作成:2015年11月3日
明治学院大学法学部教授 加賀山 茂
少子・高齢化が急激に進む中,大学においては,入学者が減少し,組織の維持・発展が困難な状況が生じている。このような状況の中で,ある大学が生き残るためには,高校生,その保護者等の関係者に対して,その大学が他の大学と比較して優位にあることを証明することが求められている。そして,その大学が他の大学と比較して優位であるためには,第1に,その大学の教員の質が他の大学よりも優れていること,第2に,その大学の卒業生の質が他の大学よりも優れていることを客観的に証明しなければならない。
後者の卒業生の「品質」保証については,これまでも,厳格な成績認定と卒業認定による客観的な評価基準が策定されており,それを実施することで,差別化の実現が可能である。しかし,前者の大学教員の「品質」保証については,社会が納得し,高校生およびその保護者等の関係者に対して,容易に理解できる評価基準は,いまだに策定されていない。
したがって,大学教員の「品質」保証を実現するためには,大学教員が以下のような「職業倫理規定」に従って職務に専念していることを社会に公表するとともに,FD会議において,その実践活動を相互に評価し,教員の質の確保が行われていることを社会に示すことが有効であると思われる。
そもそも,誰も真似のできない研究成果を挙げるために,大学教員には,一方で,ストレスのない理想的な職務環境が社会から与えられているが,そのことは,他方で,独創的な研究によって社会貢献をすることなしに,よい環境だけを享受するという,質の悪い大学教員が生まれる危険性も秘めている。すなわち,大学の自由な研究環境は,「学問の自由」の名の下に,大学教員に腐敗(独創的な論文を執筆しない自由)が生じる危険性を秘めていることを全ての大学教員が自覚する必要がある。
そのことを未然に防止するために,すでに,一部の医学部においては,教員が,長い伝統によって培われてきた「ヒポクラテスの誓い」を継承した「ジュネーブ宣言」に則り,良心に従って職務を行うことが実践されている。
そこで,法学部においても,医学部における「ヒポクラテスの誓い」を参考にして,法学部の教員に適した「職業倫理規定」を作成し,それを着実に実践することが,大学の社会的責任を果たす上でも,さらには,大学の客観的評価を高めるためにも必要であると考える。
以上の点を考慮するならば,法学部の教員は,その就任に際して,以下の「職業倫理規定」,いわゆる「法学部におけるヒポクラテスの誓い」を立てるとともに,定期的に行われるFD会議において再確認することにする。このことを通じて,法学部の教員の質が向上し,社会的に高い評価を得ることができると信じる。
法学部教員は,就任に際して,法学部の名誉にかけ,全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓うべきであると,私は考えている。
私は,法学部の教員として,“Do for others”の精神を尊重し,この職業倫理規定,および,学則に従って,職務を誠実に遂行することを誓います。
私は,社会の平和と人々の幸福を実現するため,弱者救済,個人の尊厳の視点から教育・研究を行ない,コンスタントに先進的な学術論文を公表し,FD会議で報告することを誓います。
私は,恩師たちに対して尊敬と感謝の念を捧げるとともに,同僚たちを兄弟姉妹とみなし,教員と職員とが協力し合い,互いに生き生きと働くことのできる組織環境を維持・発展させることを誓います。
私は,高等学校での法教育の実践,および,国内・国外を問わず,他大学の学生との交流の発展に努め,優秀な人材を入学させるために尽力すること,並びに,その実践記録をFD会議で報告することを誓います。
私は,独立研究能力を有する学問と教育の後継者を養成して,社会に輩出するよう努力することを誓います。
私は,職務の遂行に当たっては,常に,学生の人格と知的水準を向上させることを第一に考慮し,一方で,学生の個別の対応においては,差別と偏見を排して,秘密を厳守するとともに,他方で,教育方法,講義内容は,すべて,社会に公表し,社会に貢献することを誓います。
私は,5年ごとに第2条,および,その他の誓いを実現しているかどうかについて,職務上の地位を考慮して総合的に検討し,もしも,2度にわたってこの規定を遵守していないことを自覚したときは,直ちに学部長に辞表を提出することを誓います。