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『法と経営学研究』創刊の辞

作成:2016年2月17日
加賀山 茂
金城 亜紀


法学および経営学は,ともに,より良い社会や組織を築くことを究極の目的として発展した学問である。二つの学問は,理論的に純粋な抽象論を追求するばかりでなく,現実に具体的に応用できることを目指してきた点でも共通点が多い。しかし,実態として法学と経営学はそれぞれが独立した体系として発達し,相互に交流することが必ずしも活発ではなかった。このような断絶は,残念ながら実務家と研究者の間にも存在している。他方,社会や組織は,法学と経営学,実務家と研究者が協力することなくして問題を特定し解決することが困難な様々な新しい事象に直面している。

このたび創刊することになった『法と経営学研究』(以下,本誌という)は,このような学問上の壁と主体者間の溝を乗り越えることにより,「法と経営学」という新しい学術領域を形成することを目標として誕生した。このような先駆的な試みが日本で行われるのは,急速な少子・高齢化,情報化等に直面し,世界に先駆けて多くの課題を解決することを迫られている課題先進国として必然かもしれない。法学各分野で多くの優れた学術雑誌を刊行している信山社から,『法と経営学研究』を刊行する狙いと本誌の特徴について述べたい。

第一に,本誌は狭義の「法」と「経営学」をそれぞれ独立したものとして扱わず,既存の枠組みに収まりきらない複合的な課題を対象とする。そのような分野は,現在も少なからず存在するばかりでなく,今後も増えることが予想される。例えば,大企業を前提として法的枠組みが導入された企業統治論の中小企業への適用,忠実義務または善管注意義務の個別主体ごとへの応用,顧客からのハラスメント被害に対応する労働者の保護,国際資本規制と各国の金融機関の経営,イノベーションを促進する知的財産権の保護などが考えられる。したがって,具体的な接近方法も,探求の対象と同様,萌芽的かつ挑戦的になろう。既に確立された定量・定性研究に加え,事例研究や歴史的なアプローチも含め,様々な手法を駆使した研究成果を歓迎する。

第二に,本誌は寄稿者と読者を幅広くとらえ,研究者のみならず,必然的に実務家も対象に含まれる。本誌は,法と経営学が相互に関連する領域において,実務家が日々の仕事を通して抱く問題意識を,研究者と力を合わせて学術的に理論化・体系化する「場」となることを目指したい。その結果,研究者と実務家が理解を深め,相互の強みを活かしながら刺激を享受することが可能になろう。

第三に,本誌は公募による投稿を広く求める。査読論文に関しては,編集委員会は,査読委員会と協力しながらその採否を公正に決定する。投稿論文の審査は本誌の理念に合致している点を尊重し,査読の過程を通して投稿者と査読者の丁寧な対話をはかりながら,高い水準の論文を多く掲載したい。投稿手続の詳細は投稿規定を参照していただきたい。

以上の趣旨を踏まえ,多くの方々が,投稿等を通じて本誌に積極的に参加することにより法学と経営学,実務と研究の間の建設的な対話と協力を深め,ひいては,新たな学問領域の発展に貢献されることを期待する。


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