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ビデオ教材 民法入門

(ショート(15分)バージョン)

作成:2013年5月3日

明治学院大学法科大学院教授 加賀山 茂




■■■ はじめに


01 民法の苦手意識の克服のために

■■ 民法が難しいといわれる理由

学生さんの話を聞いていますと,「刑法はわかりやすいけれども,民法はなかなか理解が難しい」といわれる方が多いんですね。

それはなぜかというと,刑法の場合には,条文数が264条というぐあいに比較的少ない。しかも,総論と各論にきれいに分かれているのでわかりやすい。

ところが民法の場合は,これに比べて1,044条という条文がありまして,しかも,編別が,総則,物権,債権,それから,親族,相続というぐあいに,多くの量を理解するのが大変だということだと思います。

〔→民法と刑法との違いについて興味を感じたら,「民法と刑法との違い−類型論をカバーする一般法の魅力−」(2001年11月29日) を参照するとよい〕

■■ 民法の全体像を理解するための工夫

■ 系統図

「全体を理解するにはどうしたらよいのか?」ということなんですけれども,このビデオでは,第1部で,民法の全体像を系統図,これは,植物学とか動物学でよく使われている系統図を使って〔例えば,民法の各編の系統図〕,全体像がわかりやすくなるように,図解をするという試みをしています

〔→最も高度な図解であるアニメーションに興味を感じたら,副教材:「法教育におけるアニメーションの効用(PowerPoint)」(2012)を参照すること〕。

■ ヴェン図

それから,第2に,解釈の方法ですけれども,これが非常に複雑なために,「ヴェン図」という集合論の図をうまく使って,どのような解釈〔例えば,第3レベルの民法612条の解釈〕でも,その事例〔例えば,賃貸借の解除ができるかどうか〕に応じてできるように,類型化とその方法を詳しく説明しています〔ロング・バージョン〕

〔→ヴェン図の利用に興味を感じたら,副教材:「ヴェン図を利用した民法学習法(PowerPoint)」(2013)を参照すること〕。

■■■ 第1部 民法の全体像


02 民法の位置づけ
→詳しくは,ロングバージョン02へ

■■ 民法の位置づけ

法律をどのように分類するかということなんですけれども,この沢山ある法律のなかで,国家と市民との間の関係,縦の関係というのを規制しているのが「公法」ということになります。

〔→現行法令の数に興味を感じたら,「法令データ提供システム」の「お知らせ」を参照するとよい。〕

じゃあ市民と市民との関係は何が規律しているかというと,これが「私法」ということでこの中で,一番基本的になる一般的な法律というのが民法ということになります。

民法の位置付けとしては,全体の法律の中の「私法の一般法」,「市民生活の基本法」だとなると思います。

■■ 民法の全体像と体系

03 民法の体系
→詳しくは,ロングバージョン03へ

民法の実際の体系をですね,少しずつ見ていきたいと思うんですけれども,総則はですね,また総則に通則っていうのがあるんですが,信義則であるとか権利濫用を禁止するとかですね,そういうまあ通則がある。

あとはその権利の主体,客体,それからこの2つに,主体が働きかけていろんな権利を変動させるという形で,体系が作られているわけですね。

講師「権利の主体ということになると,何と何がありますか?」
学生A「自然人と法人です」
講師「そうですね自然人と法人がある。権利の客体は何でしょうか?」
学生A「物」
講師「物ですね。それから,権利を変動させるものは法律行為と期間と時効と,この法律行為,人が働きかけるという場合には,それはどういうものから成り立つかっていうことはどうでしょうか?」
学生A「意思表示,代理,条件,期限です」

■■ 民法の目的と機能

04 テミス像に見る法の目的と機能
→詳しくは,ロングバージョン04へ

■法の女神の像が語る裁判の全体像

このテミスの像をみると,上手く説明ができるんですね。

〔→イェーリング『権利のための闘争』の本文の最初の箇所に,テミスについての簡潔な説明があるので読んでみること。〕

道徳と違って「剣」持ってますよね。要するに強制力というものを持っている。それから単なる暴力ではなくて,「秤」を持っていて,当事者の言い分をよく聴いて,公平の立場から結論を出そうと努力している。

それから,「目隠し」をしているんですけれども,で,どういうことかっていうと,弁論主義ということで,書かれたもの出してきても読みませんよと。ちゃんと口で言って下さい。口で言うっていうのは非常に大事です。

今日もそうですけれども,あのー質問した時にですね,あの下を見たら答えれるんですよ。自分覚えてなくても。知らなくても読めばいいわけだから。

だけれども,「顔見て答えて下さい」って口で言おうとすると,頭の中に整理されたことしか口から出てきませんから。本当の実力が示されるということですね。

ですから,テミスはあのー「書面を提出してもですね,それはだめ」と,「ちゃんと弁論して下さい」と言っていると,そういうな具合に私は解釈してますけれども。

■■ 法解釈の方法論

05 法解釈の方法
→詳しくは,ロングバージョン05へ

「車馬通行止め」という公園の入り口に,車馬通行止めっていう,そのー立て札が立っていたとする。これがその法律と同じように考えて,法律にのみ拘束されるという判断をしなきゃいけない,という状況に皆さんが立ったとしますね。

その時に,車とか馬が公園に入ろうとしたらだめですよと,これは文理解釈という形で止めれますよね。ところが,車でもない馬でもないものが来た時にどうするか,ここが解釈の余地になるわけですね。

講師「例えば,ここで今ひとつ示しているのは,牛が来たと,いうわけですね。どうするのかと,いうことですね,車でもない馬でもないですね牛は。でルールに拘束されているわけですから車馬通行止めだから車か馬かどっちか言わないといけない,どうです,牛はどうします?」
学生B「牛は馬と同様に4足歩行であって,あの大きさも同様に大型の動物であるということから子どもに被害が及ぶ可能性がある」
講師「だから馬と同じように扱うんだということで,ま,この概念を,馬の概念を少し,家畜,大型の家畜という形で概念を少し膨らませるっていうのが拡大解釈。」
講師「それに対して縮小解釈っていうのが,子どもがおもちゃのトラックもって公園に入ってきたときに止めませんよね。車なんだけれども,おもちゃはいいよね。」

■■ 法律家の思考方法としてのIRACとトゥールミンの議論の技法

06 アイラック(IRAC)とトゥールミンの議論の図式
→詳しくは,ロングバージョン06へ

■ 法律家の思考方法としてのIRAC

論文を書く時にも問題を提起して,自分はこう考える仮説ですね,立てておいて,それでいろんな問題についてこんなに上手く解決ができるでしょう。

反対論があるかもしれないけどこういう形で上手くいきますよっていう。

最後にそれぞれの論じたことをまとめるという。

これをIRAC(アイラック)という。

という形で考えるのが非常に重要だということになります。

■ 判決三段論法からトゥールミンによる議論の方法へ

法律学の議論というのはこのトゥールミンの議論の方法〔トゥールミン『議論の技法』参照〕を使うということに,あのー落ち着くだろうと思います。

それでトゥールミンの方法っていうのはデータからその人は何が言いたいのかっていうことをいうんですけれども。

ソクラテスは人間である,だから死ぬっていってもなぜっていうそこに理由が論拠っていうのが必要ですね。

しかも,それは,ここの場合ではソクラテスっていう哲学の神様として考えているんだということになれば,要するに,多分そうだねっていうのがひっくり返るということがあり得る。

万物は流転するが真理は生き続けるのは,裏付けをすると,物であるとか人であったら確かに死ぬんだろうけれども,真理のことを哲学のことを言っているのであればひっくり返るということもありえるということですね。

こういう形で,議論を「反論を許す論理」としてというのが最近では有力になっているということです。


■■■ 第2部 民法の学習方法


07 民法学習のジレンマの克服
→詳しくは,ロングバージョン08へ

■■ 民法学習のジレンマ(全体と部分との関係)

今言ったようにですね,学習するうえで全体がわかってないと正しい判断ができないことが多いわけですね。

しかし全体を知ろうと思うと部分から勉強していかざるを得ない。それを先程いったほ,うにどのように克服していくかっていうのが勉強法の一番大事なところなんですね。

あの,途中でわからなくて止まってしまうともうそれで終わりなんです。

わからなくてもいいから先進みなさい。進んでいくうちに,あ,あそこはこうだったのかという発見することがあるわけです。

わかるよう努力をしてここ分かったここ分かったわからなかった色々調べてみる。

それでもわからなかった場合にどうすればいいのかっていうと友達に聞く。それでもだめだったら先生に聞く。まだわからなかったら進め,そういうことです。

とにかく進んでいって全体が分かるようになると部分ももう一度明らかになってくるということなんですね。

■■ 民法学習の3つのレベル

08 ★民法学習の第1レベル
→詳しくは,ロングバージョン09へ

■ 第1レベル(包摂関係の理解)★

まず第1番目の問題はですね,通信販売で物を購入した。代金は1週間使ってみて不都合がないかどうか確かめてから支払うということになっている。

Yさんは忙しい日が続いて。銀行に行く暇がないので集金にきてほしいと思っているけれども「集金しろ」といえるか,合意がある場合にはもちろんできますけれども合意がない場合にできるか,代金の支払い場所は「来てほしい」というのかそれとも「自分が払いに行かなくてはならないのか,振り込みを含めて相手方に到達させなきゃいけないのか」どちらですかと。

講師「代金の支払い場所っていうのはこれ574条に書かれているんですけれども,これ使えますかね?」
学生D「使えないです。(なぜかっていうと)574条は売買の目的物の引渡と同時に代金を支払うべき時について規定されているので」
講師「そうですね,本件の場合はまずは品物を受け取って後で弁済するということですから使えません。じゃどうすればいいんでしょうか?」
学生D「そういう時は総論に戻って考える」
講師「なるほどね。各論でだめなときは総論に戻るという原則に従って,債権総論に戻るわけですね。それだと何条になりますか?」
学生D「484条」
講師「はい,弁済の場所ですね。」

これは結構あの大変なことで,一番最初にですね,売買代金の支払いの場所っていうのは,売買の契約の規定のところですね,そこで発見できた。574条というところで見つけたけど,これが適用できないんですよね。同時に履行する場合しか書いてない。

そうだとするとここじゃだめだとすると,どこかっていうと,そこが含まれている債権総論,総論に戻る。

総論に戻ると484条という規定があってですね。解決する。

09 民法学習の第2レベル★★
→詳しくは,ロングバージョン10へ

■ 第2レベル(包括と例示:原理と個別ルールの理解)★★

問題2は解釈としても少しレベルが上がりますが,Xさんは夫Yから度重なる暴力を受けて離婚したいと。

しかし夫はですね,暴力をふるった後は反省の意を表し,妻からの離婚要求には応じようとしない。

「妻は裁判上の離婚を請求しようとしているが条文上の根拠はなにか?」

まず,離婚原因ていうのは770条を見るとそこに明確に書かれている。

離婚原因としては1号,配偶者に不貞な行為があったとき。2号で悪意で遺棄されたとき,3号で生死が3年以上明らかになっていない,4号で配偶者が強度の精神病に罹って回復の見込みがない,それから第5号で婚姻を継続し難い重大な事由があるという具合に書かれていますね。

講師「この中に当たりますか,DVはこの条文の中に入ってる?」
学生E「入っていません。」
講師「1号から4号までは入っていない。これはどうですか?」
学生E「当たると思います」
講師「そうだね。」

そうすると5号に当たるのでできるということになるんだけれども,この書き方がこれでいいのかってことね,なぜかっていうと2項見て頂くと1号から4号までと5号とを区別してるんですね。

1号から4号までは例えそれがあったとしても5号に該当しない場合には,一切の考慮して婚姻の継続を相当と認める場合には離婚の請求を棄却することができる。

講師「何を例示しなきゃいけないと思う?立法するとして。立法するときの例示はどんなもの?」
学生B「例示はあのー例えば推定するようなものを例示しておいて,その例示に当たる場合には直ちにそのーこの場合だったら婚姻の継続し難い重大な事由があるということを推定してしまう」
講師「推定する,だけど覆されてしまうというようにすると。だけど例示するものっていうのはね,どんなもの,その推定できるものというんだけれども,大体はどういうもの?代表的なものじゃなんです?」
学生B「代表的なもので,その社会的状況とか」
講師「そうだね。ちょっと実態をみてみようというわけね。」

実際どういう現在あのまあちょっと古いあのウェブ上でですね,司法統計年表というのがあって,1番目に性格の不一致だと。こ2番目から,あの男性と女性とで言い分が違うのでここがやっぱり大事になってくるわけですね。

男性の場合は親族との折り合いが,その,妻が悪いので離婚したい。DVっていうのは今の社会でみると非常に大きな代表的なその離婚を申し立てられてる原因になってるわけです。だからこれやっぱり取り入れるべきじゃないのかと。

せっかく例示をしているんだったら,これ入れるべきじゃないかと。立法案としてはね,

まず正しい要件を先に書いて,婚姻を継続し難い重大な事由があるときはその時に限って離婚の訴えを提起できるよと書いて,で次に推定規定を書く。

現在の不貞行為っていうのはまあそのままでいいでしょう,だけども,これいるでしょ,DVですね。虐待を受けた時もやっぱり例示だということで必要だろうとこれは1の2と入れるべきじゃないか。

社会の進展に応じた民法の改正ができるんじゃないかということですね。

こういうことを単にわれわれは単に解釈だけではなくて条文がちょっと不十分だという場合にはこういう改正案を提案するというのは,能力というのも身につけておく。

解釈も大事だけれども,解釈を超えて立法提案というところもいく必要があると。

10 民法学習の第3レベル★★★
→詳しくは,ロングバージョン11へ

■ 第3レベル(原理によるルール(条文)の限界確定の理解)★★★

講師「そうですね離婚原因と書けばいいんですねそこを」
学生B「例外としてここで外れてる白い枠のここの部分と,ここのその他の部分が例外になるんで。」
講師「ありがとう。上手く書けましたよね。」

ですからあのーこの図とですね,これあの第3レベル〔民法612条の解釈〕っていってるんだけども,第2レベルでいった離婚原因っていうのは結局言ってること同じなんですね。

どこが違うかっていうと,〔第3レベルの民法612条の場合よりも〕770条のほうが親切に書いてくれているんです。こちらは書いてあるから不貞行為であっても婚姻を継続することができる場合には裁判官判決出しませんよってことが2項に書いてあるから分かりやすい。

11 学習成果の表現方法(IRAC)
→詳しくは,ロングバージョン12へ

■■ 学習成果の表現方法

皆さん方はどういう具合にまとめていったらいいかというと,IRACで,議論をIAのところですね,ちゃんと取りこんで重要な問題を発見したことの経緯,ここが問題だ,論点を明らかにして,私はこういう形で解決したらいいんじゃないかと。

一応仮説を述べてそれでやるとどういう形で上手くいくのかっていうのを問題ごとに書いていって,で全部上手くいきますよと。最後にそれを圧縮してコンクルージョンとして書くと同時にですね,もう1回Iに戻すのが一番いいですね。

ただこういう問題がまだ課題として残されている。そうするとまた次の人がそれを論文を書いていくということになるので論文書く前にこういう形で書くといい。それ皆さんが起案するときも同じ。

私はこう思うんだけど反論があるかもしれない,その反論についても私はこう考えるということをぴっちり書いていく,そうすると非常にいい点数が得られるのではないかということですね。

〔→論文の書き方に興味を感じたら,澤田昭夫『論文のレトリック−わかりやすいまとめ方』講談社学術文庫(1983)を読むとよい。〕

何か質問ありますか?なければ民法入門はこれで終わりたいと思います。


■■■ 教材


■■■ 参考文献



講義:明治学院大学法科大学院教授 加賀山茂
参加学生:有賀,海老塚,能本,針谷,広瀬
録音速記:能本

映像制作:ホライズン・フューチャーズ


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