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第27回 仮登記担保

作成:2009年10月24日

明治学院大学法科大学院教授 加賀山 茂


第6章 非典型担保


第7節 仮登記担保


□ 第27回 仮登記担保 □

仮登記担保とは,弁済期前の契約を利用して,債務を弁済できない場合には目的物から優先弁済を受ける権利を仮登記によって保全するものである。従来は,仮登記担保について,(1)債務者の債務不履行に備えての債権者による「債権額での売買予約(または停止条件つき売買契約)」,(2)債務者による「時価での買戻・再売買の予約」,(3)債務者による「超過金の清算」又は特約がある場合の「貸金債権と代金債権との相殺予約」[仮登記担保法9条]の組み合わせと考えられてきた。しかし,目的物の所有権を債権者に移転するという点で,担保という性質を逸脱しており,次に述べる譲渡担保の場合と同様,一種の通謀虚偽表示(信託的行為)と見なければならない。すなわち,仮登記担保の目的は,債権回収の方法として,目的不動産の換価・処分権を取得し,目的不動産の価値から優先的に債権を回収し,残りの価値を清算するというものであり,所有権を債権者に帰属させるというのは,譲渡担保の場合と同様,見せかけに過ぎないことを理解する。

仮登記担保法は,当事者の合意が債務不履行の場合には,その時点で,目的不動産の所有権が債権者に移転するとしているにもかかわらず,債権者が清算金の見積もりを利害関係者に通知してから2ヶ月間(清算期間)を経過しなければ所有権は移転しないとして,当事者の合意が見せかけであることを一部見抜いている。しかし,清算期間を経過すると,清算金の支払前に,債権者に所有権が移転すると解したことは,立法者が,当事者の嘘を完全には見抜いていないことを示すものであり,立法の失敗であったことを示している。なぜなら,債権者に目的不動産の所有権の帰属まで認める必要は全くなく,目的不動産の換価・処分権を取得させることで十分であり,処分清算を行った後,清算金を支払った時点で,はじめて所有権を買受人(債権者も含まれる)に移転することで十分だったからである。

ここでは,担保目的での不動産の代物弁済予約に関する判例法理を集大成し,民法学会の叡智を結集して制定された仮登記担保法が,その後ほとんど利用されなくなっている現実を直視し,なぜ,仮登記担保法が実務から敬遠されるに至っているのかを検討する。そして,目的不動産の所有権を債権者に移転することを前提にして,換価処分の方法を帰属清算方式に限定したことが,仮登記担保が利用されなくなる最大の原因であったことを理解する。清算金の支払いがないままに,目的物の所有権を債権者に帰属させることは,一方で,担保設定者の権利を害しており,他方で,市場での処分に先行して,債権者に清算金の支払を義務づけることは,債権者に対する不当な要求であり,両当事者ともに納得のいかない結果が生じているからである。


1 仮登記担保法概説


不動産の担保制度に関しては,動産とは異なり,目的不動産に対する使用・収益権を奪わずに目的不動産を担保に供することができる抵当権という制度が民法によって認められている。しかし,不動産に抵当権を設定した場合には,その実行方法が,競売手続きに限定されている。競売手続きによる場合は,現状では,目的物の市場価格を正確に反映できず,それよりも低い価格でしか売却できないという弱点がある。そこで,実務では,目的物を市場価格で売却するさまざまな方法(仮登記担保,譲渡担保がその典型例)が考案されることになった。仮登記担保は,債務者が債務を任意に履行しない場合に,担保目的である不動産を代物弁済として債権者に目的物の所有権を帰属させ,債権者が目的物を市場で売却することを通じて,結果的に,債権の回収を図るという目的に奉仕するものである。

しかし,停止条件付代物弁済または代物弁済予約の問題点は,債権者が債権額以上に値打ちのある不動産を担保目的物としながら,担保不動産を丸取りし,清算を行わないという行き過ぎた商慣習を生み出した点にある。

これに対しては,まず,学説によって厳しい批判が行われ(米倉明「抵当不動産における代物弁済の予約」ジュリ281号(1963)68頁,椿寿夫『代物弁済予約の研究』有斐閣(1975)がその代表。学説の展開については,井熊長幸「仮登記担保」[星野・講座3(1984)241頁以下]参照),これを受けた判例によって,債権者に清算が義務づけられ,優先弁済権の範囲が,清算によって被担保債権の範囲に限定されることになった(〈最一判昭42・11・16民集21巻9号2430頁〉,〈最大判昭49・10・23民集28巻7号1473頁〉)。

このような学説・判例の動向を踏まえて,1978(昭和53)年に,仮登記担保契約に関する法律(仮登記担保法)が制定され,代物弁済として債権者に所有権の移転が認められる前提として,清算額を適正にするたけの利害関係者への通知の義務づけ[仮登記担保法2条,5条],清算金に対する後順位担保権者の物上代位権の付与[仮登記担保法4条],清算金が支払われるまでの債務者の受戻権の確保[仮登記担保法11条],清算金が適正でない場合の抵当権への移行[仮登記担保法12条]等を骨子とする仮登記担保制度が確立した。

仮登記担保の債権者は,仮登記担保を実行しようと思えば,目的不動産の価値を評価し,債権額との差額である清算額を見積もって債務者および利害関係人に通知しなければならず,その清算金を支払うまでは,目的物の所有権を取得することができない[仮登記担保法2条1項]。適正な清算をするためのやむをえない措置とはいえ,目的物を処分する前に精算金を支払わなければならないことは,債権者にとって大きな負担となる。このため,仮登記担保は,債権者にとって旨味がなくなっただけでなく,むしろ,利用しにくいものとなってしまった。その結果として,仮登記担保法の施行以後,停止条件付代物弁済または代物弁済予約の利用が激減し,ほとんど使われない状態となっている。

学説・判例を集大成する形で成立した仮登記担保法の出現によって,仮登記担保自体が余り利用されなくなってしまったことは皮肉な結果である。このような結果となった原因としては,仮登記担保法が,代物弁済の方形式を尊重して,清算について「帰属清算」方式のみを認め,市場で処分して,売却代金から清算するという方法「処分清算方式」を否定した点にあると思われる。

A. 仮登記担保の意味

仮登記担保は,もともとは,「担保ための代物弁済予約」,「停止条件つき代物弁済契約」などと呼ばれていたが,どちらも本質は同じであり,債務者が借金を支払えないときには,不動産で代物弁済することを,債権者が予約または停止条件つきで契約し,その債権者の地位を仮登記によって保全するものである。

1978(昭和53)年に制定された仮登記担保法では,仮登記担保契約とは,「金銭債務を担保するため,その不履行があるときは債権者に債務者又は第三者に属する所有権その他の権利の移転等をすることを目的としてされた代物弁済の予約,停止条件付代物弁済契約その他の契約で,その契約による権利について仮登記又は仮登録のできるもの」とされている[仮登記担保法1条]。

B. 仮登記担保と通常の代物弁済との異同

本来,「担保のための代物弁済予約」は,債務者が債務を返済しない場合に備えて,もしも,債務者が期限内に弁済をしない場合には,おカネの代わりに,モノで弁済してもらうという予約をしておくことである。つまり,通常の代物弁済[民法482条]が債務を決済する一方法であるのに対して,担保のための代物弁済予約は,債権の回収を事前に確保する物的担保として位置づけられている。

したがって,仮登記担保は,通常の代物弁済とは異なり,債権者は,債務者が借金を支払えない場合に直ちに目的不動産の所有権を取得できるのではなく,2ヵ月の清算期間を経なければ所有権は債権者に移転しないし,目的不動産の評価額が債権額よりも大きいときは,清算金を支払わなければ,仮登記を本登記に代えることはできず,不動産の引渡を受けることもできない[仮登記担保法2条]。

また,清算期間が満了して,債権者が本登記請求権および引渡請求権に基づき本登記や目的物の引渡を請求してきた場合に,債務者は,清算金請求権を根拠に同時履行の抗弁権を主張して,債権者の引渡請求および本登記請求を拒絶できる[仮登記担保法3条2項]。

さらに,後順位債権者(後順位仮登記担保権者を除く)が債権者の示した清算金の見積額(それに対して後順位債権者は物上代位できる)に不満であり,清算期間内に競売を請求した場合には,仮登記担保権は抵当権とみなされてしまい,仮登記担保権者は,当然には,目的物の所有権を取得できなくなる[仮登記担保法13条1項]。

C. 仮登記担保の機能
(a) 仮登記担保利用のメリット

抵当権という不動産に適した典型担保が用意されているのに,予約と仮登記を転用して非典型担保を創設しようとする意図はどこにあるのだろうか。かつては,担保としての代物弁済予約を利用する意図としては,以下のものが挙げられていた。

  1. 目的不動産の値段が債権額を超える場合に,清算しないで差額を丸取りする(抵当権にないうまみがある)
  2. 抵当権消滅請求(滌除),被担保債権の範囲限定等,抵当権の規定の中で債権者にとって都合の悪いものを排除することができる(抵当権の良いとこ取り)
  3. 時間と手間がかかり,しかも,往々にして安くしか売れない競売手続を回避する(私的実行・流担保の確保)
  4. 第三者異議([民事訴訟法旧549条]:[民事執行法38条])の可能性を予告することで,後順位担保権者の出現を防止する(優先弁済効を独占するうまみ)

このうち,a(清算の不要)は,昭和49年の最高裁判決〈最一判昭42・11・16民集21巻9号2430頁〉によって清算義務が課せられ,かつ,d(第三者異議の訴え)も否定された。このため,代物弁済予約の旨みは,(b)と(c)とにあるとされることになった。

最一判昭42・11・16民集21巻9号2430頁
 貸金債権担保のため,不動産に抵当権を設定するとともに,右不動産につき停止条件付代物弁済契約または代物弁済の予約を締結した形式がとられている場合において,契約時におけるその不動産の価額と弁済期までの元利金額とが合理的均衡を失するようなときは,特別な事情のないかぎり,右契約は,債務者が弁済期に債務の弁済をしないとき,債権者において,目的不動産を換価処分してこれによって得た金員から債権の優先弁済を受け,残額はこれを債務者に返還する趣旨であると解するのが相当である。
 債権者に清算義務があると解される場合には,右債権者が,目的不動産を債務者の所有物として差し押えた他の債権者に対して行使しうる権利は,自己の債権についての優先弁済権を主張してその満足をはかる範囲に限られ,たとえ差押前に所有権移転請求権保全の仮登記を経由していても,差押債権者に対して右仮登記の本登記手続をするについての承諾を求め,その執行を全面的に排除することは許されない。
(b) 仮登記担保の利用度

上記のように,(a)と(d)のうまみは判例によって否定されたため,(c)の競売手続の回避が重要な意味をもっていたが,仮登記担保法は,後順位担保権者による競売請求を認めたため[仮登記担保法12条],この点でも債権者のメリットを失わせている。なぜなら,競売手続に持ち込まれると,仮登記担保は,仮登記担保は,担保仮登記のされた時にその抵当権の設定の登記がされたものとみなされ[仮登記担保法13条],抵当権の優先弁済権を有するだけとなり,仮登記担保のメリットはなくなってしまうからである。このように考えると,仮登記担保は,競売手続を免れた場合にのみ,かろうじて,(b)の抵当権の良いとこ取り(抵当権消滅請求の排除,被担保債権の範囲の限定の排除)が仮登記担保のメリットとなっているに過ぎない。

仮登記担保は,もともと,金融機関による利用率は低く,貸金業者,商社,メーカー等がよく利用していたが,上記のように,後順位者による競売請求が認められたこと,根仮登記担保が冷遇された[仮登記担保法14条]こともあって,その利用度は著しく落ち込んでいる。

(c) 非典型担保の準則としての仮登記担保法の役割

仮登記担保法が,仮登記担保を抵当権に接近する方向で,しかも,抵当権とは異なる新しい工夫を取り入れて立法したことは,理念的には,利害関係者の調整という点で,一定の調和を達成している。特に,物的担保の本質である清算法理が,流担保効果を本質とする代物弁済予約に対しても整合的に実現された意義は大きい。仮登記担保法は,物的担保に関する清算法理,利害関係者の調整原理を最高度に発展させたものであり,仮登記担保法の規定は,その他の非典型担保(特に譲渡担保)に可能な限り類推適用されるべきであるとの見解が主張されている([鈴木・物権法(1994)297頁],[鈴木・物権法(1994)263頁])ことには,十分な理由がある。仮登記担保法の規定は,抵当権の規定が不十分な場合(例えば,物上代位に関する抵当権と質権との優先順位[仮登記担保法4条1項])には,類推適用されるべきであろう。

それにもかかわらず,仮登記担保の利用が落ち込んでいる真の理由は,不動産譲渡担保の利用頻度が増加していることとの比較によって見えてくる。譲渡担保と仮登記担保とを単純に表面的に比較すると,明らかに仮登記担保の方が優れている。なぜなら,譲渡担保は,債務不履行が生じる前に,最初から債権者が所有権を取得することになっているのに対して(大きな嘘),仮登記担保の場合は,債務不履行があった場合に初めて所有権が債権者に移転することにしており(小さな嘘),法律構成がより抵当権に近づいているからである。しかし,譲渡担保は,その実体と法律構成とが,余りにもかけ離れているために,「大きな嘘」が見破られ,後に述べるように,学説・判例の努力によって,所有権が移転しない方向での理論が積み重ねられ,清算方式に処分清算が認められている点が強みである。この点,仮登記担保は,所有権の移転を契約時ではなく,債務不履行の後としているため,そのような小さな嘘が見破られることなく,債権者への所有権移転という構成が受け入れられてしまった。その結果,仮登記担保は,譲渡担保の場合と異なり,清算方式が,帰属清算しか認められていない。所有権の移転の時期を債務不履行の時点とするという小さな嘘によって,債権者への所有権の移転が受け入れられたために,市場での処分による簡易で妥当な清算をすることが困難となってしまったのである。債権者側の自業自得の感があるものの,所有権が債権者に帰属している以上,帰属清算を義務づけられ,市場での処分の後に清算するとう通常の清算方法が使えないことによって,仮登記担保は,利用率の低迷という結果に陥っているのである。

D. 仮登記担保の本書の立場による説明

本来の代物弁済予約は,物の所有権を移転することによって弁済の代わりとするものであり,清算を必要としないはずである。仮登記担保の場合に清算が必要とされるのは,譲渡担保による清算法理の影響を受けたものである。

したがって,仮登記担保契約とは,債権者側による,債務が弁済できない場合に備えての債権額による目的不動産の売買予約(停止条件つき売買契約)と,債務者側による,売買予約に対する清算までの間の時価による買戻特約の追加および売買が実行された場合には,超過金の清算又は貸金債権と売買代金債権を対当額で相殺するという予約とが組み合わされた契約と考えるべきである。また,清算期間の満了によって所有権が債権者に移転した場合でも,清算金を支払うまでは債務相当額を支払って目的物の受戻しをすることができると規定している[仮登記担保法11条]ことは,清算期間が満了して売買が成立し,所有権が買主である債権者Aに移転した後も,清算金支払いまでの間は,債務者である売主Aに,売買の対当額で買い戻す権利を与えるものであると考えることができる。

もっとも,清算期間が終了すると債権者に自動的に所有権が移転するとしていることについては,契約文言にこだわらずに仮登記担保のあるべき姿に即して再構成するならば,以下のように,上記の解釈をさらに一歩進めることができる。

確かに,仮登記担保法は,目的物の所有権は,清算期間の終了によって債権者に移転すると規定している[仮登記担保法2条1項]。この条文の規定にもかかわらず,次のような解釈が可能である。第1に,所有権が自動的に移転するというのは,代物弁済そのものが見せかけに過ぎないのと同様,実は,見せかけ(虚偽表示)に過ぎず,債務者が実際に清算金を受け取るまで,または,処分清算がなされるまでは,受戻しができるとされていること[仮登記担保法11条]の意味を,受戻期間までは,清算期間が続いているのであり,それまで,所有権も債権者に移転しないと解することが可能である。

すなわち,仮登記担保において,目的物の所有権が移転する時期は,仮登記担保法2条にいう清算期間の終了の時ではなく,仮登記担保法11条にいう受戻可能期間の終了のときであり,だからこそ,債務者は,それまで,債務を弁済して所有権の移転を阻止する(いったん移った所有権を受け戻すのではない)ことができるのであり,清算金の支払いと所有権移転との同時履行関係の承認,または,清算金の支払を理由に留置権を行使することができる〈最一判昭58・3・31民集37巻2号152頁〉という公平性を確保することができるのである。

このように考えると,第2に,債権者は,清算期間満了後も所有権を取得するのではなく,受戻可能の間は,目的物の換価・処分権のみを取得していると解することができる。そうすると,債権者は,目的物を市場で処分し,その売却代金から債権額を控除し,後順位権者(物上代位権者)がいる場合には,残額を供託するか[仮登記担保法7条],後順位権者がいない場合は,残額を債務者に支払うこと,すなわち,処分清算を通じて,清算義務を果たすことが可能となる。もっとも,市場での目的物の売却に際しては,債権者は事情を説明し,目的物の所有権に関する登記は,いったん,債権者に移るが,その後,買受人に移転することを約することになろう。

このように解することによって,債務者が,清算期間の終了後も,処分が完全に終了するまで,いわゆる買戻しができるという規定[仮登記担保法11条]も,特別の規定ではなく,処分清算のプロセスにおける当然の規定(清算期間後であっても,債務者が清算金の支払いを受けるまでは同時履行の関係を認める)として理解することができるようになるばかりでなく,受戻しが5年の消滅時効に服することの不当性も明らかとなる。

このような解釈は,仮登記担保法が予定していた趣旨とは異なる。しかし,仮登記担保法の利用率の激減を通じて,立法の不都合が明らかとなった現在,可能な限りの解釈技術を駆使して,仮登記担保法の運用を,帰属清算から処分清算への転換を行うことが求められているといえよう。そのような努力なしに現状を放置すれば,仮登記担保法の利用は,今後,ますます衰退の一途をたどることになるであろう。


2 仮登記担保の成立(設定)


仮登記担保は,当事者の合意によって成立し,その効力は,仮登記によって公示される。仮登記担保の設定は,第三者(物上保証人)によってもなしうる。債権は,金銭債務に限定され[仮登記担保法1条],目的物も,土地または建物が一般的であるが,仮登記をなし得るものであれば,土地・建物以外でもよい[仮登記担保法20条]。この仮登記は,通例,「所有権移転請求権保全の仮登記」[不動産登記法2条2項]である。この登記は,所有権に関する登記として登記簿の甲区欄に記載される。仮登記担保は,単独で用いられることもあるが,実際には,同じ債権を担保するために,抵当権・根抵当権と併用して設定されることが多い。

仮登記担保は,特定額の債権のためだけでなく,根担保として設定される場合も少なくない。判例は,特別の事情がない限り,根仮登記担保権者は物件の適正評価額全部を把握できると解していたが,仮登記担保法は,強制競売等においては,その効力を有しない[仮登記担保法14条]としている。仮登記担保においては,債権額を登記する方法が存在せず,包括根抵当と同様,他の債権者を害するというのがその理由とされている。


3 仮登記担保の実行


仮登記担保の実行プロセスを優れた図解である[近江・講義V(2007)265頁]に倣って作成した図96に従って仮登記担保の実行を説明する。ただし,〔イタリック〕の部分は,本書で述べた仮登記担保のあるべき姿に即して解釈した筆者の独自の見解である。

仮登記担保法は,清算期間を清算金の支払いとは無関係に,機械的に2ヶ月と定めている。これに対して,本書の立場は,清算金の支払いまでが真の清算期間であり,債権者は,いわゆる清算期間(第1期)の2ヶ月が過ぎれば処分清算をすることが可能となるとともに,債務者も,清算金の支払いがある(第2期)までは,受戻ではなく弁済によって債務と仮登記担保を消滅させることができるというものである。

*図120 仮登記担保の実行の流れ
注:[近江・講義V(2007)280頁]に依拠して作成したもの
イタリック〕は,筆者の独自の解釈
A. 予約完結権の行使または停止条権の成就と清算金の見積額の通知
(a) 債務者の債務不履行と売買予約の完結

いわゆる代物弁済の予約(買戻付款つきの売買予約)の場合は,債務者が期限に弁済をしない場合に,債権者が仮登記担保の設定者に対して予約完結の意思表示をする。いわゆる停止条件つき代物弁済契約(停止条件つき・買戻付款つきの売買契約)の場合は,債務者の債務不履行によって条件が成就するので,特別の意思表示は不要である。もっとも,仮登記担保は抵当権の設定と併用されることが多いので,いずれにせよ,抵当権の実行を選ぶか仮登記担保を選ぶかの意思表示が必要となる。

(b) 清算金見積額の通知(2条通知)

仮登記担保の効力としての所有権移転を実現するためには,債権者は,さらに,仮登記担保法2条1項に基づく通知をする必要がある。

仮登記担保契約が目的物の所有権の移転を目的とするものである場合には,予約を完結する意思を表示した日,停止条件が成就した日その他のその契約において所有権を移転するものとされている日以後に,債権者が「清算金の見積額(清算金がないと認めるときは,その旨)」をその契約の相手方である債務者又は第三者(物上保証人)に通知し,かつ,その通知が債務者等に到達した日から2ヵ月(清算期間)を経過しなければ,その所有権の移転の効力は生じない[仮登記担保法2条1項]。

本書の立場では,2条通知は,清算手続きを透明にするための手続きであり,2条通知の到達からの2ヶ月間を,清算金の見積額が公正に決定されるための利害関係人による監視期間と位置づけている(第1期清算期間)。つまり,この期間が終了しても,条文の文言とは異なるが,所有権は債権者には移転しない。しかし,この期間の終了によって,債権者は,競売ではなく,処分清算,すなわち,市場での換価・処分を行うことができるようになる(第2期清算期間)。これが,仮登記担保法の下における処分清算の実現という,立法論に近い解釈論である。そして,換価・処分により買受人が目的物を買い受け,清算金額が支払われたときにはじめて,所有権が買受人に移転する。これは,競売の場合に,買受人の代金支払いによって物件の所有権が移転する[民事執行法79条]のと同じ原理である。このような解釈論は,一見,無謀のように思われるかもしれないが,不動産譲渡担保をコントロールするためには,極めて有効な解釈であると考えている。

この通知は,以下の2点を明らかにしてしなければならない[仮登記担保法2条2項]。

  1. 清算期間が経過する時の土地等の見積価額
  2. 債権等の額,すなわち,清算期間経過時の債権額および債務者等が負担すべき費用で債権者が代わって負担したもの(土地等が2個以上あるときは,各土地等の所有権の移転によって消滅させようとする債権およびその費用をいう)の額
B. 債務者の弁済と受戻権の保障
(a) 清算期間と弁済猶予期間

債務者・物上保証人に対する清算金の見積額の通知(2条通知)が到達してから2ヵ月間は清算期間とされており,その間は,所有権は債権者に移転せず,後順位債権者との利益調整が行われるが,この期間は,債務者にとっては,弁済の猶予期間としての意味をもっている。

本書の立場では,この期間を清算期間(第1期)と考えている。この期間が債務者にとって弁済の猶予期間となることは当然であるが,この期間が終了した場合でも,その後に清算金が支払われるまでは,債務者は物件の引渡を拒絶することも(同時履行の抗弁権),弁済によって担保権を消滅させることもできるのであるから,債務者にとっては,決定的な期間ではない。この期間は,むしろ,債権者が提示した清算金の見積額が公正なものかどうかを後順位担保権者が吟味し,実行手続きを通常の処分清算にするか,それとも,例外的な競売手続にするかを決定するための期間として位置づけるべきである。
(b) 清算金支払までの受戻期間

さらに,債務者・物上保証人は,清算期間経過後であっても,清算金支払債務の弁済を受けるまでは,債権等の額に相当する金銭を債権者に提供して,土地等の所有権の受戻しを請求することができる[仮登記担保法11条本文]。ただし,清算期間が経過した時から5年が経過したとき,又は第三者が所有権を取得したときは,この限りでない[仮登記担保法11条ただし書き]。

本書の立場では,この期間を受戻期間ではなく,第2期清算期間と考えている。この期間中に,一方で,債権者は,帰属清算ではなく,物件の換価・処分権に基づいて,市場での換価・処分を行うことができる。他方で,債務者は,清算期間(第1期)の場合と同様,受戻しではなく弁済によって担保権を消滅させることができる。これに対して,5条通知を受けた後順位担保権者は,もはや,競売を請求することはできない。
C. 後順位債権者の競売請求または物上代位権の保障
(a) 5条通知と後順位債権者の選択権

(i) 後順位債権者への通知(5条通知)

清算金の見積額の通知が債務者等に到達した時において,担保仮登記後に登記・仮登記がされている先取特権,質権若しくは抵当権を有する者又は後順位の担保仮登記の権利者があるときは,債権者は,遅滞なく,これらの者に対し,(1)「2条通知をした旨」,(2)「2条通知が債務者等に到達した日」および(3)「2条通知によって債務者等に通知した事項」を通知しなければならない[仮登記担保法5条1項]。この5条通知を受けなかった後順位債権者は,清算期間経過後も競売を請求できると解されている〈最二判昭61・4・11民集40巻3号584頁〉。

最二判昭61・4・11民集40巻3号584頁
 仮登記担保権者は,仮登記担保契約に関する法律2条1項所定の債務者又は第三者に対する通知をし,その到達の日から2月の清算期間を経過したのちであっても,同法5条1項所定の通知をしていない後順位担保権者に対しては,仮登記に基づく本登記の承諾請求をすることはできない。
 仮登記担保の目的不動産の競売による売却代金で共益費用たる執行費用,仮登記担保権者の被担保債権及び後順位担保権者の被担保債権に優先する債権を弁済すれば剰余を生ずる見込みのない場合であっても,右後順位担保権者に対する仮登記担保契約に関する法律5条1項所定の通知は不要とはならない。

(ii) 後順位債権者の立場の選択

これらの通知(5条通知)を受けた後順位債権者は,債権者が提示した清算金の見積額で満足する場合(例えば,自己の債権額が清算金によって弁済を受けうる場合)は,その清算金の上に物上代位を行うことによって優先弁済権を確保することができるし,債権者が提示した清算金の見積額に不満の場合には,清算期間内に限り競売請求をすることができる。

(b) 債権者の提示した見積額で満足しない場合(競売請求)

仮登記担保権者から清算額の見積額の通知(5条通知)を受けた先取特権,質権又は抵当権を有する者(後順位の担保仮登記権利者を除く)は,清算期間内は,これらの権利によって担保される債権の弁済期の到来前であっても,土地等の競売を請求することができる[仮登記担保法12条]。

競売手続が開始されると,仮登記担保は抵当権とみなされる。すなわち,仮登記担保は,担保仮登記のされた時にその抵当権の設定の登記がされたものとみなされ[仮登記担保法13条1項],もはや目的物をまるごと把握することはできなくなり[仮登記担保法15条1項],優先弁済権を取得するに過ぎなくなる。最高裁49年判決では,仮登記担保権者が先に私的実行を始めれば後順位抵当権者の競売を排除できるとしていたので〈最大判昭49・10・23民集28巻7号1473頁〉,この点でも,仮登記担保の旨みは小さくなったといわれている[内田・民法V(2005)553頁]。

もっとも,強制競売の開始決定が,清算金の支払の債務の弁済後(清算金がないときは,清算期間の経過後)にされた申立てに基づくときは,担保仮登記の権利者は,不動産の所有権を取得しており,したがって,その土地等の所有権の取得をもって差押債権者に対抗することができる[仮登記担保法15条2項]。

(c) 債権者の提示した見積額で満足する場合(物上代位)

(i) 物上代位と差押え

債権者から5条通知を受けた後順位債権者(仮登記後に登記がされた先取特権,質権又は抵当権を有する者)は,その順位により,債務者等が支払を受けるべき清算金(同項の規定による通知に係る清算金の見積額を限度とする。)に対しても,物上代位の手続により,その権利を行うことができる。この場合には,清算金の払渡し前に差押えをしなければならない[仮登記担保法4条1項]。

物上代位の目的物は,債務者が支払を受けるべき清算金払渡請求権であり,上記のように,清算金の見積額がその限度とされている[仮登記担保法8条2項]。

(ii) 清算金の支払に関する処分の禁止

清算金の支払を目的とする債権については,清算期間が経過するまでは,譲渡その他の処分をすることができない[仮登記担保法6条1項]。

清算期間が経過する前に清算金支払債務が弁済された場合には,その弁済をもって後順位債権者に対抗することができない。後順位債権者への通知(5条通知)がされないで清算金支払債務が弁済された場合も,同様とする[仮登記担保法6条2項]。

(iii) 清算金の供託

債権者は,清算金の支払を目的とする債権につき差押え又は仮差押えの執行があったときは,清算期間が経過した後,清算金を債務履行地の供託所に供託して,その限度において債務を免れることができる[仮登記担保法7条1項]。

供託がされたときは,債務者等の「清算金払渡請求権」に代えて,債務者等の「供託金の還付請求権」につき,同項の差押え又は仮差押えの執行がされたものとみなされる[仮登記担保法7条2項]。

債権者は,仮登記担保法15条1項の場合(競売開始決定によって仮登記担保権者が本登記を請求できない場合)を除き,供託金を取り戻すことができない[仮登記担保法7条3項]。

債権者は,債務者等のほか,差押債権者又は仮差押債権者に対しても,遅滞なく,供託の通知をしなければならない[仮登記担保法7条4項]。

D. 清算の手続と方法
(a) 清算金の支払義務

(i) 清算金の額の決定

債権者は,清算期間が経過した時の土地等の価額がその時の債権等の額を超えるときは,その超える額に相当する金銭(清算金)を債務者等に支払わなければならない[仮登記担保法3条1項]。ここにいう土地等の価額とは,債務者に通知した見積額ではなく,清算期間経過時の客観的な価額である。もっとも,債務者・物上保証人が争わないときは,清算金はその見積額によって定まる。

(ii) 清算金の見積金額の通知の拘束力

債権者は,清算金の額が通知した清算金の見積額に満たないことを主張することができないし,後順位債権者も,清算金の額が見積額を超えることを主張することができない[仮登記担保法8条]。

(iii) 土地等の価額が債権等の額を超えないときの債権の一部消滅

通常の場合とは反対に,清算期間が経過した時の土地等の価額がその時の債権等の額に満たないときは,債権は,反対の特約がない限り,その価額の限度において消滅する[仮登記担保法9条]。つまり,債務者としては,相殺予約の完結権を行使しなければ,それで債務をすべてまぬかれることができる。

(b) 同時履行の関係・留置権の発生と清算方式

この清算金の支払債務と土地等の所有権移転の登記及び引渡しの債務の履行については,同時履行の抗弁権の規定が準用される[仮登記担保法3条2項]。

本来,清算の方法には,債権者が目的不動産を第三者に処分し,その売却代金の中から優先弁済を受けるという「処分清算」と,債権者が不動産を取得し,それを自ら評価してその超過額を債務者に返還するという「帰属清算」がある。しかし,仮登記担保の場合には,同時履行の抗弁権が認められていることから,帰属清算方式が原則とされることになった。

もっとも,仮登記担保権者が清算金を支払わないまま不動産を第三者に譲渡したときは,債務者・物上保証人は,留置権をもって不動産の譲受人に対抗できる〈最一判昭58・3・31民集37巻2号152頁〉。したがって,処分清算方式をとったとしても,債務者・物上保証人は保護されることに変わりはない。

(c) 片面的強行規定

これらの規定に反する特約で,債務者等に不利なものは,清算期間が経過した後になされたものを除き無効である[仮登記担保法3条3項]。清算期間経過後の債務者に不利な特約を許すのは,流質契約の場合と同様の趣旨に出るものである。ただし,債権者が,あらかじめ本登記に必要な書類を設定者から預かり,清算金を支払わずに本登記をした場合については,清算期間経過後に本登記を行った場合でも,債務者・物上保証人は,同時履行の抗弁権を奪われており,登記抹消請求権を有すると解されている。


4 仮登記担保の効力


A. 本登記請求
(a) 後順位債権者がいない場合

債務者・物上保証人が清算金の見積額に満足しており,後順位債権者がない場合には,債権者は,清算期間経過後に清算金を支払って,債務者または物上保証人に対して,仮登記を本登記にするから手続に協力するよう要求することができる。

(b) 後順位債権者が清算金の見積額に満足している場合

(i) 清算金の供託から1ヵ月を経過する前の場合

債権者が仮登記をした後に目的不動産を担保にとった後順位債権者に対しては,清算金を供託してから1ヵ月を経過する前は,仮登記担保権者は,不動産登記法の原則に則り,その登記を抹消する手続に協力するよう要求できる。これを本登記承諾請求という。

この場合,仮登記担保権者が仮登記を本登記に改めるには,まず,2条通知が債務者等に到達した時において,担保仮登記に基づく本登記につき登記上利害関係を有する第三者があるときは,債権者は,遅滞なく,その第三者に対し,2条通知をした旨,および2条通知により債務者等に通知した債権等の額を通知しなければならない[仮登記担保法5条2項]。

次に,仮登記担保権者は,不動産登記法の規定に従い,後順位債権者の承諾書または後順位債権者に対抗することができる裁判の謄本を添付しなければならない[不動産登記法105条による146条1項の準用]。

(ii) 清算金の供託から1ヵ月を経過した後の場合

担保仮登記の権利者は,清算金を供託した日から1ヵ月を経過した後にその担保仮登記に基づき不動産登記法105条1項に規定する本登記を申請する場合には,同項において準用する同法第146条1項の規定にかかわらず,後順位債権者(後順位仮登記担保権者を除く)が第4条1項の差押えをしたことおよび清算金を供託したことを証する書面をもってこれらの者の承諾書に代えることができる[仮登記担保法18条本文]。

いずれにせよ,後順位債権者が清算金の見積額に満足せず,競売を請求した場合,すなわち,本登記の申請に係る土地等につきこれらの者のために担保権の実行としての競売の申立ての登記がされているときは,本登記請求はできない[仮登記担保法18条ただし書き]。競売手続においては,仮登記担保権者は抵当権者とみなされるに過ぎないからである[仮登記担保法13条1項]。

B. 強制競売等における仮登記担保の効力
(a) 抵当権の擬制

担保仮登記がされている土地等に対する強制競売,担保権の実行としての競売又は企業担保権の実行手続(以下「強制競売等」という。)においては,その担保仮登記の権利者は,他の債権者に先立って,その債権の弁済を受けることができる。この場合における順位に関しては,その担保仮登記に係る権利を抵当権とみなし,その担保仮登記のされた時にその抵当権の設定の登記がされたものとみなされる[仮登記担保法13条1項]。

(b) 担保仮登記の届出

所有権の移転に関する仮登記がされている土地等に対する強制競売又は担保権の実行としての競売において配当要求の終期が定められたときは,裁判所書記官は,仮登記の権利者に対し,その仮登記が担保仮登記であるときはその旨並びに債権(利息その他の附帯の債権を含む。)の存否,原因及び額を,担保仮登記でないときはその旨を配当要求の終期までに執行裁判所に届け出るよう催告しなければならない[仮登記担保法17条1項]。

差押えの登記前にされた担保仮登記に係る権利で売却により消滅するものを有する債権者は,前項の規定による債権の届出をしたときに限り,売却代金の配当又は弁済金の交付を受けることができる[仮登記担保法17条2項]。

(c) 優先弁済権の範囲

担保仮登記の権利者が利息その他の定期金を請求する権利を有するときは,その満期となった最後の2年分についてのみ,同項の規定による権利を行うことができる[仮登記担保法13条2項]。

担保仮登記の権利者が債務の不履行によって生じた損害の賠償を請求する権利を有する場合において,その最後の2年分についても,これを適用する。ただし,利息その他の定期金と通算して2年分を超えることができない[仮登記担保法13条3項]。

C. 根担保仮登記の効力

仮登記担保契約で,消滅すべき金銭債務がその契約の時に特定されていないものに基づく担保仮登記は,強制競売等においてはその効力を有しない[仮登記担保法14条]。

D. 法定借地権

土地及びその上にある建物が同一の所有者に属する場合において,その土地につき担保仮登記がされたときは(建物のみに担保仮登記がなされた場合を除く),その仮登記に基づく本登記がされる場合につき,その建物の所有を目的として,地上権ではなく,土地の賃貸借がされたものとみなされる[仮登記担保法10条1文]。この場合において,その存続期間及び借賃は,当事者の請求により,裁判所が定める[仮登記担保法10条2文]。建物のみに担保仮登記をする場合について規定がなされていないのは,当事者間で条件つきで土地利用権を設定するのが通常であるとの理由によるものとされている。


□ 学習到達度チェック(27) 仮登記担保 □


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