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用益物権

作成:2006年5月5日

明治学院大学法科大学院教授 加賀山 茂



所有権を制限する物権としての用益物権については,各々の特色と用途・期間の制限について,各々の権利を比較することによって理解を深めることにする。

1 地上権,永小作権,地役権

地上権,永小作権,地役権の目的,存続期間,有償・無償の別の比較対照表を次に掲げる。

表 1 用益物権の比較対照

地上権 永小作権 地役権
目的 他人の土地において工作物または竹木を所有するため(民法265条) 小作料を支払って他人の土地に耕作または牧畜をするため(民法270条) 他人の土地を自己の土地の便益に供するため(民法280条)
具体例 地下鉄やトンネルの敷設のための地上権 わが国の小作は,ほとんどが賃貸小作であり,実例は少ない 通行,用水,観望,送電線等のための地役権
存続期間 存続期間の定めのある場合 永久とすることも可能 20年以上50年以内
50年を超えることはできない
永久とすることも可能
存続期間の定めがない場合 20年以上50年以内で裁判所が決める 30年 消滅時効によって消滅するまで
有償・無償 無償も可 有償に限る 無償も可

2 借地借家法に基づく新しい借地権の概観

建物の所有を目的とする地上権は,建物の所有を目的とする賃貸借とともに,あわせて,借地権として,借地借家法によって規制されている。ここでは,新借地借家法によって新設された定期借地権について,比較対照表を次に掲げる。借地権の詳細については,第3分冊の賃貸借の項目を参照されたい。

表 2 定期借地権の比較対照

普通借地権
(3条)
一般定期借地権
(22条)
業務用定期借地権
(24条)
建物譲渡特約付借地権
(23条)
目的 建物の所有を目的とする地上権および土地の賃借権 存続期間を50年以上として借地権を設定する 専ら事業の用に供する建物(住居用を除く)の所有を目的とし,かつ,存続期間を10年以上20年以下として借地権を設定する 設定後30年以上を経過した日に借地権の目的である土地の上の建物を借地権設定者に相当の対価で譲渡する
具体例 マンション,店舗用ビルの敷地 コンビニエンス・ストア,ファミリーレストラン,ガソリンスタンド 賃貸マンション,賃貸ビル用の敷地
存続
期間
30年以上(期間の定めがない場合は30年) 50年以上 10年以上20年以下 30年以上

3 借地借家法の構造

A. なぜ民法ではなくて,借地借家法という特別法なのか?

1 民法の中にある一般法と特別法との例
 A. 「特別法は一般法を破る」 ←例を挙げて説明できるか?
  a) 民法97条1項(意思表示の効力)と民法526条1項(承諾の効力)との関係
  b) 民法527条(申込みの撤回の通知の到達と承諾の発信との関係)
 B. 「一般法は特別法を補充する」 ←特別法が頻繁に作られる理由を説明できるか?
  a) 製造物責任法は,なぜ,わずか6条で済ますことができたのか?
  b) 製造物責任法6条は,民法を適用するとしているが,具体例で説明できるか?

2 借地借家法の歴史と立法理由は何か?
 A. 1909年(明治42年)建物保護に関する法律…借地上の建物の法律上の耐震化
  a) 民法605条の不動産賃貸借の対抗力は,どのように強化されたのか?
    民法605条の賃借権の登記と,借地法の建物所有権の登記とはどこが違うか?
    →この法律は,借地借家法10条(借地権の対抗力)に引き継がれて廃止。
  b) 建物保護法によって民法はどのような修正を受けたか?
   売買は賃貸借を破る(「地震売買」による建物の倒壊)
   →売買は賃貸借を破らず(耐震建物)へ
 B. 1921年(大正10年)借地法…借地権の物権化
  a) 存続期間…民法604条(20年を超えることができない)
   →借地法2条(堅固建物の場合60年(少なくとも30年)
  非堅固建物の場合30年(少なくとも20年以上))へ
   (←民法268条(地上権の存続期間)参照)
  b) 更新推定から法定更新へ…民法619条(更新の推定)
   →借地法6条(法定更新):現行法5条(借地契約の更新請求等)
  c) 更新拒絶の正当理由…民法の規定なし
   →借地法4条但し書き:現行法6条(借地契約の更新拒絶の要件)
  d) 譲渡・転貸における保護…民法612条(無断譲渡・転貸の禁止)
   →借地法9条の2(譲渡又は転貸の許可)(1966年(昭和41年))
   :現行法19条(土地の賃借権の譲渡又は転貸の許可)
 C. 1921年(大正10年)借家法…借家権の物権化
  a) 借家の対抗力…民法605条(不動産賃貸借の対抗力)
  →借家法1条(引渡し):現行法28条
  b) 借家権の対抗力更新拒絶の正当理由…民法に規定なし
  →借家法1条の2(更新拒絶の正当理由):現行法31条
 D 1992年(平成4年)借地借家法の成立…賃貸人への配慮
  a) 定期借地権の創設(借地借家法22条〜24条)
  b) 正当事由の明確化(借地借家法6条,28条)
  c) 強行規定の緩和(借地法11条→借地借家法9条,16条,21条;借家法6条→借地借家法30条,37条)
  d) 期限付建物賃貸借(定期借家権等)の創設(借地借家法38条,39条)

B. 借地借家法の適用範囲…借地借家法が適用されない賃貸借とは何か?

1 借地借家法の適用除外…民法が適用される
 A 動産賃貸借(例えば,レンタカー契約)
 B 建物所有を目的としない土地賃貸借(例えば,駐車場契約,ゴルフ練習場など)
 C 一時使用の土地賃貸借(例えば,バラックの仮店舗で短期間経営など)(25条)
 D 一時使用の建物賃貸借(40条)

2 存続期間,更新,対抗力以外の問題…民法が適用される

C. 借地関係

1 定義と適用範囲
 建物所有目的の土地賃借権,地上権(1条)

2 期間,更新,終了(強行規定)
 A 期間(3条)…30年以上
 B 終了(3条,7条,8条,9条)
  a) 期間の定めあり…期間満了
  b) 期間の定めなし…30年となる(3条)
  c) 建物再築…承諾・築造の日から20年間存続(7条)
  d) 更新後の建物滅失(8条)
 C 更新
  a) 更新後の期間…1回目20年,2回目以降10年(4条)
  b) 法定更新(5条)
  c) 更新拒絶の正当事由(6条)

3 効力
 A 対抗力(10条)(強行規定)
 B 地代増減額請求権(11条)(任意規定)
 C 地主の先取特権(12条)(強行規定)
 D 建物買取請求権(13条)(強行規定)
 E 第三者の建物買取請求権(14条)(強行規定)
 F 自己借地権(14条)(任意規定)
 G 借地条件の変更−借地非訟事件(17条〜20条)
  a) 借地条件変更,増改築許可(17条)
  b) 更新後の再築許可(18条)
  c) 賃借権譲渡・転貸許可(19条)
  d) 競売等の場合の賃借権譲渡許可(20条)

4 定期借地権(22条〜24条)
   A 定期借地権…存続期間50年以上(22条)
   B 建物譲渡特約付借地権(23条)
   C 事業用定期借地権等…公正証書による(24条)
  (a) 事業用定期借地権…存続期間30年以上50年以下
  (b) 事業用借地権…存続期間10年以上20年以下

5 一時使用目的(25条)…借地借家法の適用除外

D. 借家関係

1 定義と適用範囲
   建物賃貸借(26条,40条)の更新と効力

2 期間,更新,終了(強行規定)
 A 期間(29条)
  a) 期間1年未満→期間の定めなしとみなされる(29条1項)
  b) 期間20年以上の契約も可(民法604条の不適用)
 B 終了(26条,27条,28条)
  a) 期間の定めあり→期間満了の問題
  b) 期間の定めなし→解約申入れの問題
 C 更新(29条2項),法定更新(26条)

3 効力
 A 対抗力(31条)
 B 借賃増減額請求権(32条)(任意規定)
 C 造作買取請求権(33条)(任意規定)
 D 終了の場合における転借人の保護(34条)(強行規定)
 E借地上の建物の賃借人の保護(35条)(強行規定)
 F 居住用建物の賃借権の承継(36条)

4 定期建物賃貸借等
 A 定期建物賃貸借(38条)
 B 取壊し予定の建物の賃貸借(39条)

5 一時使用目的(40条)…借地借家法の適用除外

借地契約の更新と終了に関する流れ図

借地借家の存続期間の比較

借地

定期借地

定期借地権

22

50年以上

事業用定期借地権

231

30年〜50

事業用借地権

232

10年〜30

建物譲渡特約付借地権

24

30年以上

通常借地

通常の借地

 3

30年(1回目更新20年,以後10年)

建物の滅失・再築

 7

20

借家

1年以上の借家契約

292

1年以上

1年未満の借家契約

291

期間の定めなし

更新後の借家契約

26

期間の定めなし


練習問題


問題1 次のうち,地上権として有効に設定できるものはどれか。

(1) 競馬の馬を放牧するために土地を借りる。

(2) 家を建てるためにただで土地を借りる。

(3) 発電所から家庭に電気を通すために電柱を建てる場所を借りる。

(4) すでに地上権が設定されて借地人が住んでいる土地の下に地下鉄を通す。

(5) 末代まで住めるように他人の土地を永久に借りる。

問題2 次のうち,永小作権として有効に設定できるものはどれか。

(1) 荒地を開墾し,麦を作るために永久に土地を借りる。

(2) 湿地を干拓し,米を作るために,50年間,ただで土地を借りる。

(3) 牛を放牧するため,20年間,小作料を払って土地を借りる。

(4) 馬を飼うため,10年間,小作料を払って土地を借りる。

問題3 次のうち,地役権として有効に設定できるものはどれか。

(1) 袋地ではないのだが,近道のため,他人の土地を通行する。

(2) 袋地の所有者に対して囲繞地を通行することを禁止する。

(3) 池に水を引くために,他人の土地に水路を設ける。

(4) 発電所から変電所まで,他人の土地の上に電線を通す。

(5) 眺望のため,隣地に建物を建てたり樹木を植えたりすることを禁止する。

(6) 家庭菜園用の堆肥を作るため,隣地に入って落ち葉をかき集める。


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