[top]
作成:2010年9月24日
明治学院大学法科大学院教授 加賀山 茂
抵当権の処分には,@転抵当,A抵当権の譲渡,B抵当権の放棄,C抵当権の順位の譲渡,D抵当権の順位の放棄,E抵当権の順位の変更の6種類がある。
ここで注目すべきは,抵当権の放棄であり,この用語法の中に,抵当権の本質がうまく表現されている。もしも,抵当権が物権だとすれば,抵当権の放棄によって抵当権自体が消滅するはずである。ところが,抵当権の放棄とは,抵当権者が一般債権者に対して優先権を放棄し,ともに,同順位の抵当権者として,平等の配当を受けることを意味する。このことは,「抵当権」の放棄が,「優先弁済権」の放棄と読みかえられていることを意味する。すなわち,「抵当権」とは,「債権の優先弁済権」(債権の掴取力の強化)に過ぎないことが,民法の条文[民法376条]からも明確となっている。このように考えると,抵当権の処分の対抗要件が債権譲渡の対抗要件の具備をも要求している[民法377条]のは,抵当権が物権ではなく,債権の優先弁済権」に他ならないことの1つの表れであることが理解できる。
抵当権の処分とは,物権の処分ではなく,債権の優先弁済権の処分であると考えると,上記の6つの類型についての理解が格段に容易となる。なぜなら,それらの類型は,それぞれ,@は債権者に対する優先弁済権と順位の譲渡として,A・Bは一般債権者に対する優先弁済権の譲渡・放棄として,C・Dは後順位抵当権者に対する優先弁済権の順位の譲渡・放棄として,Eは抵当権者同士での優先順位の変更として,すべて統一的に位置づけることができるからである。
抵当権の処分の6つの類型,すなわち,(1)転抵当,(2)抵当権の譲渡,(3)抵当権の放棄,(4)抵当権の順位の譲渡,(5)抵当権の順位の放棄,(6)抵当権の順位の変更について,具体的な事例によって,それらの概念を明確に区別することが,この節での第1のねらいである。
次に,抵当権の処分の対抗要件が,抵当権の順位の変更を除く5つの類型を通じて共通であり,しかも,それが登記以外に債権譲渡の場合と同様の対抗要件が求められていることから,抵当権の処分に共通の理念を発見することが重要な課題であることを理解する。すなわち,「抵当権の処分」とは,「抵当権における優先弁済権を債権とは切り離して譲渡(全部譲渡・一部譲渡を含む)することである」ということを明らかにするのがこの節での第2のねらいである。
この2つの作業を通じて,抵当権の処分である「優先弁済権」の譲渡と「抵当権」の譲渡とが同様に扱われていることの意味,すなわち,「優先弁済権(担保物権の本質)」と「抵当権」との同一性を確認することが,この節での第3のねらいである。
本書の記述は,体系的な記述を行うために,上に述べた民法典の条文の順序(民法374条,376条)とは逆になっているが,抵当権の処分のそれぞれの具体例から入り,次に,抵当権の処分における共通の理念を発見するという順序で解説を行う。
抵当権の処分とは,民法376条に規定されている転抵当(1項前段),抵当権の譲渡,抵当権の放棄,抵当権の順位の譲渡,抵当権の順位の放棄(1項2文)および民法374に規定されている抵当権の順位の変更の6種類の処分のことをいう。
抵当権の処分の効果 | |||
---|---|---|---|
相手方 | 効果 | ||
処分の種類 | 1. 転抵当 | 抵当権者の債権者 | 優先弁済権の譲渡 |
2. 抵当権の譲渡 | 債務者の一般債権者 | 優先弁済権の譲渡 | |
3. 抵当権の放棄 | 債務者の一般債権者 | 優先弁済権の準共有 | |
4. 抵当権の順位の譲渡 | 後順位抵当権者 | 優先弁済権の譲渡 | |
5. 抵当権の順位の放棄 | 後順位抵当権者 | 優先弁済権の準共有 | |
6. 抵当権の順位の変更 | 抵当権者間 | 優先弁済権の相互譲渡 |
転抵当が,抵当権者自身の資金調達の便宜のために,抵当権を利用して融資を受ける制度であるのに対して,他の5つの制度,すなわち,抵当権の譲渡・放棄,抵当権の順位の譲渡・放棄・変更は,反対に,債務者への資金調達の促進を図るために,抵当権者の優先順位を後退させ,債務者の新たな融資者(債権者)に対して優先順位を昇進させる制度である。
*図93 抵当権の処分の相手方 |
従来の説によれば,抵当権の処分は,抵当権者の債権者への抵当権への担保の設定(転抵当),債務者の一般債権者への抵当権の譲渡・放棄,後順位抵当権者への順位の譲渡,放棄,変更というように複雑な用語によって説明されてきた。
しかし,抵当権=債権の掴取力の強化説によれば,これらは,「優先弁済権の譲渡」というキーワードによって統一的に説明することができる。
なぜなら,転抵当は,抵当権者の債権者に対する優先弁済権の一部譲渡であり,抵当権の譲渡・放棄は,債務者の一般債権者に対する優先弁済権の全部譲渡・一部譲渡(準共有)であり,抵当権の順位の譲渡・放棄・変更は,後順位抵当権者に対する優先弁済権の全部譲渡・一部譲渡(準共有)に他ならないからである。
転抵当とは,抵当権者自身が融資を受けるため,抵当権を他の債権の担保にすることである[民法376条1項前段]。転抵当を設定するのに原抵当権の設定者である債務者または物上保証人の承諾は必要ないと解されている(責任転抵当)。原抵当権の設定者の承諾があれば,原抵当権者がその債権者のために担保権を設定すること(承諾転抵当)ができるのは当然であり,民法376条1項前段が定めているのは,承諾転抵当ではなく,原抵当権の設定者の承諾なしに自己の責任で転抵当をすることができることを定めたものと解されている[鈴木・物権法(2007)271頁]。
転抵当権者Aに対して,抵当権者Bは,原抵当権設定者Cの所有物の上にさらに抵当権を設定する形式をとってはいるが,実質は,転抵当権者Aの原抵当権者Bに対するα債権を担保するために,第1に,原抵当権者Bが債務者Cに対して有する抵当権(優先弁済権)つきのβ債権の上に抵当権を設定するとともに,第2に,両者の債権額の最小範囲で,優先弁済権を一部譲渡(順位を譲渡)するという2つのステップを同時に行っている。
転抵当権の設定が,通常の抵当権の設定とは異なり,「権利の上の抵当権」の設定であることは,その対抗要件にも現れている。物権の設定であれば,民法177条に基づく登記で足るはずであるが,転抵当の場合には,第1に,抵当権の設定である登記とともに,第2に,優先弁済権の設定としての債権譲渡と同様の対抗要件が要求される。すなわち,第1の転抵当の第三者対抗要件として,付記登記[不動産登記法4条2項]が要求され[民法376条2項],第2に,債務者,保証人,抵当権設定者に対する対抗要件として,債務者への通知または債務者の承諾が要求される[民法377条1項]。もっとも,第2の対抗要件については,第1の対抗要件,すなわち,付記登記による第三者対抗要件[民法376条2項]が備わっているため,民法467条の債権譲渡の場合とは異なり,民法377条1項の通知・承諾には,確定日付は要求されていない。
*図94 転抵当の法的性質 |
従来の学説は,転抵当等の抵当権の処分を抵当権が債権から切り離された独立の存在として処分される制度として考えてきた。抵当権を債権に付従する物権と考える従来の説によれば,転抵当等は,付従性に対する重大な例外と考えざるを得ない([鈴木・物権法(2007)271頁])。これに対して,抵当権を合意と登記によって優先権を有する債権と考える本書の立場からは,すでに存在するα債権のためにβ債権上に抵当権を設定するとともに,抵当権者のために優先権の順位を譲渡する制度とみることになり,債権が消滅するわけではないので,付従性の例外とみる必要もない。
抵当権を有しないα債権の債権者Aのために,転抵当権設定者Bがβ債権の上に新たに抵当権を設定した上で,Aのために,Bの優先順位をAに譲渡するという2つのステップを踏む点で,転抵当は,その他の抵当権の処分よりも複雑であるが,優先弁済権を譲渡するという内容面では,転抵当は,後に述べる債務者の一般債権者や後順位抵当権者に優先弁済権を譲渡する,抵当権の譲渡・放棄,順位の譲渡・放棄と,法的性質に変りがあるわけではない。
これまで,転抵当を説明するために,第1に,抵当権だけの単独処分を認め,抵当権の目的不動産上(または,交換価値(無体物))に再度抵当権を設定したものと考える抵当権再度設定説[我妻・担保物権(1968)390頁],第2に,抵当権だけの単独処分を認めた上で,抵当権という権利(無体物)を質入れするものと考える抵当権質入れ説[鈴木・物権法(2007)271頁],第3に,端的に,抵当権に担保権を設定することであると考える抵当権担保設定説[内田・民法V(2005)453頁],第4に,以上の広義の単独処分説とは異なり,抵当権の付従性を重視して,抵当権と被担保債権を共同して質入れするものと考える債権・抵当権共同質入れ説[柚木=高木・担保物権(1973)304頁]が主張されてきた。
本書の立場は,これらとは異なる第5の考え方である。本書においては,物には,有体物のほか,無体物(権利がその代表)が含まれ,物権の対象とは異なり,債権(物的担保を含む)は,債権譲渡がその例であるが,無体物をも目的物とすることができると考えるため,抵当権の目的物として権利(地上権・永小作権だけでなく,公示可能なあらゆる権利)をも認めることが理論的に可能となる。そして,転抵当とは,原抵当権の被担保債権に抵当権を設定するとともに(債権の上の抵当権の設定(公示は付記登記と債務者への通知または承諾の2つが必要)および原抵当権者から転抵当権者へ抵当権の順位の譲渡がなされるものと考える。
学説 | 原抵当権者の債権の取立て 債務者の原抵当権者への弁済 [民法377条2項] |
原抵当権者の 競売申立て |
転抵当権者の 直接取り立て |
|
---|---|---|---|---|
単独処分説 | @抵当権再度設定説 | × (ただし,債権に対する拘束力の説明は困難) |
○ (判例と同じ) |
× |
A抵当権質入れ説 | ||||
B抵当権担保設定説 | ||||
共同処分説 | C債権・抵当権共同質入れ説 | ○ (債権に対する拘束力の説明が容易) |
× (判例と異なる) |
○ (質権の効力として認める) |
債権抵当説 | D債権抵当・順位の譲渡説 (加賀山説) |
○ (判例と同じ) |
○ (債権者代位権が可能) |
上の表で明らかなように,第1の抵当権再度設定説は,当事者の意思に忠実である反面,抵当目的物の所有者ではない抵当権者がなぜ抵当権の目的不動産に抵当権を設定できるのかの説明が困難であるし,もしも,転抵当の目的物が抵当目的物である不動産ではなく,抵当権が把握している交換価値であるとするならば,今度は,民法369条で定められた抵当権の範囲との整合性の説明が困難となる。そして,第2の抵当権質入れ説の場合には,転抵当といっているのになぜ質権が設定されるのかが疑問であるし,この説では,転抵当による原債権に対する拘束力[民法377条2項]が説明できない。また,第3の抵当権担保設定説によれば,民法369条2項で規定されている地上権または永小作権を超えて,抵当権の上に抵当権を設定することになり,そのような抵当権は物権とはいえなくなるが,それでよいのかどうかが問題となる。さらに,第4の債権・抵当権共同質入れ説の場合は,当事者意思と離れて,抵当権が二重の質権設定へと変質することの説明が困難である。
この点,「抵当権=合意と登記の対抗力に基づく債権の優先弁済権」という考え方に立てば,転抵当は,抵当権者がみずからの債権者のために,優先弁済権を譲渡するものであると考えることができる。厳密に言えば,転抵当とは,第1に,原抵当権者が,抵当権が設定された債権の上に抵当権を設定して自らの債権に対する拘束力を課すと同時に,第2に,自らの優先権について,転抵当権者に優先権の順位の譲渡を行うことを意味することになる。
そして,転抵当権者が,対抗要件を備えると,「抵当権の処分の利益を受ける者(転抵当権者)の承諾を得ないでした(債務者から原抵当権者への)弁済は,その受益者(転抵当権者)に対抗することができない」[民法377条2項]。この規定によって,転抵当が付従性の例外ではないことが示される。その理由は,以下の通りである。
転抵当権者Aは,α債権の債務者でも物上保証人でもないCの所有する不動産に対して抵当権を実行することができるのであるから,転抵当権者は,β債権の存在とは無関係にCに対して優先弁済権を取得しており,一見したところ,付従性の例外のように見える。しかし,民法377条2項によって,原抵当権者Bから転抵当の設定通知を受けた債務者Cは,たとえBに対してβ債権の弁済をしても,β債権の消滅をもって転抵当権者Aに対抗できないのであり,これによって,付従性と両立させつつ,原抵当権の被担保債権であるβ債権の存在が確保されたことになる。すなわち,この規定[民法377条2項]によって,原抵当権の存在を前提とする転抵当の正当性が確保されるのである。
第1に,転抵当権者AのBに対するα債権の弁済期が到来していない間は,転抵当権者Aは転抵当権の実行をすることができない。さらに,質権の場合とは異なり,抵当権の実行があるまでは,転抵当権の設定者であるBは,β債権の使用・収益権を有しており,したがって,利子の弁済を受けることはできるが,処分権までは有しないため,元本全額の支払いを受けることはできない。
しかし,第2に,α債権の弁済期が到来すれば,たとえ原抵当権者Bの債務者Cに対するβ債権の弁済期が到来していない場合であっても,債務者Cは,債権額を供託することができ,転抵当権者Aは,民法366条3項を類推して,その供託金に効力を及ぼすことができると解されている。[内田・民法V(2005)454頁]は,これを「一種の物上代位である」としているが,「一種の」が何を意味するのか不明である。通説が,質権の規定を準用する,または,この結果を認めるのであれば,転抵当においては,β債権も担保に供されていると解すべきであり,この点でも,転抵当の性質を単独処分とする説には難点があることになる。
第3に,α債権,β債権ともに弁済期が到来している場合には,転抵当権者Aがまず配当を受け,剰余金は,原抵当権者Bに配当される。また,剰余が予想される限り,原抵当権者Bも,抵当権の実行をすることができる(大決昭7・8・29民集11巻1729頁)。
この点についても,転抵当権者は,転抵当権の設定によって原抵当権者の債権を担保に取ると同時に,原抵当権者の順位の譲渡を受けていると考えると説明が容易である。
民法376条1項後段文に規定された抵当権の処分(抵当権の相対的処分ともいう)について,第1順位の抵当権者A(債権額:1,000万円),第2順位の抵当権者B(債権額:2,000万円),第3順位の抵当権者C(債権額:3,000万円),一般債権者D(債権額:4,000万円),債権額の合計1億円に対して,抵当物件の評価額は5,000万円であるという想定の下で,抵当権が処分された場合の各当事者の配当額の変化を説明する。
|
|||||||||||||||||||||||||
*図95 抵当権の処分に関する共通の設例 |
(A) 抵当権の譲渡の意味
抵当権の譲渡とは,抵当権者が,抵当権を有しない債権者に対して,自分の有している債権額の範囲で相手方に抵当権を与え,その範囲で自らが無担保債権者となることをいうとされてきた。
ここで大切なことは,抵当権の譲渡の場合には,債権の譲渡とは切り離して,抵当権だけが,被担保債権の額の範囲内で一般債権者に付与されるという点である。このことは,債権とは別に,債権額の枠内で,優先弁済権だけを譲渡することが可能であることが法律上認められていることを意味する。
「抵当権=合意と登記の対抗力に基づく債権の優先弁済効」という立場に立てば,抵当権の譲渡とは,抵当権者が,債務者の一般債権者に対して,その債権額(厳密には債権の配当額)の制約の下に,自らの有している債権額の範囲で優先弁済権を譲渡し,その範囲で自らが無担保債権者となることであるということができる。
(B) 抵当権の譲渡と配当額の変化
統一的な例で,AからDへと抵当権が譲渡された場合の各債権者の配当額は以下のように変化する。
(A) 抵当権の放棄の意味
抵当権の放棄とは,抵当権者が,抵当権を有しない債権者に対して,自分の有している優先弁済の利益を放棄し,抵当権者が有する抵当権の被担保債権額相当分について優先弁済を分けあうことをいうとされてきた。
抵当権の放棄といわれているが,放棄の相手方とともに,抵当権を放棄した者も,依然として元の順位の抵当権者として残るのであるから,厳密には抵当権の放棄でなく,むしろ抵当権の準共有である。
「抵当権=合意と登記の対抗力に基づく債権の優先弁済効」という立場に立てば,抵当権の放棄とは,抵当権者が自らの債権額の範囲内で,債務者の一般債権者に対して,各々の債権額に比例配分させて優先権を一部譲渡し,相手方とともに優先権を準共有するものであると考えるべきであろう(抵当権者がその優先権の範囲で「優先関係を放棄」して,抵当権者と一般債権者とが「平等の優先権者の立場になる」ことだといえば,さらに,わかりやすいかもしれない。なぜなら,優先関係の放棄によって平等(しかもレベルの高い平等)が実現されているからである)。
(B) 抵当権の放棄と配当額の変化
統一的な例で,AからDへと抵当権が放棄された場合の各債権者の配当額は以下のように変化する。
(A) 抵当権の順位の譲渡の意味
抵当権の順位の譲渡とは,先順位の抵当権者が後順位の抵当権者に,優先弁済を受ける権利を譲渡することをいい,順位の譲渡を受けた後順位の抵当権者は,自分が本来有する優先弁済を受ける権利に加え,先順位の抵当権者が有していた分についても優先弁済を受けることになる制度であるといわれてきた。
「抵当権=合意と登記の対抗力に基づく債権の優先弁済効」という立場に立てば,抵当権の順位の譲渡とは,抵当権者が,後順位抵当権者に対して,その債権額の制約の下に,自らの有している債権額の範囲で優先弁済権を譲渡し,その範囲で自らが相対的に後順位者となることであるということができる。
(B) 抵当権の順位の譲渡と配当額の変化
統一的な例で,AからCへと抵当権の順位が譲渡された場合の各債権者の配当額は以下のように変化する。
(A) 抵当権の順位の放棄の意味
抵当権の順位の放棄とは,先順位の抵当権者が後順位の抵当権者のために,自らが有する優先弁済の利益を放棄し,双方の配当部分について平等の立場にあるようにする抵当権の処分方法であるとされている。
抵当権の順位の放棄といわれているが,放棄の相手方とともに,抵当権の順位を放棄した者も,依然として元の順位の抵当権者として残るのであるから,厳密には抵当権の順位の放棄でなく,むしろ抵当権の順位の準共有である。
「抵当権=合意と登記の対抗力に基づく債権の優先弁済効」という立場に立てば,抵当権の順位の放棄とは,抵当権者が自らの債権額の範囲内で,後順位抵当権者に対して,優先弁済権の一部を譲渡し,相手方とともに債権額に比例して優先権を準共有するものであると考えるべきであろう。
(B) 抵当権の順位の放棄と配当額の変化
統一的な例で,AからCへと抵当権の順位が放棄された場合の各債権者の配当額は以下の図のように変化する。
(A) 抵当権の順位の変更の意味
抵当権の順位の変更とは,抵当権者相互間で,その順位を被担保債権と完全に切り離して入れ替えることをいう。
先の例で,Cを1番抵当権者,Aを2番抵当権者,Bを3番抵当権者とすることは,もしも,各抵当権者の債権額が同じであれば,下のように,抵当権の順位の譲渡を複数回繰り返すことによって可能となるが,先の例のように,各債権者の債権額が異なる場合は,優先順位の譲渡の場合の債権額を調整しなければならず,理論的には問題がないとしても,実際の実現手続は困難であることが予想される。
そこで,民法は,1971(昭和46)年の改正によって,抵当権の順位の変更手続を新設し,立法的な解決を行った。
(B) 抵当権の順位の譲渡等との相違点
抵当権の順位の変更は,各抵当権者が被担保債権をそのまま保持しつつ順位を入れ替え,処分の後の抵当権の各順位の被担保債権額に変動が生じる点で,処分後も各順位の被担保債権の額に全く変更を生じない抵当権の順位の譲渡と異なる。
これまでに取り上げた5つの抵当権の処分は,いずれも抵当権の処分の当事者のみに影響を及ぼし,他の後順位抵当権者には影響を与えないため,当事者間以外の者の承諾は必要がなかった。しかし,抵当権の順位の変更の場合は,当事者以外の抵当権者に影響を与えるので,影響を受ける抵当権者全員の合意と,利害関係人の承諾が必要である[民法374条1項]。
なお,他の抵当権処分の登記が効力要件ではなく,対抗要件とされているのに対して,抵当権の順位の変更登記は,法律関係が複雑になることを避けるため,効力要件とされている[民法374条2項]。
[top]