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契約法講義

2006年9月25日〜2007年1月26日

明治学院大学法科大学院教授 加賀山 茂


2006年度講義計画


契約法の全体像を,(1)契約の成立から履行に至るまでの時間軸に基づく「契約の流れ」という観点と,(2)契約の目的・性質に焦点を当てた「契約の種類」という2つの観点から考察する。

No. 年月日 講義テーマ 講義の概要 類書に見られない特色
1 序章 第1回 法律家の思考パターン 法教育のあり方,法律家の思考パターン,契約法で何を学ぶのかについて説明する。 法律家の思考パターンをIRAC(Issue,Rule,Argument,Conclusion)と動態的なピラミッド図で解明している。
2 第2回 契約法の学び方とその評価(試験) 契約法の学び方とそれに対して現実的な評価が下される試験(定期試験,司法試験)との関係について説明する。 知識をマジカル・ナンバー(7±2)の範囲で構造化して長期記憶に蓄積することが学び方の極意であるとして,試験に通用する民法の勉強法を明らかにしている。
3 第3回 契約法の構造(契約の流れと契約の類型) 契約法の全体像を契約の流れと契約の類型とを用いて明らかにする。それとともに,契約法の構造を一般法と特別法との関係を通じて構造的に理解することを試みる。 契約法の全体像を,(1)時間軸に基づく「契約の流れ」という観点と,(2)契約の目的に焦点を当てた「契約の種類」という2つの観点から明らかにしている。
4 第1章 契約の成立 第4回 契約成立のの力学 契約の成立に関して,「キャスティング・ボートを握るのは誰か」という観点から,申込みと承諾とを異質なものとして,すなわち,契約締結権限の授与行為(申込み)と授与された権限の肯定的な行使(承諾)として考察する。 申込みの誘引,予約,手付,申込み,承諾の関係を「契約締結権限を持つのは誰か」という観点から有機的に解明している。
5 第5回 契約成立のプロセス 申込みに対する承諾が遅延した場合(民法522条)や,申込みの取消し(撤回)が遅延した場合(527条)において,信義則の法理から生じる「情報提供義務」に基づく「通知」の有無によって,契約の成否が逆転する現象について考察する。 契約の成立のプロセスを,6つの例題に基づいて説明し,信義則から生じる情報提供義務が決定的な意味を持つことを明らかにしている。
6 第6回 契約成立における信義則の役割と立法案の作成 申込みと承諾との間の厳格な一致を要求するルール(民法528条:鏡像原則)に対して,一定の場合には,信義則に基づく「異議申立義務(沈黙は承諾とみなす)」に基づいて,変更を加えた承諾が,「申込みの拒絶・新たな申込み」としてではなく,契約の完全な「承諾」としての効力を有する場合があることを考察する。 契約成立における民法改正試案の作成を通じて,知識を確実にする上で創造性を鍛えることが重要であることを示すとともに,変更を加えた承諾においても,信義則が重要な役割を果たしていることを明らかにしている。
7 第2章 契約の無効 第7回 契約の無効・取り消しの原因 契約の不成立と契約の無効との異同,および,契約の有効要件と無効原因を概観する。なお,契約の無効が第三者に対抗できなくなる場合に関連して,善意・無過失の意味,権利外観法理の効用について考察する。 契約不成立と契約無効との異同を明らかにするとともに,善意と悪意との連続的な理解が契約の無効原因の連続的な理解につながることを明らかにしている。また,契約の無効を第三者に主張できるかどうかについて,従来は狭い適用範囲しか認められていなかった権利外観法理を統一的な基準として採用することによって,無効の対抗問題を整合的に説明できることを明らかにしている。
8 第8回 制限能力,無権代理 制限能力者による契約とその取消,および,表見代理・無権代理について考察する。 制限能力者の法律行為と無権代理・表見代理の問題を法定代理と任意代理との異同と接近という観点から統一的に説明することを試みている。
9 第9回 意思の不存在(心裡留保,虚偽表示,錯誤) 意思の不存在の3類型,すなわち,心裡留保,通謀虚偽表示,錯誤に基づく無効について考察する。 善意・悪意を過失概念を通じて連続的に捉えるという方法を推し進め,錯誤と心裡留保との連続性を明らかにし,権利外観法理の適用の有用性を明らかにしている。
10 第10回 瑕疵ある意思表示(詐欺,強迫) 瑕疵ある意思表示,すなわち,詐欺・強迫に基づく取消による無効について考察するとともに,消費者契約法によって創設された消費者の契約取消権について概観する。 善意・悪意を過失概念を通じて連続的に捉えるという方法を推し進め,錯誤と詐欺との連続性を明らかにし,権利外観法理の有用性を明らかにするとともに,消費者契約法によって新たに設けられた消費者取消権の制度を詐欺・強迫との連続性を保ちつつ紹介している。
11 第11回 公序良俗違反 公序良俗に基づく無効について考察するとともに,消費者契約法によって創設された消費者の契約無効主張権について概観する。また,契約の無効の効果(原状回復,損害賠償)についても考察する。 権利外観法理の唯一の例外としての公序良俗違反の法律行為について,自然債務との関係を含めて説明するとともに,消費者契約法によって新たに設けられた消費者無効主張権の制度が,民法の任意規定に対して,強行規定化という革命的な意味を与えていることを明らかにしている。
12 第3章 契約の不成立・無効と不当利得 第12回 受け皿としての不当利得 不当利得の3類型(契約になり損ねた不当利得(給付不当利得),不法行為になりそこねた不当利得(侵害不当利得),事務管理になり損ねた不当利得(支出不当利得))とそれらを包含する一般不当利得について解説する。 契約,事務管理,不当利得,不法行為は債務の発生原因とされている。この債務の発生原因になり損ねた場合の受け皿が不当利得であるとの観点から,不当利得の要件と効果を明らかにしている。
12の2 中間試験1 中間試験1 契約の成立と有効・無効に関する試験問題
12の3 中間試験1の講評 採点結果と講評 中間試験問題の解答例とその解説
13 第4章 契約の効力の発生・消滅 第13回 契約の効力の発生・消滅を制御する条件・期限 契約の効力の発生・消滅にかかわる契約の条件,期限と期間の計算についての解説する。 法律要件と法律効果との関係は,A→B(AならばB)と表現できるため,すべての要件と効果との関係は,条件と効果との関係ともいえる。それでは,通常の契約とは異なる条件付契約とは何を意味するのであろうか。この講義では,不法行為をしたら損害賠償責任を負うという契約が問題となった事例(アデランス事件)を取り上げ,条件付契約の意味を説明している。
14 第5章 契約の履行 第1節 本来の契約の履行 第14回 契約履行の主体・相手方 契約の履行の主体(債務者側)と相手方(債権者側) 契約の履行の主体と相手方について,保証人は当事者ではなく,債務のない責任を負う第三者に過ぎないことを明らかにするとともに,履行の相手方についても,権利外観法理を貫徹させるべきことを明らかにしている。
15 第15回 契約に基づく債務の目的と種類 債務の内容と債務の類型 契約に基づく債務の目的について,目的の意味を債務を負うというoughtの目的語(to do)として位置づけるとわかりやすいことを民法の旧条文の誤りと現代語化の後の正しい条文とを比較することを通じて検討している。また,契約に基づく債務の種類について,契約目的に応じた分類,執行の難易に基づく分類,帰責事由の立証責任の難易から分類する方法を紹介し,特に,債務の内容の確定にとって,結果債務と手段債務との区別が,当事者の意思の探求とともに,もっとも重要な問題となることを明らかにしている。
16 第16回 履行の時期,順序,場所,費用 履行の時期,順序,場所,費用 契約の履行の時期について,先履行と同時履行との区別の基準を明らかにするとともに,その理由をある契約の締結前後の人間行動の変化を分析することによって説明している。また,履行の場所について,民法の債権者主義が時代の変化に対応し切れていないことを指摘し,民法の改正が必要なこと,その場合に考慮すべき点を指摘して,民法改正私案を示している。
17 第17回 履行の提供,弁済充当,弁済による代位 弁済充当,弁済の提供,弁済による代位 弁済によって債務は消滅するのが原則であるが,債務が完全に消滅する一歩手前で,債務に一定の変化が生じさせる場合がある。弁済充当,弁済提供,弁済による代位がこれに該当する。本書では,弁済充当の順序についてわかりにくい構造になっている民法の規定を解説するに際し,世界的な動向に目配りしながら,わかりやすい構造に基づいて解説を行っている。同様にして,弁済提供,弁済による代位についても,構造を重視した説明を行っている。
18 第2節 契約の履行以外の債務の免責 第18回 債権の満足による免責(供託,代物弁済,更改,相殺,混同) 供託,代物弁済,更改,相殺,混同 弁済以外に債権者を満足させて契約上の債務を消滅させるものとして,供託,代物弁済,更改,相殺,混同を説明する。履行に代えて手形・小切手を振り出す場合に関しては,代物弁済と考えるか,更改と考えるかについて,古典的な議論があるが,この講義では,新しい視点からその議論をフォローしている。また,相殺の担保的機能についても,詳しい検討を加えている。
19 第19回 債権の満足によらない免責(免除・放棄,消滅時効) 免除(債権の放棄),消滅時効 債務の目的を達成しないにもかかわらず債務者を免責するものとして,免除と消滅時効を取り上げて説明している。消滅時効については,その存在理由についてはさまざまな説が主張されているが,本書では,時効の遡及効を説明するのに有用な権利不存在の法定証拠という観点から一元的に説明することを試みている。
20 第6章 契約不履行とその救済 第1節 概説 第20回 契約不履行の基本的な考え方 契約不履行意義と類型,履行不能のドグマからの解放,契約不履行の類型と救済論 契約(債務)不履行の意味を債務者が「契約上の債務の本旨に従った履行をしないとき」として,一元的に捉える立場から,契約不履行に関する従来の3分類(履行遅滞,履行不能,不完全履行)が破綻した分類であって,それにとらわれると債務不履行の全体を理解することの障害となることを指摘している。そして,履行不能を特別視することから生じているドグマ(危険負担の債権者主義,瑕疵担保責任の法定責任説等)が契約不履行を単純・明快に理解することを阻害していることを指摘し,契約不履行の救済手段としての強制履行,解除,損害賠償の基本的な考え方を明らかにしている。
21 第2節  解除 第21回 契約解除の要件の分析と再構成 解除の要件 従来の考え方によると,解除の要件として,債務者に帰責事由があることが要求されてきた。特に,履行不能の場合には,債務者に帰責事由がない場合には,解除はできず,危険負担の問題となるとされてきた。ただし,不完全履行の特則である売主の担保責任の場合には,例外的に債務者の帰責事由を必要としない,さらに,催告が必要な場合と不要な場合があるというように,解除の要件は非常に複雑であった。本書では,世界的な動向を踏まえた上で,民法の解除の要件を再構成し,「債務不履行によって契約目的が達成できない場合」という唯一の要件でよいことを論証し,それによって,生じる継続的な契約関係の解除の要件との親和性,危険負担の問題点の克服について説明している。
22 第22回 契約解除の統一的要件と解除の効果 瑕疵担保責任の法的性質と解除の効果 解除の要件が明らかになったのを受けて,瑕疵担保責任を契約責任として構成した場合に生じる疑問点について議論し,問題がないことを明らかにしている。次に,解除の効果についての学説・判例を紹介するとともに,いわゆる解除の遡及効について,契約上の債務がはじめからなかったことになるのではなく,契約の履行プロセスとは逆向きの清算関係が進行すると考えるべきであり(巻き戻し理論),相殺の遡及効との関係など,具体例を通じて解除に遡及効を認める必要がないことを論じている。
23 第3節 損害賠償 第23回 契約不履行に基づく損害賠償 損害賠償の要件と効果 契約不履行の救済手段として,強制履行または解除と並行して行使しうる損害賠償請求権について,その特色を浮き彫りにしている。また,損害の種類に応じた損害額の算定方法について解説を行うとともに,特に,逸失利益の算定方法について批判的な検討を行っている。さらに,損害賠償額の予定に関する民法420条の不合理性を明らかにし,その改正の必要性を論じている。
24 第24回 損害賠償の範囲と相当因果関係 因果関係と損害賠償の範囲 損害賠償の範囲を画するものとして重要な役割を果たす因果関係について,事実的因果関係の有用性と限界とを明らかにするとともに,事実的因果関係を絞り込むための相当因果関係の考え方が確率の考え方を導入していること,したがって,最終的には因果関係は,量的な思考を行う必要があることを論じている。
25 第7章 契約履行の担保 第1節 債権の拡張効 第25回 債権者代位権(間接訴権)と直接訴権 債権者代位権の要件と効果 債権者代位権の要件と効果を債権の強制執行および債権者代位権から発展した直接訴権との対比を通じて明らかにしている。
26 第26回 債権者代位権の転用 債権者代位権の転用,直接請求権(損害保険契約,賃貸・転貸借契約における直接訴権) 債権者代位権の転用とされている事例の多くは,直接訴権の要件を満たしており,直接訴権として構成することによって,問題解決の新たな視点が得られることを説明している。また,不当利得の領域に属するとみられてきた転用物訴権について,債権者代位権の転用の例として位置づけると,判例の見解を統一的に説明できることを明らかにしている。
27 第2節 逸失財産への追及効 第27回 債権者(詐害行為)取消権 債権者取消権と契約当事者の第三者への追及効 詐害行為取消権の法的性質を,責任説を進展させ,詐害行為が債権者にとって対抗不能となるという考え方に基づいて説明している。詐害行為取消権は,債権者に対して,債務者の責任財産から逸失したかに見える財産に対する強制執行を付与するものであり,債権に追及効を認め,対抗力を認めたのと等しい結果を生じさせている。詐害行為取消権が,責任財産の保全を目的とするという意味は,債権に例外的に認められた追及力に象徴的に現れているといえよう。
28 第3節 人的担保 第28回 連帯債務と相互保証理論 連帯債務の相互保証理論による解明 連帯債務を債務者が相互に連帯保証しあった関係にあるという「相互保証理論」の立場から説明している。本来は,連帯債務は債務と保証(責任)との結合なので,保証の意味を理解していないと理解が困難である。しかし,保証自体が難しい問題であるので,この講義では,民法の条文の順序にしたがって,連帯債務をわかりやすく解説した後に,保証について解説するという方法を採用している。
29 第29回 保証契約の構造 保証契約・物上保証契約の法的性質 民法は,保証を保証債務として規定しているが,保証人は,債務者とは別の債務を負担しているわけではなく,債務者の有している債務について,債務者が履行しない場合にその債務を肩代わりするという責任だけを有している。つまり,債務は債務者だけが負っており,保証人は債務者の債務について責任だけを負っている。だからこそ,保証人が債務者に債務を弁済した場合には保証人は債務者に求償できるのである。保証人が債務を負っているのであれば,求償をできるはずはない。このことが,保証の法的性質を考える出発点となる。債権者保護の理論しか存在しない現状にたいする問題提起として,今回は,保証人の保護の立場から,保証債務という債務は幻想に過ぎず,債務は債務者が負っている債務のみであるという理論を詳しく紹介する。
30 第30回 保証人の免責と片面的強行規定性 保証人の免責の必然性,免責規定の潜脱と公序良俗違反,保証人の免責規定の片面的強行法規性 保証契約は,債務者の不履行による危険を有料の保険によって分散するのではなく,無償の保証契約によって保証人だけにリスクを課すという不条理な契約であり,本来ならば,公序良俗に違反して無効となる契約である。民法が,それを有効としているのは,保証人の債務者に対する事前・事後の求償権のほか,債権者の懈怠による保証人の免責等,あらゆる角度から保証人を免責する規定(保証人の免責システム)を用意しているからである。債権者保護の理論しか存在しない現状にたいする問題提起として,今回は,これらの保証人の免責システムのひとつでも欠く事態が生じた場合には,保証契約は無効となるという理論を詳しく紹介する。
31 第8章契約当事者の交代 第1節 債権者の交代 第31回 債権譲渡の対抗要件 債権譲渡(贈与・売買)契約における譲渡性,集合債権の譲渡担保 債権譲渡は,債権の内容を変更することなく債権者が交代することである。債権は目に見えないため,従来は,債権を手形証券等の紙媒体を使って可視化し,それを譲渡することによって債権譲渡を確実にする方法が考案されてきた。ところが,情報化の進展により,債権を情報として電子的に処理する方が,紙媒体によるよりも,迅速かつ確実に債権を譲渡できるようになってきた。そのような時代に対応するためには,債権譲渡そのものやその対抗要件をどのように解釈すべきかについて新たな視点を提供しようとする。
32 第32回 債権譲渡と登記 債権譲渡(贈与・売買)契約の対抗要件 通知・承諾
33 第2節 債務者の交代 第33回 債務引受,契約上の地位の譲渡 債務引受けと更改,契約上の地位の承継 債務引受けは,民法では,債務者の交代(民法515条)として規定されているが,いずれにせよ,債権者と新債務者との間でなされるとされている。しかし,これでは,旧債務者と新債務者との間で合意された後に債権者が承諾するという通常の債務引受けのメカニズムを解明することができない。そこで,本稿では,債務引受けを旧債務者と新債務者との間で行われる第三者のためにする契約として構成する考え方の重要性を強調している。そして,その構成によると,賃貸借に関する契約の地位の譲渡についても,それが,なぜ,賃借人の承諾なしに実現可能なのかを整合的に説明できることを明らかにしている。
33の2 契約法総論のまとめ 契約法総論のまとめと展望 契約法総論のまとめ
34の3 第2回中間試験 中間試験2の問題と講評
34の4 第2回中間試験の講評 中間試験2の解答例の解説と講評
34 第9章 典型契約と非典型契約 第34回 典型契約論,第三者のためにする契約 典型契約論,第三者のためにする契約 契約自由が妥当する限りで,契約当事者は,どのような契約を締結することも許されている。それにもかかわらず,民法に規定されている13の契約類型は,非典型を理解するうえでも,また,新しい非典型契約を創造する際にも,重要な役割を果たしている。また,複雑な契約を創設するに際しては,三面関係を創設する機能を要する第三者のためにする契約の基本的な枠組みを理解しておくことが重要である。この講義では,典型契約の組み合わせ等による非典型契約の創設機能,第三者のためにする契約の三面関係創設機能について説明する。
35 第10章 財産権の移転に関する契約 第1節 贈与 第35回 贈与と無償契約総論 贈与と無償契約総論 無償契約の典型例としての贈与契約は,取引社会ではあまり重要性を有しないというのが従来の見解であった。しかし,この講義では,贈与は,「愛と恐怖」という人間の根源的な意識を象徴するものであり,高度な取引社会においてもその重要性を失っていないことを論じる。また,売買が有償契約の総則としての地位を与えられているのと同様に,贈与は,無償契約の総則としての位置づけが与えられるべきであることを論じる。
36 第2節 売買 第36回 売買と有償契約 売買と有償契約総論(1) 売買は,取引社会を支える最も基本的な契約である。売買の規定が重要であるのは,単に,売買契約そのものが重要であるばかりでなく,民法559条によって,売買契約の規定が,すべての有償契約に準用されるという意味で,有償契約総則の位置づけを有しているからである。この講義では,売買のさまざまな規定を有償契約総則として理解し,応用力をつけることを試みる。
37 第37回 売主の責任(1)追奪担保責任 売買と有償契約総論(2)売主の追奪担保責任 売買の効力に関する規定のうち,最も重要な規定は,売主の担保責任に関する規定である。売主の担保責任は,売買が目的物の財産権を移転する契約であることから,第1に,財産権を移転できない場合,又は,財産権の移転が不完全であるために第三者(真の権利者)によって目的物を取り戻されてしまう場合のように,売主の明らかな契約不履行責任として現れるもの(追奪担保責任)と,第2に,目的物が不完全で,売主の支払った代価との均衡が保たれていない場合のように,形式的には,財産権の移転が行われているが,契約目的物に瑕疵があるために,実質的には,売主に契約不履行責任があると考えられるもの(瑕疵担保責任)とに分かれる。ここでは,第1の問題(追奪担保責任)について検討する。
38 第38回 売主の責任(2)瑕疵担保責任 売買と有償契約総論(3)売主の瑕疵担保責任 売買目的物に瑕疵がある場合の責任については,それが,契約不履行責任なのか,契約責任とは異質の特別の責任(法定責任)であるのかについては,特別の従来から争いがあったが,法定責任説の牙城とされてきたドイツ民法が2002年に改正され,瑕疵担保責任は,売主の契約不履行責任であるとの明文の規定が置かれたため(ドイツ民法433条),その論争に終止符が打たれたといってよい。ここでは,売主の瑕疵担保責任を売主の契約不履行責任として捉えるとともに,その周辺問題について検討を行う。
39 第39回 買主の義務と抗弁権 売買と有償契約総論(4) 売買契約においては,売主が財産権を移転する義務を負うのに対して,買主は,明文の規定によって代金を支払う義務を負うほか,学説・判例を通じて,目的物を受領する義務を負っている。双方の義務は,民法533条で規定されているように同時履行の関係にあり,お互いに同時履行の抗弁権を有している。それだけでなく,買主については,売主から目的物の引渡しを受けた場合であっても,追奪の危険がある場合には,買主には,代金の支払を拒絶する抗弁権が与えられている(民法576〜578条)。ここでは,買主に特有のこの抗弁権について,いわゆる不安の抗弁権と対比しながら考察する。
40 第3節 買戻し,交換 第40回 買戻し,交換 買戻し,再売買の予約,譲渡担保,交換 売買契約の後に行われる逆サイドからの売買契約としての買戻しは,売買を担保へと発展させる機能を有することになる。この点については,通謀虚偽表示の箇所ですでに詳しく論じたので,ここでは,買戻しの基本的な性質について説明している。その次に,財産権を有償で移転する契約のうち,売買とは異なる契約類型としての交換について,その性質と現代的意義について概観する。
41 第4節 消費貸借 第41回 消費貸借と利息制限 消費貸借契約と要物契約,消費貸借利息に関する法規制(利息制限法,貸金業法,出資法) 消費貸借契約は,金銭債権(貸金債権)を生じさせる典型的な契約であるが,契約の類型としては,例外的な側面を有している。第1に,消費貸借契約は,近代法の原則である契約自由の原則に反して,諾成契約ではなく,要物契約とされている。第2に,金銭消費貸借については,利息制限法や出資法(出資の受入れ,預り金及び金利の取締まりに関する法律)による制限がなされている。今回の講義では,消費貸借契約の特色である要物性とその緩和,利息制限の基本的な考え方について,理解を深めることにする。
42 第42回 売買と消費貸借との結合としての信用販売 売買と(準)消費貸借との結合としての信用販売−割賦販売,ローン提携販売,割賦購入あっせん等 割賦販売に代表される販売信用は,従来は,特殊の売買(目的物の引渡しと代金の支払とが同時履行の関係になく,引渡しが先履行とされる売買)であると考えられてきた。しかし,売買は双務契約の基本形であり,同時履行の関係を覆すことなく,販売信用を位置づけることの方が,取引の実態(信用販売)にも適している。そこで,この講義では,信用販売を,通常の売買契約と準消費貸借(売買代金の後払いを消費貸借とみなす考え方)との結合として捉えるという観点に立って,最近の販売信用の契約形態を統一的に説明することを試みる。
43 第11章 物の利用に関する契約 第1節 使用貸借,賃貸借 第43回 使用貸借,賃貸借 使用貸借契約と賃貸借契約 「使用」貸借というネーミングが悪いためか,使用貸借は目的物を使用するだけで収益は許されない契約であり,これに対して,賃貸借は,目的物を「使用したり収益したりすることができる」契約だと勘違いしている人がいるようである。しかし,使用貸借と賃貸借とは,借主が物をタダで借りられるか,それとも,お金を払って借りるかの違いがあるだけで,借主の権利としては,どちらも,物を使用したり収益したりすることができるという共通点がある(民法594条)。賃貸借において使用貸借の条文が準用されているのは,このためである(民法616条)。もっとも,使用貸借と賃貸借とでは,効力の点で違いがある場合がある。その違いを無償契約と有償契約との相違として明らかにする。
44 第44回 借地,借家 借地契約,借家契約 民法の特別法である借地借家法においては,契約の法定更新,更新拒絶には正当事由が必要であること,賃借権の第三者に対する対抗要件の緩和,建物買取請求権・造作買取請求権の付与,転借人の保護,借地条件の変更の許可手続き等が規定されている。このような規定に反する賃借人に不利な特約は無効とするという片面的強行規定となっているのが原則である。しかし,これらの規定の中には,強行規定ではなく,特約が有効となるものもあるため,それらの区別を確認しておくことにする。
45 第2節 継続的契約関係と信頼関係 第45回 信頼関係破壊の法理 継続的契約関係の特色と信頼関係破壊の法理 賃貸借契約の終了について説明するとともに,継続的な契約関係に特有の契約解除の要件としての信頼関係の破壊の法理について説明を行う。そして,契約解除の統一要件として説明してきた「契約目的を達成することができない場合」という要件と,信頼関係破壊の法理の連続性についても理解を深めることにする。
46 第12章 労務の利用に関する契約 第1節 労務提供型契約 第46回 雇傭,請負 雇用,請負契約 労務の提供契約のうち,相手方の指導・監督に服しながら,時間を単位として労務(労働)を提供する雇用契約と,相手方が示したプランにしたがって,仕事を完成させることを目的として労務を提供する請負契約を取り上げ,両者を比較しながら,労務提携契約の基本的な考え方を理解する。
47 第47回 委任(準委任,準契約(事務管理)) 委任,準委任,準契約(事務管理) 労務提供契約のうち,素人がプロフェッショナルに法律事務の処理を依頼する委任契約を取り上げ,素人の保護と専門家責任の基本的な考え方を理解する。そのことを通じて,委任契約においては,契約の拘束力の例外として,当事者が理由なしに契約を解除できるのはなぜなのかという問題についての考察を深めることにする。
48 第2節 預託型契約 第48回 寄託(消費寄託),信託 寄託,消費寄託,信託 特定物を預ける寄託からはじめて,受託者が預かった代替物(金銭)を消費することを許す消費寄託を取り上げ,消費寄託の場合には,消費貸借との差は紙一重であり,寄託者は,受託者に対して,金銭を預けているのであるが,実質は,寄託者が受託者に金銭を融通しているのとほとんど同じであり,したがって消費寄託には,消費貸借の規定が準用されていること(民法666条1項)の意味について学習するとともに,消費寄託と消費貸借との差(民法666条2項)について考察することを通じて,消費貸借,消費寄託,信託の連続性について理解を深める。
49 第3節 事業型契約 第49回 組合,終身定期金 組合と社団,終身定期金と射倖契約 組合が法人ではないにもかかわらず,個人とは区別された別財産を構成できる理由は,組合財産の帰属の特別な仕組みに求められる。組合財産は,組合員の共有に属するのであるが(民法668条),組合財産における共有は,物権法で規定されている通常の共有(民法249条〜264条)とは異なり,その分割が禁止され(民法676条1項),かつ,持分処分の自由までもが制限されている(民法676条2項,民法677条)。このような特別の共有は,学説上,合有と呼ばれており,そのような財産帰属の仕組みを通じて,組合は,単なる契約から法人への接近を果たしていることを学ぶ。
50 第13章 紛争を解決するための契約 第50回 和解 和解と交渉術 裁判による解決は,「白黒」をつけて解決することになるので,敗訴した当事者には,どうしても不満が残る。これに反して,当事者の合意によって解決する和解の場合には,お互いに妥協は重ねなければならないとしても,両者ともに納得して合意に到達するので,双方とも勝者の気分になって,不満も残らない。つまり,和解は,戦争のような「勝ち・負け」による解決ではなく,両者ともに満足のいく平和的な解決,いわゆる「勝ち・勝ち」の解決("Win-Win" Resolution)をもたらすことができる。この考え方は,交渉術の方法論にもつながるものであり,世の中には,勝ち負けをつけずに,双方ともに納得する平和的な解決方法もあることを学ぶことにする。
51 終章 第51回 契約法の課題と展望 契約法に関する世界の動向と日本の契約法の課題 これまでの講義でたびたび引用してきたように,わが国の現行民法はボワソナードが起草した旧民法を通じて,ヨーロッパの契約法につながっていることを明らかにした。さらに,これまでの講義でしばしば引用してきた国連国際動産売買条約(CISG)や,CISGの成功に触発されて成立したUNIDROIT国際商事契約法原則やヨーロッパ契約法原則は,近い将来に行われるわが国の民法・債権法の改正に決定的な影響を及ぼすことが予想される。契約法の講義を終わるに際して,近未来を予想しつつ,契約法の展望を行うことにする。
51の2 演習問題(1)
51の3 演習問題(2)
51の4 演習問題(3)
51の5 定期試験 試験問題
新司法試験短答式問題の検討
試験問題の解答例

上記の講義計画は,以下のような契約法の体系に相応している。

  1. 契約法総論…契約の流れ(成立,有効・無効,効力の発生・停止,履行,不履行とその救済)にしたがって契約法を概観する。
  2. 契約法各論…民法に規定された13の典型契約を中心にして,さまざまな視点,特に,契約の目的(財産権の移転等)と性質(諾成・要物性,総務・片務性,有償・無償性,結果債務・手段債務)から分析・整理する。

契約総論の説明においては,具体的な契約類型である契約各論の事例を前提に講義を行う。また,契約各論の説明においては,契約の流れが重視される。したがって,講義の進行に併せて,契約総論と契約各論の両者を同時に参照し,相互の密接な関係を見失わないように注意すること。


使用教材・参考文献


民法判例百選U(別冊ジュリスト)有斐閣

有斐閣叢書・民法(1),民法(2),民法(3),民法(4),民法(5),民法(6),民法(7)

現代語化 民法(2006年)(横書きでの引用形式に変換・編集)


成績評価の方法


ソクラティック・メソッドによる質問に対する回答の内容,電子掲示板の書き込みの内容についての平常点,学期末の試験の点数を総合的に判断して評価する。


民法全体の理解を深めるための推薦図書



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