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作成:2006年9月17日
講師:明治学院大学法科大学院教授 加賀山 茂
書記:竹内 貴康,藤本 望 編集:深川 裕佳
今回は,契約有効・無効についての最終回です。
今回の講義は,契約の流れでは,図11-1のように,契約の有効・無効の問題なのですが,その中で,表11-1のように,無効原因のうちの最後の問題である公序良俗違反の契約について検討します。
無効原因 | 効力 | 追認の可否 | 相手方・第三者に対する効力 | ||
---|---|---|---|---|---|
1. 能力・権限の欠如 | 意思能力の欠如 | 無効 | 追認できる | 第三者に対しても無効を主張できる | |
制限行為能力 | 取消 | 追認できる | 第三者に対しても無効を主張できる | ||
無権代理 | 無効 | 追認できる | 善意・無過失の相手方には,無効を主張できない(→表見代理) | ||
2. 意思の不存在 | 表意者 悪意 |
心裡留保 | 無効 | 追認できる | 善意・無過失の相手方には,無効を主張できない |
通謀虚偽表示 | 善意(・無過失)の第三者には,無効を主張できない | ||||
表意者 善意 |
錯誤 | 第三者に対しても無効を主張できる | |||
3. 瑕疵ある意思表示 | 詐欺 | 取消 | 追認できる | 善意の第三者には取消しによる無効を主張できない | |
強迫 | 第三者に対しても無効を主張できる | ||||
4. 公序良俗違反 | 無効 | 追認できない | 誰に対しても,無効を主張できる |
公の秩序・善良の風俗は,両者を合わせて,社会的妥当性の問題であると考えられています。そして,私的自治の産物である契約は,この社会的妥当性という概念によって,その効力に限界を画されることになります。
フランス民法1134条は,「適法に形成された合意(契約)は,これを設定した当事者において,法律に代わる効力を有する(Les conventions legalement formees tiennent lieu de loi a ceux qui les ont faites.)」と規定して,国民の代表によって作成される法律の効力と,私人によって作成される契約の効力の接点を見事に表現しています。わが国の民法も,表現は異なりますが,同様のことを認めています。すなわち,私的自治が認められる範囲では,私人間の契約が法律に代わる効力を認められます(民法91条)。そして,同時に,公共の福祉を実現するために(民法1条1項),法律が契約の効力を否定することが許されています(民法90条)。
ただし,公序良俗に違反しない場合であっても,信義則上,契約自由が制限を受ける場合もあると考えられます。例えば,民法420条の規定の内容を検討してみましょう。この規定は,当事者が損害賠償額の予定(違約金も損害賠償の規定と推定される)を行った場合には,裁判所といえども,その額を増減することができないという規定です。つまり,契約自由は神聖不可侵であり,裁判官といえどもこれに干渉することは許さないという,裁判官不信の考え方を明らかにした規定です。公序良俗違反になるとはいえない場合には,消費者にとって不利な違約金の定めに対しても,この規定があるために,裁判官は手も足も出せない状況にあり,悪徳商法に悪用されているのが実情でした。
この規定は,フランス革命の過程で培われた裁判官不信の考え方を反映して立法されたフランス民法1152条をわが国の民法がそのまま受け入れたものです。しかし,わが国の民法と同時代に制定されたドイツ民法においては,裁判所が予定された賠償額を適切に提言することが認められていました(ドイツ民法343条)。しかも,わが国の母法であるフランス民法1152条は,1975年と1985年に,消費者保護の観点から2項が追加され,現在では,損害賠償額の予定が「明らかに過大または過小であるときは,裁判官は,職権によってもそれを増減することができ,これに反する特約は無効とされる」(フランス民法1152条2項)に至っています。つまり,民法420条は,現在では,世界から孤立した不合理な規定であり,母法であるフランス民法と同様に,直ちに改正されるべきなのです。
この点について,消費者契約法9条が,消費者契約に関して,「消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し,又は違約金を定める条項であって,これらを合算した額が,当該条項において設定された解除の事由,時期等の区分に応じ,当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの」につき,「当該超える部分」について無効と規定したことは,もっともなことです。
確かに,公序・良俗は,社会の変化によってその内容を大きく左右されます。これまで,公の秩序と考えられてきたことが,規制緩和すなわち私的自治の拡大によって覆され,強行規定が任意規定化することもあります。これとは反対に,私的自治の範囲内と考えられていたことが,消費者政策の進展に伴って覆され,任意規定が強行規定化したりするという現象も見られます。
ここでは,公序良俗違反の類型を概観した後,消費者契約法10条によって,民法の任意法規が,半強行法規化する現象について,立ち入った検討を行うことにします。
公序良俗に違反する契約には,男女平等に反する行為(最三判昭56・3・24民集35巻2号300頁[民法判例百選T(2001)13事件]),相手方の無知・無経験・無思慮に乗じて暴利を貪る行為(暴利行為),優越的な地位を濫用して相手方に過酷な責任を課す行為(優越的な地位の濫用)(最一判昭61・11・20判時1220号61頁[民法判例百選T(2001)12事件])等さまざまな類型があります。
公序良俗違反の類型 | 具体例 | ||
---|---|---|---|
社会的妥当性 を欠く行為 |
個人の尊厳を蹂躙する行為 (私的自治の前提を破壊する行為) |
人倫に反する行為 | 人身売買契約 |
男女平等に反する行為 | 結婚退職制 男女別定年制 女子のみの再婚禁止期間の設定(民法733条) |
||
自己決定権を奪う行為 | 本人の意思に反して家族が締結した延命治療行為など | ||
経済秩序を破壊する行為 (私的自治を破壊する行為) |
自由競争を制限する行為 | カルテル契約 市場独占を形成する行為 |
|
不公正な競争行為 | 暴利行為 優越的地位の濫用 |
表11-2に掲げた,「暴利行為」,および,それを一般化した「著しい不均衡」に関しては,ドイツ民法138条がしばしば引用されるので,参照してください。
ドイツ民法 第138条〔公序良俗(Sittenwidriges Rechtsgeshaeft),暴利行為(Wucher)〕
(1)善良の風俗に反する法律行為は無効とする。
(2)特に,相手方の窮迫,軽率又は無経験に乗じ,自己又は他人のなした給付に対して財産的利益を約束又は供与させる法律行為は,その財産的利益がその当時の事情に従い,著しく均衡を欠く程度にその給付の価格を超過するときは,これを無効とする。
UNIDROIT契約法原則 Article 3.10 - 著しい不均衡(Gross Disparity)
(1) 契約締結時に契約,または,契約の個々の条項が相手方に過剰な利益を不当に与える場合には,当事者は,契約,または,契約の個々の条項を取り消すことができる。不当性の判断に際しては,とりわけ,以下の号に掲げる次項が考慮されるべきである。
(a) 当事者の従属状態,経済的困窮,もしくは,緊急の必要に,または,その当事者の無思慮,無知,無経験,もしくは,交渉技術の欠如に,相手方が不当につけ込んだという事実
(b) 契約の性質,および,目的
(2) 取消権を有する当事者の請求により,裁判所は,公正な取引という商事上の相当な規準に合致するように,その契約,または,個々の条項を改定することができる。
(3) 取消の通知を受けた当事者の要求によっても,裁判所は,契約,または,個々の条項を改定することができる。ただし,取消の通知を受けた当事者が,その通知を受け取った後,速やかに,かつ,相手方が取消を信頼して行動する前に,相手方に裁判所への改定要求を知らせた場合に限る。この場合には,第3.13条(2)項が準用される。
公の秩序,善良の風俗に反することを目的とする契約は無効です(民法90条)。例えば,賭けマージャン等の賭博行為は公序良俗に違反する契約であり,法律上は,賭け金を支払う必要はありません。もっとも,契約を無効と知りつつ,賭け金を任意に支払った場合には,非債弁済(民法705条)となり,返還請求ができなくなります。
通説は,賭け金を払った場合につき,民法708条の不法原因給付によって不当利得の返還請求を否定しようとします。しかし,民法708条の不法原因給付によって返還請求が否定されるためには,その行為が,単に公序良俗に反するだけでなく,相手方(受益者)との対比において,その行為が極度に「倫理・道徳に反する醜悪なもの」(最一判昭37・3・8民集16巻3号500頁)である場合に限定されるとするとか([山本(敬)・公序良俗違反の再構成(1995)79頁以下]参照),民法705条の要件(債務がないことを知った上での任意弁済)を満たした場合に限定されると考えるべきでしょう。この点については,次回の講義(第12回「受け皿としての不当利得」)で詳しく説明します。
公序に関する規定を強行規定(強行法)といいます。強行規定に反する契約は,公序良俗違反として,民法90条によって無効となります(大判昭19・10・24民集23巻608頁(民法判例百選I[第4版](1996年)16事件),[山本(敬)・公序良俗違反の再構成(1995)93頁])。これとは反対に,公序に関係しない法規を任意規定(任意法)といいます。民法の契約に関する規定の多くは任意規定であるとされています。任意規定と異なる合意がある場合には,その合意が有効な契約(約款)条項となり,任意規定は適用されません。また,任意規定と異なる慣習がある場合には,当事者がその慣習によることを明確に否定していない限り慣習が適用されます(民法92条)(大判大10・6・2民録27輯1038頁[民法判例百選T(2001)第16事件])。したがって,任意規定が適用されるのは,当事者意思も,慣習もない場合に限定されることになります。
公序に関する事項 (強行法規が問題となる) |
公序に関しない事項 (任意規定が問題となる) |
|||
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強行規定あり | 強行規定なし | 当事者意思あり | 当事者意思不明・意思なし | |
事実たる慣習あり | 事実たる慣習なし | |||
強行規定が適用される | 慣習法による (法例2条) |
当事者意思に従う (民法91条) |
事実たる慣習に従う (民法92条) |
任意規定が適用される |
もっとも,約款による契約の場合には,後に述べるように,強行法規に反する場合だけでなく,任意規定に著しく反する合意は,優越的地位の濫用とみなされ,公序良俗違反により無効となる可能性があります。
現代の契約問題で最も重要なものの1つに契約(約款)条項の効力の問題,特に,免責条項の効力の問題があります。後に述べるように,消費者契約法は,消費者に利益を一方的に奪うような契約条項を無効とすることを通じてこの問題を根本的に解決しています(消費者契約法第8条,第10条)。しかし,民法の解釈としても,不当な免責条項を無効とする道が閉ざされているわけではありません。例えば,消費者保護を目的としないと明言しているUNIDROIT国際商事契約法原則(1994)は,不当な免責条項の無効性を,以下のように定め,契約目的に反する免責条項を無効としています。
UNIDROIT契約法原則 Article 7.1.6 - 免責条項
不履行による当事者の一方の責任を制限、もしくは、排除する条項、または、相手方が期待するのが相当であるものとは実質的に異なる履行をすることを許す条項は、契約の目的を考慮した上で、それを主張することが著しく不公正であるときには、これを主張することができない。
上記のUNIDROIT契約法原則7.1.6条の解説においては,以下のような具体例によってその意味が明らかにされています。
旅行業者が特定の超高級ホテルへの宿泊を含む高価格のパック旅行(ぜいたく三昧パック旅行)を企画した。その契約には,「必要な場合には,旅行業者が宿泊先の変更をすることができる」という条項があった。その超高級ホテルへの宿泊ができなくなった場合に,もしも,旅行業者が顧客を二流ホテルに宿泊させたとすれば,この契約条項(免責条項)にかかわらず,旅行業者は責任を負う。顧客は,約束されたホテルと同じようなランクのホテルに宿泊することを期待しており,その期待は合理的な期待だからである(そう期待することに相当な理由があるからである)。
さて,ここで取り上げられている宿泊を含んだ旅行契約は何契約でしょうか。ドイツでは労働契約とされています。わが国の学説では,請負,委任など,さまざまな説があります。ここでは,宿泊斡旋を含んだ契約であると考えておきましょう。この例では,超高級な旅館を予約することになっていました。しかし,そのホテルが満室の場合には,他のホテルを利用できるという免責条項が問題となります。しかし,他のホテルが,一流のはずが二流ホテルになった場合は,業者の責任を問うことができるとされています。
第1の方法は,約款解釈によって解決するという解釈方法です。すなわち,「必要な場合には,旅行業者が宿泊先の変更をすることができる」ということからは,「特定の超高級ホテル」(一流ホテル)をどのようなホテルに変更できるかどうかは不明確だから,約款作成者不利原則が適用されます。それによって,「特定の調高級ホテル」を他の一流ホテルに限って変更できるという解釈と,どんなホテルでも変更できるとの解釈がある場合,約款作成者に不利な解釈,すなわち,一流ホテルに限って変更できるという解釈に落ち着くので,顧客は旅行業者の責任(債務不履行責任)を追及できます。
第2の方法は,契約目的に反する免責条項は,無効であるという法理を使った上記のUNIDROIT契約法原則の解決策です。すなわち,この事例の場合,契約目的から考えて,顧客は約束されたホテルと同じようなランクのホテルに宿泊することを期待しており,その期待は合理的である。そうであれば,旅行業者が顧客を二流ホテルに宿泊させることは,契約目的に反する。そして,契約目的に反する条項は,信義則に違反して無効であるということになります。この方法は,UNIDROIT契約法原則の起草者によると,消費者保護ではないといっていますが,この法理を消費者保護に活用することは可能だし,大いに役に立つと思います。
公序良俗違反については,2000年に制定された消費者契約法が,その8条以下,特に10条で,任意規定である民商法を考慮し,消費者保護の観点から,任意規定に反して一方的に消費者の利益を害する契約条項は無効であるとの規定をおいております。前回,消費者契約法は1条が全部を物語っているということを話ました。
消費者契約法 第1条(目的)
この法律は、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差にかんがみ、事業者の一定の行為により消費者が誤認し、又は困惑した場合について契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができることとするとともに、事業者の損害賠償の責任を免除する条項その他の消費者の利益を不当に害することとなる条項の全部又は一部を無効とすることにより、消費者の利益の擁護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
消費者契約法第1条に現れている消費者保護法の全体構造を図示すると,以下のようになります。
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→ | → |
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事業者の義務は,消費者契約法第3条1項では,努力義務となっていますが,努力する義務といっても,義務であることに変わりないから,普通の義務と考え,それをしなければ,消費者取消権を行使(4条)できるというように,消費者契約法全体との関連で,事業者の義務を体系的に再構築することが必要だと思われます。
消費者契約法 第3条(事業者及び消費者の努力)
(1) 事業者は、消費者契約の条項を定めるに当たっては、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容が消費者にとって明確かつ平易なものになるよう配慮するとともに、消費者契約の締結について勧誘をするに際しては、消費者の理解を深めるために、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供するよう努めなければならない。
次に,約款解釈の一大原則ですが,私の解釈では,上記の消費者契約法第3条によって,約款解釈の「作成者不利原則」が宣言されたのと同じ結果が出てきていると思います。もっとも,消費者法の起草段階では,約款については,消費者有利原則という規定があったのに,事業者の反対にあって削除されてしまったのですが,これは立法過程での作戦上の失敗だったと思います。消費者有利原則ではなく,作成者不利原則としておいて,自己責任の原則から説明すればよかったのです。この点をもう少し詳しく説明しましょう。
約款を作るのは,事業者です。そうであれば,立法に際しての消費者側の作戦としては,意味が曖昧な約款を作る方が悪い。事業者が曖昧な約款を作ったのだから,不利に解釈されても「自己責任」でしょうと攻めるべきでした。事業者団体も,当時は,自己責任,自己責任としていたのです。そうであれば,あなたの言っていることと同じです。約款作成者の自己責任だといえたはずです。それを,消費者に有利に解釈すべきであるという立法提案をしたために,事業者側を説得できずに提案がつぶされてしまったのです。しかし,生き残った上記の消費者契約法第3条1項に,契約条項を「平易なものになるよう配慮する」とあるので,平易でない約款の場合,作成者に不利に解釈できるという原則を導くことができます。これで,作成者不利原則,これを裏返せば,消費者有利原則が復活したといえます。このような解釈を行うことを通じて,契約約款の解釈については,約款作成者に不利になる解釈,すなわち,消費者を有利にする解釈をすればよいことになります。
消費者契約法のもう一つのポイントは,消費者に契約条項の無効主張権が創設されたことです。消費者契約法第8条以下がそれです。消費者契約法8条以下には,2つの類型があります,第1は,債務不履行,不法行為を免責する条項は許されないで,無効となります。第2は,違約金条項なども,平均を超えるものはだめで,それを超えるものは無効となります。そして,最後に消費者契約法10条が,類型を超えた一般法を提供しています。民法以外の民事法で一般法を持っているの点で,消費者契約法は,民法と似た性質を有しています。
第8条(事業者の損害賠償の責任を免除する条項の無効)
(1) 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。
一 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項
二 事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項
三 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する民法の規定による責任の全部を免除する条項
四 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する民法の規定による責任の一部を免除する条項
五 消費者契約が有償契約である場合において、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるとき(当該消費者契約が請負契約である場合には、当該消費者契約の仕事の目的物に瑕疵があるとき。次項において同じ。)に、当該瑕疵により消費者に生じた損害を賠償する事業者の責任の全部を免除する条項
(2) 前項第五号に掲げる条項については、次に掲げる場合に該当するときは、同項の規定は、適用しない。
一 当該消費者契約において、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるときに、当該事業者が瑕疵のない物をもってこれに代える責任又は当該瑕疵を修補する責任を負うこととされている場合
二 当該消費者と当該事業者の委託を受けた他の事業者との間の契約又は当該事業者と他の事業者との間の当該消費者のためにする契約で、当該消費者契約の締結に先立って又はこれと同時に締結されたものにおいて、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるときに、当該他の事業者が、当該瑕疵により当該消費者に生じた損害を賠償する責任の全部若しくは一部を負い、瑕疵のない物をもってこれに代える責任を負い、又は当該瑕疵を修補する責任を負うこととされている場合
第9条(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効)
次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
二 当該消費者契約に基づき支払うべき金銭の全部又は一部を消費者が支払期日(支払回数が2以上である場合には、それぞれの支払期日。以下この号において同じ。)までに支払わない場合における損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、支払期日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に年14.6パーセントの割合を乗じて計算した額を超えるもの 当該超える部分
第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
類型 | 条文 | 契約条項が無効とされるための要件 | 消費者の権利 | 事業者の義務 | |
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事業者の無効要件 | 事業者の免責要件 | ||||
免責型 | 8条1項1号 | 債務不履行責任の全部免責 | 契約条項の 全部又は一部の 無効を主張する 権利 |
民法・商法の任意規定に比較して, 消費者の利益を一方的に害する 契約条項を 消費者に押し付けない義務 |
|
8条1項2号 | 債務不履行責任の一部免責 | 事業者に故意・重過失がない場合 | |||
8条1項3号 | 不法行為責任の全部免責 | ||||
8条1項4号 | 不法行為責任の一部免責 | 事業者に故意・重過失がない場合 | |||
8条1項5号 | 瑕疵担保責任の全部免責 | 代品取替え又は瑕疵修補責任を負う場合 他の事業者が瑕疵担保責任を負う場合 |
|||
違約金型 | 9条1号 | 解除に伴う損害賠償額(解約金)の定めが平均的な損害額を超えるもの | |||
9条2号 | 遅延損害金の定めが年14.6パーセンを超えるもの | ||||
包括型 | 10条 | 任意規定に比較して消費者の利益を一方的に害する規定 |
一般法である消費者契約法第10条は,深い意味を持った条文なので,これから,詳しく紹介します。
消費者契約法10条は何を規定しているかというと,今までだと,契約自由という大原則があって,民法の契約に関する規定は,ほとんど任意規定(補充規定)であるとされてきました。そのため,事業者が作成した任意規定とは異なる,消費者にとって不利な契約条項の有効性が,ほとんど抵抗もなく,認められてきました。この点,物権法定主義から,強行法規が多い物権の規定とは違います。
しかし,消費者契約法の第10条の出現によって,消費者契約に関しては,この原則が大幅に変更されました。なぜなら,契約(約款)条項が有効か無効かを判断する場合には,まず,民法の任意規定を適用してみることが必要です。次に契約条項を適用してみることも必要です。そして,それぞれの結果を比較検討しなければなりません。そして,契約条項を適用した結果が消費者の権利を一方的に害するものである場合は,信義則に反することになり,消費者契約法10条によって,その契約条項が無効となります。もっとも,ここで規定されている信義則は,説得のための一種の飾りです。消費者の利益を一方的に害することは,当然に信義則に反するからです。
任意規定と契約(約款)との関係に関する図11-3(前出)を見てください。
公序に関する事項 (強行規定が問題となる) |
公序に関しない事項 (任意規定が問題となる) |
|||
---|---|---|---|---|
強行規定あり | 強行規定なし | 当事者意思あり | 当事者意思不明・意思なし | |
事実たる慣習あり | 事実たる慣習なし | |||
強行規定が適用される | 慣習法による (法例2条) |
当事者意思に従う (民法91条) |
事実たる慣習に従う (民法92条) |
任意規定が適用される |
公序に関する事項について,強行規定がある場合には,それに反する契約(約款)は,民法90条によって,無効となります。しかし,強行規定がなければ,法令2条にある慣習法によって判断され,契約(約款)が慣習法に反する場合には,民法90条によって無効となります。いずれにせよ,民法90条を参照して,無効かどうかを判断できます。しかし,公序に関しない事項の場合はどうなるのでしょうか。これまでは,当事者の意思があれば,それに従うとされてきました。これが,民法91条の意味です。
第91条(任意規定と異なる意思表示)
法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは,その意思に従う。
契約に規定がなく,当事者の意思もない場合には,事実たる慣習があった場合,当事者がそれに従う意思があれば,それに従というのが,民法92条の意味です。
第92条(任意規定と異なる慣習)
法令中の公の秩序に関しない規定と異なる慣習がある場合において,法律行為の当事者がその慣習による意思を有しているものと認められるときは,その慣習に従う。
民法92条の条文だけ見ると,事実たる慣習があった場合であって,かつ,当事者がそれに従う意思があれば,それに従うということになりそうです。しかし,そのような当事者の意思(慣習に従うという意思)が不明の場合はどうすべきでしょうか。その点については,大審院の判例があり,その場合は,証明責任を転換して,当事者が,慣習には従わないと意思が明示されていなければ,事実たる慣習に従うとの意思があるものと推定するのが相当であるとされています(大判大10・6・2民録27輯1038頁[民法判例百選T〔第5版〕第16事件〕(「塩釜レール入れ」事件))。
以上の知識を前提として,質疑を通じて,消費者契約法と民法との関係を明らかにしていきましょう。
公序に関しない場合に,当事者の意思があれば,その当事者の意思に従うということで民法の任意規定には従わないことができます。しかし,契約に規定がなく,当事者の意思がない場合はどうなるのでしょうか。
講師:公序に関しない場合に,当事者の意思があれば,その当事者の意思に従うということで民法の任意規定には従わないことができます(民法91条)。そして,当事者の意思がなくても,事実たる慣習があれば,それが優先されて,民法の任意規定は適用されません(民法92条)。さて,当事者意思もなく,それを補完する事実たる慣習もないとしましょう。そういう場合はどうなりますか。
学生A:任意規定が適用されます。
講師:その通りです。でも,そのように考えると,契約法に関する民法の規定は,ほとんどが任意規定とされていますので,契約法に関する民法の規定というのは,当事者が別の意思を持っている場合には適用されないし,民法の任意規定と同じことを契約に書いた場合でも,論理的には,任意規定よりも契約条項が先に優先されます。さらに,当事者の意思が不明な場合でも,事実たる慣習がある場合には任意規定よりもその慣習が優先することになりますね。
講師:これでは,民法を勉強しても寂しいじゃないですか。せっかくたくさん勉強しても,民法が使えない。一所懸命やっても無駄だったかということになります。しかし,消費者契約法の成立で話が変わりました。どのように変わったか理解できましたか。
学生B:約款を適用した結果と任意規定を適用した結果とを比較して,約款を適用した結果が,任意規定を適用した結果よりも,消費者の利益を一方的に害する場合には,その約款が無効となります。
講師:その通りです。民商法を一旦適用してみて,約款より保護が厚ければ,約款が無効となる。事実たる慣習があったとしても,約款と同じ内容であることが多い。そして,約款が無効となれば,事実たる慣習も無効となります。これは,画期的なことです。民法の解釈とは全く逆の結果です。契約条項があるのに,民商法が適用されるということになります。結果的には,任意規定が強行規定のように優先的に適用されることになります。これは,任意規定の強行法規化にほかなりません。
いずれにしても,消費者契約法10条が適用するためには,民法を知らなければはじまりません。ということで,消費者契約に関連する問題を扱おうとすれば,民法・商法を知っていていることが不可欠となります。しかも,まず,民法を適用してみて,約款の方が,民法の任意規定よりも,消費者の権利を害する場合には,契約条項自体が無効となってしまいます。これは,革命的ですよね。
それでは,従来有効と思われてきた消費者契約条項が,消費者契約法の制定で,無効になる可能性のある身近な例をあげてみましょう。例えば,クリーニングでは,標準約款というのがあって,クリーニング事故が起こった場合には,その賠償基準(標準約款)で,クリーニングに関するトラブルの解決がなされています(クリーニング事故賠償基準)。
第7条(基準賠償額支払義務の免責)
1 客が洗たく物を受け取るに際して,洗たく物に事故がないことを確認し異議なくこれを受け取ったことを証する書面をクリーニング業者に交付したときは,クリーニング業者は本基準による賠償額の支払いを免れる。
2 客が洗たく物を受け取った後6ヵ月を経過したときは,クリーニング業者は本基準による賠償額の支払いを免れる。
3 クリーニング業者が洗たく物を受け取った日から1年を経過したときは,クリーニング業者は本基準による賠償額の支払いを免れる。ただし,この場合には,次の日数を加算する。
(1)その洗たく物のクリーニングのために必要な期間をこえて仕事が完成した場合には,その超過した日数。
(2)特約による保管サービスを行った場合には,その保管日数。
(3)その洗たく物のクリーニングのために必要な期間をこえて仕事が完成したのち,継続して特約による保管サービスを行った場合には,超過日数と保管日数を合算した日数。
ところで,民法の請負に関する規定では,引渡しを受けてから,1年で時効にかかるとあります。ところが,クリーニングに関する標準約款では,消滅時効は,半分の6ヶ月となっています。
第637条(請負人の担保責任の存続期間)
@前3条〔請負人の担保責任〕の規定による瑕疵の修補又は損害賠償の請求及び契約の解除は,仕事の目的物を引き渡した時から1年以内にしなければならない。
A仕事の目的物の引渡しを要しない場合には,前項の期間は,仕事が終了した時から起算する。
具体的な事例では,洗濯してもらって,次の季節に気付いて出してみたら洗濯物がすごいことになっていたということがありますよね。民法だと,1年以内なので,通常予想できる損害を請求できるのですが,約款だ,すでに6ヶ月を経過しているので,損害賠償を請求できないことになります。これでは,消費者が一般的に害されますね。これまでのところ,訴訟にはなっていないのですが,私は,そのうち,訴訟が起きて,そのときは,クリーニングの賠償基準の消滅時効の条項は,無効と宣言されるであろうと予想しています。このように,昔なら,約款があるから仕方がないということだったのですが,消費者契約法が出来たことで,話が変わってきました。
表11-3に戻ってみてください。民法の従来の考え方は,表11-3のような構造でした。消費者契約法により,一番劣後されるはずの任意規定が優先的に適用されることになります。
次に,契約の無効・取消しの効果の話題に移ります。契約の無効・取消しの効果,ですが,損害賠償の範囲は,履行利益ではなく,信頼利益に限定されるというのが一般的な考え方です。両者の違いは,履行利益は契約が有効で履行された状態を基準にして算出する(転売利益をも含む)ものであって,信頼利益というのは,契約成立時点を基準に算定するものであるということになります。
人物関係図 (図2) |
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年 | 月 | 日 | 事実 | 争点 | ||||
原告 | 被告 | 裁判所 | ||||||
1950 | 昭和25 | 12 | 23 | Xらの先代X0(第一審原告で訴訟係属中に死亡しXらがその訴訟承継人となっている)から金4万円を期限を定めずに借り受ける。 | 酌婦稼働契約と結びついた金銭消費貸借契約は有効か? | |||
その弁済についてはY1の娘A(15歳)がX0方に住み込んだ上でX0が妻X1の名義で経営していた料理屋業に関して,酌婦として稼働し,そこでAが得るべき報酬金の半額をこれに当てることを約した。 | 酌婦稼働契約の主体は誰か? 酌婦稼働契約は有効か? |
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Y2(Y1の妻Bの弟)は,この債務について,連帯保証を行った。 | ||||||||
1951 | 昭和26 | Aは,そのX0方で約旨に基き酌婦として稼働したに拘らず,Aの得た報酬金はすべて他の費用の弁済に充当せられ,Y1の受領した金員についての弁済には全然充てられるにいたらなかつた。 | ||||||
05 | Aは,X0方で酌婦として稼働していたが,無断でX方を脱出逃走して,一時行方不明となった。 | |||||||
X0は,自己の費用で捜索して,Aが松山の某料亭で女中をしていることを知り,Aを連れ帰り,Yに引渡した。 | ||||||||
11 | 07 | Xは,Yらに対して,貸金4万円の支払を督促。 | ||||||
11 | 08 | 貸金4万円と遅延損害金の支払を求めて本訴を提起。 | ||||||
第一審判決:Xの請求棄却 | 酌婦稼働契約は有効か? | |||||||
1953 | 昭和28 | 04 | 30 | 第二審判決:原判決取消し,Xの請求認容 弁済方法に関する酌婦稼働契約のみが公序良俗に反し無効たるに止まり,本件消費貸借自体の成否,消長等に影響を及ぼすものでないと解すべく,従って本件消費貸借そのものまでも無効ならしめるものでない。 |
酌婦稼働契約が無効であるのに,金銭消費貸借の効力が連動して無効とならないのはなぜ? | |||
1955 | 昭和30 | 10 | 07 | 上告審判決:控訴取消し,Xの請求棄却 酌婦としての稼働契約が公序良俗に反し無効である場合には,これに伴い消費貸借名義で交付された金員の返還請求は許されない。 |
金銭消費貸借も無効だとすると,借主に不当利得が生じないか? |
本件における裁判所の見解は,いずれも,酌婦稼働契約と消費貸借契約とを別々の契約とみている。しかし,貸金とは名ばかりで,実は,労務提供契約という一つの契約があるだけで,貸金は,報酬の前払い金であり,親がそれを違法に受け取っただけではないのかという疑問が提起されている。本件にはどのような契約がいくつが発生しており,それぞれの契約について,誰が契約当事者なのか答えなさい。
判例は,酌婦稼働契約と消費貸借契約とを別々の契約とみて,2つの契約についてその関係を問題としている。まず,X0とY1との間で,金銭消費貸借契約が締結され(なお,Y2は,X0との間で,この貸金債務を担保するため,連帯保証契約を締結している),ついで,この貸金の弁済方法として,AがX0との間で酌婦稼働契約を締結し,その報酬の半額を貸金債務の弁済に当てるというものである。
控訴審は,金銭消費貸借と酌婦稼働契約との関係は,互いに独立とし,酌婦稼働契約の無効は,金銭消費貸借の効力に影響を及ぼさないとした。これに反して,最高裁は,金銭消費貸借と酌婦稼働契約との関係を密接不可分なものと考え,酌婦稼働契約の無効は,消費貸借契約にも影響を及ぼし,消費貸借契約も無効となると判示している。
しかし,この考え方に対しては,貸金とは名ばかりで,実は,労務提供契約という一つの契約があるだけではないのだろうか。つまり,判例は消費貸借として,X0からY1に交付された金員は貸金であるとしているが,これは,X0からAに対する酌婦稼働契約に基づく報酬の前払い金であり,親Yがそれを違法に受け取っただけではないのではないかとの指摘がなされている[河上・民法学入門(2004)64頁]。
図3 酌婦稼働契約のみが存在するという考え方 |
この考え方は,実態に即しているように思われる。しかし,この考え方を推し進めてみると,やはり,実態とは,遠く隔たっていることがわかる。というのは,この考えによれば,X0とY1との間の金銭消費貸借契約は,実体がなく,不成立と考えることになる。そうすると,X0とY2との間の連帯保証契約も不成立となる。そして,Aは,X0に対して,別途,有効な酌婦稼働契約に基づいて報酬の支払を要求できることになる。そこまでは,AやYらの保護に資するように思われる。ところが,存在する唯一の契約である酌婦稼働契約に関して,大きな問題が生じる。酌婦稼働契約の報酬の支払または前払いは,労働基準法の制約により,X0から直接Aに対してなされるべきであるから,X0からY1に交付された金員は,錯誤による無効な弁済ということになる。しかし,無効な弁済ということになれば,労働基準法に違反していることを知っていたと思われる悪意のY1に対して,X0は,民法704条に基づき,金員の全額の返還および遅延損害金の請求を行えることになってしまい,問題の解決には程遠いものになってしまう。
そこで,当事者の利害関係の実態に即して,当事者の意思を突き詰めて考えてみることにしよう。
以上の分析に基づき,労働基準法違反に違反し,正当化されない部分を除いて,両者の意思を考慮して,両者の間で合意に達している部分に基づいて,両者の法律関係を再構築してみると,以下のようになると思われる。
図4 酌婦稼働契約をめぐる新しい法律構成 |
酌婦稼働契約は,従来から言われている芸娼妓契約に類するものであると理解されている。この契約は,有効か。公序良俗に反する契約として無効となるのであれば,その理由を明らかにしなさい。
酌婦稼働契約が有効か無効かを判断する前に,教科書等でよく論じられている,営業許可を得ていない「白タク」(白ナンバーのタクシー)の営業者との間の運送契約の効力について考察しておくことにしよう。
営業許可を得ていない白タクに乗り込んだ乗客が,目的地に着いたとたんに,「契約は無効だったのだからタクシー料金は支払わない」と主張することは許されない(河上正二『民法学入門』日本評論社(2004)68頁)。
この結論に異論はないとしても,それでは,この運送契約は,有効と割り切ってよいのであろうか。以下のような見解が主張されている。それぞれの見解について検討すると,それぞれについて,すべて難点があることがわかる。
第三者丙の芸妓稼を目的とする甲・乙間の契約が,甲が乙に対し丙を強制して芸妓稼業をさせ,それから生ずる利益を丙の意思に関係なく乙の所得とする趣旨であれば無効であるが,丙が乙と芸妓稼を契約しそれを履行することを甲と乙との契約の内容としたのであれば,有効である(大判大7・10・12民録24輯1954頁)。
契約が既履行の場合には有効だが,双方とも未履行の場合には無効となるという理論を活用することができるか。白タクによる運送契約の場合の理論を以下のようにパロディ化して利用することが可能であろうか。
営業許可を得ていない白タク(→娼婦)に乗り込んだ乗客が,目的地に着いたとたんに,「契約は無効だったのだからタクシー料金(→花代)は支払わない」と主張することは許されない。
XからYに交付された金銭がある。契約が有効ならば,全額を返還する必要はないが,契約が無効であれば,不当利得に基づく全額返還義務が生じないか。
酌婦稼働に対して報酬を前払いし,行方不明になった相手方Aを捜索・発見し,親元に帰したXは,不法というよりも,良心的あり,信義に従った行為をしているのではないか。むしろ,娘を実質的に売り飛ばし,しかも,その報酬の前金を着服するような親の方に,不法の原因があるのではないか?
契約は有効だが,その債務は「自然債務」であって,任意に弁済した場合には,不当利得にはならないが,履行を請求したり,履行を強制したりはできないとは考えられないか?
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