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第27回 債権者(詐害行為)取消権

作成:2006年9月19日

講師:明治学院大学法科大学院教授 加賀山 茂
書記:竹内 貴康,藤本 望 編集:深川 裕佳


講義のねらい


債務と責任とを区別して考えるための格好の題材を提供しているのが,債権者取消権である。債権者Aが債務者Bに履行を請求しようとしたところ,債務者Bが,第三者(受益者)Cと結託して財産をそちらに移転して,債権者Aやその他の債権者を害するということがある。その際に,BとCとの間の詐害的な財産権の移転をなかったことにするというのが,債権者取消権の機能である。

民法の立法の当初は,この取消権は,詐欺や強迫の取消権と同じように考えられていた。しかし,BC間の取引は,BC間では有効であり,Aや他の債権者との間で相対的に取り消されると考えれば十分ではないかという考え方が生じるようになった。「相対的な取消し」というのは,要するに,Aが名義がCに移転した財産について,あたかも,名義が移転しなかったかのように,強制執行ができればそれで済む問題であり,それを超えてBC間の行為を無効とする必要はないという考え方である。

「相対的な取り消し」という考え方は,便利な考え方である。その利点は,色々あるが,次の2つが重要である。

  1. 債権者Aは,財産を譲り受けた受益者Cだけを訴えて強制執行ができればよいのだから,債務者Bを共同被告とする必要はない。相対的な取消しという考え方は,このことを理論的に説明できる。
  2. Aとの関係では,BC間の譲渡は無効であり,Bとの関係では,BC間の取引は有効であると考えると,三者間の法律関係の説明が容易である。

しかし,この「相対的な取消し」という考え方には,以下のような欠点もある。

  1. Aとの関係では,BC間の譲渡は取消しによって無効であるが,Bとの関係では,BC間の譲渡は有効であるとすると,全体として,BC間の取引をどのように考えるべきか答えることができない。
  2. 多数当事者の法律関係を,まず,二者間に分解して検討するとは有用である。しかし,検討の結果が出た場合に,それを全体として構成できない理論は,レベルが低いといわざるを得ない。民法の理論は,二者間の関係にとどまらず,三者以上の法律関係を公平かつ整合的に説明できるところにその理論の到達点が置かれるべきだからである。
  3. Bとの関係では,BC間の取引は有効であるとするところから生じる。この理論によると,Aの詐害行為取消権によってCからBへと財産が取り戻されることになるとしても,Bは,BC間の取引の有効性を理由に,Cからの目的物の返還に対して,その受領を拒絶できことになるからである。これが,この理論の致命的な欠陥である。

そもそも,取り消しという概念は,その要件として,無効を主張できる主体を相対化して,一定の範囲に絞り込み,その者を取消権者として限定しているだけであり,取消権者が取消しを行った以上,その効果としての無効は,すべての人に主張できることになっている。これに対して,無効の効果が第三者との関係で制限されるのは,無効や取消しの効果が対抗できないという対抗不能の問題に他ならない。相対的な取消しとは,結局のところ,債権者(詐害行為)取消権とは,BC間の有効な行為が債権者に対抗できないという問題に還元されることになる。

では,債権者を害する債務者と受益者との行為が,債権者に対抗できないとはどういう意味なのであろうか。債権者によって,行為自体が否定されることなのだろうか。それとも,行為自体は有効だが,その効果のうちの責任の移転という効果だけが否定され,受益者は,あたかも,物上保証人のような地位に立つことになるのだろうか。この問題について明確な解答を得ようとするのが,この講義のねらいである。


1 詐害行為取消権の性質


詐害行為取消権(債権者取消権)の制度は,フランス民法1167条のパウルス訴権(廃罷訴権)を導入したものである。パウルスの訴権(action paulienne)とは,債権者が自己の債権を保全するため,債権の一般的担保を構成する債務者の財産(patrimoine)を不当に減少させる債務者の詐害行為を取り消す訴権であるとされている。

詐害行為取消権の構造

A. 形成権説

債務者と第三者である受益者との間で行なわれた債権者を害する法律行為(詐害行為)を債権者が取り消すことによって逸失財産を債務者へと取り戻し,責任財産を確保する制度であると解する。取消の効果は民法121条によって無効となり,債務者と受益者との間でも,法律行為は無効となる。

このため,債権者が詐害行為を取り消すためには,債務者と受益者とを共同被告とする必要がある。さらに,取消訴訟の後に,転得者に対して,債権者代位権に基づいて目的物の返還を求める給付訴訟を提起しなければならない(石坂など,大判明38・2・10民録11輯150頁)。

B. 請求権説

債務者と受益者との間で行なわれた詐害行為について,その法律行為を「取消」すと考えると様々な弊害(取消の絶対効に伴う債務者を共同被告とする必要性,別途の給付訴訟の必要性)が生じるため,「取消」を経ることなく,債権者が,直接受益者に対して,逸失財産の取戻しを請求できる権利であると解する。

この権利は,債務者と受益者との関係には影響を及ぼさないので,債権者は,受益者だけを被告として訴えを提起できる(雉本など)。

C. 折衷説(相対的取消)説

債務者と受益者との間で行なわれた詐害行為について,債権者が詐害行為を取り消す(第1の取消し)とともに,債権者が転得者に対して逸失財産の取戻しを請求できる権利であると解する。ただし,第1の取消しは,相対的な取消であり,その効果は,債権者と受益者(または転得者)の間にのみ及び,債務者には及ばない。その結果,債権者は,債務者を共同被告とする必要はなく,転得者が現れた場合であっても,受益者を被告として価格賠償を請求することもできるし,転得者を被告として現物の取戻しを請求してもよい(我妻ほか・通説・判例(大判明44・3・24民録17輯117頁(民法判例百選U〔第5版〕第13事件))。

もっとも,この説においては,詐害行為取消訴訟は,債務者には何らの影響も与えないことになるため,登記名義を債務者に回復させたり,動産の占有を債務者に移転させることを強制出来ないはずで,「取消」によって,総債権者のために逸失財産を回復して,強制執行を可能にするというメカニズムを説明しえない。

詐害行為取消権と抵当権の追及効との対比 詐害行為取消権と物上保証との対比
図27-1 詐害行為取消権の効力としての債権の追及効と抵当権の効力との比較

D. 責任説

債務者と受益者との間で行なわれた詐害行為について,逸失財産を債務者の財産として強制執行の対象に回復させるために,責任財産の移転の取り消しを訴求し(責任無効を求める取消訴訟),その取消訴訟が確定した後に,債権者は受益者または転得者を被告として,債務者に対する債権の満足のために,受益者または転得者の手中にある詐害行為の目的物に対して強制執行をすることができる旨の判決(執行認容判決)を債務名義として,強制執行を行い,債権の満足を得ることができる制度であると解する(下森など)。

ただし,執行認容判決という制度は,ドイツ法の制度であり,わが国には馴染みがないばかりでなく,訴訟が二度手間となってしまう。

E. 訴権説

責任説の主張する執行認容訴訟を別個に観念する必要はなく,民法424条の詐害行為取消訴訟こそが執行認容訴訟そのものであると解する(佐藤・平井など)。

F. 対抗不能説

債務者と受益者との間で行なわれた詐害行為について,それが,債務者の責任財産から逸失したという効果のみが債権者に対抗できないとするものであり,債権者は,受益者または転得者へと移転した財産に対して,債務者に対する債務名義で強制執行を行なうことができるとする制度であると解する(片山など)。

詐害行為取消権と対抗問題 不動産二重譲渡と対抗問題
図27-2 詐害行為の追及効・対抗力と不動産二重譲渡の場合の所有権の対抗力との比較

対抗不能の効力(責任移転の無効)は,総債権者のために生じるので,全ての債権者がその強制執行に配当請求できることになる(425条)。

対抗不能を否認権説によって説明する場合,否認という用語は,民法49条2項において対抗問題を表すものとしてすでに利用されている。さらに,詐害行為取消権の本質は,債務者の破産の場合に認められている否認権(破産法72条以下)と同一の性質を有していることが一般に指摘されている(もっとも,詐害行為取消権は,破産法上の否認権よりも取り消し得る範囲は狭いが,破産宣告を必要とせずにこの権利を行使しうる点に利点がある)。

図27-3 対抗不能と否認との書き換え原則

対抗不能と否認との書き換え原則(加賀山茂『民法体系1』信山社(1996)216頁)を用いると,民法424条の「債権者は,債務者がその債権者を害することを知ってした法律行為の取消を裁判所に請求することができる」は,「債務者がその債権者を害することを知ってした法律行為は,債権者に対抗することができない。ただし,債権者が,裁判上で主張したときに限る」となる。

もっとも,上記の書き換え原則は,登記を要する物権変動を念頭において作成された原則である。その際,Aは「登記」を意味し,Bは「物権変動」を意味していた。詐害行為取消権にこれを当てはめる場合には,「Aを具備しなければ」は,「債権者の責任財産を故意で逸失させたときは」を意味し,「Aを具備することによって」は,「責任財産の減少と債務者の害意を証明した場合には」を意味する。また,Bは「詐害行為」を意味することになる。

表27-1 詐害行為取消権の法的性質に関する学説の比較
取消の意味 相手方 取消の効果 実効性の確保
債権者・債務者間 債務者・受益者間 債権者・受益者間
形成権説 詐害行為を債権者が取り消す 債務者と受益者の双方 詐害行為は無効 詐害行為は無効 詐害行為は無効 債権者は,転得者に対して,債権者代位権に基づいて目的物の返還を求める給付訴訟を提起しなければならない。
請求権説 逸失財産の取戻しを請求できる権利 受益者のみ 詐害行為は有効 詐害行為は有効 詐害行為は有効 債権者は,受益者だけを被告として訴えを提起できる。しかし,債務者には何らの影響も与えないことになるため,登記名義を債務者に回復させたり,動産の占有を債務者に移転させることを強制出来ないはずで,「取消」によって,総債権者のために逸失財産を回復して,強制執行を可能にすることを説明できない。
折衷説
(相対的取消)
債権者が詐害行為を取り消すとともに,債権者が転得者に対して逸失財産の取戻しを請求できる権利である 受益者のみ 詐害行為は有効? 詐害行為は有効 詐害行為は無効
責任説 責任財産の移転の取り消しを訴求する(責任無効を求める取消訴訟)。 債務者・受益者 詐害行為は有効 詐害行為は有効・責任無効 詐害行為は有効・責任無効 債務者に対する債権の満足のために,受益者または転得者の手中にある詐害行為の目的物に対して強制執行をすることができる旨の判決(執行認容判決)を債務名義として,強制執行を行わなければならない。
訴権説 債務者の責任財産から逸失したという効果のみが債権者に対抗できない 受益者 詐害行為は対抗不能 詐害行為は対抗不能 詐害行為は対抗不能 債権者は,受益者または転得者へと移転した財産に対して,債務者に対する債務名義で強制執行を行なうことができる。

2 詐害行為取消権の要件


A. 客観的要件

債務者自身の行為によって責任財産が減少し,債権者の債権を満足させるのに足りなくなることが第1の要件である。

一部の債権者に弁済することは,それだけでは原則として詐害行為とならない(大判大5・11・22民録22巻2281頁)。しかし,債権者に対する弁済であっても,以下の場合には,例外的に,詐害行為となる。

不動産や重要な動産を売却する行為は,相当価格でも,債務者の資産が消費されやすい金銭に変じるから,原則として詐害行為となる(大判明39・2・5民録12巻136頁)。

また,一部の債権者に改めて担保を提供することは詐害行為となる(大判明40・9・21民録13輯877頁,大判昭12・9・15民集16巻1409頁,最二判平成12・7・7金法599号88頁(譲渡担保の設定))。

ただし,以下の場合には,例外的に,詐害行為に当たらないとされているので注意が必要である。

詐害行為は,財産上の法律行為でなければならない(民法424条2項)。離婚に伴う適正な財産分与(最二判昭58・12・19民集37巻10号1532頁),認知,相続の放棄等は,たとえ,債務者の財産状態を悪化させるものであっても,詐害行為とはならない。

ただし,離婚に伴う財産分与として金銭を給付する旨の合意が,不相当に過大な場合には,その過大部分についてのみ,詐害行為として取り消される(最一判平12・3・9民集54巻3号1013頁)。

最一判平12・3・9民集54巻3号1013頁
 離婚に伴う財産分与として金銭の給付をする旨の合意は,民法768条3項の規程の趣旨に反してその額が不相当に過大であり,財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情があるときは,不相当に過大な部分について,その限度において詐害行為として取り消されるべきである。
 離婚に伴う慰謝料として配偶者の一方が負担すべき損害賠償債務の額を超えた金額を支払う旨の合意は,右損害賠償債務の額を超えた部分について,詐害行為取消権行使の対象となる。

B. 主観的要件

債務者および受益者・転得者が詐害行為の当時,または,財産の取得の当時,その行為によって債権者を害することを知っていたことが第2の要件である。

詐害行為の成立には債務者がその債権者を害することを知って行為を行なったことを要するが,必ずしも債権者を害することを意図し,若しくは欲して行なったことを要しない(最判昭35・4・26民集14巻6号1046頁)。

3 詐害行為取消権の行使方法


A. 裁判上の請求

必ず裁判所に訴えを提起することを要する。

B. 訴えの相手方

受益者,転得者であって,債務者は被告とはならない。


練習問題


詐害行為取消権の適用,当事者,効力の範囲

詐害行為取消権に関する次の記述のうち,判例の趣旨に照らし誤っているものを指摘し,正しく訂正しなさい。(新司法試験短答式問題〔民事法系〕第5問参照)

ア. 離婚に伴う慰謝料支払の合意は,その金額が不当に過大な場合には,相当な範囲を超える部分を詐害行為として取り消すことができる。

イ. 相続放棄は,他の相続人を有利にする場合には,詐害行為取消権の対象となる。

ウ. 不動産の贈与を詐害行為として取り消す場合には,債権者の債権額がその不動産の価額に満たないときであっても,贈与の全部を取り消すことができる。

エ. 詐害行為取消訴訟では,詐害行為をした債務者を被告にすることはできない。

オ. 弁済を受けたことにつき詐害行為取消権を行使された者は,自己の債権に係る按分額の支払を拒むことができる。

解答のヒント

ア. 民法424条(詐害行為取消権)の適用範囲について,同法2項は,「前項の規定は,財産権を目的としない法律行為については,適用しない」と規定して,身分行為には適用されないとしている。この選択肢の問題は,離婚に伴う慰謝料支払いなので,離婚という身分行為と慰謝料支払いという財産行為という2つの要素が含まれている。このような場合に,民法424条以下の詐害行為取消権の規定が適用されるかどうかを問う問題である。判例の見解に進展が見られるので,注意が必要である。

最二判昭58・12・19民集37巻10号1532頁
 離婚に伴う財産分与は,民法768条3項の規定の趣旨に反して不相当に過大であり,財産分与に仮託された財産処分であると認めるに足りるような特段の事情のない限り,詐害行為として債権者による取消の対象となりえない−財産分与が相当なので詐害行為にあたらないと認められた事例
最一判平12・3・9民集54巻3号1013頁
 離婚に伴う財産分与として金銭の給付をする旨の合意は,民法768条条3項の規程の趣旨に反してその額が不相当に過大であり,財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情があるときは,不相当に過大な部分について,その限度において詐害行為として取り消されるべきである。

イ. 先の選択肢である離婚に伴う慰謝料支払いと比較すると,相続放棄は,身分行為としての性格がより強い。この場合に,詐害行為取消権の規定が適用されるかどうかを問う問題である。相続放棄の場合と,遺産分割協議の場合とで結果が異なるので注意を要する。

最二判昭49・9・20民集28巻6号1202頁
 相続の放棄は,民法424条の詐害行為取消権行使の対象とならない。
最二判平11・6・11民集53巻5号898頁
 共同相続人の間で成立した遺産分割協議は,詐害行為取消権行使の対象となる。

ウ. 担保物権の通有性として不可分性(民法296条,305条,350条,372条)があげられている。これは,担保物権を有する債権者は,債権の全部の弁済を受けるまでは,担保物の全部についてその権利を行使することができるというものである。詐害行為取消権を行使する債権者にも,このような不可分性が認められるかどうかを問う問題である。原則としては,債権者は,債権額を超えて取り消すことは許されない(大判大9・12・24民録26輯2024頁)。しかし,詐害行為の目的物が不動産のように不可分の財産の場合には,不動産の額が債権額を超えても,詐害行為の全部を取り消すことができるとする判例がある(最三判昭30・10・11民集9巻11号1626頁)。

大判大9・12・24民録26輯2024頁
 詐害行為取消しの目的とされる行為が可分であれば必要な部分のみを取消すべきである。
最三判昭30・10・11民集9巻11号1626頁
 詐害行為となる債務者の行為の目的物が,不可分な一棟の建物であるときは,たとえその価額が債権額を超える場合でも,債権者は,右行為の全部を取り消すことができる。

エ. 詐害行為取消権の性質が本来の取消しであれば,債務者と受益者との行為が取り消されるのであるから,債務者と受益者とは,本来の利害関係者として共同被告とすべきところである。そうでないとすれば(最二判昭39・12・4裁集民76号367頁),詐害行為取消しとは何かを考えざるを得ない。通説・判例の見解を受け入れるのは簡単であるが,その結果を受け入れた場合に,詐害行為とはどのような制度なのかを考える契機になる問いである。

最二判昭39・12・4裁集民76号367頁
 詐害行為取消訴訟において,被告とすべきものは,財産返還請求の相手方たる受益者または転得者のみで足り,債務者を共同被告とすべきではない。

オ. 受益者が債務者の債権者である場合に,受益者は,本来の債権者としての権利である予想できる配当額について,支払いを拒みうるかどうかを問う問題である。民法425条の詐害行為取消しは,「すべての債権者の利益のためにその効力を生ずる」という意味をどのように位置づけるかで,解答に影響がでることになる。もしも,債権者の一人である受益者が,自己の債務者に対する債権をもって,配当要求をなし,右債権に対する按分額の支払を拒むことができるとするときは,いちはやく自己の債権につき弁済を受けた受益者を保護し,総債権者の利益を無視するに帰することになる(最二判昭46・11・19民集25巻8号1321頁)。もっとも,詐害行為取消権者である一部の債権者を優遇して,受益者,転得者に対し,直接にその受けた財産の引渡をなすべきことを請求し得るとする判例もあるので(大判大10・6・18民録27輯1168頁,最一判昭39・1・23民集18巻1号76頁),一般化には注意が必要である。

最一判昭39・1・23民集18巻1号76頁
 詐害行為取消訴訟の場合において,取消債権者は,他の債権者とともに弁済を受けるため,受益者,転得者に対し,直接にその受けた財産の引渡をなすべきことを請求し得るものと解するのが正当である(大判大10・6・18民録27輯1168頁参照)。
最二判昭46・11・19民集25巻8号1321頁
 債権者が,受益者を被告として,債務者の受益者に対する弁済行為を取り消し,かつ,右取消にかかる弁済額の支払を求める詐害行為取消訴訟手続において,被告は,右弁済額を原告の債権額と自己の債権額とで按分し,後者に対応する按分額につき,支払を拒むことはできない。
 もし,本件のような弁済行為についての詐害行為取消訴訟において,受益者である被告が,自己の債務者に対する債権をもつて,上告人のいわゆる配当要求をなし,取消にかかる弁済額のうち,右債権に対する按分額の支払を拒むことができるとするときは,いちはやく自己の債権につき弁済を受けた受益者を保護し,総債権者の利益を無視するに帰するわけであるから,右制度の趣旨に反することになるものといわなければならない。

解答例

イ. 相続放棄は,他の相続人を有利にする場合には,詐害行為取消権の対象とな。→らない。

オ. 弁済を受けたことにつき詐害行為取消権を行使された者は,自己の債権に係る按分額の支払を拒むことができ。→ない。


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