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15/26 「前払が賃貸人に対抗できない」の意味通説は,民法613条1項ただし書きの反対解釈に陥っている

【テロップ】
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【ノート】
民法613条1項ニブンの転借人は「賃料の前払いをもって賃貸人に対抗できない」という意味については,直接訴権の行使前と行使ゴとを区別して考えなければなりません。■ 賃貸人が直接訴権を行使するまでは,賃貸人と転借人との間には法律関係はないので,転借人は,転借料を転貸人である賃借人に支払うことができます。■ ★原則として,転借人は,転貸人(賃借人)に対するあらゆる抗弁をもって,賃貸人に対抗できます。■ ★例外として,賃貸人を害するために,転貸人と転借人との間で詐害的な前払いをした場合には,この前払いをもって賃貸人に対抗することができません。■ ★詐害的なものかどうかは証明が困難であるため,転借料の前払いは,詐害的な前払いであるとの法律上の推定をする必要があります。■ ★わが国の民法613条1項ニブンは,あたかも,すべての前払いが賃貸人に対抗することができないかのように規定しています。しかし,民法613条のモデルとなった,フランス民法1753条は,慣習的な賃料の前払いは,賃貸人に対抗できるとしています。わが国においても,賃料の1か月分の前払いは慣習的に行われており,この前払いは,賃貸人に対抗できると考えるべきでしょう。■ 以上が,賃貸人が転借人に対して直接訴権を行使する前の問題です。■ これに対して,賃貸人が転借人に対して直接訴権を行使したのちは,状況が一変します。■ 賃貸人の転借人に対する直接訴権の行使によって,転借料債権は,賃貸人に移転するのですから,転借人は転貸人である賃借人に賃料を支払っても,それは,無効です。 ★したがって,賃貸人の直接訴権の行使後の転借料の支払いは,すべて,賃貸人に対抗できなくなります。■ わが国の通説は,民法613条ニブンの反対解釈によって,転借人は,賃貸人の直接請求を無視して,転貸人である賃借人に支払うことができるとしていますが,これが,誤りであることは明らかです。このような解釈を認めたのでは,民法613条の立法の意味がなくなるからです。■ それにもかかわらず,通説が,賃料のあと払いは,賃貸人に対抗できると考えているのは,直接訴権によって,転貸借から生じる法律関係が賃借人から賃貸人へと移転することを理解していないからです。■ 自賠法16条が,交通事故が生じた時点で,保険会社は,保険金を被害者に支払うべきであり,自賠法15条が,明文で,保険会社が,被保険者に支払うことを禁止していることを比較検討すれば,通説の誤りは,明白となることでしょう。■ このように,私の研究は,それまでの通説の考え方を根本的に批判し,直接訴権の意味を明らかにするものでした。■ しかし,今でも,注釈民法をご覧になると,私の批判にもかかわらず,通説は,昔のまま,民法613条は,賃貸人だけを保護するものであるとか,転借人の賃料のあと払いは,賃貸人に対抗できるなどと書かれているのですから,民法学では,まともなことが,まともであると受け入れられるのに,40年では足りないということになります。■