については,新法第488条から第491条までの規定〔弁済の充当〕にかかわらず,なお従前の例による。
①施行日前にされた旧法第505条第2項〔相殺禁止・制限の意思表示の対抗要件〕に規定する意思表示については,なお従前の例による。
②施行日前に債権が生じた場合におけるその債権を受働債権とする相殺については,新法第509条〔不法行為等により生じた債権を受働債権とする相殺の禁止〕の規定にかかわらず,なお従前の例による。
③施行日前の原因に基づいて債権が生じた場合におけるその債権を自働債権とする相殺(差押えを受けた債権を受働債権とするものに限る。)については,新法第511条〔差押えを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止〕の規定にかかわらず,なお従前の例による。
④施行日前に相殺の意思表示がされた場合におけるその相殺の充当については,新法第512条〔相殺の充当〕及び第512条の2〔相殺の充当の規定の準用〕の規定にかかわらず,なお従前の例による。
施行日前に旧法第513条〔更改〕に規定する更改の契約が締結された更改については,なお従前の例による。
新法第520条の2から第520条の20までの規定〔有価証券〕は,施行日前に発行された証券については,適用しない。
①施行日前に契約の申込みがされた場合におけるその申込み及びこれに対する承諾については,なお従前の例による。
②施行日前に通知が発せられた契約の申込みについては,新法第526条〔申込者の死亡等〕の規定にかかわらず,なお従前の例による。
③施行日前にされた懸賞広告については,新法第529条から第530条までの規定〔懸賞広告,指定した行為をする期間の定めのある/定めのない懸賞広告,懸賞広告の撤回の方法〕にかかわらず,なお従前の例による。
①施行日前に締結された契約に係る同時履行の抗弁及び危険負担については,なお従前の例による。
②新法第537条第2項〔将来の受益者に対する効力〕及び第538条第2項〔要約者による解除の制限〕の規定は,施行日前に締結された第三者のためにする契約については,適用しない。
新法第539条の2〔契約上の地位の移転〕の規定は,施行日前にされた契約上の地位を譲渡する旨の合意については,適用しない。
施行日前に契約が締結された場合におけるその契約の解除については,新法第541条から第543条まで〔解除の要件〕,第545条第3項〔解除の果実に対する効果〕及び第548条〔解除権者の故意による目的物の損傷等による解除権の消滅〕の規定にかかわらず,なお従前の例による。
①新法第548条の2から第548条の4までの規定〔定型約款〕は,施行日前に締結された定型取引(新法第548条の2第1項〔定型約款の合意〕に規定する定型取引をいう。)に係る契約についても,適用する。ただし,旧法の規定によって生じた効力を妨げない。
②前項の規定は,同項に規定する契約の当事者の一方(契約又は法律の規定により解除権を現に行使することができる者を除く。)により反対の意思の表示が書面でされた場合(その内容を記録した電磁的記録によってされた場合を含む。)には,適用しない。
③前項に規定する反対の意思の表示は,施行日前にしなければならない。
①施行日前に贈与,売買,消費貸借(旧法第589条に規定する消費貸借の予約を含む。),使用貸借,賃貸借,雇用,請負,委任,寄託又は組合の各契約が締結された場合におけるこれらの契約及びこれらの契約に付随する買戻しその他の特約については,なお従前の例による。
②前項の規定にかかわらず,新法第604条第2項〔賃貸借の更新の期間〕の規定は,施行日前に賃貸借契約が締結された場合において施行日以後にその契約の更新に係る合意がされるときにも適用する。
③第1項の規定にかかわらず,新法第605条の4〔不動産の賃借人による妨害の停止の請求等〕の規定は,施行日前に不動産の賃貸借契約が締結された場合において施行日以後にその不動産の占有を第三者が妨害し,又はその不動産を第三者が占有しているときにも適用する。
①旧法第724条後段〔いわゆる20年の除斥期間除斥期間〕(旧法第934条第3項〔不当な弁済をした制限承認者の責任問う〕(旧法第936条第3項〔相続人が数人ある場合の相続財産管理人の責任〕,第947条第3項〔相続債権者及び受遺者に対する弁済に関する相続人の責任〕,第950条第2項〔相続人の債権者の請求による財産分離〕及び第957条第2項〔相続債権者及び受遺者に対する弁済に関する相続財産管理人の責任〕において準用する場合を含む。)において準用する場合を含む。)に規定する期間がこの法律の施行の際既に経過していた場合におけるその期間の制限については,なお従前の例による。
②新法第724条の2〔人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効〕の規定は,不法行為による損害賠償請求権の旧法第724条前段(3年の消滅時効)に規定する時効がこの法律の施行の際既に完成していた場合については,適用しない。
施行日前に遺言執行者となった者の報酬については,新法第1018条第2項〔遺言執行者の報酬〕において準用する新法第648条第3項〔受任者の履行の割合に応じた報酬請求〕及び第648条の2〔成果等に対する報酬〕の規定にかかわらず,なお従前の例による。
この附則に規定するもののほか,この法律の施行に関し必要な経過措置は,政令で定める。
この法律は,昭和23(1948)年1月1日から,これを施行する。
明治35年法律第37号(民法中改正法律)は,これを廃止する。
この附則で,新法とは,この法律による改正後の民法をいい,旧法とは,従前の民法をいい,応急措置法とは,昭和22年法律第74号(日本国憲法の施行に伴う民法の応急措置に関する法律)をいう。
新法は,別段の規定のある場合を除いては,新法施行前に生じた事項についてもこれを適用する。但し,旧法及び応急措置法によって生じた効力を妨げない。
応急措置法施行前に妻が旧法第14条第1項の規定に違反してした行為は,これを取り消すことができない。
①妻が左に掲げたる行為を為すには,夫の許可を受くことを要す。
一 第12条第1項第1号乃至第6号に掲げたる行為〔①元本を領収し又は之を利用すること,②借財又は保証を為すこと,③不動産又は重要なる動産に関する権利の得喪を目的とする行為を為すこと,④訴訟行為を為すこと,⑤贈与・和解又は仲裁契約を為すこと,⑥相続を承認し又はこれを放棄すること〕を為すこと。
二 贈与若しくは遺贈を受諾し又は之を拒絶すること。
三 身体に覊絆を受くべき契約を為すこと。
②前項の規定に反する行為は,之を取り消すことを得。