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作成:2006年9月19日
講師:明治学院大学法科大学院教授 加賀山 茂
書記:竹内 貴康,藤本 望 編集:深川 裕佳
これまでの講義で,契約の成立・不成立,契約の有効・無効,契約の効力発生・消滅,そして,契約の履行までの範囲が終了した。そこで,今回から契約の不履行とその救済について説明する。契約の不履行の問題は,広い領域をカバーしているが,その中でも,契約の目的に従った履行がないときであって,かつ,帰責事由がある場合(狭義の契約不履行)が契約の不履行の中心的な問題となる。
しかし,契約の目的に従った履行がないときは,たとえ債務者に帰責事由がない場合であっても,債権者に救済を与える必要がある。この講義では,このような場合についても,それを契約不履行の問題として位置づけ,債権者に,適切な契約不履行の救済が与えられるべきであることを明らかにしている。
図20-1 契約の流れにおける契約不履行の位置 |
民法415条(債務不履行による損害賠償)に代表されるように,民法では,「契約不履行」ではなく,「債務不履行」という用語が使われている。しかし,債務不履行といっても,広く債務全体の不履行を示すわけではない。例えば,不法行為上の債務の不履行(例えば「不法行為上の注意義務」の違反)は,理論的には債務の不履行といえるはずであるが,それを債務不履行とは決して言わない。不法行為上の債務の不履行の場合には(民法709条),必ず,不法行為に基づく損害賠償債務(責任)と言う。不法行為の場合に限らず,事務管理においても,不当利得においても,債務不履行という用語が使われることはない。このようにして,民法の用語法である「債務不履行」とは何かを消去法で突き詰めていくと,結局のところ,契約上の債務の不履行,すなわち,「契約不履行」のことにほかならないということになる。そこで,本書では,債務不履行のことをすべて「契約不履行」と表現する。これは,従来の用語法では,「債務不履行」と呼ばれたものに相当する。
契約上の債務の不履行(契約不履行)は,債務の履行がなされていな場合すべてを示す場合(広義)と,それが,「債務者の責めに帰すべき事由」に基づく場合のみを示す場合(狭義)とがある。
本書では,世界的な契約法の動向をも考慮して,契約不履行を広義の意味で用いている。すなわち,本書では,契約(債務)不履行とは,「債務者の責めに帰すべきでない場合」をも含めて,「債務者が債務の本旨に従った履行をしない」(民法415条)場合のことをいう。
契約(債務)不履行の救済手段に関する結論を先取りして示すと以下のようになる。契約(債務)不履行の救済について,完全を期するのであれば,契約(債務)不履行を広く捉える必要があることが理解できるであろう。
契約不履行 | 狭義の契約不履行 (債務者に帰責事由がある場合 =損害賠償の統一要件) |
狭義の契約不履行に該当しない場合 (債務者に帰責事由がない場合 すなわち,債務者に免責事由がある場合) |
|
広義の契約不履行 (本旨に従った履行がないこと) |
契約の目的を達成できない場合 (=解除の統一要件) |
解除もできるし,損害賠償も請求できる | 解除はできるが,損害賠償は請求できない (ただし,通説・判例は,解除も損害賠償もできないとしている) |
契約の目的を達成できる場合 | 解除はできず,損害賠償のみを請求できる | 解除もできないし,損害賠償も請求できない |
なお,契約不履行の場合の救済の問題については,これから少しずつ詳しく論じていくので,現在の時点ですべてを理解する必要はない。特に,債務者に帰責事由がない場合でも,契約不履行によって契約目的が達成できない場合には,契約解除ができるという点については,わが国の通説・判例がそのように解釈してこなかったので,理解が困難かもしれない。しかし,実は,民法の条文上(例えば,民法542条,民法570条で準用される民法566条等)も,帰責事由は必要ないとされており,解釈論としても,解除には,契約目的を達することができないという要件だけが要求され,帰責事由は必要がないと考える方が合理的なので,その点も明らかにしていく。
債務者に帰責事由がある場合のみを契約不履行とする従来の学説の考え方は,後に詳しく検討するように,大きな問題を抱えている。その問題点をあらかじめ理解しておくことは,契約不履行の理解を深める上で有用であるので,問題の概要だけを簡単に説明しておく。
従来の学説は,債務者が契約上の債務の本旨に従った履行をしないときであっても,債務者に帰責事由がない場合には,それを契約不履行とは考えず,契約不履行としての救済を与える代わりに,@原始的不能の場合には,契約が無効となるとしたり(ドイツ民法旧304条参照),A後発的不能の場合は契約不履行ではなく,危険負担の問題であるとして,目的物が滅失・損傷して契約目的を達成することができない場合であっても,契約代金を支払うべきであるとしたり(民法534条),B契約目的物に瑕疵がある場合には,原始的一部不能の問題であるという理由で瑕疵担保責任(民法570条)を法定責任として位置づけ,契約不履行とは異なる独自の解決を図ろうとしてきた。
このような努力は,民法の条文の解釈として成り立ちうるものかもしれないが,以下のような問題を抱えていた。
これらの従来の理論は,履行不能を特別に扱い,債務者に帰責事由がない場合には,契約不履行ではないとして,契約不履行の場合に与えられる,契約解除権を不当に制限するものであった。この広義では,そのような不当な制限から債権者を解放するための新しい解釈論を展開することにする。
契約(債務)不履行とは,債務者が,契約上の債務の本旨に従った履行をしないこと(本旨弁済がないこと)である。このことは,民法415条によって明らかにされている。ところが,通説においては,契約不履行を@履行遅滞,A履行不能,B不完全履行の3つに分類して解説してきた。確かに,3つの類型に該当する典型的な事例がないわけではないので,この分類自体に有用性がないわけではない。
一元説 | 3分説(通説) | 参照条文 | ||
---|---|---|---|---|
損害賠償 (債権総論) |
解除 (契約総論) |
|||
契約不履行 | 債務者が,契約上の債務の本旨に従った履行をしないこと (本旨弁済がないこと) |
履行遅滞 | 民法412条,民法415条前段 | 民法541-542条 |
履行不能 | 民法415条後段 | 民法543条 | ||
不完全履行 | 民法415条前段 | 民法561-572条等 |
しかし,この分類は,以下で詳しく分析するように,無駄な重複があるばかりでなく,いずれにも分類できない場合を生じるという完全に破綻した分類に他ならない。その理由は,3つの分類の基準が全く統一されておらず,履行の時期を基準とするもの(履行遅滞),不履行の原因を基準とするもの(履行不能),履行の内容を基準とするもの(不完全履行)というように,バラバラであり,およそ,学問上の分類とはいえないしろものだからである。したがって,これを学問的に厳密な分類であると勘違いすると,弊害の方が大きくなるので注意が必要である。
確かに,契約不履行の3分説は,法律家にとって常識となっており,これを知らずに済ませるわけには行かないので,詳しく検討することにする。しかし,これを金科玉条のように扱うことは,履行遅滞に基づく契約解除の適用領域を狭め,救済の道を閉ざすことにつながるので避けるべきである。その理由の詳細は,以下に示す通りである。
契約法に関する世界的な傾向を知る上で重要となるUNIDROIT契約法原則も,契約不履行については,以下のように,わが国と同じく,一元説を採っている。時間的な観点からは,履行遅滞の中に含まれざるをえない「履行不能」が例示されていない,すなわち,履行不能は契約不履行の例としても挙げられていない点が印象的である。
UNIDROIT契約法原則 Article 7.1.1 不履行の定義
不履行とは,不完全履行,および,履行遅滞を含め,契約上の債務のいずれかが当事者によって履行されないことをいう。
日本の契約不履行法の特色は,契約不履行について,民法415条という包括的な規定を有しているということにある。民法415条は,契約不履行を「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき」と規定しており,この中に,履行遅滞,不完全履行,履行拒絶,履行不能等,あらゆる契約不履行の類型概念を包含することが可能となっている。統一的な分類基準を欠く,契約(債務)不履行の3分説に惑わされて,不毛な議論を重ねる必要は全くない。わが国の民法415条に規定されている文言を尊重して,契約不履行とは,「債務者が,債務の本旨に従った履行をしないこと」であると,一元説で理解しておき,個々の事例を分析するに際しては,その事例で必要とされる解決策に応じて,契約不履行の3分類をうまく活用するのが賢明であるということになろう。
図20-1で示したように,契約不履行に対する救済手段は,強制履行,契約解除,損害賠償の3つであり,それぞれは,以下のように体系化されている。
救済手段 | |||
強制履行 | 解除 | 損害賠償 | |
履行強制が不能・適切である場合を除く | 契約目的が達成できない場合に限る | 債務者に帰責事由がある場合 (債務者に免責事由がある場合を除く) |
|
債権者が契約の履行を望む場合 | ○ | × | ○ |
契約の履行を望まない場合 | × | ○ | ○ |
救済手段のうち,第1に,強制履行と解除とは,互いに背反的である。債権者が履行を望む場合には,強制履行という救済手段が与えられる。反対に,債権者が履行を断念する場合には,解除という救済手段が与えられる。第2に,損害賠償は,強制履行を選択する場合にも,また,解除を選択する場合にも,債務者に契約不履行があれば,少なくとも遅滞があれば,いずれの場合であっても,救済手段として債権者に与えられる。
もっとも,それぞれの救済手段が与えられる要件はそれぞれ異なっており,強制履行と解除の場合には,債務者の帰責事由は不要であるのに対して,損害賠償の場合には,原則として,債務者に帰責事由がある場合に限られる。なぜなら,強制履行は債務の本旨に従った履行を望むものであり,また,解除は,契約の拘束からの解放を望むものであって,損害賠償請求のように,債務者を非難するものではないからである。
このように考えると,契約不履行に関する救済の体系は,単純明快であり,何の不都合も生じないように思われる。ところが,わが国の民法の解釈学は,2つの点で迷走状態を続けており,学生が契約不履行の体系をマスターすることを阻んでいる。いずれも,履行不能に関する問題である。
第1の障害は,わが国の民法は,履行不能の場合について,契約目的が達成できない場合であるので,当然に,解除が認められるはずであるにもかかわらず,債務者に帰責事由がない場合には,解除を認めず(民法543条),民法534条〜536条の危険負担の規定を適用すべきであるとしている。後に述べるように,危険負担の規定は,悪法と呼ぶにふさわしい不出来な条文のオンパレードとなっており,これを是正するには,高度なテクニックを要するとはいえ,後に述べるように,これらの規定をすべて解除の規定として解釈することによって,その弊害を矯正することが可能である。
第2の障害は,原始的履行不能に関する改正前のドイツ民法の影響を受けたわが国の解釈学によって,原始的不能の場合は,契約不履行ではなく,契約が無効となり(原始的不能のドグマ),原始的一部不能の場合(特定物に瑕疵がある場合)には,契約不履行ではなく,法定責任である瑕疵担保責任の問題となる(特定物のドグマ)という考え方が通説となっている問題である。
この問題は,このような考え方の根源であるドイツ民法の考え方が2002年のドイツ民法の改正によってすべての根拠を失ったにもかかわらず,わが国の教科書にそのまま残されており,契約不履行の救済を単純かつ統一的に理解することを妨げるばかりでなく,具体的な紛争解決においても,硬直的な判断を助長する原因となっている。
そこで,本書では,このような障害を取り除くために,このような障害が,取り除かれている国際的な動向を一瞥し,それとの対比で,このような障害を取り除くことが必要であることを論じ,契約不履行の救済に関する素直な理解を促進するという方法を採用することにする。
わが国の契約不履行法の理解を困難にしているのは,広義の契約不履行と狭義の契約不履行(債務者に帰責事由がある場合の契約不履行)を区別して,後者のみを「契約不履行」とする点にある。これは,履行不能のドグマ(特定物のドグマもこれに起因する)の絶大な影響力によるところが大きい。この講義では,まず,この履行不能のドグマを生んだドイツ民法の条文(原始的不能は契約を無効にする(旧306条。この規定は削除され,新311条aによって,契約は有効とされ,債務不履行の問題とされるにいたった),特定物については瑕疵のない目的物を給付する義務はない(旧433条。この規定は,新433条によって売主には,瑕疵のない目的物を給付する義務があると規定されるに至った))が廃棄・変更された現状を素直に受け入れ,契約不履行法を最近の国際的動向を踏まえて,契約の流れに沿って再構成することが重要であると考えるところから出発する。
問題となる履行不能のドグマとは,以下のように,債務者に帰責事由のない場合について,(1)原始的全部不能の場合は契約が無効となる,(2)原始的一部不能の場合には,契約不履行は生じない代わりに,法定責任としての瑕疵担保責任が生じる,(3)後発的全部不能の場合には,目的物の滅失として危険負担の問題となる,(4)後発的一部不能の場合には,目的物の毀損(損傷)として,危険負担の問題と考えるというものである。いずれの場合にも,帰責事由がない場合の「履行不能」に,契約不履行とは異なる特別の意味を与える点にこの考え方の特色がある。
ドイツ民法 (2002年改正前) |
ドイツ民法 (債務法)改正後 |
ドイツ債務法改正の考え方 | ||
---|---|---|---|---|
原始的不能 | 全部不能 | 契約の無効 | 履行不能 | ・原始的不能と後発的不能の区別を廃止 ・原始的不能でも契約は有効 ・従来の危険負担の制度も一部廃止 ・これらは,義務違反(担保責任を含む)と その救済(履行請求,解除,損害賠償), すなわち,一元化された「給付障害法」の 問題として取り扱われる。 |
一部不能 | 法定担保責任 | 不完全履行(担保責任) | ||
後発的不能 | 全部不能 | 危険負担(滅失) | 履行不能 | |
一部不能 | 危険負担(毀損) | 不完全履行(担保責任) |
これに対して,履行不能の新しい考え方とは,履行不能に特別の意味を与えず,それは単に契約不履行の一つに過ぎないと考えるものである。したがって,債務者に帰責事由がある場合には損害賠償責任が生じる。また,履行不能は,債務者に帰責事由の有無にかかわらず,「契約目的が達成されない」という意味で契約解除の一原因であるとする。このようにして,この考え方は,履行不能を特別扱いせず,契約不履行のすべての場合を,統一的に処理しようとする考え方である。
わが国の学説は,ドイツ民法旧第306条が「不能の給付を目的とする契約は無効とする」と規定していることから生じたドイツの学説(履行不能のドグマ)に翻弄され,わが国の民法に対して,無理な解釈を行ってきた。これが原因となって,契約不履行とその救済のあり方について,統一的に理解することを困難としてきた。
日本民法の条文に立ち返ると,民法は,原始的不能について一般的な規定を置いていない。むしろ,一部不能については,契約の不履行(売主の担保責任)の中に規定を置いている(民法565条)。ところが,通説は以下のように述べて,原始的不能は,契約不履行の問題ではなく,契約の無効の問題であると主張してきた[我妻・債権各論(上)80−81頁]。
民法は,売買その他の有償契約の目的が原始的に一部不能な場合にも,全部について債務が成立するものとして,売主その他の担保責任を定めている(民法565条,559条参照)。しかし,これは,とにもかくにも可能な部分がある場合であり,しかも,実際上,不能な部分は僅少に限られるのが普通だから,これを拡張して,全部不能の場合を同様に律することは正当ではあるまい。
第565条(数量の不足又は物の一部滅失の場合における売主の担保責任)
前2条の規定は,数量を指示して売買をした物に不足がある場合又は物の一部が契約の時に既に滅失していた場合において,買主がその不足又は滅失を知らなかったときについて準用する。
しかし,原始的不能と後発的不能を区別する理由は乏しく,いずれも契約不履行として履行の段階で処理する方が柔軟な解決が可能である。特に,契約目的の一部の原始的不能の場合,契約を無効として画一的な処理をするよりも,契約を有効とした上で,契約不履行(担保責任)の問題とした方が,代金減額,契約解除,損害賠償請求等,無効の場合に比べてはるかに柔軟な救済を行なうことができるからである。しかも,契約不履行を問題にする場合に,本来ならば,契約履行時に履行があるかどうかをチェックするだけで十分なものを,まず,契約の成立の時点で不能をチェックし(不能であれば契約を無効とする),再度,契約履行の時点で不能をチェックする(不能であれば,さらに,危険負担か解除かを判断する)という二度手間をかける妥当性は存在しない。
そのような理由で,国連国際動産売買条約(CISG)は,原始的不能の問題を無効の問題ではなく,契約不履行の問題として扱うことを決定した(第68条第3文参照)。この決定の意味は大きく,CISGの考え方を受け継いだユニドロワ原則(3.3条)も,ヨーロッパ契約法原則(4.102条)も,以下のように,原始的不能の問題を無効ではなく,不履行の問題としている。
UNIDROIT原則Article 3.3 - 原始的不能
(1) 契約締結時に,債務の履行が不能であるという事実だけでは,契約の有効性を妨げることはできない。
(2) 契約締結時に,当事者の一方が契約に関する財産の処分権限を有しないという事実だけでは,契約の有効性を妨げることはできない。
ヨーロッパ契約法原則4:102条:原始的不能
契約締結時に引き受けられた債務の履行が不能であるという理由だけでは契約は無効とはならない。また,当事者の一方が,契約に関する財産の処分権限を有しないという理由だけでも契約は無効とはならない。
ドイツにおいても,原始的不能は契約を無効とするというドイツ民法旧306条は,2002年の「ドイツ債務法現代化法」によって廃止され,以下のように,原始的不能は契約を無効としないことが明文で規定された[半田・ドイツ債務法現代化法(2003)161頁以下]。
ドイツ民法 新第311条a (契約の締結における給付障害)
(1) 債務者が275条1項-3項〔不能等による給付義務の廃除〕に従って給付をする必要がなく,かつ,給付障害が既に契約締結に際して存在することは,契約の有効性と抵触しない。
(2) 債権者は,その選択に従って,給付に代わる損害賠償または284条〔無駄になった費用の賠償〕に規定された範囲においてその出費の賠償を請求しうる。ただし,債務者が,契約締結に際して,給付障害を知らず,かつ,その不知について責めを負わないときはこの限りでない。281条〔給付に代わる損害賠償〕1項2,3文および5項が,この場合に準用される。
このようにして,最近の国際的な傾向としては,わが国の民法が採用してきた原則と同じく,原始的不能の問題は,無効の問題ではなく,不履行の問題として処理するようになってきたといってよい。しかし,わが国においては,最近の教科書においても,依然として,両当事者無責の場合,原始的不能の「契約は無効」であるとされている[内田・債権各論(1997)73頁]。
しかし,債務者に帰責事由がない場合に,原始的不能によって契約が無効となるという考え方は,不能に特別な効力を認めるものであり,原始的一部無効としての瑕疵担保責任の場合にも,それを契約責任ではなく,法定責任という特別の責任として取り扱ったり,後発的不能の場合に,危険負担の債権者主義を採用するによって,契約解除を認めないという危険な考え方につながるものであり,徹底的な批判が必要であると考える。
【練習問題1】 以下のように似たような事実のそれぞれに関して,以下の質問に答えなさい。従来の理論はどのような解決策を用意してきたのであろうか。
事例1 | 事例2 | ||
---|---|---|---|
年月日 | 事実 | 年月日 | 事実 |
11月12日 | 11月12日 | 落雷で,目的家屋が消失した。 | |
11月13日 | 売主(X) と買主(Y) は,家屋の売買契約を締結した。 売買契約の内容は以下のとおりであった。 建物の引渡は,11月16日 売買価格は,3,000万円 |
11月13日 | 売主(X) と買主(Y) は,家屋の売買契約を締結した。 売買契約の内容は以下のとおりであった。 建物の引渡は,11月16日 売買価格は,3,000万円 |
11月14日 | 落雷で,目的家屋が消失した。 | 11月14日 | |
11月15日 | 売主Xは,落雷で家屋が消失したことに気づいた。 | 11月15日 | 売主Xは,落雷で家屋が消失したのに気づいた。 |
問1 この契約は有効か,無効か?
問2 買主(Y)は,代金の支払いを免れるか?
買主(Y)は,解除をなしうるか?それとも,危険負担の法理に従って,買主(Y)は,代金の支払いを拒絶しうるか?
問3 買主(Y)は,転売利益の賠償を請求できるか?
従来の考え方によると,以下に示すように,事例1の場合と事例2の場合とでは,結果が天と地ほどに異なる。
契約締結前に,落雷があるか,契約締結後に落雷があるかで,結果がこのように異なることについては,誰もが違和感を覚えるはずであるが,ドイツ法の強い影響により,事例1の場合には契約は有効である。事例2の場合には,契約は無効であるとしてきた。
しかし,このような結果は,当事者に著しい不公平を生じることになる。事例1の場合には契約は有効であり,事例2の場合には,契約は無効であるが,売主には帰責事由がないために,どちらの場合であっても,売主は,全く責任を負わない。これに対して,買主は,事例2の場合には,契約が無効となるために,売買代金を支払わなくてもよいが,事例1の場合には,契約が有効であるため,目的物が滅失しているにもかかわらず,売買代金を支払わなければならない。
事例1の場合にも,事例2の場合にも,帰責事由のない売主が免責されるのであれば,帰責時湯のない買主も,同じように免責されるべきであろう。
そのためには,事例1と事例2とを等しく契約不履行の問題であるとして平等に扱うとともに,現代では,ほとんど根拠を失っている危険負担の規定の適用を排除し,それに代えて,契約解除の規定を適用することが必要である。そのような解釈は,すでに,後に述べるように,契約実務では実現されており,契約法の世界的な傾向にも合致している。
先に述べたように,民法は,原始的不能について一般的な規定を置いていない。むしろ,一部不能については,契約の有効性を前提として,その不履行を問題とする売主の担保責任(不完全履行)の中に規定を置いている。例えば,「物の一部が契約の時に既に滅失していた場合」について,民法565条は,契約が有効であることを前提にして,売主の契約不履行責任を問題としている(民法565条)。
わが国の危険負担の考え方は,原則として,民法536条の債務者主義をとっている。しかし,売買契約に代表される物権の移転を目的とする契約の場合には,民法534条において債権者主義をとっており,このことが大きな問題となっている。ここでいう債務者主義とか,債務者主義とかという場合の債権者とか債務者とは,履行不能が生じうる給付を目的とする債務に関して,給付を請求できる者(例えば,買主)が債権者であり,給付を義務づけられている者(例えば,売主)が債務者であると理解されている。
ところで,危険負担の意味は,目的物の引渡等の給付が債務者の責めに帰すべきでない事由によって不能になった場合に,双務契約における存続上の牽連関係によって反対給付(対価の支払義務)も消滅するかどうかを決定することである。したがって,双務契約における存続上の牽連性によって反対給付も消滅する場合には,債務者(売主)が対価を得られなくなるという意味で,債務者が危険を負担する。これが,危険負担の債務者主義である(民法536条)。反対に,反対給付が消滅しない場合には,目的物が滅失して給付を得られないにもかかわらず,債権者(買主)は対価を支払わなければならないという意味で債権者が危険を負担する(民法534条)。
理論的にいうと,双務契約において,債務者の責めに帰すべきでない事由によって給付が不能となった場合に,債務者の債務は消滅する。これに連動して,相手方である債権者の反対債務も消滅するかどうかが危険負担の問題となる。危険負担の債務者主義においては,反対債務も消滅するので,その結果は,契約解除がなされたのと同じ結果となる。反対に,危険負担の債権者主義においては,反対債務は消滅しないので,その結果は,契約解除ができない状態と同じ結果となる。
双務契約の一方の債務が履行不能になった場合には,明らかに,契約目的を達成することができない状態である。したがって,帰責事由の有無を問わず,相手方当事者は,契約の解除をなしうるというのが,新しい考え方である。その考え方からすると,危険負担の債務者主義には理由があり,危険負担の債権者主義は,特別の理由が必要ということになる。危険負担の債務者主義を採用する民法536条がその2項において,「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは,債務者は,反対給付を受ける権利を失わない」として,債権者主義の例外を定めているが,この点は,解除に関する民法548条が,「解除権を有する者が自己の行為若しくは過失によって契約の目的物を著しく損傷し,若しくは返還することができなくなったとき,又は加工若しくは改造によってこれを他の種類の物に変えたときは,解除権は,消滅する」と規定しているのと,平仄があっている。すなわち,双務契約の履行不能に関する危険負担の問題は,双務契約の一方の債務が履行不能,すなわち,契約目的を達成できなくなった場合の問題として,契約の解除の要件の問題へと吸収されるべき問題であり,原則は,解除ができる(危険負担の債務者主義と同じ)が,解除の原因を債権者自身が作り出す等の特別の理由がある場合には(民法548条参照),解除権が消滅する(危険負担の債権者主義に同じ)と解することで足りると解すべきである。
危険負担の規定を詳細に検討すると,以下のような立法上の過誤を見出すことができる。そして,危険負担の中に,解除についての規定が入り込んでおり(民法535序3項),危険負担の規定を契約解除の規定の中に解消することに一定の論拠を与えている。
契約実務においては,危険負担に関する債権者主義(民法534条)は,その合理性を否定されており,土地建物売買契約書においては,以下のように,危険負担の債権者主義が採用され,同時に,危険負担の条項の中に,契約解除権の規定が盛り込まれている。このことは,危険負担の規定を契約解除の規定の中に取り込むことの実務上の根拠を提供しているといえる。
民法534条〜536条の危険負担の条文は,以下のようにして,解除の規定に吸収されるべきであり,適用の必要はないと考える(加賀山説)。
履行不能の場合に解除権を排除することが契約不履行の問題の体系的な理解を妨げ,実務上も大きな問題となっていることを論じた。履行不能に関するもうひとつの障害は,瑕疵担保責任に代表される売主の担保責任を契約責任の一つとして把握するのではなく,特定物に関する原始的一部不能と考え,原始的不能の契約は無効であるとの考えから,売主の担保責任は,契約責任ではなく,本来一部無効の契約に関する特別の責任(法定責任)であると考える考え方(特定物のドグマ)である。
【練習問題2】 わが国の債権総論(契約不履行に基づく損害賠償)においては,「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき」という包括的な契約不履行概念が用いられている。これに対して,契約総論(契約解除)においては,履行遅滞(民法541-542条),および,履行不能(民法543条)という2つの場合だけが規定されており,不完全履行に関する規定は存在しない。契約不履行の場面と異なり,契約解除の場面で,不完全履行に関する規定が存在しないのはなぜだろうか?
それに関連して,民法570条に代表される民法561条以下の売主の担保責任の規定は,不完全履行に関する規定であるとの有力説が存在する。もしも,売主の瑕疵担保責任等の売主の担保責任が不完全履行責任だというのであれば,なぜ,民法は,契約総論において,不完全履行の場合の解除の規定を用意しなかったのであろうか。
【練習問題3】 以下のように似たような事実のそれぞれに関して,以下の質問に答えなさい。従来の理論はどのような解決策を用意してきたのであろうか。
事例3 | 事例4 | ||
---|---|---|---|
年月日 | 事実 | 年月日 | 事実 |
11月12日 | 11月12日 | 製造中に,商品に重大な瑕疵が生じた。 | |
11月13日 | 売主(X) と買主(Y) は,パソコンの売買契約を締結した。 売買契約の内容は以下のとおりであった。 建物の引渡は,11月16日 売買価格は,30万円 |
11月13日 | 売主(X) と買主(Y) は,パソコンの売買契約を締結した。 売買契約の内容は以下のとおりであった。 建物の引渡は,11月16日 売買価格は,30万円 |
11月14日 | 地震で荷崩れが起こり,商品に重大な瑕疵が生じた。 | 11月14日 | |
11月15日 | 売主Xは,商品に瑕疵があることに気づいた。 | 11月15日 | 売主Xは,商品に瑕疵があることに気づいた。 |
問4 この契約は有効か,無効か?
問5 買主(Y)は,代金の支払いを免れるか?
買主(Y)は,解除をなしうるか?それとも,危険負担の法理に従って,買主(Y)は,代金の支払いを拒絶しうるか?
問6 買主(Y)は,転売利益の賠償を請求できるか?
従来の学説は,事例3の問題は,契約締結後に商品に瑕疵が生じた場合であるので,瑕疵担保責任の問題ではなく,また,売主に帰責事由がないため,契約不履行の問題でもないとして,危険負担における目的物の損傷の問題であるとしてきた。また,事例5の問題は,契約締結以前の特定物に生じた瑕疵の問題であり,原始的一部不能の問題,すなわち,契約責任の問題ではなく,特別の法定責任としての瑕疵担保責任の問題であるとして扱ってきた。
しかし,瑕疵が契約締結前に生じたのか,契約締結後,引渡前に生じたのかで,結果を左右させるのは,問題である。また,民法は,それらを特別に区別していない。いずれも,契約不履行の問題(不完全履行のひとつの問題)として扱うことができると考えるべきである。
国際的には,瑕疵担保責任は,契約責任として構成するのが主流となっている。この点を明らかにしたのが,CISG30条と35条である。この規定を通じて,契約に適合した物品を引き渡すことは売主の義務であり,物品が契約適合性を欠く(瑕疵がある)場合には,契約不履行となることを明らかにされたのである。そして,瑕疵担保責任を含む,いわゆる売主の担保責任が,契約不履行であることが宣言されたことになる。
CISG第30条【売主の一般的義務】
売主は,契約及びこの条約の定めるところに従い物品を引き渡し,それに関する書類を交付し,かつ,物品上の権原を移転しなければならない。
CISG 第35条【物品の契約適合性】
(1)売主は,契約で定めた数量,品質及び記述に適合し,かつ,契約で定める方法に従って容器に収められ又は包装された物品を引き渡さなければならない。
(2)当事者が別段の合意をしている場合を除き,物品は,次の要件を充たさない限り,契約に適合していないものとする。
(a)記述されたのと同じ種類の物品が通常使用される目的に適していること。
(b)契約締結時において売主に対し明示又は暗黙のうちに知らされていた特定の目的に適していること。ただし,状況からみて,買主が売主の技量及び判断に依存しなかった場合又は依存することが不合理であった場合を除く。
(c)売主が買主に見本又はひな型として示した物品の品質を有すること。
(d)その種類の物品にとって通常の方法により,またかような方法がないときは,その物品を保存し保護するのに適切な方法により,容器に収められ又は包装されていること。
(3)契約締結時において,買主が物品のある不適合を知り又は知らないはずはあり得なかった場合には,売主は,その不適合について前項(a)号から(d)号の下での責任を負わない。
CISG 第53条【買主の一般的義務】
買主は,契約及びこの条約の定めるところに従い,物品の代金を支払い,かつ,物品の引渡を受領しなければならない。
瑕疵担保責任を特別の法定責任として構成してきたドイツ民法も,世界の潮流を考慮して,その改正を行い,瑕疵担保責任が契約責任であることを明文で認めるに至っている。瑕疵担保責任を契約責任ではなく,特別の法定責任であるとする考え方は,その支持基盤を失っている。
ドイツ民法第433条(売買契約における契約類型的な義務)
(1) 売買契約により物の売主は,買主に物を引き渡し,物の所有権を移転する義務を負う。売主は,物及び権利の瑕疵のない物を移転する義務を負う。
(2) 買主は,売主に合意された売買代金を支払い,売却された物を引き取らなければならない。
【練習問題4】特定物のドグマを正当化する条文として,民法483条が引用されることがある。しかし,この条文が「契約時の現状」ではなく,「引渡しをすべき時の現状」で目的物を引き渡さなければならないとしている点に着目した場合,この条文によって,特定物のドグマ(特定物については瑕疵のない目的物を給付する義務はない)を正当化することができるであろうか。
第483条(特定物の現状による引渡し)
債権の目的が特定物の引渡しであるときは,弁済をする者は,その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない。
むしろ,この規定は,引渡しまで現状を維持する義務,すなわち,民法400条の善管注意義務を裏から述べたものに過ぎないのではないだろうか。すなわち,民法483条は,債務者が民法400条の保存義務を尽くした場合には,債務者は特定物の引渡しの債務から解放されることを述べたものに過ぎないのであり,目的物に瑕疵がある場合にも,債務者を目的物の契約適合性の保証債務から解放することまで言及しているのではないと解釈することができないだろうか。
債務の種類の箇所ですでに学んだように,フランスでは,金銭,および,物の引渡債務が中心となる「与える債務」については原則として強制履行を認め,その他の「なす債務」については,原則として,強制履行を認めず,物の「引渡債務」が問題となる場合に限って,例外的に,強制履行を認めてきた。
この考え方は,原則として(特に,契約の目的物が代替物である債務に対して)特定履行(specific performance)を認めない英米法の考え方と,広く,強制履行を認めるドイツ法との中間にあるといえよう。
フランスにおいては,「なす債務」の場合,例外的とはいえ,かなり広く代替執行が認められているが,代替執行は,債務者の費用で,第三者に債務の履行を求めるものに外ならず,債権者が契約を解除し,第三者と新たな契約を締結して,余分に生じた費用を不履行債務者に対して損害賠償として請求するのと本質的には異なるところがない。
したがって,原則として特定履行を認めず,契約からの離脱を容易に認め,後は,損害賠償の問題として解決するという英米法のやり方と,なす債務については,原則として直接強制を認めず,例外的に代替執行を認めるというフランス法のやり方は,似ていると評価することができる。
ところで,大陸法と英米法の融合を進めているヨーロッパ契約法原則(1994)は,以下のように規定して,債務(特に,非金銭債務)の強制履行に対して,多くの制限を設けている。
第9:102条: 非金銭債務の特定履行
(1) 債権者は,不完全な履行の治癒を含めて,金銭の支払以外の債務につき,特定履行を請求する権利を有する。
(2) ただし,次の各号の一つに該当する場合には,特定履行を請求することができない。
(a) 履行が不法または不可能であるとき
(b) 履行が債務者に不相当な努力または費用を生じさせるとき
(c) 当該履行が,個人的性質を有する役務もしくは労務の提供からなりたっているとき,または,当該履行が個人的関係に依存するとき
(d) 債権者が,別の供給源から履行を得ることができるとき
(3) 債権者が不履行を知った時または知るべきであった時以後の相当な期間内に特定履行を求めない場合には,債権者は,特定履行を請求する権利を失う。
第9:103条: 排除されない損害賠償
本節の下で特定履行請求権が排斥されたとしても,これによって損害賠償を求める権利が妨げられることはない。
契約が有効に成立しても,履行が必ずしも認められるとは限らないという考え方は,見方によっては,新たな発想を提供してくれる。
有効な契約でも,例えば,履行が不能であれば履行は請求できないというのであれば,原始的不能=契約無効というドグマにとらわれることもなくなる。原始的不能=契約無効のドグマは,「有効な契約は常に履行が請求できる→履行が請求できない契約は無効である」という図式の上に成り立っているからである。すなわち,有効な契約といえども,履行が不可能の場合,執行が困難である場合,代替取引が容易である場合等には,履行は請求できないという英米法に由来する法理を認めることができれば,原始的不能の契約も有効な(解除可能な)契約と考えることが可能である。
問題は,物の引渡請求である。確かに,物の個性が非常に強い「非代替物」については,直接強制を認めざるをえないであろう。しかし,代替性のある物の引渡債務の場合に,強制履行にこだわるよりも,損害賠償債務に転化すると割り切る,すなわち,不履行となった契約を解除して,第三者から代替物の引渡を得る新たな契約を締結し,余分にかかった費用を不履行債務者から損害賠償(金銭執行)の形で回収するという考え方の方が,代替執行の手間が省けるだけ,効率的である。
このように考えると,わが国の解釈論としても,直接強制になじむ債務とは,物の「引渡債務」のうち,「金銭債務」と「非代替物の引渡債務」と考えるのが合理的なのかもしれない。
【練習問題5】 AはBに特別の価値があるわけではない普通のタイプの椅子を売る契約をした。ところがAは,その椅子の引渡を拒絶し,Bは同じ椅子を他の店から何の不都合もなく手に入れることができるということを証明した。この場合,BはAにその椅子を引き渡すことを請求できるか。
日本民法は,不法行為と同様,契約不履行に関しても民法415条という一般規定を有していたが,その効果が損害賠償請求権に限定されていた。そして,契約解除に関しては,日本民法は,一般規定を持たず,契約法総則においては,履行遅滞,履行不能のみが規定され,不完全履行に関しては,契約各論において,個別の規定を有するにとどまっていた。
しかし,CISG49条1項を参考にして,解除の統一要件という観点で日本民法の規定を丹念に検討してみると,履行遅滞および不完全履行の解除の要件の中に,「契約をした目的を達することができない場合」(契約目的の不達成)という共通の要件を発見することができる。そして,この要件に着目して契約の解除に関する規定を一般法と個別法とに再構成してみると,日本民法においても,条文の改正をすることなしに,CISGと同様,契約不履行における解除について,一般法と個別法の組み合わせとして統一的な理論を構築することが可能であることを示すことができた。CISGに加盟したドイツが債務法の改正を余儀なくされたのとは,事情を異にするといえよう。
このようにみてくると,比較法の成果を立法に生かすということは,決して,ある国の優れた制度を取り入れるという単純な作業ではなく,ある国の優れた制度を裏付けている根本的な考え方を理解し,その国の実情に合わせてその考え方をルールの形で表現しなおす作業であることが理解できる。
債務者の契約不履行の場合に,債務者に帰責事由(免責事由)がない場合には,原則として,債権者は,損害賠償を請求できないが,瑕疵担保責任等,結果債務の場合には,帰責事由がない場合であっても,損害賠償ができる場合(無過失責任)がありうる。
これとは反対に,手段債務の場合は,債務の内容自体が,最善の努力をすることであるため,契約不履行の事実(最善の努力を怠ったこと)と,帰責事由(最善の努力を怠ったこと)との証明主題が一致し,債権者の側で,契約不履行事実に他ならない,債務者の帰責事由を証明しなければならない。
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