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第25回 債権者代位権(間接訴権)と直接訴権

作成:2005年11月21日

講師:明治学院大学法科大学院教授 加賀山 茂
書記:竹内 貴康,藤本 望 編集:深川 裕佳


講義のねらい


債権の保全を目的とする制度として,最初に,債権者代位権を概観する。債権者代位権(action oblique)は,債権執行の制度が不備なフランスの強制執行法を補完する実体法の制度として発展してきた。債権執行が完備したドイツの民事訴訟法制度を導入したわが国においては,債権者代位権の制度は不要であるとの批判がわが国の訴訟法学者からなされてきたが,判例は,債権執行の不備とは関係なく,この制度を広く利用してきた。そして,その適用は,債権執行の範囲を超えて,広く形成権の代位にも及んでいる。

フランスにおいては,債権者代位権とともに,その進化系としての直接訴権(action directe)が高度に発達し,その制度は,わが国の保険契約法,特に,責任保険の分野,たとえば,自賠法16条の成立に大きな影響を及ぼしてきた。また,転貸借契約における,民法613条の原賃貸人の転借人に対する直接請求権の制度も,フランスの直接訴権を継受したものであることが明らかとなっている。この直接訴権と債権者代位権との対比を行うことによって,副次的に,わが国の判例が推し進めてきた債権者代位権の転用(次回に詳しく説明する)といわれる現象もよりよく理解できると思われる。


1 債権者代位権の意義


債権者代位権は,債権者が,自己の債権を保全するために,債務者に属する権利を債務者に代わって行使することのできる制度である(民法423条1項本文)。

本来,債務者が自己の財産をどのように管理するかは債務者の自由であるが,資力が悪化した債務者は往々にして債権回収に不熱心・非協力的となる。そこで,債務者の無資力を要件として債権者が債務者の権利を代位行使することが認めらているのである。ただし,後に述べるように,債務者の一身専属権の代位行使は認められない(民法423条1項但書)。

図25-1 債権者代位権の構造と強制執行との違い

債権者代位権の特色は,図25-1に示したように,強制執行手続きとは異なり,債務者に対する債務名義(民事執行法22条)なしに第三債務者に対して,裁判外の請求,または,訴えを提起できる点にある。


2 債権者代位権の要件


債権者代位権の行使要件は以下の通りである(民法423条)。

  1. 債権者が自己の債権を保全する必要があること
  2. 債務者が自らその権利を行使しないこと(債務者のいわゆる「無資力要件」はこの点に関連する)
  3. 債務者の第三債務者に対する権利が履行期にあること
  4. 債務者の一身に専属する権利でないこと

第1の要件である債権者の債権に関しては,その弁済期が到来しない間は,債務者の第三債務者に対する権利について,債権者は保存行為をすることしか許されていない。ただし,裁判上の請求をする場合には,債務者の債務債権の弁済期が到来していない場合でも,債権者代位権を行使することができる(民法423条2項)。弁済期以前であっても,債権の保全が必要な場合もありうるからである。

第4の要件である「一身専属性」に関しては,最高裁の判例(最一判平13・11・22民集55巻6号1033頁)がある。この事案は,被相続人Aの遺言によってXが相続すべきものとされた不動産につき,当該遺言で相続分のないものとされた相続人Bに対して貸金債権を有する上告人Yが,当該相続人に代位して法定相続分に従った共同相続登記を経由した上,当該相続人Bの持分に対する強制競売を申し立て,これに対する差押えがされたというものであった。最高裁は,以下のように述べて,遺留分減殺請求権について一身専属性を認め,債権者代位権の行使を否定している。

最一判平13・11・22民集55巻6号1033頁
 遺留分減殺請求権は,遺留分権利者が,これを第三者に譲渡するなど,権利行使の確定的意思を有することを外部に表明したと認められる特段の事情がある場合を除き,債権者代位の目的とすることができない。

なお,一身専属性に関しては,一身専属性が失われる場合について判示した最高裁の判決(最一判昭58・10・6民集37巻8号1041頁)があるので,併せて参照するのがよい。

最一判昭58・10・6民集37巻8号1041頁
 名誉侵害を理由とする慰藉料請求権は,加害者が被害者に対し一定額の慰藉料を支払うことを内容とする合意若しくはかかる支払を命ずる債務名義が成立したなどその具体的な金額が当事者間において客観的に確定したとき又は被害者が死亡したときは,行使上の一身専属性を失う。

3 債権者代位権の特色


債権者代位権とは,債務者がその財産権を行使しない場合に,債権者がその債権を保全するために債務者に代わってその権利を行使して,債務者の責任財産の維持・充実を図る制度である(民法423条)。この制度の起源は,フランスの間接訴権(actionoblique)に求められる。間接訴権(action oblique)は,強制執行,特に,債権差押え制度が不備であったフランスにおいて,それを補うために発達した制度である。

債権者代位権の特色は,以下のとおりである。以下の説明においては,債権者をA,債務者をB,第三債務者をCと呼ぶことにする。

  1. 債務者の無資力要件

    Aは,BのCに対する金銭債権をBに代わって行使するものであり,そのようなことが可能であるのは,Bが無資力の時に限る(大判明39・11・21民録12巻1537頁,最三判昭40・10・12民集19巻7号1777頁)。ただし,後に述べる債権者代位権の転用の場合は,無資力要件は不要とされる(最一判昭50・3・6民集29巻3号203頁(民法判例百選U〔第5版〕(2005)第10事件))。

  2. 債務者に対する確定判決の不要

    Aは,BのCに対する債権を差し押える場合とは異なり,Bに対する確定判決を要せず,いきなり,Cを訴えることができる。

  3. 行使できる権利の範囲

    AのBに対する債権の範囲,および,BのCに対する債権の範囲の両者によって二重に制約される。

    例えば,AのBに対する債権が5万円,BのCに対する債権が10万円である場合,AはCに対して5万円しか請求できない。AのBに対する債権が10万円,BのCに対する債権が5万円である場合も,5万円しか請求できない。また,BのCに対する債権の弁済期が到来していることはもとより,AのBに対する弁済期も,裁判上の代位,保存行為の場合を除いて,到来していることが必要である(民法423条2項)。


4 債権者代位権(間接訴権)と直接請求権(直接訴権)との関係


ところで,フランスにおいては,間接訴権の外に,直接訴権(action directe)という制度がある。実は,この制度も,民法613条,自賠法16条において,すでに,わが国にも導入されている。

この直接訴権(action directe)は,間接訴権(action oblique)としての債権者代位権とは,異なり,AがBのCに対する債権を自らの名で,かつ,自らのために行使することを認めるものであり,CからAへの直接の引渡が可能であるばかりでなく,金銭債権という限定もなく,無資力要件も不要である。ただし,行使できる権利の範囲は,債権者代位権の場合と同様,二重の制約を受けるほか,AのBに対する債権とBのCに対する債権とが同種のものであること,少なくとも,密接不可分の関係にあることが求められる。

わが国において,債権者代位権の転用といわれれいる現象は,まさに,フランスの直接訴権(action directe)の導入に他ならない。フランスの直接訴権とは,以下のような特色を持つものとされている。

フランス民法によって採用され,その後,特に,損害保険の分野で発展を遂げて,世界的に評価されている直接訴権の制度は,以下の2つのタイプに分類されている。

A. 完全直接訴権(自賠法16条の直接請求権)

図25-2 自賠法16条の直接請求権の構造

B. 不完全直接訴権(民法613条の直接請求権)

図25-3 民法613条の直接請求権の構造

C. 民法613条の直接請求権のメカニズム

民法613条における直接訴権は,賃貸人(A)の転借人(C)に対する直接の権利を認め,賃貸人(A)を保護するものである。しかし,その立法過程を詳しく調べてみると,意外なことに,もともとは,民法314条において認められている賃貸人(A)の転借人(C)に対する動産先取特権について,転借人(C)を保護するために,賃貸人(A)の転借人(C)に対する権利行使を制限する場合があることが指摘され,その問題を解決するために立法がなされるに至ったという経緯がある[加賀山・民法613条の直接訴権(1977)87頁以下]。

転借人を保護すべき場合というのは,転借人(C)が定期に転借料を賃借人(B)に支払っているのに,賃借人(B)が賃貸人に対して賃料を支払わなかったという場合である。このような場合に,賃貸人(A)が賃借人(C)の動産に対して先取特権を行使するのは行き過ぎであり,転借人を保護すべきではないのかというのが,民法613条の立法のきっかけとなった。そして,民法613条が立法されることによって,民法314条の動産先取特権は,その被担保債権である民法613条の直接訴権の範囲,すなわち,賃貸人の賃借人に対する債権の範囲と,賃借人(転貸人)の転借人に対する債権の範囲によって,二重に制限されることとなり,賃貸人と転借人の利害がうまく調整されることになったのである。

民法613条の直接訴権と民法314条の先取特権の関係について補足をしておこう。第1に,民法312条によって,賃貸人(A)は賃借人(B)に対する賃料債権ついて動産先取特権を有している。第2に,賃借人(B)も転貸人として,転借人(C)に対して,民法314条ではなく,民法312条にしたがって先取特権を有している。第3に,賃借人(B)が賃料を支払わない場合には,賃貸人(A)は,民法613条によって,賃料債権と転借料債権とが存在する限りで,かつ,両者の債権の範囲内で,転借人(C)に対して,直接請求できる権利を有している。したがって,転借人(C)がすでに適正に転借料を賃借人(B)に支払っている場合には,民法613条の直接訴権はその要件を欠いているため行使できない。例外は,詐害的な前払いの場合であり,その場合には,賃貸人に対抗できないため,直接訴権の行使前に賃料は支払われなかったかのように,直接訴権の要件が満たされるため,直接訴権を行使することができる。第4に,直接訴権を行使すると,転借人(B)の転借人(C)に対する債権は,賃貸人(C)の賃借人(B)に対する債権の範囲で,賃貸人に移転すると考えられる。そうすると,担保物権の随伴性によって,民法312条によって賃借人(B)が転借人(C)に対して有していた先取特権も,賃貸人(A)に移転することになる。民法314条に規定されている賃貸人(A)の転借人(C)に対する先取特権は,このようにして,民法312条と民法613条によって,必然的に生じるものなのである。したがって,民法314条は,民法312条と民法613条によって必然的に生じる先取特権を確認的に規定したものであるということになる。

以上のことを踏まえて,民法613条の効果(メカニズム)をまとめると以下のようになる。

a) 民法613条の直接訴権による権利関係の変動
b) 民法613条の直接訴権と第三債務者の抗弁との関係
  1. 直接訴権の発生前
  2. 直接訴権の発生後
c) 直接訴権の第三債務者の抗弁に関する通説の誤解とその解明

通説が,転借人の前払いは賃貸人に対抗できないのに対して,転借人「後払い」は,賃貸人が直接訴権を行使した後であっても,常に賃貸人に対抗できると誤解しているのはなぜなのだろうか。その点の解明が必要となる。

要するに,通説の誤りは,前払い(直接訴権行使前の期限前弁済)の反対概念が後払い(直接訴権行使前の期限後弁済)であることを認識せず,訴権行使後の弁済にまで拡張している点にある。

転借人の賃借人への弁済の時期 通説(誤った反対解釈) 正しい反対解釈 加賀山説
1 直接訴権の行使前 1-1 期限前の弁済(前払い 1-1-1 慣習に従った前払い ×賃貸人に対抗できない 民法613条1項後文 ×賃貸人に対抗できない 民法613条1項後文の文理解釈 ○賃貸人に対抗できる 民法613条1項後文の例文解釈(反対解釈と結果は同じ)
1-1-2 詐害的前払い ×賃貸人に対抗できない 民法613条1項後文の目的的解釈(文理解釈と結果は同じ)
1-2 期限後の弁済(後払い ○賃貸人に対抗できる 民法613条1項後文の反対解釈(誤り ○賃貸人に対抗できる 民法613条1項後文の反対解釈正しい ○賃貸人に対抗できる 民法613条1項後文の反対解釈
2 直接訴権の行使後 2-1 期限後の弁済(行使後弁済 ×賃貸人に対抗できない 民法613条1項前文の文理解釈 ×賃貸人に対抗できない 民法613条1項前文の文理解釈

通説の反対解釈の誤りは,以上のように,正しい反対解釈と対比することによって明らかになると思われる。

なお,私見は,正しい解釈説をさらに推し進め,民法613条1項後文の「前払い」とは,実は,「詐害的前払い」のことを言うのであり,条文に書かれている「前払い」すなわち,「期限前弁済」は,「詐害的前払い」と推定されているに過ぎないと解釈するものである(一種の例文解釈:民法612条2項について,判例は,同様の解釈を行っている。なぜならば,民法612条2項は,無断譲渡・転貸が解除原因となると規定してるにもかかわらず,判例は,背信的行為のみが解除原因であり,無断譲渡・転貸は,単に,「背信的行為」を推定するに過ぎないとしているからである)。

私見によれば,「期限前弁済」は,通常は,「詐害的前払い」と推定されるが,例えば,慣習に従った適正な前払いであることが証明された場合には,「詐害的な前払い」であるとの推定は破られ,そののような適正な前払いは,賃貸人に対抗できると考えるものである。


練習問題


Aはその所有する家屋と土地を月額10万円でBに賃貸した。賃借人Bがその土地家屋をさらにCに転貸したいとの希望を述べたので,AはCの資力を調査し,資力が十分であることを確認した後,賃料を同額の10万円とし,転貸料の支払期日も賃料の支払期日と同じ日にすることでBの転貸に同意した。Bが賃料の支払を怠ったため,Aは,転借人Cに対して,賃料の10万円を請求したところ,Cはこれを拒絶し,転貸人であるBに転貸料10万円を支払ってしまった。Bはそのお金を借金の返済に当ててしまい,Aには賃料を支払っていない。Aは再度Cに対して10万円の支払を請求できるか。

問1 通説は,民法613条を根拠に,Aからの請求にもかかわらず,CはBに支払うことができると解している。このような解釈を何解釈と呼ぶか。
ヒント1:文理解釈,拡大解釈,縮小解釈,類推解釈,例文解釈という解釈方法を第1回の講義で説明しているので,よく復習しておくこと。
問2 このような解釈が成立する条件はなにか。本件の場合,そのような解釈をする条件はみたされているか。
ヒント2:直接訴権の成立要件は,賃料債権(α債権)と転借料債権(β債権)とがともに存在していることである。民法613条1項2文の「借賃の前払」とは,このうちのどの要件に関係しており,「借賃の前払」は,本来ならば,どのような効力を生じるものかをよく考えること。そうすると,「前払をもって賃貸人に対抗できない」という民法613条1項2文における対抗不能の意味(直接訴権の成立要件が満たされていないこと(β債権の不存在)を賃貸人に主張できなくなる)が理解できるであろう。
問3 民法613条1項後段の解釈を通じて,Aの請求が認められるかどうか論じなさい。その際,BもCも支払を拒絶した場合にAがとり得る手段についても言及しなさい。
ヒント3:もしも,直接訴権の成立要件が満たされ,賃貸人が転借人に対して直接訴権を行使した後は,民法613条1文によると,「転借人は,賃貸人に対して直接に義務を負う」とされる。もしも,転借がそれにもかかわらず,賃借人(転貸人)に対して弁済をすることができるとすると,それは,転借人は義務を負うのではなく,賃貸人に支払うことも,賃借人に支払うこともできるという「選択権」を有することになるのであって,「賃貸人に対して直接に義務を負う」ことにはならないのでないだろうか。この点をよく考えて,解釈論を展開すること。

参考文献


[加賀山・民法613条の直接訴権(1977)]
加賀山茂「民法613条の直接訴権《action directe》について(1),(2・完)」阪大法学102号(1977)65-105頁,阪大法学103号(1977)87-136頁。
[加賀山・判批「賃貸借の解除と適法転貸借の帰趨」(1998)]
加賀山茂「債務不履行による賃貸借契約の解除と適法転貸借の帰すう−最三判平9・2・25判時1599号69頁−」私法判例リマークス16号(1998)46-50頁。

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