2011年10月9日
於:神戸大学
司会 名古屋大学教授 千葉 恵美子
報告 明治学院大学教授 加賀山 茂
担保法を構成する保証,連帯債務(人的担保),および,担保物権(物的担保)は,民法を学習する者にとって,取っつきにくく,苦手科目の筆頭に数えられている。その原因は,一般的には,担保法が技術的な性格が強い点に求められている。しかし,第1に,担保法の理論が未発達であり,「原則よりも例外が圧倒的に多い」という現状こそが,学生にとって担保法の理解を困難としていう原因ではないのだろうか。第2に,担保法の全体を整合的に説明するためには,担保法を債権と物権とに分断するのではなく,両者を統合する新しいパラダイムが求められているのではないだろうか。
これが,このワークショップの報告者である加賀山の問題意識である。
加賀山は,統一的でわかりやすい担保法の理論を構築するためには,担保法を債権(保証と連帯債務),と物権(担保物権)とに分断するのではなく,担保法全体を「債権の掴取力の強化」として,債権の側に引き寄せて一元的に捉え,「人的担保」は,債権の掴取力の量的強化(責任財産の個数の拡大)であり,「物的担保」は,債権の掴取力の質的強化(優先弁済権)であると考えて,担保法の新しい理論体系を構築し,従来の担保法のパラダイムを転換することが,担保法の教育にとって必要となっているのではないかと考えている。
加賀山は,担保法の新しいパラダイムを『現代民法 担保法』信山社(2009)において展開している。その理論の特色は,第1に,保証債務は,他人の債務を弁済する責任であって,債権以外に別の保証債務が存在するわけではない(保証「債務」は存在しない)。第2に,担保物権は,債権の効力としての優先弁済権に過ぎず,債権の他に別の物権が存在するわけではない(担保「物権」は存在しない)。第3に,対抗力のある賃貸借は,抵当権設定登記の前後を問わず,常に,抵当権者および買受人に対抗できる(抵当権は適法賃貸借を破らず)という過激なものである。
このような考え方は,これまで整合的な説明がなされていなかった物的担保の優先順位の法則を明らかにしているとか,抵当権と用益権との調和を新しい形で実現する可能性を有しているとか,理論的な体系化の試みとしては,その有用性が認められるとしても,大学教育のカリキュラムとして見た場合に,民法学界として是認できるものであるのかどうか綿密な批判と検討に晒されるべきであると考える。
そこで,今回のワークショップでは,加賀山が,新しい担保法のパラダイムを簡単に説明し,従来の理論と比較しながら,新しいパラダイムの特色,教育カリキュラムとした場合の功罪等を議論し,この理論が,従来の理論からの反論に耐えうるものかどうか,教育カリキュラムとして適切なものであるかどうかを検証をすることを通じて,担保法の理論の深化に貢献したいと考えている。
2011年9月13日完成,発売中 |
ワークショップ当日に会場で配布する資料としては,「担保法の新しいパラダイムとその教育−担保法革命2009とは何か−」の抜刷りを準備している。
また,当日行うプレゼンテーションの口頭報告の資料として,PDFファイルを用意している。右をクリックして,あらかじめ目を通したり,印刷しておくと,報告の内容の理解がより容易になると思われる。