[親族法講義]へ
作成:2004年9月21日
名古屋大学大学院法学研究科教授 加賀山 茂
以下の演習問題は,2004年度「名古屋法務局管内法務局・地方公務局職員専修科研修」のうち,「親族法」の理解を深めるために,講師自身が新たに作成したものである。16回の講義のために,50問の演習問題を用意した。
作成の意図は,講義の前に,受講生がこの演習問題で指摘された教科書の関連箇所や家族法判例百選の該当判例をよく読み,あらかじめ解答を考えておくと,講義での質問によく答えることができるし,講義をよりよく理解することができる。また,講義の後で,試験勉強として演習問題を解いてみると,家族法の全体と部分との関係をより深く理解することができるであろうという配慮に基づく。
そして,実際の講義は,この演習問題を解くことを中心にして展開され,受講生の勉学意欲をかきたてることができたように思う。
民法のうち,財産法(総則,物権,債権)は,比較法的な研究によっても,世界に誇りうるすぐれた制定法であるといえる。しかし,家族法(親族・相続)は,戦後の混乱期に十分な議論をせずに改定されたものである。このため,現行の家族法は,表面上は,封建的な家制度を廃止した近代的な法ということになっているものの,詳しく検討すると,憲法に反すると思われる規定が随所に残っており,根本的な改正が必要な法律である。受講生に,このことを確実に理解してもらうことがこの講義の第1の目標である。
現行民法の親族・相続編(家族法)の制定から50年を経過しようとする頃から,家族法の欠陥が次々と露呈するようになり,家族法の改正が論議されるようになった。1992年から開始された婚姻制度等に関する民法改正の作業は,1996年に「民法の一部を改正する法律案要綱」[法総研・親族法概説(2001)巻末資料]を生み出した。この民法改正要綱案は,現行民法の親族・相続編(家族法)が憲法24条を十分に反映したものとなっていないことの反省の上に立って,国民の人生観・価値観の多様化を促進し,女子差別の撤廃,婚外子の相続分差別の撤廃などを目標として作成されたものである(ただし,保守的な議員の抵抗にあって,現在も,立法のめどは立っていない)。現行民法と民法改正要綱案とを比較しながら,受講生に,現行民法の欠陥を具体的に認識してもらうことが,この講義の第2の目標である。
もっとも,民法改正要綱案も,婚姻禁止期間を180日から100日に短縮はしたものの,結果的に差別を温存するなど,不徹底な側面を有している。このように考えると,憲法24条の精神を民法の条文に確実に結実させるためには,多くの人々が,家族法の問題点に対して理解を深め,家族法の改正に対して情熱を持つことが不可欠である。この講義を通じて,新しい家族法をどのように再構築すべきについて,受講生のひとりひとりに,家族法の具体的な改正イメージ(民法改正要綱案よりも一歩も二歩も進んでいることが望ましい)を描けるようになってもらいたいというのが,この講義の第3の目標である。
第1回から第3回までは,教科書を離れて,講師の作成した講義レジュメ「日本の家族と民法」によって,家族法(主として親族法)を概観する。
親族・相続法は,まとめて,家族法と呼ばれているが,民法には,「家族」の定義と概念が欠落している。それはなぜなのかという問題を探求することを通じて,わが国の家族法の成立と改正の過程を含めて現行家族法の全体像と問題点を明らかにしていこうというのがここでの講義の目標である。
男性による女性支配を維持するために,子どものときから諸君に叩き込まれた徳目(男らしさ,女らしさ,脳の性差,義理,親孝行)が次々と槍玉にあげられる。最初は「違和感」,特に,男性諸君は,違和感を超えた「反発」を感じるであろうが,演習問題を解くという地道な作業を重ねるうちに,これらのマインド・コントロールから徐々に解放され,「違和感」も薄れていくので,ここは我慢のしどころである。
第4回から第13回までは,[法総研・親族法概説(2001)]と[家族法判例百選〔第6版〕(2002)]とを教材として,具体的な事例を取り上げ,条文の制定の歴史を振り返ったり,現実の社会の実態への適用の適否を検証することを通じて,家族法の条文の意味を批判的に理解することを目標とする。
「愛の定義」,「浮気で得られるもの」,「夫の収入で妻が購入した台所用品の所有権の帰属」,「離婚でわかる日本の男の問題点」,「離婚は未成熟の子に対抗できるか」,「生殖医療における胎児認知・胎児特別養子」など,普通の家族法の講義ではめったに扱われないような興味深い問題点が次々に検討されることになる。これらの検討を通じて,家族法が,われわれの人生にいかに密接に関連しているかを実感することができると思われる。
教材である[法総研・親族法概説(2001)]と[家族法判例百選〔第6版〕(2002)]の読むべき箇所は,演習問題において,逐一指摘しておいた。講義の前に,必ず,その箇所を熟読して,知識を確実にしておいてほしい。
第14回から第16回は,この講義のまとめである。これまでの学習の成果を踏まえて,婚姻法と親子法における「愛」について考察し,両性の本質的平等と個人の尊厳が実現されるべき「理想の婚姻」と「理想の親子関係」と家族法の課題について,各人の考え方,提言等のメッセージを発表してもらう予定である。
演習問題の中から,講師が2問を選択し,それを多少アレンジしたものを試験問題として出題する。採点は,「事実に即して具体的な法的問題を解決していくために必要な法的分析能力や法的議論の能力がどの程度育成されているか」という基準にしたがって実施する予定である。
「家」制度の下においては,「家族」は,どのように定義されていたか。明治31年民法(民法旧規定)の条文をよく読んで,その意味を確実に理解しよう。
民法旧規定 第732条 戸主ノ親族ニシテ其家ニ在ル者及ヒ其配偶者ハ之ヲ家族トス
2 戸主ノ変更アリタル場合ニ於テハ旧戸主及ヒ其家族ハ新戸主ノ家族トス
「家」制度とはどのような制度か[法総研・旧親族法・相続法概説(2003)103頁参照]。明治31年民法の条文のうちから2〜3条引用することによって,その概略を説明してみよう。
民法旧規定 第750条 家族カ婚姻又ハ養子縁組ヲ為スニハ戸主ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス
2 家族カ前項ノ規定ニ違反シテ婚姻又ハ養子縁組ヲ為シタルトキハ戸主ハ其婚姻又ハ養子縁組ノ日ヨリ1年内ニ離籍ヲ為シ又ハ復籍ヲ拒ムコトヲ得
3 家族カ養子ヲ為シタル場合ニ於テ前項ノ規定ニ従ヒ離籍セラレタルトキハ其養子ハ養親ニ随ヒテ其家ニ入ル
民法旧規定 第970条 被相続人ノ家族タル直系卑属ハ左ノ規定ニ従ヒ家督相続人ト為ル
一 親等ノ異ナリタル者ノ間ニ在リテハ其近キ者ヲ先ニス
二 親等ノ同シキ者ノ問ニ在リテハ男ヲ先ニス
三 親等ノ同シキ男又ハ女ノ間ニ在リテハ嫡出子ヲ先ニス
四 親等ノ同シキ者ノ間ニ在リテハ女ト雖モ嫡出子及ヒ庶子ヲ先ニス〔昭和17法7本号改正〕
<昭和一七法七による改正前の条文>
四 親等ノ同シキ嫡出子,庶子及ヒ私生子ノ間ニ在リテハ嫡出子及ヒ庶子ハ女ト雖モ之ヲ私生子ヨリ先ニス
五 前四号ニ掲ケタル事項ニ付キ相同シキ者ノ間ニ在リテハ年長者ヲ先ニス
2 第836条〔準正〕ノ規定ニ依リ又ハ養子縁組ニ因リテ嫡出子タル身分ヲ取得シタル者ハ家督相続ニ付テハ其嫡出子タル身分ヲ取得シタル時ニ生マレタルモノト看倣ス
現行民法に「家族」の定義がない理由を歴史的経緯を踏まえて説明してみよう。
憲法 第24条 婚姻は,両性の合意のみに基いて成立し,夫婦が同等の権利を有することを基本として,相互の協力により,維持されなければならない。
2 配偶者の選択,財産権,相続,住居の選定,離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては,法律は,個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して,制定されなければならない。
憲法24条にいう,個人の尊厳と男女の本質的平等に立脚した制度を設計することに対しては,原則としては,そのような考慮が必要だが,もともと,男と女は違うのだから,合理的な差別は不可欠であるとの考え方が主張されている。特に,男性優位の社会で有利な地位を占めている男の側からは,ことあるたびに,合理的差別の必要性が根強く主張され続けている。筋力や育児能力の差が意味を失いつつある現代において,今なお男女の差が強調されているのは,「そもそも,男と女では脳の作りが違う」というものである。そして,以下のように,「話を聞かない男・地図が読めない女−男脳・女脳がなぞを解く」というようなスローガンの下に,男と女の脳には生物学的な性差があることを強調する考え方が,広く人口に膾炙している。
このような,「脳梁の性差」に基づく男女の根本的な相違は,最近のベストセラーにおいても,以下のように,通説的な扱いを受けている。
しかし,田中冨久子『女の脳・男の脳』NHKブックス(1998年)は,脳梁の性差について,以下のように疑問を投げかけている。
この書籍は,上記のようなベストセラーとは異なり,参考文献と典拠が明確に示されている科学的な啓蒙書であり,以下のように,上記のベストセラーとは異なる世界(男の脳は,進化した女の脳を,男性ホルモンによってわずかに退化させたことによって作られる)を描いている。
上記の書籍を読み比べて,男女の脳の性差について,性差の有無,その由来を調査し,また,それらの性差が,男女平等の制度設計に影響を及ぼす点があれば,それを列挙してみよう。
現行民法のうち,家制度の名残をとどめている条文を一定の基準に従って例示する。それぞれの条文について,どのような改正が必要か。民法改正要綱案[法総研・親族法概説(2001)110頁]を参照しながら,各自で検討してみよう。
自分にとって身近な(たとえば,自分・親戚・友人等の)家族の日常行動の中で,憲法24条にいわゆる「個人の尊厳」や「男女の本質的平等」に反すると思われるものに気づいたならば,それが,「家」制度を規定した明治31年民法によって正当化されるかどうかを検討してみよう(プライバシーにかかわることなので,自分の心の中だけで検討すれば足りる)。
以下の文章([ベネディクト・菊と刀(1972)155-157頁])を読んで,嫁や婿の果たすべき義務について考察しなさい。
日本人のよく言う言葉に「義理ほどつらいものはない」というのがある。人は,〔報恩という〕義務を返済せねばならないと同様に「義理」を返済しなければならない。しかしながら「義理」は,〔報恩という〕義務とは類を異にするする一連の義務である。また,人類学者が世界の文化のうちに見だす,あらゆる風変わりな道徳的義務の範疇の中でも,最も珍しいものの一つである(155頁)。
ある日本語辞書の説明によれば,義理とは,「正しき筋道。人のふみ行うべき道。世間への申し訳に,不本意ながらすること」である(156頁)。
「義理」は,法律上の家族〔姻族〕に負っている一切の義務を含み,〔報恩という〕「義務」は,直接の家族〔血族〕に対して負っている一切の義務を含む。法律上の父は「義理」の父と呼ばれ,法律上の母は「義理」の母,法律上の兄弟および姉妹は,それぞれ「義理」の兄弟,「義理」の姉妹と呼ばれる。この呼称は,配偶者の血族,および血族の配偶者のいずれにも用いられる(156-157頁)。
結婚は日本においては,むろん家と家との間の契約であって,生涯相手方の家に対して,これらの契約義務を遂行することが「義理を果たすこと」とされている。「義理」は,この契約を取り決めた世代−親−に対する「義理」が最も重い。なかんずく重いのは,嫁の姑に対する「義理」であって,それは嫁は自分の生家とは違う他家にいって,そこで暮らさなければならないからである(157頁)。
ある日本人が言ったように,「成人して息子が彼自身の母親のためにいろいろなことをしてやるのは,母親を愛しているからであり,したがってそれは義理ではありえない,心から行う行為は,義理を果たすことではない。」しかしながら,人は義理の家族に対する義務を几帳面に果たす。それは,どんな犠牲を払ってでも,あの「義理を知らない人間」という,恐ろしい非難を避けなければならないからである(157頁)。
次の文章([ベネディクト・菊と刀(1972)117-142頁])を読んで,親孝行という考え方の功罪について論じなさい。
何世紀もの久しい間にわたって「恩を忘れない」ということが日本人の習性の中で最高の地位を占めてきた…恩が,親たちを子供に対してあのように権力のある枢要な地位に置いているあの有名な,東洋の孝行の基礎である。それは子供が親に対して負っており,返済に努力する負債として言い表されている(117頁)。
日本では,孝行は,たとえそれが親の不徳や不正を見て見ぬふりをすることを意味する場合においても,履行せねばらならない義務となった。それは天皇に対する義務と衝突する場合にだけ廃棄することができるのであって,親が尊敬に値しない人間であるとか,自分の幸福をそこなうとかいう理由で棄て去ることは絶対にできなかった(140頁)。
小説にも,実生活にも,結婚したのちに,重い孝行の義務を負わされる青年の例が幾らでも見受けられる。一部の“モダン”な人びとを除いて,良家では息子の嫁は当然両親が,通常媒酌人の斡旋によって選ぶべきものとされている。…善良な息子は,親の「恩」に報じなければならないから,親の決定に異議をさしはさまない。結婚したのちも,彼の報恩の義務はなお継続する。特に息子が家督相続人である場合には,彼は両親といっしょに生活するのであるが,姑の嫁を好まぬことは,万人周知の事実である。姑は何かにつけて嫁に難癖をつける。時には里に追い返し,たとえ息子が自分の妻と仲睦まじく,何よりも妻と共に生活することを望んでいる場合にでも,結婚を解消させてしまうことがある。日本の小説や身の上話は,妻の苦悩と全く同様に,夫の苦悩を強調する傾きがある。夫が結婚の解消に承服するのは,むろん孝を行うためである(141−142頁)。
与謝野晶子の詩(君死にたまふこと勿れ−旅順口包囲軍の中にある弟を嘆きて−)は,天皇制絶対の中で反戦を唱えた詩として評価されるべきものであるが,反戦を「家制度」,「孝行」等を基礎に組み立てることには限界があることも示しているように思われる。以下の詩を読んで,「報恩」における「孝行」と「忠君」との優劣関係を考察しつつ,「孝行」という徳目の功罪について論じなさい。
君死にたまふこと勿れ(旅順口包囲軍の中にある弟を嘆きて) | ||
与謝野晶子 | ||
あゝをとうとよ君を泣く 君死にたまふことなかれ 末に生れし君なれば 親のなさけはまさりしも 親は刃をにぎらせて 人を殺せとおしへしや 人を殺して死ねよとて 二十四までをそだてしや 堺の街のあきびとの 旧家をほこるあるじにて 親の名を継ぐ君なれば 君死にたまふことなかれ 旅順の城はほろぶとも ほろびずとても何事か 君知るべきやあきびとの 家のおきてに無かりけり 君死にたまふことなかれ すめらみことは戦ひに おほみづからはい出まさね かたみに人の血を流し 獣の道に死ねよとは 死ぬるを人のほまれとは 大みこゝろの深ければ もとよりいかで思されむ |
あゝをとうとよ戦ひに 君死にたまふことなかれ すぎにし秋を父ぎみに おくれたまへる母ぎみは なげきの中にいたましく わが子を召され家を守り 安しと聞ける大御代も 母のしら髪はまさりぬる 暖簾のかげに伏して泣く あえかにわかき新妻を 君わするるや思へるや 十月も添はでわかれたる 少女ごごろを思ひみよ この世ひとりの君ならで あゝまた誰をたのぶべき 君死にたまふことなかれ |
以下は,私の「親不孝の薦め」である。子の身勝手・親不孝こそが,結果的には,両親に対する最大の報恩となるという論理である。これを,批判的に検討しなさい。
家族法(身分法)のうち,「家族的共同生活の横の結合を規律する法を親族法といい,家族的共同生活の縦の結合を規律する法を相続法という」という見解がある([法総研・親族法概説(2001)1頁])。その意味を以下の文章([我妻・親族法(1961)2頁])を読んだ上で,親族の図([法総研・親族法概説(2001)7頁])等を使って,わかりやすく説明しなさい。
親族的集団の作用が,同時代における結合と次の時代への存続との二つの面をもつことから,これを規律する法規範も,おのずから,これに対応する二つの面をもつ。そして,親族的集団は,いわば,横の関係と縦の関係を含むことになる。
もっとも親族的集団が大きな広がりをもち,世代を異にする者をも包含する強固なものである場合には,集団そのものが永続的性格を有し,世代の交替は,集団内部の成員の変更に過ぎないものとされるから,横の関係と縦の関係との区別があまりはっきりしない。しかし,親族的集団は,次第に分裂し,現代の文明諸国では,夫婦とその間の未成熟の子を含むだけのものとなった。そして,そこでは,夫婦・親子という強固な結合関係と,それを中核として周囲に広がる血縁(親族)集団の比較的弱い関係とを律する横の関係と,親族集団の生存の基盤としての財産の承継を規律する縦の関係とが区別されることになる。前者が狭い意味での親族法であり,後者は相続法である。
以下の文章([法総研・親族法概説(2001)1頁)と以下の表とを参考にして,財産法との対比を通じて家族法の特色をまとめなさい。
親族法の規律する関係は,親族という人格的な結合関係であって,利害の打算によって結ばれている関係ではない。利害によって結ばれる関係ならば,その利害関係に応じて,当事者の自由な意思の合致によってその内容を定めることが許されるが(契約自由の原則・私的自治の原則),親族法の規律する関係は,一夫一婦制,親権,扶養義務というような基本的な社会秩序に関するものであって,当事者の意思により,自由にその内容を定めることは許されない。その関係を規律するものは,各自の意思を離れた客観的な規範である。…この意味において,親族法の規定は強行規定であって,これに反する関係は,善良な風俗に反し,容認されない違法な関係とされるのである。
財産法 | 家族法 | ||||
---|---|---|---|---|---|
債権法 | 物権法 | 親族法 | 相続法 | ||
法定相続 | 遺言 | ||||
基本原理 | 憲法29条 財産権の不可侵と公共の福祉による制限 |
憲法24条 個人の尊厳と両性の本質的平等 |
|||
契約自由と過失責任 | 物権法定主義(民法175条) | 個人の尊厳, 男女の平等 |
均等相続 遺留分権 |
要式行為かつ法定遺言事項 遺言自由だが遺留分による制限あり |
|
法規の性質 | 任意法規 | 強行法規 | 強行法規 |
憲法24条は,婚姻の(有効な)成立に関して,以下のような規定を置いている。
憲法 第24条 婚姻は,両性の合意のみに基いて成立し,夫婦が同等の権利を有することを基本として,相互の協力により,維持されなければならない。
2 配偶者の選択,財産権,相続,住居の選定,離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては,法律は,個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して,制定されなければならない。
これに対して,民法739条は,「婚姻は,戸籍法の定めるところによりこれを届け出ることによって,その効力を生ずる」と規定するほか,民法742条は,以下のように規定して,婚姻の届出をしない婚姻は無効であって,法律婚としては認めないとしている(なお,民法の立法者及び通説・判例は,届出のない法律婚は無効だけでなく,成立すらしないと解している)。
民法 第742条【婚姻の無効】
婚姻は,左の場合に限り,無効とする。
一 人違その他の事由によつて当事者間に婚姻をする意思がないとき。
二 当事者が婚姻の届出をしないとき。但し,その届出が第739条第2項〔婚姻届出における証人〕に掲げる条件を欠くだけであるときは,婚姻は,これがために,その効力を妨げられることがない。
憲法が婚姻は,両性の合意のみに基づいて成立すると規定しているのに,民法が,婚姻は両性の合意のほか,届出がなければ不成立又は無効であると規定しているのであるから,一見したところ,民法739条,および,民法742条は,憲法24条に違反しており,憲法98条1項(「この憲法…の条規に反する法律,命令,詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は,その効力を有しない」)に基づき,その効力を有しないように思われる。
そこで,不成立と無効は区別せず,届出のない婚姻は成立しないという民法の立法者の見解を尊重しつつ,民法742条の規定が憲法に違反しないように解釈することができるかどうかが問題となる。この点について,[法総研・親族法概説(2001)8-9頁]は,以下のように述べている。
(1) 婚姻は,男女両当事者が結ぶ契約である。「婚姻は,両性の合意のみに基づいて成立」するのが大原則である。(憲24T)。
(2) 婚姻の本質は,私法上の契約である。宗教的ないし習俗的行事(たとえばいわゆる神前結婚)は必要ではない。そして,民法は,婚姻は,形式的には当事者のなす戸籍法上の届出によってのみ成立すると規定する(739T)。すなわち,届出という方式によって婚姻意思を合致させることが,婚姻の形式的成立要件であるとされる。
(3) 婚姻は,当事者が結ぶ契約である。婚姻は,当事者本人の合意のみによって成立する。いわゆる代理に親しまない行為である。
(4) 婚姻は,終生の共同生活を目的とする契約である。したがって,これに条件や期限を付することはできない。仮に条件や期限を付けても,婚姻としては,無条件,無期限に成立する。
上記の記述をよりよく理解するために,以下のA,Bという2つの婚姻形態について考えてみよう。
以上の考察を行った上で,民法739条,742条の規定が憲法24条に違反しないように解釈することができるかどうかについて,自らの見解を以下の見解に言及(批判を含む)しつつ述べなさい。
子を嫡出子にするだけの目的で婚姻届をしても,当事者間に真に社会通念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思を有しない場合には,その婚姻は民法742条1号により無効である(最二判昭44・10・31民集23巻10号1894頁[家族法判例百選〔第6版〕(2002)第1事件])。しかし,死期の迫った者が,もはや,社会通念上夫婦として生活することはできないが,相手に相続させる目的で,婚姻届をした場合,いわゆる臨終婚の場合には,その婚姻は有効であるとしている(最三判昭45・4・21判時596号43頁)。
両者の結論を矛盾なく説明することは可能か。可能であれば,どのように説明すればよいのか。もしも,両者が矛盾するとすれば,どのような解決が可能か論じなさい([法総研・親族法概説(2001)11頁および14頁参照])。
年月日 | 事実 | 争点 | |
---|---|---|---|
原告 | 被告 | ||
昭和27年 | Yは大阪市立浪速保健所に保健婦として勤務。 | ||
昭和28年8月 | 上司であったXの父方に下宿。 | ||
昭和28年9月 | 大阪大学工学部一年に在学中のXとの間に肉体関係ができ,二人は結婚を約束し合う仲となるが,Xの両親は結婚に反対したため実現できず。 | 両親の反対で結婚できないのはなぜか? | |
昭和29年9月 | Yは,Xの父の家を出て,他に下宿 | ||
昭和29年9月〜 | なお二人の関係は続き,Yは3回にわたって妊娠中絶をした。 | ||
昭和32年3月 | Xは大学を卒業し,茨城県日立市の株式会社日立製作所に就職赴任。Y4度目の妊娠 | ||
昭和32年11月 | Y上京。東京都世田谷区三軒茶屋町にX名義で家を借りて生活。休日は,Xが日立市からYの下に来て,出産を励ます | 内縁(実質婚)の開始か? | |
昭和32年12月20日 | Yが女子出産。Xが小夜美と命名。 | ||
Yは大阪に帰って再び保健所に勤務。Xが送金。 | |||
昭和34年10月23日 | XがYとの過去の関係を清算するため日立市から大阪へ。Yは反対し,せめて子供だけでも入籍させたいと希望。Xも一旦Yとの婚姻届をして子供を入籍し,のちに離婚するという便宜的手続を認めざるを得なくなった。 | 内縁解消の請求か,内縁の不当破棄か?婚姻届について,婚姻意思が伴っていたか? | |
昭和34年10月25日 | X,日立市に帰る。 | ||
昭和34年10月27日 | Yは,Yの弟にXの署名を代筆させて,婚姻届を提出。婚姻届受理 | 代署の瑕疵は受理によって治癒されるか? | |
昭和34年10月28日 | Xが帰阪し,婚姻届の旧本籍を新本籍へと訂正記載させる。以後,XとYとは,戸籍のことで,書簡の交換を除いて,関係を絶ったままである。 | 内縁の解消か? | |
昭和34年10月29日 | Xは別人との間で結婚式を挙行,以後その女と夫婦生活を営み,二児をもうけている。 | 新たな内縁の成立か? | |
昭和35年 | Xが本件訴え(婚姻無効確認請求・本訴)を提起 | ||
昭和38年 | Yが反訴(慰謝料請求)を提起 | ||
昭和39年2月1日 | 第1審判決。本訴認容,反訴却下 | 婚姻無効の訴えの反訴として,内縁または婚姻予約の不当破棄を理由とする損害賠償請求を併合することは許されないか? | |
昭和42年6月26日 | 第2審判決。本訴控訴棄却。反訴取消(一部認容) | ||
昭和44年10月31日 | 最高裁判決。上告棄却・確定 |
本件における判例の法理の検討を離れて,以下の順序で,具体的な妥当性を検討してみよう。
人間は不完全な存在として,すなわち,一人では生きていけない未成熟な人間として生れてくる。未成熟な人間として生まれた子(未成熟子)は,「親ばか」と化した両親により,無条件の愛にはぐくまれて,はじめて自立した人間へと成長しうる。このように,人間はその出発点において,家族等による無条件の愛が不可欠なことについては,異論がない([法総研・親族法概説(2001)37頁]は,「親が未成熟の子を哺育監護することは自然の本能であって,これはいかなる時代,いかなる民族にも共通のものである」とまで言い切っている)。ところが,家族が再構築される婚姻の場合には,「愛のない婚姻」もありうるというのが,ほぼ共通理解となっている([法総研・親族法概説(2001)8頁]は,婚姻は人間の「種の保存の本能」に基づく男女の結合関係のうち,法律等の規律に合うものであると述べるが,「愛」は婚姻の要件とされていない)。このような共通理解を明確に述べている以下の文章([松川・親族相続法(2004)16-17頁])を読んで,次の順序であえて批判的に検討してみよう。
当事者の意思の合致が,婚約の成立に重要な要件である。法律の世界では,当事者が互いに婚姻しようという意思を有しているかどうかが重要である。二人は本当に愛しあっているかどうかは問題にならない。
「愛」を法律上定義することはできるだろうか。わが国の法律において,はじめて「恋愛」という用語を使うに至ったストーカー規制法(平成12年)の以下の条文を参考にして考えてみよう。
一夫一婦制を採用するわが国の婚姻制度の最大の強敵は,浮気である。2000年4月に『月刊現代』が行なった調査(年齢的に結婚・出産が可能な全世代の男女とし,有効回答総数は,男性が1,291人(平均年齢37.3歳),女性が1,977人(同29.3歳)で,合計3268人(4月10日現在の集計)という大規模な調査)によれば,パートナーのいる男性回答者のうち,有効回答のあった人数は669人で,その61.7パーセントに相当する413人が浮気の経験が「ある」と回答している。そして,経験した相手の平均人数は,4.6人であるという。一方,パートナーのいる女性で,パートナー以外の男性と浮気をした経験のある女性は,有効回答総数1574人中428人で27.2パーセント,経験した相手の人数は平均2.2人である。
男と女は,浮気によって何を得るのであろうか。上記の調査は,この点に関して,興味ある事実を提供している。以下の表を参照しながら,以下の問に答えなさい。
浮気で得られたものは何か(複数回答・回答の多かった上位5項目) | |||||||||||||||||||||||||||||||
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男性 | 女性 | ||||||||||||||||||||||||||||||
|
|
||||||||||||||||||||||||||||||
Web版月刊現代2000年7月号より http://kodansha.cplaza.ne.jp/mgendai/2007/2007_6.html |
すでに婚姻関係が破綻している場合に,配偶者の一方と第三者が性的関係を持ったときは,第三者は,他方の配偶者に対して不法行為責任を負わない(最三判平8・3・26民集50巻4号993頁[家族法判例百選〔第6版〕(2002)第10事件])とされている。しかし,これとは反対に,浮気によって婚姻生活が破綻した場合,配偶者の一方とともにその原因を作った浮気の相手方は,他方の配偶者に対して不法行為責任を負うとされている(法総研・親族法概説(2001)17頁]参照)。
このように,婚姻中に浮気をされた配偶者が浮気の相手方に対して不法行為責任を追及できるとした場合に,予想される弊害とその対策について考察してみよう(その際,戦後廃止された姦通罪の適用が,どのような弊害をもたらしていたかに関する以下のデータを参照し,浮気の相手に対して不法行為責任を負わせることの功罪に思いをめぐらせてみること)。
旧刑法 第183条【姦通罪】(昭和22年法124により削除) 有夫ノ婦 姦通シタルトキハ2年以下ノ懲役ニ処ス 其相姦シタル者亦同シ
A前項ノ罪ハ本夫ノ告訴ヲ待テ之ヲ論ス但本夫姦通ヲ縦容シタルトキハ告訴ノ効ナシ
姦通罪が不条理と思われる代表的な姦通事件(川西政明『文士と姦通』集英社新書(2003年)による)を表にまとめると以下の通りとなる。
北原白秋事件(1912年)
告訴者 | 相手方 | ||
夫 | 妻 | 相姦者 | |
松下長平 | 松下俊子 | 北原白秋 | |
当事者の主張・交渉 | 中央新聞の写真家であった松下長平は,妻俊子と北原白秋とを姦通罪で告訴した。 告訴取下交渉では,告訴取下と引き換えに,3百円(当時は大金)を提示した。 |
俊子は夫から「乱行,虐待,変質,生疵(なまきず),暴言」(俊子の手記「思い出の椿は赤し」)を受け続けつづけていた。そのうえ夫は銀座裏のバーに勤める愛人に惑溺したあげく,妻妾同居を強制した。 そんな夫に妻を告訴する権利があるかと俊子は思った。 自分は悪いことをしたとは思わない,人がお前は「罪びと」だというから裁きを受けるまでだ。 |
「罪びと」意識に苦しむ 「哀しくも君に思はれこの惜しくきよきいのちを投げやりにする」 「血のごとく山椿咲く冬の暮 狂人とおのれなりはてにけり」 |
結末 | 白秋の弟鉄雄が苦労して集めた3百円を受け取って告訴取下の書類に署名,俊子を離婚する書類に署名(離婚届はすぐには出さなかった) | 獄中で肺結核にかかった。出獄後,松下長平が離婚届を出さなかったため,白秋とともに,横浜の本牧の山渓園近くの隠れ家に住む。松下と離婚後,1913年4月に白秋と結婚。1914年,病気療養中に白秋に離婚される。 | 未決監で苦しみ,精神を病んで死のうとしたが死に切れなかった。1916年,江口章子(あやこ)と結婚し,数々の童謡を書いた。 |
有島武郎事件(1923年)
告訴者 | 相手方 | ||
夫 | 妻 | 相姦者 | |
波多野春房 | 波多野秋子 | 有島武郎 | |
当事者の主張・交渉 | お前は有名なケチンボださうだから芸者を囲ふことはし得ないで,金のいらない人妻をこれまでも度々犯したゞらう。秋子は自活に困らぬ職業婦人(婦人公論の記者)だから,お前は益々安心して誘惑したんだらう。… それほどお前の気に入つた秋子なら喜んで進上しよう。併し俺は商人だ。商売人といふものは物品を只で提供しはしない。秋子は已に11年間も妻として扶養したし,其の前にも34年間引取って教育したのだから,ただでは引渡せない。代金をよこせ(後に1万円を要求)。 |
姦通のとき,秋子はすでにみずからの純粋性を保障するためには死ぬしかないと把握していた。 | 自分の生命がけで愛してゐる女を,僕は金に換算する屈辱を忍び得ない。… 孰れにせよ,僕は愛する女を金に換算する要求には断じて応ぜられない。 実は僕等は死ぬ目的を以て,この恋愛に入ったのだ。死にたい二人だったのだ。已に秋子は船橋で死を迫ったが,僕は,『人間には未練がないが,大自然には未練がある』も一度,寂しい秋の風物を見たかったのだ。」(淋しい事実) |
結末 | 文士は監獄に行くといっそう有名になるから,また,秋子を牢屋に送るには忍びないという理由で告訴はせず,もっぱら金銭を要求した(1万円)。 しかし,資産家だが,金で解決するつもりのない有島武郎とは歯車がかみ合わず,目的は果たせなかった。 |
1923年6月9日午前2時過ぎ,有島武郎と波多野秋子とは,軽井沢の有島別邸で縊死心中をとげた。 |
夫の収入で購入した以下の財産について,民法762条を参考にして,その所有権の帰属(誰の単独所有か共有か)を明らかにしなさい。
家制度の下では,法定夫婦財産制はどのように規定され,どのような機能を果たしていたか。また,現行民法762条は,民法旧規定と比較して,どのように規定され,どのような機能を果たしているか。
民法旧規定 第807条 妻又ハ入夫カ婚姻前ヨリ有セル財産及ヒ婚姻中自己ノ名ニ於テ得タル財産ハ其特有財産トス
2 夫婦ノ孰レニ属スルカ分明ナラサル財産ハ夫又ハ女戸主ノ財産ト推定ス
現行民法 第762条〔特有財産,帰属不明財産の共有推定〕
夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は,その特有財産とする。
2 夫婦のいずれに属するか明かでない財産は,その共有に属するものと推定する。
最三判昭34・7・14民集13巻7号1023頁は,「夫婦間の合意で,夫の買い入れた土地の登記簿上の所有名義人を妻としただけでは,右の土地を妻の特有財産と解すべきではない。」としているが,逆に,妻のいわゆる内助の功でローンの支払ができた夫名義のマイホームについて,夫の名義となっているだけでは,「夫の特有財産と解すべき」という結論を導くことは可能だろうか。
年月日 | 事実 | 争点 | |
---|---|---|---|
原告 | 被告 | ||
昭和14年10月頃 | XとYとは,夫婦として同棲し,約半年後に婚姻届を提出。Y名義で旅館業を営む。 | 旅館の名義人及び実質的な経営者は誰か? | |
昭和23年12月頃 | Yは,家庭教師として家に出入りしていた男と恋愛関係に陥る。 | これは離婚原因に該当するか? | |
旅館営業のため賃借していた敷地が所有者の滞納処分のための物納により大蔵省に帰属。 | |||
昭和24年3月10日 | Xは賃借していた本件土地を大蔵省から代金約10万円にてY名義で買い受けた。 | ||
昭和24年5月25日 | Xは,本件土地をY名義で所有権移転登記を行なった。 | 本件土地は,Yの固有財産といえるか。 | |
昭和24年12月 | XとYは離婚。XはYに対して手切金として50万円を与えることを約す。 | ||
昭和25年1月〜 昭和27年2月 |
Xは,Yに手切金を分割支払い | ||
昭和27年 | X訴え提起 | ||
昭和29年8月19日 | 第一審福岡地裁小倉支部判決(Xの請求認容) | ||
昭和32年3月28日 | 第二審福岡高裁判決(Yの控訴棄却) Y名義の銀行預金から土地代金が支払われたことを推認しつつ,これは,便宜上Y名義の口座を設けて旅館営業上の収支に利用したに過ぎないとした。 |
旅館の名義もYであり,実質的な経営もYで行っており,土地購入の資金も,Y名義の銀行預金から支払われており,かつ,XYの婚姻中の合意で土地の名義もYとしている。 それなのに,なぜ,本件土地は,Xの所有となるとされたのであろうか。 |
|
昭和34年7月14日 | 最高裁第三小法廷判決(Yの上告棄却) |
法定夫婦財産制の問題点について,[法総研・親族法概説(2001)20-21頁]は,以下のように述べている。
問題は,夫が社会的に活動して夫の名で収入を得る場合に,妻がこれに協力し(農家・商店等の場合),又は内にあって家事を処理していても(夫が俸給生活者の場合),収入はすべて夫の所属に帰し,妻の協力が直接に財産の帰属に現れないことである。しかし,これらの財産は,夫婦が協力して取得したものであるから,形式上一方名義であっても実質的な意味においては共有とみられるべきものである。例えば,婚姻中に購入した家屋,家具,夫の収入で獲得した財産等がこれに当たる。しかし,この場合,第三者に対する関係では,所有権の名義人しか権利を主張し得ない。民法は,婚姻が解消する際にその清算をすることとしている。すなわち,夫の死亡の場合には妻の相続という形で(890,900),離婚の場合には財産分与という形で(768),実質的な意味における共有財産の清算をするものである。
このような考え方に対しては,共有の考え方を推し進め,「日本における夫婦の財産関係は,婚姻継続中は別産であるが,婚姻解消時には共有であるかのような清算がなされる,潜在的な共有制であると理解することもできる[大村・家族法(2002)60頁]との見解も主張されている。
さらには,現行民法762条の規定によると,夫婦財産とは名ばかりで,ほとんど夫の財産となってしまう弊害を除去するため,最近では,夫婦財産を一種の組合財産と考えるべきではないかとの主張がなされるに至っている[内田・民法W(2002)40頁]。
夫婦の財産を無理に共有と捉えることはせず,それぞれの特有財産を認めたうえで,夫婦を組合的に考えて,一種の組合財産(特別財産)が形成されていると見るのである。確かに共稼ぎの夫婦の場合,お互いの収入の一部を出し合って家計を支え,あとは自分の収入で自分の物を買うとすると,家庭はあたかも組合のような存在になる。
家庭共同体は,このような団体法的観点から理解した方が,個人主義的原理で見るより実体に適しているようにも思える。
もし,夫婦財産を組合的に捉えるなら,婚姻後の夫婦の収入のうち婚姻費用に当てられる部分は,共同の事業(婚姻生活)のための出資分ということになる。収入のない妻や家事を兼業をする妻の家事労働分は,労務による出資ということになろう。こうして,両者の特有財産とは区別された組合財産が形成される。これは,物権法的にいえば「合有」であるから,持分の勝手な処分はできない。まさに,組合員による組合財産の持分処分が組合および組合と取引をなした第三者に対抗できないと定める676条のような処理になる。
組合員の処分行為の相手方は,94条2項(不動産の場合)や192条(動産の場合)で保護されるだけである。外国には,住宅のような夫婦の財産の主要部分を一方配偶者が単独では有効に処分できないとしているところもある(フランス)。立法論としては婚姻共同体の特殊性からそのような立場も考えられよう。
そして,民法上の組合は清算の際には出資額に応じて払い戻しがなされるが(688条2項),婚姻共同体の場合は,その特殊性からこれを半々と推定する規定を設けることが考えられよう。
これらの考え方を比較した上で,夫婦財産を組合的に考えるという新しい説の長所・短所を検討してみよう。
夫婦財産を組合的に捉えると,婚姻中も,婚姻解消時も組合の規定を準用することによって,問題をすべて統一的に解決することができる。この考え方を親族・相続のすべてにわたって展開するとどのような結果となるか,以下の記述を参考にして,各自で考えてみよう。
夫婦財産について,夫婦の個別の特有財産とは別の「組合財産」として構成するという考え方に立つと,組合財産は,相続の対象とはならない(民法679条第1号)。したがって,夫婦の一方が死亡した場合,組合財産は,民法255条の規定により,自動的に,他の配偶者に帰属することになる。
この結果は,相続の規定があってもなくても同じなので,法律婚の夫婦に限らず,広く,事実婚の夫婦にも適用されることになる。つまり,法律婚と事実婚との相違は,実質面では,配偶者に相続権があるかどうかであると言われてきたが,この点でも,法律婚と事実婚との差異は大きくないということになる。
第255条〔共有持分の弾力性〕
共有者ノ一人カ其持分ヲ抛棄シタルトキ又ハ相続人ナクシテ死亡シタルトキハ其持分ハ他ノ共有者ニ帰属ス
第679条〔非任意脱退〕
前条ニ掲ケタル場合ノ外組合員ハ左ノ事由ニ因リテ脱退ス
一 死亡
二 破産
三 禁治産
四 除名
第900条【法定相続分】
同順位の相続人が数人あるときは,その相続分は,左の規定に従う。
一 子及び配偶者が相続人であるときは,子の相続分及び配偶者の相続分は,各2分の1とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは,配偶者の相続分は,3分の2とし,直系尊属の相続分は,3分の1とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは,配偶者の相続分は,4分の3とし,兄弟姉妹の相続分は,4分の1とする。
四 子,直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは,各自の相続分は,相等しいものとする。但し,嫡出でない子の相続分は,嫡出である子の相続分の2分の1とし,父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は,父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とする。 (昭三七法四〇・昭五五法五一・一部改正)
夫婦財産制を組合的な共有(合有)であると考えた場合に,相続がどのように行われることになるのか,さらに詳しく検討してみることにしよう。
具体的な例として,すべての財産が夫名義になっているが,実際は,夫婦財産について,夫婦の組合的共有が発生しているとする。そして,夫が死亡した場合の夫婦財産の行方について,従来の考え方と新しい夫婦財産の考え方(組合的共有理論)を対比してみることにしよう。
(a) 夫婦のみ(親なし,兄弟なし,子なし)の場合
最初は,夫婦の親がすでに亡くなっており,夫婦には兄弟もなく,子もいないという場合を想定する。この場合,夫婦の相続人は,お互いの配偶者だけである。
従来の考え方 | 結果 | 共有持分の理論 | ||||||||||||||||||||
|
→ |
|
← |
|
||||||||||||||||||
全て夫 の財産 |
妻が 相続 |
妻 1 | 共有の 弾力性 |
仮想持分 夫 1/2 妻 1/2 |
(b) 夫婦と子の場合
子は,第1順位の相続人であるため,夫婦に子が生まれると,夫婦に親がいたとしても,また,兄弟がいたとしても,相続人は,配偶者と子だけとなり,配偶者と子の相続分は,おのおの2分の1である。
この結果は,そもそも,夫の財産とされるものが,実は,夫,妻,子の共有(合有)財産であり,しかも,その持分が平等であると仮定すると,自動的に実現される。なぜなら,夫が死亡した場合,民法679条により,夫は家族(組合)から脱退するだけで,相続は生じないので,共有(合有)の弾力性(民法255条)により,妻の持分と子の持分がそれぞれ2分の1へと変更されるからである。
従来の考え方 | 結果 | 共有持分の理論 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
|
→ |
|
← |
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|||||||||||||||||||||||||||||||
全て夫の財産 推定相続人は 妻と子 |
夫の 死亡 |
妻 1/2 子 1/2 |
共有の 弾力性 |
仮想持分 夫 1/3 妻 1/3 子 1/3 |
従来の規定にしたがった相続の場合と,家族(組合)の場合とで違いがあるとすれば,相続の場合には,遺産は,通常,相続人間で分割されることになり(民法906条以下),遺産に関する骨肉の争いが生じることがまれではないが,家族(組合)の場合には,家族生活が存続される限り,家族(組合)財産の分割は禁止されるので(民法6786条2項),分割をめぐる争いは生じる余地がなく,家族の平穏な暮らしが,そのまま維持される点であろう。
わが国の離婚率は,明治から昭和初期にかけて低下傾向で推移したが,昭和40年(1965年)代から上昇傾向となり,特に平成6年(1994年)以降は毎年最高値を更新している。そして,平成10(1998)年では離婚率は1.94(24万3000件)となり,明治32(1899)年以降最高となった。なお,離婚率は,その後も上昇の一途をたどっており,2002年では,2.31(29万2000件)まで上昇している。
離婚件数及び離婚率(人口千対)の年次推移 −明治32〜平成10年− |
資料 : 昭和18年以前は内閣統計局「日本帝国統計年鑑第38回」及び「日本帝国人口動態統計」, 昭和22年以降は厚生省「人口動態統計」 http://www1.mhlw.go.jp/toukei/rikon_8/repo1.html |
離婚率の国際比較については各国の社会制度などに違いがあるので比較が難しい面もあるが,ロシアの4.51,アメリカ合衆国の4.45などが高いグループに位置している。一方,低いのはイタリアの0.47,ユーゴスラビアの0.75,タイの0.90などである。わが国は1.60で中位よりやや低い水準に位置している。
主な国の離婚率(人口千対) −1995年− http://www1.mhlw.go.jp/toukei/rikon_8/repo8.html |
ところで,インターネットに掲載されていないが,厚生省大臣官房統計情報部編『離婚統計−人口動態統計特殊報告』(1984年)によると,明治16(1883)年からの離婚率を知ることができる。それによると,明治民法典が施行される前と明治民法が施行(明治31(1898)年)された後で,離婚率は,急激に減少していることがわかる。
高木侃『三くだり半と縁切寺−江戸の離婚を読みなおす−』講談社(1992)39頁 |
離婚に関しては,明治31年を境にして,離婚に寛容だった江戸時代の慣習が破棄され,家制度の下で婚姻・離婚がコントロールされる明治時代へと突入したともいえよう。
厚生省のWebページで紹介されている離婚率の推移が,離婚率が急激に低下した直後の明治32年から開始されており,現在の離婚率が,明治時代より増加しているかのような印象を与えていることは,大きな問題である。明治初期の離婚率は,3.39であり,現在の離婚率の水準よりもはるかに高い。明治初期のわが国の離婚率を現在の世界の離婚率と対比してみることが許されるとしよう。そのような比較を試みると,わが国の離婚率は,世界でどのような水準にあったといえるであろうか。
明治維新までは,離婚は夫の専権であったというのが,一般的な考え方である。例えば,[法総研・親族法概説(2001)24-25頁]は,以下のように述べている。
我が国においては,大宝令の「七出三不去(しちしゅつさんふきょ)」の棄妻の制にみられるように,離婚は古くから認められてきたが,その離婚は夫の専権離婚制度であった。すなわち,子がなければ去るとか,家風に合わぬから離婚するというように,夫の側の一方的意思で離婚が行われ,その形式もいわゆる「三行半」(みくだりはん)の離縁状を妻に渡せばよいという簡単なものであった。しかも,他方妻には理由のいかんを問わずに夫に対する離婚の請求は認められず,暴虐な夫から逃れる唯一の方法はいわゆる縁切寺(今日正確に知られている縁切寺−駈込寺ともいう−は,鎌倉の東慶寺と足利の満得寺である。)に逃げこむだけであった。
〔注1〕七出とは,(1)無子(男子についていう),(2)姦淫,(3)舅姑(しゆうとしゆうとめ)につかえず,(4)口舌多言,(5)盗窃,(6)嫉妬,(7)悪疾(らい病の類)で,このうち一つに該当するとき,夫は妻を離婚できる。
三不去とは,(1)妻が舅姑の喪を守りおえた場合,(2)貧賤のときに妻を娶り現在富貴となっている場合,(3)妻の実家がすでにない場合で,このうち一つに該当するときは,七出の事由があろうとも離婚は許されない。ただし姦淫,また時代によって悪疾のときは例外とされる。
〔注2〕「三下半」の例: 「其方事 我等勝手ニ付/此度離縁致し候 然ル上は/何方え縁付候共 差構/無之候仍如件」
妻からの離婚請求が法律上認められるようになったのは明治維新後のことである。明治6年5月15日太政官布告第162号は,初めて,やむを得ない事由があれば,妻から裁判所に離婚を訴え出ることを認めた。
旧法は,従来から我が国において習俗として広く認められていた合意による協議離婚を法律制度として認めるとともに,一定の事由がある場合に,夫婦双方が請求権を有する裁判による強制離婚を認めた。妻の立場からすれば,法廷の事由がなければその意に反して離婚されず,また法定の事由があれば,自ら積極的に離婚の訴えを提起することができるから,その立場は著しく向上したということができる。
しかし,協議離婚については,事実上の問題として協議離婚に名を借りた夫の専断的離婚がかなり行われていたことは否定しがたい。また,裁判離婚においても,その離婚原因は,著しく男子偏重の封建的残滓を残しており,夫婦平等の理想にはほど遠かった。
しかし,最近の研究によると,江戸の人口は,男性の比率が圧倒的に多かったため,婚姻においては,圧倒的に女性が優位に立っていた。結婚しようとする女は,前もって,自由に離縁できる権利を得ることができるとともに,自分には離婚につき責めがないことを証するものとして「三行半」を相手の男に書かせてその交付を受け,その後に,婚姻に応じたという(http://www.geocities.co.jp/Playtown/6757/990610.html)。詳しくは,高木侃『三くだり半と縁切寺−江戸の離婚を読みなおす−』講談社(1992)など参照。
妻からの離婚請求や協議離婚が認められた明治31年民法の制定を機に,離婚率が急激に減少した理由を,さまざまな説を参照しながら検討してみよう。
司法統計年報によると,離婚の申し立ての動機別割合をみると図のとおりである。平成10年では夫・妻ともに「性格が合わない」がそれぞれ64.0%,47.6%と最も多い。
離婚の申し立ての動機別割合 −平成10年− http://www1.mhlw.go.jp/toukei/rikon_8/repo12.html |
離婚の動機に関する資料を見て,(1)夫からの申立による離婚の動機,(2)妻からの申立による離婚の動機の2つに分類し,それぞれについて件数の多いもの順に整理した後,夫と妻で離婚の動機がどのように異なるかを分析し,以下の表を完成させなさい。
離婚申立ての動機 http://www1.mhlw.go.jp/toukei/ rikon_8/repo12.html |
離婚して困ること http://www1.mhlw.go.jp/toukei/ rikon_8/repo11.html |
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夫の申立て (嫁の義務を尽くさない) |
妻の申立て (DV) |
夫が困ること (育児・家事・介護) |
妻が困ること (収入) |
|
第1位 | 性格があわない | 性格があわない | 子どものこと | 経済的なこと |
第2位 | 妻が家族・親戚と折り合いが悪い | 夫が暴力をふるう | 子育てと仕事との両立のこと | 子どものこと |
第3位 | 異性関係 | 異性関係 | 家事のこと | 子育てと仕事との両立のこと |
第4位 | 妻の浪費 | 夫が生活費を渡さない | 再婚のこと | 就職のこと |
第5位 | 妻の異常性格 | 夫の精神的虐待 | 親のこと | 健康(保険)のこと |
離婚の動機が夫と妻で異なる点に焦点を当て,この違いがなぜ生じるのかを詳しく検討してみよう。その作業を通じて,以下のような男性側の問題点が明らかになると思われる。
このような男性側の問題点に対して,女性はどのように対処すべきなのか,さらには,なぜ,このようなオトナになれない未熟な男がわが国で量産されているのか,真剣に考えてみよう。そして,それらの検討を踏まえた上で,男にとって婚姻の意味は何なのか,また,女にとって婚姻の意味は何なのかについて,各自の意見を述べ合い,議論をしてみよう。
協議離婚の離婚意思については,届出をする意思で足りるとする見解(形式的意思説)と,夫婦共同生活を真に解消する意思まで必要であるとする見解(実質的意思説)がある。判例は,以下のように,「法律上の婚姻関係を解消する意思」であるとし,形式的意思説に立っている[法総研・親族法概説(2001)26頁]。
婚姻の場合には婚姻意思に関して,実質的意思が必要とされるのに,離婚の場合に,形式的意思で足りるとされるのはなぜであろうか。
現行民法は,裁判上の離婚原因を以下のように規定している。
第770条 〔離婚原因〕
(1) 夫婦の一方は,左の場合に限り,離婚の訴を提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があつたとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明かでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり,回復の見込がないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
(2) 裁判所は,前項第1号乃至第4号の事由があるときでも,一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは,離婚の請求を棄却することができる。
しかし,上記の条文の書き方は,非常に複雑でわかりにくい。わかりにくさの原因は,1項の各号が,個別事由の限定列挙であるかのように規定されながら,1項の5号に「婚姻を継続し難い重大な事由」という,明らかに一般条項である規定が紛れ込んでいるからである。
また,民法770条2項の「裁判所の裁量による離婚請求の棄却」の規定に関しては,民法770条1項5号の抽象的離婚原因の規定と相まって,裁判所の裁量の余地が著しく広くなったとして,危惧する向きもある。
この点について,[法総研・親族法概説(2001)30頁]は,以下のように述べている。
例えば,妻が夫の不貞を原因にして離婚の訴えを提起した場合に,裁判所が妻の地位について十分理解せず,その程度のことは妻として忍ぶべきであるとして,婚姻の継続を相当と考えるときは,離婚が認められないことになる。このような裁判所の広い裁量権を認めることは,当事者の離婚の自由を阻害するおそれが多分にある。この規定の実際の運用に当たっては,不当に妻に忍従を強いることのないように留意すべきである。立法論としては,770条2項の規定は削除せられるべきであると唱える学者もいる。
その見解に従って,民法770条2項(裁判所の裁量による離婚請求の棄却)を廃止し,裁判上の離婚原因を「婚姻を継続し難い重大な事由」に一本化する方法について考えてみよう。一般条項(婚姻を継続し難い重大な事由」と個別条項(不貞行為,悪意の遺棄,3年以上の生死不明,回復不能の精神病)を同時に規定する場合のわかりやすい立法技術としては,以下のように2つの方法がある。二つの立法方法は,見かけは異なるが,証明責任の分配を含めて,結果は,全く同一となる。
上記の立法論のうち,どちらの方がよりわかりやすいであろうか。各自で検討し,お互いに議論してみよう。なお,筆者の770条改正私案を以下に示すので,それも考慮に入れると,さらに議論が発展すると思われる。
第770条 〔離婚原因〕 改正私案
1 夫婦の一方は,左の場合に,離婚の訴を提起することができる。 但し,婚姻を継続し難い重大な事由に該当しない特段の事情がある場合はこの限りでない。
一 配偶者に不貞な行為があつたとき。
一の二 配偶者から暴力を受けたとき。 ←配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(2001年)
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
二の二 配偶者が,第752条の規定に違反して,夫婦が同等の権利を有することを基本とした協力義務を履行しないとき。
二の三 配偶者が,第760条の規定に違反して,婚姻費用の分担義務を履行しないとき。
三 配偶者の生死が3年以上明かでないとき。
三の二 夫婦が5年以上別居している(継続して共同生活をしていない)とき。←民法改正要綱案
四 配偶者が強度の精神病にかかり,回復の見込がないとき。
2 前項各号に該当しない場合であっても,その他婚姻を継続し難い重大な事由があるときは,離婚の訴えを提起することができる。
有責配偶者の離婚請求を否定するという考え方は,積極的破綻婚主義を採る学説からの批判にもかかわらず,最高裁は,いわゆる「踏んだり蹴ったり」判決(最三判昭27・2・19民集6巻2号110頁:上告人が勝手に情婦を持ち,その為め最早被上告人とは同棲出来ないから,これを追い出すということに帰着するのであつて,もしかかる請求が是認されるならば,被上告人は全く俗にいう踏んだり蹴たりである。法はかくの如き不徳義勝手気侭を許すものではない。)以来,有責性の軽い配偶者からの離婚請求や破綻後に不貞行為に出た配偶者からの離婚請求等の例外を除いて,これを堅持してきた。
最大判昭62・9・2民集41巻6号1423頁[家族法判例百選〔第6版〕(2002)第13事件]は,従来の判例を変更し,「有責配偶者からされた離婚請求であっても,夫婦がその年齢及び同居期間と対比して相当の長期別居し,その間に未成熟子がいない場合には,相手方配偶者が離婚によって精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り,有責配偶者からの請求であるとの一事をもって許されないとすることはできない」として,婚姻が破綻している場合には,有責配偶者からの離婚請求も認められることを宣言するに至る。
そして,その後も,同旨の最高裁判決が相次いで現れており,未成熟の子がいるばあいでも,ただその一事をもってその請求をはいすべきものではなく,諸般の事情を総合的に考慮してその請求が信義誠実の原則に反するとはいえないときは,その請求を認容することができるものとする(最三判平6・2・8判時1505号59頁)も現れている([法総研・親族法概説(2001)29-30頁])
すでに学んだように,婚姻関係が破綻している場合には,配偶者の一方と第三者が性的関係を持ったとしても,第三者は,他方の配偶者に対して不法行為責任を負わないというのが最高裁判例の考え方である(最三判平8・3・26民集50巻4号993頁[家族法判例百選〔第6版〕(2002)第10事件])。そして,最高裁は,平成8年3月26日判決において,以下のように,「婚姻関係が破綻している場合には,配偶者に…(婚姻共同生活の平和の維持という)権利又は法的保護に値する利益があるとはいえない」とまで述べている。
甲の配偶者乙と第三者丙が肉体関係を持った場合において,甲と乙との婚姻関係がその当時既に破綻していたときは,特段の事情のない限り,丙は,甲に対して不法行為責任を負わないものと解するのが相当である。けだし,丙が乙と肉体関係を持つことが甲に対する不法行為となる(最二判昭54・3・30民集33巻2号303頁参照)のは,それが甲の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為ということができるからであって,甲と乙との婚姻関係が既に破綻していた場合には,原則として,甲にこのような権利又は法的保護に値する利益があるとはいえないからである。
しかしながら,事実上の関係がうまくいかない場合にこそ,法的な保護の意義があるのでなかろうか。もしも,婚姻が破綻してしまうと,婚姻中の配偶者には法的保護に値する利益がない,すなわち,浮気をした配偶者の相手に対する不法行為責任も追求できず,浮気をした本人からの離婚請求も認められるということになると,法律婚と,事実婚との差異がなくなるということにならないだろうか。
協議離婚と裁判離婚とを財産法との関係で対比するならば,それは,合意解除と法定解除との関係に置き換えることができると思われる。裁判離婚において,破綻婚主義が採用されたのと平仄を合わせるかのように,財産法上の法定解除の領域においても,解除理由に帰責事由を要求していた従来の考え方に対して,債務不履行があれば,帰責事由の有無を問わず,契約の解除をないするとする考え方が有力に主張されるようになってきている。
以下の表を参考にしながら,債務不履行の場合に,解除をするのに,債務者の帰責事由を要件としないという考え方の意味を理解し,その理由を検討してみよう。
契約解除に「帰責事由を」を有せず,「契約目的を達成できない」ことで足りるとする新しい考え方
不履行類型 | 従来の考え方 | 新しい考え方 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
履行遅滞 | 原則 | 民法541条 | 履行遅滞の場合には,相当期間を定めた催告とその期間の経過が必要である。 | 一般規定と典型例 | 民法542条 | 「契約ヲ為シタル目的ヲ達スルコト能ハサル場合」には解除ができる。定期行為の場合に催告なしに解除ができるというのは,例外ではなく,「契約目的不達成」の典型例である。 |
例外 | 民法542条 | 定期行為の場合には,例外的に,催告を必要とせずに解除をすることができる。 | 個別規定 | 民法541条 | 相当期間を定めた催告をしたにもかからず,その期間が経過したにもかかわらず,履行がない場合には,まさに,「契約ヲ為シタル目的ヲ達スルコト能ハサル場合」に該当し,契約を解除できる。 | |
履行不能 | 原則 | 民法543条 | 債務者に帰責事由がある場合には解除ができる。 | 原則 | 民法541条 | 履行不能の場合は,当然に「契約ヲ為シタル目的ヲ達スルコト能ハサル場合」に該当するので,常に契約解除権が発生する。 (危険負担の債務者主義の規定は,解除を認めた場合と結果が同じとなるため,不要となる。) |
例外 | 民法534条以下 | 債務者に帰責事由がない場合には,解除はできない。そして,危険負担の問題となる。 | 例外 | 民法548条 | 履行不能が解除権者の帰責事由によって発生した場合には,解除権は消滅する。 (危険負担の債権者主義の規定は,この規定に吸収される。) |
|
不完全履行 | 契約総論には規定がない。 | 原則(有償契約) | 民法566条,570条 | 不完全履行によって「契約ヲ為シタル目的ヲ達スルコト能ハサル場合」にのみ解除ができる。その他の場合には,減額請求,損害賠償請求しかできない。 | ||
例外(無償契約) | 民法551条,596条 | 不完全履行があっても,無償契約の場合には,贈与者は,商品性の保証責任を負わないため,「契約ヲ為シタル目的ヲ達スルコト能ハサル場合」には,該当せず,製造物責任等の不法行為責任が生じる場合を除いて,責任を負わない。 |
この理論の特色は,債務者に帰責事由がある場合とない場合とを区別することなく,すべての債務不履行の類型に対して,「契約ヲ為シタル目的ヲ達スルコト能ハサル場合」(契約目的の不達成)という統一的な解除の要件の下で,有償契約,無償契約を問わず,すべての契約に適用できるという点にあることが理解できるであろうか。
子は,民法上は,以下のように分類されている。
現行民法は,民法900条4号において,嫡出子と非嫡出子との相続分について,差別を行っているため,嫡出子であるかどうかは大きな問題となる。ところで,嫡出子は,「婚姻関係にある男女から生まれた子をいう。換言すれば,妻が婚姻中に懐胎して生んだ子である」とされている([法総研・親族法概説(2001)38頁])。
ところで,妻が婚姻中に懐胎したかどうか,婚姻届前に懐胎していたのではないか,又は,婚姻解消後に懐胎していたのではないかが争われうる。さらに,婚姻中に懐胎していたとしても,その子が,夫によって懐胎したかどうかも,争われうる。そこで,民法は,生来嫡出子の認定を容易にするため,民法772条において,推定規定をおいている。この推定規定は,通常の推定規定と異なり,これを覆すことについて,厳しい制限を設けているために(774条),複雑な解釈が行われており,素人にはわかりにくいものとなっている。そこで,嫡出推定のメカニズムを以下のように構造化してわかりやすくする試みを行ってみる。
以上の説明を理解したうえで,以下の用語について,その区別の基準を明らかにして,それぞれの違いを説明してみなさい([榊原・女性と戸籍(1992)123頁])。
民法779条は,「嫡出でない子は,その父又は母がこれを認知することができる。」と規定して,母子関係も認知によって成立するとしている。しかし,わが国の戸籍実務・通説,および,最高裁の判例は,「母と非嫡出子間の親子関係は,原則として母の認知をまたず,分娩の事実により当然発生する。」と判示している(最二判昭37・4・27民集16巻7号1247頁[家族法判例百選〔第6版〕(2002)第27事件])。
しかし,戦前の大審院の判例は,婚外子の法律上の母子関係の発生については,認知を必要とするとしたうえで,出生届に認知の効力を認めていた。大審大判大10・12・9民録27輯2100頁は,男女平等の観点から,以下のように述べている。
わが国の法制度では,婚姻外に生まれた子は,生理的に親子であっても,法律上は親子関係を発生せず,父または母が認知することによって親子関係が生じる。父と母とで取扱いを異にする道理はない。父については,どんな場合でも認知がない限り,法律上親子とされない以上,母についてだけ,生母である事実が明白であれば認知がなくても法律上当然親子関係を発生するとするのは,甚だしく権衡を失する。
また,[家族法判例百選〔第6版〕(2002)第27事件]における判例評釈(石井美智子)は,以下のように述べている。
本判決(最二判昭37・4・27民集16巻7号1247頁)は,分娩した女性が遺伝的にも母であることを前提にしていたといえよう。…しかし,生殖補助医療が発達し,体外受精技術を用いることによって,別の女性から卵子の提供を受けて懐胎出産すること,別の女性に懐胎出産してもらうことが可能となり,現に子どもが生まれている〔1998年に,諏訪マタニティークリニックの根津八紘(ねつ・やひろ)医師が,妻以外の卵子を使った体外受精を実施し,現在もそれを続行している。さらに,2001年5月に,根津八紘医師は,夫の精子と事故で子宮を失った妻の卵子を体外受精させ,妻の妹に代理出産を行わせた〕。その場合,母は分娩した女性か遺伝的につながった女性かが問題となる。分娩した女性が必ずしも遺伝的にも母であるとは限らない場合にも,母子関係は分娩の事実によって当然発生するといえるのか。それはなぜなのか。
これに対して,[法総研・親族法概説(2001)45頁]は,以下のように述べて,最二判昭37・4・27民集16巻7号1247頁を「画期的な判例が現れた」と評価している。その理由を述べなさい。
嫡出でない子と母との関係は,嫡出の場合と同様に分娩という事実によって生ずる(当然発生主義)。民法は,認知について父と母とを全く区別しないで規定している(779,787)ので,〔大審院の〕判例は母が嫡出でない子を分娩した場合にも,母が認知しない限り法律上の母子関係は生じないと解する立場をとってきたが,その後,母とその非嫡出子との間の親子関係は,原則として,母の認知をまたず,分娩の事実により当然に発生すると解する画期的な判例が現れた。
戸籍先例は,戦前から一貫して母の認知を不要としており,戸籍実務が,母子関係は,分娩によって当然に発生する取扱いになっている。そのような戸籍実務が,最高裁によって認められたからという理由で,上記の最高裁昭和37年判決を「画期的な判例が現れた」と評価しているのだろうか。そうだとしたら,このような見解は,男女平等の理念を無視し,かつ,生殖補助医療の発達等,社会の変化をも無視する狭い了見とみられないか。
わが国では,パートナーとの共同生活を送る場合に,法律婚を選ぶ人が圧倒的に多い。確かに,日本で暮らしていると,婚姻届を出さない事実婚は例外であり,法律婚,すなわち,婚姻届を出すのが「まとも」な結婚であると考えられがちである。
しかし,法律婚に対しては,近年になって,「性的役割強制がもっとも容易に求められる場所」である[角田・性差別と暴力(2002)]とか,「婚姻はドメスティック・バイオレンスの土壌である」[「夫(恋人)からの暴力」調査研究会・ドメスティック・バイオレンス(2002)133-138頁]とかいうような否定的な評価が法律家自身からもなされるようになりつつある。また,夫婦別姓を実現するために,法律婚を見限って,意識的に事実婚を選択するカップルも増えつつある。
わが国の婚姻制度においては,法定夫婦財産制に見られるように,夫婦を経済的に平等に扱う仕組みはほとんど用意されていない。このために,婚姻することを決意した女性は,主婦を選択すれば,経済的に夫に従属せざるをえず,共働きを選択した場合にも,賃金の男女格や長すぎる夫の労働時間等の理由により,女性だけが仕事と家事の両方をこなさざるを得ないという不利益を被ることになる。このため,女性は,婚姻後も仕事を継続しようと思えば,常に「仕事か家庭か」,「子どもをもつか,もたないかと」いう選択を迫られ,家庭のために仕事を断念したり,制限せざるを得ない状況に置かれている。さらに,いったん婚姻制度に入ってしまうと,家事・育児に協力的でない夫との関係を解消することは,そう簡単ではない。つまり,法律婚は,「いったんそれにつかまってしまえば,逃げ出すことが難しい」[角田・性差別と暴力(2002年)4頁]という点からも,働く女性にとっては,不利益の多い制度である。確かに,経済的な自立を求めない女性にとっては,法律婚は,さまざまな点で便利な制度かもしれないが,経済的な自立を志向する女性にとっては,事実婚ではなく,法律婚を選択する利益は,ほとんど存在しない。
このように考えると,男女共同参画社会における婚姻の基本型としての共働き夫婦にとっては,伝統的に男女の役割が固定化している法律婚を選択するよりも,婚姻生活において男女平等を実現できるパートナーかどうかを確かめることのできる事実婚を選択する方が,嫁姑の関係が発生しない分,夫も家事・育児に参画すべきであるとの合意を形成することが容易となる。特に,働く女性にとっては,家事や育児に平等に参画しない「不誠実な夫」との関係を即座に解消できる等の理由で,事実婚は,法律婚よりも有利であるといえよう。
さらに,世界に目を向けてみると,法律婚よりも,事実婚を選ぶ人の方が多い国も存在する。たとえば,社会福祉が充実していることで有名なスウェーデンでは,法律婚を選ぶカップルよりも事実婚を選ぶカップルの割合の方が高く,事実婚から生まれる婚外子の出生率も,約55%であって,嫡出子の出生率を上回っている。
(参照)婚外子差別と闘う会のホームページ http://www22.big.or.jp/~konsakai/kongaishijouhou.htm |
スウェーデンは,わが国と同様,高齢化が進んだ社会である(2000年で65歳以上の高齢者の人口に占める割合が,両国とも約17%)。しかし,わが国は,女性の就業率が46%と少なく,子育てに専念できるはずの主婦が多い割りには,出生率(合計特殊出生率)が,2000年で1.36,2001年では1.33まで落ち込んでおり,社会福祉の破綻を意味する少子化が大問題となっている。これに対して,スウェーデンでは,女性の社会進出が顕著(女性の就業率が75%)であり,共働きのため,子育てが困難に見えるにもかかわらず,出生率は,1999年の1.50を最低に2001年には,1.57まで回復し,少子化を克服しつつある。
なお,2000年の出生率の海外比較(厚生労働省)によると,わが国の出生率(1.36)は,米国(2.13),イギリス(1.68),フランス(1.77)より低く,ドイツ(1.36)と同じであり,イタリア(1.19),スペイン(1.20)に比べて高い。しかし,ドイツが上昇に転じているのに対して,日本は,スペイン,イタリアと同様,一貫して低下している。
こうしてみると,同じような高齢化社会にありながら,男女の賃金格差をなくし,労働時間の短縮,育児・看護休暇および保育施設を充実させることによって,男女共同参画社会を実現させ,かつ,「子育ては社会全体の責務」との認識の下で少子化に歯止めをかけたスウェーデンの制度設計は,わが国が,「男女共同参画社会基本法」の目標を実現する上でも,参考になると思われる。わが国でも,2003年7月30日に「少子化社会対策基本法」が成立し,すでに施行されているが,「父母その他の保護者が子育てについての第一義的責任を有するとの認識」から出発している上に,肝心の事業主の責務は努力義務にすぎず,道のりは遠い。
以上の点を踏まえた上で,特に,西欧諸国と比較して,わが国の婚外子が異常に少ない理由について考察しなさい。
嫡出でない子の「父母との続柄」欄の記載方法の改善について,法務省民事局から意見募集(http://www.moj.go.jp/PUBLIC/MINJI45/pub_minji45.html)がなされた。
法務省から示された「嫡出でない子の「父母との続柄」欄の記載方法の改善(骨子)」は,概ね,以下のとおりである。
以上の法務省の「嫡出でない子の「父母との続柄」欄の記載方法の改善(骨子)」に対して,戸籍法13条を参考にして,自らの意見を述べなさい。
戸籍法 第13条【戸籍の記載事項】
戸籍には,本籍の外,戸籍内の各人について,左の事項を記載しなければならない。
一 氏名
二 出生の年月日
三 戸籍に入つた原因及び年月日
四 実父母の氏名及び実父母との続柄
五 養子であるときは,養親の氏名及び養親との続柄
六 夫婦については,夫又は妻である旨
七 他の戸籍から入つた者については,その戸籍の表示
八 その他法務省令で定める事項
以下の表を参考にして,婚姻予約,内縁,準婚,事実婚という用語の違いについて,説明しなさい。
名称 | 名称の由来・観点 | 範囲 | 問題点 |
---|---|---|---|
婚姻予約 | 将来結婚しようとする合意が成立した時点から,婚姻届を出すまでの過程(時間的な観点)。 | 婚姻の合意はあるが,挙式も同居もない段階をも含む。 | 法律上の保護の対象として広すぎるうえに,保護の法理としては不十分。 |
内縁 | 婚姻届を出していない又は出せないため,法律上は無効な婚姻であるが,事実上は,法律婚との実質的な差がないもの(一般的な用語法)。 | 挙式,または,同居を伴った夫婦関係がある。 | 一般的な名称のため,わかりやすいが,法律上の概念として定義しにくい。特に重婚的内縁の処理が困難。 |
準婚 | 事実上の婚姻(内縁)のうち,法律婚と同様の保護を与えるべきであるもの(法律上の保護の観点) | 重婚的内縁は排除される。 | 名称に,法律婚に劣後するとのニュアンスがある。 |
事実婚 | 事実上の婚姻(内縁)のうち,法律婚と同様の保護を与えるべきであるものを,特別法では,「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」と規定しているため,その用語法を採用したもの(法令用語の省略形) | 範囲・内容ともに,準婚と同じ。 | しかたなく内縁にとどまっているのではなく,当事者が法律婚と対等の関係として選択しているとのニュアンスがある。 |
「事実婚」という用語について,もしも,「内縁」にとどまっているのではなく,当事者が法律婚と対等の関係として選択しているとのニュアンスがあるというのであれば,「届さえ出せば,当事者の自立・対等性には頓着しない」という意味で「形式婚」の傾向を強めているいわゆる「法律婚」に対抗するものとして,「実質婚」というべきではないだろうか。
「事実婚」が,憲法24条によって認められている「合意のみによって成立する」婚姻であるとすれば,確かに,民法742条が無効な婚姻としている点で,法律婚ではないかもしれないが,もしも,それが,「夫婦が同等の権利を有することを基本として相互の協力により維持され」ているものであれば,それは,立派な「憲法婚」というべきではないだろうか。
普通養子と特別養子の要件について比較・整理するとともに,わが国おいて,子のための養子がなぜ少ないのかを考察しなさい。
養子 | 養親 (成年) |
養子の年齢 | |||||||||||||||||||||||||||||
00 | 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | … | |||||
養子の種類 | 特別養子 | 一方が25歳以上の夫婦に限る | 特別養子(1〜0.5%) (家裁の審判で) |
6歳未満から監護 | |||||||||||||||||||||||||||
普通養子 | 未成年養子 | 夫婦の場合は,夫婦共同縁組 | 未成年養子(33% 年々減少傾向にある) (原則として家庭裁判所の許可が必要(7.8%) ただし,自己又は配偶者の直系卑属は許可不要: 配偶者の子(74.8%),自分の孫(16.7%)) |
||||||||||||||||||||||||||||
代諾縁組 (法定代理人の承諾で) |
本人縁組 (単独で) |
||||||||||||||||||||||||||||||
成年養子 | 成年養子(67%) 跡継ぎ,扶養のため |
子のための養子として新たに立法された特別養子制度であるが,利用率は芳しくない。その原因について考察しなさい。
虚偽の認知届や虚偽の嫡出子出生届がなされ,かつ,事実上親子として生活してきた場合に,その子に相続権が認められないとしたら気の毒な話である。この点を解決するための解釈論にはどのようなものがあるか。以下の表を参考にして整理しなさい。
無効な身分行為の転換 | 判例百選番号 | 判決 | 判旨 | 結論 | 備考 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 虚偽の 嫡出子出生届 |
→ | 認知届 | 25 | 最二判昭53・2・24民集32巻1号110頁 | 嫡出でない子につき,父から,これを嫡出子とする出生届がされ,または嫡出でない子としての出生届がされた場合において,右各出生届が戸籍事務管掌者によって受理されたときは,その各届は,認知届としての効力を有する。 | ○ | それぞれの出生届には,「子の出生を申告することのほかに,出生した子が自己の子であることを父として承認し,その旨申告する意思(認知)の表示が含まれている」というのが,無効な身分行為の転換を認める理由である。 |
2 | 父による 非嫡出子出生届 |
→ | 認知届 | |||||
3 | 無権代諾 養子縁組届 |
追認 | 有効な 養子縁組届 |
33 | 最三判昭39・9・8民集18巻7号1423頁 | 養子縁組の追認のごとき身分行為については,民法116条但書の規定は類推適用されないものと解するのが相当である。けだし事実関係を重視する身分関係の本質にかんがみ,取引の安全のための同条但書の規定をこれに類推適用することは,右本質に反すると考えられるからである。 | ○ | 民法119条を適用するか民法116条を適用するかでは,財産法の原則に従っている。 民法116条を適用する場合でも,但し書きの意味を,「遡及効が第三者に対抗できない」と解するだでけで問題は解決する。身分法の特殊性を持ち出す必要はないと思われる。 |
4 | 虚偽の 認知届 (隠れた継親子 養子縁組) |
→ | 養子縁組届 | 31 | 最二判昭54・11・2判時955号56頁 | 認知の届出が事実に反するため無効である場合には,認知者が被認知者を自己の養子とすることを意図し,その後,被認知者の法定代理人と婚姻した事実があるとしても,右認知届をもつて養子縁組届とみなし,有効に養子縁組が成立したものと解することはできない。 | ×?→○ | 養子縁組と解しても,子は,配偶者の子(継親子養子縁組)であり,家庭裁判所の許可は必要ではない。 養子縁組届の範囲内の転換の問題であり,転換を認めるべきである。 |
5 | 虚偽の 嫡出子出生届 |
→ | 養子縁組届 | 32 | 最三判昭50・4・8民集29巻4号401頁 | 養子とする意図で他人の子を夫婦の嫡出子として出生届をしても,右出生届をもつて養子縁組届とみなし,有効に養子縁組が成立したものとすることはできない。 | ×? | 養子縁組を認めると,家庭裁判所の許可を潜脱する恐れがある。 現状では,親子不存在確認の訴え等の請求を権利濫用として制限するほかない。 |
人工生殖に関しては,さまざまな問題が指摘されているが,その主なものは,倫理的な課題である。しかし,法律は,道徳とは異なり,すでに存在する,または,存在が予想される具体的な問題について,妥当な解決を導くものでなければならない。倫理的に望ましくないと思うことでも,実際に存在する問題を避けて通ることは許されない。特に,人工生殖によって出生した子は,そうでない子と平等な権利を享受できるべきであり,人工生殖によって生まれたことを理由に差別することは許されないと思われる。
代理母による出産を認めないとする倫理的な考え方は,以下のような考慮によって成り立っている(二宮周平『家族法』新世社(2000年)139〜141頁参照)。
しかし,これらの問題点は,代理母だけに特有の問題ではない。上記の倫理的な考え方は,代理母に対する批判としては,的を射ていないと思われる。わが国において,代理母は法的に認めるべきでないとする上記の見解を批判的に検討しなさい。
共同親権の原則は,いかなる場合に実現されていないかを以下の表を参考にして整理し,その場合の問題点について考察しなさい。
未成年の子 親権者 問題点 嫡出子 実子 婚姻中 父母(共同親権) 民法818条1項,3項 両者の協議が整わないときの危険を回避するため,家庭裁判所等の役割を充実すべきではないか。 離婚後 父母のどちらか一方 民法819条(ただし,766条参照) 離婚しても,親であることに変わりはないのであるから,離婚後も共同親権を維持すべきではないか。 養子 養親 民法18条2項 特別養子の場合に,「養親は配偶者のある者でなければならない」(民法817条の3)ことを要求することは,行き過ぎであり,事実婚,同性婚の場合も含めて,共同親権が実現できればそれでよいのではないか。 嫡出でない子 原則として母 民法819条4項 この場合も,少なくとも,認知がなされている限り,共同親権の原則を貫徹すべきではないか。
保育所,幼稚園,学校等の諸届けにおいて,保護者の氏名欄が一つしか用意されていないため,父母の共同親権に服している場合であっても,保護者の氏名欄に父親の名前だけを書かせることが慣行化されているが,男女平等に反する点だけでなく,保護者は単数でよいとの考え方を助長する点で問題であろう。
成年後見に関しては,平成11年の民法改正により,複数の後見人を置くことが可能となっている(民法859条の2)。これに対して,未成年後見人については,民法842条により,現在でも「未成年後見人は,一人でなければならない」とされているが,立法論としては疑問である。成年後見の場合に複数の後見人の選任を認めるに至った理由は,未成年者の監護においても,複数の監護者の選任を認める理由としても,妥当すると考えられるからである。
子育てを単身者が行うことの過酷さが,幼児虐待やネグレクトだけでなく,育児疲れによる保護者の孤立化,病気,自殺等が増加している現在においては,複数の保護者の協力を通じた危機回避,危険の分散が何よりも必要とされている。
親権者における共同親権の原則は,婚姻の有無を問わず(事実婚おいても,また,離婚後においても),その原則が貫徹されるべきではないだろうか。さらに,成年後見,未成年後見の区別を問わず,複数人による後見が実現されるべきでないだろうか。
親権は絶対的なものではなく,さまざまな制約に服する。財産管理権における制約に関しては,利益相反行為に関する制約が重要である。親権者は子の利益と相反する行為(利益相反行為)をすることができない(民法826条)。
類型 | 意義 | 効果 | 条文 |
---|---|---|---|
自己契約 | Aから不動産売却の代理権を与えられたBが,自ら買主となってAB間に売買契約を成立させる場合のように,同一人が契約当事者の一方の代理人としての資格と,他方当事者自身の資格とを使い分けること。 | 無権代理 | 民法108条 |
双方代理 | Bが一方では売主Aの代理人となり,他方では買主Cの代理人となってAC間に売買契約を成立させる場合のように,同一人が契約当事者双方のそれぞれの代理人として代理行為をすること。 | ||
利益相反行為 | 自己契約と双方代理は原則として禁じられているが,法人と理事,未成年者と親権者,被後見人と後見人,被保佐人と保佐人の関係のように,当事者の一方の行為能力が制限されている場合には,当事者間で利益が相反する内容の行為を含めて,代理・代表行為を行わざるを得ない場合が存在する。そのような場合に,特別代理人(理事,親権者,後見人(後見監督人)),臨時保佐人(保佐監督人),臨時補助人(補助監督人)を選任することを通じて,自己契約と双方代理を回避することによって,形式的な利益相反行為を回避しつつ,実質的な利益相反行為を実現することを可能にしようとするもの。 利益相反行為の典型例として挙げられているのは,法人の理事が自己の債務について法人を連帯保証人としたり,親権者が自己の債務の代物弁済として子の財産を提供したり,後見人が被後見人から財産を譲り受けたりすることである。 |
民法57条(法人),826条(親権),860条,851条(後見),876条の2第3項(保佐),876条の7第3項(補助) |
民法108条の自己契約・双方代理の禁止と民法826条の利益相反行為の無効との関係について考察しなさい。
親権を濫用し又は著しい不行跡のあったときは,家庭裁判所は請求により親権又は管理権の喪失を宣告することができる(民法834条,835条)。また,やむをえない事情がある場合には,父母は家庭裁判所の許可を得て親権又は財産管理権を辞任できる(民法837条)。
東京家八王子支審昭54・5・16家月32巻1号166頁[家族法判例百選〔第6版〕(2002)44事件]を読んで,親権喪失を宣告した後にどのような困難な問題が待ち受けているかを整理してみなさい。
未成年後見人と親権者の権利義務を対比し,相違点をピックアップしなさい。そして,その相違点がなぜ生じているのかを説明しなさい。
成年後見における成年後見人,保佐人,補助人の権限の相違点をピックアップしなさい。
離婚しても親であることに変わりはない。したがって,子と別居している方の親も子を扶養する義務がある。しかし,親子間の扶養に関する規定は一般的な規定(民法877条〜890条)しかなく,離婚後の扶養,養育費の支給について自覚できない別居親が多かった。そこで,民法改正要綱案は,以下のように規定して,扶養の義務を明らかにしている[法総研・親族法概説(2001)103頁]。
1 父母が協議上の離婚をするときは,子の監護をすべき者,父又は母と子との面会及び交流,子の監護に要する費用の分担その他の監護について必要な事項は,その協議でこれを定めるものとする。この場合においては,子の利益を最も優先して考慮しなければならないものとする。
2 1の協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,家庭裁判所が,1の事項を定めるものとする。
仙台高決昭56・8・24家月35巻2号145頁[家族法判例百選〔第6版〕(2002)第46事件]は,以下のように判示している。判決文と,判例百選の評釈をよく読み,「離婚は未成熟の子に対抗できない」という考え方が妥当する範囲を考えてみよう。
離婚請求事件において父が母に子の養育料を支払う旨の和解が成立した後,子が父に対し扶養料を請求した事案につき,右和解は,父と母との間に成立したもので,父と子との間には直接の権利義務を生じせしめたものではないから,子に対しては拘束力を有せず単に扶養料算定の際しんしゃくされるべき一つの事由となるに過ぎないしとして,父に扶養料の支払いを命じた原判決を維持した事例)
また,この事件で議論されている生活費の算定方法に関しても,[二宮・家族法(1999)89-92]等の記述を参考にして,労働科学研究所の算出した消費単位を使った養育費の計算方法や,子の必要生活費をもとに算定する方法などについて理解を深めておこう。
婚姻・離婚法の学習を通じて,以下のことを学んだ。
以上の点を踏まえた上で,家族の創設するものとしての婚姻について,どのような要件が満たされたときに理想の婚姻(少なくとも,お互いが尊敬し合い,同等の権利を有することを基本として,相互の協力により維持される関係)が実現できるのかについて論じなさい。
親子法の学習を通じて,以下のことを学んだ。
以上の点を踏まえた上で,人生の出発点である親と子の関係に関して,どのような要件が満たされたときに理想の親子関係(少なくとも虐待がなく,相互に尊敬し合い,かつ,親離れ・子離れが自然とできる親子関係)が実現されるのかについて論じなさい。
私の家族法の研究の目的は,家族の創設(婚姻)と再構築(出生・死亡)を「全人格の全面的肯定」というキーワードによって捉え,それに基づいて,家族法を,憲法24条にいう「個人の尊厳」と「両性の本質的平等」を実現することのできるものへと再構成することである。
以下の文章は,私のいう,「全人格の全面的肯定」というキーワードが,どのような文脈で語られ,どのようなことを目指しているのかを理解してもらうための創作物語である。
人生で一番大切なことは,自分に自信を持つことであろう。自分に自信があればこそ,現代における多様な誘惑(薬物等の依存症を引き起こすもの,村八分を脅しにした犯罪行為への誘惑など)をきっぱりと拒絶し,自分の生き方を確立することが可能となる。しかし,自信をつけることは簡単なことではない。自信過剰になる危険性も否定できない。しかし,誘惑の多い現代において,自分に自信を持たずに生きていくことは困難である。
自分に自信を持つには,第一は,「男らしさ」や「女らしさ」の幻想を捨てることから始めるべきである。「男らしさ」「女らしさ」にこだわるのは,結果的には,身の破滅をもたらす。「男らしさ」も「女らしさも」厳密な基準など何もなく,ほんの一握りの者だけが享受できる特権・ステータス以外の何ものでもないからである。「個人の尊厳」「男女の本質的平等」とは,「男らしさ」と「女らしさ」が実現不可能な幻想であると知ったときにはじめて意味をもつ概念である。そして,「男でも女でもない」「人間」として生まれ変わり,誰とも異なる「個人」として自信をもち,かつ,個人を捨てずに,さまざまな人と「協力」関係を結ぶことによってこそ,人生が楽しく,意味のあるものになってくる。
そう考えると,家族法の主要テーマである婚姻とは,デュエットのようなものだという比喩にも納得がいく。デュエットにおいては,各人は,独立のパートを保持しなければならない。相手に合わせたのでは,斉唱になってしまう。しかし,相手の声を聞かなければ,ハーモニーは生まれない。「自立と協力」こそが婚姻とデュエットの共通のテーマだからである。
さて,家族法の第2の側面である親子関係に話を移そう。子育てにおいても,子どもに自信を与えることが重要な課題となる。そして,子どもに自信を持たせるには,第1に,すべてを肯定するところからはじめなければならない。「泣いてはダメ,お漏らしをしてはダメ,お行儀よくしなければダメ」では,子育てはできない。その子のすべてを受け入れ,全面的に肯定するところから出発せざるをえない。そして,第2に,その子の発達に応じて,適度の目標を与え,その目標を達成するための手段・技術をうまく伝授し,うまく行けばほめる,うまくいかなくても,決して怒らず,何度でも挑戦の機会を与えるという辛抱強い教育をしなければならない。個性に合わせた適切な目標の設定とその達成の繰り返しこそが,自信の源泉である。その際に,目標の適切さを調整したり,うまくいったらほめてくれるサポーターの存在が不可欠である。親,兄弟,友人,先生とは,そういったサポーターの役割を果たすものなのである。
自分に自信を持つことでき,さまざまな困難を乗り越えて成長した人が,同じように自分に自信をもった相手と出会ったとき,二人ともが,それまでの自信をすべて失うという奇跡に出会う。二人とも,一緒にいるとこれまでにない喜びを感じ,別れると寂しさで精神のバランスを失ってしまう。自立していたはずの自分に対する自信の喪失である。相手が他の人と楽しく話しているのを見ると,もっと,精神のバランスを失ってしまう。そして,自分は相手にふさわしくないという自信の喪失に悩む。これが,恋の悩みである。一緒にいることの喜び,分かれたときの寂しさ,他人と楽しげにしていることに対する嫉妬,この3条件がそろったときに,婚姻の要件としての「愛」が生まれているのであるが,自己愛と同等,もしくは,それを超える他人愛に出会ったときに,自立の自信が根底から覆されるのである。
しかし,このような悩みは,相手が,自分をプラスやマイナスという評価ではなく,人格すべてを受け入れてくれていることを発見したときに,すべて解消され,再度の奇跡が起こる。子どものときに親に受け入れられたのと同じ感情,すなわち,裸のままで一生一緒に暮らしたいという感情が再生する。このようにして,「全人格の肯定的受け入れ」という現象を通じて,家族が誕生したり,再構築されるのである。
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