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ビジュアル民法講義

新しい学習理論(インストラクショナルデザイン)に基づいて制作されたわが国で最初の法学ビデオ教材シリーズ@

民法入門

ロングバージョン(60分)

作成:2013年5月5日

明治学院大学法科大学院教授 加賀山 茂


60分で民法の全体像を学ぶ(概要)

民法は,「市民生活の基本法」といわれながら,条文数の多さ(1,044条)もあって,法律の中でマスターするのがもっとも困難だと言われている。

このビデオでは,最新の理論研究に基づいて,民法の学習目標を第1レベル(一般法と特別法との関係の理解(民法484条と574条との関係)),第2レベル(本当の要件と見せかけの要件との区別(民法770条の要件)),第3レベル(法原理に基づいて法律要件を法律上の推定の前提と読み替える方法(民法612条の要件))の3段階に分類することによって,民法学習目標のレベルを明確にしている。

その上で,それぞれの学修到達目標を達成するためには,集合論の「ヴェン図」,議論の「トゥールミン図式」,法律家の思考方法としての「アイラック(IRAC)」を利用することが有用であることを,法科大学院の学生を対象とした特別講義によって実践的に示している。



はじめに −ビデオ教材作成の意図−


1.民法を苦手とする学生が多いのはなぜか

01 民法の苦手意識を克服するために

学生さんの話を聞いていますと,「刑法はわかりやすいけれども,民法はなかなか理解が難しい」といわれる方が多いんですね。

それはなぜかというと,刑法の場合には,条文数が264条というぐあいに比較的少ない。しかも,総論と各論にきれいに分かれているのでわかりやすい。

ところが民法の場合は,これに比べて1,044条という条文がありまして,しかも,編別が,総則,物権,債権,それから,親族,相続というぐあいに,多くの量を理解するのが大変だということだと思います。

〔→民法と刑法との違いについて興味を感じたら,「民法と刑法との違い−類型論をカバーする一般法の魅力−」(2001年11月29日) を参照するとよい〕

2.民法の苦手意識を解消するためにはどうしたらよいか

「全体を理解するにはどうしたらよいのか?」ということなんですけれども,このビデオでは,第1部で,民法の全体像を系統図,これは,植物学とか動物学でよく使われている系統図を使って〔例えば,民法の各編の系統図〕,全体像がわかりやすくなるように,図解をするという試みをしています

〔→最も高度な図解であるアニメーションに興味を感じたら,副教材:「法教育におけるアニメーションの効用(PowerPoint)」(2012)を参照すること〕。

3.民法が楽しくなる学習方法の提示

それから,第2に,解釈の方法ですけれども,これが非常に複雑なために,「ヴェン図」という集合論の図をうまく使って,どのような解釈〔例えば,第3レベルの民法612条の解釈〕でも,その事例〔例えば,賃貸借の解除ができるかどうか〕に応じてできるように,類型化とその方法を詳しく説明しています〔ロング・バージョン〕

〔→ヴェン図の利用に興味を感じたら,副教材:「ヴェン図を利用した民法学習法(PowerPoint)」(2013)を参照すること〕。

第1部 民法の全体像


第1章 講義の概観

02 講義の概観と民法の位置づけ
概略はショートバージョン02へ

今日は,民法入門ということで1時間講義をしたいと思います。

この講義の特色は第1レベルから第3レベルということで,ちょっとレベルを考えてみました。

第1レベルっていうのは,パンデクテン方式と言われる民法の特色ですね総論と各論,その間を行き来して,適切な条文が適用できる条文を見つけるという,そういうレベルですね。

それから第2レベルっていうのは,要件の中には,包括的な要件と,列挙されている個別的な要件があって,それをきちっと区別できるかということで,〔民法〕770条,これは裁判上の離婚原因について,その話をする。

それから第3レベルというのは,〔例えば民法612条のように〕条文では何々ができるとか書いてあってもですね,それをできない場合があるというのを見つけて,反対の結論を導ける。

そうすると,これはレベルが非常に高くなっているということで,この第3レベルまで到達するためにどのような学習をしたらいいのかということを,考えていきたいと思います。

第2章 民法の位置づけ

皆さんが持ってる六法ですね,ポケット六法であるとか,デイリー六法とか,それはどのくらいの法律が収録されていますか,国会で制定されて今有効な現行法といいますけれども,法律の数はいくらなのか?

〔→現行法令の数に興味を感じたら,「法令データ提供システム」の「お知らせ」を参照するとよい。〕

そうすると皆さんが持ってる六法っていうのは,1割ぐらいの法律が載ってるということになります。

1.公法と私法の区別と民法の位置

法律をどのように分類するかということなんですけれども,この沢山ある法律のなかで,国家と市民との間の関係,縦の関係というのを規制しているのが公法ということになります。

じゃあ市民と市民との関係は何が規律しているかというと,これが私法ということでこの中で,一番基本的になる一般的な法律というのが民法ということになります。

民法の位置付けとしては,全体の法律の中の「私法の一般法」,「市民生活の基本法」となると思います。

2.民法の全体像と体系

03 民法の体系とパンデクテン方式
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民法の実際の体系をですね,少しずつ見ていきたいと思うんですけれども,総則はですね,また総則に通則っていうのがあるんですが,信義則であるとか権利濫用を禁止するとかですね,そういう通則がある。

あとはその権利の主体,客体それからこの2つに,主体が働きかけていろんな権利を変動させるという形で,体系が作られているわけですね。

講師:権利の主体ということになると,何と何がありますか?
学生H:自然人と法人です。
講師:そうですね自然人と法人がある。権利の客体は何でしょうか?
学生H:物です。
講師:物ですね。それから,権利を変動させるものは法律行為と期間と時効と,この法律行為,人が働きかけるという場合には,それはどういうものから成り立つかっていうことはどうでしょうか?
学生H:意思表示,代理,条件,期限です。
講師:それから時効,時の経過によって効力が,権利が変動する場合には?
学生H:はい,取得時効と消滅時効です。

それで,次は物権を少し詳しく見ていくことにします。物権の場合にも,物権も一番最初は総則なんですね。

講師:今度は各則になるんですけれども,各則はどのような具合に分かれているでしょうか?
学生H:はい,占有権と本権に分かれてます。
講師:そうですね。占有権っていうのは本権を証明したり保護したりする。じゃあその本権で,物権としての本権は,まず大事なのはなんですか?
学生H:所有権です。

はい,所有権ですね。所有権っていうのは,使用・収益・換価・処分と4つの権利を持っている。そのうちの使用収益だけしか持ってない〔物権は,権能を制限された物権〕という意味で,制限物権という言い方もできるわけですね。

講師:用益物権にはどのようなものがありますか?
学生H:地上権,それから永小作権,地役権,入会権です。
講師:そうですね。それから担保物権,これは次の午後の担保法革命のところでまた詳しくやりますけれども,項目だけ挙げていただくと,どうなりますか?
学生H:はい。留置権,先取特権,質権,抵当権です。
講師:そうですね。債権を見ていきます。債権も,まず,ふたつに分かれる,どうでしょう?
学生H:債権総論と債権各論に分かれます。
講師:そうですね,各論にわかれる。それで各論は,これあのえっと債権を発生する原因を4つにまとめているわけですね。契約,それから?
学生H:事務管理,不当利得,不法行為です。
講師:そういうことですね,この4つの原因で,債権というのが発生する。そのうちの契約っていうのをもう少し詳しくみると,契約の総論と?
学生H:契約各論です。
講師:各論に分かれていて,総論は?
学生H:〔契約〕総論は,成立,効力,解除です。
講師:〔債権〕総論は,まず?
学生H:はい,債権の目的,債権の効力,多数当事者の関係,債権の譲渡,債権の消滅です。
講師:そうですね。そういう具合に分かれていて,債権の効力は対内的な効力と対外的な効力,それから多数当事者の関係っていうのはどのような具合に分かれますか?
学生H:可分・不可分債権,連帯債務,保証です。
講師:保証という具合に分かれているということですね。消滅は?
学生H:弁済,相殺,更改,免除,混同です。
講師:それで,対内的効力というのはどういうことになりますかね?
学生H:履行の強制と,損害賠償です。
講師:そうですね,対外的効力はどのようなものがありますか?
学生H:債権者代位権と詐害行為取消権があります。

はいそうですね,第三者に対して直接履行請求できる債権者代位権であるとか,わざと財産を逃していくとどこまでも追及できる〔「詐害行為取消権」〕という対外的効力を債権も持っているというとこが大事ですね。

それから契約ですけれども,契約は13の〔典型〕契約があるわけですけれども,それも体系的に構成されていて,財産権を移転するというような契約と財産権を提供しない,役務を提供するものが中心となるような契約とがあります。

財産権を移転するものとしては,返還をしなくていい,財産権が完全に移転するものと,一旦移転するんだけれども,返してくれと。お金を貸すっていうのは返さなくてはいけないっていうことになります。

講師:それはなんという契約ですか?
学生H:消費貸借契約です。
講師:そうですね。消費貸借契約。それから物の利用も無償と有償があるし,役務の提供も,従属的なのか独立的なのか,事業するのか紛争解決するのかということで分かれておりますが,まず,返還が不要である財産権移転の契約というのを無償だと?
学生H:無償だと贈与契約。
講師:はい,贈与になりますね,有償だと?
学生H:売買契約とあと交換。
講師:そうですね,お金で交換するのが売買。物と交換するのが交換ということになります。それから物の利用ですね,返還しなきゃいけない,無償で借りるということになると?
学生H:使用貸借です。
講師:使用貸借ですね。それから?
学生H:有償だと,賃貸借です。
講師:賃貸借になります。役務の提供でまあ相手方の支配下において役務を提供するのはなんでしょう?
学生H:雇用です。
講師:はい。今度は,その支配下ではなくて,自分の裁量も非常に強くてですね,仕事を完成させるとなると?
学生H:請負。
講師:それから?
学生H:委任,寄託です。
講師:寄託ですね。それぞれ,寄託の場合はちょっと特色があって,この黄色で書かれているというのは物を返さなくてはいけない。それから事業を展開するということになると?
学生H:組合と,終身定期金です。
講師:はい,今問題となっている年金ですよね。それから紛争の解決を自主的にやるとなると?
学生H:和解契約です。
講師:13の〔典型〕契約が位置付けられているということで,体系的に位置付けられていると。
講師:最後に,親族相続という家族法の問題ですけれども,親族法も同じようにパンデクテンシステムですから,いちばん最初にあるのは?
学生H:総則です。
講師:そうですね。総則の後,婚姻と親子と?
学生H:親権とそれから後見,補佐及び補助と扶養です。
講師:そうですね,扶養。これが親族の全体像になって,婚姻は更に分かれて?
学生H:婚姻の成立,婚姻の効力,夫婦財産制,離婚です。
講師:それから親子は2つに分かれて?
学生H:親子は実子と養子に分かれてます。
講師:そうですね。相続の方ですけれども,これもやはり?
学生H:総則があって,相続人,相続の効力,相続の承認放棄,財産分離,相続人の不存在,それから遺言と遺留分です。
講師:その通りですね,で,相続の効力については?
学生H:まず総則,それから相続分,そして(最後ですね),最後は,遺産分割です。
講師:その通りです遺産分割ですね。はい。そして遺言は?
学生H:遺言はまず総則,遺言の方式(方式ですね),はい,遺言の成立,あ,効力ですね。遺言の失効,最後が遺言の撤回・取消しです。

3.民法の構造としてのパンデクテン方式

はい,そういう形で,全てパンデクテン方式と。総則があって,各則が連なっていると,そういう形になってますね,それで中見ていくと,遺言の場合でも総則があると。そういう「入れ子構造」ということになっています。

第3章 民法の目的と機能

1.法の女神の像が語る裁判の全体像

04 テミス像に見る民法の目的と機能
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このテミスの像をみると,上手く説明ができるんですね。

道徳と違って剣持ってますよね。要するに強制力というものを持っている。それから単なる暴力ではなくて,秤を持っていて,当事者の言い分をよく聴いて,公平の立場から結論を出そうと努力している。

それから,目隠しをしているんですけれども,で,どういうことかっていうと,「弁論主義」ということで,書かれたもの出してきても読みませんよと。ちゃんと口で言って下さい。口で言うっていうのは非常に大事です。

今日もそうですけれども,質問した時にですね,下を見たら答えれるんですよ。自分覚えてなくても。知らなくても読めばいいわけだから。だけれども,「顔を見て答えて下さい」って,口で言おうとすると,頭の中に整理されたことしか口から出てきませんから。本当の実力が示されるということですね。

ですから,テミスは書面を提出してもですね,「それはだめ」と,「ちゃんと弁論して下さい」と言っていると,そういうな具合に私は解釈してますけれども。そういう形で,この像で,「法の目的」っていうのを上手く説明する。

イエーリングもそれを使っているわけで,

正義の女神は一方の手には権利をはかる秤を持ち,他方の手には権利を主張するための剣を握っている。
秤のない剣は裸の暴力であり,剣のない秤は法の無力を意味する。

という形で上手く,〔法の目的を〕説明していると思うんですね。

2.法律家の思考方法

法律家っていうのは,イエーリングは,手段としては,「闘争」だと言ったんだけれども,そうではなくて,「議論」によって問題を解決すると,位置付けるべきではないのかと。

第4章 法解釈の方法論

05 法解釈の方法論
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解釈っていうのは,どういう解釈があるのかというのを,ちょっと例示してみたんです。

「車馬通行止め」という公園の入り口に,「車馬通行止め」っていう,立て札が立っていたとする。これが法律と同じように考えて,「法律にのみ拘束される」という判断をしなきゃいけない〔憲法76条3項〕,という状況に皆さんが立ったとしますね。

その時に,車とか馬が公園に入ろうとしたらだめですよと,これは文理解釈という形で止めれますよね。ところが,「車でもない馬でもないものが来た時にどうするか」,ここが解釈の余地になるわけですね。

講師:例えば,ここで今ひとつ示しているのは,牛が来たと,いうわけですね。どうするのかと,いうことですね。車でもない馬でもないですね牛は。ルールに拘束されているわけですから「車馬通行止め」だから車か馬かどっちか言わないといけない,どうです,牛はどうします?
学生A:牛は馬と同様に4足歩行であって,大きさも同様に大型の動物であるということから,子どもに被害が及ぶ可能性がある。
講師:だから馬と同じように扱うんだということで,ま,この概念を,馬の概念を少し,家畜,大型の家畜という形で概念を少し膨らませるっていうのが拡大解釈
講師:それに対して縮小解釈というのが,子どもがおもちゃのトラックもって公園に入ってきたときに止めませんよね。車なんだけれども,おもちゃはいいよね。馬でも,木馬みたいなのね,子どもが木馬に乗ってきたって,それはまあいいじゃないかと。
講師:次に類推解釈として,どんなのがあるかと,これだいぶ考えたんですけれども,ちょっとよく見てくださいね。
講師:こういう形で,いかにも飛行船みたいでしょ。飛行船,ツエッペリンじゃないですけれども,大型のがこういうふうに,わーっと降りてこようとしていると,ちょちょちょっとという,これどうしますかということですけれども?
学生A:馬でも車でもないんですけど,乗り物であってかつ大型である,でそれが落ちてきたりとかすると危険が及ぶ可能性があるので,そういうものは,車や馬と同様に扱ってあげた方がいい。
講師:飛行船となると全然違うものなので,「類推」という言葉をよく使いますね。本質は同じかもしれないですけれども。
講師:じゃあもうひとつですね,人間がやってきたと。これはどうしますか?
学生A:人間っていうのは対置概念なんで,これはまあ子どもに危害を及ぼす可能性もないものと考えて,それはもう対比されてるものであると。
講師:そうですね。こう人間っていうのはここにこの二つに当たらないからいいんだというだけじゃなくて,やっぱりちょっと判断してるわけね。

例えば,飛行船っていうのはこの2つに当たらないから本来だったら入っていい,人間と同じように入っていいはずなんですね。でもこれ〔飛行船〕は入っちゃいけない〔類推解釈〕,こっち〔人間〕は入っていい〔反対解釈〕というのはなぜかっていうのは,やっぱり必要ですよね,解釈っていうのは。

人間っていうのは,元々この立看板というか立て札は誰のために書いてあるかっていうとこれ人間に読ませるわけで,車も馬も読めないわけですよね。人間にとって,「車とか馬で来てはいけませんよ」ということを言っているわけですから,人間がそのままでくればいいということになります〔反対解釈〕。

公園で子どもが遊んでいるっていう状況の下で,「車馬通行止め」というのは何かっていうと,子どもが遊んでいるのに危害を加えないようにね,例えば車っていうのは,スピードと威力持ってますね〔文理解釈〕。でこちらも馬力持っているわけで,危ないと〔拡大解釈〕。

それから飛行船っていうのも落ちてくると子ども怪我するかもしれないと〔類推解釈〕。しかし同じ車でもおもちゃとかいう危害を加えないだったらいいでしょうと〔縮小解釈〕。それは人間も同じだよね〔反対解釈〕という,そういう形で,全体が分かってないと,実は解釈っていうのはできない。

1.法律家の思考方法としてのIRAC

06 アイラック(IRAC)
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法律家っていうのはどのような思考方法を採っているのか。

紛争解決するためにどのような思考方法を採っているのかというと,これ「アイラック(IRAC)」で考えてるということですね。だから事件が出てくると,それどういう事件なのかっていうことを事実をまず事実を何かってことをよくみて,何が論点かっていうのを発見しようとする。その時にルールの目からみると大事な事実が見えてくるという,ここも行きつ戻りつとなっているんですね。

イシュー(Issue)からルール(Rule)を見つけてそれを適用するというのを法的分析の能力と。

それからこっからがこれじゃすまない。原告被告言い分が違うんだからどっちも満足できるようなその回答を導きだすために議論をしてみましょうっていうのがここの部分ですね。

これをアイラック(IRAC)と。イシュー(Issue),ルール(Rule),アプリケーション(Application),アーギュメント(Argument),コンクルージョン(Conclusion)という形で考えるというのが非常に重要だということになります。

最後にまとめますけれども,論文を書く時にも問題を提起して,自分はこう考える仮説ですね,立てておいて,それでいろんな問題についてこんなに上手く解決ができるでしょう,反対論があるかもしれないけど,こういう形で上手くいきますよっていう最後にそれぞれの論じたことをまとめるという論文の書き方にも通じるということで,このアイラック(IRAC)さえ理解して,何か問題が出たらアイラック(IRAC)で書いておけば満点がとれる。

そういうものなので,内容はそのあと大事ですけれども,形式はここで書くと世界中全ての人が納得できる形式をここで作り出すことができる。だから論文で迷ったらですね,アイラック(IRAC)で書くという形で頑張ってみてください。

先程の「行きつ戻りつ」というのはですね,ルールの目からみると重要な事実が浮かび上がってくるんですけれども,事実がわかると今度はルールが「これでいいのか」という問題があって,いや他にも事実があるぞということになると,あ,このルール適用できるじゃないかと。

じゃこのルールとこのルールと,こっちは原告が有利だけどこっちは被告が有利だよね。どちらがいいんだろうということを議論するという形で事実とルールとは常に,相関的な関係にあるということですね。

2.判決三段論法からトゥールミンによる議論の方法へ

三段論法。これは概念的には非常に優れているんですけれども,この大前提が民法709条のルールで小前提で事故を起こしたと,損害が発生したのでその損害賠償をしなさいという結論を出せるという具合に,全体の枠としては非常に優れたものなんです。

けれども大前提で「全てのなになにがこうだ」と言えることはそんなに多くないので,だいたいそうだよねっていうことしかいえないことが多いんですよね。

そう「だいたいそうだよね」っていうことを論理としてきちんと構築することができると言い出したのがトゥールミン((Stephen Toulmin,1922-2009))という人で,法律学の議論というのはこのトゥールミンの議論の方法を使うということに,落ち着くだろうと思います。

それでトゥールミンの方法っていうのは「データ(Data)」からその人は何が言いたいのかっていうことをいうんですけれども。ソクラテスは人間である,だから死ぬっていってもなぜっていうそこに理由が「論拠(Warrant)」っていうのが必要ですね。絶対と言うわけじゃなくて,人間っていうには普通は死にますけれども将来的に遺伝子を医療操作して死なない人が出てくるかもしれないし,ここの場合ではソクラテスっていう哲学の神様として考えているんだということになれば,要するに多分そうだねっていうのがひっくり返るということがあり得る。

万物は流転するが真理は生き続けるのは「裏付け(Backing)」をすると,〔生〕物であるとか人であったら確かに死ぬんだろうけれども,真理のことを哲学のことを言っているのであればひっくり返るということもありえるということですね。こういう形で議論を「反論(Rebuttal)」を許す論理としてというのが最近では有力になっているということです。これを法学部では使いましょうということですね。法律では使いましょうと。

3.実例による民法解釈のプロセス(最三判平13・11・27民集55巻6号1380頁)

07 ★★★★最難問に挑戦してみる

実際に難しい例をひとつ考えてみよう。

売主が依頼した測量会社が行った測量ですね,にミスがあって売主のほうが悪かったわけですね。59.86平方メートル少なく計算されたんですね。だから,数量指示売買なのでこの平方メートルに単価〔15万7,296円〕を掛けて値段が算定されるんですけれども,本来もっと多かったそのと面積なのに,少ない面積が計上されたもんですから,〔本来の値段である6,286万余円〕値段がぐーんと下がって〔5,345万余円〕売買代金となってしまった。それから結果的には941万円もですね,単価をかけた正しい面積に単価を掛けたものよりも941万も安い値段が契約書に書かれてしまった。

それがわかったので売主のほうとしてはですね,申し訳ない,私達が間違ったんだけれども,契約自体が数量指示売買ということなので,その単価に面積をかけた面積間違っていたので「すみません」と。「不足してました」。「追加でお金〔941万円〕払って下さい」というのが売主の主張ですね。

それに対して買主は,「いやいや契約書にはその値段でいいと書いてあったんだから,契約通りのお金を払ったんだ」と。「適正な契約の履行なんだからそれはその原因作ったのあなたなんだからミスは売主側にあるんだからそれは応じられませんよ」というこういう紛争なんですね。

これは非常に難しい問題を投げかけているだろうと思います。

講師:これをですね,どう考えていったらいいのかということで,数量に間違いがあるっていうのは2つある。不足の場合と超過している場合だと思うんですけれども,不足している場合についてはですね,これはちゃんと条文がある。565条なんです。
学生E:この条文は,買主が数量不足であることを認識したときは契約を解除することができてまた受け取った時には数量不足ということで,代金減額を請求することができる。
講師:そういうことですね。ところが本件はこれじゃない。本件は数量が超過してると。沢山もらいすぎたわけですね。その場合にどうすればいいかについて条文ありません。
講師:だだったらどうしたらいいのかということになると,沢山のものを押し付けられた時には嫌だということで受け取りを拒絶して,この少ないものちょっとしか持ってこなかった場合に,「沢山持ってこい,こんなんじゃだめだ」と拒絶ができるのと同じように,沢山もってきても拒絶はできると。契約解除もできるだろうと。
講師:これは類推ができるんだけれども,受け取った場合に,代金減額に相当する代金増額ですよね。そこまで認められるのかどうかということがここでは問題となるわけですね。この点どういう具合に考えられますか?
学生E:この点は判例によりますと,(判例が出てますね)565条というのは数量不足による売主の担保責任を定めたものであるので,この場合には565条の射程ではないので増額請求は認められないと。また,売主の,買主よりも売買対象物について正確な情報を得ていなければならなかったことの帰責性もありますので増額請求は認められない。
講師:買主が悪いんじゃなくて数量を計算間違いしたのは売主が依頼した測量会社ですね。だから買主はどこも悪くない。だから悪くはないんだから責任を負わせられることはないだろうというのがひとつの考え方であるし。数量指示売買において数量が不足する場合は,担保責任を定めた規定があるけれども,これは売主の担保責任なんだから買主の追加支払責任なんてことは認められないんじゃないかということで数量指示売買において数量が超過する場合に同条の類推適用を根拠として売主が代金の増額を請求することはできないという具合に最高裁は判断したんですね。

その通りなんですけれども,本当にそれでいいのかということをやっぱり考える必要があると思うんですよね。

最高裁がいったから全て正しいと思うっていうのは,行き過ぎで,もちろん最高裁が最終的な有権的な解釈権限持ってる,これは明らかなんです。

その事件についてはもう再審は別ですけど争えないという形で最高裁の判断っていうのは強いんですけれども,でもそれを批判できないかというとそうではなくて,おかしいんじゃないかということを考えることも大事だしそのために国民審査〔憲法79条〕があるんですね。

物事を分類しないと全体が見えてこないですね,全体が見えてくると反対解釈ができるわけで,よく考えてみると数量違いでない本当に適正な数量が渡された,増減もない場合に,これは本旨弁済ですから「増・減請求」ともに認められないということに。で数量が超過してるのにこれと同じ判断でいいのだろうか,というのがひとつの批判の視点ですよね。

これを少し他の法律を見てみようと比較法的な考え方。そうすると日本が批准したCISG,国連の国際〔物品〕売買条約〔CISG] というのが皆さん六法にもあるよね。

ちょっと見ていただけますか,それの〔CISG〕52条っていうのをちょっと見てください。

52条をみるとこんな具合に書かれているわけですね,「売主が定められた期日前に物品を引渡す場合には買主は引渡しを受領するか引渡しの受領を拒絶するかの自由を有する」これ納得できますよね,そしてもしも「超過分の全部もしくは一部の引渡しを受領した場合には契約価格の割合でその対価を支払わなければならない」〔という〕日本が批准した国際条約があるわけね。

これ国内法の国内取引には適用されないんだけれども〔しかも,不動産取引には適用されないけいれども〕,やっぱり比較対象の対象としては非常に重要である。数量指示売買であることが明らかな本件売買契約においては正しい面積に基づいた代金を基準にして考えると買主の代金支払いというのは不足の状態になっているというのが明らかですね。

敢えて面積超過の土地を受領する,もうこれで行くんだというんであれば面積が超過した部分に相当する金額について買主が不当な利益を利得をすることを妨げるためにも売主の代金増額請求を認めて買主に代金不足分を支払うよう命ずるべきではなかったか。これが私の判例批判ですね。

最高裁の判決がでると,「いいよね」っていうことになってるんですけれども,おかしいんじゃないかということです。これは図示するともっとはっきりすると思うんですね。

減額請求のルールが適用されない,増額も減額も否定すべきかという「反対解釈」してもいいかということなんですけれども,全体をよくみるとですね,不足の場合があるんだったら超過の場合だってあるじゃないかということは人間考えられますよね。超過の場合はどうするかっていうと条文にはないけれども,先程言ったように,数量指示売買で単価×面積というのが値段なんだということがはっきりしていますから,まあ信義則上増額を認める場合もあってもいいじゃないか。

最高裁がここをですね,要するに「類推解釈できない」って判断したってことはどういうことを意味するかっていうと,実はここの場所っていうのは適正,だからこれが不足でしょ。こちらが超過でしょ。それ以外っていうのは適正ですよね。適正の場合には当然増額も減額も認められない。こういうことになってるわけですから,ここを,その適正売買で判断するんだったらいいけれども,こういう場合〔数量超過売買〕においてここ〔適正売買〕だって判断するのは,ちょっとおかしくないかということが私の考え方。

だから,図示してみるとまあ全体の中で「反対解釈」っていうのは広いんですよ。ある集合があるとその全体っていうのはもっとずーっと広いんですね。

それをこれとは違うって具合に判断してしまっていい場合とそうでない場合でもっと個別に判断しないといけない場合がある。そういう場合も含めて反対解釈っていうのは安易にやると危ないということを訴えたいと思います。

〔〔なお,「国際物品売買契約に関する国連条約」(CISG)について興味をもったら,以下のURLで条文の内容をみておくとよい。
http://lawschool.jp/kagayama/material/civi_law/introduction/video/01introduction/CISG.pdf
条約については,「法令データ提供システム」(総務省)でもデータ提供がなされていないようなので,上記URLは,進んだ学習を行う意欲のある学生にとって有用であろう。〕〕


第2部 民法の学習方法


第5章 民法学習のジレンマ(全体と部分との関係)

08 学習のジレンマの克服
概略はショートバージョン07へ

学習するうえで,全体がわかってないと正しい判断ができないことが多いわけですね。

しかし全体を知ろうと思うと部分から勉強していかざるを得ない。それを先程いったように,どのように克服していくかっていうのが勉強法の一番大事なところなんですね。

あの,途中でわからなくて止まってしまうと,もうそれで終わりなんです。わからなくてもいいから先進みなさい。進んでいくうちに,あ,あそこはこうだったのかという発見することがあるわけです。わかるよう努力をしてここ分かったここ分かった,わからなかった,色々調べてみる。それでもわからなかった場合に,どうすればいいのかっていうと友達に聞く,それでもだめだったら先生に聞く,まだわからなかったら「進め」,そういうことです。

とにかく進んでいって,全体が分かるようになると,部分ももう一度明らかになってくるということなんですね。全体を知るためにはどうするかっていうと,もう努力をしていくほかないと。部分しか人間分からないんだから,それを進めていく。不完全ながらも部分の理解を重ねていく。全体像を知る努力を怠らないようにする。

どうすればいいかっていうと,ノート取ろう。自分のノートにですね,これまで理解した段階での体系図,自分はこれが全部だと思うという体系図を書いていくと,後で,あここが間違ってたのかということがわかるそういう努力を常に積み重ねていきましょうということですね。

第6章 民法学習の3つのレベル

1.第1レベル(包摂関係の理解)

09 ★民法学習の第1レベル
概略はショートバージョン08へ

まず第1番目の問題はですね,通信販売で物を購入した。代金は1週間使ってみて不都合がないかどうか確かめてから支払うということになっている。

Yさんは忙しい日が続いて銀行に行く暇がないので,集金にきてほしいと思っているけれども,集金しろといえるか。合意がある場合にはもちろんできますけれども合意がない場合にできるか,代金の支払い場所は,来てほしいというのかそれとも自分が払いに行かなくてはならないのか,振り込みを含めて相手方に到達させなきゃいけないのかどちらですかと。

講師:代金の支払い場所っていうのはこれ574条に書かれているんですけれども,これ使えますかね?
学生N:使えないです。(なぜかっていうと)〔民法〕574条は売買の目的物の引渡と同時に代金を支払うべき時について規定されているので。
講師:そうですね,本件の場合はまずは品物を受け取って後で弁済するということですから,使えません。じゃどうすればいいんでしょうか?
学生N:そういう時は総論に戻って考える。
講師:なるほどね。「各論でだめなときは総論に戻る」という原則に従って,債権総論に戻るわけですね。それだと何条になりますか?
学生N:〔民法〕484条。
講師:はい,弁済の場所ですね。はい,〔民法〕484条をみると,弁済すべき場所について別段の意思表示がない時,だからどこで払うと決めてない時には特定物引渡しの時は債権発生の時にその物が存在した場所。だけど本件は特定物の引渡しではないですよね。どういう弁済ですか,今回の場合は?
学生N:売買代金の…
講師:そうですね。売買代金の弁済なので,特定物の引渡しじゃないですね。その他の弁済はどこにするということになるかというと,債権者の現在の住所。債権者って誰ですか?
学生N:本件でいうと販売業者であるXです。
講師:そうですね。この債権者っていうのは物の引渡しだとするとね,債権っていうのは抽象的ですから,物の引渡しだとすると債権者は買主になりますよね。で売主が引渡さなければならないと。

だけどお金を払うのは買主ですから債権者は売主ってことになりますね。売主の現在の住所地,Xの住所地で払わなくてはいけないということになるということですね。問題1の場合は代金債務の債務者である買主は債権者である売主の現在の住所で弁済しなければならないという結論がでるということですね。

これは結構大変なことで,一番最初にですね,売買代金の支払い場所っていうのは売買の契約の規定のところですね,そこで発見できた,〔民法〕574条というところで見つけたけどこれが適用できないんですよね,同時に履行する場合しか書いてない,そうだとするとここじゃだめだとするとどこかっていうとそこが含まれている債権総論,総論に戻る。

総論に戻ると〔民法〕484条という規定があってですね,国際〔物品〕売買条約〔CISG〕っていうのはもっと丁寧に,売買に特化した法律ですので,非常に明確に書かれていて,物とそのお金を同時に支払う場合にはその引渡す場所で払うんだけれども,お金を払うときには売主の住所地で払いなさいよという形で両方ともこう一緒に書いてくれてるわけですね。日本の民法の場合には484条で全体が書いてあるんだけれども,ずいぶん条文が離れてるんですよ。

国際条約は売買条約だからひとつの条文の中に両方ともきちっと書かれているんですね。日本の方が不親切じゃないかということが考えられますけれども,これについてどう考えられます?

講師:売買の規定のところに,要するに引渡しと同時に払うときにはそこで払う,しかしそうでない場合には売主の住所地で払いなさいという具合に書いた方がわかりやすくありませんか?
学生N:日本の民法はパンデクテン方式を採っているので,その条文が離れているのにも理由があると考えます。
講師:二重手間,二度手間になってしまうということね。総論で。要するに,代金その他の弁済っていうには代金が入りますから,代金の弁済は債権者,即ち売主の住所地で払えということがここ〔484条〕で書かれている。ここ〔574条〕にももう一回書くと重複してしまうわけですね。ですから,日本の民法では書かない,書いていない,書いたらむしろ重複だと。

パンデクテン方式なので,これ実際書けないということになってしまうんですね。ここに書いてしまうとここに重複する,もちろん書いてもいいんですけど,丁寧でいいように見えるけれども,理論的にはここで書かなくてもここに書いてあることは同じことであれば,例外だったら書いてもいいんだけどね,例外でないことを書くっていうことはパンデクテン方式ではかえって難しくなってるということなんですね。

2.第2レベル(包括と例示:原理と個別ルールの理解)

10 ★★民法学習の第2レベル
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問題2は解釈としても少しレベルが上がりますが,Xさんは夫Yから度重なる暴力を受けて離婚したいと。

しかし夫はですね,暴力をふるった後は反省の意を表し,妻からの離婚要求には応じようとしない。妻は裁判上の離婚を請求しようとしているが条文上の根拠はなにか?

離婚原因ていうのは〔民法〕770条をみるとそこに明確に書かれている。離婚原因としては1号,配偶者に不貞な行為があったとき。2号で悪意で遺棄されたとき,3号で生死が3年以上明らかになっていない,4号で配偶者が強度の精神病に罹って回復の見込みがない,それから第5号で婚姻を継続し難い重大な事由があるという具合に書かれていますね。

講師:この中に当たりますか。DV〔ドメスティックバイオレンス〕は,この条文の中に入ってる?
学生Ha:入っていません。
講師:1号から4号までは入っていない。これはどうですか?
学生Ha:当たると思います。

そうだね。そうすると5号に当たるのでできるということになるんだけれども,この書き方がこれでいいのかってことね。なぜかっていうと,2項を見て頂くと1号から4号までと5号とを区別してるんですね。

1号から4号までは,たとえそれがあったとしても5号に該当しない場合には一切の考慮して婚姻の継続を相当と認める場合には離婚の請求を棄却することができる。

講師:何を例示しなきゃいけないと思う?立法するとして。立法するときの例示はどんなもの?
学生A:例示は,例えば,推定するようなものを例示しておいて,その例示に当たる場合には直ちに,この場合だったら婚姻の継続し難い重大な事由があるということを推定してしまう
講師:推定する,だけど覆されてしまうというようにすると。だけど例示するものっていうのはね,どんなもの,その推定できるものというんだけれども,大体はどういうもの?代表的なものじゃなんです?
学生A:代表的なもので,その社会的状況とか。

ちょっと実態をみてみようというわけね,実際どういう現在あのまあちょっと古いあのウェブ上でですね,司法統計年報というのがあって,離婚の申立「の動機」が表になっている。それを見ると,どういう場合が離婚〔の申立〕で一番多いかという順序が記載されていて,男性の方は,まず,1番目に性格の不一致だと。2番目から,男性と女性とで言い分が違うので,ここがやっぱり大事になってくるわけですね。

男性の場合は親族との折り合いが,妻が悪いので離婚したい。DVっていうのは今の社会でみると非常に大きな代表的なその離婚を申し立てられてる原因になってるわけです。だからこれやっぱり〔民法の条文に〕取り入れるべきじゃないのかと。

例示をしているんだったらこれ入れるべきじゃないかと。立法案としてはね,まず正しい要件を先に書いて,婚姻を継続し難い重大な事由があるときはその時に限って離婚の訴えを提起できるよと書いて,次に推定規定を書く。これはあの有賀さんが言った通りなんだけど,現在の不貞行為っていうのはまあそのままでいいでしょう,だけども,これいるでしょ,DVですね。虐待を受けた時もやっぱり例示だということで必要だろうとこれは1の2と入れるべきじゃないか。

〔悪意で遺棄されたそのままにして〕,それから要するに,婚姻は協力しないと成り立たないわけですから,その協力義務に違反して履行しないとか,それから婚姻費用の分担をちゃんとしないとか,二人がね。だからやるべきこと,子育てに全然協力してくれないとか,お互いにその費用を賄わなければいけないのに全然出してくれないというのは先程の苦情例にも沢山挙がっているんですから,代表例として挙げて,それから今ある3号っていうのはそのまま生かして,それから提案されている5年以上の別居というのもこれから入れていく必要があるだろうという形にするとですね,社会の進展に応じた民法の改正ができるんじゃないかということですね。

こういうことをわれわれは単に解釈だけではなくて条文がちょっと不十分だという場合にはこういう改正案を提案する能力というのも身につけておく。解釈も大事だけれども,解釈を超えて立法提案というところもいく必要があると。

3.第3レベル(原理によるルール(条文)の限界確定の理解)

11 ★★★民法学習の第3レベル
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最後の問題は一番難しい問題で,これは〔民法〕612条というですね,無断譲渡・転貸をした場合に解除ができるという条文があるんですけれども。

YさんはXから甲土地を借りていると。自らの建物建てて住んでいたけれども海外出張すると。その間父親に土地を転貸したと。そのこと知った大家さん,いや地主さんはですね,無断で転貸するのはけしからん,612条の2項っていう条文がありますから,契約を解除して建物収去土地明渡を請求したと。

Xの請求は認められるかということで,もこれに対して裁判所は,しかしやはり賃借人は保護しなきゃいけないということで,背信行為を認めるに足りない特段の事情がある場合には解除はできない,できるって書いてあるんだけどできないって解釈をしてるわけですね。

これどうしてできるのかということなんですが,これを図式化するとですね,実は継続的な契約関係の場合には本当に解除できる場合っていうのは「信頼関係が破壊されている」,そういう破壊が起こったときだけ解除ができるっていうのが信頼関係破壊の法理ですね。

それに対して条文に書かれている612条っていうのは無断譲渡・転貸というのはですね,解除できるよと書いてあるんだけれども,「背信行為に認めるに足らない特段の事情がある」という場合には,これ外にまだ信頼関係が保たれているんだという場合もあり得るんだろうというんだろうね。それでこの場合には解除っていうのは信頼関係が破壊された場合だけしかできないわけですから,外にある無断譲渡転貸の場合には解除はできないという結論を出していいということになるだろうと思うんですね。

4.3つのレベルの統合

これと先程の離婚の場合の770条にあった「婚姻を継続し難い重大な事由」それと「不貞行為」を例に出しましょうか,不貞行為があった場合に,解除〔離婚〕ができる場合とできない場合とできない場合があるというのは似てるんじゃないかと思うんですよ。申し訳ないんだけど有賀さん,これと同じように離婚の絵というのを書いてみて頂けますかね,不貞行為だけでいいですから。

講師:この場合も私の場合はね,少し注釈を入れてるのね。そうですね離婚原因と書けばいいんですね。そこを…
学生A:例外としてここで外れてる白い枠のここの部分と,ここのその他の部分が例外になるんで,そうですねどうしよっかな,黄色以外なんで

ありがとう。上手く書けましたよね。ですから,この図とですね,これ第3レベルっていってるんだけども,第2レベルでいった離婚原因っていうのは結局言ってること同じなんですね。

どこが違うかっていうと,770条のほうが親切に書いてくれているんです。こちらは書いてあるから不貞行為であっても婚姻を継続することができる場合には裁判官判決出しませんよってことが2項に書いてあるから分かりやすい。

無断譲渡・転貸という場合もですね,例えば親族間でやってる,という場合には最高裁はそれぞれ具体的な判断で,「背信行為を認めるに足りない特段の事情がある」というかたちで解除を認めているんですね。

講師:だからそういうのは同じなんだということで,解釈のまあレベルとしてはですね,書いてないところ,「条文にないところ」をどう判断するかという技術を身につけて頂きたいと思います。これも書き直してみると?
学生A:賃借人は契約の目的に違反して,信頼関係を破壊するに至った場合には解除ができると。
講師:はい,そして?
学生A:それに対して推定規定としてその,承諾を得ないで無断譲渡・転貸をした場合には,信頼関係が破壊されたと推定する
講師:よろしい。承諾を得ないで無断譲渡・転貸した場合には信頼関係破壊されたものと推定して解除することができるんだけれども,そうではない特段の事情が証明されたときね,これは解除できませんよと,こういう形で書いておくと誰でもわかる,ということですね。

今の612条だと,無断譲渡・転貸だと必ず解除ができると読めちゃう。そうじゃなくて婚姻の場合と同じですね,本当に離婚ができるのは「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」だけ,それから賃貸借を解除できる無断譲渡・転貸の場合も,解除ができるのは「信頼関係が破壊された場合」だけだと考える。

講師:そうすると,信頼関係が破壊される場合っていうのは無断譲渡・転貸の場合だけじゃないですね。他にどんなこと考えられますか?
学生E:541条の場合だと,例えば賃料不払いが継続している。
講師:そうですね,賃料不払が3ヵ月以上に渡っていると。「信頼関係破壊」だということで解除ができると。

無断増・改築というのも解除原因になるといわれてますから離婚の場合と一緒ですね,不貞行為とかその他色々書いてある,これも本当は無断譲渡転貸だけではなくて賃料継続的不払,それから無断増築・改築も含みますよとなるんだろうということで非常によく似てるってことが条文はかなり離れてるけどね,解釈として非常に重要なことなんだということで,これも,今言ったように証明責任を考えて議論するとですね。

トゥールミンの図式で表わせると。無断で転貸したということになるとそら解除できるでしょ,なぜって言われたらそれは条文の根拠がちゃんとあるじゃないか,2項に書いてあるよ612条2項に書いてあるんだから解除できるよね,だけどそれはおそらくなんであって絶対じゃないんですね。

どういうことが言われると反論されるといいかっていうと,背信行為と認めるに足りない特段の事情があると,要するに親子で貸してるだけだとか,会社と代表取締役でひとり会社みたいなところで本質的な違いはないってな場合には反論されるとこれひっくり返る。

だからそれはじゃあどうしてかっていうと正しい原則があってね,信頼関係が破壊されたときには,契約を解除できるんだというのがあって,賃貸人が無断転貸とか譲渡した場合には信頼関係破壊されたってことが推定されてる,だからこれは,反論〔反対事実の証明〕で完全にひっくり返すことができるし上手くいかなければこれ証明責任はこちら〔賃借人側〕にあるので,反対事実の証明が完成しなければそれはできませんよということですね。

第7章 学習成果の表現方法

12 学習成果の表現方法(IRAC)
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皆さん方はどういう具合にまとめていったらいいかというと,IRACで,議論をIAのところですね,ちゃんと取りこんで重要な問題を発見したことの経緯,ここが問題だ,論点を明らかにして,私はこういう形で解決したらいいんじゃないかと。

一応仮説を述べてそれでやるとどういう形で上手くいくのかっていうのを問題ごとに書いていって,で全部上手くいきますよと。最後にそれを圧縮して,コンクルージョン(Conclusion)として書くと同時にですね,もう1回I(Issue)に戻すのが一番いいですね。

ただこういう問題がまだ課題として残されている。そうするとまた次の人がそれを論文を書いていくということになるので論文書く前にこういう形で書くといい。それ皆さんが起案するときも同じ。答案を書く時もですね,IRACで必ず議論をそこの中に入れる,私はこう思うんだけど反論があるかもしれない,その反論についても私はこう考えるということをきっちり書いていく,そうすると非常にいい点数が得られるのではないかということですね。

第8章 講義のまとめ

13 講義のまとめ

まとめると,民法っていうものがどういうものかっていうのは基本法だったと。

平和的な解決を求めて思考方法はIRACでトゥールミンの議論を取り入れたIRACで,問題を解決しようとしている。

学習で大事なのは,全体を知らないと必ず間違うんですね。最高裁でも間違う。ですから全体を知るためにはどうしたらいいかというと,部分から少しずつ理解を重ねていく以外ないんだけれども,間違いやすんで,人間というのはね,法律は特に全体がわからないと間違い起こしやすいので常にチェックする。

「条文が欠けている場合」こそ,皆さんの実力が試される。第1レベル第2レベル第3レベル,到達目標は何なのかということを考えてみると,最終的にはですね,今日の結論としては,民法の学習っていうのはこれに尽きるというですね。

612条,問題が解除できると書いてあっても本当の要件というか原理っていうのを知ってると,これから外れてると要件に該当しているようでも違う結論が出てくるよということ。要するに全体を知っておくと問題解決に非常に役に立つというこということ。いいでしょうか,何か質問ありますか?なければ民法入門はこれで終わりたいと思います。


おわりに


おわりに

ビデオをご覧になって,民法の学習が楽しくなりそうですか。

民法は条文数も多く,全体像を理解することが容易ではありません。そのことが,民法の学習を難しくしているのです。

しかし,全体を一度に理解できるという方法はありません。一部分をしっかり学習し,それを少しずつ積み重ねることによって全体像を理解することができるのです。

そのさい,部分を学習する場合に,全体を理解しないと結局部分の理解ができない,誤解が生じるという危険性があります。

そのような間違いを避けるためには,自分が学習している箇所が,全体の中でどこに当たるのかを,民法全体の系統図で常に確認するようにしましょう。そのような努力を行いつつ,全体を知らないために生じる,「安易な反対解釈」,「誤った反対解釈」という最も危険な解釈に陥らないよう,注意しながら,学習を進めていきましょう。

六法の条文を読む,理解する,判例による解釈を参照する,新しい問題を解く際に,IRACで考える。友人と議論するときは,結論を重視するのではなく,黒板やメモ用紙に,議論の経過をトゥールミン図式で書き留めておく,レポートの形式は,必ずIRACで表現するという地道な努力を続けて下さい。

そうすれば,誰よりも短い期間で,民法をマスターすることができるでしょう。ご健闘をお祈りします。


教材



参考文献



講義:明治学院大学法科大学院教授 加賀山茂
参加学生:有賀,海老塚,竹田,能本,針谷,広瀬
録音速記:能本

映像制作:ホライズン・フューチャーズ


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